今回は挿入するかどうか迷っていた小話です。どうしようもなくエッチにならざるを得ない話なので、閑話とさせていただきます。ではどうぞ!
部屋に這う這うの体で戻った勇は考えていた。目まぐるしく連れ回され、挙句の果てに説教をくらい戻された。自分を初めて好きだと言ってくれた人物にされる仕打ちとは思えなかっただけに面食らってしまった。しばらくすると、部屋の扉を叩く音がする。そこには先ほどとは打って変わってにこやかな智子がいた。
「ユウ、久しぶりね。何にも増して会いたかったわ」
「ああ・・・」
先ほどとは対照的な態度に困惑しつつ、その甘えた声音で、後ろ手に組まれた姿を赤らめた頬で近づいて来る。こちらを上目遣いで見やるその姿は、勇をして心に訴えかけるものがあった。
「随分無茶したわね」
「えっと、どの時だい?」
思い当たる節がありすぎて、苦笑いを繰り出すしかなかった。それでもそれすら楽しんでいるような智子の純粋な好意が勇には眩しかった。
「全部よ。少しはあなたを想う私の気持ちも考えてほしいものね」
「・・・悪いとは、思ってるよ」
「まあ、ユウのことだから無茶をするのは分かっていたけど、命までは賭けてほしくなかったわね」
「俺も予想は出来なかったよ」
素直な気持ちを曝け出し、束の間の本音が勇の心を和らげる。
「本当に?自爆まがいの殿とか端から見れば自殺行為もいいところよ?」
「あれは俺でなくともそうするさ」
「そんな状況に人は飛び込まないわよ」
頬をぐりぐりとされるがそれすらも心地よかった。そして、こんな一時を過ごす背景を思い出し、勇が智子に質問する。
「そういえばさっきの話、あれはどういうことだい?」
「あれは事の成り行きよ。でも、あなたにとっても、私にとってもいい話だと思ってるわ」
「そんな無茶な」
勇は智子の取る性急な行動に危機感を覚えていた。どこから勇の情報を掴んできたかは分からないが、今は自分に関わるべきではないのだ。それを分かった上で勇と接触する理由が、いまいち納得できなかった。
「いいこと?あなたは一人かもしれないけど、あなたが思っている以上に、この世界はあなたを見捨ててはいないわ。それに、あなたは約束したじゃない」
「え・・・」
約束という単語に気を取られている間に、勇もあるものを盗られる。暗かった景色が、昔見た光景に置き換わる。その光景は香りと共に勇の感覚を支配する。勇の唇を智子が奪っていたのだ。
「んっ・・・」
温もりなどを感じたのは、ベルリンのロケット型ネウロイを迎撃するときにもらったコーヒーの温かさだったと不意に思い出されるほどには久しぶりの感覚だった。しかし、決定的に違うとすれば、それは脳まで痺れるような快感だった。白い肌に紅をさしたように染まる頬は、勇の顔の前からゆっくりと離れていく。
「智子・・・」
「もっと早くにこうしたかった・・・ねえ、もう一回」
智子がとろけた瞳で訴えかけてくる。その言葉の誘惑にはなにか催眠の類があるのではないかと疑うほどだった。勇は無意識に差し出された手が、その白い肌を沿わせる。触れると壊れてしまうかのような柔らかく滑らかな肌に、吸い込まれるように身体が反応してしまう。
「んむ・・・はっ・・・」
重ねられる唇の柔らかさと熱さに、勇の何かが込み上げる。智子もそれが分かっているのか、自然と勇の頭を胸に抱え込む。心臓の音が耳元を撫で、仄かな香りが鼻腔をくすぐる。さらに、智子の口撃が重なる。
「男の胸は張るもの、女の胸は貸すものって言うじゃない。今日、今だけ、あなただけに貸してあげる」
心地よい心音に、優しい声音が重なり勇は智子の瞳を自分の瞳と重ねる。何も言わなくとももう互いの心は通じ合っていた。互いの体温を分け合い、重なる身体は強く、そして甘く勇の心を溶かしていった。
「ユウ、忘れないで、いてね・・・あなたが私の中にいるって、ことを・・・・」
その言葉と共に勇の意識は薄れていく。心身共に疲労しきっていたためいつの間にか眠ってしまっていた。久しぶりの安寧に、勇の意識は深く落ちて行った。そして、その温かさを受けとめた智子は、服を着直すと、寝入ってしまった勇のごわついた髪を撫でる。
「寝顔、可愛い子どもみたい・・・必ず、帰ってきてね」
智子は痩せこけた勇の頬に優しく口づけをすると、立ち上がり部屋を後にした。残された勇の部屋には、温もりと勇の覚悟だけが漂っていた。そして、机には金平糖が添えられていたのだった。
いかがでしたでしょうか。今回は智子頑張りました。存在感薄いとか言わせません。それにしても案外あっさりと盗んでいった智子さんは魔性ですね。こんな短く内容的にあれば回ですが、どうしても挟まなければならないお話だったことをご了承ください。最大限、原作の智子さんを汚さないように気を付けたつもりではあります。今後ともよろしくお願いいたします。