ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さまどうもお久しぶりです。

今回の話で、ベルリン奪還作戦前のお話が終わります。決戦を迎える前の勇くんの覚悟をご覧いただければと思います。

ではどうぞ!


籠の中の翼 第十六話

翌日、基地は明らかに殺気立った様相を呈していた。それはベルリン奪還作戦であるサウスウィンド作戦が失敗に終わり、新たな作戦へ向けた準備が急ピッチで進行していたからだった。その一環として、ハイドリヒの帰還による大幅な作戦変更が行われていた。たくさんの戦車や歩兵が集結し、異様な目の輝きをする兵士はまるで祭りに参加するような輝きだった。

 

 

 

 

 

「ハイドリヒ長官殿!歩兵連隊、機械化歩兵大隊、降下猟兵大隊、戦車大隊、ハイドリヒ武装親衛隊、全1個師団1万名、長官のご命令により集結しました!」

「アイヒマン中佐、報告ご苦労様です。よくぞ集まってくれました」

 

 

 

 

ハイドリヒの子飼いの一個師団の兵員がいるとは聞いていたが、本当にハイドリヒの一言でここまで迅速に各地から集結したことに驚くばかりだった。よく見るとアフリカの砂漠用戦闘服だったり、寒冷地仕様の戦闘武器、各国で入手できる品を装備していることから、本当にあちこちに散らばる部隊を集結したことが伺え、ハイドリヒの移動虐殺部隊、通称「アインザッツ・グルッペン」の全貌が明らかとなっていた。

 

 

 

 

 

「我々は連合軍西方司令部の要請により、ベルリンの奪還作戦に参加する運びとなりました。この戦いは聖戦です。我々の目的とは何か、今一度確認したいと思います」

 

 

 

 

 

ハイドリヒの声が鳴りやむと、それを見計らったように兵隊たちは皆口を揃えて答える。

 

 

 

 

 

「「「世界の秩序の守護!」」」」

「その通りです!では問います。その手段とは?」

 

 

 

 

 

息の合った隊員の目の輝きの不気味さはここにあったのかと、勇は苦笑する。明らかに異常な戦意はハイドリヒと志を同じくする狂った奴らだからだった。

 

 

 

 

 

「「「忠誠!意思!断固たる力の行使!」」」

「まったくもってその通り!我々のすることは変わりません!我々の行動は世界が認めた理!ならば、我々はどこにでも赴き、誰であろうと平等にその拳を振り下ろすまで!それが地獄であろうと、神であろうとです!抵抗する者は引きずりおろし、腸を裂き、首を狩りなさい!目を見開かせてこの世界の真実を見せるのです!」

 

 

 

 

 

ハイドリヒの激励に鼓舞させられる兵士たちの目は爛々と輝き、雄たけびを上げる。ハイドリヒは今までの丁寧な口調に怒りを乗せて語る。それは世界に向けられた言葉の様だった。

 

 

 

 

 

「この腐った世界を救えるのは我々だけです!新世界の番人となり、神の代行者として君臨する日は間もなくです!諸君と私は一個師団に過ぎませんが、そのような些末はものの問題にはなりません。我々は神の代行者、諸君一人一人が神兵となりてこの地を統べるのです!」

 

 

 

 

 

兵士一人一人がハイドリヒの言葉に真剣に耳を傾け、次の言葉を今か今かと待っている。その光景に勇は恐怖を覚えていた。その中で、ハイドリヒが各指揮官に尋ねる。

 

 

 

 

 

「各指揮官、準備はよろしいですか?」

 

「歩兵連隊、アインツ・シュベルマン中佐、総員準備は出来ております!」

「機械化歩兵大隊、ケーニッヒ・フォルコ少佐、軍靴の音を轟かせに参陣致しました!」

「降下猟兵大隊、コーエン・ケッセルリンク少佐、どこへでもついて行きます!」

「戦車大隊、ギャリン・オットマイヤー中佐、突撃指示をどうか!」

「ハイドリヒ武装親衛隊、アドルノ・アイヒマン中佐、ハイドリヒ長官に忠誠を」

 

「「「忠誠を!!!」」」

 

 

 

 

 

全員の顔色が喜色満面となった頃、満を持してハイドリヒが指示を出す。

 

 

 

 

 

「諸君の忠誠に敬意を表します・・・破壊と殺戮と再編の勝利、我々の最終作戦・・・『閃光作戦』を発動します!」

 

 

 

 

 

ハイドリヒの指示のもと速やかに準備が進められる。こうして今まで世界の闇に隠れていた部隊が歴史と言う名の歯車に噛みついてきたのだった。意気軒高な将兵は軍靴の音を高鳴らせ、闘志に火を付ける。戦車には最新型のパンター戦車や、ティーガー戦車が用意され、弾薬や兵装に関わる物は万端だった。これだけで一つの軍隊並みの戦力があるだろうと勇は震えるのだった。そして、その頂点の戦力に立つのが自分であることは皮肉としか言いようがなかった。

 

 

 

 

 

「あなたも加わってくれればもっと賑やかになったでしょうに。よろしかったんですか?」

「茶番に俺を巻き込むな」

 

 

 

 

 

にこりと話しかけてくるハイドリヒの手をどかすと振り返る。そこには明らかに憤怒の炎を宿したハイドリヒがいた。先ほどまでの声高らかな雰囲気はどこへ行ったのか、殺気立ったハイドリヒは勇にプレゼント寄こす。

 

 

 

 

 

「連合軍には呆れました。もう小さく収まる時間は終わりました。あなたにも大役を果たしてもらいます。あれをあなたに授けましょう」

 

 

 

 

 

勇が目線を向けると、そこには何も塗装のしてない試作機が置かれていた。重厚で、それでいて逞しささえ感じるそのユニットはいつの日にか扶桑で見た物だった。陸海軍共同で開発されたが、未作で終わると思われたユニットは勇を待っていたかのように佇んでいた。

 

 

 

 

「気に入っていただけましたか?牟田口中将の責任とやらで分捕ったものです。少し我々技術者が手を加えましたので、性能は保証します。あなたのためだけの特注品ですよ?ぜひ名前を付けてあげてください」

「屑め・・・名前か、そうだな」

 

 

 

 

勇は少し考えてみた。自分がこの世で与えられる最後のものかもしれないと思うと、不思議と趣があった。

 

 

 

 

 

「・・・ヤタガラス、『八咫烏』だ」

「ほう、どういったものか教えていただけますか?」

「八咫烏は、かつて扶桑の神の行先を案内したとされる伝説の神獣だ。三本足の烏で、それぞれの足は天・大地・人を表す。それが意味するところは、神も自然も人も太陽から生まれた兄弟だということだ」

「なるほど、面白い考えです・・・あなたにお似合いですね」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは少し機嫌を良くしたのか、今後の作戦を話し出す。

 

 

 

 

 

「勇中佐、あなたには西方方面軍から以下の下達がありました。パットン将軍から、今度のベルリン奪還作戦にあなたの作戦参加要請です。言われずともそうするつもりですが、最後の1機の白鯨に桜花と共に搭乗し、あなたは私のタイミングで突入してもらいます」

 

 

 

 

 

ハイドリヒにしては曖昧な作戦指示に、勇は思わず疑問を投げかける。

 

 

 

 

 

 

「それだけじゃベルリンの敵は倒せないぞ」

「そうですね、あなたに渡したペンダントは持っていますか?」

 

 

 

 

 

そう言われると、勇は胸元からペンダントを取り出す。それはハイドリヒから受け取った時よりも青白く輝いており、叡智の炎が成長していることが察せられた。

 

 

 

 

 

「それがあなたの切り札です。桜花で敵の障害を突破後、先ほどの『八咫烏』で戦闘をしてもらいます。もちろん、そのために桜花を少々改造し、八咫烏が載せられるだけのスペースを確保しています」

「切り札?どんな効果があるんだ?」

「・・・以前もお話したかと思いますが、それはあなたの魔法力で制御されています。だから、いざと言う時にきっと敵を屠ってくれることでしょう」

 

 

 

 

 

半信半疑ではるが、ハイドリヒのお墨付きと言うのは妙な納得があるのが難点だった。しかし、日常的にこのペンダントを身に着けていたが、確かに魔法力が吸われている感覚があり、叡智の炎は勇の魔法力を餌に成長していた。その能力があれば確かに威力がある何かができるのだろうと推察してみたりした。しかし、ここ最近のハイドリヒは、あまり勇に固執しなくなり、言葉数も少なかった。だから、最後の会話とばかりに言葉を交わす。

 

 

 

 

 

「お前、最近変わったな」

「・・・そう思われるなら私もまだ成長しているということでしょうね。あなたのおかげです」

「俺のせいにするな」

「ハハハ、あなたのおかげで私は私の目標を達成することができるのです。私は、カールスラントが陥落した時、その光景をこの目に焼き付けました」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは遠くを見るように話し出す。それはいつの日か勇も見た光景だっただけに、その光景を共有するに至った。

 

 

 

 

 

「守るべき国民が、守るべき国が、蹂躙され、焼かれ、追い出された。私は、私の力の無力さをあの時に思い知らされたのです。国の長が一早く逃げ出し、人々は自分の行いを顧みようともせず、ただ生きようとしました。そんな光景は私に使命を齎したのです。なんとしてもこの世界を作り直さないといけない。誰も気づかないふりをして目の前の事象から逃れようとする怠慢から目を逸らすべきではなかったのです。だから、私はこの世界をもう一度あるべき姿に再構築します。私は私を私のために明日へ導きます」

 

 

 

 

 

 

戦火に晒された円卓を囲むように対面する勇とハイドリヒは、二人だけの世界で物事を見ていた。勇は少しづつハイドリヒの言っている景色が見えていた。

 

 

 

 

 

「だからお前はお前なんだな」

「当初の予定とは違いますが、私のやるべきことは変わりません。でも、あなたも本質は変わっていませんよね?」

 

 

 

 

 

勇は立ち上がると、ハイドリヒの言葉に返す。

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺は俺の明日になるだけだ」

「ふふふ・・・明日が楽しみです」

 

 

 

 

 

二人もまた決別すると、勇は格納庫に向かう。そこには桜花が今か今かと勇を待ち構えていた。そして、その隣には『八咫烏』が静かに佇んでいた。手で触れると、八咫烏は金属ではあり得ないような柔らかさと温かさが詰まっていた。勇はその感覚を心にしまうと、後ろを振り返る。そこには勇の予想した通り、ミーナが立っていた。

 

 

 

 

 

 

「新しいユニットの試験飛行をしてみない?」

「・・・ああ、ちょうど空が恋しくなっていたとこだ」

 

 

 

 

 

勇がミーナの背後に目を向けると、かつての仲間である501が全員が揃っていた。勇はその後ろから差す眩い光に目をすぼめながら宣言する。

 

 

 

 

 

「俺に勝てると思うなよ」

 

 

 

 

 

ここに、501対勇の最後の闘争が行われようとしていた。勇が履く『八咫烏』は力強い咆哮を上げ、勇の身体を持ち上げる。満ち足りる力と、それを阻止しようとする501の対立構造は今や決定的だった。それでも勇を信じ、勇のために動こうとする彼女たちの翼は大きく羽ばたいた。

 

 

 

 

 

「それでは、始めるわ・・・勝つのは私たちよ」

「勝ったのは俺だ」

 

 

 

 

 

模擬戦の開始の合図を打ち上げると、勇は即座に戦闘行動に入る。いくら勇と言えど、一人対11人を、世界最精鋭のウィッチを相手取るにはなかなか骨の折れることだった。だからこそ、勇は少しも手を抜くつもりはなかったし、お互い様だった。開始の合図と同時にグングンと高度を上げると、まず最初に見えたのはバルクホルンとハルトマンだった。

 

 

 

 

 

「シュトゥルム!」

「おりゃあああ!」

 

 

 

 

 

最初からトップエースを持ってくるあたり流石だと言えるが、ハルトマンの切り札であるシュトゥルムも惜しげもなく使うことから、彼女たちも本気であることを伺わせた。

 

 

 

 

 

「対策済みだ!」

 

 

 

 

 

シュトゥルムの疾風を逆に利用して、風に乗る。しかし、彼女たちの作戦はここが肝心だった。バルクホルンとハルトマンにより頭を押さえた形を維持するために、側面からシャーリーとルッキーニ、とどめと言わんばかりにリーネを布陣する徹底ぶりだった。それでも、その攻撃網を掻い潜って攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 

 

「なんてやつだ!」

「トゥルーデ来るよ!」

 

 

 

 

慌てるハルトマンを他所に、バルクホルンは冷静に状況を判断して退避する。普段のバルクホルンの性格からすれば考えられないことだが、バルクホルンは徹底して勇の頭を押さえようとした。八咫烏はシャーリーのP-51に負けず劣らずの速度で、グングンと距離を縮める中、勇のセンサーが何らかの反応を示す。悪寒がして急制動をかけると、そのまま飛行していれば確実に直撃していたコースに攻撃が加えられる。

 

 

 

 

 

「フリーガーハマー!サーニャのやつ!?」

 

 

 

 

 

サーニャのフリーガーハマは広範囲を攻撃することに特化し、その攻撃範囲は勇と言えど脅威だった。また、これは勝負でもあるためシールドを張ればそれで終わりである。だから、勇も行動は慎重にならざるをえなかった。しかし、そこに更なる追い打ちが掛けられる。

 

 

 

 

 

「ユウぅぅぅ!!」

「エイラか!?」

 

 

 

 

サーニャを守るようにエイラの未来予知を駆使した攻撃が雨あられと降り注ぐ。しかし、勇はその未来予知をも先読みして機先を制す。

 

 

 

 

 

「やりにくいんだな!」

「お互い様だ!」

 

 

 

 

 

振り返ると、他の隊員も集結しつつあり、分が悪いと判断した勇は一度雲の中に隠れる。エイラの攻撃はまだ続いているが、勇の嫌な予感はまだ継続して悪い知らせを発し続けていた。勇が適当に不規則挙動を取ってみると、そこかしこから射撃が来ていることが分かった。攻撃の方向から推察して、敵の位置を探し当てる。

 

 

 

 

 

「ここだな!ミーナ!」

 

 

 

 

 

雲の上に出てみると、確かにそこにはミーナがいた。ミーナは一人でその場に佇むと、ゆっくりと銃を構える。勇もそうはさせずとすぐさま銃をミーナに向ける。雲が目の前を掠る間を待って、二人は同時に射撃を開始する。

 

 

 

 

 

「取った!・・・なにっ!?」

 

 

 

 

 

勇は雲が横切る瞬間に体勢を上下逆さまにしており、すぐさま逃げられる体勢を取っていた。そのため、ミーナの攻撃は回避できたが、ミーナにも攻撃は当たっていなかった。それは、大きなシールドによって阻まれていたからだった。シールドを張ってはいけないと言っても、それは本人に直撃しそうだと判断した時に、やむなく本人が防御として展開するものだ。しかし、そのシールドはおかしなところからミーナを守っていた。

 

 

 

 

 

 

「宮藤の野郎!」

 

 

 

 

 

勇の推測は当たっていた。ミーナの直下、雲の中に宮藤が待機しており、ミーナを護衛していた。隊長である自分を囮にするその大胆さに感心しつつ、その場で勇は動けなくなっていた。なぜなら、ミーナとの戦闘に気を盗られたあまり、勇の周りを501が完全に包囲していたからだった。

 

 

 

 

 

「諦めなさい!あなたの負けです!」

 

 

 

 

 

降伏勧告をしてくるミーナだったが、勇は欠片も諦める気はなかった。勇は不敵な笑みを浮かべると、中指を立てて煽る。

 

 

 

 

 

 

「バーカ、言ったはずだ。『勝った』のは俺だってな」

 

 

 

 

 

包囲網は緻密で、完全に穴の無い布陣が逆に仇となる。勇はエンジンを突如停止させると、今度は逆に圧縮して鍛えた魔法力を流し込む。この急激かつ濃密なエネルギーを受けて、八咫烏は百獣の王のように吠える。擂り鉢を舐めるように飛行すると、互いに誤射を恐れる環境を作り出し、混乱を引き起こす。その上で、若輩の服部、近接攻撃の苦手なサーニャかリーネを探し出す。

 

 

 

 

 

「まずはリーネ、お前からだ!」

 

 

 

 

 

リーネが呆気に取られている間に距離を詰めると、なんとその隙間を縫って服部が割り込んできた。

 

 

 

 

 

「せいやぁぁぁあ!」

 

 

 

 

 

リーネを庇う気なのか、新人と油断していただけに勇の手元が狂う。その隙を逃さずペリーヌが攻撃を放つ。

 

 

 

 

 

「トネール!!!」

 

 

 

 

 

雷撃がかつてないほどの規模で勇に襲い掛かる。勇はその輝きを目に焼き付けると彼女らの成長を祝福し、そして払った。

 

 

 

 

 

「うわああああ!!!」

「な、なんだこれ!」

「まさか・・・あれを斬るだなんて?!」

 

 

 

 

 

ミーナが見た勇の姿は、刀を片手に雷を斬る光景だった。坂本がその光景を見たのなら、名刀雷切とでも称したのだろうが、まさに雷を切り裂いた勇の姿は輝きを放って君臨していた。だれもが勇を倒すことは不可能だと感じた瞬間、突如としてミーナと勇に同時に通信が入る。

 

 

 

 

 

『大型ネウロイがこの基地に向かって進行して来ています。至急迎撃をお願いします』

 

 

 

 

 

ミーナは全員を見渡すと、全員も事の次第を承知したのか頷き返す。ミーナは勇を見ると模擬戦を一旦与ることとする。

 

 

 

 

 

「勇中佐、一旦模擬戦は中止します」

「もう少しだったのにな」

「敵を倒したら今度こそ相手をします」

 

 

 

 

 

勇は相変わらず負けず嫌いなミーナの言葉を流すと、振り返らず基地に戻ることにする。戻るとハイドリヒの姿はなく、本当に勇との仕事を終えたのだと伺えた。勇は501の仕事ぶりを見ることにした。すると中から坂本とパットンが出てくる。久しぶりの再会に驚く二人を他所に、勇は敬礼を繰り出すだけだった。

 

 

 

 

 

「ユウ!久しぶりだな!だいぶ痩せたか?」

「よう赤松中佐!中佐のおかげで俺はベルリンに来れたぜ!」

 

 

 

 

 

坂本はいつの間にかズボンを着用しており、本当にウィッチではなくなったのだと察せられた。そして、パットンの言う勇のおかげとは、アフリカに赴いた際に、砂漠の三将軍が最後に賭けた、勇の撃墜数予想だった。

 

 

 

 

 

「俺は赤松中佐が撃墜数1000機を超えるに賭けていたぜ!」

 

 

 

 

 

勇の撃墜数は既に1000機を越えていた。魔法力の操作に長けた勇の攻撃は一撃で多くのネウロイを倒してしまう為、一気に撃墜数が稼げていた。

 

 

 

 

 

「それは良かったです。しかし、今の私に撃墜数を求められてもなんの意味もありません」

 

 

 

 

 

冷たく言い放つ勇に驚いたのか、パットンは押し黙る。しかし、戦況が芳しくないのかすぐさま基地内が大騒ぎになる。

 

 

 

 

 

「現在敵、大型ネウロイが我が基地に向けて進行中!間もなく目視で確認できます!」

「なんだとっ!?」

 

 

 

 

 

外を見てみると、確かに大型ネウロイが501と戦闘状態にあった。そして、その経過はあまり芳しくなかった。あまりの巨体に501といえど敵を殲滅できずにいた。また、小型の自爆型ネウロイと通信妨害の影響により、基地は大慌て逃走の準備に駆られていた。その中で、一人空を見上げて佇む勇に坂本が声をかける。

 

 

 

 

 

「ユウ!お前ならあいつを止められるか!?」

「・・・それはあいつらの仕事さ」

 

 

 

 

 

勇のあまりの無気力さに坂本は胸倉を掴む。

 

 

 

 

 

「ユウ!今はそんなこと言っている場合じゃない!お前の力が必要なんだ!」

「坂本、俺はもう彼女らの仲間ではいられないんだ。手を貸したら、それこそ本当に俺はあいつらを上回ってしまう。それでもいいのか?」

 

 

 

 

 

坂本は勇の立場をそれなりには理解していたが、それは理解が足りていないことと同意だった。かつての仲間である勇の力を借りることがどういった意味を持つのか、坂本の思考は逡巡した後、ついに答えを出す。足りない理解を、確固たる意志で埋め合わせたのだ。

 

 

 

 

 

「・・・今、やられるわけにはいかないんだ。私もこの作戦を成功させるために動いている一部の歯車に過ぎない。だがユウ、お前の力は歯車を動かす力そのものだ。だから・・・頼む!」

 

 

 

 

 

坂本は頭を下げて頼み込む。勇は坂本の即決できる判断力に敬意を表し、応える。滑走路に向かって歩き出し、銃を構える。魔法力を注ぎ込み、一撃で決めるために意識を整える。目を閉じ、今戦い、苦戦を強いられている501の仲間の顔を想像する。必死に抗う姿は、勇ましく、そして儚かった。

 

 

 

 

 

「南無八幡大菩薩、我が国の神明、尾張の権現、春日大社、天照大御神・・・願わくばあの敵を撃ち滅ぼさせたまえ。これを射損じるものならば、刀折り自害して、人に面を向かうべからず。今一度世界におぼしめさば、この弾外させたまうな」

 

 

 

 

扶桑の古くから伝わる古典を諳んじ、自分への祝詞を唱えると目を開き敵を捉える。後光が差す銃から発射される弾丸は、501が必死に抑えている大型ネウロイを貫く。ほとんどの攻撃を受け付けなかった強固な装甲が、いとも簡単に引き裂かれ、内部から爆発させるほどの威力に、全ての人間が勇を見ていた。勇は銃を下ろすと501に向かって独り言ちる。

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

その日、無事に大型ネウロイの迎撃に成功した連合軍は、ベルリン奪還作戦である『フレイヤー作戦』を実行に移す。キール軍港から輸送し、組み立てた陸上巡洋戦車『ラーテ』を主戦力としたパットン超戦車軍団は、501を護衛として出撃を決定した。そして、勇はキール軍港でミーナに別れを告げる。

 

 

 

 

 

 

「宮藤のやつ、魔法力を使い果たしたらしいな」

「ええ、服部さんも負傷したけど一応全員作戦に参加するわ。宮藤さんはここで待機するとのことだけど」

「宮藤らしいな」

「・・・ユウ、確認なのだけどあなたも私たちと来ない?」

 

 

 

 

 

ミーナは輸送機の前で勇に最後の勧告をする。風が髪をなびかせ、対する勇は微動だにしない立ち振る舞いにミーナは前言を撤回する。

 

 

 

 

 

「昨日、ハイドリヒの長官と直接話したわ」

「そのようだな」

「知ってはいたけど、こう面と向かって言われると正直脚が竦んだわ。戦争とはここまで人間を変えてしまうものなのだとね」

 

 

 

 

 

勇はハイドリヒがミーナに言ったことを全て理解していた。ミーナに本当のことを打ち明けたのだろうが、ハイドリヒはもう包み隠さず言えてしまうほど、ミーナにはどうしようもない決定事項であることがミーナにも分かったよだった。

 

 

 

 

 

「軍人になどなるべきではなかった、か?」

「守るべきものがある限り、守る力のある者が戦う・・・そうじゃなかった?」

「それは昔の俺の言葉だ。今の俺じゃない」

「あなたにぴったりの言葉だと思うけど?あなた以上に似合う人なんてこの世にいるはずがないわ」

 

 

 

 

 

ミーナの言葉は昔の勇と今の勇の姿が重なったものだった。しかし、勇はその言葉は否定しなければならない。なぜならば、自分には与えられた使命があり、それを果たす力を授けられたからだった。

 

 

 

 

 

「オンリーワンでナンバーワンか。最高だな」

「孤独で独り善がりよ。少なくとも私にはそう」

「なに、厭うことはない。自分にしかできないことならば、率先してやるべきだろう?」

 

 

 

 

 

勇の変わり様に驚いてしまう。選択肢を狭められたはずの人間の取る選択にしては、あまりにも清々しい回答だっただけにミーナはおどけてみせる。

 

 

 

 

 

「そうだけど・・・あなた変わったわね。自室待機で心を入れ替えたのかしら?」

「そう、だな・・・本質は変わらないがな」

 

 

 

 

 

妙な落ち着きに、ミーナの心の不安は増すばかりだった。

 

 

 

 

 

「それであなたはどうするの?」

「結局昔と変わらない・・・世界が俺を必要とし、世界が俺を消そうとするならばどちらも叶えよう」

「あなた、本当に死ぬつもりなの?」

 

 

 

 

 

ミーナの目にはこれから死ぬ定めの人間には思えないほど闘志を宿した人間に、ここまで期待してしまう心に嫉妬していた。

 

 

 

 

 

「必死に死ぬのと、必死に生きること・・・それは俺が決めることではない」

「願わずにはいられないわ・・・あなたの選択に幸あれ、と」

「神などに祈るな。幸福かどうかは俺が決める。神になど介在させない絶対の意思が俺を作り出したのだから」

「あなた、神にでもなるつもりなの?」

 

 

 

 

 

ミーナの嫉妬はやがて恐怖に変わる。愛憎入り混じる自分の心境が、鼓動を強く打ち付けるようだった。その感情を読み取ったのか、勇は静かに闘志を顔に曝け出す。

 

 

 

 

 

「神などではない・・・赤松勇という生き物、勇と言う存在、名詞になるのさ。後世にまで轟く怪物の誕生だ」

 

 

 

 

 

 

こうして狂気とも言える決意をした勇の目には、遠くを見据えた未来を現実のものとして掴み取る確固たる正気が鎮座していた。神と人間の狭間に躍り出るべく動き出した怪物の名は赤松勇。今ここに、世界の全てに挑む一羽の翼が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。ハイドリヒ率いるアインザッツ・グルッペン初登場です。大将であるハイドリヒ一人で師団を自由に動かせる権力の塩梅はいかがなものかと思いますが、そこはフィクションということで!
また、ついに501全員と勇くんを対決させることができました。うやむやで模擬戦を終えてしまい申し訳ないのですが、大型ネウロイのトドメを勇が神々しく決めることで決着とさせていただきます。

次回、この章「籠の中の翼」の最終話とさせていただこうと思います。どうか次回にご期待ください!
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