まず最初に謝罪させていただきます。前回、今回の話でこの章の最終話となると予告していましたが、収まり切りませんでした。よって最終話を前編後編の二部に分けての投稿となりますことを平にご容赦ください。
パットン率いる超戦車軍団と501や各地の航空戦闘団が出撃した中、勇だけはまだ出撃していなかった。滑走路には一機の白鯨が桜花を搭載し、勇の出撃を今か今かと待ちわびていた。そして、作戦を何よりも楽しみにしていたはずのハイドリヒは一向に姿を見せていなかった。そんな中、ハイドリヒの腹心であるアイヒマンが勇に近寄る。
「勇中佐、これより出撃だ。ハイドリヒ長官から閃光作戦の第一段階、『暁の夜明け』作戦の発動を受領した」
「ハイドリヒが見えないが?」
「ハイドリヒ長官は作戦指揮に忙しい。私は長官から前線指揮の全権を任命されている。従ってもらおう」
勇はアイヒマンの言葉に従い、白鯨に乗り込むことにする。この『閃光作戦』はいくつかの段階から構成されているらしく、勇によるベルマン突撃が作戦の第一陣となっていた。他の隊員の姿は見えず、少数での行動に疑問が浮かぶが、勇は自分の使命にのみ頭を集中させる。白鯨に乗り込むと、作戦への意気込みが見え隠れしてしまい、武者震いが出ていた。
「貴官ともあろうものが、武者震いか?」
「心配するな。震えていても敵は倒せる」
勇は高空を運ばれている感覚に得も言われぬ感覚を感じていた。それは焦燥感か、はたまた快感か自分でも分からなかった。ただ一つだけ確かなことは、これから全ての決着がつくと言うことだけだった。そして、遂に機長から目標上空への接近が知らされる。
「目標まであと5分!」
「勇中佐、貴官の検討を祈る」
アイヒマンはそう言うと、部下を引き連れてドアを開く。激しい風が入り込む中、次々と降り立つ彼らの行為が何の行動なのか分からなかったが、こうして勇の出撃を見届ける者はほとんどいなくなってしまった。
「ふっ、見送りもなしか・・・これも定めか」
「目標まで残り3分!準備を!」
勇は腰を上げ、桜花の前に立つ。改造され、八咫烏が収納された桜花はかつての仲間を運んだ棺桶と蔑んでいたが、こうして自分が入る分には落ち着く場所になっていた。一人が入ることができるスペースに勇が入り込むと、安心感さえやってくる始末だった。
「よし、行くか」
爆弾倉が開き、射出の準備が整った。あとは命令のみだった。そこに一つの通信が入る。
「勇中佐、気分はいかがですか?」
その声はハイドリヒのものだった。落ち着き払った声が懐かしく、あれほど憎んだ声がどこか遠く感じられた。
「ああ、晴れているよ」
「それは良かった。一つご報告です。現在、ベルリンでは激戦が繰り広げられており、パットン将軍率いる戦車軍団がベルリン市街にて包囲されているそうです」
「やはり一筋縄ではいかなかったか」
予想してはいたが、ここまでネウロイの戦略が巧妙だと笑えてきてしまっていた。そして、勇はその後の消息と501の行動について質問する。
「パットン将軍らはベルリン市街にあるフラッグタワーに籠っているそうです。501は地下鉄道を通って、侵入するようです」
「やつらも必死と言うわけか。じゃあ、俺にとってうってつけの状況と言うわけだな?」
「ええ、ここまで準備した甲斐があったというものです」
ハイドリヒの作戦予想には毎回驚かされるものがあるが、ハイドリヒがお膳立てした舞台は勇にとって晴れ舞台だった。勇は不敵に笑みを浮かべる。おそらくハイドリヒも同じ顔をしてるだろうことを想像するとなおさら笑えてきた。
「では勇中佐、時間です。あなたとの時間はとても楽しかったですよ」
「ふざけるな・・・と言いたいところだが。意外な気持ちだ。お前の見ている景色が俺にも見えた」
「ハハハ!初めてですよ・・・あなたともし違う世界で出会っていたのなら、きっと良き友人になれたのでしょうね」
ハイドリヒらしからぬ物言いに勇は驚きつつ、笑い飛ばす。
「ハハハ!俺たちにはこの世界しかないだろうが!」
その瞬間、勇は射出時間のランプが灯り、射出ボタンを押す。ハイドリヒが笑っている気がしたが、それも薄明るい光と強風、そして内臓を浮かせるような重力にかき消される。自由落下で桜花の鼻先が大地を向いたとき、勇は燃料を点火し、魔法力を込める。
「行くぞ!!!」
轟音と共に一気に慣性の法則で身体が進行方向とは逆方向に押し込まれる感覚に襲われる。グングンと高度を落としながら音速を越える。景色が灰色に見え、ゴマ粒ほどだった目標が段々と大きく見え始める。しかし、その光景も超音速に入ったあたりで勇の身体に影響を及ぼし始める。
「ぐくくっ!!!」
眼球が押し込まれ、視界が狭まり、手足と首が悲鳴を上げていた。常人であれば意識がとうに飛んでいてもおかしくないが、勇はそれを身体力を強化し、気合で乗り切っていた。しかし、影響は少なからず勇を蝕んでおり、事実左手は徐々に黒ずんできていた。また、同時に音速を突破したことによる造波抵抗や空力加熱の障害をシールドを桜花に施すことで乗り切っていた。つまり、これは勇にしかできない芸当だった。
「ぐぬぬ!見え・・・た!!!」
ハイドリヒの報告通り、ベルリン市街は巨大なドームに囲われていた。勇は思案したあと、最適な方法を導き出す。最高速に達し、障壁に突入する寸前、勇はこれまでのことを走馬灯のように思い出していた。荒れていた幼少期と父親であった道斎、姉だった咲、家族になろうとしたバルクホルンや宮藤、ハルトマンら501。戦友の杉田、藤野と小野里ら。隊長の林、赤松貞明。敵でありよき理解者にもなれたハイドリヒ。こんな自分を好きだと言ってくれたミーナと智子。その他にもたくさんの人物と出会い、迷惑をかけ、仲直りをしてきた。一人一人の顔や交わした言葉が胸の中に反芻する。自分と関わった人間の環が広がる度、酸いも甘いも見分けて出会ってきた軌跡は化石となって残っていく。それを織り込んで自分の行先を見定める。壁は目前に迫っていた。
「咲姉さん・・・今行くぞ・・・っ!分離っ!」
桜花の先端のみを分離して、勇は脚部を桜花の収納スペースから八咫烏に移す。軽量化され、さらに速度の増した桜花は最終的にマッハ2.3を記録していた。勇は切り離されたと同時に減速用のパラシュートを展開、恐ろしいまでの慣性の法則が襲ってくるがなんとか耐える。目を向けると、そこには大きな穴が穿たれ、ベルマンの市街への入り口を大きく広げていた。
「そんじゃあ、蜂の巣を叩きに行きますか」
勇が穴の中へ突入した時、その光景を目撃していた人物がいた。それは坂本とウルスラ、服部の乗るB-17だった。
「あ、あれは?!」すごく、すごく速かったです!」
「今のはなんだ!?だれか乗っていたのか!」
「赤松中佐、ですね」
「なんだと?!ユウのやつ、このために遅れて来たのか!?」
「彼は彼の意思で動いているようですね」
坂本と服部が桜花の恐ろしさを目の当たりにする中、ウルスラは冷静に分析する。既存の武器類ではあの壁を破れないこと、また勇があの中で何を行おうとしているのかを的確に判断していた。
「彼を止めなければなりませんね」
ウルスラの手にはある資料が勇の実態を示していた。その書類の一番上にはこのように書かれていた。『ウィッチによる魔法力制御下の原子爆弾の効果について』
一方、ドームの中に入った勇は敵との戦闘に追われていた。しかし、蜂の巣を叩いたような騒ぎのそのことごとくを爆砕していた。
「お前らなんぞお呼びじゃない!咲!出てこい!!!」
小型のネウロイを片端から爆砕していると、小型ネウロイが突如として攻勢を停止する。道を開けるように脇へ引いていく様は、まさに魔王の登場であった。
「よう・・・会いに来てやったぜ」
勇の目線の先では、瞬間移動型ネウロイであり人型を模したネウロイ、咲がいた。勇と咲は互いに微動だにしない。互いの再会を喜ぶ場合ではないが、そういった雰囲気を感じさせるだけの間が存在していた。しかし、突如として二人は動き出す。目にも止まらぬ速さで攻撃が繰り出されていく。その攻防はまさに一進一退だった。
「さすがは瞬間移動だ!でも、相手が悪かったな!」
かつて勇は瞬間移動の固有魔法を駆使した戦術を用いており、その功績で数多のネウロイを倒してきた。その戦術と効果は勇が嫌と言うほど熟知していた。おかげで勇は瞬間移動先を予測で設定し、その空間ごと爆破する。咲も勇が瞬間移動を駆使していた頃とは違い、無尽蔵なほどの回数を瞬間移動し、攻撃と回避を繰り返していた。
「くそっ!やっぱりそう簡単にはいかないか!」
勇の攻撃をもろともせず突っ込んできては小さなダメージを蓄積させていく。まるで遊ばれているかのような攻撃に苦笑いを堪えられなかった。勇は一度距離を取るために強力な攻撃を繰り出そうとする。
「我こそは強大な敵を撃ち倒す者、敵は百戦錬磨の強者にして不敗の将。どうか彼女を靖国へ導かん」
強大なエネルギーを秘めた弾丸はおおよそ勇と咲の等距離で爆発する。勇は即座にシールドを展開し、その爆風を利用して距離を稼ごうとしていた。しかし、その瞬間を突いて咲が攻め込んでくる。
「ぬおっ!あの爆発をだと?!」
目の前に接近されてはあの攻撃は使えない。だが勇は急いで魔法力を練り、もう一度繰り出そうとする中、咲はそれをも上回る速度で攻撃を放とうとしていた。
「まさかっ!あの攻撃もコピーしたのか?!」
勇は全力で攻撃から防御に意識を急転換する。しかし間に合わずある物を差し出す。
「・・・」
「・・・けほっ、お前も驚くんだな」
威力はまだ勇には届かないが、人に向けるにはあまりにもな威力に勇は禁断の行為を行っていた。勇の左手に巻かれていた包帯が焦げ、風に揺られてその全貌を露わにする。勇の左手は、指先から肘の手前までが黒く変色しており、幾何学模様が浮かび上がっていた。それはまるで目の前のネウロイと同じ模様だった。
「なに、いつもあんたにばかり驚かされてきたんだ。今度は俺が驚かせたって文句はないだろう?」
冷や汗が一筋流れる中、いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべる勇とは対照に、咲はまるで静かに憤怒しているかのようだった。勇が笑みを浮かべるのを挑発と取ったのか、咲は猛攻を始める。
「くそっ!何だってんだ!うっ!」
止めどない攻撃が繰り返され、シールドを多重に展開させたり、複数展開することでなんとか凌いではいるがこちらが攻撃しない限り防戦一方だった。そこで勇はとっておきの作戦を試すことにする。手榴弾のピンを抜くと魔法力を込めて威力を増す。それを気付かれないように背後に投げると、目の前に咲を見据えシールドを後方に展開する。咲は何をしているのか分からず、勇の出方を伺っていた。その時、手榴弾が炸裂し、その爆風が勇を押し出す。
「ぬおっ!どおだっ!」
猛烈な勢いで突っ込む勇に度肝を抜かれた咲は、勇の切込みを防ぐべく攻撃を放つ。
「ぐあっ!・・・へっ!これでお相子だな」
「・・・」
咲の胸部に勇の刀傷がつけられ、勇の左肩には咲のビームが貫いていた。瞬間移動を駆使する者にとって、接近されることと触れられることは絶対あってはならないことである。それこそプライドが大きく傷つけられることと同義である。勇はまた一つ勝ち誇った顔をする。しかし、勇の攻勢もそこまでだった。
「なっ!?てめえ!さしの勝負だろうが!」
咲の周囲には無数のネウロイが溢れていた。それまで傍観を貫き、勇には一切接近してこなかった小型ネウロイが集結していた。そして、咲の攻撃と組み合わせて勇に襲い掛かってきたのだった。その異変に気付いた者が、その場にいた。
「あれ・・・まさか勇さん?!どうして!?」
フラッグタワーに隠れていた宮藤だった。超戦車ラーテが破壊され、カールスラントが建造した鉄筋コンクリートの要塞に立て籠もっていた宮藤は、勇が戦闘していることに自分たちを救助しに来たのだと勘違いしてしまった。
「勇さーん!!!こっちですよ!!!」
「なっ?!宮藤!?どうしてここに!って、まず・・・」
ここに居るはずのない宮藤の存在と、こんな状況で悠長に姿を晒すことに気を取られ、咲の攻撃を直接受けてしまう。勇の劣化版とは言え、最大級の攻撃に勇は一気に吹っ飛ばされる。フラッグタワーまで飛ばされ、鉄筋コンクリートの壁に激突する。
「うあがっ!」
「勇さん!」
勇は一瞬気を失うがすぐに目を覚ます。目の前に浮かぶ先の姿を口の中の血を吐き捨てて見る。無表情な顔の部分にかつての姉の表情が見えた気がしたが、既に先は亡くなっている。そんな既視感に幻想を振り払い、負けを感じる。
「やれよ・・・姉さん」
「・・・」
咲が手を勇に向け、エネルギーを溜めている。勇は目の前の断罪の瞬間を笑って待つ。勇の頭の中にはこれまでに関わった全ての人間と、自分のことを待ってくれている人の気持ちが折り重なっていた。なにより自分の終着点を見切ることができて、満足感さえ感じていた。目の前の人物になら自分は殺されてもきっと後悔しないと救われようとしていた。
「やっと解放される・・・肩の荷が下りたよ。サクラ、サクラ・・・ふはは、そういうことだったのか」
勇は覚悟を決める。かつて特攻で杉田が遺した通信の意味を理解して笑いが込み上げる。介錯人のように一瞬で消し飛ばそうとする咲に、勇は顔を上げて呟く。
「桜が似合ってるよ、咲。サクラサクミライだ!」
勇の言葉に咲は首を傾げる。その瞬間、建物の中から射撃が咲を襲う。
「赤松中佐を守れ!」
「勇さん!こっちです!!」
立て籠もっていた兵士が先に向かって射撃をし、その間に宮藤が勇を中に取り込んだ。
「何してるんですか勇さん!」
「助かったぜ。それより戻らないと!」
「ダメです!怪我してるじゃないですか!」
興奮気味の勇は気づかなかったが、勇はかなりの傷を負っていた。出血が頭や肩など至る所から見られ、宮藤の治療に捕まってしまう。
「宮藤っ!それどころじゃないんだ!」
「いいから包帯巻かないと敗血症で死んでしまいます!ほらっ、左肩を見せてくだ・・・さい。勇さん、この腕」
宮藤は勇の左肩を診るために左手を握ってしまう。その服の隙間から覗いた黒い幾何学模様を目にしてしまう。初めて人に見られてしまったが、勇にはもうどうすることもできなかった。宮藤から包帯を分捕ると左手をもう一度巻きなおす。困惑した宮藤の肩に手をかけ諭す。
「宮藤、こういうことなんだ。今まで素っ気ない態度を取ってすまなかった。だが、もう少しで終わる」
勇はしっかりと言い聞かせるように言ったが、宮藤は首を振って聞くことを拒否する。
「嫌です!勇さんがいなくなる世界なんてだれも望んでいません!だから終わるなんて言わないでください!」
勇はなにも死ぬとは言ってはいなかったが、宮藤には分かってしまったようだった。しかし、魔法力を枯らした宮藤には何もできない。勇は少しの希望を宮藤に託して生きてここを脱出できるように魔法力を流し込む。
「お前は鈍感なくせに敏い。宮藤、お前は守りたいんだろ?お前は俺とは違う。だから、守ってくれ。この世界を、未来を」
勇の魔法力を感じたのか、宮藤は心の温もりを受け取る。僅かな魔法力だが、確かに勇の魔法力だった。勇は宮藤の身体能力を底上げすべく表面を覆うように魔法力を授けた。しかし、宮藤の口からは驚くべき言葉が漏れる。
「優雨作さん?」
「な、なぜその名を?!」
「え?なんでだろう?私・・・おじいさんから、あれ?あのおじいさんは一体?」
要領の得ない宮藤の幻想に勇は驚愕する。優雨作という名前を知っているのはかつての姉の咲と少し前に話したウルスラ程度だ。そして、自分に名前を付けた父親のような存在の道斎だった。たしか、道斎がかつて扶桑沖戦役で出会ったウィッチの名前がふと勇の脳内を過った。
「秋本、芳子・・・さん?」
「どうしておばあちゃんの名前を?!」
「そうか・・・そうだったのか・・・あっはっはっは!じいちゃん、見ててくれたのか!」
勇は嬉しさのあまり懐かしい人物に感謝する。温かく、そして慈愛に満ちた道斎はいまだに勇を見守ってくれていたのだと、力が湧いてきた。そして、不思議な表情の宮藤の手を握る。
「ありがとう。また会わせてくれて。俺はもう行かなくては」
「・・・勇さん」
心配そうな宮藤を見て、勇は笑顔を作って見せる。それは感謝と強がりを精一杯込めた清々しい笑顔だった。
「任せとけ!俺が片付けてきてやる!」
そう言うと今度こそ勇はフラッグタワーを飛び出す。そして、フラッグタワーを攻撃する敵を惹きつける為に最大威力の攻撃を天井に向かって放つ。
「俺はここだ!!俺を撃ちたいやつは並びやがれ!片端から返り討ちにしてやるぞ!」
そう言うと敵が一斉に押し寄せてきた。その頃、地下のミーナたちは突如押し寄せる攻撃の衝撃波に怯えていた。
「さっきから上では物凄い攻撃だな」
「まだパットン将軍将軍らが抵抗を続けているのでしょう。私たちも先を急ぎましょう!」
勘違いによりミーナは前進を急ぐ。さらに上空では坂本らが内部に侵入するための方策を練っていた。
「ユウや宮藤が中にいる!助けに行くぞ!」
「はいっ!坂本少佐!」
「では、ネウロイ用気化爆弾があります。それを起爆させて中に入れるかやってみましょう」
三人は方針が決定するとすぐに準備に取り掛かる。ネウロイ用気化爆弾は二発しかなく、慎重な判断が求められた。一発目を投下すると、爆弾はドームの手前で爆発してしまい効果が薄かった。
「くそっ!爆発のタイミングが早すぎる!」
「設定を変えられないのですか?!」
「ここでは無理です。基地に戻らないと!」
三人は頭を抱える。何より普段冷静なウルスラが一番焦っていることに坂本は疑問をぶつける。
「ウルスラ中尉、どうしたんだ?」
「・・・今、中には赤松勇中佐がいます。このままでは彼は、この土地ごと消滅してしまいます」
「なんだとっ!?」
驚きが隠せない一同はウルスラに詳細を尋ねる。
「どういうことだ!」
「勇中佐の持たされているペンダントを以前見せてもらったことがあるのです。それは気になって調べたらこんなものが」
ウルスラが手渡した資料に釘付けになる坂本と、それを不安げに見つめる服部は緊張を強いられた。坂本は頭を抱えてかつての自分の勇への頼みを後悔する。
「なんということだ・・・私が、私がユウの背中を押してしまったというのか・・・」
「坂本少佐?」
服部は自責の念に苛まれる坂本を見てより不安が増す。ウルスラがそんな服部にも分かるように事態を説明する。
「私が調べた情報によると、勇中佐が持たされているペンダントはただの飾りではありません。あれは・・・原子爆弾です!」
「原子爆弾?」
「はい、通常の爆弾とは異なり、ウランやプルトニウムといった放射性物質を核とした新型爆弾です。その威力は核分裂により得られる莫大なエネルギーによりTNT換算で15kt・・・・勇中佐はおろか、このベルリンは文字通り地図から消えます!」
あまりにも桁外れな威力に二人とも予想がつかないが、都市ごと消し飛ぶと言う強烈なインパクトに想像を絶する規模だということは想像がついた。
「ネウロイより厄介じゃないか!」
「それを勇中が持っているのですか?!いつ爆発するんですか?!」
「それは分かりませんが、ハイドリヒ長官がノイエカールスラントで行っていた研究では魔法力による核反応の制御を検討していたようです」
坂本は腕を組んで結論を出す。
「つまり、ユウの魔法力の制御が利かない限界量を越えた時、ということか」
「はい。臨界状態と言いますが、おそらく勇中佐の魔法圧が何らかの形で崩れた時でしょう」
「それって、勇中佐が死んだ時でもですか?」
服部の質問に機内は暗い雰囲気に包まれる。全員が勇の今後を考えると、行きつく先が想像できてしまった。服部は二人の暗い表情を見て、駆けだす。
「服部?!」
「少佐!私が出ます!」
「無茶だ!お前にはもう魔法力もユニットもないじゃないか!」
「手ならまだあります!」
服部の覚悟の背後には新たな翼が煌めいていた。
一方その頃、勇は咲と多数のネウロイとの泥沼の戦闘に身を投じていた。
「こんのぉぉぉ!!!」
無数のネウロイのせいで咲に近づくこともできず、また咲は最悪のタイミングで勇に切りかかってくるため、勇は満身創痍の状態だった。それでも勇は咲だけを狙いすまし突撃を繰り返す。
「これならどうだぁぁぁ!!!」
手持ちの弾倉を高く放り投げると、それを撃ち抜く。あたり一面に熱した栗が弾けるように散弾が飛び散る。勇の魔法力を限界まで込めた弾丸は一斉に小型ネウロイを蹴散らした。周りの雑多なネウロイを消し飛ばした瞬間、瞬時に最大威力の魔法力を込めた弾丸を放つ。膨張した弾丸は、咲の目の前で炸裂し、あたかもレーダーが搭載された近接信管付の弾丸の様だった。
「もらったぁああ!」
最後の弾丸を撃ち尽くし、あまりの威力に銃身が破裂したため刀での攻撃に出た勇の目の前には、爆炎で身動きの取れない咲がいた。勇の渾身の一刀が肩から入り込んだように思われた。しかし、現実に刀の切っ先が向いていたのは勇だった。
「ぐふっ・・・固すぎだろ」
鳩尾付近に突き刺さった刀は、勇の刀だった。なんと咲を切り裂いたはずの刀は、防御に全振りしたと思われる咲の装甲によって折れてしまった。そして、その折れた切っ先を勇に突き刺していた。ゆっくりと突き刺されていく感覚に、妙な既視感を覚えながら切り口が灼熱の熱さを痛みが覆っていた。
「その様子じゃ、自爆でも致命傷にはならないか・・・さすがは姉さんだ」
項垂れて溢れる血を眺めてしまう。さすがにここまでの深手は、いくら勇と言えど大丈夫と言えない致命傷だった。それでも勇は一矢報いるために密かに魔法力を練る。それも織り込み済みなのかめり込ませるように切っ先をねじ込んでくる咲には、怒りの感情が伺えた。
「なあ姉さん、この世界ってのは本当に理不尽だよな。でもな、理不尽にも訳があるんだぜ?もし、自分が不遇な環境に置かれてもなお、声を出さなかったら、それはなにも変わらないんだ。声を出せる勇気がある奴が自分に降りかかる理不尽を跳ねのけることができるんだ」
勇の言葉に耳を傾けているのか、切っ先の入り込みの力が止まる。勇は入り込む切っ先を手で握ると、手から溢れる血も気にせず咲を覗き込む。
「俺は正直になることが怖かっただけの臆病者なんだ。でも、それでもなんとか声を上げることができた。それを助けてくれる仲間がいたからだ!だから姉さん!姉さんも正直になれよ!最期の日、俺に言いたかった本当の言葉を言ってみろよ!あの夜言いかけた『私の・・・』の続きを教えてくれよ!」
勇は咲に向かって自分の気持ちをぶつける。カールスラント撤退戦で、最期の日に交わした言葉はなんとも味気なく、聞かずに二度と会うことは叶わなかったその言葉を聞きたかった。それを聞かずにはいられなかった。すると、咲が少し震える。
「・・・アシタヲ、アゲル」
「・・・な、んだと?」
電子音のような声が紡いだのは、勇が思いがけない言葉だった。あの凍てつく月が二人を覗き込んでいた時、咲はこんなことを考えていたのだとしたら勇は怒らずにはいられなかった。勇は力を振り絞り、痛む腹を気にせず咲を殴りつける。
「ふざけるなぁぁぁ!!お前は咲なんかじゃない!俺の!俺の姉さんはなあ!諦めないんだよぉぉぉ!!!」
予想外の力に咲の力が弱まる。その瞬間を待っていたとばかりに自分に突き刺さる刀を抜くと、それを逆に咲の胸に突き刺す。痛がっているのか、勇が咲に刺しかかったまま瞬間移動を繰り出す。いつの日にか自分も扱っていた瞬間移動の感覚に目が回る。その時だった。ドームの天井が突如爆発し、一人のウィッチが飛び込んできた。
「宮藤さん!!!勇中佐ぁ!!!」
飛び込んできたのは、宮藤の震電を装着した服部だった。ドームの中に差し込む光に瞬間移動が止まる。外敵を確認したネウロイが一斉に襲い掛かるが、必死に反撃する服部の存在に勇は悪寒を覚えていた。刀を差したままの二人が組み合ってなんとか服部の下へは行かせまいと粘る勇だったが、咲が放った一撃が服部の腹部を引き裂く。その光景を目撃していた宮藤と勇が叫ぶのは同時だった。
「服部ぃ!!!」「静香ちゃん!!!」
血が花火のように飛び散り、致命傷を負った服部はどしゃりとフラッグタワーに墜落する。駆け寄る宮藤はその流れ出る血を見て言葉を失っていた。
「静香ちゃん・・・」
止めどなく流れ出る血液の量が、服部の命の通貨であることを宮藤はよく知っていた。必死に治癒魔法を発動させようにも、枯渇してしまった魔法力はその効果を発揮しなかった。その間にも敵は宮藤を目指しており、勇はやむなく咲から離れる。宮藤の護衛をするため、フラッグタワーを背に敵と対峙する。弾も尽き、刀も折れ、傷を負った勇は端から見ても虫の息だった。それでもその滾る闘志のみが敵の接近を防いでいた。
「手出し無用に願おう。ここから俺は修羅となって立ちはだかるぞ・・・まずはお前か、お前か!」
勇の気迫に気圧されたのか、小型ネウロイは宮藤たちに近づこうとしなかった。服部はこの時、勇の胸元で青白く輝く光を見てこう呟いた。
「破滅の、翼だ・・・」
いかがでしたでしょうか。間延びした戦闘シーンになってしまった気もしますが、勇の奥の手を披露したりと盛りだくさんになってしまい、最後まで書ききれませんでした。申し訳ございません。後編の方もなるべく早くに投稿するつもりですので、もうしばらくお待ちください。
瞬間移動型ネウロイを咲と断定して話を進行していますが、作中の咲と勇の会話シーンについては「籠の中の翼第十二話」を参考に進行しています。遅い伏線回収で申し訳ありません。次回でこの章も終わりとなりますので、次回もよろしくお願いします