ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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遅い投稿で申し訳ありません。この章から新たな章です。

この章からは勇くんと小野里をメインに話が進んで行きます。是非彼らの活躍にご期待頂ければと思います!ではどうぞ!


不滅の翼 第一話

501は基地を転進させ、基地の兵を全員ベルリン周辺に移動していた。しかし、元501基地にはハイドリヒの部隊が集結していた。その中の一人にアドルノ・アイヒマン中佐の姿があった。

 

 

 

 

「長官は?」

「残念ながら、死亡が確認されたとのことです。これからいかがいたしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは部下に無線機を持ってこさせると、全部隊に向かって連絡を行う。

 

 

 

 

 

「こちらアイヒマン中佐、全部隊に告ぐ。長官が赤松勇中佐に暗殺された。これから俺が部隊の全指揮権を引き継ぐ。これは命令だ。我々の目的は何も変わらない。我々の目標は新世界を作ること。これは長官がいたころと何も変わらない。変わらないのだよ、諸君・・・であれば!我々の為すべきことはただ一つ!裏切者の赤松勇中佐という新世界の障害を排除することだ!全部隊、奴を追え!奴を殺せ!その先に新世界はある!」

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは無線を置くと一斉に部下たちが動き出す。目を閉じ、アイヒマンもハイドリヒのしてきたことを思い出し、頭を回転させる。そして、ゆっくりと目を開くとハイドリヒが収められた車に向かい小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・忠誠を」

 

 

 

 

 

 

一方、501の基地を脱出した勇と小野里はベルギガの南方に位置し、カールスラント南部へと向かう途中だった。これはアイヒマンたちの追撃から逃れるとためというのと、501と彼らのとの距離を離すための措置だった。そしてなぜカールスラント南部に向かうかと言うと、こちらはまだネウロイの支配地域であり、簡単には追って来れない地理的理由からだった。

 

 

 

 

 

「すまない小野里少尉、妙に疲れた。強壮剤を貰えるか?」

「いえ、こちらこそ急がせてすみません。それより、その傷でここまでの逃避行を遂行できたことの方が信じられないです」

 

 

 

 

 

 

勇はベルリン奪還作戦の終了後すぐに脱出したため、未だに咲との戦闘で受けた傷が深々と残っていた。それを素早く治癒魔法で治療していく小野里を見て、勇は自分の疑問を素直に問いかける。

 

 

 

 

 

 

「小野里少尉、どうして俺を助ける気になったんだ?」

「・・・あなたに賭けてみたくなったからです」

 

 

 

 

 

徐々に治療により傷口が塞がれ、見る見るうちに癒されていく手際の良さに感心しながら小野里の賭けの話に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

「あなたの記憶を覗き、特攻隊の人たちと触れ合う中で、私は気づいたんです。あれだけ憎かったあなたを他の特攻隊員は嬉々として私に話すのです。そして、あなたも彼らを決して見捨てようとしなかった。だから、きっとあなたは私のたった一人のかけがえのない兄さんにも涙を流してくれたのだと」

 

 

 

 

 

牟田口に騙されていまいときっと小野里は勇を憎んだのだろう。大切な家族である藤野を失った悲しみの遠因の一人が目の前にいたのなら、きっと勇もいわれのない憎しみの感情を向けてしまうかもしれない。しかし、小野里はたくさんの人に出会う中で勇の本質に触れる機会を得たのだった。そして、勇はもう一つの疑問を投げかける。

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・もう一つ。どうやって生き返ったんだ?」

「ああ、あれも大きな賭けだったんですがね、ミーナ中佐にお願いしてわざと捕まったんです。私の固有魔法は『部分治癒』でして、普通の治癒魔法も心得ていますが部分的な治療を得意としているんです。だから、ハイドリヒに撃たれた時もあらかじめ対策をしていました。まあ、頭を撃たれていたらそれまででしたけど」

 

 

 

 

 

呆れる危険な賭けに頭を抱えるも、ミーナの策略ぶりには敵わないと改めて感じた勇だった。それにしても小野里の治癒魔法に呆れながら、智子が勇の下に訪れ、事情を知っていた理由も納得がいった。死んだと思わせた小野里が密かに復活し、扶桑などに極秘で連絡を取ったのだろうことが伺えた。

 

 

 

 

 

 

「大分危険な橋を渡ったな」

「いえ、死人ですから案外簡単に情報を得ることができました。それに、特攻隊の杉田大尉がくれた金平糖が瀕死状態の私にとって良いエネルギー補給になりましたし、ミーナ中佐が手配してくれた宮藤曹長の治癒魔法があってこそです。まあ、宮藤曹長はなにもない土に向かって治癒魔法をかけさせられたのですから、さぞ不思議だったでしょうね」

 

 

 

 

 

その光景を想像するだけで笑えてきてしまった。そして、人の縁とは不思議なもので杉田のくれた金平糖のおかげで小野里が助かったのだと思うと運命すら感じられた。そして、小野里は話を続ける。

 

 

 

 

 

「扶桑と連絡を取った際、以前あなたが接触していた陸軍の穴吹大尉に連絡を取ることができました。こちらはとても好感触で、連絡を取ってすぐに駆け付けてくれました。もしかして、恋仲でしたか?」

 

 

 

 

 

あからさまに人をおちょくるような目線を向ける小野里に、勇は顔を赤らめながら顔を背ける。さすがは情報将校であり、かつ少女なのだと頭が痛くなった。勇は話題を変えるべく咳ばらいする。

 

 

 

 

 

「ごほん・・・今後の方針だが、現在我々はベルギガの南東、アルデンヌの森にいる。この森は深く、木々の間隔が狭いからやつらの大きな戦車は通れないだろう」

 

 

 

 

 

 

小野里も地図を広げながら勇の計画に耳を傾ける。アルデンヌの森は湿地や起伏があり、深い森に包まれている。そしてなにより、と勇が付け加える。

 

 

 

 

 

 

「そこをぬけるとガリアとカールスラントの国境線付近に存在するマジノ線が俺たちの壁となってくれるはずだ」

「マジノ線ですか・・・」

 

 

 

 

 

マジノ線とは、ガリア共和国が建設した総工費、維持費含めて300億フランが投じられ、ロマーニャ方面まで伸びる史上最強の要塞線である。108の主要塞を15kmの間隔で配置、施設内には連絡通路がありそれらを電車が結び、厚さ350cmの強固な作りをした大要塞である。つまり、万が一追い付かれても、マジノ線に入ることができればやり過ごせる算段だった。

 

 

 

 

 

 

「ハイドリヒの部隊には機械化歩兵や降下猟兵部隊があったはずです。先回りされていると言うこうとは?」

「まだカールスラント南部はネウロイの支配地域だから無闇に動くことは出来ないはずだ。それに小野里の情報では原子爆弾をどこかに秘匿している以上、そちらに防衛部隊を配置しなければいけない」

 

 

 

 

 

小野里の心配も尤もだったが、それ以上にハイドリヒの準備は予想以上に周到で、原子爆弾を少数ではあるが生産を成功させており、連合軍を壊滅させるためにどこかに配備しているとのことだった。その情報の一端を辛うじて入手したのだが小野里だった。

 

 

 

 

 

 

「そうですね。私が入手できた情報では、ベルリン奪還作戦のあとで主力を勇中佐の原子爆弾で殲滅した後、カールスラントのフランクフルトで閃光作戦の第二段階、『黒い雨』作戦が実行される予定でした」

「なるほど、そこらは確か506が作戦担当区域だったはずだ。本当に連合軍の総力を一挙に壊滅させる腹だったんだな・・・」

 

 

 

 

 

 

勇自身をも作戦の一部として消滅させるはずだった作戦に戦慄し、今自分が生きている理由を心で噛みしめる。多くの人間が関わり、一方は死に、または助けてくれた。勇の双肩にはそのどちらもが重くのしかかっている。そして、そんな自分も体の一部がネウロイ化に侵食され、人類とのいらぬ軋轢を生んでいるこの現状を何とかしなければならないと思っていた。しかし、その思案を巡らせる時間すらも勇にはなかった。

 

 

 

 

 

 

「静かにっ!・・・まさか!?もう来たのか?!」

 

 

 

 

 

 

勇が僅かな振動とエンジン音に気づいたのと同時だった。発砲煙が目に入る。その瞬間、未だその事実に気づかない小野里に覆いかぶさる。轟音と衝撃、パラパラと降りかかる土煙から木々の合間を縫って大勢の戦車が勇たちに向かってきているのが見えた。まだ耳の奥で鐘が鳴っているが小野里を無理やり起き上がらせると、その場から一目散に駆けだす。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!?なぜこんなに早くにっ?!」

「くそっ!やつらの忠誠心を見誤った!やつら足の早い四号戦車できやがった!!」

 

 

 

 

 

 

以前に見た戦車大隊は、その強力な攻撃力と防御力から恐れられた六号戦車、通称『ティーガー重戦車』と機動力に優れ、傾斜装甲を取り入れた走攻守と優秀なパンター戦車だった。しかし、勇と言うハイドリヒ殺しの最大の障害を倒すために、アルデンヌの森を突っ切るための軽量な戦車を投入して来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「やつらの鈍重な戦車なら、もし森を通ろうとしても途中で撃破できると思っていたんだがな・・・まさか俺のためにここまで外聞を捨てるとは」

「悠長なこと言ってないで逃げますよ!!」

 

 

 

 

 

 

勇が言うように四号戦車は軽量で、重量も25トンしかない為一日あれば走破出来てしまう。勇が想像していた六号戦車などではその圧倒的な装甲から来る重量から足回りが利かず、この森で足踏みすると考えていただけに、この電撃的な進軍に冷や汗をかいていた。そして、ここに勇と小野里のアルデンヌの森撤退戦が開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんな森じゃ大型の武器の取り回しは無理です!それにこんな機関銃では戦車の装甲は貫けません!」

「だから今は逃げに徹するんだ!」

 

 

 

 

 

 

勇の見立てではこの森に配備された戦車部隊はおよそ2個中隊であり、本命の一級戦力の存在が見えないことに不安を感じていた。勇は敵の作戦の意図を確認するため、小野里に敵の詳細を聞き出す。

 

 

 

 

 

 

「たしか敵の戦車大隊の指揮官はギャリン・オットマイヤーとか言ったな!どんな人物だ?!」

「オットマイヤー中佐は戦闘狂です!戦車突撃することに快感を覚える変態ですが優秀な戦術家です!一度命令を受けると例え一兵になろうと突撃を敢行する胆力を持ちます!」

 

 

 

 

 

 

嫌なことにハイドリヒの命令が有効な以上、オットマイヤーは必ず使命を全うするために最適な行動をすることが予想された。だが、勇はその性格から作戦を導き出す。

 

 

 

 

 

 

「よし!手は決まった!小野里ついてこい!」

「どうするんですか?!」

 

 

 

 

 

 

砲撃が苛烈を極める中、勇と小野里は当初の予定であるガリア国境付近のマジノ線に目標を定めていた。ここは506部隊のセダン基地があり、勇と以前親交を持つグリュンネらがいた基地があった。

 

 

 

 

 

 

「まさかセダンの部隊に協力を求めるんですか?!彼女らは今でこそ各国との協調路線を取っていますが、その背後にはまだ勇中佐を取り込もうとする連中が蔓延っています!危険では?!」

「小野里、人と人の縁と言うのは案外意外な所で繋がっているものだ!彼女らには少し手伝ってもらうだけだ!」

 

 

 

 

 

 

勇の頭の中にはある人物が浮かび上がっていた。その人物とはマジノ線の指揮官であるモーリス・ガムラン陸軍上級大将である。彼は506部隊と深い関りを持ち、進歩的で比較的リベラルな考え方を持っているウィッチ擁護派の一人だった。マジノ線に就任する前はガリアのリヨンにガリア西方司令部の指揮官として着任しており、勇はこの人物の庇護下に入ろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

「人との繋がりがあるのは分かりますが、それでも危険すぎます!今ここでハイドリヒの軍隊とガリア国境守備隊が戦闘状態に入ればそれこそ新たな戦争の始まりです!」

 

 

 

 

 

 

小野里の不安も実に的を射ていた。例えネウロイという共通の敵が存在し、共闘して戦っていたとしてもそれはまやかしの戦争であることをハイドリヒが良く知っていた。勇の行動はその潜在的な縮図に油を注ぐ行為と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

「混乱こそ我々の味方だ!その混乱と言う時間さえあれば俺たちは逃げおおせる!俺たちがいなければオットマイヤーは即座に退くんだろう?!」

「ああもう本当に誰も彼も狂ってます!」

 

 

 

 

 

 

小野里が勇の推察する観察眼と世界の縮図の曖昧さに嫌気が差す。こうして忙しく会話をしている中でも砲弾が行きかい、勇たちはシールドで防いでいた。まさに状況は危機的と言え、熟考する余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

「しかし!こうも脚の早い戦車だと追い付かれて包囲される!少しは交戦するぞ!」

「分かりました!扶桑陸軍の歩兵操典を見せて差し上げますよ!」

「伝統の扶桑陸軍の白兵戦か?見物だな!」

 

 

 

 

 

 

小野里が勇の軽口に乗っているあたりを見るとまだ状況は悲観的ではない、危機的ではあるが。勇は振り返り銃を構える。その間に小野里は荷物から銃剣を取り出しそれを取り付ける。勇はその様を見てまさかと思う。

 

 

 

 

 

 

「まさか戦車に刃物で立ち向かうつもりじゃあるまいな?」

「そのまさかですよ。貝を開くのにはこれが一番です!」

「まったく扶桑陸軍のドクトリンの改善を願わんばかりだな・・・いけっ!援護する!」

 

 

 

 

 

 

白襷を付けた小野里が木の陰から走り出す。それを援護する勇は、敵戦車に向かって目隠しをするように戦車の手前を盛大に爆撃する。土煙が辺りを包んだ時、戦車の目の前には小野里が突っ込んできていた。戦車兵はその異様な光景に一瞬怯んでしまう。その一瞬という時間が命取りだった。

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 

 

 

 

 

 

魔法力が込められた銃剣は四号戦車に突き立てられ穴を穿たれる。その隙間から中の戦車兵が怯えた顔を覗かせ、小野里は不気味な笑顔でそれに応える。

 

 

 

 

 

 

「御機嫌よう!戦車兵の包焼きはいかがですか?」

 

 

 

 

 

 

そう言うと小野里は弾丸を発射する。見る見るうちに戦車が燃え上がり、戦車が内側から火を噴く。後退する小野里を援護する勇は、次の戦車へ狙いを定め狙撃を開始する。小窓や車長の覗き窓に弾丸が打ち込まれ、敵は容易に外を把握できなくなっていた。また、森と言う地形が二人に有利に働き、素早く動く勇たちに狙いが定められずにいた。

 

 

 

 

 

 

「小野里!徹甲弾の予備はあるか?!」

「対空機銃用の弾丸で良ければ!」

「それでもいい!そろそろ敵も数で押してくるはずだ!後退するぞ!」

 

 

 

 

 

 

勇はじりじりと後退しつつ、敵の様子を窺う。すると、勇が予想した通り敵が三方向に別れ左右を取り囲む鶴翼の陣形を形成し始めた。これでは攻撃力を分散され効果的な迎撃ができないと判断した勇は後退を告げる。しかし、勇たちを襲うのは戦車ではなく砲弾と言う科学力だった。

 

 

 

 

 

「敵一斉に発砲っ!これは?!」

「くそっ!白燐弾だ!」

 

 

 

 

 

 

白燐弾とは、砲弾内部に主成分をリンとした燃焼剤が込められたもので、徹甲弾とは違いその用途は高温で消すことのできない火の粉で敵を間接的に殺す殺戮兵器である。これはネウロイに対して一部有効な兵器として利用されていたが、人道的観点から排除される予定のいわば禁止兵器であった。

 

 

 

 

 

 

 

「小野里気を付けろ!四方で飛び散った燐が付着したら大やけどだ!木を盾にして身を守れ!」

「敵さん確かに戦闘のプロですね。敵が人間と言うだけでここまで効果的な戦術を持ち出してくるなんて・・・」

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーとその兵士たちのよく訓練された戦術に勇たちは臍を嚙む。そして、戦況を確認するために辺りを確認すると遂にアルデンヌの森の出口を見つけるに至る。

 

 

 

 

 

 

「仕方ない、森を抜けよう!」

「平野部では戦車の格好の的です!」

「それが目的だっ!ついてこい!」

 

 

 

 

 

 

勇が強引に小野里を連れると、平野部が広がっていた。遠くにマジノ線の先端が見え、勇はそこに向かって走り出す。それに呼応して戦車部隊もアルデンヌの森から姿を現す。勇たちを追い回す様に迫りくる戦車部隊は恐怖の対象そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!このままでは鴨撃ちです!」

「耐えるんだ!ここで騒げばきっと協力が取り付けられる!だからそれまで耐えるんだ!」

 

 

 

 

 

 

砲撃が苛烈になる中、勇と小野里は走り続ける。勇の渾身の攻撃は大爆発を起こし、戦車と砲撃の土煙はもうもうと立ち込め、それはマジノ線でも確認できるほどだった。

 

 

 

 

 

 

「ガムラン大将!報告します!現在マジノ線北端で正体不明の部隊が戦闘状態の模様!大きな爆発も確認できます!」

「なんだと!?ネウロイが攻めて来たとでもいうのか!?よしっ!マジノ線の力を見せてやるわい!」

 

 

 

 

 

 

マジノ線司令官のモーリス・ガムラン上級大将は報告を聞き、即座にマジノ線全部隊に臨戦態勢の警報を発令した。一方、勇は小野里とともに走り続けていた。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!先ほどから威嚇射撃ばかりで敵を倒してはいないように見えるのですが?!」

「これも俺のエゴだ!なるべく人は殺したくない!俺たちはあくまで人間であり、人間が人間を殺し合うような事態は極力避けたいと考える!」

「随分と楽観的な考えで気持ち悪いです!今まさに殺されかけている現状、そんなお花畑な考えは捨ててください!」

 

 

 

 

 

 

小野里の指摘に勇も心が揺れかけるが、勇の心は決まっている。最小限の犠牲で、人の命を全て刈り取ることのできる実力があろうと、勇はその実力を行使しようとはしなかった。そんな考えに憤る小野里は、勇にある事実を伝える。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!進路北西から新たな集団を視認!もしかしてあれは・・・」

 

 

 

 

 

 

小野里の視界の先には黒い固まりが群れを成して勇たちに接近していた。その集団は音楽を奏でながら死の雰囲気を齎そうとしていた。その先鋒にはある人物が大きな戦車の上に仁王立ちになりマイク片手に声を張り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「世界に破滅を齎す悪鬼羅刹め!我ら戦車大隊、オットマイヤー戦車団に轢き殺されろ!全隊パンツァーカイルを取れ!ワーグナー大尉、音楽を大音量で鳴らせ!」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーの主力部隊がなんと勇の進行方向から現れたことに目を奪われる。なんとオットマイヤーは別動隊として軽量な戦車部隊をアルデンヌに配置させ、主力級の戦車部隊はカールスラント西方方面から全速力で南下させていたのだった。そして、部下のワーグナー大尉に指示して鳴らした音楽は、カールスラント軍戦車部隊で歌われる『パンツァーリート』だった。軽快でかつ重厚な男たちの歌声は、勇と小野里の進行方向を邪魔するように包み込む。

 

 

 

 

 

 

「小野里!俺は奴らの攻撃を防ぐ!お前は追手を無力化してくれ!」

「まだそんな悠長な・・・ああもう!分かりました!背中は預けます!」

 

 

 

 

 

 

小野里のやけくそな態度に勇は苦笑しつつ、オットマイヤーの攻撃に備える。すると、オットマイヤーの乗る戦車から88mm砲が射出される。アハトアハトは、戦車の中では最大級の攻撃力と貫徹力を持ち、連合軍の中では最強威力の攻撃と言ってよかった。その攻撃力を勇は全力のシールドで防ぐ。手にかかる圧力と貫徹力は想像以上であり、勇は思わず声が漏れる。それを見てオットマイヤーは口角を上げる。

 

 

 

 

 

「フハハハハハ!あれを防ぐか化け物め!それならば全戦車で一斉攻撃だ!次弾装填急げぇ!!」

 

 

 

 

 

 

勇は大きく乱れた呼吸を整えながら小野里に事態の危険性を訴える。

 

 

 

 

 

 

「小野里、こいつはちとまずいな」

「まずいじゃありません!どうしますか?!今からでも506に泣きつきますか?!」

「間に合わない上に今応援を頼むと彼女らに余計な争いに巻き込みかねん。その案は廃案だ」

「じゃあどうすれば!」

 

 

 

 

 

 

勇は小野里の困窮する声に思考を巡らせる。そして、砲撃が勇たちに狙いをつけ始めた頃、遂に決断を下す。一人オットマイヤーに向き直ると銃を構え魔法力を込める。それを見つめる三人は一斉に疑問を口にする。その三人は小野里、敵対者のオットマイヤー、そして目の前でなぜか繰り広げられる戦闘を見せつけられ困惑するガムラン大将だった。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐、どうする気です?!」

 

「とち狂ったか!雑多な小火器ではこのティーガー戦車の装甲は貫けんぞ!」

 

 

「一体どうなっておるのだ!どうして戦車部隊と少年が戦闘しておる?!だれか説明せい!!」

 

 

 

 

 

 

三人の主張は一様に違ったが、その視線の先には勇がいたことに変わりはなかった。そして、勇はその咆哮を轟かせる。それは一発の銃声だった。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなすまない・・・」

 

 

 

 

 

 

勇の放った銃弾は、オットマイヤーの戦車部隊を通りぬけ、遥か彼方の土地に着弾し爆炎を上げていた。それを見てオットマイヤーは気をよくして笑い声を高鳴らせる。

 

 

 

 

 

 

「ガハハハッ!臆したか赤松勇中佐めっ!どこを狙っている!威力こそ凄まじいが、今度は我々の番だ!ワーグナー大尉、攻撃を始める・・・」

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーの声は、次の瞬間の爆撃音によってかき消される。その爆音はどの砲爆撃よりも大きく、激しかった。地面が揺れ、着弾した穴の大きさがその効果を物語っていた。それを見た全ての人物が口を開けて驚愕した。特に、マジノ線の中にいるガムラン大将の一言は後の戦史に残る一言だった。

 

 

 

 

 

 

「マジノ要塞、これより敵と交戦す」

 

 

 

 

 

 

全員の目線の先には一門の砲を付けた大型のネウロイが狙いを定めていた。それを見たオットマイヤーはある兵器を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・カール自走臼砲か!」

 

 

 

 

 

 

 

カール自走臼砲とは、その口径600mmの大口径自走臼砲であり、対マジノ要塞ともいえる威力を発揮する兵器だった。かつてカールスラントが大型ネウロイに対して開発した経緯があり、その強大な巨体と重量の取り回しに開発は断念された兵器でもあった。それが今しがた目の前に出現した事実に誰もが唖然としたのは言うまでもなかった。ネウロイを呼び出した張本人である勇ですら苦笑いを堪えられないほどだった。

 

 

 

 

 

「まさかあんな大物が出てくるなんて・・・さすがは俺だな」

「もう勇中佐のことが嫌いになりそうです・・・」

 

 

 

 

 

 

小野里の陰口もそこそこに、カール自走臼砲型ネウロイとその取り巻きの陸上戦力はマジノ線に向かって進軍を開始していた。それに呼応してマジノ要塞全線で砲門が開かれ、オットマイヤー戦車大隊は混乱に陥った。

 

 

 

 

 

 

「オットマイヤー大隊長!!敵が我々の後方に展開しています!どうかご指示を!!」

「・・・はっ!我々の目標は赤松勇中佐であってネウロイではないぞ!」

「しかし!このままでは赤松勇中佐を仕留める前に我々が全滅です!どうかご再考を!!」

 

 

 

 

 

 

部下のワーグナー大尉がオットマイヤーを諫めようと必死になるが、オットマイヤーは小野里の情報通り戦闘狂だった。

 

 

 

 

 

 

「よし、決めたぞ!我々の部隊を一時結集!結集の後部隊を二分する!」

「はっ!目標はネウロイでしょうか?!」

「いや、一部隊を副長のヴィットマン少佐に一任し、我々は全力を持って赤松勇中佐を倒す!」

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーは部隊をネウロイ迎撃に当て、自分らは勇を追うことを決定した。その顔はまさに音楽に乗った指揮者のようであり、一層パンツァーリートを響かせていた。そして、改めて狙いを勇に定めると部隊に号令をかける。

 

 

 

 

 

 

「パンツァーフォー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

勇と小野里は迫りくるネウロイの軍団に隠れてこの場を後にしようとしていた。自分の行いの結果、新たな戦線を形成してしまったことに心を痛めるも、ここは人類の存亡をかけた自分の任務を優先することにしたのだった。しかし、勇たちに執拗に固執するオットマイヤーの88mm砲が勇のシールドに着弾する。黒い肌が顕になった勇を目撃するマジノ線のガムラン大将は、その光景にまたも衝撃を受けて遂に壊れてしまう。

 

 

 

 

 

 

「み、見よ・・・あやつが、あやつが敵をおびき寄せたのだ・・・全部隊、照準の一部を奴に、いや、あのネウロイに!!」

 

 

 

 

 

 

ガムランが見た光景は、勇に着弾した戦車砲を素手で受け止める勇の姿だった。その左手を突き出し、黒々と幾何学模様を晒す勇は、混乱したガムランにはネウロイにしか見えなかった。その光景は、後に戦史の一部としてこう名付けられる、『マジノ要塞攻城戦』と。ここに勇を囲う三方向の敵勢力の攻防が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!まずいです!なにやらそこかしらから敵意が向けられています!」

「・・・さすがにやり過ぎたか。小野里、悪いが頼まれてくれるか?」

「もう諦めました。あなたの言う通りにしないとどの道お陀仏です。早く行ってください!」

「悪いな・・・」

 

 

 

 

 

勇は小野里の頭を撫でてやると、意を決して銃を構える。その銃口はネウロイだけを向いていた。そして、再度魔法力を込めネウロイを爆撃する。

 

 

 

 

 

 

「小野里、お前は防御だけに専念しろ。俺はここで固定砲台となって敵を跳ね返す」

「まったく嫌な作戦です。あなたでなければ真っ先に逃げ出していますよ」

 

 

 

 

 

小野里は普段は情報将校であり、その実は遊撃戦を主に得意としているため、こういった本物の戦闘は初めてだった。しかし、規格外な勇という存在が小野里の思考を麻痺させていた。銃弾や砲弾が飛び交う中、勇は他の一切の攻撃を無視してネウロイだけを迎撃していた。そのことに憤る人物がいることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「あの野郎!俺たちを無視してネウロイを攻撃か!舐められたものだな!全車奴に向かって攻撃開始っ!カール自走臼砲型ネウロイの砲撃に注意せよ!」

 

 

 

 

 

 

そして、マジノ線でも同様に混乱が見られていた。司令官のガムランにも報告が届けられるが、刻一刻と動く電撃戦に思考はまとまらなかった。

 

 

 

 

 

 

「報告しますっ!現在自走砲型ネウロイの攻撃により第8砲塔群が壊滅!」

「こちら11要塞支部、敵と思われる人型の物体に動きアリ!ネウロイに向かって攻撃をしています!攻撃を続行してもよろしいですか?!」

「・・・分からん、分からん分からん!!!一体全体どうなっているのだ!我々は一体何と戦っているのだ!あの戦車部隊は?!あの人型ネウロイは!あの巨大砲塔のようなネウロイはなんなのだ!?とにかく正体不明の戦車部隊が人型のネウロイに攻撃をしている以上、我々も加勢する!攻撃を開始せよ!」

 

 

 

 

 

 

ガムランの命令により、マジノ線の一部である第11要塞はその38cm戦艦主砲を流用した砲を勇に向ける。その砲を見た小野里は緊張と共に勇に伝える。

 

 

 

 

 

 

「マジノ要塞砲門の一部がこちらに指向中!あれは戦艦砲です!やばいです!!」

「分かった、そちらも対処する」

 

 

 

 

 

 

勇は限界まで銃をマジノ要塞に向けないように注意した。小野里がびくびくする中、近くにオットマイヤーの戦車砲も着弾し、カール自走臼砲型ネウロイの大口径砲弾も付近に着弾する烈風雷下の中、勇は神経を集中させる。そして、遂にマジノ要塞の38cm砲弾が勇と小野里に向けて発射された。

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

 

 

 

勇は発射された瞬間、小野里を地面に伏せさせ、自分も姿勢を低くしてシールドを少し傾けて展開する。すると、戦艦の主砲弾は浅い角度で勇のシールドを滑る。そして、その主砲弾はそのままカール自走臼砲型ネウロイの下へと飛び、着弾する。

 

 

 

 

 

 

「まさか、戦艦の砲弾を跳ね返すだなんて・・・」

「小野里!ここはまずい!移動するぞ!」

 

 

 

 

 

 

勇が目を丸くする小野里の手を引っ張った瞬間、意識が暗転する。カール自走臼砲型ネウロイの砲弾が付近に着弾したのだった。耳鳴りが自分の感覚を乱す中、勇は小野里の姿を探す。

 

 

 

 

 

 

「小野里!小野里大丈夫か?!」

 

 

 

 

 

 

小野里の姿を探すと、小野里は爆風で吹き飛ばされ土の中に身体の半分が埋もれている状態で気を失っていた。戦車や砲爆撃が近づく中、勇は小野里の頬を叩いて起こそうと試みる。しかし、小野里の意識は一向に戻らず、その心音も聞こえてこなかった。

 

 

 

 

 

「くそっ!起きろ!寝ちゃだめだ!」

 

 

 

 

 

 

心肺停止の深刻な状態の中、勇は脳裏に浮かんだ死と言う文字がちらつく。その言葉を振り切るため、勇は賭けに出る。自分の魔法力を練り上げ、その循環速度を限界まで引き上げる。勇の魔法力は急速な流れにより電流が発生する。その電流が一定値以上溜まった所で、小野里の胸に流し込む。すると、小野里の体はビクンと跳ね上がる。その瞬間、小野里は勢いよくせき込み、蘇生に成功する。勇は胸を撫で下ろし、小野里に少しの休養を伝える。

 

 

 

 

 

 

「小野里、お前は少しここで休んでいろ。ここからは俺が何とかしてみる」

「ゲホッ!何とかって・・・?」

「なんとかだ」

 

 

 

 

 

 

そう言うと勇は一人爆音の中立ち上がる。未だ砲火が絶えない戦場で、勇は立ち尽くす。機銃や砲弾が勇を掠める中、勇はネウロイの大群に向かって走り出す。誰も彼もを一身に惹きつけて走り出す姿は、敵味方すら魅了させるような光景だった。ただ、猛烈な爆音だけが木霊する戦場でただ一人の雄たけびが一際目立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。マジノ線は一度は活躍してほしかった浪漫のある舞台でしたので、満を持しての活躍です。よかったねマジノ要塞!そして、小野里の心境の変化やこれからの絡みもご期待ください!

時代考証的に考察が甘いところがあると思います。ぜひコメントしていただけると幸いです。マジノ要塞の司令官、ガムラン上級大将はウィキペディアなどを参照した人物であり、私の多分な思い込みで存在しているキャラクターです。また、作中のオットマイヤー戦車団の副長であるヴィットマン少佐は、第二次世界大戦でドイツ親衛隊の戦車兵です。撃破数は戦車138輌、対戦車砲132門と最も多くの戦車を撃破した戦車兵の一人です。次回以降彼も活躍してもらいますのでご期待ください!
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