ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さんお久しぶりです。

今回はマジノ線を舞台に繰り広げられる戦闘がメインのお話となっています。浪漫の詰まった兵器だらけの回ですのでお楽しみください!


不滅の翼 第二話

勇はこれ以上小野里に被害が及ばないよう、またこの三すくみの状態から脱するためカール自走臼砲型ネウロイに向かって走り出していた。接近することにより、自走臼砲という特性上、俯角が足りず攻撃が当たりにくいと考えての行動だった。しかし、背後からは戦車砲と要塞砲が絶え間なく勇の付近を耕し、ネウロイもまた勇を攻撃していた。それでも勇はネウロイだけを目指して走り続けた。それを見たオットマイヤー戦車団の副長であり、ネウロイとの戦闘を引き受けていたヴィットマン少佐が興奮気味に声を上げる。

 

 

 

 

 

「あれが噂の長官殺しか!ネウロイと我々相手にあの大立ち回り!面白い・・・面白いぞ!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの興奮度にいつもの戦車兵たちは無表情ながらも、その意見に同意する。ヴィットマンはオットマイヤー戦車団の副長にして、戦車兵の中でも非常に優れた指揮官でもあった。そんな彼が手放しに褒め称える勇の存在は、同僚の彼らからしても異様でありかつ賞賛に値した。既に3匹のネウロイを撃破していたヴィットマンだったが、勇は既に5匹のネウロイを撃破していた。そんな勇にヴィットマン一同はなにか戦友のような感情を抱いていた。

 

 

 

 

 

「よし決めたぞ!我々は独断専行をとる!」

「また副長の無茶が始まった・・・」

 

 

 

 

 

ヴィットマンの衝撃発言は今に始まったことではなく、同僚の兵士たちにとってヴィットマンが今何を考えているかはなんとなく察せられていた。

 

 

 

 

 

 

「これより我々は赤松勇中佐を援護する!」

「オットマイヤー大隊長に叱られますよ」

「大隊長なら分かってくれるさ!行くぞ!」

「はいはい分かりましたよ」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンが勇に手を貸すことを決めた時、勇は新たな敵を屠ったところだった。殻になった弾倉を手慣れた手付きで取り換えると、走ったまま魔法力を込めた弾丸をネウロイに叩きこむ。そろそろネウロイに白兵戦を挑める距離になったが、後方からの攻撃は勇を狙い続けていた。

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・・敵の中に潜り込めば同士討ちができると思ったんだが・・・思ったよりキツイ!!」

 

 

 

 

 

 

かなりの距離を走ったが、両方向からの攻撃に勇の体力と精神力はかなり消耗させられていた。何発かは至近弾となり、破片などが至る所に裂傷を作っていた。病み上がりの勇からすればここらで休息を取るなりして、今後の行動に備えるつもりだっただけに息も上がってしまっていた。目の前のネウロイですら厄介なのに、後方からも無視できない攻撃に晒されている事実は勇に大きく伸し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!なんとか戦線に穴ができないものか・・・ん?あれは?」

 

 

 

 

 

 

勇が見た目線の先には突如としてネウロイの進行が遅れている部分があった。そのネウロイは勇に目線が行っておらず、誰かが意図的に勇を支援しているような攻撃だった。勇がその部隊に目をやると、戦車の一部隊に中央で指揮官らしき人物がライトを持って勇に発光信号を送ってきていた。

 

 

 

 

 

 

『ワレニツヅケ テキヲタオセ』

 

 

 

 

 

 

この言葉を受け取った勇は玉粒ほどの滴る汗を拭うと密かに笑った。誰も彼も勇の支援者などいないと思った戦場に、まだ志を見失わない人間がいたことが嬉しかった。勇はもう一度地面を強く蹴ると、その戦線に向けて攻撃を繰り出す。その攻撃はネウロイの不意を突いた攻撃となり戦線の一部があっという間に崩壊する。それを見たヴィットマンは嬉しそうに部下に報告するのだった。

 

 

 

 

 

 

「見たか今の攻撃!一撃でネウロイ3体を貫いたぞ!」

「分かりましたからあまり身体を外に出さないでください!」

「分かってるが目が離せんのだ!彼には魅力がある!さあこれからどうしてくれるのだ!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの興奮が冷めやらぬ中、勇とヴィットマンの共闘を目撃したマジノ要塞の指揮官であるガムラン大将はさらに頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

「今度は戦車部隊と共闘だと?!敵ではなかったのか?!ネウロイはここを攻略しに来たのではなかったのか!!?」

「司令!例の戦車部隊との通信が繋がりました!」

「おう!して、どこの部隊なのだ?!」

「それが、連合軍の特殊作戦師団の一団とのことで協力を要請して来ています!」

 

 

 

 

 

 

混乱を極める中、齎された情報の有難みに感謝するガムランは、急いで今後の指示に頭脳を活用する。優秀な頭脳は的確な判断を下すために、部下からひったくるようにして珈琲を流し込む。その苦みと芳醇な香りが思考を明瞭にさせる。

 

 

 

 

 

 

「・・・我々の敵はネウロイだ。今危機にある最大の敵は、あの自走臼砲型ネウロイだと判断する。よって、我の全力をやつに向けるべきだ」

「では、あの人型ネウロイは?」

「敵の敵は味方・・・やもしれん。今は歴史の判断を待つとしよう・・・私が、この戦いの英雄となるか、愚者となるかのな」

 

 

 

 

 

 

腹の決まったガムランの指示は速やかに実行された。全ての砲門はネウロイに向けられ、勇への攻撃はなくなった。これにより勇の行動は一層洗練され、カール自走臼砲型ネウロイへの突破口を見つけるに至る。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・やつの防御力は仲間のネウロイがカバーしているというわけか。なら!」

 

 

 

 

 

 

 

勇はカール自走臼砲型ネウロイの弱点を見つけほくそ笑む。勇の見た光景は、カール自走臼砲型ネウロイの脚部だった。大きな砲を支えるために肥大化した頭部を支えるのには些か不釣り合いの下部は、細く、脆弱だった。その不足を補うべく、周囲には強力な攻撃力を持つネウロイを侍らせていた。勇はヴィットマンが搭乗する戦車に目線を送ると、了承の手信号が送られてくる。それを見て勇は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「この攻撃はどうだ!」

 

 

 

 

 

 

 

勇の攻撃はカール自走臼砲型ネウロイの取り巻きを一斉に惹きつける。勇に攻撃が集中する頃、こちらもまた一斉に攻勢に転じる部隊があった。もちろんヴィットマンである。

 

 

 

 

 

 

 

「この機会を生かせ!パンツァーフォー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの号令で一斉に列をなして突撃する戦車は壮烈だった。よく訓練の行き届いた戦車兵は確実にカール自走臼砲型ネウロイに攻撃が集中していた。しかし、それでも分厚い装甲に覆われた頭部はびくともしなかった。その上、ヴィットマンたちの襲撃に気づいた取り巻きのネウロイが、今度はヴィットマンらに向けて砲を指向させ始めていた。

 

 

 

 

 

 

「やらせるか!」

 

 

 

 

 

 

勇がヴィットマンらを守るため援護射撃を行う。有機的に連携の取れた勇とヴィットマンらの攻撃はカール自走臼砲型ネウロイ本人にも看過できない事態だった。悲鳴のような奇声を上げたかと思うと、なんと取り巻きのネウロイに自分の脚部を攻撃させ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「なにをしているんだ・・・まさか!?」

 

 

 

 

 

 

勇の予想はあまりにもネウロイらしいものだった。なんと、自分の脚部を破壊させたことにより前傾姿勢となったカール自走臼砲型ネウロイは、その俯角を最大限まで下げ、周りの仲間ごと吹き飛ばす算段だった。それに気づいた勇は急いでヴィットマンの乗る戦車に走った。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだなんだっ!?」

「すまないが少し貸してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

口早に了承も足らずにヴィットマンの隣に乗り込む。中の戦車兵も目を丸くする中、当然のように指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「砲を右に15度、仰角をあと3度上げてくれ!」

「は、はい!」

「何をしようと言うんだ?我々の砲撃力じゃあの巨体は貫けんぞ!」

「だから俺が撃つんだ!」

 

 

 

 

 

 

勇は砲塔が回るのを確認し、ネウロイからの攻撃をシールドで防ぐ。目の前で防がれる攻撃にヴィットマンも汗を流しつつ、勇の行動を信じて待つ。勇は自分の魔法力をティーガー戦車に流し込む。その88mm砲では普通の威力でも、勇の究極まで洗練された魔法力をもってすればその威力は未知数だった。しかし、勇自身今日一日に使用した魔法力が限界値であり、これが最後の一撃であることが分かった上での行動だった。

 

 

 

 

 

 

「照準よしっ!」

「かませっ!赤松中佐!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの声で勇は引き金を引く。その瞬間、今までに体感したことのない砲撃の反動にヴィットマン含め全員が耳や目を覆う。おおよそ人知を超えた威力に開いた口が塞がらないヴィットマンを他所に、勇はネウロイとの戦闘の終了を宣言する。

 

 

 

 

 

 

「状況終了・・・」

 

 

 

 

 

 

外では未だにキノコ雲がカール自走臼砲型ネウロイの残骸を燃やしていた。それに伴い取り巻きのネウロイも光の屑となり消滅していく。そして、勇もまた全身の力が抜けて椅子にもたれ掛かる。外の光景からようやく現実に目を向けることができたヴィットマンがそんな勇の肩に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

「貴官と戦闘を共にできたことを誇りに思う」

「でも、君らと俺は敵同士だ。これからどうする?まだ俺と戦うかい?」

 

 

 

 

 

 

疲労感でいっぱいの勇の言葉にヴィットマンは笑って言葉を返す。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、次の機会まで取っておこうと思う。君は我が戦車が必ず討ち取らせてもらいたい」

「ふっ、首を洗って待っていろということか。君のような清々しい軍人が多ければいいのだがな」

 

 

 

 

 

 

 

勇はヴィットマンと握手すると戦車の外に出る。極度の疲れから来る震えに耐えながら地面に足を下ろす。そして、残してきた小野里の下へと歩みを進めるのだった。そして、ちょうどその頃別部隊として行動していたオットマイヤーがヴィットマンの下へ到着した。オットマイヤーは行く手を阻むネウロイにより、勇への攻撃がおろそかになっていたため到着が遅くなってしまい、ヴィットマンらの行動に酷く憤慨していた。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐!あれは一体どういうことだ?!説明しろ!」

「はっ!大隊長の指令通り、ネウロイを迎撃しておりました!」

 

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーは部下のふてぶてしい態度にたまげながら、優秀な副長の説明を詳しく聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「詳しく頼む」

「はいっ!我々はネウロイと交戦中、目標の赤松勇中佐を発見しました。しかし、彼は無意識に我々に接近し、我々は戦術的観点から彼の助力をしているように見えただけであります!よって、我々が彼に協力したのではなく、彼が我々に協力した、と言うのが事実であります!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンは汗一つかかずに、当然のように言い放ったためオットマイヤーは笑いをこらえて話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど面白い・・・だが、最後の戦闘は見過ごせないな。赤松中佐が貴官の戦車に乗った所はどう説明する?」

「それは私が抗議したい点であります」

「抗議?私にかね?」

「はい!我々への指示はあくまでネウロイの迎撃であり、赤松中佐の攻撃は指示の範疇ではありません。なのに彼は我々の戦車を『乗っ取り』、我々の指揮系統に重大なる混乱と障害を齎しました!よってこれらの責は私ではなく、大隊長にあると愚考します!」

 

 

 

 

 

 

 

自分への命令は忠実に果たしと、むしろ抗議してくる姿勢にオットマイヤーは遂に笑いを堪えきれなくなった。ヴィットマンに目線をやると、ヴィットマンも自分の考えが分かったのかほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「貴官の痛烈な意見表明は確かに受け取った。これらは私の責任であると判断する。まったく忠誠心の強い部下は厄介なものだな!」

「はい、それが我らの誇りでもありますから」

「貴官がそれほど言うのだ。彼との戦いはさぞかし愉快なのだろうな?」

「はい、それは私が保証致します」

「お墨付きというわけか・・・フハハハハハ!面白い!奴とはまた会える。引き上げるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

オットマイヤーの言葉により、彼の戦車大隊は一時撤退を開始する。そして、時を同じくしてマジノ要塞の中では戦闘の終了に心を撫で下ろすガムランの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったのか・・・あの人型のネウロイと思しき青年は?」

「現在、砲撃跡にて人命救助に当たっているとのことです」

「奴は一体何者だと言うのだ・・・」

「まだ我が要塞の損害は軽微です。今なら奴を攻撃できます。やりますか?!」

 

 

 

 

 

 

 

部下の鼻息の荒さを感じつつ、ガムランは恐れていた。先ほどの戦闘を見た者なら理解できたのだろうが、勇と言う存在の強さは尋常ではなかった。三方向からの攻撃にも関わらず、目標に固執し、このマジノ要塞の攻撃を無視するほどの存在が見た目青年である人類に居てはならないと思ったからだ。しかしながら、このマジノ線は然程戦闘経験を積まずに隅で埃を被っていた金食い虫と呼ばれ蔑まれていた。そんな要塞の力を内外に見せつけることのできる最良のタイミングでもあった。ガムランの内心は大きく揺れていた。その時、ガムランの脳裏には勇の展開したシールドが過っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃は一時中断だ!付近のウィッチ隊に連絡を取れ!506のセダンには緊急要請!不測の事態に備え支援を要請するのだ!」

「了解しました!!」

 

 

 

 

 

 

動き出す部下を尻目にガムランは自分自身の判断の優柔不断さに苛まれていた。確かに勇の左腕はネウロイの模様があり、人類には持て余す力が備わっていた。それにもかかわらずウィッチの力という一筋の希望が拭えなかった。だから同じウィッチの力に頼ったわけだが、ガムラン自身このマジノ線をもってしても勇を倒せる未来を描くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「私も老兵になったということか・・・去り行く老兵はただ消え行くのみだな」

 

 

 

 

 

 

 

電撃戦と言う新たな戦法に順応できず、勇と言う存在に勝てないという事実を受け入れてしまったガムランは、自分自身の軍歴に自ら幕を引くことを決意したと後年語る。それを表す様に、この報告を聞いたとある三つの部隊から返信があった。一つは支援に駆けつける506部隊である。

 

 

 

 

 

 

 

『彼は我々の戦友であり、貴族位を持つ人間である。彼の名は赤松勇。攻撃の必要なし』

 

 

 

 

 

 

 

もう一つの部隊は、かつて勇が所属していた501部隊からのものだった。必死に勇の消息の情報を収集しており、この報告に食い気味で連絡を寄こしてきていた。内容はおおよそ506と同じでありながら、情に訴える内容の返信はガムランの心に響いたと言う。そして、最後の返信は連合軍特殊作戦局と名乗る部隊からだった。返信の内容はこれらの部隊とは正反対のものであった。

 

 

 

 

 

 

 

『今すぐ敵を捕縛せよ。その敵は人類を破滅に導く存在である。生死を問わず断固たる攻撃を加えよ。今後さらなる情報を求む』

 

 

 

 

 

 

 

敵という単語にガムランの胸はざわめくが、先ほどまでの戦闘の光景が目に焼き付いていた。最終的に判断を下すのは自分自身であるが、どちらの意見も信用に足る発信元であるだけに、矛盾のある指示内容にさらに混迷を極めるガムランだった。そこでガムランは驚くべき考えに行きつく。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・奴に会いに行こう」

「司令官!非常に危険です!司令官自ら行かずとも!」

「いや、私の目で真実を見なければならん!何が本当で何が起こっているのか!」

 

 

 

 

 

 

ガムランの言葉に部下もやむなく同意する。護衛の兵士を連れて行くことで了承し、ガムランは要塞を出る。外では覚束ない足元で、ゆっくりと小野里を運ぶ勇の姿があった。勇もガムランたちに気づいたのか、一度立ち止まる。勇の疲労感のあるが険しい表情を見ながら、視線を勇の左腕に移す。そこには紛れもなくネウロイの模様が浮かんでいた。ガムランは乾く喉を生唾でなんとか潤し言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

「私はこのガリア共和国マジノ線の司令官のガムラン上級大将である。貴官は・・・どっちだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

ガムラン自身も拳銃を勇に向けて解答を待つ。震えそうな身体を何とか抑えつける。背後の部下もこの緊張感が伝わったのか殺気立っていることがわかるほどだった。そして、その殺気を向けられている本人は、その殺気にも動じず、眠る少女を起こさないように静かな声で返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「味方・・・・だと信じています」

 

 

 

 

 

 

 

短い返答だった。ただ、その含意は広くガムランの意図に沿うものではなかった。しかし、ガムランは勇の目を真っすぐ見つめる。その瞳は酷く疲れていたが、どこか温かみのある瞳だった。見た目成人もしていなそうな少年が醸し出せる雰囲気ではなかったが、ガムランは全ての質問の意図に対して結論を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「二度とここへは来るな・・・次来た時は敵だと見做す」

「・・・了解いたしました」

 

 

 

 

 

 

そう言うと勇は小野里を抱えて歩き始める。ある程度距離が離れたことでようやくその場に緊張の糸が緩まる。後ろの兵士のため息が聞こえるが、ガムランの心の鼓動は未だに強く鳴り続けていた。普段は汗一つかかずに指示することのできる猛将と謳われたガムランだったが、人生初めて本能的に恐怖を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれは敵ではないが・・・将来的な敵となり得るかもしれん。私の行いはまたも間違えたのかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

そう呟く声はマジノ要塞の重厚さがかき消してくれたことに感謝した。一方、勇はようやく得た平穏な時間に小野里の介抱していた。確認できただけでも小野里の体には骨折が2か所、裂傷が7か所と重症だった。しかし、自分で治癒魔法をかけているのか大丈夫だと弱々しい声で呟くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「私は大丈夫ですから・・・勇中佐は次の目標まで休んでいてください」

「バカ野郎、お前にはこれからも頑張ってもらわないといけないんだ。しっかり看病されるんだな」

「・・・分かりました。でも、また無茶をさせてしまいましたね。すみません」

 

 

 

 

 

 

小野里の目線の先には勇の左腕があり、その黒い変色域は前に見た時よりも侵食しており、今は肩まで完全に侵食されていた。どのような弊害があるのか分からないが、小野里の直感では勇の心や体に大きな変化が現れるのではないかと言う漠然とした不安が募るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「気になるよな、こんな腕。そんなに心配はいらないぞ。特に悪さはしていないからな」

「そうですか。それならいいのですが、やはりその腕を見た人は今回のように誤解します。どうにかして治さないと・・・いけません・・・よね」

 

 

 

 

 

 

小野里はそう言うと重い瞼に押されて眠ってしまった。勇はそんな小野里を見て自分も休むことにする。小野里の言う通り、変色域が拡大していることは勇にとっても喫緊の課題でもあった。それは周りの人間に余計な誤解を与えてしまうことを防ぐこともあるが、なにより最近になって自分の魔法力の体系が変化しているような感覚があったからだ。明らかに威力のおかしい攻撃が放てたり、思考が混濁することが稀にあった。完全にネウロイ化による副反応だと思われ、これ以上の浸食は精神の汚染にも繋がるため何とかしたかった。勇は自分の左腕を眺めながら小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

「俺は一体何なのだろうな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

一方、オットマイヤーからの報告で勇を取り逃がしたことを聞いたアイヒマンは憤りを隠せなかった。机を強く叩くと置いてあった珈琲カップが倒れてしまったほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの戦闘バカ!マジノ要塞の協力もあったと言うのに何をしているんだ!・・・ふう、落ち着け・・・オーデンドルフはいるか」

「はい、アイヒマン局長代理どうかされましたか?」

「オットマイヤーのバカは役に立たん。フランクフルトの原爆の護衛部隊を増強しろ」

「現在、アインツ・シュベルマン中佐の歩兵連隊の内2個大隊を張り付けていますが足りませんか?」

 

 

 

 

 

 

オーデンドルフの進言にアイヒマンは頭を抱える。部下のオーデンドルフは親衛隊内の経済管理責任者であり、その情報収集能力や経済管理には秀でているが、こういった軍事部門には疎かった。だからこそそこまで怒りをぶつけることなく、極めて冷静に指摘する。

 

 

 

 

 

 

「いいかオーデンドルフ。マジノ要塞とオットマイヤーの戦車1個師団でも止められなかったんだぞ?今、フランクフルトの原爆を止められたら作戦の進行上極めて重大な障害になる」

「ですが現在連合軍は一大反抗作戦を終え、その戦力は分散しつつあります。特にカールスラント南部は未だネウロイの支配領域・・・あそこに配置するにはリスクが大き過ぎます」

 

 

 

 

 

 

オーデンドルフの指摘にアイヒマンは自分の作戦の意図が掴まれていないことへの逆説的な肯定に愉快になる。その笑いに頭を傾げる部下にアイヒマンは不気味な笑顔を張り付けて回答するのだった。

 

 

 

 

 

 

「だからいいのだ・・・降下猟兵部隊のコーエン・ケッセルリンク少佐に連絡。作戦名『長いナイフの夜』を実行せよ、と」

 

 

 

 

 

 

その頃、ようやく休息を終えた小野里は回復を果たし、いつものように歩き回れるほどになっていた。しかし、十分な休息を取るため手持ちの食糧や医薬品を消費し尽くしてしまい、今後の進行に不安が見られるようになっていた。ここで勇は予てからの目標であったフランクフルトに向かうことを計画する。

 

 

 

 

 

 

「小野里、フランクフルトには例の原爆があるんだな?」

「はい、情報によるとハイドリヒ長官は15世紀の街並みが残る退廃的な街並みを整理するために、フランクフルトを消滅させる計画を持っていました。ネウロイにより半分ほどが既に倒壊していますが、きれいさっぱり更地にしないと気が済まないようですね」

 

 

 

 

 

 

ハイドリヒの歴史観は過去への憎しみと、過去の忘却という人類の罪が原因であそこまで変質していた。そのため歴史と言うそれまで育んでいた文化や建造物といった普遍的なものに対しては対極的なまでの憎しみをも抱いていたのだろう。しかし、ハイドリヒの目標はあくまで連合軍への攻撃であり、フランクフルトには現在においてもそこまでの連合軍は配置されていない。そこを小野里に質問する。

 

 

 

 

 

 

「やつらの目標はあくまで連合軍への攻撃なはずだ。理念がずれていないか?」

「一応これでも陸軍情報部出身ですからね。おそらく私の予想ではハイドリヒ長官の理想に沿った形での作戦に彼らは縛られています。それゆえに彼らはハイドリヒ長官の目標を理念にフランクフルトに攻撃を仕掛けるつもりです」

 

 

 

 

 

 

ハイドリヒの部隊は忠誠心をなによりも美徳とした変態集団である。どこの軍隊や部隊よりもある意味結束した集団は己の理念に縛られやすい。だから小野里の予想は勇でも納得しやすかった。

 

 

 

 

 

 

「では、フランクフルト周辺の連合軍部隊の情報とその原爆を護衛している部隊の情報が欲しいところだな」

「古い情報では、連合軍はフランクフルトにカールスラント陸軍の第7軍1個師団が展開する予定です。対してアイヒマン中佐率いる部隊はおそらくですがアインツ・シュベルマン中佐率いる歩兵連隊が出張ってくるでしょうね」

 

 

 

 

 

 

勇はここでふと湧いた疑問があった。それは用意周到なハイドリヒの部下が、明らかに額面戦力で劣る部隊を送り込むことに違和感を覚えたからだった。彼らの戦術は、分散させ、包囲殲滅がやり口である。よって額面戦力にいおいてもそれに類する戦力で攻めてくると考えていた。しかし、戦闘経験の豊富な部隊の運用を考案したとも考えられ、敵の能力を図るのが先決だと思うに至った。

 

 

 

 

 

「ではそのアインツ・シュベルマン中佐とやらについて教えてくれ。以前出くわしたヴィットマンのようなやつらだとありがたいのだが」

「残念ながら・・・アインツ・シュベルマン中佐はハイドリヒ長官に仕える前は陸軍に所属していました。ですがバルバロッサ作戦で散り散りになった部隊を見事にまとめ上げたいわゆるたたき上げの指揮官です。その際、当時の指揮官と衝突してハイドリヒの部下となりました。だから歩兵の運用に関しましては、ピンチの際に真価を発揮するタイプです」

「厄介だな」

 

 

 

 

 

勇もバルバロッサ作戦に参加しており、その過酷さは誰よりも理解していた。しかし、自分と同じような境遇にあった軍人とも取れる人物に勇は興味が湧いていた。敵となる人物に不思議ではあるが、新たな情報を掴む以外に方法はないと考え、小野里の計画の一端を聞く。

 

 

 

 

 

 

「私もここからは情報の精度に自信がありません。情報はより新しく正確なものに限りますから」

「そうだな、じゃあこれからどうする?」

「それはですね・・・」

 

 

 

 

 

 

小野里の邪な笑顔に嫌な予感がしつつ、聞き耳を立てる。耳打ちされた計画に落胆しながら、対照的に不気味な笑顔を張り付ける小野里が眩しかったことを勇はよく覚えていたという。その小野里の作戦とは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前どこの部隊の兵士だ!?」

「はっ!カールスラント第5装甲軍団の通信兵であります!」

 

 

 

 

 

 

 

勇の目の前にはカールスラント第7軍の兵士が並んで訝しんでいた。それもそのはずである。勇の左腕は肘から下がなく、小さな傷ついた少女をもう片方の腕で抱いていたからだった。

 

 

 

 

 

 

「その女の子はなんだ?」

「途中で拾ったのであります!負傷しているので是非こちらで手当てをと思い立ち寄らせてもらいました」

「そうか、お前も大変だったんだな・・・よし、通れ!」

 

 

 

 

 

 

勇はなんとカールスラント兵に扮装していた。これはもちろん小野里の提案であり、一早くフランクフルトに入るためカールスラント軍に扮装して内部に侵入してしまう、いわばスパイのようなものであった。カールスラント軍が駐屯する基地に入ることができると、寝たふりをしていた小野里が小さな声で成功を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「案外すんなり入れましたね。なんなら心拍数を抑える演技もするつもりだったのですが」

「本当に医術の無駄遣いだな・・・しかし、本当にカールスラント人に化けられるとは」

 

 

 

 

 

 

今の勇の出で立ちはどこからどう見てもカールスラント人そのものだった。髪の毛も小野里の手により金髪になっており、勇の体格はもとより扶桑人にしては大きい部類だったためカールスラント軍の軍服さえ来てしまえばなんの疑いようもないほどの風格が醸し出せていた。

 

 

 

 

 

 

「まあ、勇中佐がウィッチの部隊に居てくれたおかげでカールスラント語も流暢ですし、ちょうどよかったです」

「お前なぁ・・・まあいい。これからどうする?」

「既に原爆はどこかに設置されているはずで、それを守るように密かに第7軍内にハイドリヒの部隊が展開していると思われます。その部隊を炙り出しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

こうして勇と小野里によるスパイ大作戦が始められようとしてた。しかし、後に行われるフランクフルトの町での戦場の気配に気づくことは出来ていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。ヴィットマンとの共闘は私の中で一度はやって見たかった敵と仲間になる的な展開に胸を熱くしております。劇場版のガールズアンドパンツァーのカール自走臼砲など参考にしていただけるとあの迫力がより伝わると思います。ガルパンはいいぞ!


また、次回は情報部出身の小野里ならではの戦いととある戦いをモチーフにした話にしようと思っております。なるべく早くに投稿しようと思いますので、ぜひ次回もよろしくお願いします!ではまた!
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