ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さんこんにちは。

なんとか早くに投稿できました。今回の話はなんとも勇がポンコツな話となっています。逆に小野里が活躍する展開になっているため、小野里推しの方には嬉しいものとなっています。ではどうぞ!


不滅の翼 第三話

勇はフランクフルトに駐屯する基地を見て回ることにする。自分の普段とは違う出で立ちに緊張が止まらない中ではあるが、周りの兵隊が気にしない様子から少し安心する。しかし、少しいろんなところを見回っていると、突然呼び止められてしまう。

 

 

 

 

 

 

「おいそこの傷痍兵」

「・・・はい、なんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

意を決して振り返ると、そこに立っていたのは高級士官の服装で、その襟章に表される階級は紛れもないこのフランクフルト駐屯地の最高指揮官の物だった。階級は少将で、おそらく自分の存在を訝しんでいるものと思われ、勇は一気に背中が凍える。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・その成りでよくも立ち上がってくれた。私は貴官の志の高さに敬意を払おう」

「きょ、恐縮であります!」

 

 

 

 

 

 

右手で握手を交わすと、しっかりと目を見てその感謝の意を伝えてくるこの司令官は直感的によき指揮官だと思われた。

 

 

 

 

 

 

「その服装だとフランクフルトの北部の第5装甲群の者だな。やはりあちらは激戦区なのか?」

「い、いえ!私はただの通信兵であります!この身体なので・・・」

「そうか、私はこの駐屯地の司令のフランク・バイパー少将だ。君の貢献に感謝を伝えたい。君の上官の名前を教えてくれまいか?」

 

 

 

 

 

 

突然の上官の名前を答えると言う無理難題に冷や汗をかく。勇はそんなことを聞かれるとは思わずなにも情報を頭に入れてこなかったことを悔やんだ。しかし、バイパー少将はすでにメモの用意までしており、ここで口籠っては返って怪しまれると考えた勇は思い切って知っている名前を出す。

 

 

 

 

 

 

「じょ、上官殿の名前は・・・シュベルマン中佐殿であります・・・」

「シュベルマン・・・アインツ、アインツ・シュベルマンのことか?!」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

驚いたとばかりにペンを落とすバイパー少将は、少し取り乱すとペンを拾い、勇の肩に手を置きそれとなく感謝を伝えてくる。明らかに動揺しているように見えた。

 

 

 

 

 

 

「そうか、やつは元気にしているか?」

「はい。それなりに」

「そうかそうか・・・では君からぜひとも伝えてくれたまへ」

 

 

 

 

 

 

そう言うと颯爽と立ち去ってしまい胸を撫で下ろす勇であった。なんにせよ目の前の危機から解放されたことに喜んだ。汗を拭うと改めて周囲を伺う。特に怪しい物はなく、また怪しい人物も確認できなかった。さすがに同じ人種の中から怪しい人物を見つけ出すのは苦労がいることだ。しかし、駐屯地の戦力分布はおおよそ把握できた。小野里も独自に情報を集めているらしく、勇は大人しく戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、やっぱり敢えて逃げている方に近づくのは緊張するな。小野里め、こんな強かなことを平然とやっていたなんて」

 

 

 

 

 

 

少し小野里のことを尊敬するも、自分は不向きであるこの任務にため息を漏らす。そうしているうちに変装をして少年兵になった小野里が帰ってくる。明らかに15,6歳の男の子と見間違うほどの出来で、これなら容易に基地をで歩けると感心してしまうほどの変装だった。

 

 

 

 

 

 

「大まかですが情報を持ってきました。勇中佐も何かわかりましたか?」

「そうだな、小野里の変装の腕についてはよくわかった」

「戦闘以外は役に立ちませんね」

 

 

 

 

 

 

意外にも酷いことを言われて少し傷つく勇を捨て置き、小野里はメモしてきた情報を勇に見せる。そこにはこの基地の概略と戦力、そして怪しいと思われる箇所にバツ印がつけられていた。勇にはそんな所は見当たらなかったためその理由を聞くことにする。

 

 

 

 

 

 

「このバツ印はなんだ?」

「私の見立ててでは、このバツ印の3つのどこかに原爆があると考えています」

「それはどうして?」

「まず一つ、原爆は勇中佐が持っていたのとは違い、魔法力で制御されていないため大きくかさばります。そのため収納にはある程度の場所が必要になります。二つ目にその機密性から人目に付かないところに置くはずです。そして最後に、明らかにこの3か所には人員が多く配置されていました」

 

 

 

 

 

 

良くまとめられた話に感心しながら、バツ印の場所について勇もその景色を思い出す。一つは倉庫で、武器弾薬などを保管した場所である。二つ目は廃工場跡で、確かに人目にはつかない。そして、もう一つは指揮所の真後ろだった。指揮所は敵の突発的な攻撃から守れるように、ネウロイが来ると思われる南側に時計塔を背にしていた。この時計塔には確かに見張りが多かった記憶があった。

 

 

 

 

 

 

「小野里としてはどこだと思う?」

「そうですね、私なら武器弾薬が置かれている倉庫でしょうか。あそこで爆発させてしまえばそれだけで戦力を無力化できますから」

 

 

 

 

 

 

小野里の言っていることも尤もだった。しかし、勇はどうしても心に引っ掛かる事案があった。

 

 

 

 

 

 

 

「一ついいか?」

「どうぞ」

「その、俺にはあまりまだ理解できていないのだが、原爆の威力は既存の物と一線を画すんだろう?それならどこにおいてもいいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

勇の指摘に小野里は尤もだと頷く。しかし、と一言加えて説明を始める。

 

 

 

 

 

 

 

「原爆は少数、おそらく本当に2,3個しか生産できていないはずです。それをこのような1個師団を壊滅させるために使用するとは思えません。よって原爆自体はどこかに隠しておいて、普通の爆弾を仕掛けている可能性が大きいと考えます」

 

 

 

 

 

 

小野里の話を聞いて納得する所ばかりで唸ってしまう。確かにより簡単に制圧できればそれに越したことはないはずである。それの裏付けとして、ハイドリヒの部隊も一個師団しかなく、それを正面から当てるなどという愚策には出ないことが伺える。そして、新たに勇にも分かったこととして、この基地には原爆と爆弾の二つが戦略物として隠されているということが判明した。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。じゃあ、倉庫の確認が最優先事項か」

「はい、ですが勇中佐がここに居ることが分かればそれこそ原爆を使用しかねません。なるべく正体は悟られないようにしてください」

 

 

 

 

 

 

小野里の言葉をしかと心に刻み、改めて勇は周辺状況を確認するために外に出る。あたりは暗くなり、所々で焚火の明かりが見える。絶好の機会だとばかりに行動を開始する。開始したかったのだが・・・

 

 

 

 

 

 

「おう兄ちゃん!そんなしけた面してどうした!こっち来いよ!」

 

 

 

 

 

 

さっそく酔っ払いに絡まれてしまった。非番なのか五、六人の兵士が焚火を囲んでおり、その中に勇も引き込まれてしまった。やいのやいの言っている間にどこの出身かといった初歩的な質問から下世話な話まで次々と取り留めのない話に付き合わされたのだった。

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃん若いのに戦争で腕なんか亡くしたらこの先大変だろう?」

「いや、慣れれば何とかなります」

「そうはいってもさっきから不便そうだぞ?もしかして・・・」

 

 

 

 

 

 

その疑いの一言に冷や汗が流れてしまいそうになる。心臓が悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えて次の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして右利きか?」

「・・・あっそうです」

 

 

 

 

 

 

案外酔っ払いはちょろいのかと一安心する。周りもガハハと笑っているため、勇は内心ほっとしながら話を合わせることにする。そんな時、その熟年兵は耳よりの情報だと前置きして初年兵に見える勇に話し始める。周りの仲間は「また始まった」とクスクスと笑い出す。勇は情報ならなんでもと考えていたため耳を貸す。

 

 

 

 

 

 

「知ってるか?ここいらではな、最近妙な噂があるんだ」

「というと?」

「それがな、幽霊が出るのさ」

「はあ・・・」

 

 

 

 

 

あまりにも荒唐無稽で説明が大幅に省略された話に気の抜けた返事しか出ない。酔っぱらっているのか、本人ですら頭を傾げて伝わらない話を大きくしようとする。

 

 

 

 

 

 

「嘘みたいに思えるだろうがな!これは俺も見たことなんだぜ?!あれはここにきて数日経った頃だ。この第7軍は各地の激戦を戦い抜いた奴らばかりでな。中には撤退戦なんかで部隊が十分の一になった部隊もある。そんなわけで顔を見たことのない兵士ばかりだ。そんなもんだからよく一緒になった奴と話すんだ」

 

 

 

 

 

 

確かに初めて会った兵士とは行動を共にするうちに顔や名前を覚えるだろう。風呂や寝床、作業などで覚えるものだ。そのような記憶に覚え違いがあるのも仕方がないと思いつつ、その熟年兵の話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は川で水浴びしてた時に、一緒になった顔に傷のある兵士と一緒になったんだ。この部隊にあんなに大きな傷を顔に拵えた兵士なんてそうはいねえ。聞けば隣の配置の奴だと言うじゃねーか。だから次の日に酒を持って飲もうという約束をしたんだ。そして約束通り次の日に隣の配置の陣地にお邪魔してみたわけだ」

 

 

 

 

 

 

所々突っ込むところはあるが、頑張って分かりやすく話そうとする努力に免じて黙って話を聞くことにした。そして、クライマックスというところで熟年兵は立ち上がって両手を広げて大げさに話を披露する。

 

 

 

 

 

 

「するとどうだ!隣の陣地には昨日の顔に傷のなる兵士はいなかった!それだけじゃねえ!隣の陣地の奴に聞いてみてもだれもそんな奴は知らねえと言う!こいつぁ俺は幽霊に会ったと確信したわけだ!この第7軍は各地で散った兵士の怨霊が取り憑いた幽霊軍団だってわけよ!」

 

 

 

 

 

 

荒唐無稽な話から戦場伝説まで数多ある中で、これほど愉快な話しはないと思った。勇自身多くの仲間を失ったが、今回の話のようなことは一度としてなかった。勇の経験は誰も経験のしたことのないであろうことだが、事実勇はその幽霊的な事象によってこのようなことをしている。だから、勇はこの話をここらで切り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「面白い話を聞きました。その兵士とお酒が酌み交わせることを陰ながら応援させて頂きます」

「信じてねぇな?」

「そこらへんにしとけって。お前飲み過ぎだぞ」

 

 

 

 

 

 

周りの兵士に諫められその熟年兵もしぶしぶと輪の中に戻ろうとする。しかし、その熟年兵は一つだけ勇に言い残す。

 

 

 

 

 

 

「お前さんのような分かりやすい人間は俺ら全員がこの目で見たから大丈夫だろうがよ、お前さんも俺たちのことを覚えててくれよな」

「こんなに楽しそうな人たちなら忘れませんよ。その勲章、ビフレスト作戦のものでしょう?」

「おっ?よく知ってるな。これを貰ったやつはこの部隊では俺らだけだからな」

 

 

 

 

 

 

 

そう自慢げに言うとようやく輪に戻って行く。勇はようやく解放されたため再び散策を開始する。夜と言えど敵前の基地であるため歩哨や見張りは多い。そんな中でどうにかして倉庫に近づきたいと考える勇だった。すると倉庫で見張りをしている歩哨が勇に気づく。勇は一瞬まずいと身構えたが、その歩哨の言葉に安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

「そこのお前!ちょっと変わってくれ!小便したくなっちまった!見張りならお前でもできるだろ!」

「あ、お安い御用です」

「助かる!アッ忘れる所だった!まだ来ないとは思うけど見張りの交代要員同士の合言葉があってな!もし来たらこう言ってくれ!『ヘンゼル』と!」

 

 

 

 

 

 

勇は突然任された仕事に内心ガッツポーズを取っていた。そして、その合言葉の続きにも耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

「で、その返しは?もしかして『グレーテル』?」

「童話だからってそんな単純じゃねぇやい!まっそれが作戦だがな!おっと漏れちまいそうだ!合言葉は『お菓子の家』だ!じゃあな!」

 

 

 

 

 

 

見張り役を任され一応それなりに扉の前に立っておく。例え今合言葉を知り、中に入れる機会があったとしてもすぐに動くのはリスクが高い。こういうことは小野里と相談した方がいいと判断した勇はその仕事を見張りが帰って来るまで続けることにした。やがてその見張りが帰ってきたため、勇はここらで偵察を止めて帰ることにする。当てがわれた寝床には既に小野里が戻ってきていた。

 

 

 

 

 

 

「なにか情報は得られましたか?」

「耳寄りなのが」

「教えてください」

「倉庫の合言葉が分かった。ヘンゼルと問われてお菓子の家と返すそうだ」

 

 

 

 

 

 

小野里が呆れた顔をして大きな溜息をつく。それはそれは勇は悲しくなった。

 

 

 

 

 

 

「そんな簡単に教えてくれる情報なんてだれにでも分かってしまう情報でしょう?あなたは要らない物ばかり拾ってくる犬ですか」

「・・・くーん」

 

 

 

 

 

 

確かに言われてみれば、こんなに簡単に教えてくれる合言葉ならだれでも知っている可能性が高いことを全く失念していた自分が怖かった。対して優秀な小野里はきちんと耳寄りな情報を披露するのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「私が調べたところによりますと、なにやら配給される料理の数が合わないそうです」

 

 

 

 

 

 

 

勇は小野里の齎す情報を聞いて笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「なんですか」

「だって俺の情報と大して変わらない重要度だから」

「はあ・・・これだから戦闘バカは。いいですか?食料の数が合わないと言うのは誰かが無断で入り込んでいるということですよ」

「・・・ああ?」

 

 

 

 

 

勇の気の抜けた返事に小野里は頭を抱える。言われてみると料理は師団に所属する人数分かそれより少し多いくらいを作るのだが、それでも足りないとなると確かに変である。ここら辺の常識はウィッチ部隊にいた勇にとって疎かにならざるを得ない事情があった。ウィッチには高カロリー食が配給されており、特に501などの優秀部隊には大量の食事が配給されているのだ。それゆえバカ食いするウィッチがいるのだが、育ち盛りのウィッチにとってそれくらいは日常茶飯事だった。しかし、ここは一般の部隊でありそこまで配給に問題があるとは思えない以上、何かしらの人員の移動があると考えた方が妥当だと思い至る。

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしたらアイヒマンの部隊が侵入している可能性があります。今後、より注意をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

勇と小野里は互いに注意することを確認し、その日は床に就いた。翌日も変わらず情報収集に勤しむべく、小野里は朝早くから変装に余念がなかった。今度は昨日来た少女が回復して、普通の町の女の子がはしゃいでいる自然体の人間を演じていた。相変わらずの変装ぶりに勇は今度こそと意気込んで偵察に出向く。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は頑張って倉庫の中に入りたいところだな・・・おや」

 

 

 

 

 

 

勇が目にしたのは昨日の夜に見かけた酔っぱらいの男たちの場所だった。さすがに新しい日になったため任務に向かったのだろうが、昨日の話に興味を持った勇はその燃えカスを眺めてみる。するとその灰の中に鈍く光るものがあった。熱いため靴で灰から取り出し冷やしてから右手で掴み取ると、昨日話題に出た勲章だった。この勲章は勇も参加した大撤退作戦であり、そこで姉の咲を失っている。そんな勲章を大切にしている人物が勲章を落としては大変だと思い、その熟年兵を探すことにした。近くにいた兵士に彼らの所在について聞いてみることにする。

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんが、昨夜非番だった隊の人間でこの勲章を着けている兵士を見ませんでしたか?」

「・・・しらないね」

「そうですか。すみません」

 

 

 

 

 

 

勇は頭を傾げてその勲章を眺める。確かにこの勲章を着けているのはあの兵士以外には存在せず、実物が目の前にある以上昨夜の出来事も否定はできない。それなのにどこの兵士もその情報を持っていなかった。勇が頭の中で浮かぶ不思議な事象の答えのようなものが出かけた時だった。遠くの場所で爆発音が聞こえる。これは勇や小野里のようなウィッチでないと聞き分けることのできないほどか細い音で、周りの人間は誰一人として気づく者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

「まさか!?」

 

 

 

 

 

 

勇が辺りを見渡すと小野里が勢いよく駆け込んでくる。その顔は真っ青な顔であり、事態の急変を知らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ネウロイが・・・複数の方面から大挙として押し寄せてきます!!」

「なんだと・・・」

 

 

 

 

 

二人が青ざめる中、ようやくフランクフルトの町中に警報音が鳴り響く。その音で周りの兵士も俄かに慌ただしさが増す。極めつけは司令官からの酷く沈んだ放送だった。

 

 

 

 

 

 

『諸君、親愛なる諸君へ告ぐ。この町は半包囲される・・・憎きネウロイは既にこちらに向けて進行中である。その規模およそ8個師団程度。楽観的に見積もっての規模だ』

 

 

 

 

 

 

敵との戦力の規模の差はおよそ8倍と絶望的なものだった。絶望のあまり言葉が出ない兵士を差し置き、悲痛な声音の司令官バイパー少将は続ける。

 

 

 

 

 

 

『我々も退避すると、言いたいが・・・残念ながら許可されなかった。諸君、親愛なる諸君。ここフランクフルトを敵に奪取された場合、我々の北にいる西方方面軍主力であるリベリオン第6機甲師団及び第5歩兵師団の横っ腹ががら空きとなる。我々は彼らに支援を求めたが、到着まで4日かかるとのことだ・・・』

 

 

 

 

 

 

バイパー少将の言葉で遂に膝をつくものや絶望のあまり泣き出す者が出始める。それでもバイパーは指示を出す。

 

 

 

 

 

 

『私は任務を果たすべく、このフランクフルトを死守しようと考える。我々は崖っぷちだが、我々が逃げ出せばそのツケは人類全体に波及するだろう・・・諸君の協力が全てだ。どうか、この地で死んでくれ。君たちが戦う一日、一時間、一秒には意味がある。必ずや後の世で君たちの雄姿は語り継がれることになるだろう!だから、バイパー戦闘団よ、立ち上がれ!奮起せよ!銃を握りしめるのだ!』

 

 

 

 

 

 

バイパーの演説は先ほどまで絶望に暮れていた者たちを立ち上がらせた。勇は有能な指揮官の存在を嬉しく思った。勇は自分の左腕を見る。自分の助力したい、そう思う気持ちが強くなった。しかし、この腕はこの基地に侵入する前に小野里が切断し、勇の魔法力により再生を抑え込んでいる代物だった。だから、戦うとしたらこの腕に回している魔法力がなくなり、ネウロイ化した腕が露わになってしまう。そうなればマジノ線の二の舞である。小野里を見てもやはり首を振っている。

 

 

 

 

 

 

「小野里、やはりだめか?」

「ダメです!今度それを見せたら内部からこの部隊が崩壊します!」

「・・・分かった。俺もこの状態でできるだけ何とかしよう。小野里はどこか人目のつかない場所で支援してくれ」

 

 

 

 

 

小野里と約束を交わし、小野里は急いで時計塔のてっぺんに向かう。そこから狙撃を敢行する手はずだったが、一方の勇は魔法力をほとんど使わないという制約が着くこととなってしまった。勇が考え事をしているとバイパー少将が勇の前を通りかかる。

 

 

 

 

 

「おお君か!申し訳ないが原隊には帰らないでもらいたい。君でもできることはあるからな!」

「分かっています。微力ながらお手伝いさせてください」

「助かる」

 

 

 

 

 

そう言うと前線を視察に駆けだしていく。いつの日かのロンメル将軍を思い出し、将軍が前線に出る部隊はそれだけ士気が上がることを知っている勇は心の中が熱くなった。自分も歩兵銃を手に入れると適当な陣地に着くことにする。周りは極度の緊張からか息が若干上がっているが、少しも負ける気配が見えなかった。そのことに少し気をよくした勇は敵が見えるまで銃を構える。やがて地響きが地面を伝ってやってくる。勇だけでなく全員が理解したことだが、誰かがぽつりと言葉にするだけで恐怖がやってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

「来るぞ・・・」

 

 

 

 

 

勇には既にネウロイの気配が感じ取れ、すぐにでも攻撃できたが一般人を装っている以上誰かより早く攻撃するわけにもいかずやきもきしていると、前線の分隊長が号令をかける。

 

 

 

 

 

 

「射撃用意っ!」

 

 

 

 

 

勇はその言葉で少量の魔法力を弾丸に込める。全員が一点に目線を集め、緊張が頂点に達した時遂に合図が下される。

 

 

 

 

 

 

「射撃開始っ!!!」

 

 

 

 

 

 

一斉に発射される攻撃は、曳光弾などが混じり花火のように爆ぜる。機関銃や軽野戦砲も火を噴き、勇の攻撃もネウロイに穴を穿つ。勇の攻撃はその野砲に混じったおかげでその威力の違いをかき消されはしたが、自分が思った以上の威力に内心驚いていた。

 

 

 

 

 

 

(前より威力が上がっている!?!)

「どうした傷痍兵!ビビッてないで次だ次っ!」

 

 

 

 

 

 

隣の兵士に臆したと誤解されたことで落ち着きを取り戻すべく深呼吸をする。先ほどよりも魔法力を抑えるべく緻密に操る。狙いを済まし射撃すると、今度はきちんと他と分からないような規模になった。

 

 

 

 

 

 

「いい狙いだ!片手でその精度なら元は狙撃兵か?!いいぞもっとやれ!」

 

 

 

 

 

 

勇が的確にネウロイを撃破していく様子を見ている分隊長に褒められながら、勇は次々にネウロイを撃破していく。周りは少しも不思議がることなく、むしろどんどん撃破してくれることに感謝してさえいた。戦闘が激化していく中、小野里の攻撃もきちんと確認でき、的確に陣地に近づいて来るネウロイを倒していた。戦闘時間が3時間を超えたあたりで、一時ネウロイは撤退を開始する。

 

 

 

 

 

 

「やつら退いて行くぞぉ!!」

「おっしゃあああ!!!」

 

 

 

 

 

歓喜の声に湧く中、勇・小野里・バイパーの三人はこれからが大変だと感じていた。急いで負傷者が街中に運ばれ、武器弾薬が前線に運ばれるというピストン輸送が素早く行われていく。これもバイパー少将が行に弾薬類を運ばせ、前線に置いたらそのまま負傷者を乗せることで運搬の時間を効率化させると言う辣腕を振るったおかげでもあった。そして、更なる作戦が下令される。

 

 

 

 

 

 

「次はネウロイも総攻撃を加えてくるだろう!そこで今度は温存しておいた迫撃砲と少数ながら到着していた砲兵による砲撃を行う!」

「おお!!」

 

 

 

 

 

 

バイパーは優秀な指揮官ぶりを発揮しており、波状攻撃を仕掛けてくるであろう敵に対して、新たな戦術を温存させると言う一歩間違えれば破滅に繋がる荒業を残していた。勇もその作戦には完全に同意で、先ほどの戦闘で敵がやってくる場所と、その付近が見渡しやすくなっており、砲撃にはもってこいの状況が醸成されていた。そして、勇たちにも手榴弾などが多数配布され、今度は点ではなく面での攻撃になることが示唆された。また、付近には新たに設置された地雷原も存在しており、きっと小野里ならそれをうまく活用するだろうことが伺えた。そして、遂にネウロイによる第二次攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

「砲撃開始っ!」

 

 

 

 

 

 

砲兵や迫撃砲が一斉に火を噴き、土地ごと耕していく。砲弾が命中するごとに至る所から歓声が上がる。その光景を見た指揮官らが、今度は我々だと言わんばかりに声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

「装填中は我々の出番だ!各自手榴弾用意っ!各々の判断で投げつけろっ!!」

 

 

 

 

 

 

砲兵の装填中は斯くも激しい手榴弾の合戦が繰り広げられた。勇も今度は先ほどよりも多めに魔法力を込めて投げつける。一際大きい爆発でネウロイにも大きな被害が出る。さらに、きちんと地雷原に突っ込むネウロイや砲撃で傷つきながらも再生するネウロイを小野里が的確に狙撃していった。みるみるうちにネウロイが減っていくが、後から後から減った分増えるネウロイに手を焼いていた。

 

 

 

 

 

 

「これじゃあいくら撃ってもきりがねえ!何とかならないか!!」

「俺がやる!」

 

 

 

 

 

勇が声を上げるのを周りは驚いて止めようとする。なんと勇はトーチカさえ破壊可能な爆薬が詰まった袋を抱えて飛び出そうとしていたからだった。周りが急いで止めようとするが勇は止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「仕方ないっ!奴を援護しろっ!」

 

 

 

 

 

 

勇を援護するために猛烈な射撃が加えられる。勇はネウロイが屯している場所近くの砲撃跡に走りこむと、爆薬に着火する。今度は陣地側のもう一つの穴に匍匐前進で入ったその瞬間、大爆発が起き付近のネウロイが一挙に消し飛ぶ。あまりの威力にさすがに誰もが一瞬疑問を浮かべるが、勇の帰還に諸手を上げて拍手したことによりその疑問は消え去る。勇が魔改造した爆薬は戦線に大きな穴を開け、そこから崩れたネウロイを撃退し、この日は勝利で終わることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

「お前すげえな!どこの部隊出身なんだ?!」

「英雄だ!フランクフルトの守護神だ!!!」

 

 

 

 

 

 

その後、たくさんの兵士に囲まれた勇は冷や汗が止まらなかった。今まで碌に名乗っていなかったため、どこの部隊なのか、自分は誰なのかと言った質問をこうも大勢の前で問われると嘘がバレかねなかった。目線を小野里に向けるとため息をついて紅茶を啜って勇を切っていた。泣きそうになっていると奥から司令官のバイパーが出てきて握手を求められる始末だった。

 

 

 

 

 

 

 

「よくやってくれた!君の活躍はどの部隊からも聞いている!君を第二級柏葉付き騎士鉄十字章に推薦しよう!」

「あは、あはははは・・・」

 

 

 

 

 

 

勇は更なる危機に直面している中、小野里は独自に情報を集めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい・・・あれだけの戦闘で戦死者が少なすぎる。どうしてなの?」

 

 

 

 

 

 

小野里の目には戦闘前と変わらないどころかむしろ増えているようにも見える兵隊の数に目を巻いていた。勇に衆目が向く中、小野里は一人で行動を開始する。時計塔は今回の戦いで侵入することができ、中を確認し安全なことは分かっていたため倉庫を調べることにした。得意の変装で倉庫に近づくと、こんな日にも歩哨が立っていた。小野里は先日聞いていた合言葉を歩哨に言ってみる。

 

 

 

 

 

 

「ヘンゼル」

「お菓子の家」

「よし、こんな夜になんの用だ?」

「弾薬の確認です!明日に備えて備蓄を確認するようにバイパー司令に申し付けられました!」

「そうか、ご苦労なこった」

 

 

 

 

 

難なく通され、勇の手に入れる重要度の低い情報も時には役に立つものだと心の中で謝罪する。倉庫の中に入ると中には弾薬や食料が備蓄されており、特に不思議はなかった。そう、無かったはずである。しかし、小野里は気づいてしまった。この非常事態に食糧が横領されていたのだ。豊富に備蓄されている倉庫にわざわざ侵入するようなことをしでかす食いしん坊がいるという可能性は限りなく低かった。小野里の脳内が必死に回答を見つけ出そうとする中、倉庫の扉が開く。驚いて振り返ると兵士が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「ん?そこの少年兵、ここで何をしてる?」

「はっ・・・備蓄の確認作業中であります!」

「そうか、こんな夜更けにご苦労なことだ。なにか不備はあったか?」

「いえ、一部食料がネズミかなにかにやられているだけでした!」

「ネズミか・・・早急に対処しなければな」

 

 

 

 

 

 

小野里は自分のしていることを正確に報告する。真実を混ぜることにより嘘偽りのない発言ができる為、この方法をよく使用していた。しかし、先ほどの歩哨と同じことを口にするこの兵士に小野里は不安を覚えるのだった。歩哨に会えば自分のことは教えてもらえるはずだし、こんな時間に普通の兵士が倉庫に入ること自体がおかしなことであった。食料を盗んでいる張本人の可能性も考慮して一つカマをかけることにする。

 

 

 

 

 

 

「失礼ですがここに入るときの合言葉をもう一度教えていただけませんか?なにぶん今回が初めてでして・・・確かヘンゼルに対して、何でしたっけ?」

 

 

 

 

 

 

小野里は注意深く相手の顔を見る。少しでも不審な動きをすれば倒すことも視野に入れていた。しかし、その男の顔は暗くて見えなかったため呼吸音や声紋から判断することにした。

 

 

 

 

 

 

「仕方ない奴だな。合言葉は・・・『グレーテル』、だ」

 

 

 

 

 

 

 

小野里はその迷いのない声と合言葉が違うことからまずいことを勘づく。明らかに嘘をつくことに慣れた人物で、その声から既に漏れ出る気が小野里の背筋を凍らせた。小野里はここは撤退することに決める。

 

 

 

 

 

 

「ああなるほど!そういえば簡単な合言葉だったのですね!失礼いたしました・・・」

「君」

「はっはい?」

 

 

 

 

 

 

呼び止められる瞬間の恐怖と言ったら例えようのない。心臓が爆発しそうな緊張感と喉がヒリヒリと乾く感覚を久しぶりに味わったほどだった。声を掛けられた方をようやく向くとそこには相手の顔があった。その顔を見て小野里は失敗したことに気づく。相手の兵士は一人ではないと気づいたからだった。

 

 

 

 

 

 

「どうやら俺を知っているようだな・・・ネズミは君のようだ。大人しく捕まれば殺しはしない」

 

 

 

 

 

 

そう言うと暗い倉庫の扉は閉められるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。情報戦に長けた小野里と戦闘に特化した勇の対比を作ってみました。情報戦に疎い扶桑人らしく勇をポンコツにしてみたのですが、どうにもポンコツにし過ぎたかと反省しています。また、勇の嘘をつく感じは作者と同じであまりうまくありません。私も嘘をつくのが下手なので気持ちが入ってしまいました。

さて、不思議な謎が多く点在するこのフランクフルトの戦場で動く背後の存在についてが次回作となります。是非ご期待ください!
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