今回はあまり話の進行具合が良くないのですが、今回の作戦の背景が詰まった話となっているため勇くんの活躍にご期待していただいて呼んでいただければと思います。
ではどうぞ!
翌日、寝床に戻らなかった小野里を心配しつつ、情報を収集しているのだと割り切り敵の襲撃に備えていた。最近睡眠時間が短くなり、少しの睡眠で事足りる変化を慣れだと思い込んだ早朝、遂にネウロイの来襲を知らせる警報が鳴り響く。西方方面軍の主力が到着するまであと3日ここで耐えなければならないため、勇はすぐさま武器を持って陣地に急行する。
「おっ!片腕の英雄の隣か!こりゃ今日はいい日だぜ!」
翌日にはこのようなあだ名まで広がる始末だったが、今はネウロイの迎撃に専念したかった。昨日同様の迎撃網であればそうそうのことなければ大丈夫だろうが、万が一のことも考えて方策を独自に練っていた。
「来たぞぉぉ!!」
「ぶっ殺してやる!」
意気軒高な士気に勇も握る銃に力が入る。勇の方策とは万が一のことを考えただけに突飛な発想をしていた。また、バイパーの指令で夜のうちに塹壕のようなものを構築しており、重心防御の陣地を構築するに至っていた。勇は周囲の攻撃を待って魔法力を少量混ぜた攻撃を放つ。
「おっしゃあああ!!!」
「今日も砲兵様様だぜ!」
昨日とは違い、攻撃手法が割れているため最初から砲兵や迫撃砲が派手に火を噴いていた。その合間を縫ってやってくる敵を機関銃や野砲で撃破し、さらにその後詰めを勇たち歩兵が担っていた。かなりの効果を上げているが、勇にはまだ懸念があった。それはネウロイの攻撃が全体的に広がる全周攻撃から拠点攻撃に移ることであった。
「やけに敵さん今日は少ないな」
「全部やっつけちまったんじゃねーか?」
勇の予想は的中し、敵の流れが勇の配置された部隊の所には薄く展開していた。その代わり部隊長を通じて救援要請が入っていた。
「敵は町の西側に重点的に攻撃を仕掛けているらしい!我々は一部部隊を抽出してこれの援護に当たる!絶対防衛ラインであるマイン川に架かる橋を死守せよ!」
町の西側にはマイン川という川が流れており、その川に架かる3本の橋は、今後自分たちが撤退するにしても支援に来る部隊にせよ渡るのに必須な移動手段であるため、これを攻撃されてはひとたまりもなかった。これに陣地の兵士は困惑する。
「ここを離れていいのか?」
「敵の目的は橋だったんだ!」
「防御だけじゃダメなんだ!こっちから攻めよう!」
様々な意見が出る中、勇が部隊長に意見具申する。
「分隊長!意見具申よろしいでしょうか?!」
「英雄くんか!どうした?」
「はいっ!援護に向かう件は賛成なのですが、一つご提案があります!」
部隊長はその意見を聞くとうんうんと唸ってしまった。と言うのも、勇の意見は有効的でありながら危険が伴うものだったため自分だけの判断の範疇ではないと考えた。そのため勇を伴って司令のバイパーの下に連行されることとなった。指揮所のバイパーは忙しそうに現状の把握に努めていた。
「司令!意見具申よろしいでしょうか?!」
「なんだね、今忙しいのだが・・・ああ、君か。今日も何かしてくれると言うのかね?」
「はい!唐突な作戦で申し訳ないのですが、昨夜構築した塹壕を爆破してもよろしいでしょうか?」
勇の言葉にバイパーは明らかに動揺した。もちろん苦労して構築した塹壕を捨てる戦法に驚いたのもそうだが、爆破した後の対策の方が困難に思えた。
「塹壕を爆破してしまったらその後の敵の対処が困難になる。許可は出来んな」
「はい、ですので爆破範囲をここまでにすれば・・・」
勇が地図に線を引くとその場の全員が押し黙ってしまう。勇の秘策とはそれほどまでに突飛で常人には許容できない発想だった。
「それではこのフランクフルトの街自体が破壊されかねん!ネウロイよりよっぽど厄介だ!許可できん!」
「ですがこのままではジリ貧です。ただでさえ少ない戦力です。一案として有力なものだと自負しております」
バイパーは頭を抱えてしまう。この片腕の青年兵士に見える勇の発案する作戦が有効なものに見えるのはそうだが、それをしてしまえば街を破壊した愚将として後世に語り継がれかねない事態に陥ってしまうことが恐ろしかった。そしてなにより何事もなくこの提案をできてしまう勇と言う存在が恐怖そのものだった。
「・・・確か君はアインツ・シュベルマンの部下と言ったな」
「あ、は、はい。そうです」
「・・・その考えも彼に教わったのか」
バイパーの態度はどう見てもなにか抱えた闇のようなものを引きづっていた。勇はこんなところで嘘をつくべきではないと考えていた。しかし、その方が都合よく話が進むことも考えられただけにどうするか迷っていた。勇はもう一度バイパーを見る。明らかに勇ではなく、勇の背後にいる何者かに怯えているかのようであった。だから、勇はまっすぐ前を見て答える。
「だれかの意思ではありません。私がこうありたいと思うから意思が後からついて来るのです。方法とか効率とかは関係ありません。肝心なのはやるかやらないかです」
勇の真っすぐな言葉をバイパーは目を逸らさず聞いていた。そして、徐に溜息をつき煙草に火を付ける。彼なりの落ち着くための処世術なのだろう。ゆっくりと紫煙を吐き出すと、下を向いて弱音を吐きだす。
「私は君のひたむきさが怖い・・・だが、自分に嘘はつきたくない。俺はそのひたむきさが羨ましいのだ。努力しても所詮はこの程度・・・人は簡単には変われない」
「あなたの人生の主役はいつだってあなただ。なんてことはない、失うことと比べれば。何かをせずに恐れるより、何もしないことを恐れてください。あなたには幾百、幾千の命が乗っています。あなたの力でこの命たちを生かしてやってください。あなたにはその力がある」
勇は小さく見えるバイパーの背中に向けて声を掛ける。バイパーは俯いた顔を、強張った顔に苦筋を浮かべる。達観した勇の言葉はなぜか自分の心細さの背中を律した気がした。
「・・・本当に、お前は何者なんだ」
「・・・ただの傷痍兵ですよ」
勇はそのまま指揮所の天幕を潜り外に出る。未だに砲火の音が激しく争いは続いている。勇はその足で次の戦闘区域に向かう。その背中にはたくさんの爆薬が積まれていた。勇が息を切らしながら到着した場所は、橋と街を繋ぐ一拠点のすぐ近く、塹壕の終着点だった。勇は担いできた爆薬をすぐに設置していく。爆薬を設置していると通りかかった兵士が尋ねてくる。
「そんな爆薬どうする気だ?!」
「一度敵を引き入れてここを爆破する!」
「そんなことしたら敵と心中だ!止めろ!」
その兵士は勇の目的が分かったことで顔を真っ青にして止めにかかる。しかし、勇は淡々と爆薬を設置する手を止めず、ある合図を待っていた。その合図とは期せずしてやってくる。
「全戦線にてネウロイが一斉に攻撃を仕掛けてきたぞ!!全員持ち場に戻れ!!」
「来たか!」
勇の狙いはまさにここにあった。橋を守るために防衛陣地を集中させたことによる全周防御の綻びをネウロイは狙っていると踏んだのだ。圧倒的な戦力差を生かすには陽動作戦が最も効率的で、ネウロイはこの手の作戦をよく使っていたため、勇はその対策として今回の作戦を思い付いていたのであった。
「よしっ!全員一旦街の中まで後退するんだ!」
「そんなことしたら橋がやつらに取られちまうぞ!」
「それでいいんだ!やつらをこちらに引き込む!」
勇の号令により、隊員はやむなく撤退を開始する。一斉に撤退したことでネウロイは攻めきれず、戦線がもたつく。その間に撤退を完了させた第7軍は勇の合図を必死に耐えて待っていた。そして、ついにネウロイが橋を渡ってきた。
「おいおい本当に中にいれるのか?!もう敵は目の前だぞ!」
「待て!待つんだ!」
「もう十分待ったんじゃねーか!?」
「・・・今だっ!」
勇が爆薬に点火すると一斉にネウロイが渡る3本の内、2本の橋の根元が折れ、川に没する。橋の上にいたネウロイもそれに巻き込まれて川に没し、一挙に弱点である水に浸って行動不能となっていた。さらに、塹壕の終着点を爆破したことで川の水が塹壕内に流入し、あっという間に塹壕が濁流と化していく。その濁流に飲み込まれるように全戦線で塹壕を突破しかけていたネウロイが押し流され、その巨体を互いにぶつけ合うことで消滅し合っていた。あまりの出来事に一同は固唾を飲んで守っていたが、ようやく実感が湧いて来たのか所々から歓声が起こる。
「・・・おい、本当にやつら流されちまったぞ」
「すげえ・・・あんなにいたのに」
「俺たち、助かるのか?」
絶対絶命の危機に瀕していたはずの第7軍はその消滅の憂き目を免れたことに互いの肩を抱いてむせび泣く。そんな奇跡のような光景を、司令部から出てきて眺めていたバイパーは軍帽を取って胸に押し当てる。自分の判断の末に得た信じがたい成果を心底自嘲交じりに吐露するのだった。
「また部下に助けられたのか・・・成長しないな」
「まったくですよ」
歓声の隙間に乾いた音が響いたことに気づく者はいなかった。勇はまたもやたくさんの兵士に囲まれて揉みくちゃにされていた。久しぶりの泥臭い勝利に勇も周りの熱に浮かされていたのだが、そこに小野里の存在を思い出す。
(そういえば小野里の姿を見かけない・・・何してるんだ?・・・ん?あの光は?)
勇の目線の先には時計塔のてっぺんが規則的に点滅を繰り返しており、誰かに何かを伝えているのが分かった。勇はそれがモールスだと気づいて心胆を寒からしめる。そのモールスは何者かの侵入を知らせるためのものだったからだった。
『トツニュウセヨ トツニュウセヨ』
勇は周りが騒ぐ中急いで小野里の姿を探す。どこにも姿が確認できず、慌てて駆けだす。自分の不注意さを恥じながら小野里の安否だけが心を騒がせる。走って町中を探そうとする中、勇はふと上空になにか輝くものを目の端で捉える。一度立ち止まって確認すると、それは輸送機の影だった。そこからいくつくかの傘が開いたかと思うと、明らかにこちらに流れている。というより意思を持ってこちらを狙っているようだった。急いでバイパーに危急を知らせるべく走り出そうとしたとき、倉庫の目の前に出る。そこには目を疑う光景が広がっていた。
「バイパー少将!?」
勇が目にしたのは全身の力を失って物のように引きずられる司令官、バイパー少将の姿だった。勇は自分が言葉を発してしまったことにハッとした瞬間、左胸に焼きごてを当てられたかのような激痛が走る。撃たれたと分かった瞬間には勇は倒れていた。倒れた瞬間に見えた人物の姿は紛れもなくハイドリヒの部隊である、アインザッツ・グルッペンに所属している歩兵連隊連隊長、アインツ・シュベルマン中佐その人だった。
「またネズミか・・・人員が揃い次第この街を確保しろ」
「了解です。この者はいかがいたしますか?」
「・・・既に死んでいる。そのゴミと一緒に人質の前に晒しておけ」
煙草をくわえたアインツ・シュベルマンは部下に指示を出すと空を見上げる。ようやく混乱の気配が感じられてきた間抜けな部隊を肴に、心地よい復讐の空気を肺一杯に堪能する。
「ああ・・・うまい。染みわたる」
「シュベルマン中佐、降下猟兵部隊の集結まであと少しとのことです」
「そうか、ケッセルリンク少佐に伝えろ。こちらもあと少しで街の掌握を完了するとな」
シュベルマンは部下を走らせると、フランクフルトの街を見渡す。所々破壊されているが、以前に自分が見たフランクフルトの街が聳えていた。感慨深さや故郷の土を踏んでなお満たされない物足りなさに対して愚痴をぶつける。
「赤松勇とやら、どうした早く出てこい。俺はここだぞ」
その頃、小野里は倉庫の暗がりに手足を拘束されて寝転がされていた。見張りの兵士の出入りが頻繁になり、事態の変化が感じ取れた。今だ自分の変装は見破られてはおらず、少年兵として拘束されているため、可能な限り情報収集に勤しんでいた。曰く、アインザッツ・グルッペンの一部隊である歩兵連隊はこのフランクフルトに少数の人員をスパイとして送り込まれており、毎夜フランクフルトに配属されたカールスラント第7軍の兵士と入れ替わっていたとのことらしい。どうりで戦闘が行われても人数が変わらないわけだと、小野里は今後の方針を決めかねていた。
「へっ、案外ここも簡単に掌握できそうだな。司令もこのざまだぜ!」
「おい、そこの少年兵に見せつけてやろうぜ」
見張りの兵士が運んできたのは第7軍の司令官であるバイパー少将本人だった。遂に首脳級の人物まで毒牙に架かってしまい、第7軍の崩壊も近いことが察せられた。また小野里は勇の安否についても心配を寄せていた。情報戦に疎い勇のことだ、未だに戦闘に集中して内側からの崩壊に気づいていないかもしれないと考えていた。しかし、そう考えていただけにバイパーと共に死体として運ばれてきた人物に目を見張る。
「おっ!死体に反応したぞ!」
「死体を目にするのは初めてか坊主?」
小野里の反応を見て喜ぶ兵士の嘲りなど気にもせず、その姿に目を奪われた。なんとその死体は今しがた心配していた勇その人だった。よく見ると死んではおらず、死んだふりをしているようだった。左胸に弾丸の跡があるが、おそらくネウロイ化した皮膚により弾丸が貫通せず、修復してしまったことが伺えた。ただこんなにも好都合で、バカげた状況に唖然としてしまったことがさらに見張りの兵士のツボを刺激させた。
「怖くて声も出ないってか?!こりゃあいい!」
「お前らみたいな敗北主義者にはお似合いだ!」
「ああ笑った笑った!おい、外の様子見に行こうぜ!今頃お仲間はあほ面晒してる頃だぜ!」
そう言うと見張りは倉庫の外に出て行ってしまう。小野里は出て行ったことを確認すると死んだふりをした勇に声を掛ける。
「勇中佐!何してるんですか!」
「小野里か、生きていて何よりだ」
「暢気なこと言ってないで早くここから逃げましょう!」
相変わらずのマイペースに今自分の身体が自由だったら確実にひっぱたいていたと、ムキになる。しかし、それでも暢気に胡坐をかいて落ち着き始める勇はこれまでの状況を話し始める。
「やつら空挺降下でこの街を占領する気だ。この街を占領して何の得があるんだろうな」
「あなたって人は!こんな相手が私たちのことを勘違いしてくれている奇跡のような時間に!早くこの拘束を解いてください!」
勇は小野里の拘束を解くべくようやく立ち上がるが、またもや何かを考えだしたのか手を止める。もどかしさに拘束を解いたら必ず一発喰らわせることを固く誓った小野里は苛立ちを隠さず説教する。
「この状況を理解しているのですか?!今逃げればこれから機会はいくらでもやってきます!だから早くここから・・・」
「待ってくれ」
小野里の言葉を遮る勇はこれまでになく真剣な顔つきで熟考し始める。もどかしい小野里を差し置いて何かに思いを馳せる勇に内心冷や汗が止まらなかったが、こうなった勇は止められないことはこれまでの行動でよくわかっていた。そして遂に勇が顔を上げる。
「小野里、やつらの目的って第7軍への攻撃じゃないんじゃないか」
「・・・どういうことです?」
小野里は勇の考えている考えが見えてこないことに動揺していた。情報将校として活動してきたこの方、時勢を読み間違えたことは少なく、正しい物事の見方をしてきた自負もある。それなのに勇が考える自分の予想と違うという言葉には抗えない力があった。
「やつらの動きがどうも腑に落ちない。どうして今頃になって姿を現した?第7軍に紛れてまでネウロイと戦うことまでしながら・・・説明がつかないだろ」
「そんなこと悪人のすることです!我々には計り知れませんよ」
「いいや、悪人だからと言って意味のないことだとは俺は思わない。俺たちは何か大切なことを見落としてはいないだろうか」
考え込む勇を前に、小野里は殺されたバイパーを見る。彼も道半ばで倒れた同士である。そんな司令官を見て何も思うことがないわけでもない。小野里はもう一度自分が見落とした何かに思考を巡らしてみる。
「・・・第7軍に扮し、突発的なネウロイとの戦闘、及び戦闘後に第7軍とフランクフルトの包囲・占領。確かに彼らの目的と意図が分かりません。そもそも彼らの目標は我々であり、この街や第7軍の彼らを包囲することになんら魅力は・・・」
「それだ!」
突然の勇の大声に急いで勇を肩で小突く。外の誰かに聞かれてはたまらないと勇を落ち着かせようとしたが、勇はそれどころではなかった。
「小野里それだ!」
「声が大きいです!奴らに聞かれたらどうするつもりですか?!」
「そんなことより小野里!やつらの狙いが分かったぞ!」
勇は興奮気味に小野里の肩を揺すって閃きを煌々とした顔で語り出す。
「やつら、連合軍を壊滅させると言う大目標を利用して俺たちをおびき出すつもりなんだ!」
勇の目を輝かせた考えに小野里は一部納得を示しながらも首を縦には振らなかった。
「それは確かに一理あります。しかし、やつらの目標は原爆によって敵を殲滅し、世界を再編することです。ここに彼らがいては原爆を使用することは出来ません。第一、西方方面軍の主力がここに到着してもその戦力差は歴然です。逆に包囲殲滅されるのが落ちではありませんか!」
「確かに、だが自滅も視野に入れたのならどうだろうか。言っていただろう?シュベルマン中佐の戦力は歩兵連隊だろ?ここに投入された規模はおそらく歩兵3個大隊と降下猟兵1個中隊程度だ。全力とは言い難い」
小野里は外の状況を見ていない為、勇の見て来た状況判断を信じるしかなかったが、確かにその規模しか投入していないとなると確かに何か他の手段を持っている気もしてきた。
「では私たちはこれからどうすれば・・・」
勇の案に乗るとしても今後の計画がまるで分らないのでは話にならないと、先に勇の案を聞いておくことにする。すると勇は顎に手をかけ少しの間思案する。
「・・・第7軍を掌握し西方方面軍の主力を誘因する以上、少しの統率の乱れも許されないだろう。それに奴らはまだ俺がここに潜入していることに気づいていない。となると・・・これはいけるかもしれない」
「一体、何をするつもりですか?」
第7軍に潜入するときとは真逆の表情をする二人が出来上がり、勇は自分の作戦を小野里に話す。その作戦とは小野里をして驚くものだった。二人の視線は目の前に横たわるバイパーに向けられていた。
「まさか、バイパー司令に偽装して第7軍に反乱させるつもりですか?!」
「その絶好の機会が我々には与えられている」
「無茶です!あなたにはその手の才能がないことはよくわかっているでしょう?!」
勇の思い付いた作戦とは、バイパー司令に変装して掌握された第7軍の残存兵に蜂起を促すことであった。しかしながら勇にはこれまでの潜入で露見した情報戦の経験の無さが決定的な欠点となって立ち塞がっていた。だが、勇は小野里の目を真っすぐに見据えると、自分の信念を伝える。
「この第7軍および西方方面軍主力、延いてはフランクフルトを壊させはしない。人間同士の争いなんて言う愚かな殺し合いは、決して起きない!俺がさせてたまるか!!」
勇は予てより人間同士の戦いの発端人であり、その火種を繋いでしまう存在である。しかし、それを未然に防ぎ、守ってきた勇の心には嘘偽りのない信念が横たわっていた。小野里は勇の決意を不安に思った。真っ向から勝負することになる今回の作戦では必ず死傷者が発生する。そうなれば、勇の信念が揺るぎかねないからだ。それを織り込んだとしても、今回の作戦の成功は今まで以上の戦火を誘発しかねる事態となることが容易に想像できた。だが、勇の目を見る限りでは勇の心は決まってしまった。決まってしまった以上、小野里ができることはもう限られている。小野里は大きくため息をつくと、拘束された手を出す。
「分かりました。どこまでもお供しましょう。では手始めに縄を解いてくれませんか?」
「・・・ああ、よろしく頼む」
解かれた縄を後に勇への整形を行う。魔法力で勇の顔を変形させ、バイパーの顔に寄せていく。ようやく左腕を復活させ上から包帯で隠すと、バイパーの遺体から服を拝借する。姿形もバイパーとなった勇は小野里に指示を出す。
「これより俺は第7軍の将兵に接近し蜂起を促す。小野里は各所にて混乱を起こす手筈を整えてくれ」
「分かりました。その時が来たら盛大にお知らせしましょう」
「頼んだ」
小野里と別れ、倉庫から脱出を企てる。先ほどの見張りの兵士は興味を亡くしたのか既にいなくなっており容易に脱出できた。勇がまず向かった先は司令部だった。恐る恐る中を伺うと司令部に在中する兵士がほとんど入れ替わっており、なにやら通信機器で外部と連絡を取っているようだった。あたりを見渡すとどこからか声が聞こえてくる。その声は以前小野里と話していた時計塔だった。
「あそこに誰かいるのか・・・なるほど」
目を凝らしてみると時計塔の中には司令部要員と各陣地の指揮官が集められていた。戦闘終了により報告に来た将校を軒並み拘束したらしいことが伺えた。同時に報告に来た将校の代わりにシュベルマンの部下が指揮官と入れ替わり部隊に戻っているようだった。勇は少し考える。
「つまり現地の兵隊はそのままに指揮官級を拘束することによってまるまる第7軍を乗っ取ったわけか。だから一部部隊を投入しのか。残りの隊員は戦闘要員だろうがまずは指揮官を解放せねばな」
勇は目標を定めた。物陰から姿を現すと堂々と時計塔の見張りの兵士に声を掛ける。驚いた兵士は慌ててバイパーを装った勇を拘束しようとする。
「俺はここの司令官だ!少しは丁重に扱ったらどうなんだ!」
「うるさい!虜囚の身で口答えするな!」
すんなり捉えられた勇はまんまと時計塔の中に侵入することができた。小野里が見たらきっと卒倒するような手純だろうが、勇的にはこれが一番のやり方だった。中に入ると薄暗い部屋の中から指揮官たちが驚いた様子で出迎える。
「司令!ご無事でしたか!」
「ああ、この通り左腕を少し怪我したくらいだ」
「我々はもう何がなにやら・・・突然空中から兵士が降下してきたかと思えば司令部を襲撃されて・・・」
皆一様に混乱の最中にあるようで項垂れていた。しかし、そんな彼らを一瞥すると勇は将校連中に喝を入れる。
「愚痴を止めよ!」
一際通る声で放たれた言葉で一気に視線を集めることに成功する。全員の息が勇に集中したことを確認すると勇は満を持して話し始める。
「諸君らはカールスラント兵である。いくつもの艱難辛苦を乗り越え、奪われた故郷を、戦友を、家族を、誇りを取り戻さんがために立ち上がった不屈の兵士である!我々のこれからの行動はこの瞬間を変えるのではない・・・これからの歴史を変えるのだ!」
「し、司令・・・今の我々にどうしろと?」
「教えて下さいっ!」
まだ戦意が衰えたわけではないことを確認した勇は口元を綻ばせる。それを見た将校たちは一様にほっとする。
「よいかっ!今仲間が我々の脱出の手筈を整えている。その時を待ち、一斉に部隊の指揮権を奪還するのだ!」
「了解いたしました!して、どのようにこの窮地を脱されるので?」
「私に妙案がある。おそらくこれまでにない激戦になることが予想される。各員は自陣に戻り戦闘態勢を整え、指揮権を奪取せよ」
勇の妙案とやらに首を傾げながらもようやく自分たちを導く存在の出現に希望を見出す将校は輝いていた。元はカールスラント各地の激戦を戦い抜いた将兵だけあり、上からの指示さえあれば彼らはその真価を発揮することだろう。そんな期待を胸に勇は小野里の合図を待つ。一方小野里はと言うと、見張りの兵士の監視を潜り抜けある地点に到着していた。
「これで・・・よしっ!」
小野里の目の前には仕掛けられた爆薬がひっそりと輝いていた。勇が行動している間、小野里はフランクフルト中を走り回りあちこちに爆薬を仕掛けて回った。それはもうシュベルマンが今後の作戦に支障が出る程度には引っ掻き回せる自負があった。そして、小野里は勇のこれから行う作戦については知るべくもなかったが、あの勇のことだから無茶苦茶なことになることが予想され、それに乗じて勇を支援するべく行動するつもりだった。
「では作戦開始と行きましょう・・・点火っ!!」
轟音が各地で鳴り響く前、司令部を離れフランクフルトの街並みを二人の隊長が歩いていた。その二人は、フランクフルトの街を見て何も語らず、ただ歩いていた。寂れた町が息を潜める中、遠くを見つめるシュベルマンが声を吐き出すように隣を歩くケッセルリンク少佐に話しかける。
「ケッセルリンク少佐、貴官は俺の監視に来たのか?」
「我々の任務はあくまでアイヒマン局長代理の命令である、赤松勇中佐・・・いえ、反逆者を見つけ出し、始末することです。シュベルマン中佐の監視など・・・」
「ふんっ、降下猟兵なんていう精鋭部隊を俺の周りに配置するなぞ、監視以外の何物でもないだろう?即決裁判でもする気か?」
ケッセルリンク少佐と言われるこの人物は、ハイドリヒの部隊であるアインザッツ・グルッペンの中の降下猟兵大隊の指揮官である。降下猟兵とは精鋭中の精鋭集団であり、アスリート並みの運動神経と良識の知識を有する何を取っても優秀な兵科である。さらにケッセルリンク率いる降下猟兵はかつて任務で数週間の白兵戦を戦い抜いた実戦経験豊富な勲章持ちばかりを集めた猛者揃いだった。そんなケッセルリンクの正体は、アインザッツ・グルッペンの中核を為す虐殺部隊である。
「そのようなこと、仲間に対して行う道理があるとでも?」
「よく言う、オットマイヤーを殺しておいて」
「彼は命令違反を犯した犯罪者ですから。我々の中から犯罪者が出たことに我々も心を痛めているのですよ」
ぬけぬけとよく言えるものだと腹の虫が収まらないシュベルマンだったが、このケッセルリンクはアイヒマンの命令により勇と戦闘しながら取り逃がしたオットマイヤー戦車部隊の大半をフランクフルトの郊外南方で背後から急襲し、付近のネウロイに殺させていた。その攻撃がネウロイがフランクフルトの街を攻撃した本当に原因だった。そんな腹黒い人物に睨まれる中、町の至る所で爆発音が響く。その音に二人は顔を合わせて走り出す。
「ゆめゆめ忘れないことです。あなたはあなたの任務に全うすればいい」
「ああ、しかと胸に刻んでおくさ」
爆発音により混乱が拡大する中、ようやく司令部に辿り着く二人は司令部だった場所を見つめて立ち尽くす。そこにはただの瓦礫が散乱していたからだった。
「どうやら彼が動き出したみたいですよ。なんなら我々が手をお貸しましょうか?」
「うるさい、お前らでも外部と通信できなければどうしようもあるまい。大人しく我々の指揮下に入れ」
いちいち気に障る奴だと思っていると今度はまた違う方向から爆発音が聞こえる。一般の兵だけでなくシュベルマンの部下さえもその爆発音が聞こえる方向を見て立ち尽くしていた。全員が見るその方向からは地響きが近づいてきており、その震源は確かにシュベルマンの脳裏に警笛を鳴らす。
「・・・総員配置に付け。誰であろうと銃を取れ、今だけは作戦を忘れよ・・・やつめ、やりやがったな!」
シュベルマンの目線の先には三回目を数えるネウロイの大集団による第三波攻勢が始まろうとしていた司令官であるバイパーの姿をした勇は銃を下ろすと息を吐く。思考の迷いなどなく引き金を引いた感覚だけが残る中、自分のしでかしたことの行く末を見守るのだった。
「俺たちは自分たちで殺し合ってる場合じゃないんだよ・・・さあ、お前たちの大好きな戦争だぞ。やったりやられたりしようぜ」
いかがでしたでしょうか。今回の話は勇の地上での活躍をメインに書いてみました。やっぱり戦闘では輝けるみたいで私も安心しております。また勇に散々引っ搔き回される小野里には合掌です。
さて、バイパー司令がさっそく前触れもお亡くなりになってしまいましたが驚かれことと思います。これも勇や第7軍が気づかない間に侵入されていたシュベルマン中佐の急襲を演出してのことですが、混乱された方には申し訳ございません。次回はネウロイ、アインザッツ・グルッペン、勇との戦いを描いて行こうと思いますので暫しお待ち下さい!