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勇はすぐに基地に連絡し、救援を要請。すると、ミーナから10分ほどで到着するとの回答があった。輸送機を守りながらというのがネックだが、なんとかやり過ごせばあとは501で片付けられると思い、覚悟を決める。相手は大型で火力が強く装甲も高い。なんとか相手の意識を輸送機に行かないようにするのが先決だった。輸送機を見ると急いで離脱しようとしている中で、一人の少女が不安そうに怯えているのが分かった。
「10分の勝負だ。やれる…」
ネウロイに向かって射撃するがあまり効果はない。近付いて効果を上げると、威力の強いビームで針ネズミのように攻撃してくる。機を伺い、何度も仕掛けているうちに少しずつ輸送機に向かっていることに気付く。
「くそっ!どうしてそっちに行くんだ!こっちだ!」
刀を抜き、大ダメージを与えるべくギリギリまで速度を増し、攻撃を最低限の挙動でかわすと魔法力を込めて振りかぶった。しかし、攻撃をしてから勇は暗黒の世界へと転落した。
リーネは離脱する輸送機から戦闘を見ていた。なんとも華麗な攻撃と回避で、単機奮闘していた。これがあの501部隊の実力なのかと驚愕しつつ、成り行きをハラハラと見守る。私にあんなことができるだろうか。そして、一人で闘える強い気持ちが私の中にはあるのだろうか。そう疑問や不安を織り混ぜて戦闘を見ていると勇が一際目立つ大技を繰り出そうとしていた。
「なにあれ!きゃっ!!」
勇が攻撃を仕掛けた瞬間のことだった。強い閃光と音により辺り一面は包まれる。幸いリーネたち輸送機にはさほど影響はなかったものの、直撃を受けた勇は重篤な影響をもたらしていた。視界と聴覚を同時に失い、勇はパニックに陥った。
(なんだ!?何が起こった?!何も見えない!わからない!)
フラフラと飛行しているのが遠目で理解でき、リーネは青ざめる。ネウロイはじわじわと迫り、確実に勇を攻撃しようとしていた。リーネは何もできないのかと己の無力さをただ見ているこの瞬間に染み渡っていた。
「ネウロイっ!くそっ!どこだ!」
四方八方撃ちまくり、少しでも威嚇するが、自分がどこにいて、ここが上なのか下なのかもパニックで分からなくなっていた。とりあえず正面にシールドを張り、飛んでみようとするが、これが一番怖かった。少しでも進めば海や陸地に激突するのではないか。ネウロイに攻撃されるのではないかと想像するとまともに飛行できなかった。なんとか落ち着こうにも近くで風を切るネウロイの攻撃に少しも精神は休まらなかった。
(こんなときミーナ中佐の空間把握能力があれば…!)
無い物ねだりしかできず、絶えず死への恐怖が勇の心臓を鷲掴みにし、足を止めてしまっていた。そこをネウロイが見逃すはずもなく、無数の攻撃が降りかかる。ビームの先は勇の脇腹だった。シールドの外側からの攻撃で、目も耳も使えない以上避けることも敵わず、鮮血が飛び散る。
「うぐっがっ!!」ブシャ!
痛みで何も考えられなくなり、高度を落とす。しかし、これ以上落ちたら墜落するかもしれないという恐怖のみが勇をその場に立ち止まらせる。実際、リーネから見れば高度は余裕があり、落ちる心配はないが、それは五感が働けばの話である。今の勇には痛覚と肌で風を感じるしかできなかった。夜間哨戒飛行でも何度か感じたことのある上下左右不覚の感覚に似ているが、突然の出来事という突発性と敵と対峙しているという緊張感が勇から正常な判断を奪っていた。
(もうやるしかない!)
そう決心すると、先ほどのビームの方向に向かってシールドを張りつつ突撃する。外れたらあとは波の音が聞こえるところまで高度を落としてやり過ごす算段だった。何も聞こえない今、通信は意味を成さないが、連絡を入れる。
「こちら、赤松機…原因不明の攻撃により前後不覚…視覚聴覚ともに奪われ、負傷しました。ミーナ中佐、坂本さん、トゥルーデ…あとは頼みます…」
この通信が届いているかどうかはもう関係なく、一か八かの攻撃に出る。シールドだけを頼りに全速力で突っ込む。それだけを考えてあとは銃弾をばらまく。引き金を握った感触がなくなるまで撃ち続ける。眼前にはもしかしたら障害物があるかもしれない、ネウロイが攻撃をしようとしているかもしれない、どこかもわからない空を飛んでいるかもいれない、海へ落ちているのかもしれない。ただ勇は、自分が前だと思う方へと突っ込んだ。
一方、ミーナたちは全力出撃の態勢で勇と輸送機を助けるべくこちらも全速力で向かっていた。しかし、勇へ連絡を入れるが一向に返事がない。あの勇がやられるなんてことはないと信じていたが、隊員はみな不安が滲み出ていた。
「あのキーンって音のせいだよ!ゆうとの通信が妨害されたのかも!」
「かもな…なあ、隊長…ゆうは無事だよな?」
「もし困ってたら私がズバッて助けてあげるんだから!」
「少し心配…エイラがあんなこと言うから…」
「心配ないって…タロットで少し嫌なカードが出ただけなんだな…」
「勇中尉ならきっと大丈夫ですわ!そう簡単に負けるはずがありませんもの!」
各々が自分を鼓舞するように呟くが、一番焦っているのがミーナ、坂本、バルクホルンだった。
「ミーナ、どうだ?」
「一応、この先に2つの反応はあるわ。でも、挙動がおかしいの。まるで検討違いな方向に行ったり…」
二人が心配する様子を我慢できないように、バルクホルンが怒鳴る。
「ゆうは絶対に大丈夫だ!」
「トゥルーデ…」
バルクホルンはなによりも仲間を大切に考えている。自分ばかりを責めていた日々を勇と居ることで前向きに向き合えるようになっていたこともあり、また弟のように可愛がっていた勇に対して少しでも大事ないことを願っているのはバルクホルンだった。仮にもエースウィッチで、休暇明けとはいえそう簡単にやられるはずもないのだ。
「通信機がおかしくなっただけだ…なんでもなかったようにケロッとして現れるさ…」
吐き出すように言った言葉は、言っているそばから消えてなくなりそうな自信で霧散していく。その時、微かに通信が入る。
「ジジッ…不覚…視覚聴覚ともに奪われ、負傷しました。ミーナ中佐、坂本さん、トゥルーデ…あとは頼みます…」
確かに勇の声だったことに皆が耳をそば立てたが、負傷の一言で場が凍りつく。最後の一言はミーナをしても耐えきれなかった。
「こちらミーナ!聞こえているなら返事をして!勇中尉!?」
「おい!返事をしろ!どうしたんだ!」
「ゆう!ゆう!?どういうことだ!無事なのか?!お願いだから返事をしてくれ!頼むってどういうことなんだ!ゆう!!」
叫び声ともいう切なさは無言によってその危険度に置き換えられる。バルクホルンがいの一番に速度を上げる。つられて全員も無理にでも速度を上げて追従する。バルクホルンの心の中は不安で一杯だった。早く勇の顔を見て安心したかった。全員の願いも同じだった。
(ゆう…今日は楽しい日なんだぞ…お前がいないとダメなんだ!)
通信が終わり、引き金を引き続けている勇はふとバルクホルンの声が聞こえた気がした。耳はいまだに聞こえないはずなのに、あの暖かい声は勇を安心させた。
「トゥルーデ…いるのかい?」
ふと力が緩んでしまった。その時だった。かつてない衝撃がシールドを破り、勇を襲う。手元が弾け、あとは何も考えられなかった。ただ、猛烈な熱さに身を焦がし、痛みとともにどこまでも勇の意識は落ちていくのを、自分のことながら客観的に感じ取っていた。
(もう…ダメなのか?…しまったな、トゥルーデに写真あげそびれちゃったな…怒るかな?いや、きっとむくれるんだろうな…でも、きっと喜んでもらえると思うから渡したいな…はあ、幸せな時間だった。)
ネウロイはその後、501部隊により無事に撃破された。中でもネウロイの装甲に刺さっていた扶桑刀が決定的だった。かなりネウロイとしても弱っていたと見られ、全員の総攻撃で呆気なく撃墜できた。しかし、撃墜されたのはネウロイだけではなかった。赤松勇中尉、被撃墜、戦死。享年18歳、最終階級は2階級特進の少佐だった。扶桑海事変から欧州大戦まで戦い抜いた勇の死は、瞬く間に欧州、そして世界に広まった。墜落したとされる海域では現在も捜索活動が行われており、見つかったものは海中に漂っていた彼の軍帽だけだった。勇の戦死には異例の声明が数多く出された。扶桑は元より、戦死した場所であるブリタニア首相チャーチルやブリタニア国王、ネーデルランド女王。そして、天皇陛下までもがお悔やみと称賛を送った。しかし、その華やかな舞台と裏腹に501基地には暗雲が立ち込めていた。勇が戻って来なかった日、燃料が切れるまで捜索し、基地にやむ無く帰ったあともバルクホルンを始め、隊員はみな外を眺めて待っていた。特にバルクホルンは滑走路で日が落ちても待ち続けていた。ミーナと坂本は司令部からの報告を受け、絶句した。
「赤松勇中尉の戦死が確定した。501部隊は隊員1名戦死、速やかに所定の任務に戻り報告をされたし。」
無機質な声からは想像もできないほど、その一人の命は重かった。ミーナは受話器を置くと、そのまま動けなかった。坂本がミーナの肩に手を置いても、二人ともなにもできなかった。リーネは501基地への着任を遅らせることになり、3日後に到着となった。基地では勇が帰ってきた時のために祝いの席が設けてあり、その華々しさが逆に勇の存在を無性に盛り立ててしまい、誰の目からも痛々しさが発せられていた。そして、ミーナから報告があると全員を召集し、ミーナが口火を切る。
「皆さんに悲しいお知らせをしなければなりません。本日の戦闘で、我が501ストライクウィッチーズの隊員である赤松勇中尉が戦闘により…戦死しました。」
この一言で堰が外れたのか、ルッキーニが泣き出す。シャーリーが慰めるが、シャーリーも目に涙が溢れていた。サーニャやエイラも肩を寄せ合い互いを守っていた。ハルトマンは不機嫌な顔を窓に向けミーナの話を聞かないふりをしていた。ペリーヌは絶句し、あたかも希望は打ち砕かれたかのように感情が失せていた。そして、バルクホルンは堪えきれず叫んだ。
「そんなはずがあるか!勝手に決めるな!ゆうは…ゆうは帰ってくる!」
そう叫ぶと部屋を駆け出し、勇の部屋へと向かった。部屋の扉を乱雑に開けると、転がり込むように辺りを見渡す。静まりかえった部屋にはきちんと整理された机と寝床、本棚があるだけで生気がまだあるようにも感じられる部屋だった。しかし、部屋自体も主の存在を待っているかのように息を潜めていた。バルクホルンはつかつかと寝床に向かって歩くと、寝床をひっくり返し、棚を力任せに倒した。その大きな音にミーナたちが駆けつけると部屋はぐちゃぐちゃに荒れていた。その中で、一人虚空を揺らぐ目で探し続けるバルクホルンをハルトマンが止めにかかる。
「なにしてんだよ!?」
「うるさい離せハルトマン!」
ハルトマンの言葉も意に返さずバルクホルンは暴れようとする。ハルトマンは自分の力だけでは無理だと判断し、応援を頼む。
「誰か手を貸して!」
「わかった!バルクホルンよせ!」
「お、おう…手伝うよ。」
三人がかりで止めてもその怪力は少しも揺るがなかった。挙げ句にペリーヌも加わりようやく鎮静化させると、ミーナがそれすらも止める。
「みんな、止めなさい。」
「隊長!いいのかよ?!」
「もういいの…」
ミーナがそういうと、4人もバルクホルンを離す。バルクホルンが拘束から解かれ、上体を起こすとバルクホルンの目の前で屈み、目線を合わせる。そして、後ろからあるものを差し出すとバルクホルンは固まった。
「ミーナ…これは…」
「勇中尉のよ…彼はもういないの。」
それは勇の軍帽だった。ミーナが手渡すと、バルクホルンを抱き締める。それは強く強く抱き締める。すると、バルクホルンも止まっていた時間が動き出すかのように目尻からは滂沱の如く涙が流れた。勇の軍帽を握りしめ、顔を埋めるともういない勇の匂いと海水で濡れた潮の香りがして、それが堪らなく喪失感を醸し出した。ミーナ自身も不安だった心を抱き締めることで緩和させるように、バルクホルンの涙を肩で感じた。
「どうして…昨日はゆうの誕生日だったんだぞ…どうしてそんな日に…」
この世の不合理に涙を流さずにはいられなかった。涙を心のもやも一緒に流してくれることを願い、嗚咽を堪えることもせず、憚ることも厭わず泣いた。ただ、勇の軍帽についた残香だけが流れずにいつまでも漂っていた。
そして、坂本が散らばったものの中から一通の封筒を見つけた。中を見ると坂本の手が止まる。
「バルクホルン、お前にだ。」
坂本が差し出したのは写真と手紙だった。バルクホルンは奪い取るように受けとると、手紙を読む。そこには、勇の字で扶桑語で書かれた字の羅列があった。しかし、バルクホルンは扶桑語が読めない。よって坂本が再び受け取り、代読することとなった。坂本はゆっくりと読み始める。
「ゲルトルート・バルクホルン様へ
こんにちは、トゥルーデ。今日は私の誕生日です。誕生日に何をするのかとぼんやり考えてみたんだけども、何かしてもらうというのも恐縮するから私から手紙を書くことにしました。
私と会った最初の日のことを覚えているでしょう。あの日は私が死のうとした日です。毎日が怖くて悲しくて、悔しくて、眠りから覚めても現実は悪夢から覚めなくて、死ぬことだけが救いになると毎日思っていました。でも、トゥルーデに会ってから私の中の価値観は大きく変えられてしまいました。私の姉は戦争で亡くしてしまったけれど、姉に似たトゥルーデを見ているとどこか昔を懐かしむ気持ちが芽生えてしまいました。そして、その時の荒んだ価値観をトゥルーデはきちんと怒ってくれました。あの時、私の時間は再び動き出したんです。その時まで諦めの感情をぶつけられてきた私に、私の弱さを怒ってくれたのはトゥルーデ、あなたです。姉によく似ていると言いましたが、実は少し違います。私の姉はよく笑う人でした。トゥルーデも今、笑えていますか?姉と重ねてしまって申し訳ないとも思いましたが、案外心地好くて、ついつい姉さんと呼んでしまいそうなのは内緒です。きっと笑った顔は軍人としてのバルクホルンではなくて、一人の女性としてのトゥルーデなんだと思います。だから、困ったらいつでも頼って下さい。話して下さい。泣いて下さい。笑っていて下さい。私ではまだ頼りにならないかもしれませんが、私にとっての大切な仲間として、姉として、一緒の時間を過ごしてほしい。いつか私の故郷の大好きな桜の花を見られる時が来ます。戦争という残酷な毎日を少しでも幸せな毎日にしてくれたトゥルーデに、私は精一杯のありがとうを伝えます。今日という日にありがとう。トゥルーデ、姉さん、また明日。
赤松勇」
坂本は途中から潰れそうな声だったが、しっかりと読みきった。隊員たちはそれぞれの思いでそれを聞いていた。そして、バルクホルン本人は俯いたまま、拳を握って我慢していた。坂本は、目元を拭うと封筒の中の写真をバルクホルンの手前に差し出した。その写真には隊員たちが集まってなにやら食事をしているようだったが、その顔はどれも豊かな表情でバルクホルンもカメラの方を向いて微笑んでいた。当時撮られたことは覚えているが、あのときの自分はこんな顔をしていたのだと、相変わらず茶目っ気のある勇ならではの写真だと感じた。その写真を見て、胸ポケットにある本来勇に渡す写真たちを取り出した。そこには、どの写真にも笑った顔の勇と笑顔の隊員たちが、そして、バルクホルンと勇の二人で撮った幸福に満ち溢れた一枚が、屹立と輝いて写っていた。勇がいるから笑えた日常は、その写真の中にしかなかったが、その写真の出来事は確かに実在した。来る明日に勇だけがいないのはあまりにも寂しく、今日だけはとバルクホルンは恨み事を口にする。
「ゆう・・・お前には明日がこないじゃないか…」
その言葉は、戦争という化け物に飲み込まれた一人の人間の命の炎をそっと吹き消すように、誰もが勇の死を受け入れる言葉だった。
完
案外あっさりと完結させましたが、これで良かったと思っております。戦争という過酷な世界に飲み込まれたのは勇という一人の少年だったのか、果たして明日であったのでしょうか?
実は本日は2021年3月11日という東日本大震災から10年目の節目の年であります。その日に、時代背景は違えど命の儚さであったり、故郷を懐かしむ気持ちを抱く心を表す本作を投稿させていただきました。震災で亡くなられた方たちには心からのご冥福と今後の復興に向けた希望を深くお祈り申し上げます。コロナ下という大変な状況ですが、一丸となってこの難局に、明日へと希望を託して乗り切りましょう。
※本作では原作キャラが悲しむ方向で結末を迎えますが、その点でご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。この場を借りて謝罪を申し上げさせて頂きます。
ということで最後の挨拶とさせて頂きます。皆さま、ご愛読ありがとうございました。