ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さま、お久しぶりです。


大変長らくお待たせいたしまして申し訳ございません。フランクフルト攻防戦の話を投稿させて頂きます。どうぞご覧ください!


不滅の翼 第五話

第7軍は総員緊急配備を完了し、ネウロイの第三波攻撃の迎撃に躍起になっていた。フランクフルトの各所の爆発音をきっかけに始まった戦闘は、第7軍の兵士もシュベルマンの部下も躍起になって奮闘していた。当初の予定を狂わせられたシュベルマンも今だけは敵味方混然一体となって戦闘指揮に携わっていた。しかし、自分たちの作戦により司令部要員と司令官が不在の状況であり、さらい追い打ちをかけるように現場指揮官も拘束してしまったことによる圧倒的指揮官不足の状況を作り出してしまったことが追い打ちをかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!前線部隊の動きが緩慢過ぎる!これでは半包囲されかねんぞ!ケッセルリンクの部隊に応援を要請しろ!今だけは気色の悪い奴の手だろうと借りねばならん!」

 

 

 

 

 

 

 

怒号の飛び交う中、シュベルマンの部下が負傷を押して報告に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「シュベルマン連隊長!砲兵隊の残弾がもう間もなく底を尽きます!」

「な、なんんだと?!最悪だ・・・最悪のタイミング過ぎる!赤松勇のやつめ!ふざけやがって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇の所業に怒り心頭のシュベルマンを差し置いて、勇はと言うと最前線で陣頭指揮を執っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だっ!攻撃開始っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

司令官自ら最前線に立つ姿を見て鼓舞される兵士たちは根気強く戦闘を続けることができていた。しかし、いつもと異なる司令官像に一部の兵士は疑問を抱く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、本当に我々には希望があるのでしょうか?」

「希望、かね?君、その胸の勲章はどこで?」

「これはゼーロウ高地の撤退戦で授与されました」

「私もそこにいた。今我々はあの戦いを生き抜いたという歴史を持っている。希望は歴史を作るだろうか?否、歴史とはその場にいた人間の行動が編み出し、客観的な事実のみが希望を見出すのだ。つまり、我々は我々の行動にのみによってこの歴史の渦から逃れることができるのだ。違うかね?」

 

 

 

 

 

 

 

勇の些か難解な話しに兵士は一瞬考えを巡らせているようだった。そんな兵士の姿を見て勇は塹壕から身を乗り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「よく見ておけ。そしてよく覚えておくことだ。希望の有無が行動に付随するという客観的事実を」

 

 

 

 

 

 

 

勇はライフルの引き金を引くと、ネウロイが一体消し飛ぶ。目を見張る兵士たちが呆然とする中、勇は全戦線の兵士に向かって大声で号令をかける。戦場と言う混沌とした中でもよく通る声は、一瞬だけ勇に焦点を当てさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより敵ネウロイに向かって前進を開始する!敵はこちらを攻めあぐねている!古参兵、熟練兵、精兵諸君!我々の行動を、勇気を、精強さを見せつけてやろうではないか!笑え!走れ!撃て!そして私についてこい!私が希望を見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

勇が前進用意を合図すると、各陣地の指揮官が指示に合わせて号令をかける。戻ってきた現場指揮官の掛け声に尻を蹴飛ばされながら、全軍での無謀にも見える前進が開始されようとしていた。その中、シュベルマンが指揮所で頭を抱えて絶叫にも似た何かを吐き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは?!圧倒的火力の前に前進だと?!数的劣勢の中での敵中央突破だと!?一体全体どうなっていやがる?!なぜこんなにも統制が回復した!!」

「報告しますっ!バ、バイパー司令が最前線にて陣頭指揮を執っているとの報告が・・・」

「バイパーだと?!先ほど俺が撃ち殺したはずだぞ?!見間違いではないのか?!」

 

 

 

 

 

 

 

舞い込む異常事態に眩暈がしてきたシュベルマンだったが、周囲から聞こえてくる突撃の怒号がその真実を突き付けて来た。明らかに異常な行動、バイパーのような愚鈍な司令官にはできないであろう勇敢な行動にシュベルマンの心の奥底に眠る血が沸き立つのが自分でも分かった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・俺も鈍ったものだな」

「連隊長?」

「総員バイパーに従うように下令しろ。俺もここを出ていく!」

 

 

 

 

 

 

 

シュベルマンはキョトンとする部下の背中を叩くと行動を急がせる。臨時の指揮所の天幕を出るとあちこちに指示を出す。シュベルマンの歩兵連隊は即座に行動を開始し始め、バイパーに扮した勇の部隊と共に前線に向かう。その光景を見ていた降下猟兵部隊の隊長であるケッセルリンクはこう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「やはりシュベルマン中佐も一時の感情に支配される旧時代の人間のようですね。アイヒマン局長代理の意向を無視するとは笑止・・・粛清対象ですね。長いナイフの夜作戦を続行しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

ケッセルリンクがそう部下に指示を出すと、無言で頷く兵士たちは装備を整えて行動に移る。砲火が激しく木霊する街の中に消えて行った。一方、工作活動を続ける小野里は勇の行動にも目を光らせ、いつもながら無茶苦茶な行動に呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やはりあの人のやる行動って・・・考えても仕方ないか。私は早く私のできることをしなくちゃ!」

 

 

 

 

 

 

小野里はこの基地に隠されているであろう秘匿兵器である原子爆弾の発見と、アインザッツ・グルッペンの妨害を目標に行動していた。そんな時、一部部隊が不穏な行動をしているのが目に移った。なぜ不穏だと判断できたかと言うと、他の部隊は勇の指示により最前線に根こそぎ駆り出される中、明らかに市内を移動する部隊が確認できたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれってもしかして・・・勇中佐に報告しなくちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

小野里は強奪してきた無線機を手に取り勇に連絡を寄こす。轟音などの雑音が聞こえ、明らかに無茶をしていることが分かる音がノイズ混じりに聞こえて来た。勇が掠れた声で返答してきたため手早く報告を済ませる。

 

 

 

 

 

 

 

「こちら小野里、現在アインザッツ・グルッペンの不穏な行動を市内で確認しました!何か仕掛ける気です!私が対処しますか?!」

『いや止めるんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

勇の中止要求に一瞬戸惑ってしまう。しかし、勇はこういう人を殺めると言う行為に対して過剰に嫌悪感を示すことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「やられる前にこちらが動かなければやられてしまいます!」

『それは分かっている!しかし、こちらにもやつらの一派が続々と到着してきているんだ!』

「えっ?!部隊を二分したということでしょうか?!」

『いや、おそらく違う・・・なにか別の意思を感じる』

「別の意思?もしかして指揮官が二人いるとか?」

 

 

 

 

 

 

小野里は考えを巡らせるが敵が内部分裂する必要性を考えつかなかった。アインザッツ・グルッペンとはその名の通り移動虐殺部隊であり、その統一された思想の下世界を再編しようとする狂信者集団なのだ。何かが食い違っていると現実の齟齬の原因を考えようとして止める。問題は現在の敵の対処であると意識を改める。

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました、監視を続けます。でも、私がまずいと判断したら私はやりますよ?」

『・・・そうはならんよ。断言しよう。これから面白いことが起きる』

「面白いこと?一体何です?」

 

 

 

 

 

 

小野里はなんだか嫌な予感がして辺りを見渡せる高台に登る。依然最前線では激戦が繰り広げられており、こんなにも敵と味方が混然一体となった戦場も珍しいだろうと考えていると、一抹の違和感が映り込む。何かは分からないがそれが確かな違和感であることは疑いようのない事実ということだけが分かる不快感がうるさく胸を打っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に一体なんなの・・・」

 

 

 

 

 

 

 

小野里の不快感は最前線に到着したシュベルマンにも伝わっていた。それは周りの兵士からも伝わってきていた。絶望的な状況はこれまでの戦闘経験から分かるであろう古参兵や熟練兵ですら、この戦場で死ぬとは思っていないような気炎を上げていた。そしてなにより司令官自ら最前線で本当に戦っていた光景を見れば狐に包まれた気分すらしていた。

 

 

 

 

 

 

「どうしてバイパーがここに・・・」

「連隊長、今ならやつを背後から撃てます!」

「そうだな、撃とう・・・いや、撃つな」

「連隊長どうしたんですか?!俺たちあいつを殺すために今までたくさん殺してきたんじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

 

部下の声が遠く聞こえる気がした。それほどにシュベルマンは混乱していた。この状況の光景を過去の記憶と重ねていた。それは故郷のカールスラントをネウロイに奪われ、部隊が追い込まれた絶望的な状況で遅滞戦闘のみを行う愚鈍な指揮官、当時は大佐だったバイパーの姿だった。普段から好まなかった指揮官だったが、あの絶望的な状況においてなお兵士を無駄に消費するだけの指揮官に心底憎悪を抱いていた。その時一現場指揮官だった自分は独断専行を取り、多くの部下を失ったものの何とか窮地を脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは屑だ・・・そのはずなのになぜだ。兵士の命なんぞ欠片も考えていない、自分に与えられた命令をこなすだけの機械のはずだろ?どうしてこんなことができるんだよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に広がる光景にはかつての上司がおり、愚鈍と嘲笑った指揮官が部隊を率いて善戦している。人はなかなか成長できないものだ。何がこのバイパーという男を変えてしまったのか知りたくなってしまった。そして、目の前の仇はまたもや驚きの行動に出る。負傷した兵士を引きずり木陰に隠すと司令官自ら傷の手当てをし始めたではないか。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か!まだやれるな?」

「はい、まだお供させてください!」

「その意気だ!ここで仲間の進軍を援護してくれ!君の働きに感謝する!」

「はいっ!精一杯務めさせていただきますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

自分の記憶の齟齬がだんだんとシュベルマンの胸を苦しめる。シュベルマンはその痛みをかつての嫌な記憶でいっぱいにしようとする。

 

 

 

 

 

 

 

『なぜこんなところで留まっているのか!その理由をお聞かせ願いたい!』

『上からの命令だ。この作戦の意図は貴官も理解しているだろう?』

『それではこの部隊は全滅です!ここで我々が全滅してはそれこそ作戦が頓挫するのです!』

『これは命令だ!君は私の命令に従えばそれでいいのだ!』

 

 

 

 

 

 

 

この記憶はシュベルマンの胸の奥底にしまわれた忌まわしい記憶の一端である。当時、シュベルマンはバイパーの部下だった。祖国がネウロイに踏みにじられようとしている中、現状を一番理解しているのは現場であり、その現場を指揮している自分であるという自負があった。それなのに上司であるバイパーは祖国を捨てようとしているそのまた上司の言うことをただ実行するだけの案山子も同然だった。だからシュベルマンは自分の意思に従い行動した。その結果、部隊の4割を失うことになったが全滅は免れたのだった。それだけに今のこの現状の不合理性にただ突き動かされていた。

 

 

 

 

 

 

 

「第7軍の側面を援護するぞ!射撃開始っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇はじわじわと前進する部隊と共にネウロイを押していた。しかし、これは一時的にこちらの気勢に押された戦線というだけであり、ネウロイならばたちまち体勢を立て直すことは目に見えていた。そこで勇は仲間の勇戦奮闘ぶりを目に移す。崩壊しかかっていた第7軍の兵士たちやシュベルマンの部隊までもが一丸になって敵に立ち向かっているのだ。だからこそ勇は自分の持ちうる限りの幸運を使い果たす。攻撃の粉塵が周りを包む瞬間にバイパーの変装を解き、勇自身に戻る。そして、ネウロイに向かって最大威力の攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

「俺はここだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その声は市内にいる小野里やケッセルリンクの耳にまで轟いていた。しかし、勇はそれだけが目的ではなかった。その本当の目的とは、フランクフルト郊外の林の中にいる存在に向けて放ったものだった。単身孤立した勇に群がるようにネウロイの大群が押し寄せる中、勇は不敵な笑顔を張り付ける。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿で助かる」

 

 

 

 

 

 

 

勇に向かったその砲口は火を拭かず消え去る。轟音の正体にネウロイのみならず、前線部隊の全てが驚愕と歓喜の表情で迎える。

 

 

 

 

 

 

 

「戦車部隊が応援に来たぞぉぉ!!」

「パンツァーフォー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

大勢が歓声を上げてさらに意気軒高になる中、シュベルマン一味は尻餅をついてその光景に腰を抜かしていた。あり得ない存在の出現と、その正体が勇に手を貸すために参上した事実に誰もが脳の活動を停止させられていた。ケッセルリンクによって反乱分子と見做されたオットマイヤー戦車部隊は、空挺部隊によりフランクフルト郊外の森の中に追いやられ、さらにネウロイとの不意遭遇戦により全滅したと考えられていた。しかし、蓋を開けて見ればその一部はこうして生存し、戦車部隊のエースであるヴィットマン少佐がその指揮を執っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「赤松勇中佐ぁ!!来てやったぞぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車兵のエースことヴィットマンはそう叫ぶと、ティーガー戦車を自在に操りネウロイを平らげる。よく見るとようやく動いている傷だらけの戦車や車長のいない戦車も多く見られた。それほどまでに損耗しながらどうして敵であるはずの勇に突き動かされるのかシュベルマンには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「連隊長!聞きましたか?!赤松勇中佐です!やつがバイパー司令の変装をしていたんです!早く!早くやつを始末しましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

部下の催促もほどほどに、シュベルマンの意識は勇に向かっていた。どうしてこれほどまでに赤松勇という人物は人を惹きつけてやまないのか。話したこともなければ敵として認識していたし、今しがた出会ったはずの存在にどうしても何かを見せつけられているようで腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは昔の俺だ・・・ただ、俺と決定的に違うことがある!それは背負った者の重みだ!今まで俺にも理解できなかったのはこれか!なんだってこんなくそったれなことがあるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

シュベルマンはバイパーに扮した勇と自分自身の行動を取った勇の行動原理に注目した。そう注目せざるを得なかった。なぜならバイパーの変装をしたのは勇だが、勇の行動はバイパーの構想していた地帯戦闘の果てしない延長線上でしかなく、かつて自分が独断専行したような戦線に穴を穿って退路を確保する戦術とは雲泥の差があった。つまり、かつてのシュベルマンは守るべきものを守らずに逃げたという事実を全滅と言う恐怖によって正当化しただけの駄々だったと突き付けられたのと同義であった。

 

 

 

 

 

 

 

「俺の・・・俺の行動はただのガキの言い訳だっていうのか!バイパーの指示は正しかったというのか?!赤松勇の行動は愚鈍と称したバイパーの行動の延長戦上で戦っているに過ぎない・・・あいつは!俺の大義を盗みやがった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

シュベルマンは目の前で繰り広げられる戦闘に目が釘付けだった。かつての自分の行動は戦術的に見れば確かに合理的でありうるだろう。しかし、戦略次元で見た時は必ずしもそうはならない。自分たちが抜けた穴は誰かが担わなければならない。自分の代わりの誰かが戦わなければならなくなった。自分の行いは自分視点の独り善がりに過ぎなかったのではないか、そう思うと急に自我が崩れそうになるほどの喪失感に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は・・・俺は、ずっと間違っていたと言うのか?バイパーは正しかったと言うのか?じゃあ俺は何のために人の道から外れたのだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラと音を立てて崩壊する気がする視界が、自分自身を否定していることを認めようとしているようでシュベルマンは地面に手をつく。周りは必死にネウロイの迎撃をしている。仲間も第7軍もヴィットマンも勇も誰もかもが自分が正しいと思う行動を心の底から望んで付き従っている。自分の居場所がもうないと断言されたような光景に絶望を禁じえなかった。そんな時、一筋の光が手を差し伸べる。

 

 

 

 

 

 

 

「立てっ!お前には足がある!手も勇気もまだ残ってるじゃないか!立ち止まるな!!」

 

 

 

 

 

 

 

その光は眩く自分を叱ってくれる。シュベルマンはこの瞬間を心底待っていた気がした。地位も大義も膨れた自分を律してくれる上司が欲しかったのである。自分でなんでもできるし、自分の行っていることのみが正しいと信じて来た、いや盲信してきた。しかし、どこかで本当に正しいことなのかを問うてくれる、律してくれる存在をシュベルマンは待ち望んでいた。そして、その存在は言葉ではなく、行動によって示してくれた。自分が自信をもって正しいと思う『行動』によって示された。シュベルマンはその差し伸べられた手を取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「連隊長!そいつは敵です!赤松勇なんですよ!?」

「・・・もうやめだ」

「え・・・」

 

 

 

 

 

 

 

部下の困惑した声を部隊を統率する立場の者としてきちんとした決断を持って伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「これより我々は、我々の任務に戻る!我々に与えられた任務は、守るべきものを守り抜くこと!そのために戦い抜くことだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

過去と決別する旨の宣言は部下を驚愕と共に真実への回帰を果たす。部下の顔はこれまでにないほど輝いていた。部下もきっと待っていたのだろう。自分とはなんと情けなく、守るべき部下さえも巻き込んでいたことを深く反省した。そして、手を差し伸べてくれた勇に声を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

「赤松勇中佐っ!意見具申よろしいか?!」

「この戦局を乗り越えられるなら何でも!」

「敵の攻勢が緩んだ今が攻め時だっ!機甲部隊と歩兵の混成部隊の浸透戦術を提案する!」

「ああそう言うことか!」

 

 

 

 

 

 

 

勇に認めてもらえることにこれまでにない喜びが込み上げてきた。旧知の仲のような信頼感を背にシュベルマンは部下たちに命令を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「タンクデサントだっ!戦車に乗って敵の後方へ浸透する!」

「連隊長!本当にやるんですね?!」

「ああ!俺についてこい!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

勇はシュベルマンたちを見送るとヴィットマンにも作戦を知らせる。手信号で力強く『任せろ』と送られてくるあたりなかなか良い組み合わせだと思う。勇は第7軍の各部隊を集結させると、シュベルマンたちの成果を見守る。中にはシュベルマンたちの部隊の存在を不思議に思うものも出てきていた。

 

 

 

 

 

 

「あんなやつら第7軍にいたか?」

「それにバイパー司令はどこにいったんだ?」

「まあいいじゃねえか!どこのどいつだろうと!」

 

 

 

 

 

 

勇も顔を綻ばせて話を聞いていると、見る見るうちにネウロイが後方から崩れていくのが分かった。周りもざわつき始め、俄かに戦局は優勢だと理解出来てきた。各陣地の指揮官は徐々に突撃の合図を準備し始めた。勇もここで一仕事とばかりに立ち上がると前に出る。

 

 

 

 

 

 

「おいそこの兄ちゃん!あぶねえ・・・ぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

だれかが呼びかけた声は勇の明らかに魔法力を発現させた光景によって中断される。勇により濃縮される魔法力は前方で立ち往生するネウロイ目掛けて放たれ、その土地ごと耕される。その決定的な攻撃を前に、勇の正体を各陣地の指揮官は把握したのだろう。彼らも同様に顔を綻ばせると声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「「「突撃ぃ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

一斉に駆けだす第7軍の兵士たちは各々気炎を出していた。一糸乱れぬ突撃は虚を突かれたネウロイをあっという間に駆逐し、ここに第三波攻防戦の幕は下ろされたのだった。この戦いを生き抜いた兵士たちは皆一様に勝利ではなく、自身の生存を無言で実感した。握りこぶしを作る者、地面に手をつく者、天を見上げる者と三者三様ではあったが、皆その希望を噛みしめていた。それは勇もまた同様だった。

 

 

 

 

 

 

「終わったか・・・」

「赤松勇中佐」

 

 

 

 

 

 

 

声を掛けられた方向をみると、そこにはヴィットマンとシュベルマンたち部下が並んでいた。勇は黙って敬礼を向ける。すると彼らも同様に敬礼を返す。誰ひとり無傷の者はいなかったが、誰一人として暗い顔の者もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「赤松勇中佐、我ら元アインザッツ・グルッペンの歩兵連隊連隊長を務めていたアインツ・シュベルマン中佐であります」

「同じく、戦車大隊の元副長でしたヴィットマン少佐です」

「ご苦労・・・まずはそう言わせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

三人は握手を交わすと互いの顔を見て頷き合う。それが挨拶だと言うようにしっかりと見定めた。そして、シュベルマンが本題を切り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐、我々はあなたに降伏します。見ての通りもうあなたに対する戦意は失せました。もう人を恨んで生きていきたくはありません!そして、あなたの生き方をもっと見ていたい・・・そう我々で話し合いました」

「そうか・・・バイパー司令もさぞ喜ぶだろうな」

「バイパー司令、がでありますか?」

 

 

 

 

 

 

 

シュベルマンは驚いた顔をしていた。当時、独断専行をしたのは事実で、さらに彼を見限り無断で離隊をして敵対すらした。そんな自分に対してかつての上司は称賛を送るのだろうか、そう言った苦悶の表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、バイパー司令はいつも君を尊敬していたよ」

「尊敬、でありますか?」

「ああ、君のようでありたい、畏怖さえしていた。彼も君のようであれかしとこの戦いの初戦を飾ったのだ。だから、彼もきっと今の君を見れば喜ぶだろうよ」

「ああ・・・そうでしたか・・・そうでありましたか・・・」

 

 

 

 

 

 

シュベルマンはこさえた涙を軍帽で隠す。自分の手で後ろから貫いた弾丸は、そんな存在を砕いてしまった。今猛烈にかつての上司であるバイパーと話したくて仕方がなかった。しかし、その存在は自分が殺してしまったのだ。悔やんでも悔やみきれない行いに、部下も涙を流して共に分かち合ってくれる。それだけがシュベルマンの救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、勇中佐・・・決めました。我々はこれより来る西方方面連合軍主力に事情を話して投降するつもりです。その前にあなたにアインザッツ・グルッペンのことについて話しておこうと思います」

 

 

 

 

 

 

 

勇は味方となったシュベルマンの告白に耳を傾ける。しかし、その耳は別の飛翔音を捉えると同時に小野里からの警告が鳴り響く。それに気づかないシュベルマンは情報を口にしようとしていた。勇は咄嗟にシュベルマンに駆け寄るも、シュベルマンは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「我々の、ハイドリヒ長官の本当の目標は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、砲撃はシュベルマンと勇の間に着弾する。突然のことに第7軍も衝撃に包まれる。砲撃の土煙が晴れる頃、勇の声が響き渡る。耳の奥で鐘が響き渡る中、勇も必死に声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「衛生兵!!!」

「連隊長っ!!」

「シュベルマン中佐!!!」

 

 

 

 

 

 

その声に応えたのは冷徹な声だった。

 

 

 

 

 

 

「おやおやどうやら正確に誤爆してしまったようですね」

「誰だ!」

 

 

 

 

 

 

勇が顔を向けると、そこに立っていたのは降下猟兵部隊のケッセルリンクだった。大勢の部下を引き連れて第7軍を包囲していた。不気味な笑顔を向けてツカツカと歩み寄るケッセルリンクに、勇は生理的な嫌悪感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

「お前が指示したのか」

「ええ、反逆者には平等に死を。こちらも仕事ですのでね。悪く思わないでいただきたい」

「仕事?仲間を爆殺することがか?」

「仲間?その仲間とやらはどこでしょうか?残念ながら私には見えませんがね?」

 

 

 

 

 

 

ケッセルリンクはおどけたように辺りを見渡す仕草をした後に勇とう勇に抱えられたシュベルマンを見て笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「軟弱な思想に囚われ、敵と手を結ぶ者など仲間ではあり得ません。それに抹殺し損ねた屑鉄の残党もいることです。当初の作戦とは大分異なりますが、これで私の命令は完遂です」

 

 

 

 

 

 

 

銃を向けられる勇と第7軍の兵士たちは一様に何が起きたか理解していないようだった。勇もこのケッセルリンクの存在を知らず、完璧に背後を固められてしまった。勇の描いた最悪の想像に王手をかけたこの状況に勇すらも歯噛みしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「敗北主義者の集まりである第7軍と、反逆者集団を一網打尽です。さすがは私のエリート部隊ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

撃鉄を上げて拳銃の銃口を向けてくるケッセルリンクに、勇は動くことができずにいた。自分はシールドを張れば生き残れるだろうが、周りの者すべてを守ることは出来なかった。ケッセルリンクはそのことも織り込み済みで手配したのだろう。作戦失敗の四文字がここまで絶望感を与えたことに勇は憎悪を燃やすことだけしかできなかった。今この場で皆殺しにすることは出来る。しかし、それは勇の本意ではない。自分の力の使いどころを誤れば、それこそ災厄になることだってあり得るのである。勇は自分の中で膨れ上がる力が湧き上がってくるのを感じた。それは現象として勇の身体に現れ始める。

 

 

 

 

 

 

「おや?勇中佐の首筋が・・・これはこれは?!アッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

木霊するケッセルリンクの笑い声だけがこの場を支配する。ケッセルリンクは一頻り笑うと勇のことなど気にせずに勇の左腕の包帯を取り払う。するとそこから見える黒い幾何学模様に口角を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたを人間ではないと思っていはいましたが、本当に化け物だったとは!!傑作ですよ!これで局長の目標は達せられるというものだ!あはははは!!」

「その人を開放しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

ケッセルリンクの笑い声の合間から抜けてきた声に全員の動きが止まる。ケッセルリンクは後ろを振り向くと、なんと第7軍の兵士たちが銃を構えて攻撃態勢を取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら敗北主義者はこの状況すら理解できないと見た!お前らは包囲されているんですよ?銃を下ろすのはむしろ貴様らです!」

「お前こそ分かっていないな!」

「なんだと?」

 

 

 

 

 

 

 

第7軍の兵士たちは少しも動揺の姿勢は見せず、ケッセルリンクたちを狙っていた。その不動の覚悟にケッセルリンクが逆にたじろぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「その人らは俺たちの仲間だ!俺たちの希望だ!」

「てめえらが何者かは知らないが、やらせはしない!」

「屑の分際でっ!!」

 

 

 

 

 

 

ケッセルリンクの青筋が見え、拳銃を構えるも兵士たちはさらに眼光を強める。一色触発の事態に勇たちは包まれる中、小野里から通信が入る。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!ご無事ですか?!」

「小野里?!」

「届きましたっ!届きましたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

小野里の気色に満ちた声の背後からは履帯の擦れる音が断続的に聞こえてきていた。それは明らかに勇たちの方向に向かってきており、その規模がこちらより多いことが伺えた。それに気づいたケッセルリンクも青天の霹靂のごとく意表を突かれた表情となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかっ?!西方方面軍の主力?!あと一日は猶予があるはずなのに!?」

 

 

 

 

 

 

 

ケッセルリンクの言葉の通り、フランクフルトに到着した一団は西方方面軍主力のカールスラント第5装甲軍団とリベリオン101空挺師団だった。その指揮官はアフリカで勇名を轟かせたロンメル将軍、その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

『第7軍の諸君ンンン!!遅参誠に申し訳ない!!これより第7軍に合流する!!!』

 

 

 

 

 

 

ロンメルはその電撃的な進軍速度で四日かかると言われた道中を三日で駆け抜け、電撃的にフランクフルトに進駐しようと進軍して来ていた。その様子に慌てたケッセルリンクは市内にいる部下たちに指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ!やつらに今市内に入られるわけにはいきません!やつらを砲撃しなさい!」

『・・・』

「どうしましたか?!応答しなさい!!」

『ええ、こちら小野里。砲兵陣地の制圧を完了しましたよ、ケッセルリンク少佐?』

 

 

 

 

 

 

 

小野里の声にケッセルリンクは通信機を見てしまう。見たところでどうにもならないのだが、自分の完璧な計画がこうも急激にへし折られることが理解できなかった。なにより周りを見渡すと降下猟兵部隊の大半が逆に銃を突き付けられた状態で降伏を余儀なくされた状態だった。形勢逆転の自明を感じ、ケッセルリンクは笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あはは・・・はっはっはっは!エリートは、エリートは決して失敗しないのですよ・・・」

「ケッセルリンク少佐、諦めろ」

 

 

 

 

 

 

 

勇がケッセルリンクに向かって降伏を促す。脆くも崩れ去った作戦を前に、無駄な争いは望まない勇はケッセルリンクを気遣ってみせた。どんな人物であろうと居場所などそうそうなくならない。ただ生き方のベクトルが違うだけなのだ。それを元に戻せさえすれば降下猟兵部隊などの優秀な人材は必ず役に立つ。それが分かっていると信じていたが、ケッセルリンクは最後まで足掻こうとした。

 

 

 

 

 

 

「近寄るな化け物めっ!・・・一つ教えてあげましょう。あなたは世界の敵です。そのために原爆はある。だからこそ原爆は人類にとって救いの炎となるのです!」

「その原爆はどこにある!教えろ!」

「さあどこでしょうね?諦めろと言いましたか?そっくりあなたにお返しますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

そう言うとそれまで勇に向けていた拳銃を自分の顎の下に向けると引き金を絞ってしまった。答えの得られないまま、フランクフルトの街は静かに戦闘を終了した。勇は片手を顔の前で立てると黙とうを捧げる。そこに息を荒げた小野里がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「西方方面軍が到着します!合流しますか?!」

「・・・いいや、合流しては彼らの名誉に関わる。この事件はなかったことにする必要がある。そうだな、小野里?」

 

 

 

 

 

 

 

小野里に強い目線を送る。それを聞いたヴィットマンは急いで戦車に乗りどこかへ消えてしまった。その光景を見ていた第7軍の兵士までも降伏したケッセルリンクやシュベルマンの部下らを迎合して証拠を隠滅することに加担し始めた。この場のだれもがこれ以上の失態を良しとしない姿勢の表れだった。小野里は溜息を吐くと勇の意見を尊重する。

 

 

 

 

 

 

「はあ、勇中佐がそれでいいなら私に異論はありませんよ」

「すまない小野里・・・」

「いいえ、でもまた逃亡生活ですか」

 

 

 

 

 

 

荷物を颯爽と背負い、ロンメルたちにかち合わないように反対方面に逃げ足を向けると、不思議と周りの兵士たちは敬礼を捧げていた。無言の見送りは勇の姿が見えなくなるまで続いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回の話でフランクフルト攻防戦はおしまいになります。スパイもののはずがどうしてこうなった・・・さて、勇くんと小野里の冒険はまだ続きますが、そろそろ勇くん以外にも視点を当てて外部の苦悩にも焦点を当てて見ようと思います。ということで次回は勇くんによって翻弄される501について描いていきたいと思います!どうぞよろしくお願いいたします。


今回の話ですが、なんともシュベルマンが切なくて書いていて同情していました。だれしも自分の行いが正しいと信じていたいこともありますが、視点によって良くも悪くもなることってありますよね。最近自分も気づかされたことがあったのですが、問題は犯してしまった失態をどう挽回していくか、どう反省できるかだと思います。前を向いて頑張っていきましょう!ではまた!
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