ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さんお久しぶりです。


今回の話は一度勇くんの話から逸れて、外部の501を取り巻く話となっています。外部がどう勇を認識しているのかがわかる話となっていますので、久しぶりのミーナの苦悩と共に呼んでいただければと思います。ではどうぞ!


不滅の翼 第六話

フランクフルト攻防戦の情報が連合軍に伝わった頃、501基地では既に定例となってしまった緊急会議が発動していた。会議の発起人である501統合戦闘航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は不足した睡眠時間による頭痛と格闘しながら、会議の開始を宣言する。

 

 

 

 

 

 

「これより赤松勇中佐の動向を確認するための会議を開始します」

 

 

 

 

 

 

 

議場にはミーナの他に、副司令としてゲルトルート・バルクホルン少佐の他、連合軍から派遣されてきた坂本美緒扶桑海軍少佐、506戦闘航空団元司令のエドムント・グリュンネ少佐がやってきていた。四人の顔色は良くなく、ミーナ同様に事の重大さにやつれているようだった。最初に元506のグリュンネが発言の許可を求めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「グリュンネ少佐、お願いします」

「はい、こちらからの現状報告をお伝えします。先日報告させていただいたマジノ要塞攻防戦での戦闘詳報がようやく情報開示されました」

「それで、なんと?」

 

 

 

 

 

 

 

グリュンネは渋い顔を無理やり苦笑程度まで持ち上げると、暗い雰囲気に拍車をかけることを詫びるように報告する。

 

 

 

 

 

 

 

「マジノ要塞は『カール自走臼砲型ネウロイ』及び『人型ネウロイ』との“交戦”を明らかにしました・・・」

「『交戦』・・・ですか。カール自走臼砲型ネウロイとだけではなく?」

「残念ながら」

 

 

 

 

 

 

 

グリュンネの報告は会議の場を重くするのにはうってつけだった。しかし、毎度のことながらバルクホルンが議場に水を差す。この場で水を差すのは本来ならこの言葉の通りの意味になるのだが、この会議においては例外的だった。

 

 

 

 

 

 

 

「人型ネウロイがユウという断定はできない以上、落ち込む必要はないと考えるが」

「・・・そうね、その通りだと思うわ」

「そうもいかないらしいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

今度は坂本が重い腰を上げて報告を上げる。ミーナは既にこめかみを抑えて頭痛を回避しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「連合軍最高司令部ではこの件を重く受け止め、この人型ネウロイへの攻撃計画を起草するように命令が出た」

「なんだって!?」

「マジノ要塞司令官がネウロイと断定し、実際に被害を被っている。それに・・・」

 

 

 

 

 

 

 

坂本も口籠る内容に、グリュンネも同様の表情を見せる。おそらくグリュンネの下にも同じ内容の情報が来ているのだろう。それを坂本の口から言わせるあたり、自らの胃腸にかかる負担を回避した名采配と言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「現地部隊の報告で人型ネウロイの人相書きが上がった。それだけでなく、出どころ不明の写真がその人相書きと一致した」

 

 

 

 

 

 

 

坂本がテーブルの真ん中に押し出した資料は明らかに人の形をし、見覚えのある出で立ちをした人物が写っていた。その人物を見て弁護したはずのバルクホルンですら腕を組んで押し黙ってしまうほど明らかだった。ミーナは一度溜息を吐いて消えない徒労感を心の中で分別しながら会議を進行させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この写真から赤松勇中佐の生存は確認できたことを喜びましょう・・・さて、続いてですが損害の確認です。各地で発生している大規模な戦闘による損害について情報を共有できたら幸いです」

「マジノ要塞からは要塞の一部が敵勢力によって損害を被っています。詳細は防衛拠点の一部が破壊され、その際に2個中隊分の負傷者が出ています。また、全線にて備蓄弾薬に甚大な損耗を報告しています」

 

 

 

 

 

 

 

グリュンネによる損害の報告には一考の余地があるとして以前から報告の対処を退けていただけに、慢性的な報告による精神的負担が大きくなっていた。しかし、それだけに抗議の声が沈静化しない事実に頭を悩ませていた。と言うのも、501には勇と作戦行動を共にしていたことが起因して勇の行動の責任問題が生じていたからだった。勇が十全に気を配っていたことでも、僅かな綻びから勇と501が結びついてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「犠牲者については私からお悔やみを出しましょう。しかし、戦略物資の枯渇及び備蓄の損耗については管轄外です。現地司令官のガムラン上級大将がそのようなことを仰るのか甚だ疑問ですね」

「ああ、先ほど提示した写真といい、出どころ不明な情報が蔓延しすぎている。これでは我々の立場やウィッチの存在そのものが潜在的脅威になりかねんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

坂本の指摘は、凡そ正しかった。勇が関わってきた人物はおおよそウィッチ部隊に広く交友を結んでおり、グリュンネも一度506に勇を入隊させようと画策したことから506の司令官の座を追われている。とまれ、グリュンネにおいては年齢的に隊長職を辞退しようと考えていただけに渡りに船の状況ではあったのだが。しかし、グリュンネにも言い分はあった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうですね、私も上からの要請により勇中佐を506に招待したにすぎません。おそらく責任を被せられたのでしょうが、あまりにも準備万端といいますか・・・」

「そんなのやつらに決まってるじゃないか!ハイドリヒの部隊!アインザッツ・グルッペンの仕業だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

バルクホルンが立ち上がり、断言するその言葉の正体は現在進行形で勇と敵対する、アイヒマン局長代理が務めるアインザッツ・グルッペンそのものだった。しかし、この部隊の存在が最も厄介であることは誰しもが分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルクホルン少佐、それは私たちも良く分かっているわ」

「じゃあ!」

「彼らは・・・透明マントでも来ているのでしょうね」

「・・・は?」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンが肩透かしを食らったとばかりにミーナを見つめる中、ミーナは坂本に目線を移す。坂本も事情を察しているのか再び立ち上がり入手してきた情報を説明する。

 

 

 

 

 

 

 

「一言先に断っておこう、目ぼしい情報はないと」

「坂本少佐!?」

「バルクホルン、我々は彼らの力量を完璧に見誤っていた。つまりは我々の敗北だ」

「そんな・・・」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンが肩を落として椅子にもたれ掛かる。天井を仰ぎ見ても灰色の天井は何も語りかけてはこなかった。天井の染みだけが星のように広がるだけで、バルクホルンは染みの星から北極星を探そうとして止まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ・・・今どこで何をしているんだ」

 

 

 

 

 

 

 

その時だった、坂本の副官である土方が慌てた様子で入室してくる。そのただならぬ様子に坂本とミーナは腰を上げる。土方からもたらされた情報はバルクホルンの呟きに正しく答えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「フランクフルトだそうだ」

「?!」

「坂本少佐、詳しくお願い!」

 

 

 

 

 

 

 

坂本が資料をめくる音と共に視線が突き刺さる。その紙に勇がいると思うばかりの熱量が注がれていると形容すべき情報が記載されているのもまた事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

「先日、カールスラントのフランクフルト市においてネウロイと現地部隊との大規模な都市戦が勃発。第7軍は援軍のロンメル将軍率いる西方方面軍主力部隊の到着まで3日ほど耐えきったそうだ」

「坂本少佐、それで、ユウは?」

「・・・記載はない。だが」

 

 

 

 

 

 

坂本の言葉の意味が分からず憶測が錯綜する中、坂本はただ紙の資料に噛みついて理解しようとしていた。それをミーナが静かに取り上げて代わりに代弁する。

 

 

 

 

 

 

 

「『現地部隊は一様にこう証言している。戦闘終了を告げたのは軍人でも将軍でもなければ、人間でもなかった。ただ、我々は“それ”によって戦闘を開始し、“それ”によって勝利と形容すべき何かを目にさせられたのだ』と・・・これは一体」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナは坂本と同様に資料に目を釘付けにされていた。辛うじて意識を別の添付資料に向けた坂本の追加情報に五感を引き戻されるまでは永遠とも取れる時間を紙に費やしたのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

「追加情報だ。西方方面軍主力はフランクフルトで人為的な戦闘の痕跡が見られたとも報告している」

「人為的?人が戦争をしているのだから、人為的なのは当たり前だろう?」

「バルクホルンよく聞くんだ。戦争ではない。戦闘だ」

 

 

 

 

 

 

坂本の『戦闘』という言葉にバルクホルンは疲弊した脳を回転させる。ほどなくして回転させる必要もないことに結論として至ってしまう。言葉を失っているとミーナが結論を急ぐように言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間同士による戦闘・・・第7軍はカールスラントの古参兵を集めた部隊よ。それが仲間割れをするとは思えない。つまり、誰かが人間を殺し、内乱を誘発した・・・ユウと小野里さんは、そこにいたのね」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナの結論が真実であると誰もが確信した瞬間だった。このネウロイとの大戦において、人間同士の戦闘が行われたことなど前代未聞であった。また、その証拠が挙がらあないという不安要素自体が、勇と小野里の存在の間接的証明だった。明らかに誰かが隠ぺいしており、勇らが関与していることは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ、あなたはまだ人間でいられると言うの?」

「ミーナ、それは前に言っていたユウの身体がネウロイになってしまうことへの予兆か?それとも・・・」

「そのどちらもよ、坂本少佐」

 

 

 

 

 

 

 

坂本が言いかけた言葉の続きを、ミーナは知り得ていた。認めたくはない勇の本質の変化を言葉に出してしまうと、本当にそれを認めたことになってしまいそうで恐ろしかった。しかし、もう戻れないのであろうという予測が肯定してしまっていた。しかし、その言葉の続きを知りたがる、いや拒絶する人物こそがバルクホルンであった。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ!ユウが、ユウが何だと言うんだ?!ユウは!私たちの仲間だっ!仲間がネウロイになってしまうだと?!撤回しろ!」

「トゥルーデ・・・私たちは認めなければならない所まで来てしまった。いいえ、彼がそこまで到達してしまったのよ」

「わからん!わからんぞ!私にはわからない!ユウは世界最多のネウロイを倒し、我々と共にベルリンを奪還したじゃないか!ユウがネウロイになるだと?馬鹿なことを言うのも大概にしてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナの胸倉を掴んで精一杯の虚勢を張っても、ミーナの目はバルクホルンの聞きたい言葉は紡げなかった。経験という名の教師が思考を憚ることはあってはならないと、ミーナは考えている。それが士官の務めであり、将校の誇りである。それ故に、勇の行動が齎す対外的な影響を正しく認識し得ていた。しかし、それは過去形の代物であり、ミーナ自身も消化可能な影響だと自負していただけに、己の怠慢を悔いていた。人間とは恐怖が伝播する高次的な唯一の動物であると言う欠点を、誰しもが欠落したまま考えていたことを猛省するばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「待って・・・」

「ミーナ?」

「待って待って!私たちは何か見落としていないかしら!」

「ミーナ中佐?」

 

 

 

 

 

 

ミーナは今一度猛省したことを繰り返し整理してみた。自分は悪いと思ったことに対して平謝りしていないだろうかと。反省は誰にでもできる。しかし、予防は治療に勝るという古典的裏打ちに促されるとしたらどうだろうか。反省と言う治療を前提に考えていたために、今回の事態に直面しているのだとしたら、勇の行動について行ける者などいないのだ。それなのにアインザッツ・グルッペンは勇を追随しているのだ。それは予防を念頭に行動しているからと言い換えてもいいだろう。その真実にようやく到達したミーナは机を叩く。

 

 

 

 

 

 

 

「やられたっ!!」

「どうしたんだミーナ?」

「いたじゃない!」

「何がだ?」

 

 

 

 

 

 

誰も思い至らないことにこんなんにも苛立ちを抱いたことはなかった。きっとやつも彼もそう思っていたのだろうと考えると、彼らの我慢は大したものだと表彰されてもおかしくないと賛美するほどだ。だからミーナは、思い至らない『愚かな人間』にも分かるように努めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間は愚かであると最初から分かっていたやつよ!」

「それってもしかして・・・」

「あの人しかいないじゃない!」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナは最大限その人物の名前を発したくはなかった。それほどに記憶の彼方に葬らんとしていた人物を記憶の屋外に置いておいた自分が恥ずかしかった。己に課せられた自己矛盾とこうも対面させられる気持ち悪さも付け加えると、まさに亡霊が笑っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「私はこれから至急連合軍司令部に向かいます!」

「ミーナ何をするつもりだ!?」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンがミーナを諫めようと、飛び出す肩を掴むがミーナはその時間すら惜しく、さらに言えば既にミーナの頭は煮えくり返りそうなほど熱く、それでいて心はどこまでも凍てついていた。

 

 

 

 

 

 

 

「私は私にしかできないことを、為すべきことをします!あとの指揮はトゥルーデ、あなたに任せるわ。美緒、連合軍各指揮官との意見調整を!グリュンネ少佐はどうにかパイプを使って和解策を模索してください!」

「了解した!」

「分かりました。微力ながら務めましょう!」

「みんな何を・・・」

 

 

 

 

 

 

一人取り残されるバルクホルンは、どうしようもなく勇の姿を追っていた。自分には分からないことがみんなには見えていて、その先に勇がいる。自分には一体何ができるのかを考える時間だけが無情にも過ぎて行った。

一方、段取りを強引に取り付けたミーナは連合軍最高司令部に赴いていた。普段などは要請されて重い足取りで向かうものだが、今回ばかりは自分から進んで向かうことに自嘲気味に感じてすらいた。

 

 

 

 

 

 

「501統合戦闘航空団司令、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐入ります」

「入れ」

 

 

 

 

 

 

 

短い言葉を聞き、呼吸を整えてドアを開ける。先ほどの電話越しでの急な面会予約ではミーナらしからず声を荒げてしまったが、ここの部屋に入るときには随分と気分も頭も落ち着いていた。しかし、そんな様子のミーナを見ても動じない人物のシルエットに微かに怒りが込み上げてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、ミーナ中佐。こんな夜更けに何かね?」

「はい、オルハン中将閣下。今回伺ったのは他でもありません。閣下がご懸念の人物についてです」

「ほう、ちなみに聞いておくが誰のことかね?私には心当たりが多くてね」

 

 

 

 

 

 

ミーナの言うことが分かっていながらあえて惚けて見せる狸に、少しの侮蔑を心中で唱えながらミーナも駆け引きを続ける。

 

 

 

 

 

 

「閣下が今一番ご執心の方ですわ。お分かりにならないと?」

「君が来たと言うことは『あれ』なのだろうな」

「はい、閣下は彼を『あれ』とお呼びになるのですね。それは侮蔑的な意味でしょうか。それれともそれ以外でしょうか?」

「それを答えてなんになる?私はミーナ中佐、君の抱える内在的問題点を知り得てなおのこの物腰なのだがね」

 

 

 

 

 

 

ミーナは表情を動かさずに聞いてはいたが、このオルハンという人物はやはり一筋縄ではいかないと踏んだ。オルハンが指摘するミーナの内在的問題という単語だけで、こうも選択肢を消されるとは思ってもみなかった。それはミーナが抱えるウィッチとしての寿命という問題だった。

 

 

 

 

 

 

「閣下のご機嫌を損ねたのであれば謝罪しましす。しかし、私は一軍人として、統合戦闘航空団司令として申し上げなければなりません事を平にご容赦頂きたく」

「私もカールスラント軍の一司令官であり、君と同じ軍人でもある。私は部下の意見を聞かんほど狭量な人間でもないと思っているがね」

 

 

 

 

 

 

どの口が言うものだとある意味褒めるべき能天気な司令官に、ミーナは軍人として、一人の人間として意見を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

「赤松勇中佐の身柄を保障して頂きたく思います」

「無理だ」

 

 

 

 

 

 

 

即決で拒絶されることに諦めずにミーナは持論を展開する。むしろこんなに簡単に意見は覆らないだろうと対策は考えていた。それは、今日ミーナが続けている話し合いと言う口撃である。

 

 

 

 

 

 

 

「理由をお聞かせ願えますでしょうか?」

「第一に、あれは存在自体が厄介だ。第二に、あれが及ぼす影響はそれこそ世界を飲み込みかねん。最後に、我々はあれを味方であると認めない。以上だ。これで満足か?」

「大変満足しました・・・しかし、それでは閣下の主観的な感情視点での意見しか分かりません」

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

主観的、感情的といった一番嫌がるであろう言葉を盛り込んだ挑発はオルハンを完全にミーナを敵対者として認識させた。この段階をミーナは待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「閣下は彼を人間以外の何かと勘違いされているかと。将校として間違いは指摘させて頂きました」

「そうか・・・ミーナ中佐、貴官は私の考えが間違っていると申すか?」

「はい、そう確信しています」

「ほう、その根拠は?」

「はい、根拠は彼が人間だからです」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナの放った根拠に、オルハンは一瞬呆気に取られた。この一瞬という時間をミーナは攻撃の発起点として攻勢に移る。

 

 

 

 

 

 

 

「彼は私たちの声を聴く耳があります。そして、それに従う心を持ち合わせております。過分にも私には彼がネウロイ以上に閣下を怯えさせるような存在足り得ないと断言できます」

「その証左は?」

「彼の果てしない人類愛です。その証左も彼の行動如何を見て頂ければご理解いただけるものと確信しております!」

 

 

 

 

 

 

ミーナはこれまでの勇の行動と戦果を交えて思い出していた。勇はいつだって誰かのため動き、苦しみながらも誰かと手を携えて乗り越えて来た経験と実績がある。それはどんなに裏切られたと感じることであったとしても、結局は人類の、私たちの平和へと帰結しているのだ。この一点のみにミーナは終始していた。

 

 

 

 

 

 

 

「彼は我々と手段は違えども、目的は共有しております」

「ではマジノ要塞攻防戦での被害とフランクフルト攻防戦の人的損害について、彼の影響が全くないと言うのかね?」

「いいえ、否定は致しません。しかしながら、彼の行動に付随した大きな動きが衝突した結果であるという側面も見ないわけには参りません。その過程において、彼は数多のネウロイを撃破し、退けていると言う実績はどこからも否定的な意見は出ていないと、小官は認識しております」

 

 

 

 

 

 

 

 

オルハンは顎をさすりながらミーナの意見を聞いていた。互いの認識が共有しながらの会話は容易にその先にある真実も包括して見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「認識の相違があるようだな。我々はあれの実績ではなく被害を重要視しておる。いくら手柄を立てたとて、それ以上の悪事を働けば決して褒められたものではない。歴史的に見れば後世では後ろ指指される存在になり得るだろうて。私はそんな存在を野放しにした無能にはなりたくないのでな」

「オルハン司令!!悪とはなんですか?!真に悪と言うのであれば、彼はどこまでも純粋で、純真で、純正であり、悪とは正反対の存在です!彼の行動原理は我々を守ることなのですよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーナはオルハンと言う人物がここまで狸であるとは思わなかった。先ほどの自分の言葉に理解を示したかと思えば、認識の相違と一蹴して見せるその態度は曖昧なものに映っていた。だからこそ、ミーナとの話し合いは平行線を辿ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐、貴官は優秀な指揮官であることは聞き及んでいる。しかし、勘違いしてもらっては困る」

「勘違いでしょうか?」

「ああ、大いなる勘違いだ」

 

 

 

 

 

 

 

オルハンは立ち上がり、窓のカーテンを開く。灯火管制が布かれているとはいえ、司令官その人の行動はどこか物憂げでいて、どこまでも交わらない水と油だったことにミーナは歯噛みする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ほどから言っているではないか。あれは悪なのだと。我々は設定した如何なる悪も許せない。我々は常に正義であらねばならないのだよ」

「・・・おっしゃられている意味がよく理解できないのですが」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナは嘘をついた。意味を理解するのは容易だ。しかし、知らないふりでもしなければ勘違いしかねず、その勘違いはこちらの身を焦がすと警告がひしひしと伝わってきていた。明らかに放たれる『悪』という言葉は、設定されたもの、設定という言葉ほど軍隊に似合うものはない。設定を我々と言う主語を付けて放つことにより、もう間に合わないのである。間に合わないことに噛みつくのは馬鹿のすることである。その馬鹿にミーナは成り下がることに躊躇いを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「少し話を整理しよう。ミーナ中佐、貴官の所属する部隊の戦力はどのように認識されておる」

「・・・ウィッチ一人で航空戦力の1個小隊分、我々11人では増強大隊分の戦力として認識されています」

「それは謙遜が過ぎるであろう?周りからの評価は正しく伝えねばな。貴官らは世界からかき集めた精鋭中の精鋭集団だ。それが11人もおるではないか。つまるところ連隊規模か師団規模になり得る戦力だ」

 

 

 

 

 

 

 

上司からの手放しの称賛をここまで気持ち悪いと思ったことはなかった。ミーナはウィッチの部隊の実情を述べたまでだが、確かに周囲の認識ではそれ以上の戦力として認識され、あまつさえ501統合戦闘航空団ともなれば、ネウロイの軍団に対峙することのできる唯一の戦力となる。その事実を今ここで改めて説明されることの意味を真に理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「連隊長レベルの指揮官ともなれば実績も十分だろう。ミーナ中佐、貴官もそろそろ引退して然るべき年齢だろう。どうだね、大佐の階級章が欲しくはないかね?」

「・・・それは事実上の口封じ、左遷でしょうか?」

「栄転だよ。誇りたまえ。君がその気なら将官コースへの推薦も吝かではないぞ?」

「・・・お話は嬉しいのですが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

話しのすり替え、怠惰なまでの現実からのサボタージュだが、ミーナは自分の生命が危機にさらされている現状を正しく、そして否応なく理解させられていた。よしんば真に昇進を薦められているのだとしても、二階級特進の意味するところを察すれば分からされるだろう。言いたいことは、これ以上突っ込むな、である。

 

 

 

 

 

 

 

「残念だな、では貴官に命じる他あるまい。ネウロイに対抗しうる精鋭部隊に、な」

「と、言いますと?」

「今ならば、地上に降りっている今ならば成算がある」

 

 

 

 

 

 

 

ネウロイと断定した上での成算への言及。ミーナは脳内でああ、と天井を仰ぎ見る。自分の声は届かなかった。人の愚かさは怠慢や傲慢ではない。七つの大罪とはよく言うが、ミーナはそれに明確に異を唱えることができるだろう。人間の大罪は、耐えがたい『恐怖』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐に命じる。貴官ら第501統合戦闘航空団は特定の敵ネウロイを撃滅せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

オルハンが命じた命令は軍人として受け取らねば抗命として重罪である。しかし、自分の中にある正義は猛烈にそれの受け取りを拒否する。その激しいせめぎ合いの時間すら与えられないほどに事態は切迫しているのである。このような素早すぎる事態の急変を誰が知り得ただろうか。いや、誰も予想だにしなかっただろう。いやいや、一人だけ『いた』のである。どこまでも薄ら笑いを浮かべた災厄の人物が。だからこそミーナは最後まで足掻き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「その命令を受け取る前に、一つお聞きしたいことがあります」

「聞こうとも」

「閣下の正義とは、何でしょうか?」

「もちろん、貴官と同じであるよ」

「私は、ここで定義される、定義されるべき正義とは、人類への普遍的な平和であると、そう信じていたのですが」

 

 

 

 

 

 

オルハンは目だけは笑っていない笑顔を張り付けて、ミーナの意見に修正を加える。

 

 

 

 

 

 

 

「ちと違うだろうな。我々とは君、ミーナ中佐自身ではなく軍のことである。そして、正義とは普遍的ではなく恒久的な平和への究極的な追求である。我々軍人は、その正義への鋭鋒であり、手足に過ぎん。軍隊とはどこまで行ってもその延長線でしかなく、頭脳たり得ないのだよ」

 

 

 

 

 

 

ミーナはまたもや失敗を犯した。その失敗は取り返しのつかないほどの犠牲を払ってしまったのだ。その犠牲の正体は時間である。時間を誰よりも貴び、愛したのはあの人物である。どこまでも巧妙で絶妙な悪辣非道だと断じることのできる人物は今きっとミーナを見て笑っていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「正義への認識の相違があるのは理解しました。軍の存念も理解し、尊重いたします・・・が、一人の人間として軍人であっても人間を止めるべきではないと、小官はそうあれかしと痛く思うのです」

「個人的な感情で物事を図るのは軍人としてするべきではないだろうな」

「矛盾があるように感じてならないのですが」

「個人の感情ではそうだろう。しかし、全体の統一された感情はもはや感情と呼ぶにはふさわしくなかろう。それはもはや意思なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナは心底思ってしまった。私はここに来るべきではなかった。ここではなかった、と。軍隊とは意思への信奉者であり、意志によって動かされる拳である。拳に例え真に正義を語り掛け、過ちを正そうと、それはただの道具であり耳ではないのだ。だからこそミーナは選択を間違えたと認めざるを得ない。ミーナが行くべき場所は、最高司令部などではなく、政府機関だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・腐った手足はいつか切除されます。壊疽が広がる前に手術をするべきでは?」

「必要であればそうするだろう。だが、今ではない。今ではな・・・なんとも嫌な立場ではあるがね、全ては平和な将来という時間経過が置換してくれるだろう。我々は従僕な機械を演じる切るしかないのだよ」

「・・・オルハン中将閣下、閣下は役者には向いていませんわ。できることならハイマートで農業でも営んでほしいと、平和を享受した後にいくらでも語り合えましょう。だから・・・どうかご再考願えないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

オルハンはもう弱い人間を見せることを止めていた。操り人形であられる中将閣下は、ミーナに命令書を差し出して席に座るのだった。引き出しを開けて取り出したのは拳銃だった。ギョッとしつつ眺めるその黒光りする暴力装置の向きはミーナではなかった。ミーナはその意図を理解して、やむなく敬礼を繰り出すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「命令だ。第501統合戦闘航空団は特定の敵ネウロイを撃滅せよ!」

「・・・ご命令とあれば十全に任務を果たし得ましょう。我々第501統合戦闘航空団は、敵ネウロイを撃滅します。吉報をお待ちください」

「健闘を祈る」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナは回れ右をすると静かに扉を閉じる。残されたオルハンは上質な葉巻を取り出して一服する。肺腑に染みわたる煙のなんとうまいことか。紫煙を漂わせた部屋の残り香を楽しみながら連絡要員を呼び出す。通信兵は素早く電話を手渡す。訓練の行き届いた若人に礼を言うと、オルハンは電話口に声を吐き出す。

 

 

 

 

 

 

「ご用命通りに任務を遂行し終えました」

『ご苦労だった、オルハン中将。貴官の忠誠に敬意を払おう』

「仕事ですので」

『さすがだ。では、もう一仕事頼まれてくれるか?とても大事な仕事だ。難しければ私の部下を寄こそうか?』

「いいえ、それには及びません。大事ではありますが簡単な仕事ですので」

『話が早くて助かる。では、終末に』

「終末に・・・」

 

 

 

 

 

 

電話口を置いた頃には先ほどの紫煙も嫌な残り香となり果ててしまっていた。そんな不快な匂いだろうが、オルハンはそれを受け入れて深呼吸をする。そして、開かれたカーテンからは一瞬だけ閃光が煌めいたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
久しぶりにミーナ、バルクホルン、坂本、グリュンネを出せました。勇くんのやらかしをもっと大々的に描ければよかったのですが、ちょっとこの話の作風ではないなと自重しています。迂遠な表現が多いですが、それほどに勇くんを取り巻く情勢が危ういことを感じ取っていただければ幸いです。

次回からは、また勇くんと小野里の話に戻ります。ようやくこの章の最終段階に近づいて参りますので、最後までお付き合いください!ではまた!
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