ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さん、お久しぶりです。

ようやく最終段階の話を整えられそうです!勇くんと小野里、アインザッツ・グルッペン率いるアイヒマン、501率いるミーナの三方向から成る思惑が絡む話となっています。ぜひ三人の思い描く世界を想像しながらご覧ください!では、どうぞ!


不滅の翼 第七話

フランクフルト攻防戦を終えた勇と小野里は、駆け足でカールスラント南部を突き抜けていた。連日の戦闘に疲労感が蓄積された小野里はスヤスヤと寝息を立てて仮眠をとる中、勇は重くならない瞼の開くままに景色を眺めていた。風にそよぐ木々のざわめきや、滴る水音、寝静まる夜の土の匂いが一際際立つ中、自分の意識の薄れゆく感覚が支配し続けていた。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐?」

 

 

 

 

 

 

 

霞む意識が不意に現実に引き戻されたとき、勇は首だけゆっくりと振り返る。そこには寝ぼけまなこの小野里が目を擦りながら勇を見ていた。勇は朦朧としていた意識の覚醒によりようやく言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「疲れているんだろ、まだ休んでいろ」

「勇中佐こそずっと寝ていないではないですか」

「俺は・・・眠くならないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

勇は視線を小野里から外して再度景色を眺める。景色だけが心の安寧を継続させてくれる気がしていたからだ。だが小野里は一早く勇の変化に気づいていた。上着を後ろから引きはがされると、そこに露わになったのは黒い変色域が拡大した半分ネウロイの勇の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

「もうこんなに・・・勇中佐!?どこか不調はありませんか?!」

「ああ、どこにもないんだ。むしろ落ち着いてさえいる」

「はっ!心拍は?!」

 

 

 

 

 

 

 

急いで小野里が勇の背中に耳を傍立てる。小野里は聞き耳を立てて必死に心音を聞く。しかし、聞こえるのは微かな鼓動だけ。普通の人間ならまず死に際とさえ称されるほどの微弱なそれに焦燥感に駆られる。

 

 

 

 

 

 

 

「早く!安静にしないとっ!」

「小野里、落ち着け。俺は平気だ」

「平気なわけないいでしょう?!心音が弱いんですよ!死んでしまいます!」

 

 

 

 

 

 

 

小野里は言うことを利かない勇の頑固さに苛ついていた。だが当の本人はそのまま立ち上がり服を着始めて、まるで変わりがないかのようなぎらついた眼光を振り返りざまに見せつけてくる始末だった。

 

 

 

 

 

 

 

「小野里、見ての通りだ。我々に必要なのは休息と、綿密な作戦だ。そうだな?」

「は、はい・・・ですが」

「少尉、これは命令だ」

 

 

 

 

 

 

 

初めて命令されたのが休息を取ることだとは思わなかったが、こうも勇が強調し、かつ使命に忠実な勇が勝手に死ぬことはないという安堵感が再び小野里を眠りへと誘っていた。それは月明かりに照らされた勇の胸元に煌めく赤い輝きを隠すようなタイミングだった。勇は夜風からきらめきを覆うように軍服をきつく閉ざした。

 

 

一方、某所にあるアインザッツ・グルッペン移動司令部ではアイヒマンが報告書を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーデンドルフ、各所への根回しご苦労。これで我々の目的の半分は達成だ」

「それは何よりです。しかし、連合軍司令部のオルハン中将を使い捨ててよかったのでしょうか?」

「ああ、奴もハイドリヒ長官の駒だったからな。むしろ忠誠を誓えて清々していることだろう」

「そういうものでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは何度も思っているが、ハイドリヒに事務能力が秀でているから雇われているだけのオーデンドルフに辟易していた。確かに各所への根回しや部隊運営については舌を巻くほどの手腕である。しかし、絶対的に不足している忠誠心とやらが見えないことへ自分との熱量差が浮き彫りになっており、こうして度々見当違いなことを話すオーデンドルフを嫌ってすらいた。

 

 

 

 

 

 

 

「オーデンドルフ、それでフランクフルトでの損害は」

「はい、オットマイヤー戦車部隊はおそらく壊滅、シュベルマン中佐率いる歩兵連隊の内2個大隊が降伏または逃亡しました。最後に、ケッセルリンク少佐の降下猟兵部隊はほぼ壊滅したとのことです」

「おい、酷く曖昧な報告が多いな」

「はい、ほとんどの隊員があの戦闘で戦死したか降伏したため連絡が滞っています。むしろケッセルリンク少佐の部隊はロンメル将軍率いる連合軍部隊との軋轢を生みだしている始末です」

 

 

 

 

 

 

 

 

不出来な部下たちに頭を悩まされるのは常に指揮官の義務であるが、かつての上司であったハイドリヒはよくも耐えられたものだと、今更ながら彼の偉大さを再認識するに至っていた。しかし、アイヒマンはまだ笑みを忘れてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、忠臣のケッセルリンク少佐を失ったのは残念だが、それ以外の無能を排除できたのは僥倖であるな」

「そうは言いますが、既にアインザッツ・グルッペンの損耗は無視できない事態です。こちらの残存兵力はわずかに歩兵大隊と降下猟兵中隊、そして機械化歩兵大隊と我々ハイドリヒ武装親衛隊のみです」

「忠誠心の脆い部下たちをまとめて排除し、かつての無能どもを掃除する『長いナイフの夜』作戦は実行し終えたではないか。むしろ今が我々の結束が強固となり、最大限実力が発揮できるではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

オーデンドルフの忠告はまるで人的資源が半壊したと言っているかのような弱腰であり、自分の作戦意義を正しく理解していないことを残念に思っていた。しかし、それでもアイヒマンは信念を信じて疑わないことに自信を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「機械化歩兵大隊のケーニッヒ・フォルコ少佐は完全武装の上、地上で裏切者の動向をつぶさに知らせているのだろう?それに私の子飼いの大隊もある。かつてないほどの忠誠心の高鳴りに、彼らも眠れないほどだ。あいつを今度こそ俺の手で終わらせてやるさ」

「精神論が頼みとは・・・小官は転職希望を出したくなりますな」

「転職はまだ辞めておけ。これから面白いものが見られるのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは冷徹な笑みを浮かべてワインに口を付ける。なによりアイヒマンにはハイドリヒの計画していた作戦を保持し得ていた。それに、最終兵器の秘密に辿り着く者も今のところ皆無だった。それさえ無傷ならば今だ我々の勝利とさえ言えた。だからこそアイヒマンは勝利の日に酔いしれていられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちらに転んでも勝てるなんて、なんて素敵なのだろう!世界が俺の手の内にあるかのようではないか!」

「局長代理、傲慢が過ぎますよ」

「なに心配するな。奴らは必死に探しているお目当てはこの陸地のどこにもないのだから!見つけられるわけがない!空を忘れ、地べたを這いずり回るウジ虫には決して届かないのだからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

アイヒマンの高笑いは機内に響いていた。そう、機内である。アイヒマンがいる場所は上空1万3千メートルの航空機の中だった。その航空機の名は『白鯨』、ハイドリヒの忘れ形見であるB-29のその中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では最終段階に移るとしよう!『終末作戦』を!目標はカールスラント南方都市、ヴァイザッハ!平和をぶち壊せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイドリヒの宣言が高らかに世界を平和のどん底に突き落とすカウントダウンをする中、勇と小野里は作戦を練っていた。小野里は先日から物憂げな勇の代わりに情報戦を駆使して、作戦全般の立案を担っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「カールスラント南端の都市、ヴァイザッハを目指しましょう。ここまでアインザッツ・グルッペンからの逃避行及び原爆の存在を探索する目的で動いていましたが、我々にはあまり時間的猶予が残されていません。ここまでほとんどが空振りですからここらで確かな功績を上げないと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

勇は小野里の話を黙って聞いているようだった。小野里は最近の勇の静けさに、勇自身の内心の変化があるような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐、もしかしてその・・・あまり気乗りしませんか?」

「いや、そんなことはない。平和は守らなければならないし、俺もそのようにありたい。だから、小野里の言う通りの作戦でいいと思う」

「そうですか・・・その、最近と言いますか、フランクフルトでの戦いから傷心しているようにも見えましたので・・・」

 

 

 

 

 

 

 

小野里は恐る恐る勇の表情を見てみる。もしかして自分だけがアインザッツ・グルッペンを恐怖していて、勇と言う人物が諦めてしまったのではないかと思うと、どうしても取り残された気がして怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

「私はいろんな人を失い、取り残されてきました。勇中佐とて同じだと思います。だからこそ似た者同士助け合えるのではと、そう思っているのです」

「不安にさせてしまったか・・・それはすまないことをした」

「違います・・・違いますよ」

 

 

 

 

 

 

小野里の言葉は勇の簡潔な返答で収束してしまうかに見えた。しかし、小野里は勇の変化に気づき始めてしまった。勇と言う人物と短いながらも濃密に時間を共にしたからこそ、勇の変化は大きく、それでいて不気味だった。小野里は勇の変質具合に気づいたうえで無視することを止めようと、真実を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「私はあなたに謝られるようなことは何もされていません。それどころか、私はあなたに全てを賭けているのです。常々感じていた、私を酷使してくれる状態を私は嬉しいと、そう感じていました!」

 

 

 

 

 

 

 

小野里の心中の叫びに勇は無言で聞いていた。聞いていないようなそんな目ではあったが、小野里は構わず続けた。続けないと何かが溢れてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「私はあなたを地獄に突き落とした!その責任を取りたい!贖罪の機会を、贖う時間をもらいたい!それが私にできる唯一の答えだから!・・・なのに、あなたの視界には私はもういないのではないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

突き付けるような謝罪に罪悪感が芽生えたが、これだけは確認しておかなければこの先勇と行動することはできないと、直感的にも現実的にも関係の終焉に帰結することは明白だった。しかし、勇はその答えさえ小野里に与えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして答えてくれないんですか・・・あなたは諦めてしまったのですか?」

「・・・小野里、答えはないんだ」

「え・・・」

「俺にも分からないんだ。どの選択肢を選ぼうとも、俺を起点として問題は波及する。人類と言う枠組みから追われた俺は化け物として人の理を越えた何かになった。しかし、人を越えた先に何があったと思う?」

 

 

 

 

 

 

勇の視線は小野里に向いてこそいるが、小野里を見てはいなかった。まるで自分の身体を透過してしまっているかのような、そんな目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・自由、でしょうか?」

「それも真実なのだろう。しかし、自由の概念をもう一度考えてほしい。その自由はだれのものだ?自由を物と定義づけるにはあまりにも大それたものだと思わないか?」

「物の見方ということでしたら、それは往々にして考えすぎと言わざるを得ないでしょう。いかに自由を謳歌している人でも、更なる自由を求めるかもしれません。他人から見ればそれを自由とは呼ばないのかもしれません。つまるところは考え方次第です」

 

 

 

 

 

 

小野里の解答に勇は無表情のまま首を傾げて見せた。まるで言語が違うかのような素振りに小野里は困惑した。

 

 

 

 

 

 

 

「根本が違うようだ・・・自由とは探究するものだ。決して掴みえるものではない。だからこそ俺はハイドリヒが天才だと心底思うよ。やつは限りなく平和主義者だった」

 

 

 

 

 

 

 

小野里は勇の言っていることが理解できなかった。よしんば聞くことは出来ても嘔吐すら催す嫌悪感の塊が喉を埋め尽くす。敵対し、今まさにそのハイドリヒの影響によって苦しめられ、世界は破滅に向かおうとしている親玉の存在を評価している勇に嫌悪した。

 

 

 

 

 

 

 

「奴は新世界とやらの建設のために世界の半分を死滅させる悪魔ですよ!それを平和主義者?!これだけ人が死んでいて?これだけ苦しめられていて?ハハハ・・・酷い悪夢を見ているようです」

「正義とは必ず達成されるものだ。なぜなら悪だと見做した相手にすら自分の行いは正義だと信じられているからだ。ただ、その正義の成れの果てに生き残った正義だけが焦点を当てられる。ハイドリヒの大義は、我々にとっての正義の中に悪を生み出し、その悪を持って正義を成そうとしたことだ。つまり、正義の中にこそ悪があると言う矛盾を克服する土壌を醸成すること自体にあったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

ハイドリヒと視点を共有し得た勇だけに見ることの許される世界の姿を、小野里は正しいとは思わない。人類の平和のために人類を殺すことのどこに正義があるのか、議論すること自体が世界への宣戦布告に等しいと思った。小野里は決して相いれない意見を有する勇を諫めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐・・・あなたは正義を成そうとする正義の人ではないですか。どうしてあなたが進んでその正義の中の悪に栄養を与えて育てようとしているのですか。その先に実る果実は何色になると言うのでしょう?」

「限りなく平和な色に染まるのだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

小野里はもう我慢ができなかった。自我を抑制できずに勇に襲い掛かる。呆気なく押し倒し、ナイフを勇の首に突き付ける。勇を元に戻すため、戻せなくとも思いとどまらせるために本気で殺しにかかる。しかし、それでも勇の顔色は変わることがなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうして?!」

「俺の言ったことは正しいからだ。お前の今していることこそ平和への純粋な希求であるのだから」

 

 

 

 

 

 

 

勇の言われたことで小野里はハッとして勇から飛びのく。自分のした行いをこれまでの行為と重ね合わせる。重ね合わせるまでもなく、勇の言葉が正しいと気づかされてしまう。認めたくない事実、これほどに情けなく、非情な回答を自分自身で体現してしまったことが一番恐ろしく、その心理に辿り着いた勇が屹立として孤独に見えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

「私は・・・私たちは、平和へ、自由へとたどり着くことはできないと?それほど残酷な希望ある未来の架け橋は脆く、それもまた幻想であると言うのですか!」

 

 

 

 

 

 

 

怯えた小野里は前が見えなくなっていた。これまで行ってきた正義への希求を、無残にも蹴散らされ、信頼する仲間に大義を失わされた。それは小野里の存在意義を奪い去っていくかの様だった。そんな小野里を見て、勇はゆっくりと近づく。そして、その無機的で固い手で優しく小野里の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

「小野里、平和は遠い。だが、俺に任せろ。お前が賭けてくれた俺が、平和への近道を走らせてやる」

「・・・近道?」

「ああ、約束しよう。人類の大罪は俺が引き受ける、と。平和は来るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

目的を一致させた二人は、一路南下を進める。目的地は小野里の言った通り、カールスラント南方都市、ヴァイザッハだった。

 

一方、勇という敵を攻撃目標と命令を受けたミーナたち501統合戦闘航空団は、動揺と共に作戦行動へと備えていた。動揺の原因はミーナが作戦指示を明確に表明しなかったことだった。ただ、様々な情報筋から割り出された目標の所在地を割り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ、本当に我々はそこに行くのか?」

 

 

 

 

 

 

疑念に満ちた副司令官のバルクホルンの迷いを断ち切るべく、ミーナは確固たる自信をもって答える。

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、目標はヴァイザッハよ」

「作戦の内容を知りたい。それにこの作戦意義についてもだ」

「あら、内容は伝えたじゃない」

 

 

 

 

 

 

おどけてみせるミーナのあっけらかんとした態度がバルクホルンを怪訝にさせる。あまりにも不明瞭なミーナからの作戦指示は、『敵勢力からの積極的防衛』だった。これでは何を敵として、何を守るかがまるで分かり得なかった。バルクホルンは副司令官として、断固として説明を求めた。

 

 

 

 

 

 

 

「今作戦には不可解なことが多すぎる。隊員もみな困惑しているぞ!ミーナ、教えてくれ!私たちには知る権利がある!」

「私たちウィッチはネウロイに対抗できる純粋な戦力基盤よ。ウィッチの個人技量に依存した戦闘には限界と問題があるわ」

「だから、なんだと言うんだ?!」

 

 

 

 

 

 

ミーナは憤るバルクホルンを抑えることもせず、ただ自分の信念を貫くことを断行した。だから、バルクホルンをウィッチとして、人間として残すことに決めた瞬間であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「赤松勇中佐をネウロイから守ります。あなたたちは徹底して私に従ってくれさえすればいい!全ての責任は私が受けます!ここの誰も手を汚すことはさせないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナの初めての所信表明にバルクホルンは焦る。その焦燥感はバルクホルンを恐怖に陥れる。閃きの影に生臭い血の匂いを漂わせたミーナと言う光景が過ったのは初めてのことだった。だが、バルクホルン自身が知り得る限りのミーナは既に方向転換が不能なほど急降下体勢に入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「盲目だ・・・そんなにユウを愛していると言うのに、どうしてそこまでできるんだ・・・」

「物事は錬金術じゃ扱えないの。等価交換の原則は私だけで十分・・・いいえ、私がそうしたいのよ」

「ハハハ・・・愛ゆえに、か。ミーナ、成就しない、失敗前提の作戦とはお前らしくもないな・・・」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンは目の前の力強く佇むミーナという存在が神々しくかつ手の届かない霞を纏って見えていた。対称的に、ミーナは優しく微笑んで成功をほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ、トゥルーデ。失敗こそ成功の母よ」

「ミーナの未来に幸あれ、と願わずにはいられないな」

「・・・ふふふ、『神になど祈るな、幸せかどうかは私が決めるのだから』よ!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして501はミーナの決意の下、目標に向かう。こうして三者三葉の目標を据えて向かった先は奇しくも同じくも同じ場所であった。その場所はカールスラント南方都市ヴァイザッハ。ヘルウェティア連邦との国境間近の場所だった。そこに一番最初に辿り着いたのは身軽な勇と小野里だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、ようやくヴァイザッハですよ。こんなにアルプス山脈が近くに見えますね」

「ああ、あそこが目標だな」

 

 

 

 

 

 

はい、と元気よく返事をした小野里は無邪気に武器の撃鉄を起こす。戦闘準備は万全である合図だと言わんばかりに最終決戦場へと足を踏み入れる。ヴァイザッハは閑静な都市であるが。ネウロイのアルプス越えの前進拠点として認識された、列記としたネウロイの巣窟である。小野里はいよいよと事前情報を勇と共有していく。

 

 

 

 

 

 

 

「ここはアルプス越えのネウロイの前進拠点です。ここを越えられるネウロイはそうそういませんからヘルウェティア側もあまり部隊を展開してはいませんが、わざわざここなんですね」

「一度は集結した連合軍は既に各地に分散進撃している。これでは一撃での連合軍解体は難しくなる。ならばここしかなかろうよ」

 

 

 

 

 

 

勇の見据える先の急峻な山々は、青みがかったアルプス山脈であった。この山を越えた先にあるのは一つの国である。しかし、国と言うには特殊なものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにも永世中立国、ヘルウェティア連邦を破壊しなくても・・・」

「その通りだ。やつらをヘルウェティアへ行かせるわけにはいかない。このヘルウェティアと国境を接する都市、ヴァイザッハで彼らの野望は阻止させてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

小野里はアルプス山脈に覗き込まれながら、情報が書き込まれた手帳を取り出す。小野里が統合した情報によれば、アイヒマン率いるアインザッツ・グルッペンの残存兵力はこれまでにないほど削られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「現在までに分かっている情報として、アイヒマン率いるアインザッツ・グルッペンの残存兵力は、歩兵と降下猟兵部隊の残存兵がおそらく1個大隊規模。そして、ケーニッヒ・フォルコ少佐率いる機械化歩兵大隊、アイヒマン直卒のハイドリヒ武装親衛隊です」

「ケーニッヒ・フォルコ少佐はどんなやつだ?」

 

 

 

 

 

 

勇の質問に答えるべく、小野里は手帳をめくりケーニッヒ・フォルコについての詳細が記載された情報を掘り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ケーニッヒ・フォルコ少佐、機械化歩兵大隊の部隊長にしてアインザッツ・グルッペンの補給線を担っていた兵站部隊です。その際、武器を搭載し兵力化された部隊を率いているためなんでも屋と言ったところでしょうか。はっきり言ってこれまでの者と比較するとあまり特徴のない指揮官です」

 

 

 

 

 

 

 

小野里の説明で勇は少し考え込む。これまでに戦ってきた戦車大隊や歩兵連隊、降下猟兵部隊はいずれも戦意旺盛でかつ部隊の練度も高かった。それだけに今まで姿を現さなかったことに違和感を覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「小野里、ケーニッヒ少佐の人柄を知りたい。何か情報はあるか?」

「はい、しかし私もあまり彼とは接点がなく私自身の印象はありません・・・が、彼はハイドリヒの側近中の側近です」

 

 

 

 

 

 

小野里の解答で勇は少しの不安を覚える。ハイドリヒという人物に近ければ近いほど、人間として何かを魅せられているのである。勇もその一人であるからこそそのことがよくわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「では、ケーニッヒ少佐は忠実な兵士だと?」

「私がハイドリヒに仕えていた頃、よくハイドリヒはケーニッヒ少佐を活用していました。そこから類推しますに使い勝手がよかったと考えられます」

「そういう手合いは厄介だな」

 

 

 

 

 

 

勇はアイヒマンの戦力を正しく分析し得ていた。勇の信じる戦力基盤とは、個人の技量や規模ももちろん重要だが、一番大事なものは戦意や精神力といった中身であると信じてやまなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おそらく相手はかなりの結束を見せてくるだろう」

「対してこちらの戦力は・・・」

「まあそう落ち込むな。全ては俺の味方だ」

 

 

 

 

 

 

そういう勇の視線の先にはただ広大な自然が広がっていた。対して、その頃ヴァイザッハ南方に到達しようとしていたアイヒマン率いるアインザッツ・グルッペンは、局長代理であるアイヒマンの訓示を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「諸君、戦友諸君、これより我々は世界の目を覚まさせてやりに行くぞ。言うなれば我々は鐘だ。心地よい響きは眠れる世界を優しく起こすだろう。より大きく、雄大に、そして劇的に・・・我々は一生不滅の忠誠を誓った門徒に過ぎない。だが、事ここに至ってはこの世界を導けるのは信じる者だけである。さあ、一緒に奏でよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは拳銃の撃鉄を起こす。命を奪う金属音が響くことに興奮を覚えた隊員たちは頬を紅潮させてそれに倣う。

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい音色だよ、諸君!我々の戦争音楽を奏でるとしよう!歌のように撃ち、ワルツのように穿ち、オーケストラのように刺突しよう!例えバラバラに引き裂かれて死のうが、ぐちゃぐちゃに潰されて死のうが、呆気なく死のうが、笑って殺そうではないか!いくつもの屍を越えて行け!」

「「「おおおおおお!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

男たちの雄たけびは共鳴し、心を揺さぶった。あらゆる暴力の音楽がアイヒマンを絶頂へと押し上げる。満足げなアイヒマンは、右手を前へと突き出す。不気味に笑みを携えて吠えるは地獄の始まりの挨拶だった。

 

 

 

 

 

 

 

「戦友諸君の健闘に期待する・・・忠誠を!!!」

「「「忠誠を!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

地獄の窯が開かれる中、第501統合戦闘航空団は一路ヴァイザッハに向けて南進を開始していた。一様に不安げな顔をした隊員たちを気にする素振りもなく、隊長であるミーナの表情は真剣そのものであった。それを見た宮藤が心配げに隣を飛行するバルクホルンに問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

「バルクホルンさん、あの私・・・今回の作戦がどういうものかよくわからないんですが、ネウロイがいるんですよね?」

「宮藤、実のところ私にも分からないんだ」

「え・・・」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンは力なさげに宮藤の表情を見ずに問いへの答えとする。これまでの作戦とはまるで毛色が異なる作戦に従事させられる仲間たちにはなんと説明すればよいか、今の今まで思いつかずにいた。作戦の決行を決めたミーナも今回の作戦の参加に関しては志願制を取っていた。しかし、隊員たちはミーナを信じて全員がついてきたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「ネウロイがいないとなると、あっ!いつもの威力偵察でしょうか!」

「・・・いや、偵察ではない、と思う」

「じゃあ一体何のために」

「大丈夫だ、これは、今回の作戦は上からの命令だ。そして、それを進めるのは我々ではなくミーナだ」

 

 

 

 

 

 

宮藤の問いも尤もであるが、バルクホルン自身今回の作戦に関してはミーナが全ての責任を請け負うことを明言していた。自分らしくないことこの上ないが、バルクホルンにはもうどうしようもないほどミーナの意思が固まりすぎていた。だから、バルクホルンとしては命令を強調するに留まらざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「でも私、思うことがあるんです」

「なんだ、宮藤?」

 

 

 

 

 

 

宮藤は胸に手を当て、目を閉じる。それはまるで女神が慈愛を分かつかのような光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

「きっとミーナ隊長は、守りたいものがあるんです」

「宮藤・・・」

 

 

 

 

 

 

 

バルクホルンはまさにその通りだと言う肯定が素直にできない状況に拳を握るしかなかった。しかし、状況はここにきて大きく動こうとしていた。突如前方を飛行していたハルトマンが警告を発したからだった。

 

 

 

 

 

 

 

「進路上の前方で爆発煙を確認!戦闘状態みたいだよっ!」

「一体どこの部隊なんですの!?」

 

 

 

 

 

 

 

一早く見つけたハルトマンと、ペリーヌが声を上げる。覚悟していた戦闘が開始されている緊張感に全員が包まれる。そして、ようやく全てを覚悟しきった隊長であるミーナが命令を発す。

 

 

 

 

 

 

 

「目標、進路上のネウロイ!きちんと敵を確認した上で攻撃してください!むやみに攻撃することは許しません!」

「ミーナ!味方が戦ってるってこと?」

 

 

 

 

 

 

ハルトマンがミーナに予想される正しい質問をするが、その答えを知る者としてはミーナの回答が一日千秋の思いだった。その質問に対し、どう返すかによってミーナの本当にやりたいことが見えてくると考えたバルクホルンは、ミーナの回答を待つ。そして、その答えは時を刻んで解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「味方は私たちだけよ!それ以外は『味方では』ないわ!」

「それってどういうことですか?!」

「これは私の仕事です!みんなは作戦空域に現れたネウロイを攻撃して!それまでは決して攻撃しないで!」

「な、何が起きるんですか・・・」

 

 

 

 

 

 

誰もが思った疑念を、宮藤は怯えた表情で呟く。全員が歯を食いしばって理解できる光景を求めたその時、眼前に広がったのは、『戦争』だった。醜く、脆く、残酷な闘争がそこには広がっていた。そこにはネウロイはおらず、大勢の人間が山際に追い詰められた人間たちと激しくぶつかり合っていた。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは・・・」

「人だ・・・人じゃないか!」

「どうして・・・」

 

 

 

 

 

 

おぞましい光景は時に語彙力を喪失させる。その中でただ一人、目標を探索する指揮官がその眼光をぎらつかせる。

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた・・・」

「ミーナ!いたのか!?ユウなのか?!ユウがいたのか?!」

 

 

 

 

 

 

 

バルクホルンの言葉に全員の視線が集まる。全員の頭の中を支配する疑問を置き去りに、指揮官は命令を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦、開始っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。カールスラント南方都市ヴァイザッハを舞台に繰り広げようと話を展開していますが、実際地理的に私は納得ができていません。と言うのも、ストパンの公式HPには欧州地図の内、カールスラント記載には南方都市がヴァイザッハしかなく、アルプスとの境界線である地域情報が皆無なため、起債のあるヴァイザッハを舞台としております。その点はご容赦いただけますようお願い申し上げます。

さて、次回から遂に最終決戦が始まります。ようやくこの話も完結に向けてラストスパートを決めました!長らくご愛顧いただいておりますが、最後までお付き合いいただけると幸いです!ではまた!
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