ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さま大変お待たせいたしました!


これより「君の明日は」の最終段階に突入いたします。今回の話は戦闘がメインとなります。そして、小野里と、あの人物がタッグを組んでの戦闘です!ぜひご期待ください!
ではどうぞ!


不滅の翼 第八話

『この日、戦闘は突然始まった』、これは戦後回顧録が出版されたとある元ウィッチの原稿の未完成部分の一行である。これに形容されるように、突然戦闘は開始されたのだった。戦闘開始の合図はアインザッツ・グルッペンの攻撃からだった。

 

 

 

 

 

 

「攻撃開始」

 

 

 

 

 

 

この言葉により勇のいるアルプス山脈を背にした陣地は激しい攻撃に晒された。野戦砲や迫撃砲、機関銃の弾があちこちから降り注いだ。猛烈な攻撃に辺り一面は土煙が立ち込め、岩は崩れ去る。耕された土を踏みしめるように、その後から暴力が振り下ろされてくる様は、さながら地獄を挺していた。その中で、一人の男は黙って見ていた。徹底した暴力の鎌が近づいて来るのをまるで逆さのアルプスを映し出す湖の湖面のように静かに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうそろそろいいんじゃないか?!』

『勇中佐!敵の足音が聞こえてきました!早く!』

 

 

 

 

 

 

 

仲間の声がその危機的状況を知らせるが、それでもなお勇は待ち続けた。敵が地を耕し、大地を殺しながら進み続け、だれかをぶち殺そうと迫ってくるのを山のように待ったのだった。それに遂に仲間は痺れを切らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

『もう我慢できない!攻撃をさせてくれっ!』

 

 

 

 

 

 

 

まるで石像にでもなったのかと疑われるほどに勇は動かなかった。そして、遂に小野里の声が届く。

 

 

 

 

 

 

 

『敵後方陣地見えましたっ!敵前線、顔が確認できますっ!繰り返しますっ!敵の顔が見えます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

その報告を聞いて初めて、勇は顔を上げた。そして、身を乗り出して全員に伝える。その勇の声は全兵士の心を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

「反撃開始っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

勇の言葉と同時に一斉に開かれる砲門は、付近の敵を薙ぎ払い、後方の敵を吹き飛ばす。突然の反撃と反撃の手数にアインザッツ・グルッペンは一瞬の間を奪われる。曰く、アインザッツ・グルッペンの兵士の一人はこう叫んだと伝えられる。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして兵士が!戦車がいるんだっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

勇はこの戦場の態勢を振り返る。フランクフルト攻防戦の最中、勇は彼らと作戦を共にした。その彼らはその場を後にしたのち、再び勇の下へと現れたのだった。小野里と訪れたヴァイザッハには、既に完全武装の上で待機していたヴィットマンら元アインザッツ・グルッペンの兵士たちが待機していた。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた・・・ヴィットマン少佐ですか?!」

「いかにも、我ら赤松勇中佐の指揮下に入りたく馳せ参じました!どうか、我々を使ってください!」

 

 

 

 

 

 

 

勇と小野里の眼前には、ずらりと並んだ戦車と歩兵が整列して鎮座していた。その首魁を元オットマイヤー戦車部隊の副長であるヴィットマン少佐が務めており、その光景に小野里は興奮とも呆れとも取れない何かを吐き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐・・・あなたは磁石か何かですか?どうしてこうもおバカが引き寄せられるんですか?まあ、私もその一人なんですけど・・・」

「なに小野里少尉、そう悲観することもあるまい!我らは確かに少数の敗残兵に過ぎん。だが!我々は戦車計22輌、歩兵2個中隊が揃っている!戦力が君たちだけだと過信しているやつらをぎゃふんと言わせてやることができるぞ!」

「はあ・・・だからこういう馬鹿は嫌なんです」

「なにおう?!」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンと小野里の一方通行の話を聞いて、勇はヴィットマンの手を握る。その光景に惚れ惚れしたのか、ヴィットマンなどは涙を流して感極まっていた。

 

 

 

 

 

 

「本当にこの男たちときたら・・・馬鹿は惹かれ合うんですね。心に刻んでおきます」

「ヴィットマン少佐、諸君の協力に感謝する」

「いえ!我らこそ戦場を失い、路頭に迷う子羊でありますれば、かつての敵と手を携えるという光栄に打ちひしがれております!感動と言う言葉をこれほど感じたことはありません!我ら一同、全力でお仕えいたしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

こうしてヴィットマン一団は勇の下に集い、対アインザッツ・グルッペンの先駆けとなった。勇はこのことも予期していたのか、小野里が頭を抱える中、ヴィットマンを含め戦力を効率的に運用するため、作戦会議を開いていた。

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐、もう一度君たちの戦力状況を教えてくれ」

「はっ!我々は戦車22輌と、歩兵が2個中隊が揃っている!」

「つまり戦車も歩兵も2個中隊規模か」

「しかし・・・」

「なんだ?」

 

 

 

 

 

ヴィットマンは恥ずかしそうに、もとい面目なさそうに戦力事情の裏側を伝える。ヴィットマンから飛び出す本音に小野里が頭を抱え直したのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「実は、戦車も戦車砲も未だ健在ではあるが・・・その、燃料がほとんど・・・すまん」

「はい?!動かない戦車なんて車じゃなくてただの砲でしょう?!」

「なにを言う!!かき集めれば2,3輌少しは走れるわ!それに砲に車輪がついている限り何と言われようとあれは戦車だっ!」

 

 

 

 

 

 

自慢の戦車を小野里に貶されご立腹のヴィットマンだったが、確かに動かない戦車はただの砲に過ぎない。しかし、勇はそんな砲ですら戦力に仕立てる考えがあった。

 

 

 

 

 

 

「戦車は固定砲台として使用する」

「そんなご無体なっ!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンが機動戦をしたがっていたのは知っていたが、小野里はこういう時の空気の読まない勇をよく知っている。いい気味だと言わんばかりに舌をヴィットマンに向ける小野里だった。そして、落ち込むヴィットマンを差し置いて話を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「この山岳地帯には丘陵な場所や岩肌、窪みが多数存在する。そこに戦車を隠す。敵は君たちの存在を知らない。ならば、こちらが伏撃してやろう」

「歩兵はどうしますか?」

 

 

 

 

 

 

小野里の質問に、歩兵の責任者であるホーフェン大尉が背筋を伸ばす。彼はフランクフルト攻防戦で、シュベルマン中佐の副官を務めていた人物である。彼が勇の下に来た理由も彼らなりに苦悩した果てのものだった。

 

 

 

 

 

 

「ホーフェン大尉、君はどうしたい?」

「私は・・・シュベルマン中佐殿の、連隊長の仇を取りたく思います」

「ほう、個人的感情であると?」

「いいえ・・・我々はカールスラント撤退戦で、あのバイパー司令の部下でした。しかし、激戦の末シュベルマン中佐が現状を打破してくれたおかげで今の我々がいます。そんな連隊長が、フランクフルト攻防戦であなたに心を許した。ならば、我らはそれに従うべきだと、それが使命であると、そう考えます」

 

 

 

 

 

 

勇はホーフェンの目をじっと見つめる。ホーフェンも勇の目を覗き込んでいた。そして、束の間の時間が過ぎた時、勇は目を閉じて口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「君らは自由だ。もう戦う理由はない」

 

 

 

 

 

 

ここに来ての戦力の放棄は小野里としては目が飛び出るほど愚策に思えた。とち狂ったのかと疑った小野里は勇に食って掛かる。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!いくら元敵でも彼らは協力を申し出てくれているのです!ただでさえ人手が欲しい時ですよ?!みすみす手放すんですか!?」

「小野里、俺はホーフェン大尉の気持ちを聞いているに過ぎない。気持ちで劣る者に、この戦いは生き残れない」

 

 

 

 

 

 

勇の言葉を聞いて、小野里はホーフェンに目を配る。すると、ホーフェンは分かっていたかのように目を伏せて拳を握っていた。勇に言われるまで人手がいればいいと思っていたが、小野里は根本的なことを思い出していた。それは、この戦いは元より意思のぶつかり合いなのである。そんな中に他人に決められたルールに縛られる者は不要なのである。そのことを失念していた小野里は、静かに引き下がる。そして、ホーフェン本人は決断に迫られる。

 

 

 

 

 

 

 

「ホーフェン大尉、俺に協力してくれるその気持ちは嬉しく思う。しかし、君たちはこれからも生きる権利がある。それに、戦わないという選択肢も十分に残された未来ある人間だ。だから、ここで君が戦いたいと心から思わない限り、俺は君たちをこの戦いに参加せるわけにはいかない」

 

 

 

 

 

 

勇の言葉には、これまで培われた経験と自分には望みえなかった願望が詰め込まれていた。思えば様々な困難や裏切り、戦いに身を投じて来た勇は自分で選択こそすれ、その選択肢が非常に絞られた選択をしてきた人物なのだ。だからこそ、勇は選択肢が豊富にあるホーフェンという人物に問いかけていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「一応君にも聞いておこう。ヴィットマン少佐、君は・・・」

「私は戦いに来たっ!敵が何であろうと知ったことではない!俺は戦車を動かし、あのアハトアハトを敵にぶち込む!そのことだけは誰にも負けたくないのだっ!」

 

 

 

 

 

 

食い気味に答えられた解答に小野里は引いていたが、戦う意思と理由としては百点そのものだった。そして、焦点はホーフェンに戻される。迷いを見せた時点で退場を迫られるこの状況で時間は有限である。その場で判断できなければこの先の重要な局面でも迷うことになる。そんな指揮官の適性をも見定める勇を小野里は感心して見ていた。ホーフェンは、大きく息をゆっくりと吐きだすと勇に向き合う。

 

 

 

 

 

「私は、逃げたいと思います」

「そうか・・・」

 

 

 

 

 

 

勇は目を閉じて、ホーフェンの意思を尊重しかけた。しかし、ホーフェンの答えは続いていた。誰よりも慎重な言葉は、その場の全員の衆目を集めるのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

「私は、私と言う臆病で、自分を持つことができない、そんな自分から逃げたい!」

「ここは逃げ場所ではないぞ?」

「ここは戦場になるでしょう・・・しかし、私は今まで戦場から逃げて来た!いつもいつも逃げた!逃げた先でも逃げるあの屈辱はもうたくさんだっ!最期くらいだれかのためにこの逃げを使いたい!いけませんでしょうか?!」

 

 

 

 

 

 

心の決まった言葉はまっすぐに勇に向かう。勇はそんな言葉をしっかりと受け止めて微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

「君とは善き仲間になれそうだ。君を歓迎しよう。もう、逃げなくていいぞ。心強い逃亡者よ」

「はああ!・・・はいっ!・・・くぅっ!ありがとう・・・ございます!」

 

 

 

 

 

 

その場で崩れ落ちることを何とか耐えるホーフェンの涙は、温かく、そして笑顔から溢れた涙だった。こうして絆を結んだ勇率いる防衛部隊は、アインザッツ・グルッペンを待ち構える伏撃戦を展開したのだった。時は戻り、現在反撃を受けたアインザッツ・グルッペンは戦車砲や機関銃射撃といった伏兵に手を焼いていた。アインザッツ・グルッペンの指揮を執る、機械化歩兵大隊の隊長であるケーニッヒ少佐は窮状を訴える。

 

 

 

 

 

 

「アイヒマン局長代理っ!こちら地上部隊、現在敵装甲混合兵力と会敵っ!戦車砲が進行の邪魔をしています!」

『戦車だと?どういうことだ?』

「オットマイヤー戦車部隊の生き残りだと思われます!さらに歩兵部隊により我々の前線部隊は既に壊滅状態です!至急救援を!」

 

 

 

 

 

 

ケーニッヒは必死に指揮官であるアイヒマンの救援を乞うのだが、アイヒマンは非情な人間であるということを失念していた。アイヒマンはその通信機越しにも伝わる、おぞましい声で命令を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

『ケーニッヒ少佐・・・忠誠を、見せてくれたまえ』

「っ!揺るぎのない・・・絶対の、忠誠をっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ケーニッヒは力なく通信機の電源を落とす。賽は投げられたと、ケーニッヒも覚悟を決める。部隊は突然の反撃に吞まれているが、規模で上回る自分たちならばやれなくはない。ほとんど者が死のうがこの戦いはどちらかが滅びるまで続くのだ。であればと、ケーニッヒは指示を伝達させる。

 

 

 

 

 

 

 

「やつらの首を締めあげてやれ!やつらは脆いぞ!数で押し切るのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

ケーニッヒの指示により意識を取り戻した機械化歩兵大隊は、再度前進を開始する。もとより練度が高い部隊なだけあって、指揮の回復により統制は取り戻しつつあった。それを見ていたホーフェンは歯噛みして勇へ連絡を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!敵の進行止まりませんっ!このままでは前衛陣地が取られますっ!」

『あくまでこれは持久戦だ。敵の出血を強いてこちらの消耗を抑制することに頭を使おう』

「わ、わかりました・・・狙撃による敵前衛の排除を試みます」

 

 

 

 

 

 

 

ホーフェンは目の前で繰り広げられる戦闘に頭が狂いそうだった。これまでアインザッツ・グルッペンとして活動してきた身としては、人を殺すことに長けていたが、それだけでは贖いきれない意思と意思のぶつかり合いに心が潰されそうだった。しかし、負けそうな心を踏み止まらせるべく自身を鼓舞するように声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「負けるなっ!歩兵の底力を見せつけてやれっ!」

「ホーフェン大尉!敵の装甲戦力を視認っ!装甲車ですっ!」

 

 

 

 

 

 

 

部下の報告によって双眼鏡を取り出すと、たしかに後方から装甲車が近づいてきていた。しかし、装甲車としては明らかに遠方から現れたと考えていると、装甲車の天井から何かが顔を出す。その何かのシルエットをホーフェンはよく知っていた。ゾクリとした寒気が背中に走り、急いで無線に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

「パンツァーファウスト!急いで逃げろっ!!!」

 

 

 

 

 

 

その声が聞こえる頃には前線にいた固定砲台化した戦車が3輌ほど火を噴きだしていた。歩兵こそ知り得る対戦車兵器の存在を失念していた自分を殴りたくなる。歩兵はそもそも脆いのだ。それを誰よりも理解していたはずの自分が情けなく、思考が停止しかけた。正しく言うならば、踏み止まることができたのだ。これも自分で決断するという力があったことが大きかった。すぐさま対応策を考える。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐、白燐弾の使用をお願いします!」

『煙幕だな!了解した!』

 

 

 

 

 

 

かつて勇に使用した非人道兵器である白燐弾を、今度は目隠しとして使用するその機転の速さにホーフェン自身驚いていた。自分で判断することの責任の重さに相対して導き出される最適解を行動に移すことのできる自分に、変な感情だが名前を付けるとすると『喜び』に分類される何かが心を満たし始めていた。

 

 

 

 

 

 

「煙幕を利用して野戦砲を前進させろ!あとは直接射撃で敵装甲車を破壊するんだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

ホーフェンの指示により陣地から部下が飛び出していく。その頼もしい姿に安心を覚え、ヴィットマンの正確な白燐弾射撃が辺りを包み始める。この光景を見ている勇と言う存在を後ろで感じていられるからこそ、不思議と自信が湧いてくるのは戦場の七不思議と言えるだろう。なにせ自分の指示に対し全幅の了承を勇は出していたのだった。信頼と言う言葉はホーフェンに大きな力を与えていた。煙が晴れてきた時、突出した野戦砲部隊から攻撃の発射音が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

『ホーフェン大尉っ!やりましたよっ!装甲車の無力化に成功っ!』

「よくやった!急いで戻ってこいっ!」

『いいえ!あと1輌残っています!それを片付けてから!』

「おい!もういい!ただでさえ突出しているのだぞ!」

『やらせてください!行くぞお前たち!』

 

 

 

 

 

 

威勢に乗った部下たちの暴走に、後方に留まる指揮官としてのホーフェンは何もできなかった。制止を振りほどいて先走る部下の安全は後方では守ることは出来ないのだ。その予感は的中する。野戦砲部隊が続きの敵を捕捉する中、絶命の悲鳴が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

「ホーフェン大尉!敵バイク部隊が前線の野戦砲部隊を襲撃!」

「くそっ!機械化歩兵大隊の花形連中めっ!」

 

 

 

 

 

 

機械化歩兵部隊にはバイク部隊が存在し、そのバイクの操縦技術は戦前のレースにも出場できるほどの腕前の持ち主ばかりだった。小回りが利いて戦場をかき乱す存在の出現と打撃部隊の壊滅に現実を思い知らされる。あれだけ小回りが利くと戦車砲でも捕捉は難しい。そして、なけなしの歩兵がたった今半分が天国に召喚されてしまった。かつての上司が貶した指揮官はこんな非情な現実にも耐えられたことを思うと胸が痛くなった。そんなとき、勇から通信が入る。

 

 

 

 

 

 

『ホーフェン大尉、聞いているか?』

「勇中佐・・・我々は、これまでかもしれません」

『逃げるのはもうやめたのではなかったのか?』

「・・・逃げません」

 

 

 

 

 

 

勇に言われるとドキリとするが、自分が勇の前で誓った言葉は真実だった。否、真実にするのだ、そう決めていたホーフェンは勇に進言する。

 

 

 

 

 

 

「これより歩兵による総突撃をご覧に入れます。どうぞご堪能下さい!」

『・・・確かに、見届けさせてもらおう』

 

 

 

 

 

 

勇の心意気に感謝し、自分の最期の弱さを曝け出す。震える手を無理やり抑えつけ、漏れ出る嗚咽を一度だけ吐き出す。

 

 

 

 

 

 

「もう逃げないぞっ!」

 

 

 

 

 

 

 

最期にやりたいことをしたホーフェンは、残った部下をかき集める。部下たちも覚悟を決めたのか眉間に皺を寄せてホーフェンの指示を待つ。そんな姿にホーフェンは笑って見せる。

 

 

 

 

 

 

「そんな肩肘張るな。落ち着いていけ」

「ホーフェン大尉・・・?」

「俺たちは歩兵だ。歩兵の特技は何だ?」

「!」

「そう、走ることだ。やつらはバイクなんて細い足で駆け回ってはいるが、さきほど耕された土の上では軽快に走れまい。その点俺たちはどうだ?」

 

 

 

 

 

 

ホーフェンの軽口に仲間の緊張は解れ、吹き出してしまう。部下たちの命を預かる身としてこれくらいはしてやりたいと、かつての上司を思い出し、ホーフェンはその懐かしき日々を思い出す。仲間は目じりに涙を浮かべて笑いあっていた。

 

 

 

 

 

 

「はははっ!確かにっ!あんな細い足じゃ、ダンスを踊れるとは思えませんなっ!」

「その通りだ!我々こそ地に足を付けた巨人だと言うことを、やつらに思い出させてやろう!」

「「「おう!」」」

 

 

 

 

 

 

 

ホーフェンは満足して準備に取り掛かる。その間にも着実にバイク部隊は近づいてきており、前線の固定化された戦車が食われていく。その命の時間を費やして、ホーフェンは時を待つ。バイク部隊が耕作地帯に踏み入るのを堪えて待つ。戦車の砲門から手榴弾が流し込まれ、巨像は火を噴く。その損害を乗り越えて、遂にバイク部隊が悪路に足を踏み入れた瞬間、ホーフェンたち歩兵部隊は持ち場を飛び出す。

 

 

 

 

 

 

「今だっ!突撃ぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 

一斉に飛び出した歩兵に驚いたのか、バイク部隊は馬のいななきのようにバイクを上手く操れず、接近を許してしまう。その瞬間を突いて一部の歩兵はバイク部隊の兵士に掴みかかる。また他の兵士は手榴弾をバイクの付近に投げ、バイクもろとも爆風で吹き飛ばす。そして、ホーフェンは手に縄を持ち、もう一人の部下と共に縄を張る。人の首あたりに相当する位置の縄は、混乱したバイク兵には気づかれず、縄をもろに首で引っかかってしまう。

 

 

 

 

 

 

「バイク部隊制圧っ!ホーフェンのやつやりやがった!」

 

 

 

 

 

 

 

背後で待機しているヴィットマンは、興奮気味にその光景を眺めていた。しかし、なぜか配置を一緒にされて不満げな小野里が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、煙幕が晴れたのなら次が来ますよ」

「なに?!」

 

 

 

 

 

 

小野里の言葉通り、ホーフェンらがバイク兵を退けた時、敵陣の後方から砲撃音が轟く。聞き覚えのある砲撃音にヴィットマンは後ずさる。

 

 

 

 

 

 

「まさかっ!?アハトアハト?!仲間もろともかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの想像通り、バイク兵が展開している間に、ケーニッヒも対策を講じており、8.8cm対空砲を直接照準にて敵の仲間もろとも水平射撃を浴びせられていた。これに対抗すべく、ヴィットマンの部隊も戦車砲にて反撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「同じアハトアハトだが、装甲がなけりゃ木端微塵だ!撃てぇ!!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの指示により火を噴くティーガー戦車の攻撃にいくつかの8.8cm対空砲は沈黙する。しかし、相手も同じ8.8cm口径というのは戦車の装甲を貫いていく。

 

 

 

 

 

 

「前衛戦車陣地完全に沈黙っ!」

「くそっ!想定より早いぞ!あと何輌だ?!」

「9輌です!」

 

 

 

 

 

 

 

半分の戦車が撃破され、歩兵部隊も壊滅状態と戦力的にはほぼ半壊した事実にヴィットマンは歯噛みする。そして、凶報は続く。撃破された戦車兵の生き残りが走って後方まで下がってくる。その兵士はそれまでに見た光景を切迫した雰囲気で語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「歩兵部隊のホーフェン大尉が戦死しました!」

「・・・ホーフェン大尉が、くそっ!勇中佐に連絡!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンは急いで勇にホーフェンが戦死したことを伝える。しかし、勇の反応は淡白なものでだった。たった一言、『見事だった』。この一言をヴィットマンは心底ホーフェンに聞かせてやりたかった。短い時間しか共にしていないが、ホーフェンという男を芯のある男だと認めていたヴィットマンは、同僚の死に、仲間の死に無言の餞を送るしかできなかった。そして、今度は自分の番であると喝を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

「ホーフェン大尉に続くぞ!我々の本懐を見せつけてやれ!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンは少数の仲間と小野里に向かって鬨の声を上げる。小野里はうるさそうに睨んでいたが、これから命を預ける仲間として、無理やりつき合わせる。実は残り9輌の固定陣地の他に、勇はある秘策を残していた。その被策を今からお披露目するのにヴィットマンは既に心を切り替えてその瞬間を渇望していた。

 

 

 

 

 

 

「小野里少尉、よろしく頼む!」

「言われなくても仕事はします・・・頼みますから安全運転で」

「それはできん相談だなぁ?」

 

 

 

 

 

 

凄く嫌な顔をする小野里を見て、逆に嗜虐心が燻られたヴィットマンは張り切りに張り切ってエンジンを蒸かす。獲物を捕らえるべく3輌の虎は唸り声を上げて主人の許可を待つ。その許可を貰いに小野里が無線を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「では勇中佐、行って参ります!」

『相棒に伝えてくれ。くれぐれも小野里を大切に、と』

「ですって!」

「勇中佐も人を煽るのが上手い!ご要望通り、大切にこき使わせてもらいますよ!」

「そんなこと言ってない、って、あっちょっと!!?」

 

 

 

 

 

 

隠匿された3輌のティーガー戦車は、小野里を気にもせず一斉に突進を開始する。もはや有頂天のヴィットマンには聞く耳を持ち合わせてはいなかった。いわゆるパンツァーハイである。エンジン音に負けない声量で突撃を高らかに吠えるその姿は正しく虎だった。

 

 

 

 

 

 

「パンツァーフォぉぉぉお!!!」

 

 

 

 

 

 

なぜ燃料が枯渇していた戦車がこうして機動戦を展開し得ているかと言うと、戦闘が始まる前までヴィットマンが戦車の固定砲台化に駄々をこねたからであった。というのも、小野里に動かない戦車はただの砲と言われたのがよほど悔しかったのか、他の戦車から燃料を抜き取って3輌分だけ燃料を満たしていたのだった。動かせる戦車に乗って勇と小野里の前に現れたヴィットマンはそれはもう嬉しそうだった。対称的に空を仰ぎ見て現実逃避を始める小野里の間でちょっとした口論があったことは時間の無駄と言う他なかった。

 

 

 

 

 

 

「勇中佐!これなら突撃を許可してくれますな!?」

「あなたって人は・・・そうまでして戦車を動かしたいのですか?!」

「戦車は俺の魂だっ!動いてこその戦車だっ!」

「躊躇というものをご存じないのですか?!」

「ない!」

「諦めて降りてください!その燃料で爆弾を作りますっ!」

「いやだっ!」

「嫌だって・・・いい大人が!」

 

 

 

 

 

 

小野里が顔を手で覆うと勇がそんな小野里を労う。勇はヴィットマンの行動を許可し、戦車による機動遊撃戦を提案した。そして、勇はヴィットマンとも仲良くしてもらうべく小野里にある命令を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小野里、ヴィットマンの戦車に乗って攻撃から守ってやってくれ」

「へっ?!あ、あの、戦車に守ってもらうのではないのですか?!」

「ウィッチのシールドで戦車への攻撃を極力防いでやってくれ。ヴィットマン少佐、やってくれるな?」

「フロイラインに守ってもらうのは気が引けますが、ウィッチの加護があるなら百人力ですよ!」

 

 

 

 

 

 

目を輝かせたヴィットマンに肩を組まれた小野里はもはや諦めるしかなかった。そうして、小野里は逸るヴィットマンの戦車に揺られて敵の前線をぶち壊しに出かけるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐!敵装甲車列を目視で確認しました!」

「了解した小野里少尉!少し捕まっていてくれ!これから揺れるぞ!」

「安全運転と言いましたよね?!」

「ああ我々の運転はいつだって安全だとも!」

「どこがですかっ!?」

 

 

 

 

 

 

でこぼこの道を一気に駆け下りて、敵の驚く顔を置き去りに装甲車に体当たりを敢行する。激しい衝突と、装甲車が潰される音が木霊する。小野里は砲撃で撃破するものと考えていただけにその荒々しさに驚愕する。

 

 

 

 

 

 

「ど・こ・が!安全運転ですかっ!?さっそく事故ですよ!衝突です!」

「あんなもの挨拶だ!小野里は挨拶をしないのか?」

「ああもう!次っ!9時方向に対空砲!挨拶の次は?!」

「もちろんハイタッチだ!」

 

 

 

 

 

気分が向上したヴィットマンと、それに段々と乗ってきた小野里は快速に敵を勝ち割っていく。敵も戦車による機動戦は想定していなかったのか、急いで前線の兵士が後方に下がっていくのが傍目にも分かった。しかし、小野里もヴィットマンも野生の勘が危険を伝えていた。

 

 

 

 

 

 

「何かおかしい・・・」

「あまりにも引き際が良すぎますね・・・ん?正面方向に何か・・・あれは?!」

 

 

 

 

 

 

小野里は目に入る何か巨大な恐怖に身構える。遠目にも分かる圧倒的な存在感が、小野里に危険を知らせていた。一度退却することを視野に、勇に連絡を入れようと無線に手を伸ばす。しかし、ここで不思議と手が止まるのだった。いつまでも勇に頼りきりでいいのか、自分たちで切り開かねばならない戦いではないのか、そういった自己責任的な考えが過る。今の勇には可能な限り表に出てきてもらってはいけないと、この作戦の大前提を小野里は粛々と見直し、そして決断する。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐、一つ頼まれてくれますか?」

「ようやくかね?」

「敵後方からなにやら障害物が接近中です。おそらく敵の新兵器です」

 

 

 

 

 

 

 

小野里の言葉にいっそうヤル気をみせるヴィットマンは、行動可能な3輌に無線で伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「こちらヴィットマン、これより敵さんの新しいおもちゃとレクリエーションだ。はしゃぎすぎるなよ!」

 

 

 

 

 

 

そう無線で伝えると、何の合図もなく同時に3輌の虎は障害物へ向かう。さすがの練度だと小野里は感心する。これだけの戦力ならば、例え敵の新兵器が何だろうと乗り切れる気さえした。小野里は外を警戒しながらその目標物を捉える。目標は確かに目新しいが、最強のティーガー戦車が頭のおかしい戦車狂に率いられ突撃しているという謎の高揚感が目標の脅威度を落としていた。しかし、やはり拭いきれない不安が敵の発砲により恐怖として顕現する。

 

 

 

 

 

 

「なっ!砲撃音が大きい!」

 

 

 

 

 

 

明らかにこちらの88mm砲よりも大きな閃光に驚く暇もなく、左隣を走るティーガー戦車がまるでこと切れるかのように立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

「マルティン大尉ぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンがかつての仲間に叫んだ声は虚しく過ぎ去っていく。敵の姿が丘陵で確認できなかったが、明らかにこちらよりも口径が大きいことを確信したヴィットマンはもう一度敵の正体を確認する。双眼鏡に映し出されたのは、あまり大きくない戦車だった。

 

 

 

 

 

 

「あんな普通の戦車になぜ!?・・・待てよ・・・ま、まさかあいつは?!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンには心当たりがあった。その記憶を頼りにもう一度双眼鏡を覗き込む。自分の予想が的中してほしくない瞬間だったが、ゆっくりと人が歩くような速度でその戦車は姿を白日の下に晒す。普通のサイズだと思っていた戦車は、たった一部でしかなかったのである。頭でさえ普通の戦車と相違ない大きさを有し、ティーガー戦車をも軽く葬る口径を持つその戦車の正体に、ヴィットマンは心臓を掴まれたようだった。

 

 

 

 

 

 

「どうしましたかヴィットマン少佐?!」

「やつだ・・・」

「奴とはなんです?!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンがこれほどまでに恐れ慄く戦車の正体は、小野里にも現実として認識される。あまりにも大きな巨体と自らの存在を誇示してやまないその堂々たる姿はまさに巨人というに相応しい称号だった。しかし、その称号を嘲笑う名が、その戦車の正体だった。

 

 

 

 

 

 

「やつだ・・・超重戦車『マウス』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回は勇くんの活躍があまりありませんでしたが、それ以上にヴィットマンとホーフェン、そしてなんといってもツッコミ役となってしまった小野里が輝いた話だったと思います。脈々と受け継がれる突撃脳は不滅です!時系列的には、前話のミーナたちが到着する前の話となっているので、これからミーナたちにも活躍してもらうことになります。

さて、待望の超重戦車「マウス」の登場を次回予告しておりますが、次回はミーナやその他の人物も続々と登場します。次回もぜひご期待頂ければと思います!なので、しばしお待ちください!ではまた!
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