今回は超重戦車マウスVSティーガー戦車&小野里の戦いがメインとなっています。また、後半からようやくメンバーが揃っての展開となりますのでお楽しみに!ではどうぞ!
ヴィットマンは険しい顔で現在の状況を整理していた。自軍の戦力は限りなく自分を含め2輌の稼働戦車と、固定化された数輌の戦車、最後にウィッチの小野里だけである。それなのに敵の戦力は未だ健在で、自分たちをぶち殺そうと躍起になっている。さらに言えば目の前で我が物顔でゆっくりと闊歩する『超重戦車マウス』が障壁となっていた。
「これじゃあ命がいくらあったって足りやしない!小野里少尉、妙案はあるか?!」
「私はあくまで歩兵であり、戦車の盾なんですよ!それもとっても薄い盾です!」
「ないよりかはマシだっ!」
「あんな128mm砲を食らったらたまったものではありません!」
超重戦車マウスの主砲は128mm砲と凶悪な代物を搭載しており、さらに副砲として75mm砲をサブとして扱う化け物戦車の名を欲しいままにしていた。しかし、目下の問題は攻撃力ではなかった。マウスに向かい、全攻撃が集中するも何事もなかったかのように姿を現す圧倒的な防御力だった。
「くそっ!何発やつにぶち込んだと思ってる!無駄に厚い皮膚をしよって!」
「その無駄に圧倒されているんですよ!」
小野里の的確な指摘に思考がゼロ地点にループする。凶悪なまでの存在はじりじりとヴィットマンらを押していた。その時、マウスから一人の男が顔を出す。なにやらマイクを取り出して叫んでいた。ヴィットマンも一度身を隠し耳を澄ませる。
「反逆者の諸君っ!諸君らは勇敢に戦った!それは認めよう!しかし!これまでにしないか?!」
声の主はアインザッツ・グルッペンの機械化歩兵大隊の隊長であるケーニッヒ・フォルコ少佐だった。そして、この言葉の続きも全員が理解していた。いわゆる降伏を促されているのだ、と。ヴィットマンは降伏を迫られたことに立腹し、小野里はいつケーニッヒを狙い撃ちしようかと考えていた。
「我々の目的はもはや諸君にはない!我々の目的はただ一つ!赤松勇の身柄の拘束にある!だから、この場から身を引けば君たちは自由の身だ!建設的な提案だろう?!」
勝者という自信から紡がれる言葉の羅列に、小野里は嫌悪感を抱いていた。なにより嘘くさい命の保障なぞ、アインザッツ・グルッペンのこれまでの行いを顧みれば反故にされることは明らかだった。自由を与えられるものには決して自由を得ることはできないのと同じように、生殺与奪の権利を譲渡することは緩やかな自殺も同義であると考えていた。しかし、それはヴィットマンも同じ気持ちだった。
「ケーニッヒ少佐っ!随分な物言いじゃないか!我々はまだ負けてはいないぞ!」
「やはりヴィットマン少佐か!君は善き戦車兵だ!きっとまだ我々の下で活躍できるだろう!君の功績は計り知れない!だから今すぐにこちらに戻って・・・」
「ケーニッヒ少佐!答えは単純だ!」
ケーニッヒの言葉を遮ったのが癪に障ったのか、少し表情が強張ったケーニッヒが少しの間を置いてヴィットマンの答えを聞く。
「賢明な回答なんだろうな?」
「もちろんだ!建設的、とお前はそう言ったがな、人間はそんな簡単に割り切れない生き物なんだよ!」
「何が言いたい?!」
「分からないのか?!賢いお前なら分かっていると思ったがな!」
小野里はこの時ほど人を煽る能力が役立つとは思ってもみなかった。ヴィットマンの答えがあまりの単純すぎて、足元を疎かにしがちなエリートは気づかない、いや気づけないのだ。その答えをヴィットマンは敵に叩きつける。
「人間は常に建設的には動けない、最終的には心がそうせよと言うままに動くもんなんだよ!つまり!お前の提案に対する答えはこうだ!『シャイセ(くそったれ!)』」
その言葉と共にヴィットマンは戦車を動かす。小野里は無性にヴィットマンに握手を求めたい気分に駆られるほど、胸のすく思いだった。そして、対するケーニッヒはというと、ワナワナと拳を振るわせて荒ぶる感情を抑えつけていた。この怒りと言う感情を殺さなければヴィットマンらと一緒になってしまう、そう思えたケーニッヒは冷静に、かつ冷徹に命令を下す。
「全軍、進行開始・・・マウス、やつらを踏みつぶせ。やつらに我々の忠誠の強さを見せつけてやるのだ」
「了解っ!」
「ヴィットマンのやつ、人間は感情に流されるだと?脳みそ花畑のやつらしい!我ら人類が未だ知能を持たない獣かなにかだと?だとするならば調教してやるまでだ!」
ケーニッヒが進軍の命令を下した時、時勢を見極めたかのようなタイミングでアイヒマンから通信が入る。ケーニッヒは、堅実な仕事ぶりをきちんと報告する。
『ケーニッヒ少佐、現状はどうだ?』
「少し手間取りましたが、現在掃討戦に移行したところです」
『それは重畳・・・では、予備の空挺部隊は不要だったな』
「いえ、作戦を確実なものにするためにも奴らの後方に空挺降下を要請いたします」
ケーニッヒの要請に一拍の間を置く。そして、受話器越しに聞こえてくるのはアイヒマンの腕時計の音だった。つまりは時間の制限を示唆していることを察したケーニッヒは冷や汗をかく。それはこの戦闘をすぐに終わると言ってしまったかつての自分の言葉への違反を示していたと気づいたからだった。その上で要請をするのか、と問われているのではないか、違反は死に繋がることをよく知るケーニッヒは、機転を回そうと必死になる。
「きょ、局長代理!敵はあの赤松勇中佐です!局長代理の、延いては亡きハイドリヒ局長の想いを達成されるためにもここは万全を期さねばなりません!ここで我々の忠誠を示すことができれば、私はこれまで以上の忠誠をあなたに、あなた様だけに示すことになるでしょう!その暁には・・・アイヒマン局長、いや!アイヒマン総統に世界は膝を屈することになるでしょう!」
これまでにないほどの焦りに嫌がおうにも饒舌にならざるを得なかった。時間の過ぎ去る音だけが寿命を貪る音に聞こえた時、受話器から拍手が聞こえる。その拍手に心を撫で下ろす。アイヒマンはご機嫌でケーニッヒへと褒美を差し向ける。
『ケーニッヒ少佐の忠実な献身に感謝するぞ。それにしても総統・・・総統か。悪くないな。アッハッハッハ!』
「そ、それはもちろんアイヒマン局長代理のこれまでの忠誠に鑑みれば自ずとそうなるのは自明のこと!小官は事実を申し上げたのみです!」
『貴官も上手いものだな。では、君の総統が命じる。敵の後方に空挺部隊を降下させる。敵を蹂躙し、私をヘルウェティアに無事に行けるよう最善を尽くせ。塵も残すな』
「はっ!マインフューラー!」
零れ落ちる冷や汗が事態の収束を求められていることを物語る。ようやく解放された緊張が受話器を置いた瞬間に、危機感に置き換わる。増長した想いが自分を岐路に立たせる焦燥感を煽る。強風に晒された一本のか弱い花のような立場に躍り出た自分を呪い、その憎悪を敵に向ける。
「殺せ・・・やつらを全員地獄に叩き墜とせっ!」
ケーニッヒの命令により地上の全兵士が矛先を揃えて進み続ける。対するは数匹程度の盾、圧倒的な暴力差に屈してしまうのかと、だれもが思うであろうこの戦場に、諦める者はいなかった。
「あのマウス何とかならないか、小野里少尉!?」
「私だってあの分厚い装甲を叩き割れるものならとっくにシャベルで叩き割ってますよ!」
「そう簡単にはいかんか・・・ん?それだっ!」
ヴィットマンの突然の大声に耳を塞ぎながら、小野里はヴィットマンの妙案を聞くことにする。こんな人物であるが、勇と同じで一つのことに特化した人物と言うのは、方法こそ無茶苦茶だが打開策を打ち出す能力に長けていることを経験則的に知っていた。
「小野里少尉!シャベルと言ったな!?」
「言いましたけど何か?」
「シャベルだよ!シャベル!」
前言を撤回しなければならないと、小野里は頭を抱えた。こういう戦闘狂の輩は言語能力が著しく低下するのだ。直感的な閃きを一般人にも分かるように説明する努力と言うものを置いてきてしまった可哀そうな人物にもう一度問いかける。
「一度落ち着いてください。私にも分かるように説明して・・・」
「じゃっ!よろしく頼んだぞ!」
「えっ?!」
小野里は訳が分からない内に戦車から蹴り墜とされると言う、摩訶不思議な事態に遭遇して頭の整理が追い付かなかった。受け身だけをしっかりと取れたことに感謝し、蹴り墜とされた戦車に向かって中指を立てる。
「ふざけんなぁぁああ!!!ちゃんと説明しろぉぉ!!」
神がいるとしたなら敵よりも先にあのヴィットマンという名の野蛮人を先に裁いてほしいとすら思った小野里だったが、すぐに行動を起こし始めたヴィットマンの考えを読み解くことに集中する。ヴィットマンは2輌の戦車で忙しなく動いている。坂道であることを利用し、速度を回避に専念している。しかし、攻撃の手は止めておらずマウスの付近に着弾していた。
「ん?ちょっと待って・・・『付近』に着弾?あの戦車バカが?外す?・・・まさかっ!?」
小野里は急いで荷物から陸軍の歩兵標準装備であるシャベルを取り出すと、急いで着弾跡に向かって走り出す。88mm砲によって穿たれた大穴に魔法力を込めて死に物狂いの速さで手を動かす。今度はその行動を見たヴィットマンが満足げに視線をマウスへ戻す。
「さすがは我々の友、小野里少尉だ!よしっ我々も仕事に取り掛かるぞ!2号車準備はいいな?!」
『もちろんです、隊長!』
「では攻撃開始っ!」
ヴィットマンは2輌のティーガー戦車で、利かないと分かっているマウスへ向かって攻撃を開始する。さすがの88mm砲と言えど、マウスの巨体にかすり傷を付けるのが精一杯だったが、それでも着弾時の衝撃などは車内に響くのであった。その衝撃はマウス車内のケーニッヒの怒りを買っていた。
「くそっ!さすがの戦車バカ集団の副長というだけあるな!よくも行進間射撃でここまで当てられるものだ!だが、この超重戦車マウスは倒せんぞ!!」
覗き窓から外を観察し、無様にマウスと張り合おうとするヴィットマンらを嘲笑っていると、徹甲弾では効果がないと分かったのか、弾種を変更してきたことが分かった。
「今度は榴弾か!ふんっ!やつら苦し紛れなのか、それとも弾切れか・・・どちらにせよ各個撃破してくれる!右側の戦車に照準を合わせろ!まずは指揮官車を叩く!撃てぇ!!???!うわっなんだ、この煙は?!」
ケーニッヒが突然の煙幕に驚いたのも束の間、その中から徹甲弾らしき砲弾が次々と撃ち込まれてくる戦術に、弄ばれている気がして憤りは頂点に到達しようとしていた。
「ちょこざいな!!戦いの愉悦を味わえるのは勝者の特権だと言うのに!!もういい!この188トンもの総重量に守れらた動く城に生半可な攻撃など通用しない!突っ切って赤松勇を仕留めるぞ!」
方針転換を柔軟に行える自分と、戦力差的優位に立つ身だけが持てる余裕によって強制的に怒りを中和する。そもそも自分はこの最終兵器であるマウスに乗っている限り、勝利は揺るがないのだと思い出し優越感に浸る。煙幕と思われた煙は、ヴィットマンらが放った白燐弾であることが分かり、困惑は視界を狭めると自分を嗜める。
「まったく、俺は何にビビッていたんだか・・・まあ煙幕が晴れ次第やつらを爆散させてやる!戦車好きなんだ、戦車で殺されるのがお似合いだろう!」
「間もなく煙幕晴れますっ!」
「よしっ!敵はわずかに2輌だ!両側からの攻撃に注意せよ!」
ケーニッヒの指示は間違ってはいなかった。煙幕が晴れた間が見えた瞬間、戦車の影が1輌映る。この煙幕に乗じて接近して、というのを狙っているのだろうが、この超重戦車マウスなら一撃は耐える。ならば、どっしりと構えて各個撃破すればよいとの結論に至る。完全な勝利を目指して砲塔を進行方向右側の戦車から片付けることにする。
「ぶっ飛べぇぇえ!!!」
ケーニッヒの指示の下、マウスの127mm砲が発射され、猪突猛進のティーガー戦車のど真ん中を貫く。連合軍の如何なる戦車より堅牢な戦車と謳われるティーガー戦車にいとも容易く穴を穿つ攻撃力に満足していると、ケーニッヒは不可解な点に気づく。それは撃破したティーガー戦車がそのままのスピードで突っ込んでくるからだった。
「死してなお体当たりか!だが無駄だ!このマウスはビクとも・・・うわっ!」
ティーガー戦車が決死の体当たりをして来たため、耐ショック姿勢を取るつもりがあの戦車が傾くではないか。例えティーガー戦車が質量弾さながらの体当たりをしたところでこんなにも揺れることはないはずと思い込んでいたケーニッヒは、やられたことに今更に気づく。
「ヴィットマンっ!?!貴様ぁぁぁぁあ!!!!」
「引っ掛かりやがったな!落とし穴に嵌るアホにお届け物だっ!」
絶対的な強者たるマウスが傾き、弱点である車体上部を晒してしまっている状態でヴィットマンの88mm砲が突き刺さる。ケーニッヒにとっては不幸にも、ちょうど砲塔はヴィットマンのいる方向と逆方向を向いており、砲塔下のスリットがむき出しになっていることがケーニッヒの最期を決定づけた。巨体から炎が濛々と立ち上がり、沈黙したことが伺える。
「ケーニッヒ・・・お前との戦車戦、楽しかったぞ!」
「ヴィットマン少佐!やりましたかっ!?」
小野里が駆け寄り、マウスの残骸に目を向ける。ヴィットマンの作戦で撃ち倒した怪物を目に、達成感が二人を包んでいた。
「ああ・・・だが、2号車はやられてしまった。つまり、俺の仲間はたった1輌になってしまったのだ」
「あなたの戦友は皆、勇敢でいて任務を全うしたのです。誇ってください」
「ああ・・・そうだな、小野里少尉も良くやってくれた。私を含め彼らも感謝している」
「いえ、あなたの作戦に活路を見出しただけですから」
素直ではない小野里に肩を竦めながらこれまでの自分の作戦を振り返ってしまう。それは、小野里を戦車から蹴り墜とした後からのことだった。小野里にあるポイントをシャベルで掘り返して落とし穴を掘ってもらい、その穴に誘導するという落とし穴作戦だったわけである。まずはわざと弾を外し敵を慢心させ、その穴を小野里に掘ってもらい、目隠しとして白燐弾を撃ち込む。その間に二手に別れ、片側からマウスを穴へ落とし、傾いたマウスの薄い部分に撃ち込むという算段だった。
「見事に嵌ったな・・・だが、仲間を失うことになったのは俺の責任だ。責任・・・俺の命令で部下が死ぬと言うことが、こんなにも重いものだったなんて知らなかった」
自分の手のひらを見てみる。手にはタコが固く刻まれているだけだったが、この手で部下が死んだ。その事実がこれまで一介の戦車長である自分に現実として圧し掛かかってきていた。このような重要な命令を、これまでいくつも下してきた勇と言う存在が畏怖の対象となっていることに気づいていた。
「勇中佐は、一体どんな気持ちなんだろうな」
「今は力を溜めています。この作戦をやり切る以外、あの人には考えられないですよ」
「そう・・・だな」
ヴィットマンはふと、巨大な棺桶となり果てた戦車から突き出されるかのように見える人だった手を見る。その手は空を指し示す。その手が指し示す先を見ると驚愕した。
「お、小野里少尉!あれ!あれっ!」
「なんです?・・・まずいっ!まずいまずいまずい!!」
二人は急いで元の防衛陣地に急行する。二人が急ぐ理由は空にあった。その空には無数の傘が広がっており、その更に上空を一機の爆撃機が悠々と飛行していたのだった。その事実に小野里はアインザッツ・グルッペンという組織を過小評価していたか、失念していたという大失態を演じてしまった自分を呪った。アインザッツ・グルッペンは空挺降下により小野里たちの背後、つまり勇を直接急襲しに来ていたのである。
「ア、アイヒマンっ!貴様っ!ここまでの仲間全てを囮に使いやがったな!!!」
機上の人であるアイヒマンは眼下に広がるアルプス山脈と、その麓に広がっているであろう戦場に向かって嫌な笑顔を振りまいていた。まさに自分の描いていた通りの情景が、一望のもとに収められていると言う現実に興奮すら覚えていた。
「なんて素晴らしい光景だっ!愚かな者たち同士が果て合い、その上を優雅に生を謳歌するこの瞬間ンっ!!まさに世界に祝福された俺を象徴しているようではないかっ!!」
笑いが抑えられないことすらも勝利が自分を迎えてくれているようで、アイヒマンは手元に置かれた秘密兵器を愛でる。
「ああ・・・もうすぐだ。もうすぐ世界を作り直してやる。俺の思い通りの世界に!世界は俺に膝まづく!そして、俺は全人類の総統として・・・神として君臨するのだっ!ハイドリヒ局長ですら到達し得なかった高みに、俺はチェックメイトをかけたぞ!!」
滾る思いが最高潮に達した時、無粋にも部下のオーデンドルフが声を掛ける。水を差された気分に少し憤りを感じるも、野望を果たした暁にはオーデンドルフも処刑することにたった今脳内で決定したアイヒマンは投げやりに話を聞く。
「局長代理・・・あ、いえ、マインフューラー。地上で謎の光が発生しているとのことです」
「なんだこんな時に・・・俺が確認する」
眼下を窓から覗き込むと確かに小さな光が、確かに光っていた。しかし、決して小さいとは言えないなんとも言えない不安がアイヒマンを襲う。その不安を払拭するように自分の置かれた状況を声に出して確認させる。
「オーデンドルフ、我々は高度8千メートルの遥か上空にいるのだな?」
「?はい、そうですが?」
「我々に対抗できる兵器はやつらにあるか?」
「はて、私の持つ情報にそのような兵器はなかったと記憶しますが?」
「そう、であるか」
確実に自分の身は安全な高空にあるのにも関わらず、不安を拭い切れない光に苛立ちが込み上げる。アイヒマンは光の正体を掴むべく、オーデンドルフに情報を収集させる。しかし、オーデンドルフにもその正体を掴むことは出来なかった。では一体あの光は何なのか。その疑問と不安だけがアイヒマンに一つの回答を齎した。
「まさか・・・奴なのか?」
アイヒマンの問いにオーデンドルフは首を振って否定する。データベースとして限りなく有能なオーデンドルフが断言する。
「いくらあの赤松勇中佐とはいえ、この超空の白鯨を地上から攻撃できるとは考えられません。それに彼我の高度差は8千メートル、速度は巡航速度で600km/hを超えるこの白鯨の名に相応しい爆撃機にもし一発でも当てられたとしても、この超空の要塞は墜ちません!!」
自信をもって断言し切るオーデンドルフの言葉は正しいのだろう。いつだって正しい情報を持ってくるからこそ、アイヒマン自身が好まない人物であっても今まで重用してきたのだ。しかし、もしこの白鯨を迎撃できるほどに成長しているとしたら、そう考えるだけで自分が矮小な存在だと言われている気がしてならなかった。
「高度を取れ!速力最大だっ!やつから一刻も早く離れるのだ!」
「局長代理・・・いえ、マインフューラー!それでは目標地点に正確に『原爆』を投下しかねます!」
オーデンドルフの言った通り、この白鯨にはアインザッツ・グルッペンの秘匿兵器である原子爆弾が乗っていた。これまで偽の情報を流させ、複数生産したことや、各地に設置したと言った偽装工作をしてきたが、完成した原爆はアイヒマン自身が保有するたったの一つであった。しかし、それだけに使いどころが限られてしまい、このヴァイザッハの都市を封鎖され、制空権を取られることがあってはこれまでの計画が水泡と期してしまう。それだけは避けたかったアイヒマンはアインザッツ・グルッペンの全ての戦力を勇にぶつける計画を立てたのだった。
「うるさいっ!大丈夫だ!この爆弾で全てを変える!俺の世界を奴一人の存在で変えられてたまるか!」
オーデンドルフを押しのけて安全策に走る。醜くてもいい、ただこれから投下させる爆弾の能力を全世界の人間に見せつけさえすれば、自分は認められ、崇められる存在へと上り詰められるのだ。その幻想を現実のものにするためならばどんなことも厭わなかった。しかし、地上の光は一層輝きを増し、アイヒマンの不安を増大させる。そして、その不安は現実を突き上げてくる。その絶叫は機長から叫ばれた。
「ち、地上から高魔法力反応!?この機を目掛けてっ?!嘘だろ?!」
「大丈夫だ届きやしない!マインフューラー!落ち着いて席に・・・ってマインフューラー?」
オーデンドルフが振り返った先には無人の座席だった。主人たるアイヒマンと原爆の姿は忽然と消したことに気づいたオーデンドルフは、狂ったように笑い肩を落とす。
「ははは・・・化け物か」
この言葉を最後にハイドリヒの忘れ形見である白鯨は、コックピットごと魔法力が込められた弾丸に貫かれ、爆発四散しながら墜ちて行く。勇の放った弾丸はただのライフル射撃によるものだった。たった一発の銃弾が超空の要塞を爆砕した理由として、勇は高難易度の術式を何個も練り上げて付与していた。その一つとして、弾丸自体にシールドを付与し、空気抵抗を無視した速度で進み続けたことが挙げられる。そして、その光景をパラシュート越しに見ていた一人の男が悪態を吐き捨てる。
「赤松勇ぃぃぃ!!!あれは何だ?!俺の!俺だけの世界を貴様なんかにぃぃぃ!!!」
男の名はアイヒマン。アインザッツ・グルッペン隊長にして、世界秩序保護局の局長代理を謳い、総統になる夢を抱き、儚くも神の座へ駆けあがろうとした男の叫びだった。そして、その絶叫を聞いてか聞かずか、勇は次の手を繰り出そうとする。周りに展開する空挺降下部隊の襲撃にも、小野里たちの声も届かず、銃を構える。しかし、既に勇が動くだけで事態の急変が予測されてしまう事態に待ったをかける人物が現れる。
「赤松勇中佐ぁぁぁ!!!」
その人物は人ながら鉄の箒にまたがって空を駆け、その魔法力を持ってこれまで異界の怪物たちと渡り合ってきた少女たちだった。その中で、赤い髪をなびかせ銃を構えて勇を捉える姿はさながら意思を持った彗星の様だった。速度は降下速度を背に受けぐんぐんと大きくなり、勇へと迫る。その姿を勇はようやく思い出したように笑って迎えるのだった。
「ミーナ・・・少し遅かったな」
勇はミーナの声を無視して銃を構え直す。対称的に、その瞬間であってもミーナは引き金が引けずにいた。どうしてもかつての仲間の姿がそこにあり、かつて自分が愛した人物の顔があったからだった。それにそんな人物に銃を向けているという自分が信じられなくなっていた。それほどに自分の確固たる自信をも揺るがしてしまう勇と言う人物に腹も立っていた。その腹立たしい人物は遂にやらかしていた。アルプスの山々に木霊する爆発音は、いつものお仲間を引き連れてくる。
「本当に、やってくれたわね・・・総員戦闘用意!」
ミーナの号令で一斉に戦闘に対する準備を完了させる501隊員は、目の前で起こっていることを処理できないでいた。それを振り切るため、そしてミーナは自分自身の任務を完遂させるため訓示を行う。
「みんなよく聞いて。これよりネウロイとの大規模戦闘に移ります。気を抜かないでいつもみたいにみんなで帰りましょう!」
その言葉で全員が気を引き締める中、宮藤が怯えながら質問を口にする。その質問は全員が思っていることの代弁だったことはミーナの誤算だった。
「ミーナ中佐・・・あの、ネウロイっていうのはここにいる全てのネウロイなんでしょうか?」
「・・・そうよ」
「ということは・・・あそこにいる勇さんも、なんですか?!」
宮藤が指さすその先には、顔の半分を黒い幾何学模様に覆われ、左腕は全てネウロイに似通った人型ネウロイとでも形容すべき、限りなくネウロイに近い赤松勇だった。その指摘に全員の視線がミーナに集まる。ミーナは下唇を噛み、感情を押し殺す。押し殺した先には妥協しかないと分かっていても、それを自分の答えだと割り切り回答とする。
「そうです!でも、あれと戦うのは私です!みんなは周りのネウロイに集中して!」
「ミーナ!やはり止めるんだ!あれはユウだ!ユウなんだぞ!」
バルクホルンの制止に心が再び揺れる。それでも決意してここに来た以上、ミーナにはすべきことがあった。それはどこまでも変わらず『勇をネウロイから助ける』という一点に限られていた。
「トゥルーデ・・・私は今度こそ正直になるわ。私はユウが好き。だから、今ここで!あのネウロイからユウを助けないといけないわ!」
「ミーナ!お前がやる必要は・・・ああ、ダメなのか・・・これは私たちにしか、延いてはミーナ、お前にしか、お前しかやろうと思えないのか!」
かつては自分の思考に囚われがちだったバルクホルンだったが、ここまで成長してくれたことにミーナは満足し、そして怒った。こんなに大事な人を悲しませ、成長せざるを得なくさせた、赤松勇と言う人物に腸が煮えくり返る思いだった。そして、ミーナはバルクホルンに後を託す。
「じゃあトゥルーデ、後は頼んだわ」
「ああ、後がある命令なら喜んでやろう。だがな、ミーナ。絶対にユウを連れ帰ってくれ。あの不出来な弟には一発説教してやらねばな」
「・・・うふふ、そうね!私も一つや二つ言いたいことや語り合わなければならないことがあるもの!」
ミーナは優しい同僚の言葉に久しぶりの笑顔を思い出す。かつて後を頼んだ際は泣いて怒られてしまったが、今回は違う。決してだれも失うつもりはないのだ。その固い意志だけは勇にも負けるつもりはなかった。そして、ミーナはもう一度戦闘の最中にある勇に向かって飛び込む。目線と照準が重なったその先にいる人物は、いつまでも不敵に無表情に笑っていた。
いかがでしたでしょうか。マウスとの戦闘はやはり浪漫がありました。ティーガー戦車でも難儀する相手と言うのを演出できたのなら幸いです。やはりヴィットマンと小野里の相性は良かったと認識させられました。
さて、ようやくこの話の主人公である勇くんを出しましたが、最終段階に入ったのに出番少なくない?そう言われると胸が痛くなりますので言わないでください。そして、501やアイヒマンの登場と最終メンバーが一堂に会しましたところで今回は終わらせて頂きます。次回は、三者の視点から物語を描いていきますので、ぜひラストスパートを楽しんでいただければと思います!ではまた!