ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さま、こんにちは。なんとか早めに投稿することができました。


今回の話は視点がコロコロと移り変わり、そのどれもが密接に結びつく回となっています。そして、今回の話の冒頭にはサプライズを用意しています。どうか驚いてください!ではどうぞ!


不滅の翼 第十話

小野里とヴィットマンは目を覆うよう光景を目の当たりにしてただ立ち尽くす。今まで守り通し、これからもそうありたいと思っていた存在は、穴倉からようやく顔を出したかと思えば、超空に見えるゴマ粒ほどの爆撃機を訳の分からない機動をするたった一発の銃弾で破壊せしめた。それはまるで意思を持つかのように運動性を持って超大型爆撃機へ吸い込まれていく。それを見て小野里は心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・ミサイル?」

「小野里少尉、なんだそれは?!」

「いや、それよりあの示威行為じみたものは一体・・・」

 

 

 

 

 

 

放心状態となった小野里の肩を揺すっていると、次なる光景が二人を襲う。それは降下猟兵部隊、正確には武装親衛隊が勇に襲い掛かる瞬間だった。さらに言えば、上空からもウィッチの一団の内、一人の赤い髪をなびかせたウィッチが突っ込んでくるではないか。小野里はもう頭がパンクしそうになりながらも脚を動かすことに専念する。

 

 

 

 

 

 

「ヴィットマン少佐!早く戦車で逃げてください!」

「どういうことだ!?俺も行くぞ!」

「ダメですっ!」

 

 

 

 

 

 

小野里の拒絶的な態度に戦闘狂のヴィットマンは食い下がる。それでも小野里の絶対的な命令じみた言葉にたじろいでしまう。

 

 

 

 

 

 

「ここはもうあなたたちがいていい場所ではなくなりました」

「それはどういうことだ?」

「・・・いいですか、よく聞いてくださいね。私たちは運命の歯車に過ぎなかった、ということです」

 

 

 

 

 

 

小野里の抽象的な言葉にしばらく頭を悩ませるヴィットマンの姿を見て、小野里はにこりと微笑んで見せる。その微笑みにドキリとしてしまったヴィットマンは固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「私たちは、あの赤松勇中佐の理想に届かなかったんです。あの人が見ている先は平和などではなかった・・・」

「一体何を・・・」

「もっと早くに気づくべきでした。あの人は私に言いました。『平和への近道を走らせてやる』、と。私はまんまと信じてしまったんです。あの人は明言しなかったのに・・・」

「だから何を言っているんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

一向に答えに辿り着かない人物のなんとお気楽なことか、そう思ってしまう自分は狭量な人間かもしれないと皮肉ってみる。つまりはこれも自由なのである。分からないでいるということも選択肢の一つであり、教えないというのも小野里の自由であることが結びつかない。そんな不自由なヴィットマンに最後の言葉を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ、世界は平和になります。これからはきっとあなたの湧き上がる血さえも血圧という単語に置き換えられるようになるでしょう」

「小野里少尉?まさか、お前には勇中佐の考えが分かるのか?」

「ええ、分かりたくもなかったのですがね・・・では、行ってください!」

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの胸を押し出すも、大の男の体はゆらりと揺れるだけだった。小野里は俯いてヴィットマンの胸を再び押し出す。それでも男は動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして・・・あなたという人は・・・」

「小野里少尉、俺には夢がある」

「え?」

「俺は今はただの戦車を動かしてぶっ放す単細胞だが、俺にも一端に夢がある」

 

 

 

 

 

 

 

唐突に夢を語り出すヴィットマンに、小野里はかつての自分を思い出す。籠の中の人物に自分の情けない夢を語ったあの時のことを。そして、その瞬間ヴィットマンは自分の胸ほどの身長しかない少女の肩を抱く。驚いている小野里を置き去りにして、電撃戦を任せたら右に出る者はいないヴィットマンは言葉の88mm砲を撃ち込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

「小野里少尉、俺の夢は君の名前を知ることだ」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィットマンの言葉に不思議とこんな不釣り合いな戦場に温かな気持ちが流れる。小野里は温かな塩水が目じりから溢れてくる。それをヴィットマンの汚れた制服にこすりつけながら、夢を叶えてやる。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あはは、バカには勝てませんね」

「バカで結構、バカで助かる道もあるのだからな」

「そうですね・・・そうですね!あなたはバカですから、よく聞いてくださいね」

「ああ、教えてくれ」

「私の名前は、小野里正子。正しい子と書いて正子です」

 

 

 

 

 

 

小野里の名前を聞いたヴィットマンはより一層小野里のか細い肩を抱きしめる。自分の夢を叶えてくれた少女を自分の女神だと勘違いするくらいには、ヴィットマンはこの状況に場違いな感情が生まれていた。そして、一頻り抱きしめた少女を開放すると、二人して決意を確認し合う。もう既に決まり切っている行動を実行するために戦車に乗り込む。小野里を砲手に据えて走り出す戦車はたったの一輌。されどその一輌は勇の下を目指して走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「最後の突撃だっ!パンツァーフォー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ネウロイとの不意遭遇戦に巻き込まれた501は、その対処に奮闘していた。特に、一時的に指揮権を継承したバルクホルンは、501が持つ作戦の二正面性に苦戦していた。

 

 

 

 

 

 

「ハルトマンっ!敵はどのくらいの規模だ?!」

「航空型がたくさん!地上はもっとたくさんだよっ!」

「くそっ!こんなことがあるか?!」

「トゥルーデどうする?!」

 

 

 

 

 

 

 

相棒と呼べるハルトマンからの疑問の突き上げに、バルクホルンは悩む。史上最大級の困難を前にバルクホルンはミーナの心配をしなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナの任務を援護する!」

「それって勇さんを助けるってことですか?!」

 

 

 

 

 

 

 

宮藤のパッと花が咲いたような顔に歯噛みしながら、その考えを否定しなければならない自分に情けなさと、この不条理な戦闘に対する怒りが混在していた。

 

 

 

 

 

 

 

「違う・・・あくまで我々は敵を倒すんだ!」

「だからバルクホルン!敵は何なんだ!?ネウロイか?ユウを襲うやつらなのか?それともミーナ隊長の狙うやつなのか?どれなんだ?!」

 

 

 

 

 

 

 

バルクホルンの次席階級であるシャーリーが痛いところを突いて来る。バルクホルン自身もその答えには辿り着いていないだけに解答を出すことは出来ない。しかし、明確な決断をしなければ部隊は混乱することを加味すれば、今決断しなければならなかった。しかし、弟のような存在であった勇の顔が判断を鈍らせる。しかし、連合軍やその他の人間は勇を既に敵だと認定しているし、排除命令が501に与えれている。そんな苦渋の判断を一人の少女が手助けする。

 

 

 

 

 

 

「あそこにいるのは・・・勇さんです。どうしてそんなに悩む必要があるんですか?」

「宮藤・・・分かった、分かったよ・・・」

「トゥルーデ?」

「我々の目標は視界に映る全てのネウロイだ!自分の目を信じるんだ!我々がネウロイだと思うものを撃てばいい!その責任は私が持つ!」

 

 

 

 

 

 

 

バルクホルンの命令は未だ不透明ではあるが、それでも隊員たちはその命令を十全に理解する。命令順守型のバルクホルンらしい言い訳が利いた命令に、501はいつもの実力を発揮するに至る。そして、一時部隊を離れたミーナはネウロイを極力排除しながら、勇の隙を伺っていた。勇は降下猟兵部隊の攻撃を全てシールドで防ぎ、ネウロイへの攻撃も同時並行的に行っていたため隙が見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「少しでもユウの周りがいなくなれば・・・」

 

 

 

 

 

 

勇の周囲にいるのは一概に敵と言い切れない。501に与えられた任務はネウロイの排除であり、その一部にはネウロイとなり果ててしまうことが予想された勇をも排除することが任務とされていた。それだけに作戦遂行上、勇の近くに存在する邪魔な障害は取り除くことも許可されているのである。そんな考えが過ってしまう自分に身震いがしてしまうが、それでも自分の任務を完璧にこなさなければ、501は汚名を着せられ、ウィッチの運営自体が危険に晒されてしまうのである。その上でミーナは決断する。

 

 

 

 

 

 

 

「必ずユウ、あなたをネウロイから救って見せるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのミーナの飛行する光景を下から眺める男、アイヒマンは取り巻きの部下から治療を受けながら憎悪を込めて天に唾する。

 

 

 

 

 

 

 

「運命の売女めっ!どうしてこうも赤松勇の思い通りに事が進むのだ!俺の行動こそ世界を導くのだぞ?!平和を叫ぶだけの能天気な奴らとも、命令に縛られるバカな軍人どもよりこの俺の将来性のある行動こそ称賛されて然るべきだろ!?どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって!」

 

 

 

 

 

 

 

一頻り暴言を吐き尽くし、落ち着くために天を仰ぐ。そんなアイヒマンに部下が状況を報告しに来る。

 

 

 

 

 

 

 

「我が総統、現在我が武装親衛隊は敵の大群に対して遅滞戦闘を展開しながら赤松勇中佐を攻撃しています。しかし、以前赤松勇中佐を攻めあぐねております」

「そうか、無能には制裁を加えねばな」

「っ!?そんな・・・」

 

 

 

 

 

 

ただ報告しに来た兵士の頭を撃ち抜くアイヒマンの顔は怒りを通り越して無表情になっていた。周りの兵士たちは次は我が身と必死に自分を奮い立たせる。恐怖に支配された兵士は、アイヒマンに敬礼を繰り出すと、そそくさと攻撃に加わる。ここでただ殺されるよりかは戦って死のうと直感的に理解したのだろう。それを当然のことだと信じるアイヒマンは手元に大事に抱える木箱を開封する。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、いくら無能を排除しようと時間がかかり過ぎるからな。これがあれば・・・俺はまだ負けてない。いや、いつだって俺は勝って来た。今回だって勝ってみせるさ」

 

 

 

 

 

 

 

木箱の中から出したものにうっとりとした顔を見せる。周囲の喧騒が嘘のようにその爆弾の魅力にアイヒマンは吸い込まれていた。小さな爆弾はこの世を変える、いわば種子のようなものである。そんな大事な種子を胸に空を見上げる。爆発四散した白鯨の涙とでもいうべき煙がアルプス山脈の向こう側に落ちて行っていた。その光景を見て口角を上げて通信機を取り出す。チャンネルを合わせると、管制官の声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

『こちらヘルウェティア連邦、アルプス監視所。どうされましたか?』

「ああ君、少し頼まれてくれるかね?」

『はっ?すみません、外の雑音でしょうか?聞き取りずらいのですが』

「やれやれ、ではよく聞き給え。パーティーの用意を頼むよ」

『はっ?その聞き間違いでなければ、パーティーとおっしゃられましたか?我々は監視所でありますので・・・』

 

 

 

 

 

 

 

話しの分からない男だと、アイヒマンは不敵に笑うとこの男の行く末を楽しみ語ることにした。なにしろこれから自分が頼むのは楽しい楽しいパーティーなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「聞き間違いではない、パーティーだ。こちらアルプスの麓、ヴァイザッハ。ネウロイの大規模侵攻だ。砲弾の差し入れを頼めるか?」

『ネ、ネウロイ?!何かの間違いでは?!連合軍からは何も・・・』

「君、この音が聞こえないのかね?既にもう敵はアルプスを上っているのだよ。いくら永世中立国であるヘルウェティア連邦だろうと、自国の危機くらい自国で守りたいだろう?」

『はっ、すぐに上に確認して参ります!!!』

「なるべくたくさん人を配置することをお勧めするよ。なにせ敵は大群な上にとっても愉快な親玉と来ている!これを君たちが倒せば・・・こういえば分かるな?」

『はっ!情報提供に感謝します!』

 

 

 

 

 

 

 

急いで切れた通信に満足げに微笑む。これでアルプス周辺には観客が満員御礼である。全てを巻き込んで有終の美を飾るのは自分である。未来永劫語り継がれ、ありとあらゆる歴史書と教科書には雄大な写真付きの自分が、何ページにも渡って教えられる存在になるのである。自分の才覚がここまであるとは思えなかったと、高笑いを堪えずに撒き散らす。そして、次なる誘惑を差し向ける。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐、よくぞ来てくれた」

『こちらミーナ、お久しぶりですね、アイヒマン中佐?』

「失敬、昇進してな。今は部下からフューラーと呼ばれている」

『昇進おめでとうございます、とでもお世辞を申せばいいのでしょうか?今は残念ながら戦闘中でして』

「ええ分かっているとも。ミーナ中佐が十全に任務を果たしてくれることもな」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間のミーナのムッとした感情が、通信機越しに伝わってきて心が高ぶってくる。さらにいじめることもできるが、ここで拗ねられては元も子もないと自重する。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐、我々は現在ネウロイと交戦中だ。君にも参加要請を出したはずだ、違うか?」

『・・・その要請でこうして赴いたのです』

「では、やるべきことをやってもらおう」

『やっています!我々は迫りくるネウロイと戦闘を・・・』

「嘘だ」

 

 

 

 

 

 

 

アイヒマンの冷徹な声が伝わったのか、通信機越しのミーナの心が凍り付いたのが手に取るように分かった。アイヒマンは追い打ちをかけて獲物を囲い込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんですって・・・』

「嘘だ、と言ったんだ。先ほどから遊覧飛行でもしているのか?こちらは血と鉄を吐き出して必死に奮戦していると言うのに。まさか君だけは特別だとでも?」

『そんなことは・・・』

「では、早く撃て。もちろん目標はなんだか分かっているな?」

『・・・はい』

 

 

 

 

 

 

気の強いウィッチを自分の指示一つで屈服させることのできる、自分の権能が恐ろしかった。なんでも思い通りになる魔法の言葉を操る自分こそが至高の存在である証明だと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く見せてくれ。君の世界に対する忠誠心とやらを」

 

 

 

 

 

 

アイヒマンの言葉はミーナに突き刺さる。アイヒマンの一言で本当に世界の歯車が狂うのだ。それを嫌と言うほど知っているミーナは決意を固める。ミーナは再び戦闘中の勇に視線を送る。依然として勇の付近にも近づけておらず、隙が見当たらなかった。それにしても、一人で孤軍奮闘していると言うのに、全てを圧倒するその実力には恐怖を肌をなでるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ・・・お願いだからもう止めて・・・これ以上暴れたら本当に取り返しがつかなくなる」

『いいや、これでいいんだ』

「なっ!?ユウ?ユウなの?!」

 

 

 

 

 

 

突然通信に割って入ってきたのはかつての勇の懐かしい声だった。しかし、その声はどこか無機質で抑揚のない不気味とも言える声音だった。それでもミーナは勇と話し合える手段を確立したことを喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ!話を聞いて!あなたを助けたいの!」

『助ける?誰から?』

「誰からって・・・世界からよ!」

『世界から逃げたところで、俺は世界に居場所がないぞ?』

「それでも死ぬよりかはマシでしょう?!」

 

 

 

 

 

 

 

勇の言っていることは一理ある。その肯定をしてしまえればどれだけ楽だったか、ミーナはこれまでに幾度となく考えの坩堝に悩まされてきた。勇を救う算段をこうして持参してきたのに、勇本人がそれを拒絶してしまえば全てはご破算である。だから、ミーナは強硬手段に出ることにすると警告する。

 

 

 

 

 

 

 

「私があなたの居場所を作るわ!だから、私と一緒に来て!」

『俺は自由意志でここに居る。俺の意思がこの後の物語を紡ぐんだ。ミーナ、お前にそれを邪魔することは出来ない』

「そう・・・なら、力づくでもあなたを説き伏せるしかないわ」

『最初からそうしてくれ』

 

 

 

 

 

 

勇の反論を挑発と受け取ったミーナは眉間に皺を寄せる。眼下の勇がミーナを見て笑っているようで腹が立った。そんなに自分勝手に死にたいのか、そう考えると自分のこれまで考えて来た計画を鼻で笑われた気がして、力が湧いてくる。ミーナは急降下体勢に入り、照準を勇に合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの意思を打ち砕いてみせるわ!かなり痛いわよ!覚悟して!」

 

 

 

 

 

 

照準の中の勇はどんどん大きくなり、その不敵な表情が近づいて来る。位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるように、怒りが不安に徐々に変換されていくのは、やはり自分の心がまだ弱いのだろうか。そんなことを思いながら、それも勇の心理戦だと邪魔な思考を振り切って引き金に手を置く。間もなく勇に目を瞑っていても確実に当たるコースに入る。それでも勇は挑戦的な視線を送り続けていた。そしてまさに、射撃寸前と言うその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐ぁぁあ!待ってください!!!」

 

 

 

 

 

 

地上の声が微かに聞こえてくる。その声の主は、小野里だった。小野里はなぜかティーガー戦車に乗り、アインザッツ・グルッペンの兵士と共に必死に勇に迫っていた。勇への攻撃を一時中断してでも、今はタイミングを計りたかったのかもしれない。ミーナは驚いて通信のチャンネルを合わせる。

 

 

 

 

 

 

「小野里少尉!どうしてここに?!」

『今はそれどころではありません!間もなくヘルウェティア連邦から砲撃が開始されます!早く退避をっ!』

「なんですって?!」

 

 

 

 

 

 

小野里はアイヒマンの通信を傍受し、ヘルウェティア連邦側からの砲撃をミーナに警告してきた。アイヒマンが即席の暗号を用いたため、戦車に搭載されている無線機で傍受することができたのだった。山の向こう側から砲弾が雨あられと降り注ぐことを想像すると、空にいる自分も巻き込まれる可能性があり、非常に危険だった。しかし、ミーナにもやるべきことが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「忠告ありがとう!でも、むしろ好都合だわ!」

『な、何をするつもりですか!?』

「私はユウを無力化しますっ!あなたたちは早くここから退避をっ!」

『そんなっ!私たちが勇中佐を!』

「もう間に合わない!あなたたちだけでも早く!」

 

 

 

 

 

 

ミーナは小野里の忠告も聞かずに勇に再度攻撃を仕掛ける。小野里が何か叫んでいたがそれも無視して高度を取る。勇は未だ攻防に忙しく、ここに砲撃が加えられるなら必ず隙が生まれるはずだった。ミーナがちらりとアルプスの山際を見ると、遂に砲撃音が轟いてきた。地上の勇たちは未だにその音には気づいておらず、ミーナは砲弾の落下に合わせて降下を開始する。

 

 

 

 

 

 

「今度こそ決めるわっ!」

 

 

 

 

 

 

ミーナの決意の速度は、砲弾と共に地上に降り注ぐ。地上の兵士やネウロイは突然の砲撃に為す術もなく吹き飛ばされて行く。ミーナの目標付近も爆炎に包まれているが、その炎を突っ切って突き進む。その炎の先に勇はいた。勇は頭上の砲撃をシールドで塞いでおり、完全に不意と死角を突いての絶好の機会だった。ミーナはその機会を逃さず、砲撃の中を勇に向けて攻撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・!!」

 

 

 

 

 

 

MG42のバリバリという射撃音が勇の付近を耕し、勇は防御も間に合わない。ミーナの狙いは完璧だった。ミーナが放った弾丸は勇の右腕を引き裂き、その衝撃で勇は後ろに吹き飛ぶ。ミーナの目標は完璧に達成されたのだとミーナは後悔の念と混じり合うささやかな安堵の気持ちが過る。しかし、ミーナの狙いは結果的には行き過ぎる。それは吹き飛ばされた勇の不敵な笑みに象徴されていた。

 

 

 

 

 

 

 

『残念、少し遅かったな』

 

 

 

 

 

 

勇のそんな声が聞こえてきた瞬間、吹き飛ばされた勇の足元に砲弾が着弾する。ミーナは瞬間的に襲ってくる後悔の念が増大する前にヘルウェティア連邦に通信を繋ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「こちら第501統合戦闘航空団隊長のミーナ!ただちに砲撃を中止してください!味方を誤爆しています!繰り返します!ただちに砲撃を中止してください!味方を誤爆しています!」

『なにっ!?了解した!ただちに砲撃を中止する!』

 

 

 

 

 

 

 

ヘルウェティア連邦に要請が通ると、ミーナはすぐに勇を探す。そこには右腕と両脚を失いながらも左半身を修復している勇の姿があった。勇の死亡という最悪の想定が起こらなかったことは幸いだったが、不幸は自分の身にも降りかかっていた。なんと砲撃の破片が当たったのかユニットの蓋板が歪み、飛行が安定していなかった。その隙を逃さず、ミーナに迫るネウロイが一機、攻撃態勢で迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「しまっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナに絶体絶命の危機が迫る中、ミーナに迫るネウロイは攻撃の瞬間に光となり果てる。ミーナはネウロイをやっつけてくれたのは勇だと一瞬考えた。しかし、ミーナの腕を掴み駆けつけたのは指揮権を継承したバルクホルンだった。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ大丈夫か?!ユニットがやられているじゃないか!」

「え、ええ・・・私は大丈夫よ、助けてくれてありがとう」

「まったくだ!あんな砲撃の中を突き進むなんて自殺行為だ!頼むからミーナまで私の前からいなくならないでくれ・・・」

 

 

 

 

 

 

肩を組まれ、仲間が集まってくる頃にはもう逃げ出せない状況を醸成されていた。しかし、まだ自分の任務は達成していないのだ。無力化した勇を拘束し、連れて帰るまでが今回の自分の使命だと考えていた。周囲を見渡すとアインザッツ・グルッペンの数名の兵士たちは何とか生き残り、残存兵力を集中させている最中であり、小野里らは戦車こそ砲撃に晒され、履帯が破壊されていたが今ならまだ逃げられる余裕があった。だから、ミーナは今動こうとする。しかし、宮藤の一言がミーナの行動を鈍らせる。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ中佐・・・さっき、勇さんを攻撃したんですか?」

 

 

 

 

 

 

宮藤の発現に場が凍り付く。先ほどの行動を先に知っていたのはバルクホルンだけであり、砲撃と戦闘の最中に目撃できたのは偶然としか言いようがないのだが、幸か不幸か宮藤はその瞬間を目撃してしまっていた。その回答をしなければミーナは仲間からの支持基盤を失ってしまい、それはあまりにも犠牲が大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

「見て、いたのね・・・」

「ミーナ中佐、説明してください。さっき、ミーナ中佐は勇さんをネウロイから救うって言いましたよね?」

「・・・そうね、説明はしなければならないわね。掻い摘んで説明させてもらうけど・・・今のユウは、ネウロイになりかけているの」

 

 

 

 

 

 

 

ミーナの説明に、一同は驚きや困惑と言った様々な反応を見せていた。しかし、ミーナには時間が惜しかった。そのため間髪入れずに説明を畳みかける。

 

 

 

 

 

 

 

「先のベルリン奪還作戦の後でユウが消えたのは、新たなネウロイを倒しに行くためではないわ。嘘をついていてごめんなさい。本当の理由は・・・」

「ミーナ、もういい」

 

 

 

 

 

 

本当の理由を説明してしまうと、何も知らない隊員たちは世界の真実に触れてしまう。触れただけでその毒牙に侵される自分たちを前に、バルクホルンが差し止める。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、聞いてくれ。この世は残酷だ。そして、それと同じくらい愛に満ちている」

 

 

 

 

 

 

バルクホルンの説明は一部の者には伝わらなかったが、勘のいい者たちには伝わったようだった。しかし、それで十分だった。この負の連鎖ともいうべき世界の汚れに身を浸すことはウィッチの仕事ではないのだ。それを残念ながら一番理解しているのはミーナとその視点に追いついたバルクホルンの二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「バルクホルンさんがそう言うんでしたら、私そうなんだと思います。それで勇さんが守れるのなら・・・私、信じてみようと思います」

「ありがとう、宮藤」

 

 

 

 

 

 

 

なんとか理解を得られたことでミーナは成長したバルクホルンに目線で感謝を伝える。隊員もあの頑固な宮藤の了承の言葉で各々が心を落ち着けようとしていた。これでようやく準備が整ったミーナは、最後の計画に移る予定だった。『だった』と言うのは、その予定を実行できなかったからである。なんと、ミーナが下準備を整える僅かな時間でさえ、世界は許容できなかったからである。501の目の前で起きたのは桁外れな大爆発と山崩れだった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何が起きたんだ?!」

「ユウ・・・あなたなの?」

 

 

 

 

 

 

ミーナの心当たりは正しくはその通りだった。しかし、ミーナの疑問はある存在の二面性から考えればもはや不正解ともいうべき存在が引き起こしたものだった。それを説明するには、時を少し遡る。その場には二匹の怪物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・・久しぶりだな、赤松勇」

「・・・アイヒマン、お前か」

「フハハハハ!どうやらお前の最期に見る景色は俺と言うわけだ。世界の害悪を葬るは正義の務め・・・つまり定めと言うわけだ」

 

 

 

 

 

 

久方ぶりの再会を果たしたのは勇とアイヒマンだった。部下を一人も連れず、アイヒマンは瀕死の状態の勇の下に一番乗りを果たしたのだった。勇は斜面に這いつくばってネウロイ化した左腕だけでゆっくりとよじ登っていた。その様子が虫けらのようで、アイヒマンはあられもない勇の姿を見て嘲笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもなんというおぞましい姿だ。人間の姿の原型を留めていないではないか」

「あいにく型にはまらない生き方をしてきたカラナ」

「型にはまらないから人間は堕落するのだ。そんな人間を俺は始末する。お前はその先駆けになってもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

アイヒマンは拳銃を抜き出すとすかさず5発勇の背中に撃ち込む。本来ならば拳銃を出してから、相手の命を弄ぶように最後の言葉を聞いたり、脅したりするものだが、アイヒマンはそのお約束を無視して勇の殺害を試みる。しかし、勇は死ななかった。それどころか、アイヒマンに向き直り、仰向けの姿勢で笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お前・・・本当に化け物になったか?!」

「・・・お互い様ダロ」

「まあいい。いくら不死身だろうがこの後ここに居る観客もろともアルプスを墓場にしてやる。お前の死はこうだ。『世界の敵赤松勇、救国の英雄に討たれアルプスの山々に眠る』、全ては俺の糧になるのだ」

「英雄ジャナクて、英霊の間違いダロ」

 

 

 

 

 

 

勇の減らず口に眉間に皺を寄せるが、勇の不敵な笑みがそれを和ませる。自分が勇の命の行く末を握っていると思うと全てが許せると思ったからだった。しかし、勇の不敵な笑みはアイヒマンの愉悦を上回る。

 

 

 

 

 

 

 

「なにがそんなにおかしい!」

「イヤ、お前の考えモ一考に値スルと思っテナ」

 

 

 

 

 

 

言葉の抑揚がなくなってきた勇の顔は徐々にネウロイの模様に侵食されていく。その変化にアイヒマンはすかさず残りの銃弾をばら撒く。それでも勇の身体は修復され、さらに侵食が深まるばかりだった。その様子を見て何かがおかしいと、危機感を抱いたアイヒマンはすぐにその場から立ち去ろうとする。しかし、勇がそんなアイヒマンを引き留める。

 

 

 

 

 

 

「ツレナイナ、ここではユックリ話もデキナイ」

「止めろっ!離せっ!」

「アルプスを墓ニ、カ・・・ソノ考え実行シヨウ」

「なんだとっ!?」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、アイヒマンを掴んだまま勇の左腕はネウロイのように赤い光を放ち、その太いビームがアルプス山脈を削り取っていく。その光景はまるでアルプスが噴火したかのような威力で、一気に崩れ落ちる巨大な岩に勇もろとも巻き込まれるのだった。そして、その未曽有の山崩れは、残存するアインザッツ・グルッペンの兵士たちやネウロイ、小野里らを全て飲み込むほど巨大なエネルギーの暴発だった。後に501の隊員の著書には、この時の出来事をこう記している。

 

 

 

 

 

 

 

『あの日、○○○中佐を中心にアルプスの山は巨大な岩の集合体になり果てた。それは眼下の全てを巻き込み、戦いを終わらせたとも言えるが、私にはあれが自然災害や天変地異に準えられる何かに感じてならなかった。それを引き起こせるのはあの時代では、もしくは今でも(私が現在知り得る限りでは)彼しかおらず、限りなく近い何かに例えるとするならば私は『神』ではないかと思う。いや、この例えでも物足りないと感じられるほどのものではないだろうか。実際、私はその場にいてその光景を嘘偽りなく、誇張表現でもなく言い表すことができない。この真偽を確かめるのは、この本を手に取った諸君に委ねられるわけだが、恥ずかしながら私の周囲からの評価を知る者からすればこれ以上の証明はないだろう。とかく、彼は我々が知り得る神や魔王といった存在に固有名詞として列せられる存在だった。しかしながら、彼を今でも恐れる者もいるだろうが、彼は私が知る限り最も身近な拠り所であると、後輩諸氏に教示しなければならないだろう。 

             ーーー元第501統合戦闘航空団 ○○○○○○・○○○○○○ーーー(1975年未修正)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。冒頭での小野里とヴィットマンとの絡みは驚かれたと思います。私の中ではかつて小野里が名前を教えた杉田とヴィットマンが通じるところがあると思い、この設定を考えておりました。ようやく(唐突ではありましたが)小野里とヴィットマンの仲を書くことができて私は満足です。年の差?ロリコン?知らないですね。そう言った感想はぜひコメントで罵ってください!

さて、今回の話でようやく大規模な戦闘は終了します。そしてようやく次回から勇くんのメイン返り咲きの回となります!大変お待たせいたしまい申し訳ありません!そして、今回ミーナにはとても苦労してもらう役目を任せて書かせてもらいましたが、勇くんに届くといいね!では、また!

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