前回で最終回を迎えた本作のアフターストーリーを開始しようと思います。まだまだ文章力も稚拙で誤字などもあるかと思いますが、赤松勇少年の物語を続けさせていただきたいと思います。
今回からは魔法力を失い、パイロットとして活躍する勇の話を主としますので、原作のストライクウィッチーズの登場人物の登場回数は少ないと思われます。それでもよろしければ是非、ご一読ください。
魔法力を失い、501統合戦闘航空団を抜けた勇は遠路、扶桑に帰国していた。帰国してからはウィッチとしての役目は終わったが、欧州での功績から希望の兵科に移ることができた。これも坂本の推薦あってのことだった。もちろん、ウィッチを辞めても空に居ることを辞めたくなかった勇は、迷わず航空科を選択。晴れて戦闘機搭乗員の道へと進むことができた。階級は501JFWの時とは一つ下の少尉が実階級となるが、欧州での戦果や実績を考慮して、特務中尉の階級となっていた。そして今、勇は零戦の操縦訓練として古参搭乗員と模擬戦を行っていた。
「ぐくく・・・!まだまだ!あっ!」
拭き流しを用いた模擬戦は、勇の吹き流しに銃弾が貫通し、勝敗は決した。地上に降りると勇はげんなりとして戦闘機を降りる。教官は勇が向かわずともやってくるのだ。そして、間もなく地を揺らすような声で怒声が飛ぶ。
「おい、坊!あの旋回の機動はなんだ?あれじゃあ犬でもお前の尻にかぶりつけるぞ!お前の欧州での経験は女の子との散歩か?!」
大声でのしのしと歩く姿はまるで熊のようで、その口の悪さは士官のなかでもトップクラスだろう。それでも勇は慣れた方で、ため息を我慢して反論する。
「お言葉ですが、犬は空を飛べませんし、私の名前は勇です。いい加減覚えてください。それに私が弱いのではなく、教官が強いのです。あと、ウィッチに手を出したら厳罰ですよ。」
反論しつつも謙遜なしに褒めるその実力は扶桑といえども屈指の実力者である。その教官の名は「赤松貞明」。扶桑海事変以前から戦争に参加している古参中の古参搭乗員であり、戦闘経験から導き出される戦闘技法には目を見張るものがあるが、軍紀違反に命令無視、女遊びに酒乱と手のつけようのない悪童である。また、戦闘だけでなく柔道、剣道、水泳なども有段者で、全部合わせて十五段などとも言われる無茶苦茶な人物が勇の教官であった。これも坂本の余計な一言によるものだった。
『赤松繋がりで赤松貞明中尉に操縦を習うといい。私は会ったことはないがかなりの実力者だと聞く。しっかり鍛えてもらえ!』
この一言さえなければ、と勇は心から感じていた。赤松が所属するこの部隊に配属され、師として仰いだ一日目にされた命令がウィッチの誘拐であった。これは言葉の綾ではなく、本当に誘拐まがいの行為を迫られたのだった。
「おい、俺と苗字が一緒の・・えー親戚じゃねえよな?まあいい。ウィッチだったんならその辺のウィッチ引っかけて連れてこい。連れてくるまで帰ってくんな。」
初日に無茶苦茶な命令を出されたが、扶桑では上官の命令は絶対である。絶対である以上やらねばならない。しかし、そんなことやったことのない勇は懇願の眼差しで赤松を見る。すると返ってきた言葉は見事に期待を裏切るものだった。
「あ、そうそう。うちは門限16時だから。それ過ぎたら営倉行きだかんな。気ぃつけろ~」
少しでも期待した自分に怒りを覚えたが、命令はこなさなければならない。勇は実直に考えを巡らせる。勇のいる基地は海軍の基地であるが、有事の際に備えて陸軍とも関係を構築しているため、基地は近い。ウィッチは勇が所属する基地には存在しないが、陸軍はウィッチの養成所としても機能しているためその一点に賭けるしかなかった。勇は即座に行動に移す。
外出許可証を受け取り、いざウィッチ探しに奔走する。しかし、勇の豪運は今日に限って冴えわたっていた。基地を出て3分でお目当てのウィッチを見つけたのだった。すぐさま声を掛ける。
「すみません!陸軍の方でしょうか?」
声を掛けると、そのウィッチは勇の方へ振り返る。そう、勇の豪運は冴えわたっているのだ。その人物とは、扶桑でなくとも轟く、黒江綾香陸軍少佐その人なのだから。
「お呼びだろうか?」
勇は思わぬ有名人を引き当てたことに驚きつつ、任務をこなすべく動き出す。
「失礼いたしました!私は近隣の基地に所属しています、赤松勇特務中尉です!黒江少佐とお見受けします!どうか私と来ていただけないでしょうか?」
緊張しながらも必死な形相に黒江も勇についていくことを受諾する。基地まで連れて行くと守衛の者まで黒江に敬礼をして通してしまう始末であった。それだけ黒江という人物の知名度の高さが伺えた。そして、勇は配属初日にして伝説を作った人物として覚えられることとなった。そして、現在に至るのである。
「まだ初日のこと根に持ってんのかよ・・・あんな大物本当に連れてくるなんてとんだ災難だったぜ。」
そい言いながらも、基地司令に見つかり怒られた際にも赤松は「まったく、基地じゃなくて個室につれてこいよな」などと呟いた本物の大物である。とは言え、訓練は順調以上の速さで進み、速成教育の枠を超えた速度で勇のパイロットとしての腕は上達していた。ウィッチとしての経験もあり、操縦の基礎さえ学んでしまえばあとは水を得た魚のように独学で習得していったのだった。それを見た当時の教官が、訓練の必要なしと判断し、現在勇が所属する精鋭の第53航空戦闘隊に配属が決まったのだ。ここには海軍の精鋭が揃っており、勇も予科練の頃とは段違いの技量に日々精進の毎日を送っていた。すると、赤松とのやり取りを見た好青年たちが近づいて来る。
「松さん、新人にあの機動は無理ですよ。第一あんな機動私も初めて見ましたよ。」
毎回勇と赤松の口喧嘩を仲裁してくれるこの人物もまたこの基地の精鋭の一人である、太田敏夫飛曹長である。この人物は扶桑海事変で名を挙げた坂本美緒や笹井醇子とも作戦で護衛を果たした強者だった。そして、猛者が続く。
「ありゃあ、まっちゃんだけにしかできん芸当だからなあ。いくら欧州帰りといえど初見じゃ見切れんじゃろうて。」
「たしかに、松さんあの日はさすがに基地司令にこってりと絞られましたしねえ。あの黒江少佐を連れてくる期待の新人に八つ当たりするのも納得ですよ。」
老練な風貌をする人物は高塚寅一飛曹長であり、この人物は仁義に厚く、勇の過去を知って勇の面倒をよく見てくれる人物である。さらに、温和で優男風なこの人物は羽藤一志三飛曹である。優しくいつも日向ぼっこをする性格と苗字の羽という漢字から「はとぽっぽ」から取って「ぽっぽ」と言われているが、これら二人も歴戦の勇士であることに違いはない。そんな猛者集団の中に放り込まれた勇も、数カ月の時間を共にすることで次第にこの部隊の雰囲気に慣れていた。赤松の粗暴な振る舞いに付き合わされる勇と、それを温かく見守るという光景はいつしかこの基地の名物となり、今では勇と赤松を赤松コンビと呼んで面白がっている。
「へんっ!初見だろうと対応して切り返さなきゃ戦場じゃあ真っ先に死んじまうからな。そこらへん分かってんだろうな坊。」
未だに勇のことを認めてないのか、一向に名前で呼んでくれない赤松だが、これでも勇の経歴を聞きそれなりに配慮しているつもりだった。たしかに面白半分で命令をしているのは確かだが、決して無茶ではない、と思っている。そこに二人の思考に大きな隔たりを生んでいるのだが、赤松はそれに気づくことはなかった。そして、訓練が終わりいつものように基地司令である源田実大佐との会議が行われるため、勇たちは会議室に集合した。源田司令は厳かに説明を始める。
「諸君も知っていると思うが、現在の欧州情勢はお世辞にも好転しているとは言い難い。各地で部隊やウィッチが活躍しているだろうが戦況を動かすほどの物はないと言っていい。各国の選りすぐり集団を運用している彼の501統合戦闘航空団なるものも存在するが已然ガリアの奪還には至っていない。」
勇があの501統合戦闘航空団を脱退していい時間が過ぎたが、未だ世界情勢は逼迫していた。現在、勇の代わりに扶桑から新たな人員が配属されたとの報告はあったが、既存の航空戦力も蔑ろにはできない戦果を挙げていた。しかし、源田司令も切れ者で扶桑でエリート部隊を結成することを考案し実現した功労者である。であるはずなのだが・・・
「まったく儂のエリート部隊のアイディアを盗みおってからに!儂ならもっとうまく部隊運用をして今頃ガリア開放の道筋を立てているぞ!」
この源田という人物もまた変人であり、毀誉褒貶の激しい人物とされている。ウィッチの部隊の司令も経験しており、欧州で有名になりつつある、管野直枝少尉もこの人物に尊敬の念を抱き「おやじ」と呼ぶほどである。しかし、本質は自分の最強部隊で世間を席捲したいという願望を持つ扶桑浪漫を持つおじさんである。そして、源田司令の話の佳境も過ぎたあたりで本題に入る。
「おほん!本題だが、我が部隊にもついに欧州派遣の大命が下った。」
欧州派遣の言葉にどよめく一同。勇もついにあの舞台に戻れることに胸が熱くなった。源田司令はその熱を払うように言葉を続ける。
「それに際し、我が部隊は53航空戦闘隊から遣欧艦隊第343空に改称となる。戦闘機搭乗員や整備員など含めて空母乗り組みとなる。また、空母には既存の戦闘部隊も存在し、その人員も我らの傘下に入る。」
ここまでを聞いてもついに本格的に扶桑の戦闘機隊としての晴れ舞台だけに胸の高まりが鐘を鳴らしていた。さらに新たな人員の拡充と、破格の待遇だった。勇はまた欧州に行けることに胸を躍らせ、欧州のある人物に思いを馳せる。
数日中に勇たちは準備を完了させ、空母に向かうため佐世保軍港に向かう。本来、沖縄に近い鹿屋基地に向かうはずであったが、空母が現在出港中であるため外洋での合流になるためというのと、赤松が「鹿屋にはウィッチの女の子がいねえ!」と騒いだため変更となったのだ。佐世保に到着した一行はひとまず各々自由行動となる。これから長い間を艦の上で過ごさなければならないため、少しの休息をもらえたのだった。勇は一人もしくは太田らと行動を共にしようと思っていたのだが、期待は裏切られるものである。
「おい坊、一緒に歓楽街に出て可愛い姉ちゃん探そうぜ!」
既に酒臭い赤松に肩を組まれ、逃げ出そうにも逃げ出せない状況に陥っていることに遅まきながら気づいた勇は周りに助けを求める。しかし、これも無常に打ち砕かれる。他の隊員は赤松に付き合うのは御免だとばかりに距離を取られていた。伊達にエースの勘は危険を回避するべく冴えているのだ。これを諦めた勇は仕方なく、本当に仕方なく赤松の赴くままに付き従うこととなる。
「まずはそこらのウィッチにちょっかいかけようぜ!」
「絶対に嫌です。赤松隊長だけでやってくださいよ。」
「そう言うなって。ここにはたしか昔ちょっかいかけたウィッチがいるはずなんだ!」
「そんなことしてたんですか・・・」
呆れる勇を気にもせず、ずかずかと敷地に侵入する赤松。心なしか嫌な予感がするが、こんなときにも剛腕な赤松につられるまま同行する。すると、そこでは学生と思しきウィッチがユニットを履いてなにやら訓練の最中のようだった。そこにずんずんと目を輝かせながら進んで行く赤松にもうなにも感じない勇は、目の前の白い士官服に身を包んだ女性に気づかずにいた。こちらが無遠慮に近づいてきたのに驚いたのか、少しばかり動揺しながらかつ怒気を孕んだ声で怒声が響く。
「こらー!そこのお前らここでなにをしてるか!」
やはりというか普通に怒られた勇と赤松は悪びれる様子もなく歩みを止めない。勇は謝罪の言葉を考え、おそらく赤松は口説き文句を考えているのだろう。そんな二人に痺れを切らした士官が走って向かってくる。周りの学生も不審そうな目でこちらを見てくるのが痛々しかった。
「こらっお前ら!普通怒鳴られたら止まるだろ!謝れ!詫びろ!土下座しろー!・・・ってあああ!?」
途中から変な声を上げたことをそっと無視し、無茶苦茶怒っているその女性に謝罪すべく、ごく自然な所作で謝罪の姿勢を見せる勇はもはや歴戦の謝罪ニストといえるだろう。しかし、そんな状況にも動じない勇の上官たる赤松がその全てを灰燼に帰す。
「この度は大変申し訳なく・・・」
「おう、新藤!なんだかいい胸してんな!」
その一言で場が火山の如く爆発した。新藤と呼ばれた女性は怒りが中で爆発したようにわなわなと震え、こんにもおバカな一言を上官に向かって言える上司を持った自分に恐怖した勇の心が爆発したのだった。しかし、そんな爆心地にいながらもどこ吹く風の涼しい顔をした赤松は火に油を注ぐ。
「いやー新藤、お前でもいいんだけどやっぱ若い子がいいっていうかさ、食べごろの子紹介してもらえないかねって思って来たわけさ!がはは!」
この人はどこまで命知らずなのだろうと心胆寒からしめる発言に、もはや倒れたくなる衝動に駆られるが、そっと目の前の女性を見ると冷徹な目で殺意すら湧いた眼差しで懐の刀に手をかけていた。
「殺す・・・」
「あああー!待ってください新藤・・少佐!これは言葉の綾というものでして!」
「あ?言葉の綾ってどういう意味だ、坊。」
「隊長は黙ってて!」
助け舟を入れている自分に涙を禁じえない勇だったが、少しでも現状打破すべく言葉を尽くす。
「新藤少佐!こちらご存じかもしれませんが、赤松貞明中尉と、同じく赤松勇特務中尉であります!ここへはウィッチの訓練の立ち合いに・・・」
「おい坊!立ち合いってお前、誰かと結婚すんのか?!ちょっとその娘紹介しろ!唾つけとく!」
「お願いだから黙っててくださいよおおおおお!」
こんな茶番に呆れたのか怒りが頂点を超えてむしろ悟りを開いたのか、新藤は眉間を抑えて大きくため息を吐いた。
「もういい。両赤松中尉は邪魔をしないよう見学するように。まったく・・・それと貴様、あとで私の部屋に来い。」
「お?いいことあるのか?!」
「ないっ!!」
ぴしゃりと言い放ち校舎へ向かう新藤を横目に、勇は赤松と新藤の間柄を知りたくなったが、君子危うきに近寄らずであると自分を戒めた。そして、勇たちは本当にウィッチの訓練を見学することになり、予定が崩れたわけなのだが、崩した当の本人はだるそうに酒盛りをしていた。
「ああー退屈だ。見てるだけなんてこんなにつまらんことはない。」
「それもこれも隊長が蒔いた種なんですからしっかり責任取ってください。」
女の子、殊ウィッチにはなぜか美人が多い。佐世保にはリバウの英雄と謳われる雁淵孝美少尉がいたことでも有名である。現在は502統合戦闘航空団に配属が打診されているなど、その美しさに拍車をかける実力者である。それをこんなにも異性目当てで押し掛ける男性の魔の手から学生ウィッチをどうして放っておけようか、否、放っておけない。勇は赤松が誘うものなら本気で止めるつもりだった。しかし、赤松の口から出るものは毒気が抜かれるものだった。
「かあ~最近じゃあ、強いウィッチが軒並み前線に駆り出されっちまったからここに居るのはひよっこばっかだなあ・・・戦争も終わればこの子らも普通の暮らしができるのによ。」
ぽつりと吐き出されたその言葉は、普段では想像もつかないような赤松の心根だった。そして、ゆっくりと立ち上がると徐にウィッチに近づき始めた。今度こそ手を出すのではと冷や冷やしたがそれも杞憂だった。赤松は今訓練していたウィッチに話しかけると何やらアドバイスをしているようだった。手のジェスチャーが機動に関するものだったことからもそれが伺える。案外新人思いなのかもしれないと思ったが、勇は自分のことを振り返るとそこで考えるのを止めた。
「新人のウィッチに手は出さないで下さいよ。」
「俺はこんなちっこい娘には興味ねぇやい。でも胸はいいサイズしてんだわ。」
魔の手から救うべくそのウィッチを見ると、幼さが残る学生で、栗色の髪と小動物を彷彿とさせる姿に良心の呵責が彼女を逃がすことに決める。
「君、早く訓練に戻りなさい。」
「おい嬢ちゃん!名前だけでも聞かせろ!」
「隊長?!」
名前だけでもと縋る醜い赤松に勇は呆れるも、純粋無垢なウィッチは丁寧に名乗ってしまう。
「私、雁淵ひかりですっ!アドバイスありがとうございました!」
どこかで聞いたことのある苗字だと思う前に、ぺこりとお辞儀してまた訓練に戻る少女に鼻の下を伸ばす上官に喝を入れる。
「あんな純粋そうなウィッチに唾つけないでください。」
「短時間で名前教えてくれるウィッチに悪いウィッチはいねーよ。もしかしたらこの俺の男らしさに惚れたのかもしれね-じゃねーか。」
呆れて掛ける言葉も見つからず慄いてしまった勇を陰に、赤松は颯爽と校舎の方へ飛んで行ってしまったのに勇は気がつかなかった。
赤松は校舎を散歩するように歩いていると、それをまたもや発見した新藤に校長室に連行されていた。二度と見ることのないと思っていた赤松の顔には期待の眼差しで輝いている。赤松の目の前に立ち尽くし、もはや怒りも通り越して真顔になった新藤は昔を思い出す。まだウィッチとしての戦闘経験に恵まれなかった時代、洋上航法の訓練を実施したところ、生徒のウィッチがコースを誤り、戦闘機隊の厄介になったことがあった。そのとき生徒を導いてくれたのが赤松であった。赤松はしょんぼりする生徒を前に階級が上の新藤に向かってこう言い放った。
「どこのぼんくら教官が教えたのか知らねーが、生徒の不始末は上官の務めだ!責任取ってもらおうか!」
この言葉にはしょんぼりしていた生徒も驚き、新藤も面食らったのだが、堂々とした立ち振る舞いに、そうするのが当たり前であるように思えてしまい、おずおずと出てしまったのだった。すると自分より階級の上である新藤を前にしてもその振る舞いを直さず、むしろその体格を押し出し、胸を張った姿に新藤は圧倒されてしまった。いくら上官といえど心は少女であるため自然と萎縮してしまう新藤をじろりと睨み、手を挙げると握りこぶしを作り振り上げた。上官に対する暴行を前に誰も動けない状況だったが、その後の信じられない行為に全員が驚愕することとなる。
ムニュ
「ん?!」
「やっぱちっちぇえな!これだからひよっこウィッチの上官は肝っ玉もちいせぇんだ。」
「なっ!?」
信じられないことにいきなり新藤の胸を鷲掴みにしときながら、暴言を吐き捨てる赤松の行動を瞬時に抑える者がだれもいなかった。確かに新藤もまだ幼く、大きいとは言えない胸を貶された上に暴言を吐かれたとあってはいろいろなプライドが傷ついた。激怒して魔法力を込めて殴りかかるが赤松はこれを回避。さらに追撃をかけるが赤松の体術の前にはただの力業はその本領を発揮することはなかった。
「貴様っ!そこに直れ!そして謝罪しろ!叩き切ってやる!!」
「なんだなんだ!?あ、すまねえ!女子は玉ねえな!」
「そこじゃないいいいいいい!!!」
火にもはや火薬をぶち込む赤松と、それに激怒する新藤を抑えるためにようやく動き始める他の者たちで一挙にその場は騒然となった。以降、赤松には厳罰が下ったが気に食わなかったのか、辞表を提出し始める赤松に、上層部は頭を抱えた。赤松は確かに問題を起こす人物だが、それ以上に戦闘機搭乗員として優秀だった、いや優秀過ぎた。そのためなんとか赤松を説得し、新藤の所属する部隊と距離を空けた基地に配置したという過去があった。
その過去をふと思い出しただけでも新藤は湧き上がるものがあったが、そこはぐっと抑えつつ赤松を睨む。やはりその恵まれた体格と傲岸不遜な顔には見上げるしかできないことに悔しさがあった。
一方の赤松は、まじまじと見てくるウィッチの新藤が、自分に気があるのではないかと思い始めていた。部屋に連れ込まれたことといい、近距離と言える距離で一心に自分の顔を覗き込む少女が、もしかしたら接吻を期待しているのではないかという妄想に取りつかれる。赤松はこんな時に鈍感な男ではないため、新藤に接吻をしようと顔を近づける。
「はっ?」
何が起きてるか理解できない新藤だが、確実に予想外のことが起こっていると瞬時に判断し、距離を取るべく赤松を押しのけようとする。しかし、赤松の手が新藤の肩を捉えており、一緒になって床へと転がってしまう。その光景はいかにも新藤が赤松を押し倒しているようでさらに、赤松の手がまたもや昔のように新藤の胸を掴んでいた。
「き、貴様またも私を愚弄するか?!」
「む?昔より大きくなったか?こりゃあめでてえ!今夜は赤飯だな!」
「殺す!絶対ころs・・・」
新藤と赤松の間にアクシデントが発生している真っ只中、勇は行方不明の上官を探すべく校舎を探索中であったが、突如校長室で大きな物音が聞こえ、急いで確認に向かう。そこには勇の上官である赤松の上に馬乗りになって胸倉を掴み、少し赤松の胸の部分がはだけた姿になったあられもない情事の光景を目撃してしまった。勇は今まで培った戦場での反射神経を全力で生かして瞬発的に目を逸らし、扉を閉める努力をする。
「失礼っしました。ごゆっくり。」
「あっ!これはっ!ちがっ!」
新藤の弁解も空しく、勇は扉を閉める。勇は戦場慣れした立派な兵士であるため、戦場から離れた新藤には太刀打ちできないスピードが備わっていたことが不運だと言えた。閉まった扉に伸びた手はゆっくりと赤松の胸に降り、その真紅に染まった顔面は恥ずかしさと憤怒の色に染まる。しかし、赤松は動じないどころか催促する。
「おいどうした?まだ始まらんのか?ちと邪魔は入ったがあとで坊には文句言っとくから・・・ってなんで殴ろうとして・・・おいっ止めろ!?」
この日、赤松は現場に居合わせた者たちに救助されるような形で新藤と離され、即刻自由時間を取り消され基地に帰還するように命令が出されてしまった。しかしここまでお咎めがないのは、新藤自身が自分の恥態を曝すのを拒み、迷惑行為として追い払ったためである。勇にはとんだ迷惑だったが、上官である赤松はこう呟いたという。
「坊があそこで入らなければ・・・」
そんなこんなで佐世保を出発した勇たちは、すでに外洋で待機している新造空母「飛龍」に着艦することとなる。空母への着艦自体は経験があったため赤松の小言も少なかった。しかし、空母の甲板では幾人もの見物人が待機しており、それなりの緊張感をもっての着艦だった。着艦は上手くいき、着艦フックに引っ掛かり、甲板員が後を引き継ぐ。そのとき勇は鋭い視線を感じ、視線を甲板に巡らせる。そこには腕を組み、しっかり勇を見据える二人の存在があった。勇は目線が合った二人を不思議に思いつつ端に下がる。赤松もその人物たちに気づいたのか、どことなく気構えた様子だったと感じた。あの豪放磊落を体現する赤松が気構えるほどの人物たちに勇は緊張を覚え、これからの欧州派遣に赴くこととなるのである。
本作では、現実の旧日本海軍の撃墜王にご登場いただきました。中でも、勇と同じ苗字を持つあのお方にご活躍いただくことにしました。翻弄されつつも人間味を帯びる勇少年の今後の成長に乞うご期待です!
しかし、勇少年の活躍が今回は少なめで、赤松貞明さんの豪快なエピソードになってしまい申し訳ありません。また、赤松貞明さんの勇への呼び方は未だ違和感があるのも確かです。今後修正があるかもしれませんが悪しからず。では、次話で!