勇たちは空母「飛龍」に到着し、さっそく新たな隊員たちとの交流に混ざることとなった。新たな隊員たちは既に空母乗り組みだった者たちで、実戦経験を積んだ実力者揃いである。中でも先ほど勇に鋭い視線を向けた二人は中心人物である。一人はこの空母「飛龍」の戦闘機隊隊長を務め、我慢強い性格から「仁将」とも称される「林義重大尉」。そして、空戦において断固たる攻撃精神とその勇猛果敢さから「空戦の神様」と呼ばれる「杉田庄一中尉」である。この二人が主だった人物だが、この部隊の練度も一級品の強者ぞろいだった。なんと、元は空母「赤城」乗り組みだった戦闘機隊メンバーで構成されており、あの宮藤芳佳軍曹の初出撃時に坂本美緒とともに出撃し、そのネウロイの攻撃から生き残り、選び抜かれた最精鋭の搭乗員だ。そんな二人のうち林は椅子に深く座り勇たちを眺めており、杉田は勇と赤松のを見かけるとゆっくり近づいてきた。すると赤松が勇の前に歩み出て、杉田と対面する。勇は自分を庇うように出てくれた上官を初めて尊敬したかもしれない。太田や羽藤、高塚らが見守る中、緊張を破ったのは赤松だった。
「よう、てめえ撃墜数は?」
赤松は自己紹介も握手もなくネウロイの撃墜数を聞き出した。男なら言葉じゃなく撃墜数だと言わんばかりの粗暴さに杉田は口角を上げて答える。
「少なくて80、未確認合わせて120。」
「ほお・・・俺は300だ。」
胸の張り合いに赤松のとんでもない誇張された数を聞いて、杉田は怒るでもなく手を差し出した。それに赤松も応える。
「嘘つけ。戦闘機で俺より落としたやつを聞いたことないぞ。」
「ネウロイに聞いてみろ。俺の名前を聞くだけで逃げてくぞ。」
がっちりと握手しながら与太話を繰り広げていると、林が満を持してという形で登場する。赤松と杉田の前に立つと、突然二人の頭を殴りつけた。勇はもちろん周りも驚いたが、それを気にするでもなく林はにっこりと笑顔を浮かべると、大きな声で宣言する。
「俺が戦闘機隊の隊長、林だ。今日からお前たちは仲間だ。そこの杉田と赤松両中尉を中隊長として各員励め。扶桑男児は口ではなく戦果で示せ。その実力があると俺は確信している。」
そう言うとまた元の椅子にどっかりと座ってしまった。勇も含め全員が親分がだれか一発で分かる形に緊張が解かれ、交流は恙なく行われた。勇も新たな仲間たちとあいさつを交わしたが、赤松に突然首根っこを掴まれどこかへ連れて行かれる。
「隊長!猫みたいに摘ままないでください!自分で歩けます!」
「これから新しい隊長に挨拶するんだ。もう俺のこと隊長って言うなよ。」
「え・・・」
突然の赤松の真剣な言葉に、勇は自分の隊長である赤松を見る。そこには岩のように固く逞しい、勇が師と仰いだ勇士の顔立ちがあるだけだった。勇は赤松に連れられるままに部屋に入るとそこには、先ほどの杉田と林、源田司令。そしてこれまた大柄な人物が待っていた。その人物は明らかに階級が違う、普通なら勇が関わることのない雲の上の人物が勇を待っていたのだ。勇は急いでその人物に敬礼をする。
「赤松勇特務中尉、ただいま着任の挨拶に参りました!」
「うむ、楽にしたまえ。君のことはよく聞いているよ、勇中尉。赤城艦長の杉田くんからよく頼まれている。安心したまえ。」
急な展開と赤城の艦長から自分の名前が出たことに驚きを隠せなかった。杉田艦長とは面識がなかったはずであったからである。勇が不思議そうな顔をしているのを読み取ったその人物は面白そうに顎に手をかけ、事情を話してくれる。
「名乗るのが遅れたが、私がこの飛龍艦長の山口多聞だ。赤城艦長の杉田くんは知り合いでね。坂本少佐からの伝言で言付かったまでだ。」
勇は坂本が自分を気にかけてくれる嬉しさと同時に、この飛龍艦長の名前を聞いた衝撃の方が大きかった。山口多門提督、ウィッチに多大な理解を示す皇国海軍少将で、その豪傑っぷりはまさに将軍の器が似合う傑物である。そんな人物が勇に用があるとはどういうことなのか、また赤松がここへ連れてきた本当の理由が知りたくなった。
「発言をよろしいでしょうか。」
「許可する。」
「私のような若輩がなぜこの場に呼ばれたのでしょうか?」
この質問を予期していたようににっこりと微笑む山口は、源田に促す。すると、世界地図を広げ始める源田はせかせかと準備し、終わると山口に準備完了の頷きで返した。山口はそれを受け取り、説明に入る。
「現在、世界の主な戦線はブリタニア戦線及びガリアに巣くうネウロイの巣。そしてカールスラントを始めとする多数のネウロイ集団、東欧及び北欧方面、そしてアフリカだ。我々の欧州派遣の目的は各地の戦力拡大である。」
一つ一つ指揮棒で差された場所は奪還すべき人類の故郷であった。しかし、各地の戦力拡大とは一体どういうことなのか。勇の更なる疑問を山口が答えていく。
「現状、投入すべき戦力の地区はガリア方面、北欧方面、アフリカ方面の三か所だ。そこに我々戦闘機隊を各地に分散配置する。よって三部隊の中隊長は林大尉、赤松中尉、杉田中尉の三名とその部隊が赴くことになる。」
「なるほど、この飛龍に戦闘機しか配備されていない理由が分かりました。」
実は、この飛龍には搭載機数が45機あり、その全てが戦闘機「零戦」で構成されていた。山口が言う構想を実現するには制空戦闘を主に担当するため、艦爆などの機体の一切を乗せず、戦闘機の集中運用を目指すということだった。しかし、勇の質問に山口はまだ答えていない。勇は再度質問を繰り返す。
「繰り返しになりますが、なぜ私がこの話を聞くことになったのでしょうか。」
この質問で山口は真剣な表情となり、また赤松はどこか寂寥感を醸し出しているように勇は感じた。そして、この質問には源田が答える。
「赤松特務中尉は、ウィッチの経験則からいろいろと戦闘には慣れているだろう。その判断から、貴官には林大尉の副官になってもらうことにした。戦闘機隊隊長の副官として、存分にその実力を発揮できるのは赤松勇中尉、君しかいないと赤松貞明中尉からの進言で決定した。」
この言葉に勇は衝撃を受けた。まさか、自分の上官であり、師と仰いだあの赤松貞明が自分を手放すなど考えもしなかった。良くも悪くもいろんなことを教えてもらった日々は、本当のところ勇も悪い気はしていなかった。それだけに、赤松自ら他の隊長に自分を寄こすなど青天の霹靂だった。勇は赤松の方を向くと、赤松はバツの悪そうに手を振って弁明する。
「坊ならどこに行っても上手くやれる。俺の弟子だからな・・・」
そういうことではないのだと、本音は声に出したがっていたが、その本音はついに口から出ることはなかった。山口は勇の肩に手をかけ、期待する。
「欧州での活躍は聞いている。撃墜数130機以上の我が隊きっての新人を、一番活躍できる場に置くことが最善であると判断した。是非とも君には期待しているのだ。ウィッチと戦闘機パイロットとしてもエースになってくれることを期待している。」
「はい。」
返事に力が入らない。期待されているのにこんなにも虚無の重圧を、期待という名の重圧をこんなに嬉しくないと感じたのは初めてだった。横目に入る赤松は既にタバコを蒸かして天井を見ていた。源田も山口も喜ばしいことのように言うが、勇はなにか欠けたような気持でその日を過ごしたのだった。
数日後、順調に東南アジアのマラッカ海峡を抜け、スリランカ島で補給を終え、編隊飛行や訓練などの準備を積んだ343空は、オストマン国入り口の紅海に差し掛かろうとしていた。それまでの日々は山口多門と源田航空参謀の下、過酷ともいえる訓練が続いていた。いわゆる月月火水木金金である。この訓練では一流の搭乗員といえども疲弊し、山口のことを「人殺し多門丸」などと呼ぶ者もいたほどだった。勇も必死に訓練をこなし、時に新たな隊長となった林の副官として仕えた。しかし、勇の心は何か物足りず、何かを求める毎日だった。また、それに気づかない元53航空戦闘隊の仲間たちではなかった。
「せっかくの栄転だっていうのにのぉ、なんだかんだ言って松さんとの赤松コンビが決まってたのぉ。」
「寅さん、それを言うなら松さんも最近妙に張り合いがなくなっちゃって元気が空回りしてるんですよ。なあ、ぽっぽ?」
「ああ、今日の訓練でいつもの勇中尉の位置に誰もいなくて切れ散らかしてたよ。まあ、俺が悪いんだけどさ・・・」
実は勇だけではなく、赤松の方にも弊害が出ていた。勇はウィッチの経験を生かした、長機のカバー能力が断トツに優れていた。単機での格闘戦闘では赤松のようなエースパイロットに技量で負けていたものの、それは機体の操作に注いだ時間が違うからであって、格闘戦で惜しいとこまで行く勇のセンスは新人と言うには詐称を疑われるほどのものだった。501での経験と実績は伊達ではないのだ。そして、その勇のいる安心感は赤松をしても劇薬であった。なにも言わなくても意図を汲んでくれ、最適な位置・タイミングでの補助・射撃はやりやすさが段違いだった。一方、勇が仕える林隊での勇はと言うと、上手く林との連携に欠いていた。
「勇、さきほどの位置での補助は不要だ。むしろあのタイミングでの介添えは3番機の邪魔になる。」
「はい・・・」
「そんなことでは俺の副官は務まらんぞ。なにか言いたいことがあれば言っておけ。」
「・・・いえ、今度は上手くやって見せます。」
「そうか。」
勇はこれまで上手く連携はできてきたことに誇りを感じていた。どんな無茶な機動だろうとついていける自信はあるし、徹底して2番機としての役割を全うすることにお墨付きを得ていた自分が、連携で指摘されたことに困惑していた。林は技量、指揮ともに秀でた指揮官である。それなのに、自分の思うタイミングや位置が上手くかみ合わないのだ。まるで勇の補助がお節介のような動きに映ってしまうのだ。どうしたものかと歩いていると、正面から訓練を終えた杉田が現れる。
「おう、赤松のとこの!どうしたそんな暗い顔して?」
「杉田中尉・・・それが」
勇は林の中隊での自分の在り方について話していることにした。杉田は勇からすれば話しやすい人物で、林は今の直属の上官であるから話しづらく、赤松には現状を話しづらいため杉田には自然と話す気になれたのだった。勇の悩みを聞いた杉田は簡単に助言をする。
「お前は考えすぎなんだよ。気楽に一番機について行きゃあいいんだ。一番機が撃ったらお前も撃つ。それで協同撃墜になる。」
「そういうものでしょうか。私は副官として・・・」
「ああじれったい!じゃあ、今から俺についてこい!」
そういうと杉田は勇を連れて戦闘機に乗り込んだ。実際に杉田が勇を見てくれることになったのだ。実は杉田は林からも相談を受けていた。林からは勇という優秀な素材をどう扱うかに困っていたのだった。その上、勇は今までの波乱万丈な生活で、一般人と少しかけ離れた常識を有していた。ある時、林は勇が持ってきた飲み物を飲もうとしたら中身が酒だったことがあった。その時は「勤務中に飲酒など何を考えている」と怒ったら、勇は「酒は水だと教えられたのですが」と答えたという。赤松の影響だろうが、常人の考えから逸脱したことに勇自身気づいていないことにもすれ違いが起きていた。そして、杉田は今しがた訓練を終えた吹き流しを操縦するパイロットにもう一度訓練を頼み、勇を観察することにした。
「お前がどんな風に飛びたいかは知らんが、とりあえず俺についてこい。決して俺の背後から消えるな。そして、俺が撃つまで決して打つな。」
それだけ言うとさっさと空に上ってしまった。勇も慌ててついていき、杉田の指揮下に入る。吹き流しを流す訓練機が見え、杉田が攻撃の合図を出す。勇は言いつけをしっかり守り、背後にぴったりとつく。急降下、急上昇などの姿勢から攻撃を繰り返し、勇は杉田の機動に慣れていった。すると、杉田から連絡が入る。
「次はお前が思うタイミングで攻撃しろ。」
「わかりました。」
杉田の言われた通り、今度は勇の思う最適なタイミングで攻撃に入る。501でも経験した射撃体勢やタイミング位置取りを考え、射撃する。すると、杉田の撃つタイミングと同時になり、吹き流しはあっという間に穴だらけになった。勇はこれまで上手くいかなかった連携がこうも上手くいったことで、久々の高揚感を覚えた。杉田も素直に称賛してくれる。
「よくできた。あれができるのはうちでもそういないだろう。」
「ありがとうございます。でも、どうして上手くいったのでしょう?」
「それはな、さっきも言ったが考えすぎなんだよ。」
考えすぎと言われるが、勇は林の時も同じような行動を取っていたはずだと不思議に思う。しかし、杉田は確信したように解説する。
「俺はお前に、ついてこいと言った。その時のお前の行動は実に実直だった。そして、お前の思うタイミングでの攻撃も完璧だった。」
「ではなぜ?」
「それは・・・」
その答えを杉田が言う前に緊急電が二人に入る。
『緊急!現在所属不明機が我が艦隊に向けて飛行中!おそらくネウロイと思われる!現在、急行できる者が貴官らだけだ。二人に偵察を頼みたい!できるか?」
突然の敵襲撃の報に緊張が走る。勇は杉田の反応を待つと、杉田はすぐさま反応する。
「できるできないかじゃねえ!やるんだ!行くぞ勇!」
「はいっ!」
この即断的な反応と敵への攻撃精神こそが杉田の「空戦の神様」と呼ばれる由来の一因である。勇も勢いよく返事をすると速度を上げて、報告のあった方角へと翼を向ける。
雲を抜けて、紅海の入り口付近で敵を探す二人だったが、先に敵を発見したのは勇だった。
「2時方向敵機です!数はおよそ・・・」
「3機だな!よく見つけた!報告次第攻撃するぞ!」
「ですが、それでは数の上で不利になります!ここは一旦増援を待って・・・」
そこまで言わずに杉田は敵に向かって突っ込んで行ってしまった。慌てて指揮官である杉田に追従する。ネウロイの上方から一気に逆落としの形で攻撃を仕掛ける。勇は杉田との先ほどの訓練を思い出し攻撃する。最初は杉田の後にしっかりとついて射撃機会を伺う。杉田が攻撃を仕掛けたのを確認し、勇も合わせて発砲する。すると、まず1機を撃墜する。奇襲に気づいたネウロイはすぐに散会し、逃げ惑う。杉田は逃げ遅れた方のネウロイに照準を合わせると下方からぐんぐん近づき、ネウロイに手が届くような距離で射撃、そして撃墜する。その背後では、回り込んだネウロイが杉田の背後につくように旋回していた。しかし、ネウロイの眼前に突如もう一機の零戦が入り込みタイミングをずらされる。ネウロイが慌てて射撃した頃には、減速ループによりネウロイの後方に一気に回り込んでいた。ネウロイもそれに気づいて回避しようとした時点で勝敗が決していた。背後に勇、そしてネウロイの直上には縦旋回を終えて射撃体勢に入った杉田がいたのだ。これで絶対に回避不能な十字砲火が完成したのである。
「勇!今だっ!!」
「はいっ!」
二人の攻撃は見事に嵌り、ネウロイは光の屑になって消失した。勇と杉田はネウロイの襲撃をたった二人で撃退してのけたのだった。
「勇!よくやった!よく俺についてこれたな!」
「はいっ!ありがとうございます!杉田中尉のご助言分かった気がします!」
飛ぶ前とは打って変わって勇の表情は明るいものだった。勇は杉田が先ほど言いかけた助言がこの戦闘で何だったのかわかった気がした。すると、勇たちに林から通信が入る。
「こちら林中隊長、林だ。そちらの状況は?」
「こちら杉田。3機の敵の来襲を確認。それとその3機の撃墜を報告する。」
その報告をするが、勇はこれまでの経験から意見具申する。それを林は冷静に考察する。
「こちら赤松勇特務中尉から意見具申、今回の敵は偵察型と思われます。おそらく本隊が控えているものと考えます。」
「意見具申受諾。これより戦闘機全機は警戒行動に移行。敵本隊を迎撃する。杉田中隊長はそのまま第二中隊を指揮、勇中尉は俺の下に帰ってこい。」
勇と杉田は分かれ、林の下へ向かう。勇はもう自分の行動に自信を持ち直した。林は合流すると、勇の自信に満ち溢れた顔を見て確信する。
「ようやく副官の仕事は果たしてくれそうだな?」
「遅くなって申し訳ありません。しかし、もう心配ありません。お任せください!」
林は逞しくなった副官に満足し、敵の捜索を行う。全45機、3個中隊からなる編隊は林、赤松、杉田を筆頭に部隊を率い、敵を捜索する。すると、一番先に敵発見の報を入れたのは赤松の中隊だった。
「こちら赤松中隊、敵本隊を発見。小型8中型2の計10機で飛龍北東約30キロ地点を高度4000で飛行中。まだこちらには気づいていない。」
「林、了解。攻撃態勢が完了次第攻勢に移る。第一中隊は先陣、第二中隊は制空担当、第三中隊は遊撃隊として敵の行動を制限せよ。」
「赤松了解!」
「杉田了解!」
「では、攻撃開始!」
各隊の役割を割り振り、各々の任務を果たすべく一斉に攻勢を開始する。勇は林の副官としてしっかりとついていく。ネウロイの上空で一斉に第一中隊全15機は攻撃を仕掛ける。狙いは中型だが、周りの小型も攻撃に加える。そのうち勇は林の狙いに合わせて中型に狙いを定める。
「攻撃、攻撃、攻撃!!」
中型と言えどその大きさは馬鹿にできず、例え照準がいっぱいになろうともしっかり接近しなければ致命傷たり得ない。そのことを理解している勇はしっかりと20mmの機関砲を至近距離で連射する。ドドドという音を立ててネウロイの装甲を削る。一航下して戦果を確認すると小型2機を撃墜したが中型は高度を落としただけで、撃墜には至らなかった。しかし、その攻撃により小型ネウロイは勇たちに追撃をかける。勇たちはしっかりと体勢を整えるべく行動に移るが、そこに杉田率いる第二中隊がしっかりと小型を狙っていく。小型は第二波の攻撃で更にその総数を減らし、中型ネウロイが孤立する。その隙を逃さず勇たちは再度攻撃を仕掛けるが、さすがのネウロイもやられるだけではない。きちんとビームを放ち反撃の姿勢を見せる。第一中隊はビーム攻撃を搔い潜るべく小隊ごとに下方から攻撃する。しかし、攻撃が散発的になってしまったため、その効果はいま一つだった。
「ちっ!一筋縄ではいかぬか!」
「大丈夫です!きちんと美味しいとこを持ってくことに長けた人が来ますから!」
そう言って上昇を続ける勇たちの背後を見ると、中型を勇たちが釣り上げたことにより胴体下部が露わとなった無防備なネウロイに悪魔たちが群がる。
「俺、参上!!」
しっかりと見せ場をもらって働かない勇の元上官ではないのだ。いつの間にか装備してきた零戦三号爆弾(クラスター爆弾の一種)を中隊全機が発射する。ど派手な発射音とその航跡に白い雲をたなびかせ、轟音とともにネウロイの装甲を食い破っていく。一機のネウロイが耐えられずに撃破され、残された一機を平らげるべく攻撃態勢に移っていた勇は、自分を放り出した上官に見せつけるべく果敢に攻撃する。
「見てますか!元隊長!後悔してももう遅いですからね!」
ネウロイの正面から一薙ぎに一閃し、コアを貫くとネウロイを全機撃墜した。これが後に噂されることともなる、戦闘機隊による10対0の完全勝利伝説である。
「やるじゃねーか、勇。」
赤松の初めて勇を名前で呼んだその言葉は、自分のコックピット内だけでしか聞こえないように呟いた。
勇たちが母艦に戻ると万歳三唱が巻き起こった。今まで苦しめられてきた敵を殲滅できた喜びは大きかった。そして、勇は急いで林の下へ向かう。林も来るのを待っていたのか、勇を見つけると微笑んで迎える。林の目の前まで来たところでしっかりと敬礼する。
「隊長!私は分かった気がします。」
「聞こう。」
「きっと・・・隊長が馬鹿正直なのだと思います!」
「へっ!?」
勇の澄ました顔から発される爆弾発言に林と言えど素っ頓狂な声を上げざるを得なかった。しかし、勇は自信をもって告げる。
「でも隊長の戦い方は嫌いではありません。編隊飛行のお手本のようで練度の高さが一目でわかる、規律ある隊にいれて私は本望です!」
「そ、そうか・・・」
満足したような顔をする少年に、隊長である林は空返事をするしかできなかった。これからいろいろと教えなければならないことがあると前途多難な少年だと痛感したのだった。また、それを聞いた太田、高塚、羽藤らはというと、頭を抱えつつ笑い合うのだった。
「勇中尉・・・言っちゃったよ・・・」
「ありゃあ、松さんに影響されちまったようじゃのぉ・・・」
「ははは、ここまでいらないとこを継承しなくても・・・あっ!?」
覗いていた羽藤が後ろの存在に気づいたときにはもう遅かった。腕を組み、眉間に皺を寄せ阿修羅のような顔をする隊長がそこにいた。
「おい、ぽっぽ?いらないとこだと?そりゃあどこだ、言ってみろ。」
「あ、いや、それは・・・」
「松さん、落ち着いて。俺たちの隊だけ撃墜数少なかったからって・・・」
「おい太田!?そりゃ禁句じゃ!」
「・・・ほほう?坊がいなくなってから少し腕が鈍ったようだな?ああん?」
そう含みのある冷酷な笑みに背筋を凍らせる一同は、冷や汗を流すと諦めて俯いた。その後、勇の耳にも聞こえる悲鳴が轟いたが、勇は林に飲み物としてお酒を出しているところだった。もちろん、林はまたもや飲み物が酒であることを予期できるはずもなく盛大に噴き出すことになる。赤松の影響を色濃く受け継ぎ、それを当たり前だと思い込む純粋な少年の苦難と、それに付き合う上官の出来上がりである。
こうして、欧州派遣艦隊の新編扶桑海軍343航空隊は紅海近海での完全勝利を収めて初陣を飾った。それぞれの中隊の隊長の名前が林、赤松、杉田と木に由来することから「杉松林航空隊」と呼ばれ畏敬の対象となるのはまだ先の話である。この先、勇たちはアフリカの喜望峰を越えて欧州に向かうこととなる。しかし、その先に待ち受けるのは人類が戦う魔境である。これに挑む勇の心境は、ウィッチの時とはまた違う決死の覚悟であるのは言うまでもなかった。
勇成分が・・・やはり周りが大物だとどうしても影が薄くなりがちですね。今回はストライクウィッチーズでは登場しなかった日本海軍の撃墜王から有名なあの人まで参加してもらいました。これが人間版オールスターとでも言いましょうか。私が彼らを御しきれればいいのですが。
では、次回でまた!