最近はめっきり忙しくなってしまいなかなか執筆活動に邁進できず大変申し訳ありません。もう見ておられる方の方が少ないかもしれませんが、自己満足で投稿させて頂きます。
いらんこ中隊のあるカウハバ基地に到着してからというもの、勇たちは心休まる暇がなかった。着陸に失敗したオヘアは智子に折檻され、基地で休憩をと言われたが碌に設備が整っていないため大人数が休憩する余裕などなかったのである。しかし、そんな様子を優雅に眺めているのがエリザベス・F・ビューリング中尉である。彼女もヒスパニア戦役からの古豪であるとのことだが、慌ただしい基地の喧騒に目もくれずタバコを蒸かし、コーヒーを飲むなどそれはそれは寛いでいた。呆れた林がビューリングに話しかける。
「すまないが、隊長代理と話したいのだが案内を頼めないだろうか。」
「・・・ふう、手隙の者であれば紹介しよう。」
「助かる。」
ようやくまとも?な人物がいたかと安心したのも束の間、ビューリングは話しかけてきた林に手を指し出すと何かをせがむように無言の圧力をかけ始めた。
「・・・なんだ?」
「手を取ってほしいのではないでしょうか?」
勇も淑女の嗜みなのではと察し、林に口添えをするとビューリングはため息を吐きながらブリタニア語で遮った。
「はあ、私がそんなに淑女に見えたなら手の甲にキスの一つでも頼もうか。ただ、髭がジョリジョリしそうだから蕁麻疹が出るだろうな。ああ、それを考えただけでお前たちは婦女暴行罪で軍法会議だろうがな。」
悪辣な妄想で、上官である林に対して脅迫まがいのセリフが飛び出し一同は面食らう。しかしビューリングはそれも冗談だと素の顔のまま本音をぶちまける。
「扶桑人は本当にジョークが通じないな。智子といいハルカといいもう少し融通の利く生き方をしてもらいたいものだ。ああ、でもそれだと騙すのが面倒になるな。よしそのままの馬鹿正直な人種でいてくれ。」
素の要求がもはやなんなのか分からなくなってしまったが、ビューリングは案内役を紹介する手数料として煙草を要求した。終始ビューリングのペースに乗せられたままだったが、なんとか案内役を紹介してくれた。なんでも同じ扶桑人の方が気が合うだろうと気遣ってくれた。勇は文句を言いながらも根はいい人なのだと感じた。しかし、それも儚い幻想なのだと早々に打ち砕かれる。案内役として出てきたのは迫水ハルカ海軍軍曹だった。見た目はまだ幼く、ほんわかとした印象だったため、林は年の近い勇に話すように指示した。実のところ林は既にこの基地の現状にお腹いっぱいの状態だったことは言うまでもない。勇はハルカを見つけると早速この基地の話の出来る人物に合わせてくれるように頼もうとした。
「あの、迫水軍曹でしょうか?343空の者なのですが・・・」
「ふしゃー!!」
話しの最中に突如猫のような唸り声を上げて勇を威嚇し始めたハルカに、勇はもう白目を剝くしかなかった。
「あ、あのこの基地の代表と話がしたいんですが・・・」
「この男、私のスイートハニーである智子さんに用があるですって!?この泥棒猫!しっしっです!」
話しも通ず、同じ国の者とは思えない意思疎通ぶりに意識が軽く飛びかける勇だったが、そこに偶然ロマーニャ人と思しきウィッチが通りかかる。そっちに助けを求めようとするがこれもあえなく失敗に終わる。
「ああ!チュインニさん?!聞いてくださいよ!この軍人、私の智子さんに・・・」
「智子は私のだから。」
場が凍り付く。勇は気配を消してその場から静かに退室した。静かに扉を閉め、ため息も出ない疲労感に苛まれていると白い肌と白みがかった金髪をなびかせるスオムス軍服に袖を通したウィッチが通りすがる。
「あの・・・お困りですか?」
初めてまともな言葉を聞いたと思い振り返ると、バインダーを手にしたいかにも生真面目そうな人物が勇の前に立っていた。ようやくまともな会話ができると思い、さっそく基地の指揮官と話がしたいことを話す。すると驚くほどあっさりと話すが進み、林の下に連れて行く。
「隊長、ここの基地司令のアホネン大尉です。」
「おお!やっとか!」
仁将と呼ばれた林ですらこの基地の雰囲気に辟易していたようで、本音が出てしまっていた。しばらく話をしてくると言い、林とアホネンが席を外す。ようやく勇も自由時間を取ることができ、安息の場所を探す。中は未だに整備や兵士の交流で騒がしく、仕方なく外に出る。これまで長い間会場で過ごしていたため地上の安定感と澄んだ空気がとても新鮮だった。見渡す限りの平原と森林に雄大な自然を感じ、一時の静けさを堪能していると不意に声を掛けられる。
「あら、あなた・・・どこかで見た顔ね。」
「穴吹大尉?!失礼しました!343空第一中隊の副長を務めています、赤松勇特務中尉です。」
自然を堪能するあまり周囲を警戒しておらず、上官の登場に少々驚いてしまったが智子は気にもせず、勇の顔を見てうんうんと唸っている。すると合点が行ったのか勇の肩を掴んで目を輝かせた。
「あなた・・・扶桑海事変のときの!」
勇にも実は心当たりがあった。扶桑海事変の後半から戦争に参加した勇はあの「山」と呼ばれた超大型ネウロイとの決戦である「挺身作戦」にも参戦していたのだった。そこで所属は違うが一度智子とも肩を並べて戦ったことがあった。まさか智子がそのことを覚えているとは思わず、勇も驚いてしまう。
「まさか覚えていらっしゃるとは思いませんでした。穴吹大尉もお元気そうで何よりです。」
「元気なのはそうだけど・・・でもあなたたしかウィッチじゃなかった?」
ウィッチとしての能力を喪失した勇の現在の状況に至るまでを掻い摘んで話すと、感慨深げに残念だったわねと独り言ちていた。
「じゃあ、お姉さんは元気なの?」
この言葉に勇の背筋は凍り付いた。勇の本当の姉の存在を知る人物はもうほとんど残っていない。勇の姉と智子の間にどんな関係があったのかは勇にはわからなかったが、今はその質問には答えたくなかった。
「ね、姉さんとはどこで知り合ったのですか?」
「知り合ったなんてたいそうなものじゃないけど、挺身作戦の最終局面で『恵美さん』には助けてもらったのよ。」
久しぶりに聞いた姉の名前に勇は感情が迷子になる。勇にとって唯一の家族であり、一番大好きだった姉の名前を呼んでくれる人がこの世にまだいたことに嬉しく想い、またその大好きな姉はもういないことに対する悲哀が混在していた。
「それにしても恵美さんの弟に会えるなんて偶然ね。顔立ちも少し似てる・・・面影があるくらいね。恵美さんはどっちかという可愛い系だったけどあなたは美人よりね。私の好みの顔よ。」
「え?」
突然の告白にたじろぐ勇だったが、その顔を見た智子も今しがた自分の発言を思い出し、顔を真っ赤にして釈明する。
「あああ!!これはその、ち、違うの!好みっていうか、私男の人が好きなだけだから!」
「え・・・」
もはや勇は絶句してしまった。智子はさらに自分の恥態を曝してしまったことにやかんが湧きそうなほど顔を真っ赤にして言葉にならない悲鳴を上げている。
「ち、ち、ち、違うの!これはいつもの癖で、いや、この基地がおかしいのよ!私がこの基地に染まるですって・・・私穢れたわ・・・・」
一人で撃沈したかと思うと、今度はその人形のような顔をキッと釣り上げて勇の肩を揺すって記憶を抹消しようとする。
「忘れなさい!!今話したことは全部!でないとお姉さんにあることないこと吹き込むわよ!」
脅迫をされブンブンと揺らされた結果、勇はつい本音が出てしまう。
「姉さん、は、死に、ましたっ、あがっ!」
「え?どういう、ってああ?!」
勢いがつき過ぎてしまい、勇は押し倒される形となってしまった。勇はいらないことを口走ってしまったという大きな後悔とともに目を開くと、眼前に迫った智子の唇がそこにあった。間近で見るとやはり美しいという言葉以外が出てこないが、それよりも口走ってしまったことをどう取り繕うか考えを巡らせていた。
「いつつ・・・はっ!・・・ごめんさい、じゃなかった。あんたさっきなんて・・・」
異性の顔が近かったため智子は顔を朱色に染めるが、先ほどの勇の言葉の追及に移ろうとした。が、ここはカウハバ。常に危険が危ないのである。
「おーいハルカ、お前のお姉さまが男食おうとしてるぞ。」
「お姉さま!!!!???」
「げっ!?あんたたち?!」
あっという間に出来上がった即席修羅場の渦中にいた勇だが、智子たちがじゃれ合っている間にこっそりと抜け出そうとした。それに気づいた智子がハルカにくっつかれながら勇に目を向ける。視線を感じた勇は智子に軽く会釈すると申し訳なさそうに呟く。
「そういうことなんです。」
そう言うと勇は振り返ることはなかった。智子はその寂しそうな目からあの言葉が真実なのだと理解した。同じくビューリングはどこか自分と似たような境遇の目を感じ取っていた。
「あの男、死ななければいいのだがな。」
勇が戻ると林とアホネンの話は終わっておりすぐに出発とのことだった。林としても一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちがあったのかもしれない。勇もすぐに準備すると整備された零戦に乗り込んだ。滑走路を走り、林の後について編隊が集結するのを待ちながらふと基地を見下ろすと智子がいた。その眼差しは少し不安げな顔だったかもしれない。勇はその顔を頭から振り払って本来の目的地のことに切り替えた。向かうはヘルシンキである。カウハバ基地からはほんの少し先であり、ここからは本当に激戦区である。勇は気持ちを引き締め、心に誓う。
(今回こそは勝ってみせるぞ)
勇の決意は北欧の寒空に吸い込まれていった。
ヘルシンキ基地には既に進出している設営隊の人員の他、司令部要員が派遣されていた。林が早速挨拶周りに出かけ、勇は基地周辺を散策することにした。林の副官として本来ついていくべきだが、中隊として配属された時点で勇は副官から副長に昇格していた。そのため勇は基地周辺の地理状況や環境を知っておくべきだと思い散策することにした。すると後からついてきた少年に声を掛けられる。
「副長!ここにおられましたか!」
息を切らせながら勇を呼びに来た少年を見て勇は少々憂鬱な気持ちになった。その気持ちを顔に出さずに一応上官として毅然とした態度で応じる。
「どうしたんだ、藤野三飛。」
「はっ!報告します!現在、我が部隊の戦闘機全機が整備確認作業に入りました!隊員は宿舎にて休息しております!」
全ての語尾に!が入らないと気が済まないような話し方とわざわざ急いで報告することでも内容を全力でする藤野という少年に、勇は同世代ながら暑苦しさを感じていた。年は勇より一つ下の17歳だが、勇と違い未だ戦闘経験がない新兵である。勇は頭を抱えて了承と苦情を伝える。
「藤野三飛、報告ご苦労。それと、初めての戦地だからといってそこまで肩肘張る必要はない。落ち着き給え。」
「はっ!しかしここは最前線です!それ相応の態度で臨むべきかと愚考します!」
勇はため息を抑える。緊張が続きすぎるといざというときに疲れて敵の発見が遅れましたでは本末転倒であることを勇はよく知っている。だからこそ、勇は落ち着くよう指示したつもりだったが、この藤野という存在は若さだけに有り余る元気を撒き散らすのだから質が悪い。勇はやれやれと思いつつ、同世代の好で助言する。
「では、藤野三飛は警戒態勢を維持したまま仮眠に入るように。以上。」
「はっ・・・あ、ですが警戒態勢は維持で、仮眠?あれ?」
矛盾した命令に困惑しているが、勇は知らん顔でその場を退散する。そして、散策をしながらこの場所での任務を確認する。勇たち第一中隊に与えられた任務は、ヘルシンキを最終防衛拠点として大陸本土への橋頭保を築くことだった。現在、大陸本土への拠点を有しているのは第502統合戦闘航空団のあるペテルブルグ基地だけである。502統合戦闘航空団の主任務はペテルブルグから南下し、カールスラント方面への進行ルートを確保することにある。そして、ここヘルシンキは大陸とバルト海を挟んで北欧の空を守る玄関口と言える立地である。そのため、対岸に橋頭保を確保すれば502との挟撃も可能となるため、重要性の高い任務と言えるのだった。勇はそのことをしかと心に刻み、ヘルシンキ基地での初日を終えた。
翌日、設営隊が設置した監視所と簡易レーダーサイトが敵の存在を知らせる警報がけたたましく鳴り響いた。この時のために訓練を繰り返してきた第一中隊の行動は早かった。全員が戦闘機に乗り込み、上空で編隊を組むまで9分とかからずに空に上がった。
「勇中尉、各小隊との連絡を密にさせろ。一人も欠けさせるな。」
「了解です。各小隊長との報告をまとめて連絡します。」
もはや慣れた手順と言えるほど勇も副長の仕事が身についていた。戦闘機隊は全員で12人おり、三人一組の4小隊分ある。中身も精鋭と言って差し支えない人員であり、前日にあれだけ騒いでいた藤野も実は予科練では主席で卒業したほどの腕の持ち主である。しかし、ここは戦場であり、いつだれが死んでもおかしくないのが当たり前の世界である。だが、貴重な人員を可能な限り損失を防ぐために行われた策と言うのが、搭載型通信機と編隊飛行による編隊戦術である。元来零戦には通信機はあってないような性能であったが、343空ではそのような前時代的なスタイルは払拭されていた。さらに、赤松考案の編隊戦術の履行も進められていた。予てより、赤松の進言していた若い搭乗員が自信過剰に突っ込んでやられるといった初期の戦死率が高い傾向にあることを理解したうえで、それをベテランと組ませて未然に防ぐという効果も期待されていた。
「こちら第一小隊副長、勇だ。各小隊応答せよ。」
「こちら第二小隊沖海、異常なし。」
「こちら第三小隊榊、二番機が引込み脚の故障で引き返しました。」
「こちら第四小隊大関、藤野が異様に張り切っていること以外委細問題ありません。」
一機の故障と一匹のバカがいること以外問題ないことが分かった勇はため息を小さく吐くと林に報告する。
「隊長、一機故障のため引き返しました。それ以外問題ありません。」
「了解した・・・と言いたいところだが、一人報告漏れがいるのではないか?」
林は藤野のことを知っているのか、勇に確認を求めた。勇はやれやれと藤野本人に回線を繋ぐ。
「藤野三飛、こちら副長のいさ・・・」
「副長!!現在周囲の索敵中!異常ありません!」
「・・・藤野三飛、話は最後まで聞くように。君は大関小隊長の三番機だ。しっかりと付いていくことだけに集中してくれ。初陣だからと言って張り切りすぎないように。」
「ネウロイなんぞに墜とされるようなヘマはしません!任せてください!」
これは厄介だと小隊長の大関に注意を促すように指示をすると勇は周囲の警戒に戻った。こういった張り切った輩と言うのは大抵無茶をして墜とされるのだ。一度は痛い目を見た方がいいと勇は割り切った。数分の間、警報のあった地域を哨戒していると前方の遥か彼方から小さな黒点が見え始めた。勇はすぐさま林に連絡を取ろうとすると林も同時に気づいたようだった。
「勇中尉、いいか。敵は全て倒す。仲間は全て守る。簡単だろ?」
「はい、簡潔明快な指示です。まずは左翼の隊形の崩れたところを叩きますか?」
「いい判断だ。敵数はおよそ小型機20機だ。左翼を叩けば15機程度でおよそ同数になる。我々の練度ならばできると信じている。」
作戦は決まり、敵の気づいていない上空に回り込む。勇は二度目の欧州に来て初めての戦闘の鐘を鳴らす瞬間を静かに待った。中隊の全員が林の指示の一言に全ての神経を注ぐ。そして、林は厳かに命令する。
「攻撃、開始。」
その命令を聞き、どう猛な群れは一斉に襲い掛かる。編隊の端にいる敵機は落伍しやすく、カバー範囲外になりやすいため攻撃個所としては最適である。勇たちはネウロイたちの上空から逆落としの形で奇襲に成功した。2,3機が光の塊となって消えていく。後は各編隊による連携がうまくいけば問題ない。そう、上手くいくはずだった。
「至急!中隊長へ!第四小隊長の大関から林大尉へ!」
「どうした!?」
切迫した声音で大関は通信してきた。林と勇も一気に緊張をほとばしる。大関はこれまであまり慌てたことのない、胆力のある小隊長である。その大関が切迫するとは何事かと耳を傍立てる。
「藤野三飛が・・・見当たりません!」
「なにっ?!」
「もう墜とされたのか?!」
勇は先ほど痛い目を見ればいいと思ったことを心底悔やんだ。こんなにも早くに仲間を失うとは思わず、勇は唇を噛んで己の薄情さを恨んだ。しかし、現在は戦闘中である。気に病んでばかりもいられない。勇はモヤを振り払って戦闘に集中する。
「敵機散会!中隊を二分し、各個撃破せよ!」
林の号令とともに己のやるべきことに集中する。第一小隊と第二小隊は連携して敵を墜としていく。敵がおよそ半数になったところで敵も態勢を立て直し始め混戦となる。そして、第一小隊と第二小隊の間にネウロイが入り込み同士討ちを恐れて連携が乱れてしまった。
「まずいな・・・」
「隊長、私がやります。」
「頼むぞ。」
勇が林から了承をもらい、単独行動に出る合図をした。勇は赤松との訓練時代こういった対処をよく行っていた。赤松自身がよく敵の大編隊に単機で乗り込み攪乱する戦法を取っており、勇もそれに慣れていたからである。鋭い角度で縦旋回をし、第二小隊との間に入り込んだネウロイを一撃で叩く。攻撃は針の穴を通すような技でもあり、また度胸がなければできない芸当である。勇は狙いを定めてネウロイに向かって射撃する。その刹那勇は驚きの光景を目にする。
「よしっ!撃墜、ん?!!」
「よくやった中尉!どうした?被弾したか?!」
「い、いえ!あのそれが・・・」
勇は編隊に戻り再度後方を確認する。そこにはいるはずのない人物が悠然と飛んでいた。
「どうしてここにいる・・・藤野三飛」
「はっ!?これは副長ではありませんか?!大関小隊長はどこに・・・」
「なんてことだ・・・」
「ふっ、ははは!生きていればましだ。」
結局、藤野を第一小隊で預かり、そのまま戦闘を継続した。次第にネウロイも四散し撤退していった。撃墜数は全体で13機にも及んでいた。そして、基地に帰ると藤野は小隊長の大関に絞られていた。
「藤野!お前目はついてんのか?!」
「すみませんでしたっ!」
「反省しろ!今日は晩飯抜きだ!」
そこに勇と林もちょうど立ち寄り、林が収める。
「まあまあ大関一飛、彼は今日が初陣だ。誉められたものではないが生きて帰ってこれたのは僥倖だ。それに今回お題を副長に出していたしな。そうだな、副長?」
「はい・・・敵は全て倒す、仲間は全て守る・・・です。」
「であれば副長も同罪だ。己の慢心に気づかないようではまだまだだぞ。」
「はい、しかと心に刻みます。藤野三飛、すまなかった。」
藤野はプルプルと首を振り、涙目で勇を見ていた。勇は仲間を失う喪失感は誰よりも知っているはずだった。己の増上慢には呆れるばかりだと内心独り言ちた。すると藤野が勇の下へ駆けてきた。戦闘前はあれだけ意気込んでいたのに今は借りてきた猫のように大人しいことに勇は少しばかり心を和ませた。
「藤野三飛、生きていて良かった。次もよろしく頼む。」
勇はそう言うと宿舎へと足を向けた。後ろで藤野が頭を下げた気配を感じたが決して振り返らなかった。
今回の襲撃による損失はなかったものの、343空第一中隊に与えられた任務は欧州本土への橋頭保を築くことである。よって勇たち第一中隊は本土の制空任務へと主眼を切り替えることとなった。そのため第一から第四小隊までのそれぞれの部隊に役割が割り振られることとなる。主に第二、第三小隊が制空任務を第四小隊が対地任務、そして第一小隊が指揮任務を担うこととなる。指揮と言っても周りの状況を見て制空にも対地任務にも転換する万能小隊である。また、昨今の事件を鑑み藤野を第四から第一小隊の勇が監督する人事異動が行われた。
「勇副長!今度は情けない醜態は曝しません!」
「そうか、期待している。」
少しはまともな面持ちになったものだと勇は感心するとともに、緩んだ気持ちを再び引き締めた。偵察情報によると、対岸の欧州本土を原点として半径1キロには大きな敵勢力は確認されなかった。もし襲撃が成功し橋頭保を確保でき次第、基地人員を輸送する算段のため今回の作戦は否応なしに隊員の士気を高めた。さらに、距離の問題もおおよそ解決しており、少し旧式化してきているが十分に戦闘可能な零戦21型のため目下重大な問題は対地任務だけだった。ここで新兵器として三号爆弾の対地改良型である三号爆弾改を実践投入されることが決定した。この兵器は三号爆弾が対空目標に向かって広がるクラスター爆弾とは違い、地上目標に向けて一直線に向かう代物だった。勇はこの兵器を詰めるだけ搭載し、対地任務の要として用いるつもりであった。
「副長、そんなに積んで大丈夫なんですか?」
「地上型ネウロイの数にもよるだろうが、多いことに越したことはないさ。慣れてくれば藤野三飛にも扱ってもらうからよく見ておくんだな。」
そう言うと藤野は目を輝かせて頷いていた。相変わらず藤野は犬みたいなやつだと勇は内心微笑んだ。そして、ついに作戦は実施される当日となり、ヒスパニアにいる司令の源田からも檄文が届いた。内容は豪快な源田らしく「徹底的に残さず平らげろ」との簡潔なものだけに隊員は皆口を揃えて「おやじはわかってるな」と一体感を見せていた。部隊は進発し、眼前に広がる欧州本土を目指して綺麗な編隊を組んで悠然と飛んでいく。
「副長、状況知らせ。」
「はい、現状天候は晴れ、進路上に敵機は確認できてません。また、全小隊から報告がありいまだ落伍者はいないとのことです。以上報告終わり。」
「よろしい、警戒を怠るな。」
いつもの確認作業だがこういった基本を疎かにする者から死んでいくことをよく知っている勇はこの行為に満足していた。また、連れの藤野も今回は万全を期すとのことから盛んに背面飛行などを行い下方の警戒をしてくれている。一部の隊員はそれを見て臆病だと笑うが勇はそうは思わない。下こそ飛行機乗りの死角であり、索敵こそ墜とされないコツであるからだと信じているからである。その証拠に勇は今まで一度も背後からの奇襲で墜とされたことはない。だからこそ、藤野の行動を成長の一部だと捉えていた。すると下方を警戒していた藤野から緊急電が発される。
「こちら藤野!下方に敵と思しき影を補足!」
「よくやった藤野!隊長、どうします?」
「敵数知らせ!」
「敵数およそ3!」
無闇に突っ込んで罠だった時のことも考えられる程度に余裕のある部隊とは恵まれたものだ。そう勇は思い、林の意図を汲んで上空を警戒する。なぜなら下に意識を向けて上空に敵が潜んでいる可能性が捨てきれないからだった。しかし、それは杞憂のようだった。勇が林に報告すると林は即座に決断を下す。
「これより攻撃を開始する。予定通り第二、第三小隊が先手だ。撃ち漏らしがあった場合第四小隊が仕留めろ。第一小隊はこの場で待機だ。」
各小隊長が了承のバンクを振ると一斉に行動に移る。それを羨ましそうに眺める藤野を勇は諫めながら警戒態勢を維持する。先遣隊が既に交戦状態となったのを見ると、奇襲されたネウロイがノロノロと上がってくる。それをきちんと始末する第四小隊がいるあたり、布陣としては成功のようだ。勇たちはやることもなく眺めるだけになってしまっているが、それも仕事の内だと満足した。およそ数分もすると全機撃墜の報告と部隊の状況が端的に報告された。落伍者もおらず、全機任務を続行できるとのことだった。林は満足そうに頷くと欧州本土を見据え、作戦の完遂を確信した。
この日、勇たちは欧州本土の侵攻に成功した。局所的ではあるがたった一部隊が欧州の土を踏んだという歴史的快挙に世は湧いたのだった。勇たち部隊や人も、そしてネウロイまでもがであることはまだ誰も知る由がなかった。
なかなか盛り上げに欠けると思います。己の力量の無さに情けなく思う次第です。
次回からシリアス路線になることが予想されます。次回の勇たちの死闘にご期待ください。
ではまた。