清々しい程に青い空。燦々と照りつける太陽。肌を撫でるそよ風からは牧場の草花の香り。そんな風を切り、草原を駆ける一迅の風があった。
「のぉうおぅのうッ!?」
「大丈夫か? 女性が出しちゃいけない声出してるぞ」
「これ、がッ! 出さ、ずにいッ! らッ!?」
「言い忘れたけど、喋りすぎは舌噛むぞ」
「もうかみみゃみま…」
先ほど助けた令嬢戦士の一党を近くの村に預け、ライダーとオウガは彼女が言う冒険者が集う西の辺境の街へ向かっていた。
令嬢騎士の本来の予定なら道行く馬車に頼み、辺境の街へ向かう予定だったのだが、それよりも速く着くとライダー。令嬢騎士と共にオウガへ乗り、彼女の案内の元で出発した。しかし、慣れない…というか、初めてのライドオンが上手くいく筈もなく、激しい揺れに襲われるわ、そのせいで尻が痛くなるわ。終いには、
「ぎ、ぎも゛ぢわ゛る゛い゛」
「はい。ウチケシの実。少しは軽くなるよ」
「い、頂きますわ」
暫くして、令嬢戦士はようやく苦行から解放される事になる。
「なあ、あれがそうか?」
「えぇ…あれが辺境の街。あそこにギルドがありますわ」
「よし。それじゃあ、(街の奴らを)刺激しないようにゆっくり行きますか」
「(これ以上は吐いてしまうから)ゆっくりでお願いしますわ」
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西の辺境の街にあるギルド。
そこは辺境の地であるにも関わらず、昼を過ぎた今も大忙しだった。
「金貨三袋、今すぐッ!」
「はいッ! ただいまぁッ!」
「
「はいッ! 分かりましたぁッ!」
「地図ッ! 地図は何処ッ!?」
「え、えっと書類棚に……今持っていきまぁすッ!」
「ちょっとッ!
「す、すいませぇんッ!」
涙目になりながらも金髪の女性……新人受付嬢は言われた仕事をこなそうとする。
本当なら休みたい。ベッドにダイブして眠りたい。そんな気持ちを抑えながら精一杯頑張っていく。しかし、
「はい。ゴブリンの書類起こし、お願いね」
ドンッ、と新人受付嬢の前にゴブリンの依頼書の山が止めと言わんばかりに積まれ、彼女の肩がプルプルと震え始める。
ゴブリン。それは子供ほどの体格、膂力、知恵を持ち、徒党を組んで、村を襲っては女を拐い、慰みものにする、最も多く依頼が持ち込まれ、最も人気のない最底辺の化物。
その依頼は日に日に増える一方だが、『ゴブリンは素人の仕事だ』、『そんな物で名は売れない』と好んで受ける者は一切いない。
そんな依頼書の前で思わずタメ息が出る受付嬢だったが、そんな彼女の頬を先輩受付嬢がつついた。
「こぉら。そんな暗い顔しないの。私たち、受付が暗い顔してたら冒険者も依頼を受けられないでしょ?」
「…………はい」
そう答えたものの、あまりの忙しさに笑顔を作る元気もない新人受付嬢。とりあえず、指で口角を上げてみようと、顔に手を持っていく。
そのときだった。
「───た、大変だぁッ!!!」
突然開け放たれた扉に視線が集まる。見ると、一人の冒険者らしき男性が切羽詰まった表情で立っているではないか。
そのあまりの形相にギルドにいた冒険者の一人が何があったのか、と問いかける。
その問いに対して男性はこう答えた。
狼に似た大きな化物がこの街に向かっている、と。
●●●●●●●●●
無事に西の辺境の街に辿り着いたライダーとオウガは冒険者ギルドと呼ばれる場所の裏手にある広場で座っていた。
「大丈夫かなぁ……」
令嬢戦士は現在、ギルドに今回のクエスト結果とライダーに関することを報告している。もし彼女が居なければ、ライダーはこの街の冒険者たち全員と相手をしなければならなかっただろう。
実際、後少しで街に到着するという所で多くの冒険者に刃を向けられたのだ。あの時は令嬢戦士が皆を説得してくれたが、
「よう。余所者さんよ」
(ま、そうなるよな……)
令嬢戦士が居ない所を見計らったのだろう。ライダー達を十数人の冒険者が取り囲んでいた。
「何のようっすか?」
「何のようだじゃねぇだろ? お前、混沌側の人間だろ? そんな化け物を連れてよ」
「混沌側なんて知りませんね。それにオウガは俺の家族っす。モンスターではあるが、化け物なんかじゃあないっすよ」
「どうでもいいんだよ。それよりもその化け物にお前の鎧。そうとう良い物だよなぁ」
「……だとしたら?」
「殺されたくなかったら化け物とお前の装備を全部寄越しな」
もし断れば……分かるな、と冒険者たちがいつでも襲いかかれるように武器を構える。
多勢に無勢。萎縮したライダーは逃げ出し、あとはモンスターを倒せば良い。冒険者たちはそう考えていたのだが、ライダーは答えた。
「お断りしますわ。こいつは俺の家族だと言ったでしょ? 家族を見捨てるバカが何処にいますか?」
「じゃあ、死ぬしかねぇなッ!」
冒険者の一人がライダーに迫り、己の武器である長剣を振り下ろす。無論、当てるつもりはない。あくまでも脅かすだけだ。しかし、あろうことか、ライダーはその刃を
予想外のライダーの行動に驚愕する冒険者たち。本来、そんな事をすれば籠手を着けていても血を流すことになる。しかし、ライダーのジンオウSアームは冒険者の持つ長剣では傷一つ付かなかった。
「こんななまくらを持ってるだけで冒険者ってやれるんすか?」
「このッ! 離しやがれッ!」
しかし、冒険者がいくら力を入れてもライダーは微動だにしない。
「……それで? これはあんたらから仕掛けた攻撃だ。つまり、俺が今からやることは正当防衛って事で良いっすよね?」
「な、なんの事だッ!?」
「分かりやすく言うと───覚悟しろ」
●●●●●●●●●
「───以上が今回の結果ですわ」
冒険者ギルドの一室。令嬢戦士からライダーと出会った経緯を聞いていたギルドの支部長と監督官の女性相手は頭を抱えていた。
「見たことのないモンスターを連れ、十数体のゴブリンの群れをあっという間に討伐か。いささか信じがたい話だが……」
支部長がチラリと監督官に視線を向けるが、彼女は首を横にふる。『看破』の奇跡を持つ監督官に嘘は通用しない。もし令嬢戦士の話が嘘なら彼女はすぐに教えるだろう。しかし、首を横に振ったということは令嬢戦士の話が真実であることを物語っている。
「男の出身は?」
「……実は、あり得ない話なのですが……本人曰く、
「別の世界? ……ふざけているのかね?」
「い、いえ。そういう訳ではありませんの。本人がそう言ってまして……」
支部長は監督官に確認を取るが、監督官はまた首を横に振る。しかし、異世界から来たなど、普通なら信じることが出来るわけがない。これは確認の為、ライダー本人に直接聞いた方が良いだろう。
支部長は令嬢戦士に頼み、ライダーをこの部屋に連れてきて貰おう。そう考えた時だった。
──ガシャアアンッ!!
「「「──!!?」」」
突如窓の外から投げ込まれた大柄な男性。武装や身につけたタグから鋼鉄等級の冒険者だと分かる。
まさかと思い、令嬢戦士は窓に駆け寄って外を見てみれば、広場で冒険者たちに囲まれるオウガとライダーの姿があった。しかし、その光景は異様で、ある冒険者は地面に倒れ付し、ある冒険者は武器を支えに何とか立てている状態だったりと、様々ではあるが冒険者全員が戦闘続行できる状態ではないことが分かる。
「これは……!?」
「あの人は何をやってますの!?」
令嬢戦士はすぐさま応接間から出ていき、ライダーたちの元に走っていく。
支部長たちも彼女を追って、応接間を後にした。
時は半刻ほど戻り、ライダー&オウガvs冒険者十数人。その内一人の長剣を受け止めたライダーは顔面を殴り飛ばす。
「ぐべばッ!?」
「──あれ?」
男の顔が潰れ、壁まで飛ばされる。ライダーはそこまで力を入れた覚えは無かったのだが、壁に当たって伸びている彼に唖然とする。
(弱すぎね? 新人ハンターでももう少し奮闘するぞ。お嬢から聞いた話だと、冒険者って俺たちの世界で言うところのハンターじゃないの?)
冒険者=ハンター。令嬢戦士からそのような等式を作っていたライダーだったが、その考えを改める必要があるのではと考えていた。
「や、野郎!」
片手斧や短剣、片手剣等を持った近接担当の冒険者たち。その内の一人が斬りかかって来たので、ライダーは敢えて避けず、受けてみる。結果、バキンッの音と共に冒険者の剣がポッキリ折れてしまった。
「ナマクラとは思ったが、この程度か…ん?」
「サジタ…インフラマラエ…ラティウスッ!」
近接武器では駄目だ。そう思ったのか、何名かいた後衛の冒険者の内の一人…術師が
「おいおい。ウロコトルでももう少しマシな炎を出せるぞ?」
「う、うるせぇッ! これでも食らいやがれッ!」
集まっていた者の中で一番大柄な冒険者が斧を手に突撃してくる。木の伐採に使われそうな程の刃だが、試しにとライダーは【黒翼】で受けてみる事に。
すると…あら不思議。なんと斧がバターの如く真っ二つになったではないか。
自分の武器の現状に目を白黒させる斧使い。そんな彼の胸ぐらを掴み、
「えいっ☆」
と軽く投げる冒険者。彼の体はいとも簡単に上空へ飛び、一つの窓を破って中へ放り込まれた。
「あ、やべ…(しっかし、こんなので冒険者って、リオレウスなんか現れた日には街が崩壊するぞ。現れる事なんてないけど)」
だが、ここまで弱いと心配になってしまうライダー。そんなとき、ギルドから令嬢戦士が走ってきた。
「貴方ッ! 何をやってますのッ!?」
彼女の顔を見れば、焦りと怒りがごちゃ混ぜになっているようで、特徴的な縦ロールの金髪も逆立っているような見える。
あぁ。これは長くなりそうだ。
ライダーは彼女のお説教を覚悟するのだった。