化物戦記〜ゲート研究部活動記録〜   作:かえりゅくんぱんつ

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第一話 始まりの音

桜が舞う。

春だ。

 

この春、遂に私は中等生になった。

そんな胸が高鳴る中、クラスメイトが話しかけて来る。

 

「千利ー!中等からは部活強制入部だけど、千利は何処に入るの?」

「……あー……えっとぉ……。」

「どーせ花宮はお勉強が彼氏だから部活入っても幽霊部員だつっーの!」

 

ギャハハ、と笑い廊下へ走っていく男子のクラスメイト。

 

「ちょっとー!待ちなさーい!男子共ー!」

話しかけてくれたクラスメイトも彼らを追って廊下へ出た。

 

……私は勉強が好きだ。

小等生時代からずっと勉強にのめり込んで、成績はいつもクラストップ。

運動も出来たので男子にはやや妬まれているのは私自身知ってる。

 

こういう扱いは、もう慣れていた。

 

「ごめんね千利……、アイツら逃がしちゃった。」

男子を追いかけていたクラスメイトが帰ってくる。

 

「いいんだよ別に。勉強が好きなのは事実だし。」

「でもあの言い方は無くない?」

「あはは……まぁね。」

軽く苦笑いをする。

 

「凛花ちゃんは決まったの?部活。」

私に話しかけてきたクラスメイト、凛花に尋ねてみる。

 

「んー、私は広報部にしよっかなぁーって。ほら。私、運動苦手だし、情報伝達部隊志望だからさ。」

 

この学校は戦闘員を育成する学校。

 

別に不思議でもない。何故ならここ五十年前から、異世界生物による侵略が相次いでいるからだ。

だからこの星は未来を生きる若者を全て戦闘員として育成する為に、設立されていた学校は全て戦闘員養育学校になった。

 

私達の世界の歴史の授業で一番に習う事だ。

 

「そっか、広報部。凛花ちゃんにはピッタリだね。頭良いし。」

「千利に言われてもーって感じじゃない?だって千利の方がテストの点数も成績も上じゃん?」

 

事実だ。

 

凛花は運動ができなくて、だから懸命に勉強をしている。

 

けど私は……。

 

ただ、好きだからやっている。

ただ、新たな知識を手に入れるのが楽しくて、それだけの為にやっている。

 

凛花のような、重い理由もなく、ただ呆然と。

 

勉強以外に、好きになれるものも特にない。

だから私は、何処の部活に所属するか決めかねていた。

 

「んー、でも何処かには所属しなきゃいけないもんね。私もちゃんと考えなきゃなぁ、部活。」

「図書部とかは?」

「この学校の本、全部読んじゃったしいいや。」

「ううーん、予想の斜め上行くねぇー。」

 

部活勧誘のパンフレットを開く。

 

運動系の部活、私はもう運動はできる。

文化系の部活、何かを作る事に楽しみは見い出せなかったし、知識系のも興味をそそられない。

 

…………?

 

「何これ。」

 

見つけたのはパンフレットの端に小さく書かれた『ゲート研究部』の文字。

 

「え、ゲートってあの異世界生物が侵入してくる入口でしょ?こんな部活なんかで調べていいものなの?」

 

ゲート、それは異世界と私達の世界とを繋ぐ、まだ謎の多い、異世界への門だ。

 

「さぁ……、一応ここに載ってるって事は学校公認の部活なのかな?」

「待って待って千利!」

 

ガタリと椅子を勢いよく退けるように立ち上がる凛花。

 

「まさかここに入ろうとか思ってないよね?ゲートって、いつ異世界生物が侵入してくるかわかんない場所だよ?」

「……あはは、まさか。こんな部活が公認されるんだなぁ、って思っただけだよ。」

 

まだ教科書にも詳細が載せられない未知なる門、ゲート。

 

「そう言えば今日の放課後、部活見学だよね?」

 

行こう。

 

「そうだけど……何処見学するか決めた?」

 

もう決めている。

 

「うん、でも秘密。」

 

誰も知らない。

未知へと手を伸ばす。

 

例えそれが、禁断の果実であろうとも。

 

・・・

 

放課後。

 

何処かの部室、項垂れる数名の部員。

 

「今年も誰も来ないよねぇ。」

「多分な、ってか暑すぎね?」

 

ソファを独占する大柄な青年、小柄な少年はフラフラと冷蔵庫の前に座り、扉を開ける。

 

「おい、七草。冷蔵庫で涼むな。電気代部費から出てんだから。ただでさえカツカツだって、部長言ってたろうが。」

 

七草と呼ばれた少年は冷蔵庫の前から動こうとしない。

 

「てか青龍ーーー、なんか涼しくしてよー。」

 

七草からの無茶ぶりが大柄な青年、青龍に向けられる。

 

「誰がするか。番組でもあるまいし。」

「そういや収録まであと何分?」

「二十五分。」

 

その言葉で会話のキャッチボールは止まる。

 

「……なんで春なのにこんな暑いの。」

「知るか。俺が知りたい。」

 

カチャリ、とドアが開く音がするが二人は動く様子はない。

 

「うわ……なんかムワッとしてる……。」

 

聞き慣れない少女の声。

 

「あー、アルメリア?冷房付けてくんなーい?」

 

七草は振り向きもせず入口の少女に無気力に声をかける。

 

「アル……え?あ、はい。冷房ですね。」

 

少女はキョロキョロと冷房のリモコンを探すが見当たらない。

 

「あのー……リモコンありませんが。」

「空牙の奴、また何かと間違えて持って行ったか。アルメ……リ、ア?」

 

青龍が入口の少女に何か指示をしようとしたが、起き上がると同時に声を止める。

 

「……どちら様ですかね?」

「えっと、中等一年の花宮千利です。」

 

中等一年、の言葉で勢いよく振り返り冷蔵庫のドアに頭をぶつける七草と、目を丸くする青龍。

 

「……見学、です……か?」

「はい、部活見学に。」

 

困惑しながら青龍が問うが想定外の返事が来訪した少女、千利から返ってくる。

 

「…………おい!七草!部長に連絡!部活見学来たって!」

「今してるよぉ!あーもう全然出ないしぃー!」

 

慌ただしく動き出す青龍と七草。

トテトテと歩く金髪の少女が新たなに部室にやって来た。

 

「伊吹さん、七草さん、収録の時間もうすぐですよ……って、貴女はー……誰でしょう?」

「えっ!?もう収録時間!?あーっアルメリア!その子は部活見学の子!名前はえーと……っ」

「花宮千利さんだ!七草!部長は!?」

「だーかーらー!まだ出てないってばー!」

「ぶ、部活見学ですか!?えっと、どうすれば……はうわ!」

 

ワタワタとし始め、何もない所で滑る金髪の少女、本物のアルメリア。

 

「やっほほーい!」

 

呑気に新たに現れたのは明るい黄緑の髪の少年と赤髪の青年。

 

「あ!クリフト副部長!三条!ナイスタイミング!その子部活見学の子!」

 

何かの準備に追われ走り回る七草に告げられる二人。

 

「あー、成程成程、そういえば部活見学……部活見学ぅ!?」

 

黄緑の髪の少年と赤髪の青年も目を見開く。

 

「えーと、こういうのは部長の仕事なんだけど……何すんだっけ?三条。」

 

三条と呼ばれたのは赤髪の青年。

 

「いや俺初耳だっつーの、てかこの部活創立してから一回も部活見学なんて誰も来なかったし……。」

「あーーー!とりあえずほら!客間片付けて!三条!お茶用意して!」

「お、おう?」

「アルメリアは収録の方行って!」

 

テキパキと動く黄緑色の髪の少年、消去法で考えるにこの人が副部長のクリフトなのだろう。

 

 

ぜぇぜぇと息を切らすクリフトと三条。

 

先程までいた青龍と七草とアルメリアは奥の部屋に行ったっきり帰って来ない。

 

「……お待たせしました、どうぞお掛け下さい。えーと、誰サン?」

「はい、花宮千利です。失礼します。」

 

千利は会釈をすると、正面に座るクリフトに指されたソファに座る。

 

「千利さんだね!僕はこのゲート研究部の副部長、中等二年のクリフト・ドラグです。そして僕の横に立ってる彼が……。」

「俺は同じく中等二年、三条大和。よろしくな。」

 

千利はふと疑問が頭を過ぎった。

 

「あの、この学校って高等まで一貫で、部長や副部長は最年長の高等三年生がやるのでは……?」

 

千利のその言葉に引きつった表情を浮かべながら頬をかくクリフト。

 

「んー、本来はそうなんだけどね?実はここの部活、僕らの代から発足してね。

それで部活発足当初からいる僕ら中等二年が部長と副部長をしてるんだ。勿論僕らより年上もこの部活にいるよ?でもあの人達は何て言うか……ワケあり?って感じ。」

 

ヘラりと笑い、説明をする。

 

「……ってかこの部室暑くない?」

うん、知ってた。と言わんばかりの千利の顔。

「冷房のリモコンはー……、あ、また空牙間違えて持って行ったのか。とりあえず窓開けるか。」

そう言いながら窓を開けに行く三条。

 

ガチャリ。

 

部室のドアがまた開く。

 

「こんにちはー!」

「遅くなりました。」

 

黒髪の青年と銀髪の少年が現れる。

 

「あ!空牙くん!まーたリモコン間違えて持ってったでしょー?何処やったの?」

 

クリフトのその声に反応したのは黒髪の青年。

「え?リモコン?……あ!あれかぁ!」

少し考えた後、パッと思い出したように声を弾ませる。

 

「あれねー?……無くした!」

 

黒髪の青年、空牙の言葉に部室は沈黙で包まれた。

「え……。」

「つーか何かゴーって聞こえね?」

確かに空調の動く音が聞こえる。

見上げると確かに空調は動いていた。

 

……暖房が。

 

「どーーーーりで暑いんだよぉ!!」

「あーーーっ!空牙が申し訳ありませんっ!」

「ぷぎゃっ」

 

銀髪の少年が空牙を巻き込み華麗なるスライディング土下座を決める。

 

「いや、いいんだよ夕雨くん。空牙くんは何時もの事だし……でもどうしよっか。他の教室からリモコン借りる?」

「いや、確か他の教室は全部空調を新品に取り替えてたぜ?うちの部室は部費の予算が足りなくて買い替えられなかったが。」

 

再び入る沈黙。

 

「え、どうやって止めよう?」

「コンセントは……あー、コイツ無駄にコードレス機能付いててコンセント無いのか。電源ボタンも。」

 

本格的に為す術が無くなる。

 

「もう壊すしかなくない!?壊すしか!」

「いや、今月の部費見ただろ!?ここは大会とかもねぇ部活だから全然部費貰えねぇの!コイツ壊したら夏死ぬぞ!?」

「確かスペアも空牙が無くしましたからね……。」

「んー?」

「いやぶっちゃけ今死にそう!暑くて!」

 

喧しく騒ぎ、廊下の足音には気付かない部室内メンバー。

 

ガチャリと音を立てて扉が開く。

「んだぁ?このクッソ暑い部室。」

小柄な姿に合わぬ低音の声が部室の入口から響く。

 

「あ!隼!」

「申し訳ありません部長、空牙が空調を暖房にしたままリモコンを無くしてしまい……。」

 

入口にいた隼と呼ばれた、小柄な少し変わった髪型の青髪の少年は、何も言わず懐から銃を取り出し空調に弾をぶち込んだ。

 

「あ……予算……。」

「知るか、サジューロに払わせとけ。」

はぁ、とため息を付いた隼。

 

「んで、そこのソファに座ってる子が部活見学者の一年か?」

「そうそう、ってか何でこんな遅刻してんの、隼。」

「うっせー、ディリーノに課題出せって追い回されてたんだよ。」

 

またか、と言わんばかりにため息を零すクリフト。

「提出物ぐらいちゃんとしろっての……。まーたディリーノちゃんに怒られるよー?」

「もう怒られてるわ、知ったこっちゃねぇ。」

 

そう言いながらクリフトの横にドカリと座る隼。

 

「んじゃ、改めまして。

……ようこそゲート研究部へ。俺はゲート研究部部長。中等二年、黒咲隼だ。」

 

小柄だし遅刻魔だし課題出さないしでズボラな人である事は間違いなかったが、ソファに座る彼には、まるで王のような、そんな空気の重さを感じ取った。

 

「おい、クリフト。」

 

隼、いや黒咲部長と呼ぼう。

彼がそう言うとクリフトに一枚の紙を渡す。

「おわっ、えーと。

『依頼、ゲート内調査。

メンバーは以下の通り。

黒咲隼、クリフト・ドラグ、三条大和、立本夕雨、立本空牙。以上六名。』

ちょっと待って?この名簿に載ってるの五人なんだけど?でも六人ってどういう事?」

「察し悪ぃなぁ。」

 

ため息をつくと黒咲部長は立ち上がり、座る千利を見下ろす。

 

「六人目の選抜メンバーを、花宮千利とする。

……見学には丁度良いだろ?」

 

目を丸くするメンバーと千利。

 

「私……ですか?」

「花宮千利はお前しかいないだろ?」

 

そう言うと黒咲部長は壁に掛けられていた羽織を空気を切るように羽織る。

 

「ミッションだ。」

 

ここから、私の物語が、止まり続けていた時計の針が。

 

……動いた。

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