化物戦記〜ゲート研究部活動記録〜   作:かえりゅくんぱんつ

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第二十一話 姉の勇断

「貴様らは敗北した、敗者は勝者に従え。」

 

よくある話だよ。

 

「貴様らの手の内にある策謀、奴を此方に引き渡して貰おうか。」

 

そんな話が、策謀本人である『私』抜きで行われていた。

 

「良いですか、貴方が身代わりになりなさい。」

 

敗北をもたらした敗北の女神がそう言う。

 

『私』でなく、『私』の弟に。

 

「そんなもの、諸刃の剣。直ぐにバレてしまいます。バレてしまった場合、弟は……烈はどんな目に合うとお思いなのですか!? 当主!!」

 

何故『私』を差し出さない。

 

「承知しました、当主。」

「烈!?」

 

何故、お前は承諾したんだ。

この世界の汚れは、お前が一番知っている筈だろうに。

 

「当主の仰せのままに。」

「やめろ! 当主、考え直して下さい!身代わりなど直ぐにバレるような手段を使うより、相手の要望に従い私を差し出した方が……!」

 

「姉様。」

 

『私』の愛しい弟、瓜二つな双子の弟。

 

「僕は、大丈夫です。」

 

感情を隠すのが下手くそな弟。可愛い弟。

今だって、大粒の涙を幾つも零してるじゃないか。

 

……弟は、勝者の元へ往く為に髪の色を抜いた。

 

赤く長い髪が白へと変わる。

 

綺麗に化粧をし、私よりもずっと美人になって。

 

そうして車に乗せられる。

 

「真利!!」

 

「私が────いいや、このボクが! 必ず迎えに行くから! 絶対に!!」

 

嗚呼、またお前を泣かせてしまったな。

 

ボクが、この頃に力を持っていたなら。

全てを視る事が出来たなら。

 

お前を泣かせずに済んだのかな。

 

・・・

 

張り詰めた空気。

広間の中心で円になり武器を構える私達。

そんな空気の中、再び機械音声が響くのを待っていた。

 

『さぁて、何処から話してあげようか。

この世界の歴史からかな?

ほぉら原住民、さっき復習したっしょ?言ってみな。』

 

機械音声・マーリンから遼に話を振られる。

 

「……『その昔、神がこの世界に現れた。

深緑の髪に黄金の瞳をした、それは美しい神であった。

神は我々を創り出した。

我々は神の遣いとして、創られたのであった。

神はこの世界を守っておられた。

我々は神の為、年に一度、集落の子を納め、神との関係を築き続けた。

 

だが、ある時。

集落の者が家族を殺めてしまった。

神はそれを知り、我々を見捨てた。

神に守られていたこの世界は、神の手から離れてしまった。』」

 

それにしても不気味だ。

 

六人でこの神殿に向かう際、何かの気配は、出発前のアレ以降感じる事はなかった。

道中にはこの神殿のような機械の作動音も無く、監視カメラや盗聴器などの機器も無かった。

 

それなのにマーリンは私達の道中での会話を知った様に話すのだ。

それも寸分たりとも狂いは無い。

 

まるで本当に世界を観測しているかのように。

 

『はぁーい、上手に言えましたぁ〜。』

 

思ってもいないような口ぶりの声とお世辞程度の拍手の音が響く。

 

『まず前提として、この世界に神とされる者は『本当に居た』のさ。

キミ達を本当に作ったのかは興味も無かったから調べてないけど、確かにキミ達以外にこの世界を守ろうとしていた存在は居た。

これがまぁ邪魔だったんだよねぇ〜。

 

ねぇねぇ、キミ達エルフ種が毎年毎年律儀にお供えした子供、アレ何に使われてたと思う?

はい、そこのちっこい鎌女子!解答ぅ!』

 

唐突に投げかけられた質問。

それに対して熟考したミズハが一つの解を提示する。

 

「食用っ……でしょう……か……?

神に捧げられる物って……大体食べ物……です……し……。」

 

武器を構えたまま勢いよく言葉を発したが、話すにつれ声が少しずつ小さくなっていっているのが聞いていて分かった。

 

『私も一応死神なんだけど。

私っておチビちゃんに人間も食うって思われてたの?』

「アラしーチャン、多分アナタ死神とも神とも思われて無いわよ。あの感じ。」

『ジーマー?広義に言えば君らの中じゃ神も死神も似たようなもののくせに〜。実状は違うワケだけど。

あと人間貢がれるより鳥の唐揚げ貢いで欲しい。』

「ふふっ、帰ったら作ってあげるから拗ねないの。」

『マ!?ラッキー!

よっ!姐さん!着いて来て良かった〜!!』

「そういう所なんじゃないかしらねぇ?」

 

何も無いハズの方向に向かって小声で何かを言ったジルヴェスター。

横に並び聞こえる位置にいるミズハや未弦が気にしていない事からあまり重要な話ではないのだろう。

 

『ザンネン、不正解。

正解は自分の護身兵として育ててた。

供物の子供がどう扱われるかこの世界の者達は誰も知らなくてね。

だから毎回その時が来るのを恐れ、その時にはより劣等品を、或いは忌み子だとかを捧げていたのさ。

神サマもそういう子が差し出されると分かって、敢えて用途を暈したんだろうね。

そしてそんな子らに愛情を注ぎ、忠誠心の塊みたいな護身兵に仕立て上げた訳だ。』

 

しかしこの話には矛盾点がある。

 

「それなら貢がれた子供達は生きて何処かに居る筈だ。

だが神話や原住民がその子供達が生きている事を知らなかったり記述されてないなんておかしいだろ。」

 

未弦が辺りを見渡しながら問いを投げかける。

広間の中は音が響き過ぎて、何処から音が出ているのかが探れないでいるのだろう。

 

事実、耳が良いと鈴春からのお墨付きを貰った私ですら、音が何処から発生しているのか分からずにいた。

 

『ま、弓矢青年の言う事は確かだね。

そう、じゃあ何故その子供達はこの世界から姿を消しているのか。なんだかミステリーじみてきたねぇ。

でもキミ達なら分かるだろう?

意図的にその世界の住民を、その世界から消す。

……いいや、移動させる方法を、さ。』

 

そうか。

その解は私達が思っていた以上に単純な解であった。

 

「ゲート……つまり異世界に移動させて育てていた。」

『ビンゴ!その通り。簡単過ぎたかな?』

 

『神サマはこの世界と同時にもう一つの世界、護身兵を育てる為の箱庭のような世界の管理も同時に行っていたのさ。

しかし神の御加護というものは厄介極まりないね。

その護身兵には皆、加護が施されていて一匹潰すだけでも苦労したよ。』

 

「潰……っ、お前、まさか……っ!」

『おっと、流石にボクも身を弁えているさ。

神サマ『は』殺しちゃあいない。』

 

キッと広間の暗闇を睨みつける遼に、付け加えるように話を続けた。

 

『邪魔だったんでね。神サマにはこの世界からもう一つの世界に逃げて貰ったのさ。

この世界のエルフ種を一匹、向こうの護身兵は何匹潰したか忘れたなぁ。

そうやって潰して、神サマに天秤を握らせた。

この世界か護身兵達を匿う世界、何方か一つを選ぶように、ね。』

 

「そして神サマは此方では無く護身兵の居る世界を選んだ……とでも言うのかしら。」

 

先程の小声とは打って変わったような、真剣な声色でジルヴェスターはマーリンに問いかける。

 

『そうなるね。

神サマはハナからこの世界のエルフ種は綺麗なモノばかりでは無いと知っていたが故の決断なんだろうよ。

子供を貢ぎ物として要求したのも、この世界のエルフ種の性根を探る為にね。

そして案の定、贈られるのは劣等生や忌み子だ。

その性根に呆れ、それくらいなら少数ではあれど自らを慕う、強く育った護身兵達を選んだんだろう。』

 

理解が出来ない。

多くを守りたければこの世界を選んだだろうに。

何故少数しか居ないようなちっぽけな世界を選んだのか。

私には理解が出来なかった。

 

「それで、神様が逃げた口実の為に、貴女は此方の世界のエルフ種を一人殺めたのでしょう?

後の神話に『家族殺し』と書かせる為に。」

 

ジルヴェスターの真剣な声に対し、茶化すかのような口笛を鳴らした機械音声。

 

『ヒュウッ、長髪兄さん冴えてんねぇ〜!

その通り。この世界から神を消すには口実が必要だった。

その口実として、ボクがエルフ種に化けてエルフ種を、他のエルフ種の目の前で殺ったのさ。

こっちは訓練なんてされてないもんだからね。

いやぁ〜、簡単に片付いたよ。』

 

ギリリと歯を鳴らす遼。

それでも機械音声は言葉を続けた。

 

『だがこれはあくまで下拵え、メインの調理はここからさ。

 

そうして神サマの加護が無くなったこの世界に巨人が来るように仕込んだ。

おかしいと思ったろ?

キミ達ゲート研究者でも一部しか知らないゲートの開閉が、あんな低脳そうな巨人共に出来るとかさ。それこそ研究の敗北だよね〜。』

 

「つまり、何が言いたい。」

 

弓矢を手元に構えたまま、暗闇を睨みつけている未弦が声を発した。

 

『言ったろ?ボクが巨人をこの世界に来るよう仕組んだ。

頭の切れるそこの銀髪、ゲートの使用にあたり、気をつけなければならない事柄や傾向を言ってみよーう!』

 

次にマーリンが指名したのはジルヴェスターだ。

 

「そうね、ゲートは基本的に『解読』を行い開閉する事ができる。

その『解読』をしない事にはまずゲートで目的地に行く所か、開閉すら出来ない。

 

ただ、単にゲートを通るだけなら他にも手段はあるわ。

それは『解読』されて開いたゲートに飛び込む事。『解読』したゲートが開いている時間は十秒間、その間に飛び込む事になるから難易度が高いわ。

 

それに飛び込んだだけだと帰る事も出来ないから路頭に迷う事になる。

そうなれば巨人達が行っていた習性、『頭蓋骨を巣に集める』という事は出来ないわ。

だってそもそも巣に帰れないもの。」

 

『そーゆー推測は別に聞いてないからー。

ボクが聞いてるのはゲートの傾向や使用方法。

それ以外は省いて省いて〜。』

 

段々会話が面倒になってきたのか、やる気のない声でジルヴェスターに催促をする。

 

「注文が多いわね、アタシとしてはもっと楽しいガールズトークをしたいんだけど?

 

……まぁいいわ、『解読』の他にも『初期設定』もゲートには必要ね。

『初期設定』で細かな座標、x,y,z値を設定。

これらの設定をキチンとする事で危険無く陸地に降り立つ事が出来るわ。

 

そして『追加設定』。これはもうオプションみたいなモノだけど、目的地を定めたり到着時刻を定めたりする事が可能ね。

今回みたいに過去へと遡行する事も、逆に未来へ行く事も可能。

この『追加設定』も含めて、アタシ達は『解読』とは言ってるけど。

 

もう良いかしら?」

 

ジルヴェスターの解説が一通り終わったにも関わらず、機械音声からは少しの沈黙が流れた。

 

『まぁそんなもんかぁ。ゲートをメインで研究してるわりにそんなに研究進んでないんだね。

……『脚』の言ってた通りか。』

 

悪意を持った罵倒ではないようだが、何処か気に触ったようで西蓮寺が僅かに動く。

 

「『脚』……?」

『あ、それはコッチの話、気にしないで〜。』

 

気になる単語があったものの、機械音声はそれに答えるつもりは無いようだ。

 

『となるとキミ達にはこの問題は難解かもねぇ〜?

なんせキミ達が知らない技術をボク達が用いてるワケだからね。

 

ま、とりあえずキミ達の知らない技術でボクは巨人を意図的に此処に送り込み、この世界に『脅威』という存在を作り上げた。

 

そうしてキミ達が現れるのを待っていたのさ。

A-000のゲート研究部サン?』

 

最後の言葉に一同の肩がピクリと動いた。

 

おかしい。

何もかもが。

 

そもそもA-000というものはA-000での独自用語。

B-881で語られた文化の中での名称、『マーリン』を名乗る彼女がそんなA-000独自用語を知る筈が無い。

 

それに私達は遼以外、無礼な事にあの機械音声『マーリン』に一言も名乗っていない。

相手は未知なる存在だ、名乗る方が不思議ではあるが遼の場合はこの世界での本名な上、相手が神であると前提して名乗っていた。

故にゲート研究部に関する事柄は何も語っていないのは目の前で見ていた私達が分かっている。

 

過去に鈴春と共にB-557に上陸し、マーリンと遭遇した時も青龍の宣言により誰一人名乗っていない。

 

つまり彼女がゲートでの移動でA-000という単語を知る機会があった可能性はあれど、

私が入部申請の為にパンフレットに目を通すまで知らなかった、『ゲート研究部』を知っている事が本来有り得ない事なのだ。

 

『実に見事な表情だね〜!いいよ〜!

だがまぁボクからすればどうでもいい情報なんだけどね。

ボクにとって重要なのはキミ達の所属ではなく行動。

……キミがゲート研究部に入る事を待っていたんだよ。

黒瀬遼君。』

 

遼が目を見開く。

 

『この世界から、ゲート研究部に繋がる縁が発生するのを待っていたんだ。

ゲート研究部という存在が設立されるよりも、ずっと前。この世界に神が居た、その頃から、ね。』

 

想定外の言葉に困惑の色が目立つ遼。

 

「それって……どういう……?」

 

『もっと簡単に言おうか、黒瀬遼。

キミがもしゲート研究部に入らなかったら。

……いいや、もしゲート研究部がこの地に降り立つ事が無ければ。

 

──この世界は滅ばずに済んだんだよ。』

 

 

彼は、声を失った。

手に持った彼の身長より一回り大きな杖は広間の床に落ち、コロコロと杖の転がる音が静かに響く。

 

『いやぁ皮肉だよねぇ〜。

若くして世界の為に危険に飛び出した英雄が、その世界の危険の引き金を引いていたなんてさ。

西蓮寺頼人君、キミも彼を想って招き入れたんだろう?

いやぁ同情するよ〜。』

 

その機械音声の中には嘲笑うような声しか聞こえない。

 

『西蓮寺頼人、君を率いたゲート研究チーム『ネサンジェータ』さえこの地に降り立たなければ、君が心痛めた少年、黒瀬遼という人物は生まれなかった。

君達が来なければ、この世界は神に守られ続け、化物に襲われる危険と隣り合わせにされる事も無かった。

そうしてこの後、この世界が完全に滅びる事もね。』

 

表情は見えない、だがギュッと力強く拳を握る音が、確かに西蓮寺の方向から聞こえた。

 

「……滅ぶって、誰が決めたんスか。」

 

幼い少年とは思えない、唸るような声が牙を剥く。

 

床に転がっていた大きな杖を片手で拾い、声の主は天井を仰ぐ。

 

「俺は……っ、僕は黒瀬遼!このゲート研究部の名において、この世界を死守する為馳せ参じた!」

 

握った杖を高々と天井に掲げ、その先にある暗闇を睨みつけた。

 

「例え今までの僕の行動が、全てお前の計算通りだったとしても。

……お前の狙いが何かは知らないが、それでも僕は戦う。

この世界を、僕の故郷を、守る為に!!

絶対に滅ばせたりなんかしない!!!!」

 

小さな体に宿る決意、それを機械音声は笑いはしなかった。

 

『ふぅん、良かったよ。この程度で怖気付く腑抜けじゃなくて。

見直した。君は正に英雄だ。』

 

笑っていたあの声とは別人のように、ある種の尊敬を向けた声色で機械音声は話す。

 

『それでこそ、こっちも本気で向き合えるってものさ。』

 

途端に花弁の絨毯が舞う。

その光は心安らぐ白から、危険信号を伝える赤色へと色を変えた。

 

『我は世界の観測者[マーリン]、我が望みの為、この世界を滅ぼそうぞ。』

 

大丈夫だ。

 

今度こそ、ボクが、姉さんが守るから。

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