化物戦記〜ゲート研究部活動記録〜   作:かえりゅくんぱんつ

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第二十六話 在り方

貴方の夢を叶えたかった。

 

貴方の夢はとてもキラキラで、私達には思いつかないような、そんな素敵な夢。

それを、叶えたかった。

 

そんな藁にも縋る思いで此処に来た。

 

そして見つけた可能性。

 

これなら、この世界なら。

 

 

 

きっと貴方の思い描いた理想が描けると。

 

 

だから共に行きましょう。

貴方の夢を、叶える為に。

 

・・・

 

「成功ね。」

 

六人は散らばる事なく地面へと着地した。

「でかしたぞ! 相楽夜千! 今後も問題無く託せるだろう。」

「ええっそれは大役過ぎて胃痛ヤバくなるやつ……。」

「不満でもあるのか? 相楽夜千。」

「いやぁ〜……なんでもないっす。」

 

冷や汗をかく夜千を他所に、双子は走り出した。

 

「見て見て! あっち、こっち、そっち、メカメカ! 」

「ほんとほんと! ゆーゆゆーゆゆーって! キシパシだ! 」

 

それはまるで遊園地に来た幼子のように、あっちこっちへと指差し互いの独自言語、貝合語を弾ませた。

 

「なっ! 貝合凝翅! 貝合滴翅! 周囲の確認も上官への確認もせずに単独行動を取ろうとするな!」

「「きゃーーーーーっ!」」

 

大声を上げてヴィシーは二人を追うが、二人はそれを楽しんでいるかのように、足場の悪い道を跳ねるように追いかけっこを始める。

 

「ふふ、楽しそうですね。」

「だなー、もうあの双子はヴィシーに任せて良いんじゃね? んで、俺達は現状把握をと。」

「聞こえているぞ! リアル・ロードぉぉ!! 止まれ貝合凝翅ぁぁぁ!!! 貝合滴翅ぁぁぁぁ!!!!」

 

ドームのように響くヴィシーの声。

それもその筈、彼らの上には……

 

「空も……それどころか木すら無いと来たか。」

「リアムの好きそうな鉄クズはそこらじゅうに沢山転がってるけどね。天井に穴はあるけど1番上、あれかなり遠そう。」

 

リアムと夜千が見上げる空、そこには大穴があり、そこから上のエリアが少し覗け、その上のフロアにも同様の位置に大穴が。

 

それが何層にも重なり、最上階の天井には何かを刻むような大きな歯車達が連なっていた。

 

目視で見える一番小さな物でも半径五メートルはありそうな歯車達は一度動く度に中央の円の中にある重そうな長三角型の物体を円の中心を軸として大きな音をたてて動かしているようだ。

 

 

「太陽の代わりに独自進化を遂げた時計が時間を定めてるワケか。金属加工の技術が進んでるトコ見る限り文明はありそうだな。」

 

「こんなけ特徴的な世界ならデータ無いの? ココ。毎日毎日飽きずにデータ見漁ってるんだからこれだけ特徴あれば合致する世界の一つでも研究部データにあるでしょ。リアム。」

 

 

夜千に問われたリアムは辺りを見回しながら唸り声を上げた。

 

 

「んー、該当する世界はあっけど俺自身来るの初めてだし、その世界のパラレルワールドの線も捨て切れねぇから断言は出来ねぇな。……ただ、一番近いとすれば……。

 

F-948……ぐらいだな。

あそこも確かこんな大穴あって、天井にでっけーカラクリがあったからな。」

 

「そこまで該当するならもうほぼF-948じゃないの? 」

 

「いいえ、パラレルワールドとは瓜二つの世界に『もしも』の別の要素が加わったモノ。

 

その世界に存在する特徴や同じ物質が確認されても、リアムの言う通り完全に同一世界とは言いきれないの。」

 

リアムと夜千の考察に口を挟んだのは鶯。

鶯は辺りを確認し、二人に目を向けると考えるように目を伏せる。

 

「ですが辺りを見るだけではパラレルワールドの可能性は拭えないから、まずは交渉可能な人型種を探すのが先決かと思いますわ。

ねぇ、リアム。」

 

鶯がリアムに微笑みかけると、リアムは数泊置いた後に溌剌と笑顔を返す。

 

「そーゆーこった。んじゃあ人探し、しますかねぇ。」

 

そう言い、伸びをするリアム。

夜千や鶯も、それに合わせ動き出そうとした時であった。

 

 

「ねぇねぇ、ぺっちりしてる人いるよー? 」

「ホントだ! ばったんきゅー! すやぴー? 」

「どうしたんだろう?」

 

先を走っていた二人は何かを見つけると首を傾げた。

 

「漸く捕まえたぞ! 貝合凝翅! 貝合滴翅! これにて誰が貴様らの上官か…………む? これは……。」

 

二人の首元の服を摘み軽々と持ち上げたヴィシー。

高らかに勝利宣言をした彼だが、二人の目線の先を追い、二人が見つけたモノを目にした。

 

「これは……この世界の住民か! 負傷しているではないか! やはりここはモモを…………、」

「……んいや、いけるっすね。」

 

「……リアム・ロード、今、何と? 」

 

三人の声に駆けつけたリアムは彼らが目にしたモノをまじまじと眺めると口を開いた。

 

 

 

「この類いなら……俺でも直せるって話だよ。」

 

 

・・・

 

 

暗く煙たい研究室。

そんな中で酒と煙草を嗜む研究室の主、サジューロの元に、非日常が足音を立てて現れる。

 

 

 

「サジューロ・ネサンジェータ教授、居るか。」

 

研究室の扉を開けたのは、顎に髭を蓄えた貫禄のある人物。

その長い藍色の髪は、彼から放たれる氷のように冷たいオーラを引き立たせる。

 

 

「これはこれは、生物学の第一人者にして、『十法士』様であらせられる。

キリル・レヴォーヴィチ・コヴァレフスキー様ではありませんか。

このような煙臭い場所に何用でして?」

 

 

普段なら煙草を咥えたまま来客に対応する彼だったがこの時は違っていた。

 

サジューロは来訪者の姿を見るやいなや、煙草を灰皿に潰して消火をし、机に置いた酒瓶を片付けると、軽く身なりを整え一礼をする。

 

長い藍色の髪の男、キリルはそんなサジューロを気にする様子も無く、彼の研究室へと足を踏み入れた。

 

 

「ゲート研究、ご苦労である。何か有意義な成果は得られたか? 」

 

キリルの言葉に応えるように、サジューロは手元のパネルを動かし空中に画面を表示させる。

 

「恥ずかしながら今月はまだ二つ程しか新領域を発見出来ておらず……」

「その話ではない。」

 

サジューロの言葉を遮ったキリルにサジューロは疑問を覚えるが、キリルはそれでも話を続ける。

 

 

「私が言っているのは『異世界生物の生態研究に使える物』についてだ。異世界の発見などといったものより異世界生物のサンプルを手に入れたか……それが最重要事項だ。」

 

 

あぁ、その事か。と納得した様子のサジューロ。

 

 

思い当たる物があったのか、キリルの言葉を聞いたサジューロは研究用の冷蔵保管庫を開けると、一つのプラスチックバックを取り出す。

 

 

「こちら、新領域に生息していた巨人種の中でも『異世界危険生物』の肉片のサンプルです。」

 

 

それは西蓮寺が持ち帰った巨人種の肉片、その一部だった。

 

 

 

それにはキリルも興味をそそられたようで、そのプラスチックバックを受け取る。

「うむ、協力感謝する。」

 

その一言だけを残すと、キリルは軽く手を挙げ、廊下で待機していたと思われる彼の従者に保冷バックを持って来させ、キリルの横で跪かせるとバックを開けた。

 

キリルは受け取ったサンプル入りのプラスチックバックを保冷バックに入れると、従者に下がるよう命じる。

 

 

 

二人きりになったサジューロの研究室。

 

「……して、サジューロ・ネサンジェータ教授。

貴方の息子たる人物が、街で民衆を殺害しようとした生徒を、貴方の権力をもってして釈放した……という噂話は、真ですかな? 」

 

キリルの冷たい視線は、サジューロを突き刺すように鋭さを帯びていた。

 

「あぁ、ファルコですね。彼の行動であれば真です。彼が釈放した人物、パルには頼みたい用事が山ほどありますから。」

 

「未成年とは言え、殺人鬼になるやもしれん者を釈放した……という事実を自覚していないとは言いませぬな? 」

「えぇ、勿論自覚しておりますよ。」

 

サジューロの返答は早かった。

 

「目先の数名の犠牲か、未来の数万人の犠牲か。

取るとするならば何方を取りましょう。

彼には未来、この世界を防衛するに辺り尽力して頂く。

その為ならば片手程の犠牲も厭いません。

それが、この世界を脅かすガンのうちの一つなら尚更であります。」

 

その言葉にキリルはピクリと眉を歪ます。

 

「この世界に、裏切り者が居るとでも言うのか? 」

 

「いやはや、確信はありませんし、私はこの世界の防衛責任者でもありませんから。

一介の研究者にそれ以上の解答を求められても困ります。」

 

煮え切らない様子のキリルはその氷のような目でサジューロを捉えるも、サジューロの顔色が変わる様子も無い。

 

 

「研究者たる者に専門外の質問をして悪かったな。」

キリルは無礼を一言詫びると踵を返そうとした。

 

そんな間際、サジューロを背にキリルが言葉を残す。

 

 

「サジューロ・ネサンジェータ教授。

貴方程の生物研究の担い手となれよう人物を、ただ人手が少ないといった理由でゲートの研究などという小さな箱で燻らせるのは非常に惜しい。

 

また再び、同じ生物研究者として、共に語らわないか? 」

 

背を向けたキリルの表情は見えない。

されどもその声は、かつての友を惜しむような、そんな哀愁を漂わせていた。

 

「『十法士』様たるキリル様のご好意は有難く頂きます。

されど、ゲートの研究というものも奥深くて。

後釜が現れたとて、私はこの研究を辞める事は無いでしょう。」

 

サジューロの言葉を聞いたキリルは、そうか、と一言だけ残すと彼の研究室を後にした。

 

 

「貴方という生物研究者を失ったのはこの世界の、いいや、全世界の損失とも言えように。

……サジューロ・ネサンジェータ教授。」

 

彼の研究室を背に歩き出したキリルと、その従者達。

その足音を見送るように、サジューロは椅子に腰掛けると目を閉じ、新しい煙草に火をつける。

 

 

 

「才がある物の研究をした所で、結果は見えてる。

どうせなら結果の見えない、未知への探求をする。

 

それが本来『在るべき研究者の姿』なんじゃねぇか? 」

 

 

 

天才は一人、煙を吐く。

 

 

世は常に、天才を理解しない。

 

 

 

そんな想いを吐き出すように。

 

 

・・・

 

 

「ンなもんじゃねぇか? 」

「まさか機械弄りオタクの本領がこんな所で発揮されるとはね。」

 

故障して完全に動けなくなっていた機械人形。

 

否、この世界の人型種の治療の為、一同は辺りに散らばる鉄のガラクタを寄せ集め、リアムは持ち前の機械弄りスキルを用いてガラクタを見事に機械人形のパーツとして組み込んだ。

 

「後は起動チェックなワケだけど……。」

 

リアムが悩んだ様子を見せた、その瞬間。

突如機械人形からガチャガチャといった歯車の回るような音が響いた。

 

「要らなかったな、起動チェック。」

 

歯車のような音が数分続くと、今度は人工音声のようなアナウンスが機械人形から発された。

 

「──バッテリー残量、システム同期、オールグリーン。

只今から、当機の再起動を開始します。──」

 

胸元に見えるパーセンテージが徐々に増えていき、それが百パーセントになったその時。

 

栗色の髪の下、重く閉じられていた瞼から灰色の瞳が現れた。

 

「起動完了。貴方がご主人様[マスター]でしょうか。」

 

灰色の瞳に映るのは、赤髪の少年リアム・ロード。

 

「ありゃ、これ、起動者が主人になるタイプ? 」

「あらあら、可愛らしい従者[セルベント]じゃない。」

 

鶯の言葉にリアムは僅かに止まると、ため息を零して再び口を開いた。

 

「俺の従者[セルベント]は一人で充分だってのに……まぁややこしくなるとダルいしいいや。

俺がお前のご主人様[マスター]ならお前は何してくれるんだ?」

「ご命令があれば、何なりと。」

 

単調な返事に口元を手で覆ったリアム。

 

 

「ま、いざって時に直せるの俺しか居ないし、一先ずは俺がご主人様[マスター]って事でいいんじゃね?」

 

リアムの問いかけに三人は答える。

 

「私はリアムに賛成。メイド趣味とか無いし。」

 

「えぇ、主人になるのなら面倒が見れる子じゃないと、従者[セルベント]に失礼だもの。

それにリアムなら経験があるから安心して託せるわ。」

 

「我が主がリアム・ロードを彼女の主人に任命されるのであれば私からは言う事などあるまい。」

 

残る二人、貝合達の護衛にするという選択肢も無くはなかったが、彼らを守る事は現地人に任せる事ではなく、自ら行うべきだという意見により、

目の前の機械人形の主人はリアムにすべきと満員一致で決定した。

 

「んー、じゃあよろしくな。機体名は何つーんだ?」

「この機体は『アシュリー・ヒューストン067号』です。」

「んじゃ、アシュリーで。俺が主人のリアム・ロードだ。」

 

にこりと万遍の笑みを浮かべたリアムが、目の前の機械人形アシュリーの手を引き、立ち上がらせた。

 

 

 

それを遠くから眺めるスコープが一つ。

緑の長髪を揺らしながら、ソイツはニヤリと笑うと姿を消した。

 

 

「上手くやれよ? 東校の皆サン。」

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