化物戦記〜ゲート研究部活動記録〜   作:かえりゅくんぱんつ

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第三話 蛇の国

ふらり、ふらりと歩いて。

顔を上げると青白い光が手招いていた。

 

「さぁ、おいで。」

「この先なら、君は──」

 

その誘惑に足を進める。

振り返る事なく、ただ、真っ直ぐと。

 

──あぁ、薄れていく。

目の前は真っ白で、意識も離れて行くのを感じる。

 

……これで、私は。

 

・・・

 

黒咲部長率いる六人が辿り着いたのは小さな集落。ここを彼らはクニと呼ぶらしい。

 

「わぁ……見た事のない建造物が沢山あります!」

 

「好きに回って良いのじゃよ。食事の支度をするのでそれまでこのクニの中でゆっくりしておくれ。」

「ありがとうございます。」

礼儀正しく、頭を下げる黒咲部長。ただその礼の仕方はやけにピッチリとしていて……。

 

「黒咲部長って……、育ちが良かったりするんですか?」

「……いや、別に、褒められるような育ちはしていないと思うが。」

私は首を傾げるが、辺りの見た事のない景色に心奪われ、黒咲部長との会話を切り上げると、カメラを持って駆け出した。

 

「……はぁ、まだあの癖、抜けてなかったのか。」

頭を掻きながらポツリと黒咲は静かに呟く。

 

「君の国ではこの礼は『首を切って下さい』を意味するんだっけ。」

 

ハッと一人笑う。

 

「もう、会えねぇよな。」

 

風が静かに黒咲の髪をなびかせた。

 

 

「さて、と。」

 

三条は黒咲から何か聞いたのか、手元から変わった形の紙を何枚か取り出しては折ってを繰り返す。

 

「おー、やってんじゃん?シキガミ?」

不思議そうに三条の行動を眺めるクリフト。

 

「あぁ聞いたろ?隼から。その準備だ。……んでクリフト、お前何か見つけたか?」

シキガミと呼ばれた紙を、三条は空に飛ばすとクリフトの方へと向く。

 

「うん、どうやらこのクニの敷地内にはゲートはないみたいだよ。

……代わりに、気になる物があったんだけどさ。」

 

それだけ言うとクリフトは表情を曇らす。

「これ、隼に言うべきじゃないなって。多分、アイツあーゆーの、嫌いだろうし。……アイツの事詳しい訳じゃないけどね?いつもそーゆー話題は顔暗くするし。」

 

何かを察したのか、三条はあー、と声を漏らす。

 

「成程りょーかい。って事はこっからの展開は見えてんな。」

はぁ、とため息をつき、クニの景色に目を移す。

 

「俺は式神でクニの外の様子と、ゲートの場所の調査をする。……隼はやな顔するだろうが……伝えとけよ、それ。恐らくそれがこのクニの目的だ。しっかし夕雨と空牙が動けないのは痛てぇな。」

景色からクリフトへと視線を戻す。

 

「ん、分かった。空牙には夕雨がついてるけど……夕雨一人で大丈夫かな。」

「それだが、空牙だけじゃなくて千利もだ。あの子は一年だし実力も未知数だ。一応両方に式神は飛ばしたがクリフトも援護に行けるようにして置いてくれ。」

「あいさーっ!と。僕はさっきのを隼に伝えに行くよ。」

 

そう言うとクリフトはくるりと周り走り出そうとする。

「……待て、クリフト。」

 

クリフトは三条の声に足を止めてそちらへ向く。

 

「……追加、隼に伝えるべき内容が一つ増えた。」

 

・・・

 

クニの敷地外。

焼け焦げる謎の紙の匂いが漂う。

 

「これは、見た事のない術式。」

 

焼いた張本人はポツリと呟く。

 

「やっぱり、ゲートを使う者は僕以外にいるんだね。」

 

手のひらに火の玉を作り出す。

「ここでの収穫はあったし、もういいかな。」

 

「呑気に留まってる暇は、無いんだから。」

 

・・・

 

「すごーい!」

「空牙、あのですねぇ。」

 

片目に包帯を付けたまま、クニの中を探索する空牙とそれに手を焼く夕雨。

 

「怪我をしているのですからもう少し安静にして貰えませんか?」

「やだぁー、こんな世界、来たことないもん!寝てるの勿体ないよー。」

 

時代は違えど来た事はあるのに、呑気な……とため息を漏らす夕雨。

 

「ねぇ、夕雨。」

「なんですかもう……。」

空牙は建物の、ただ一点を見ていた。

 

「隼達、何してるんだろ。」

「それはゲートの調査……ん?」

夕雨は空牙の目線の先にある物に気付いた様子で目を細める。

 

「……監視カメラ、ですか。どうやらここには何かあるみたいですね。……僕達にとって不利な、何かが。」

 

 

一方、建物の影で沈黙を続ける二人。

黒咲とクリフト。

 

クリフトはある報告をしたらしく、黒咲はそれを聞き無言を貫いていた。

 

「あー、やっぱ言わない方が良かった?」

沈黙を破るのは冷や汗をかいたクリフト。

「…………いや、重要な情報だ。個人的に気に食わねぇだけ。気にすんな。」

腕を組みながら渋い顔をする黒咲。

 

「空牙は起きて動いてるみたいだな。」

「そうそう、ケロッと元気になったみたいでさ。」

話題の変化にホッとした様子のクリフト。

 

「クリフト、お前は花宮の護衛、なるべく気付かれないようにな。」

 

想定内の命令。

「りょーかい、隼はどうすんの?」

そうクリフトに問われると、黒咲は眉間に当てていた手を下ろす。

 

「ぶっちゃけ、今回俺はあんま動けねぇと思う。

……が、勿論お前と同様、花宮の守護を徹底すると同時に全体の動きを把握する。以上だ。ほら行け、クリフト。」

 

微妙な顔をしながらもその場を去るクリフト。

黒咲は険しい表情のまま、建物の影から動かない。

 

 

歩きながら、誰にも聞こえぬようポツリと呟く。

 

「ねぇ、隼。わかんないよ。」

 

その足は少しずつ重さを増して、立ち止まる。

 

「隼はさ、何にそんなに怯えてるの?」

 

顔の曇りを隠すように、重くなった足元に目線をやる。

 

「少しは僕らも……力にならせてよ。」

 

キュッと握りしめる拳。

 

「僕らの事は、何でも知ってる癖に……お前は何にも教えてくれないよね。」

 

重くなった体。

 

「お前だけ辛いの、僕ら嫌なんだってば。」

 

鉛のような重い足を力づくで蹴り、走り出す。

 

「お前は、僕らの大切な……っ」

 

 

僕らの居場所をくれた人なんだから。

 

・・・

 

建物の構造や人々の生活をくまなくメモをしながらクニの中を歩く私。

早速メモ帳が尽きようとしていた為、もう一冊は買っておくべきだったと後悔しながら。

 

「メモ帳無くなりそう……他に何かメモ出来るような物持ってたっけ……。」

ポケットを漁っていると、ふと、村人達の声が聞こえた。

 

「はぁー……今年の生贄が見つかって良かった。」

「見つからなかったら俺の家内になる所だった。余所者みたいだが感謝だな。」

 

私の姿は見えていないようで豪快に笑う村人達。

 

私は建物の裏に隠れ、メモ帳のページを捲る。

 

このクニでは毎年、蛇神に捧げ物をする。

このクニでの蛇神は雨を降らす力があるとされている。

捧げ物をする時期は毎回これぐらいの時期。

捧げ物の詳しい内容は不明。

クニの中は男性が多く、女性は比較的少ない。

 

そして……村人の『生贄』の言葉。

 

ザリ、ザリ、と足音が聞こえる。

 

「こんな所におられましたか。お客様。」

「探していましたよ。」

 

先程話していた村人とは別の、私達を招き入れた村人達が、私を取り囲むように現れる。

 

……そうか、彼らの目的は最初から。

 

 

生贄に出来る、女性だったのだ。

 

「ちょーっと、何やってんですかねぇ?」

 

私の横をひらりと紙が落ちる。

紙が地面に付くとそこから人が現れた。

 

……三条だ。

 

「三条さん……!でも今、私達……囲まれてますが……?」

「さぁ?囲んでるのはどっちだろうな。」

 

村人の背後から四人の影。

 

「状況は把握しました。」

「千利ちゃんに悪い事はメっ!だよ!」

「ビンゴだね。隼。」

「あぁ、出来れば当たって欲しくなかったが。」

 

知らぬ間に背後を取られていた事に驚愕する村人達。

 

「ちーなみに、そっちは式神だから本物はこっちにいるんだけど、な。」

 

四人の後ろから歩んで来たのは三条。

 

「え……!?式神……?」

 

三条が私の横と先輩達の傍にいる。

つまり現状彼は二人この場にいるという事。

 

「簡単に言えば俺の使い魔。ソイツはダミーってわけ。……まぁ、式神と言えど操作してるのは俺だからな。ちゃーんと、実力もお墨付き、っとぉ!」

 

式神と呼ばれた、私の横にいた三条は、もう一枚の紙から武器を出し、村人達の足をくじかせる。

 

「よーし!束縛だ!」

 

クリフトのその声に従うように村人達は動きを封じられた。

 

「な!なんだこれは!」

慌てふためく村人達。

 

黒咲部長は拳銃を構え、村人達の足を撃ち抜く。

「痺れるだろうがそこで大人しくしてろ、デカブツ。」

 

ワキワキとしてる空牙。

「暴れていい?」

「いや、貴方が暴れると災害になります。せめて風を起こす程度にして下さい。」

「はぁーい。」

そう言い空牙が指で空気をなぞると、その方向に向けて暴風が吹き、村人達は飛ばされる。

 

「さ!千利ちゃん!こっちへ!」

クリフトの声。

 

今までの事象と先輩達の行動、これでハッキリ分かった事がある。

 

「この人達は敵で、間違いないですよね。」

「え、あ、まぁ、敵対しては……いるかな?」

 

ならやる事は一つ。

 

クリフトの声を合図に剣を抜く。

 

「……え。」

 

戸惑う事なく、村人達に剣を突き刺し、溢れる鮮血。

 

慣れた手つきで切り裂いては、的確に命を貫く。

 

「敵は、殺す以外無いでしょう?」

 

先輩達は何故か唖然としている。

 

常に冷静でいた、あの黒咲部長すらも。

 

 

囲んでいた敵達は先輩達による行動不能状態もあり、僅か数分で壊滅した。

 

「皆さん、終わりましたよ。ここからはどうしましょうか。」

 

私の声でハッとする黒咲部長。

「……っ三条、ゲートは見つかったか?」

「……ん、あ。いや、まだ見つかってない……が、変なのが外にあってな……」

 

三条がそう言いかけた時、何処かから人ならざるものの叫びが聞こえた。

「え!?今度は何!?」

 

メモ帳にあった。これは。

 

「……蛇神です!このクニの、伝承の!」

咄嗟にメモ帳の内容を思い出し、声を出す。

 

目の前に現れたのは……黒い、巨大な蛇。

 

「あ、もしかして僕、あれと間違えられて攻撃されたのかな?」

巨大な蛇を見た空牙が空気も読まずに言葉を放った。

「いや、まぁ確かに似てるっちゃあ似てるけど……。」

「あるかもしんねぇな、んでそう勘違いした村人がコイツのご機嫌取りに生贄を……ってな。」

 

黒咲部長が握りしめた拳を開く。

「クリフト!」

「りょーかい!」

黒咲部長の声に合わせるようにクリフトは何かの呪文を唱える。

 

呪文を唱えると黒咲部長の手の付近は光を纏い、その光の中から現れたバズーカを片手で持つ。

 

「この世界のカミサマか何かは知らねぇがこれでも喰らえ!」

 

バズーカから発射したのは電撃のような弾。

それは見事に蛇神の片目に的中し、蛇神はもがき苦しんんだ。

 

「空牙が喰らった分だ!有難く受け取っとけ!

総員、退避!この集落の外に出るぞ!」

 

その黒咲部長の声に振るい立てられるように一斉に走り出す。

 

「グオオオオオオオ!!!!」

「んびゃあーっ、耳に響くぅー!」

「貴方の鳴き声もそんな感じですがね。呑気にしてられませんよ!」

 

逃げる宛てはない。

 

「三条!ゲートは!」

「まだ見つかってねぇ!」

 

蛇神は森の中に入った私達を探す。

 

「何処に向かって逃げてるのー!?」

「朝日の登る所!」

「つまりは決まってないのな!」

 

地面が揺れる。蛇神が動いているのだろう。

 

一方、私の視界に何かが入った。

「皆さん!あれ!」

私が指さした方向、そこにあったのは……。

 

「火の玉……か?」

「あ!アイツ!俺の式神燃やした奴!」

 

火の玉はゆらりゆらりと動きながら、何処かを目指しているようだった。

 

「どうせ何のヒントもない!追うぞ!」

黒咲部長のその命令を聞き、ようやく目的地が定まった。

 

 

ゆらゆらと何処かを目指す火の玉、それを追いかける私達。

 

ようやく火の玉が掴めそうな所まで追いついた時、目の前にはあるものがあった。

 

「……ゲートだ。しかも一度崩壊した物が復元されている。」

立ち止まる先輩達。

「って事は……。」

「あぁ、一度誰かが使った。それもつい最近。」

 

睨みつけるようにゲートを観察する黒咲部長と、目の前のゲートを解析するクリフト。

「ゲート接続完了。僕達の世界に繋がったよ!」

「さんきゅ、クリフト!」

 

地面が揺れる。

揺れは激しくなり、蛇神の接近が確認出来る。

 

「開く!!!」

クリフトのその声と同時にゲートが光る。

 

・・・

 

「サジューロ先生、こちらの世界のゲートに別世界のゲートが接続されました。」

 

声をかけられたのは培養管の前に立つ、黒い長髪を乱雑に結んでいる猫背の男性。

 

「生命体の数は。」

「六です。」

男性の声に素早く答えたのは学生と思われる女性。

 

「……ならばそれは隼達だな。」

 

黒髪のサジューロと呼ばれた男は部屋を出ると煙草に火を付ける。

 

「あ、サジューロ先生。校内は喫煙禁止って……この前アニア先生にも言われた所じゃないですか。」

「ばーれなきゃいいの。それより隼達迎えに行くぞ。」

「はぁ……私が生徒委員生である事忘れてるでしょ……。

隼達の出現場所の特定は完了。案内します。」

「覚えてますよぉ、娘の所属委員会忘れる親いるかってーの。はいはい、案内よろしくお願いしますねぇ。」

 

はぁと煙を吐き、気だるげに少女について行くサジューロ。

 

「さぁて、今回はどうなった事やら。」

 

我々の探す世界は、果たして見つかったのか。

それともハズレか。

 

答えは出撃した彼らにしかわからない事だろう。

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