化物戦記〜ゲート研究部活動記録〜   作:かえりゅくんぱんつ

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第七話 若人の決断

武器はない。

 

迫り来る女。

 

来るな、来るな、来るな。

 

 

来る……な、

 

じんわりと全身を覆う温もり。

 

「もっと早くに中身を調べられなくてごめんなさいね。……こんなに体が冷たいじゃない!温めなきゃ。」

 

この時、ようやく、私は完全にこの女に全身を拘束され、動けないのだと察した。

 

声が出ない。

 

喉が大量の針に内側から刺されているような感覚。

手は震えて固まり、力が込められない。

 

あぁ、だから。

 

 

だから私はなり損ないなのだ。

 

・・・

 

会議は終わり、次々と部室から人が出て行く。

 

屍のように動かなくなった北校の部員達、そんな中でアルメリアだけは、ある人物を追うように駆ける。

 

「一紗、先輩。」

アルメリアが話しかけたのは、鶯に背中を撫でられている一紗だった。

「……申し訳ない、今は、少し。」

 

その一紗の言葉にどう返事をしようか、幾ら覚えたばかりの語彙を探しても見当たらない。

 

その時、アルメリアの後ろから、揺れる黒髪が現れた。

 

「落ち着くまで座ってろ。足もおぼついてないじゃねぇか。そっちにベンチがあるから、ほぉら。」

そう言い一紗の背中を押す。

 

誘導されるがままにベンチに座った一紗、その横に座り手を握る鶯、ドカリと廊下に座り込むサジューロ、アルメリアは立ったまま、慰め合うように寄り添うのだ。

 

「よくやったな、一紗。」

 

サジューロは一紗の方へと向くこともなくポツリと言う。

 

「私に、何が出来ていたと言うのですか、先生。私は、指揮官でもあったにも関わらず、桜を守れなかったのですよ。」

ギリッと、歯が軋む音。

 

「守ったんじゃねぇのか?コンティノアールと、桜の最期を遺した映像と、他に同じ世界を調べていた仲間と、お前自身を。

それを功績と言わずして何と言う?」

 

辺りは無言を貫いた。

 

「お前らが生きてたから、俺らは桜の死を知れた。事実が知れた。桜の生き様が知れた。

……違うか?」

 

サジューロは一紗の方へ向くこともなく立ち上がり、煙草を咥える。

 

「だからお前はよくやった。桜の親御さんへの報告やらは俺に任せとけ。

お前らは充分やった。」

 

そう言いながら煙を吐く背後、ガタリと音を立て、一紗が立ち上がる。

 

「いいえ、私も行かせて下さい。

私が……、あのメンバーの指揮官だったのだから。当然の行いです。」

 

鈴春から預かった羽織を脱ぎ、握りしめる。

「どうか、副部長として、同行をさせて下さい。一人の、騎士として。」

 

煙と共にため息を吐き出す。

「はいはい、好きにしろ。お前の為になんならな。」

「んじゃ、俺もアルねー!」

 

重い空気とは真逆な軽快な声。

明らかに面倒くさそうな顔をするサジューロ。

 

「俺が探索を命じたアル、当然ネ。」

「んじゃあそのふざけた口調、親御さんの前でだけでもどうにかしろよ。」

「それはー……善処するネ。」

アホくさい鈴春の登場で和やかになる空気。

 

 

遠くからそれを見る。

 

……失敗しても、捨てられない?

 

失敗は悪、ましては死など大罪だ。

 

なのに、どうして。

 

 

出来損ないは一人、その光景に唇を噛む。

 

・・・

 

歩く二人、その後ろから大きな足音が聞こえる。

「西蓮寺頼人!黒瀬遼!今日もまた最後に来るとは気がたるんでいないか!」

 

超デカボイス。

これはヴィシーだろう。

 

「あー……ヴィシーパイセン。つーか俺ら遅刻してなくね?十分前までに到着してたし。」

振り返り、呆れた顔でため息をつく遼。

 

「常に上司よりも先に到着すべきものだろう!特にお前は小等四年、部長陣最年少でほぼ全ての部員が先輩にも関わらず何たるたるみ!」

 

気だるげな遼と、キチリとしたヴィシーでは相性が悪いのは見てわかる。

だが、その程度で引き下がるガキであれば、同じ地位にはいないというもの。

 

「はぁ、アンタは御局様っスかぁ?

俺が全員の後輩なんだから気ぃ引き締めろだ?

俺はお前らと違って年の功でここに居るわけじゃねぇの。

俺は俺のやる事やって、あの時間に到着してる。

だからお前みたいな指示もなけりゃその場に対応出来ない脳筋とは違うワケ。

だから変にお前の思う通りに俺を動かそうとしないで貰えるっスか?

センパイなら、必要なアドバイスぐらい選べ。

では、また次の会議で。

ヴィシーパイセン?」

 

遼はヴィシーを鼻で笑うと、軽く会釈をし、西蓮寺と共に踵を返す。

 

「生意気なガキめ!」

立ち去る西校の二人を睨みつけながら吐き捨てる。

 

だが、ヴィシーは決してそれ以上は言わない。

彼自身、遼の実力を認めている、その上で同じ副部長という地位にいるのだから。

 

「西蓮寺パイセンは何か言われてたけど気にしないんスか?いつも先生の手伝いとかしてて最後じゃないスか。」

 

帰路へと足を向ける二人。

そんな中、遼は西蓮寺に見向きもせずに口を動かす。

 

……が、西蓮寺からは返事はない。

 

軽く首を動かす程度のアクションしかしない西蓮寺。そして、それを見る気のない遼。

 

傍から見れば意思疎通が出来ているのかも怪しい。

 

「所で、どうします?南校の人員不足の件。

東校は鶯パイセンはどーせ部内会議せようが誰かしら出てくるっしょ。どーせあの人ら、お人好しだし。」

 

西蓮寺は頷くだけ。

だが何かを思考しているようだった。

 

「ま、俺らも帰りゃ部内会議っスねー。」

 

などと言いながら外へと出たようで、タクシーを捕まえて乗り込んだ。

 

・・・

 

部室はすっかりといつもの姿を取り戻し、黒咲がソファで寝転がっている。

 

「ねぇ隼、結局どうする?南校の人員不足。

東校から出るかもだけど、あっちも人員多い訳じゃないじゃん?」

 

ソファの肘置きに腰掛けながら寝転がるこの部屋にいる部内最高責任者、黒咲に声をかけたのは副部長のクリフト。

 

「東だけじゃ足りねぇだろうな。」

 

返ってきたのは単調な返事。

 

「仮に西も出たとしても、完全に枠は埋まんねぇ。」

 

資料を顔にかけた黒咲は心底面倒くさそうに答える。

 

「じゃあ?」

「……ッチ」

クリフトの問いに舌打ちで返す。

 

元よりサジューロが人員補充を命じた時点で、最も人員を所有する北校には選択の余地がないのだ。

 

「となると人員選択だね。出来るだけニコイチの空牙と夕雨は解体したくない。それに今は空牙も負傷してるからね。だから何人補充人数が必要になっても動かす事が可能な、単体での実力を所有する人物、って事になるかな?」

「かと言ってアイツらは暫く近辺調査だが、俺らはランダムだ。こっちの人員は裂けねぇ。」

 

ぽい、と机にメモ帳を放り投げる。

 

「その結果の人員選択だ。」

 

クリフトは投げられたメモ帳をペラリと捲る。

「隼も、中々酷な事をするよね。」

「たりめぇだ。罪を償うのは口じゃねぇ。行動だ。」

 

二人はそれ以上言葉を交わさない。

 

クリフトはメモ帳を持ってサジューロの元へと向かった。

 

・・・

 

「我が主!」

その声量と言葉で誰か充分分かる。

 

「遅くなってごめんなさいね?ヴィシー。」

前方からは長髪を揺らす鶯がヴィシーの元へと歩いてやって来る。

 

「主は先程まで何を?」

「一紗ちゃんの様子を見てたの。でも、あの子なら大丈夫。」

 

大丈夫。

例え今がそうでなくても、きっと。

 

並び立った二人は帰路に乗り、鶯は優雅に、ヴィシーはテキパキと歩き出す。

 

「しかしあの和泉一紗があのような……、いや、和泉一紗は大義を成しただろう。全滅を免れた。それだけで大義と考えるべきか。」

 

ヴィシーのその言葉に表情を濁すのは鶯。

「えぇ、あの子は最小限の犠牲で部員達を守りきったのだから、充分大義でしょう。鈴春も、早急な離脱が出来るよう、拠点制作後に退避用ゲートを探していたようだから。あの子達は何一つミスをしていないわ。」

 

軍事学校に似合わぬ羽織を揺らし、一定の距離をもって話し合う。

 

「そして、例の人員補充についてですが。」

「勿論、部内で話し合った上で有志を募ります。ですがこちらも豊富ではないですから……出せても一人でしょうね。」

「……やはり、ですか。」

 

二人は正義感が他の部長陣よりも一際強い。

恐らく東校の他生徒も同じだ。

 

しかし先日の新領域調査で負傷者が多く出ている東校は、南校に手を貸すよりも前に、自陣営の人員すら怪しいのである。

 

「隼に……託すしかないわね。」

 

最年少の部長、黒咲隼。

 

だが今は、彼に頼る他ないのであった。

 

・・・

 

暗がりの研究室に似合わぬ軽快な足音。

 

「さ・じゅー・ろっせーんせ!」

 

サジューロの明らかな嫌な顔。

「まだ帰ってなかったのかよ……鈴春。」

赤毛のアホ面、鈴春だ。

 

「一紗は他の子にお茶会お誘いに行ったからネー!俺一人アル!」

そんなヘラヘラとした鈴春をサジューロは鼻で笑った。

 

「じゃあそのヘタクソなアホ面は要らねぇんじゃねぇの?」

サジューロの言葉に鈴春の口角が歪む。

 

「……あぁ要らないな。どうもこのノリは慣れない。」

 

鈴春の顔から笑顔が消える。

まるで別人かのような、冷たい、冷たい顔。

 

「じゃあやんなきゃいいだろ。」

煙草を口に咥えたまま、書類を確認する。

 

「いや、あの人に思い出させるわけにもいかない。折角忘れてくれたのだから。」

 

興味無さげに煙を吐く。

「……で、何の用だ?」

少しの沈黙が続いた。

 

灰が落ちそうになったのを確認した鈴春が無言で灰皿を用意し、煙草の灰は灰皿へと落ちた。

 

「主を、頼む。」

 

……遠くから、一紗が鈴春を呼ぶ声が聞こえる。

「それでは、失礼。」

 

普段の彼であればしないような、丁寧な礼をすると、灰皿を机に置き、何時もの調子で駆け出して行った。

 

「かっずぅーー!俺はここアルよーーー!」

「また何処かで幼稚な行動でもしてたのだろう、紳士たる自覚ぐらいもう少し持ってはどうかな。」

「めんごめんごーっ!あいたぁー!」

 

南校の二人の何気ない日時に鈴春は戻って行った。

 

それを研究室の中から聞くサジューロは、机に腰掛け煙草をふかす。

 

「記憶の無くなった主を、まだ主と呼び続けるか。」

 

「かつての従者を忘れ、愛を忘れ、それでも生かされる。さて、それは傷付けたくないだけの偽善ではないのか。」

 

黒髪の男は多くは語らない。

 

ただ、ゆらりゆらりと煙は揺れるだけだった。

 

・・・

 

会議終了から二時間後。

私達、北校のゲート研究部部員も集められる事となった。

 

「よし、全員揃ったな。」

黒咲部長は辺りを見渡し人数を確認する。

 

「……で、さっきあった南校の人員不足における他校からの人員補充要請について。

南校に一時的に補充員として、本校から選出するメンバーが決まった。」

 

一同はゴクリと唾を飲む。

 

「まず第一に、南校は前の事態によってコンティノアールを中心に、部長、副部長を除く三名が行動不能。

実質的な南校の戦力は、鈴春と一紗の二人のみとなる。

そして人員補充要請が出た時点で、最も部員数を確保している、この北校は確実に補充員を南校に送らねばならない。

……だが、先日の調査にて空牙が負傷。

これにより北校の活動可能メンバーは八人。

うち、六人は自校のゲート調査の為に残って貰う必要がある為、補充員として南校に送れるのは、二人のみとなる。」

 

淡々と現状を述べていく黒咲部長。

 

 

「伊吹青龍、花宮千利。

以上二名を南校救援補充員として任命する。」

 

 

意外だった。

 

よりにもよって、まだ部活に慣れない私が選ばれたという事が驚きであった。

 

それと同時に、タレントとして活動していた青龍も人員として選ばれたのだと考えると、かなりの人員枯渇を思い知らされる。

 

「俺、か?俺でどうにかなるものか……?」

青龍本人も疑問らしい。

「アレでも鈴春も一紗も手練だ。

多少不慣れなメンバーであろうとカバーぐらいは出来るだろうよ。

受けてくれるか?二人共。」

 

とは言え拒否権は無いに等しいのだろう。

周りから視線を集める私と青龍。

 

「はい、私で良ければ。」

「まぁ、足引っ張らないようにしないとな。」

受け入れる二人。

 

「よし。来週休み明け、月曜日が南校の調査曜日だ。青龍と千利は本校正門前集合。千利は青龍の指示に従ってタクシーで南校に向かうように。

青龍は千利の案内頼むぞ。」

指示を受け、返事をする私と青龍。

 

この日はこの指示を受け、解散となった。

 

……次に異世界へ向かうのは月曜日、それも青龍と鈴春と一紗以外、あと二人は誰なのかも分からない。

だからこそ、新たな知識が手に入りそうで、私は心を弾ませた。

 

 

「酷な事をするよね。隼。」

 

解散した後の部室。

部屋には黒咲とクリフトの二人だけ。

 

「よりにもよって去年入ったばかりで今回亡くなった桜ちゃんと同じ境遇の千利ちゃんを、補充員に任命するなんて。」

 

ソファをまた占拠している黒咲。

 

「だからこそ、引き締まるモンがあるだろ。

それに……」

 

「これはアイツらの為の選択だ」

 

小さな少年は見据える。

その未来と、彼らの栄光を。

 

──地獄の後の救済を。

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