ある日のこと。平和な紅魔館で今日もいつも通りの1日が始まった。しかし、いつもと違うことが一つ。それは一種のシンクロニシティとも言えること。紅魔館の住人であるレミリア、フラン、咲夜、パチュリー、美鈴の5人が一斉に同じことを思い立った。
『そうだ、動画投稿しよう』
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書類仕事がひと段落し、伸びをしたのち紅茶に手を伸ばす。私、レミリア・スカーレットはふと思った、退屈だ、と。ここ最近は特にアレを除いて大きな異変も無く、毎日が平和だ。平和なのはいいことだが、こうも毎日何も無いと、いずれ気が参ってしまいそうだ。そもそも妖怪は長寿な分、娯楽の重要性は高い。それは私も例外ではなく、何か大きな事を成したいと体がウズウズしている。
「また異変でも起こしてやろうかな」
数年前に起こした紅霧異変。あの時はすぐに博麗の巫女に阻止されてしまったが、リベンジとしてここでやるのもありかもしれない。
そんなことに考えを巡らせながら最近我が家に導入されたパソコンとやらをいじっていると、ニュースサイトのある記事が目に飛び込んできた。
「子どもが将来なりたい職業?ふーん、そんな統計とって何が面白いんだか.....」
特に惹かれる内容でもなかったが、他にすることもないのでそのままスクロールする。
「1位は.....動画投稿者?聞いたことないわね。しかも2位とかなりの差がついているようね」
少しだけ興味を持った私は新しいタブを開き、検索欄に関連するワードを打ち込む。検索結果を見ていくと大方動画投稿者がどういったものか分かった。
「ふむ.....自分が撮った動画を配信し、世界中の人に見てもらう。.....これ、いいわね」
これは気に入った。特に世界中の人に見てもらうってのが最高に私の欲を満たしてくれそう。
「あ、でもこの編集ってやつが難しいわけね。.....まあ何とかなるか」
細かい事は後で気にすることにして、まずは機材を揃えましょうか。それにしても、パソコンカチカチしてるだけで、ネットで色々な物が買えるなんて。
便利な世の中になったものね。
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「ああああぁ!ヤバい、資材切れた!あと1人でビクロイ取れんのにいぃぃ!」
割と大きな声で叫びながらあるバトロワをプレイしているのは、フランドール・スカーレット、つまりわたしである。ちなみに絶賛大ピンチだ。
「あっ.....。死んだ.....」
散らばったアイテムの上で敵が踊り狂っているのが見える。
あとちょっと.....あとちょっとだったのに。このゲームを始めて早一週間。ビクロイがまだ一回も取れずにいた。毎回いい所まで行くのだが、肝心なところで資材が切れたり弾が無くなったりする。
悔し紛れにせめてわたしをキルした敵の名前だけでも覚えておこう。だが.....
「配信者?えっ名前は?」
すぐにスマホを起動して調べてみると、何やら動画配信者なるものが動画を撮っているのだと分かった。
「何それめっちゃ面白そう!なってみよっかな〜いや、なる!」
即断即決がモットーの私はとにかく決意した。決意している途中にもう機材も購入した(お姉様名義で)。
「配信王にわたしはなる!」
よーし、テンション上がってきたぁ!この調子でもう一戦行っくぞー!
この後、またビクロイ直前で今度は弾切れを起こし、発狂する私が居たとかいなかったとか.....。
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あら?今地下室の方から叫び声が聞こえたような.....。いや、気のせいね。
掃除もあらかた終わらせたし、少し休憩でもしようかしら。
給仕室にて、私、十六夜咲夜は紅茶を淹れていた。自分で飲む用なので割と手速く注いだのだが、これでも使っている茶葉が高級なのも相まってなかなかいい味を出している。
カップを傾けながらボーッと今日の夕食の献立を考えていると、ポケットに入れてあったスマホから通知が届いた。
「あら、Mさんまた新しい曲を上げてるわね」
その通知は、ボーカロイドやなんだか私達にしっくりくる曲をピアノで演奏しているMさんという動画投稿者からなのだが、私は最近この人にかなりハマっているので、この通知はとても嬉しいものだった。
「今日はオリジナル曲なのね。最近アルバムも出したらしいし、チャンネル登録者も160万人を超えた。流石ね」
ワクワクしながらアプリを開き、目的の動画を再生する。ピアノを弾く手元を写すだけの簡単な動画だが、どことなく夢と希望を連想させる音色と、軽やかに飛び跳ねる両手の指。ついつい時間を忘れて聞き入ってしまいそうになる。
自分もこれくらい弾けたら楽しそうなのに、そう思っていた私だったが、ひとつ大事なことを思い出した。
そう言えばウチにピアノあったような.....。おまけに紅魔館に来る前に私はピアノを習っていたような.....。
うん、これはもうやるしかないわね。ピアノの他にも楽器があったはずだからお嬢様たちと一緒に演奏とかできるかもしれないし。動画も撮ってネットに上げてみようかしら。
「そうと決まれば、残りの仕事を早く片付けましょう!」
そうして時を止める私であった。
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「ねえ、こあ?」
「パチュリー様、何ですか?」
「ボカロの曲ってどうやって作るのかしら」
ある時、いつ聞いてくるかずっと待っていた主の問いを遂に耳にした。パソコンが紅魔館に導入されてからというもの、パチュリー様はボーカロイドと言う機械音声が歌う楽曲をよく聞くようになった。
パチュリー様は好奇心旺盛なのでいつかは聞いてくると思ってあるモノを用意いたが.....想定より幾らか早かったけど間に合ってよかった。
「そう来ると思って.....こちら!マニュアルを予め用意させて頂きました!」
私が取り出したのは、ちょっとした英和辞典程の厚さの書類。表紙には『ボカロP虎の巻 入門編』 と綴ってある。
「.....エスパー?」
「パチュリー様の考えてる事なんてまるっとお見通しですよ!」
「そ、そう.....。ありがと、こあ」
そう言うとパチュリー様は私が書いた本を一心不乱に読み出した。元々興味ある分野の読書だから、1度読み出したらそうそう止まらない。紅茶でも入れてあげようかな。
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「ふぅ、今日の修行終わり!」
そう言って私はこちらを向いているスマホのカメラを止めた。最近使い始めたこのスマートフォンとやら。今はまだ、自分の型を撮って後で見返すって使い方しかしていない。
でもどうせ撮ったなら、誰かに見てもらいたいな。それにこの紅美鈴、門番の仕事を受け持っているが、昼は暇で仕方がない。修行するか、昼寝するかしかやることが無いのはさすがに飽きるので、何か別の事をしたいな。
「ん?何だこのアプリ。.....ほうほう、世界中の動画が見れると。しかも投稿も出来ると」
これはこれは!見つけたのでは!最高の暇つぶしを!
そうと決まれば早速.....いや待てよ、どうせなら通販でいいカメラでも買うか。給料とか使ってないからお金は有り余っているし。えーとマイクも必要だし、三脚もか?あとは.....
.....妹様の即断即決癖が移ったかな?.....。
※始めの方と終わりの方で書くのに半年ぐらい時間が掛かってます。