実家から必要な私物が高専の寮まで届いた。
「おい、お前ら運ぶの手伝ってくれ!」
桑原は暇そうにしてる虎杖と伏黒を部屋の戸を叩いて呼び寄せる。漫画やトレーニング器具、枕など東京でも田舎にある高専で暇を潰せるものをとにかく送ってもらっていた。
「うわ!エロ本あんじゃん!今時紙媒体?」
「何でんな物まで入ってやがんだ!?誰がいれやがった!?親父か!?」
「お袋さんだったら地獄だな(犯人は姉)・・・・・・へ〜こういう感じが良いわけ?」
「とりあえずデケー方が良いな。エロに限ってだが。」
「おい、手を止めるんなら部屋戻るぞ。」
「使うか?この本。」
「いるか!」
男子高校生が集まれば下ネタトークに花開くものだ。伏黒はムッツリなので対象外。
三人でやればお昼過ぎにはすっかりカスタマイズされた部屋に変貌していた。
「しっかし休日になると暇だよな!パチンコでも打ちに行くか?」
「おお!行こうぜ!」
しかし桑原と虎杖はすっかり仲良くなったものである。元々相性はいい感じではあったが、今では長年の連れかのように意気投合している。
渋る伏黒を学外へ連れ出す虎杖たちを二階の屋内から見ていた五条と校長の夜蛾は頭が痛そうであった。
「何故だか懐かしい感覚になるんだが・・・。悟、お前らが生徒だったころにあいつらは似ているな。悪ガキ加減が。」
「そうかな〜?ま、いんじゃない。ああいう青春も今のうちなんだからさ。」
「そうだな・・・。」
この世界どう転ぶかは分からない。バカやれる友人と思いっきり遊ぶこの瞬間を大事にしなくてはな、と夜蛾は五条の隣に本来並ぶはずだった姿を幻視して呟いた。
「伏黒、そういえば上級生の姿は見えねぇがどこにいるんだ?」
バスで来た最寄りの街の歩道でふと桑原は疑問に思った。
「任務に行ってんだよ。高専に入って等級を付けられると、学生といえども呪術師だから高専から任務が言い渡される。」
「じゃあ俺らも自分らだけで呪い祓いに行くのか?」
「そういう場合もあるし、監督者がつくこともある。それこそ先輩ともな。」
「というか俺らは何級?」
「俺は二級。お前らは多分四級から。初めは基本そうだけどな。」
呪術師のスタートは四級から。桑原と虎杖はコレに該当して、実家が術師である釘崎は三級。伏黒は以前から五条を師事していたことに加え、術式の強さから既に二級だ。
「俺はあの喫茶で待ってるから、終わったら呼べよ。」
「伏黒も打とうぜ〜。教えるからさ。」
「いらん。」
別に真面目という訳ではないが伏黒には若者特有の刺激を求める感じはあんまりない。二手に分かれると言って振り返ろうとした時、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「あ、三人で何やってんのよ?」
もう一人の同級生の釘崎が買い物袋を両手に歩いてきた。
「買い物中?」
「ううん。今帰ってきたとこ。朝から渋谷の方まで出てた。どっか行くの?」
「俺と虎杖はここでコレよ。」
桑原は手を回す仕草をして視線をパチンコ屋に移す。
「よっぽど暇なのね。ていうかあんたはいかにもだけど、虎杖もこういうのすんのは意外だわ。」
「結構燃えるぜ!な、桑原!」
「私もやってみよーかな。」
「来い来い、やり方教えてやんよ。」
悪ガキが三人。伏黒は呆れがちに息を吐いた。
「伏黒はやんないの?」
「せっかくなんだからみんなでやろうぜ!勝ち分出たら寮で鍋パでもする?」
「「いいねー!」」
結局、三人の押しに負けて四人で入店してしまうも、一番勝ったのは伏黒であった。
◆
特級仮想怨霊(名称未定)
英集少年院の上空に非術師がその呪胎を確認。
緊急のため、東京高専一年4人に派遣要請。
特級に転ずる可能性があるこの任務に本来入学間もない一年が出張るなど通常有り得ないが、五条然り有力な呪術師が別の任務で手が回らない状況においては仕方のない事かと補助監督の伊地知はため息をついていた。以前から知る伏黒は自分とは違い天才的な才能があると言ってもまだ子供、危険はなるべく避けさしたいと。ましてや参加する全員が一年なんて・・・と任務が達成できるかより心配が勝ってしまう程に伊地知は呪術界の中で真っ当な人間である。
しかしそんな伊地知が額に青筋を浮かべて怒気を孕んだ声を張り上げていた。
「いくら特殊な立場にあると言っても君たちは高校一年生で未成年!!そんな君たちが飲酒して翌日の任務に遅れてくるなんて言語道断です!!」
「「「すいませ〜ん・・。」」」
「・・すみません。」
まさか任務の連絡をしても応答のない一年を迎えに行けば部屋中酒缶が散乱している中、全員が泥酔しているなんて思ってもみなかったと伊地知は大人として憤慨しているのだった。
軽く事の顛末を説明すると・・・
伏黒、ジャグラーの才能に目覚める。
↓
調子に乗って景品の酒を大量に交換する。
↓
虎杖、料理の腕を遺憾なく発揮し箸と酒が進む。
↓
釘崎、あまり酒に口をつけない伏黒に絡んで飲んでコールを延々言い続ける。
↓
桑原、意外な歌唱力で場を盛り上げ皆を飽きさせない。
↓
深夜まで宴会は続き、全員寝落ちする。
↓
朝、呼びに来た伊地知に発見される。
平謝りするも頭が重そうな四人に伊地知はシャンとするよう手を叩く。
「全く・・・。いいですか。任務は道中説明した通り、取り残された在院者の確認と救出。それを念頭に置いて戦うことはしないでください。」
まず特級なんて出会そうものなら逃げるが第一。任務失敗で元々とハードルを十分に下げる様に伊地知は説明した。桑原達も現場の現状と、駆けつけた在院者の母親の姿を見てようやく気を引き締める。
帳を下ろした後、建物内に侵入した四人を待ち受けていたのは呪力による生得領域であった。
「なんじゃこりゃあ!?」
二階建ての筈の建物の内部が奇天烈に入り組んだ広大な空間になっている事に桑原を始め虎杖と釘崎も声をあげて狼狽える。一人この現象を知る伏黒は領域の大きさに驚きはしつつも冷静さは失わず、展開していた玉犬で入口のマーキングを済んでいる事を三人に伝える。
注意を払って奥に進んでいくと桑原達は目的の人物・・・であっただろう姿を発見した。
一人だけ原型を留めていた少年のネームプレートを見て桑原と虎杖はこの少年が先程来ていた母親の息子だと悟り、せめて彼だけ遺体を持ち帰ろうと実質リーダー役の伏黒へ言う。
「ダメだ。」
「なんで!?」
しかし冷酷にも伏黒は遺体を置いて他2名の確認をした後脱出すると言い、桑原達の意見を否定した。
「お前、あの母親の顔見ただろ!?アレを見てそんな事言えんのか!」
情の深い桑原は伏黒の胸倉を掴み声を張り上げる。
「ただでさえ救う気もない人間を死体になってまで救う気は俺にはない。」
「何だと・・!」
酒が若干残っていても移動中今回の任務概要に目を通していた伏黒はこの被害者が少年院に入れられている理由と例え生きていても助けてなかっただろう理由を口に出した。
「コイツは無免許で女児を轢き殺した。二度目の違反でだ。仮に助けたとしてその人間が将来人を殺したらどうする。」
「くっ・・・・!」
言葉に詰まった桑原。彼自身伏黒同様曲がった事は毛嫌いしているのでどうにも反論できない。そんな桑原と伏黒の間に虎杖は入り伏黒の目を真っ直ぐ見据える。
「伏黒・・それじゃあ何で俺を助けたんだよ。」
宿儺の受肉体として社会に甚大な被害を及ぼす可能性のある虎杖を死刑から救うよう五条に頼んだのは伏黒だ。救われた側の虎杖は今回と何が違うんだと問う。伏黒からすれば人に理不尽を強いて殺した人間と善人であるが故理不尽を受けた虎杖が同じ尺度で比べるわけがない。しかし虎杖の様な善人たちはそんな悪人と呼べる連中を赦してしまう。そんな姉の津美紀と似たところに少しイラつく。
「あんたら、こんな時に揉めてんじゃ……っ!!?」
男子達の衝突を止めに入ろうとした釘崎だが、足元にできた唐突な空間に吸い込まれてしまった。
「「「釘崎!?」」」
ドクンと胸が鳴る。この生得領域内で不足の事態は想定内だが分断されるのは不味い。
三人に緊張が一気に張り詰める。
その中で気配に最も敏感な桑原がいち早く迫る危機に反応していた。
だが、桑原の意識はここで途絶える事になる。
◆
玉犬の遠吠えが響く。
桑原が目覚めた時には既に生得領域外・・つまり学外に抜け出した後だった。
「っ・・・・あだだだ!?」
「目覚めたか。」
「・・こ、ここは・・・お、おい俺ァ気を失ってたのか?」
伏黒に背負われた釘崎と共に玉犬の上で運ばれていた桑原は状況が飲み込めず周りを見渡す。
「一体、どうなったんだよ?釘崎が飲み込まれたまで覚えてるんだが・・。」
「・・・お前は領域内の特級呪霊に攻撃されたんだ。いち早く反応してたからだと思う。」
「特級!?やっぱ出やがったのか!?倒したのか!?」
「・・・いや。」
苦虫を噛んだような顔での伏黒の返答にそれでは逃走中なのか、と桑原は思った。しかしならば何で自分以外で一番うるさい虎杖の姿がないのかと疑問が生まれる。
「何であいつはいねぇ・・?」
「・・・・虎杖は残った。特級呪霊から俺らを逃すために。」
その言葉に絶句する。
自分はその特級呪霊を見ないままに気を失った。だからその強さを明確に把握しているわけではないが、直前に感じたあの肌を刺すような強烈な呪力だけは体が覚えている。
「・・勝算あるのかよ。」
本来なら仲間を残して見殺しにするような行為に声を荒げて殴りかかるのが彼の性分だが、いの一番に脱落した自分がそんなことができるわけもなく、拳とともに震えた声で言葉を出した。
「あいつの中にいる宿儺に賭けるしかない。奴も受肉している以上、虎杖が死ねば自身の指も失う事になるからな。」
唯一の勝機がそれだけだった。
先程玉犬が上げた鳴き声を合図に今頃は宿儺へと体の主導権を預けているはず。いくら特級呪霊といえど本来の実力ではないとはいえ最強格と目される宿儺には太刀打ちできないだろう。
「あんたら心配しすぎ。あいつ宿儺を抑え込めるんでしょ?少ししたらヘーキな顔して出てくるわよ。」
伏黒に背負われてる釘崎は先日までとは違い、虎杖を信頼しているかの様な口ぶりで言った。
外で待機した伊地知に負傷した釘崎を預け伏黒と残ると言い張った桑原は虎杖を待つ。
「・・・・生得領域が消えた!特級が消えた!」
「ってことは・・・虎杖の野郎!勝ちやがったのか!」
外にいても感じていた生得領域の気配が消えたことで二人の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「これで後は虎杖が戻れ「ヤツなら戻らんぞ」!?」
ゾクリと背筋を凍らされると共に、身に覚えのある呪力が不意に背後から現れた事に二人はその姿を見ずとも悟った。
「そう怯えるな。今は機嫌がいい。すぐに殺しはしない。」
普段虎杖がしないであろうニヒルな笑みを浮かべた同級生に目を向ける。
「俺を何の縛りもなく利用したツケだな。代わるのに少々手こずってる様だ。」
言葉の節々からも感じるその圧倒的な存在感に足を動かせない。
「……とっとと虎杖と変わりやがれこのタコ!お呼びじゃねえんだよ!」
だが桑原は気合で呪いの王に対し中指を立て声を荒げた。
「くっく。俺にそんな稚拙な口をきける奴もそうはおらんぞ。子犬の様に震えながらも威勢がいいのは認めてやる。だが、まぁ焦るな。もう少し時間が経てば自然と小僧に入れ替わるさ。しかし・・・・」
「「!!??」」
宿儺はいきなり右手を自分の胸に突き刺すと、心臓を抉り出し地面へとそれを叩きつけた。
「コイツを人質にする。俺は心臓が無くとも生きていけるが、小僧はそうとはいかん。これで奴は入れ替わることはできない。」
そして駄目押しとして回収した宿儺の指を取り込んだ。
勝ち誇った顔で二人を見下す宿儺に対し、伏黒は覚悟を決めた。術師にでもなれば仲間が死ぬ事は多々ある・・・そう割り切って。
「・・虎杖は例え自分が死ぬと分かっていても戻ってくる。・・・そういう奴だ。」
「買いかぶり過ぎだな。先刻も今際の際で脅えに脅えていたぞ。」
こうなってしまった以上、最善は宿儺の討伐含め虎杖の死以外はない。だが伏黒の様に割り切れるほどこの世界に染まってはいない桑原はただただ、この現状に憤怒した。
(ほう・・怒りで呪力が増したな。本来ならば感情が荒ぶるなど戦いにおいて愚行もいいとこだが、潜在していたものがこのキッカケで顕在化したか。)
昂ぶった呪力が桑原の体から立ち昇る様に噴出する。
「伏黒。あの心臓、もうどうにもならねぇのか?」
「・・・虎杖の腕が治っている。奴にその気があれば治る筈だ。」
呪霊に切断されていた左腕が治っていることから高専の校医である家入と同じ反転術式を宿儺は扱えると断定できる。
「なら、コイツに泣き入れるまでシバき上げて治させる。そんで解決だ!!!」
後半に続く・・・・