さて、長話はこれぐらいにして本編をどうぞ。
『…19時25分、逃亡70日目。進展なし…いえ、寧ろ前より厳しい状況に陥ってます…』
ビデオテープの映像に現れた少女が素子らに向かって話し出す。彼女らは息を殺し食い入るように画面を見つめる
『と、言うのも鉄血にマークされてしまって…鉄血の追撃は想定内でしたが相手がしつこく予断を許さない状態です。弾薬、身体共に問題はまだありませんが早急にグリフォンの誰かと連絡を取らないと…このメッセージを見てる貴方がグリフォンの人間であることを祈ってます』
そう言い残すと彼女は画面から外れアスファルトを蹴る音だけを残して映像はここで終わった。
「…これが、メッセージ…これがペルシカが探してたものか?」
素子がホログラムの女に向かって問いかけるが俯いて返事をしない
「ペルシカ?」
「え、あぁ!そうね、これが私の探してた資料だわ。流石ヘリアンが見込んだ新人ね…パチパチパチパチ」
「褒めるならM4A1にしておいてくれ、彼女のヒントが無ければもっと苦労してたかもしれないからな」
「えぇ…そうするわ、生きて帰ってきてくれたらね…それには貴方が頼りよ…でも今はありがとう。今度ラボに来て頂戴…コーヒーご馳走してあげるから」
「あんたの所に行くと解体実験されそうだから行かないわよ…」
「そんなことしないわよ…まぁいいわ。またね…」
そう言うとホログラムが消え部屋は素子とヘリアンだけになった
「少佐、やつのコーヒーはな、とんでもなくマズいぞ。飲むなら味覚センサーを切っとけ」
「科学者が飲むコーヒーなんてそんなもんでしょ。それで?何か言うことがあるんじゃない?」
「あぁ、流石に気づいていたか。少佐には新たな任務を頼みたい。そう、M4A1の救出だ」
「…」
「そもそも鉄血兵らがS09地区に侵入し、案山子がと対峙したのは偶然ではない。奴らはM4A1を探している。そして前回、スケアクロウが処刑人なる人形に彼女がいる座標を送った。ここまでは少佐もうすうす気づいてるだろう?」
「えぇ、でも何故鉄血は一体の人形に熱心なわけ?」
「彼女が記憶したメモリーチップの中に奴らにとって不都合な機密情報が入ってる、そして彼女はこのS09地区で失踪した。本来ならば大々的に捜索したいところだが…」
「人形が人形だけに出来ない、と」
「あぁ、おまけに面倒な協定ときたもんだ。つまりだこの任務は正式には出来ない。」
「そこで私に頼むわけね。彼女について知っていて尚且つある程度の信頼がある指揮官である私に」
「そういうことだ。少佐にはS09地区にあるT6地帯を捜索し保護して欲しい。彼女はそこにいるはずだ、それともう一つ頼みがある。と言ってもこれは必須ではないんだが…」
「処刑人の排除?」
「その通りだ、昨夜偵察隊を出したところハイエンドモデルを発見した。それこそ製造番号SP524。“executioner”…通称『処刑人』だ。ハイエンドモデルを生かしておけば後々厄介なことになる。…しかしこの任務の優先はM4A1の救出だ。それを優先することはない」
「目的が同じだもの、嫌でも接触すると思うわ。接触次第排除するわよ」
「…頼んだ。少佐、この任務は上層部が大いに期待している」
「失望させないよう頑張るわよ…支援してくれたらね」
「分った、手はずを整えておこう」
「ありがと、じゃ行くわ」
本社を出て、自身の基地へと向かう。通常ならそのまま司令室に行くのだが今回はデータ室に寄った
データ室には手術台のような座席の上に胸部が穴だらけのVspidがいた。素子が今回の任務において衛星で撃破した人形だ。
「あ、少佐お帰り」
ゴーグルを外したVectorが彼女を迎えてくれた。
「少佐に言われて分解、解析してみたけど…」
「どう?何かわかった?」
「うん、そんじょそこらのVspidと全然変わらない。性能はね、ただ問題はその身体ね。少佐はこのボディに既視感があるのよね?」
「ええそうよ」
「あって当然だよ、こりゃメガテク・ボディ社製だもの。」
「メガテク・ボディ…!」
メガテク・ボディ社とは日本政府も重宝していた高性能義体を製造する会社であり彼女の義体もそこの会社が製作した物なのだ。
「まずこの足の関節に使われてる駆動系のパーツ」
Vectorはピンセットでパイプのような形をしたパーツを取り出した
「他社ならこのパーツはYの字になってるものなんだけどメガテク社はこんな風なパーツなの。この技術は特許を取得してたはずで製造する機械もまた企業秘密で公開してないはず」
「でも鉄血がその情報を盗んだということも考えられるわよ、特許だなんて奴らには関係ないしね」
「最初こそ私もそう思ったけど奴の電脳を分析したらこの身体を動かす為のOSがこれまたなんとメガテク社製」
(ここで言うOSとは義体を動かす為のソフトのことであり電脳内部にあるマイクロマシンと接続しマイクロマシンから発せられる命令を受け取り実行するための役割がある)
「パーツにOSときて極めつけは近年のメガテク社の売り上げよ。ここんところ売り上げが順調に伸びているんだけどあるタイミングから伸びてるのよ」
「…鉄血が活動を開始した2061年からか」
「正解。ここまでくりゃ断定するしかないでしょ」
「よくやった。しかしメガテク社が鉄血と繋がってたはな…奴らが何処かの企業と繋がっているとは思っていたがよりにもよってそことはな…」
「少佐、あと一つ気になることがあるの」
「何?」
「奴の電脳を解析した時に直前のミッションログが見れたんだけど『裏切り者を殺せ』
って書かれてたの。その直後あの産業スパイらを殺害したわけ」
「裏切り者?奴らにとって人間は敵であり裏切るも何もないはずなのに裏切り者?」
「えぇ、そうなの。これは私の推測なんだけれどあの産業スパイはメガテク社の人間で集めていた情報は私達グリフォンじゃなくて鉄血だったんじゃ…」
「…成程、それなら裏切り者呼びにも辻褄があう。…ちなみにその命令を下した人物とかは分かった?」
「勿論、確か“executioner”とか言う名前よ。」
「処刑人か…!これは益々倒す必要があるみたいね。取り敢えず、よくやったわVector」
「んじゃ報酬は?」
「今回の作戦への参加権よ」
「そんなの報酬になんないよ…」
「この任務終わったらしばらく休暇出してやるから」
そんなことを言いながら素子は指令室へと戻った。
「…さて、やるか」
電脳通信を行い、招集をかける。この作戦に参加するメンバーは
9A91、Vector、スコーピオン、G36、ステンMK-Ⅱである
「全員集まったな、では今回の作戦について説明しよう…と言っても単純明快そのものだとある人形を救出しつつハイエンドモデルをぶっ殺す。と言う作戦だ」
「ハイエンドモデルをぶっ殺せって簡単に言ってくれるねぇ少佐は…」
「ご主人様、ハイエンドモデル相手ならばMGやRFといった高火力の人形で固めた方がいいのでは?」
「今回の作戦は救出がメインだから小回りとかが効く人形にしたいってのもあるんだけど今回相手するハイエンドモデルは厄介な相手でね」
「というと?」
「そいつ、メインウェポンが銃じゃなくて剣なのよ」
「剣!?」
「どうも背丈の半分近くある剣を振り回してその風圧で斬撃攻撃をするみたいよ…アホみたいな人形ね…」
「だから機動力があるSMGやARが選ばれたと」
「そういうことだ、スコーピオン。おまけにあなた達はハイエンドモデルとの交戦経験がある。経験者はどんな練度の高い奴よりも優秀だからな」
「…しかしそんなおっかない人形であるならば正面から攻撃を行うのは危険と言うことですわね」
「そういうことだ、後ろに回り込み一斉射撃で制圧、と行けば万々歳だがそうは甘くない。だからダミーを使って囮の小隊を形成し処刑人が夢中になってるところを叩く、っていうのがベターだな。…だが何度も言うように最優先は人形の救出だ。そこを念頭に入れておいてくれ」
「「「「「了解」」」」」
かくして、素子らの、いやグリフォンにとって最も重要な任務が幕を開けた