さて、長話もアレなんで本編をどうぞ
ハンターと呼ばれた人形は実に冷静で寡黙な人形であった。常に2手、3手先を読んで狩りに挑み獲物をしとめる。狩人と呼ばれるにふさわしい人形である。だからこそこの状況はまずい、イレギュラー、それも自身のAIが考えるありとあらゆる“IF”に最初から存在してなかったようなそんな状況は…
「…どうなっている、何故いきなり同士討ちを始めた」
彼女は自身の電脳とサブコンピューターを接続し膨大なデータログを閲覧する。そこには確かに命令の書き換えが存在していた、だが可笑しい
「メインコンピューターや通信棟から発信されていない…つまり私のように電脳内で命令を出せるようなことでもしない限りこの状況はありえん、だが何故だ。ハイエンドモデルである私よりも強い命令権限を持っている人形が居るとでもいうのか、バカな…」
彼女はこの問題を優先的に解決しようとした、命令が書き換えられているのであればこちらも書き換えてしまえばいい話である。そう思考し行動しようとしたその時、データログが更新された
「今度はなんだ…っ!防衛システムがシャットダウンされられただと」
彼女は優先すべき行動を書き換えから再起動に移行させた、再起動であれば短時間で終わるからだ。しかし現実は思惑通りに行かない、防衛システムが彼女のアクセスを拒んだのだ。
「防衛システムが私ではない誰かの手に渡ったのか…!」
彼女がもし汗を流すことが出来たのであれば一滴が彼女の首元を滴っていただろう。イレギュラーに次ぐイレギュラーに彼女の電脳内のデータはほんの僅かではあるが乱れが生じていた。
冷静で寡黙と言うのは戦場において最も求められる性格である、だがそう言った性格は虚を突かれると崩落する諸刃の剣なのだ(と言っても戦場でこのような状況になることは稀有なことなのだが…)
(ここに居て命令権限を書き換えている間にも奴らが迫ってきているかもしれない、ならば)
彼女は接続を解除して物理的世界に帰還すると太ももに装着されているホルスターから得物を取出し走り出した
(ならば、この私が、狩人をもって劣等人形共を皆殺しにするまで…!)
※
『何?ハンターが動き出しただと。詳しい説明を頼む李指揮官』
『あぁ、先行していたダミー人形の部隊が突如としてオフラインになったっていう人形からの報告が相次いでいる。この短時間の間に大量の人形を殺せるなんてハイエンドしかいない。悪いがこちらは救助対象を探している場合じゃない、あんたの部隊も警戒させた方がいいぜ』
『…了解した』
AR15を救助しようと監獄付近に進行していた最中、素子は緊急連絡として先ほどの通信を受け取った。だが幸か不幸か彼女らのいる場所には発砲音がせず、他の鉄血兵も見当たらなかった。だが、通信棟の調査に行かせた第二部隊はどうだろうか、李指揮官のような連絡は来てないが…
(嫌な予感がする、確か李誠光の部隊が展開している場所第二部隊はそう遠くない…)
そう思い、彼女は第二部隊へ通信を行う
『第二部隊、そちらの状況は?』
『ご主人様、今そちらへ連絡を入れるところでした。第二部隊は現在、ハンターと戦闘中にあります』
『戦闘中とは言っても一方的ですよ、対処の仕様がない』
『どういう事だイングラム』
『敵の動きが素早いだけでなくこの場所の特性を生かしてすぐ何処かに隠れてしまうんですよ』
『おかげでこっちは照準を合わせるだけで精一杯ね、WAなんて今頃目を回してるんじゃないかしら』
『Zasったら失礼ね!回してないわよ!…でも早すぎてとても狙えないわ!』
『ご主人様』
『あぁ、一度そっちに合流する。何とか持ちこたえられそうか』
『持ちこたえてみせますとも、ご主人様』
『よし。頼んだぞG36』
通信を切ったタイミングで防衛システムの制圧に成功したM4達が合流した
「只今戻りました」
「よし、これから第一部隊は第二部隊の援護に当たる。ハイエンドモデルであるハンターとの戦闘だ。気を抜くなよ」
「素子、ハンターが出たってことは鉄血兵共の命令が再書き換えがされてるかもしれん。大物を釣るのに夢中になって雑魚に掬われるなよ」
「そんなヘマをする奴はここにはいないわ…貴方もそうでしょ?」
「無論だ」
「しかし少佐とバトーさんって仲がいいねぇ付き合っていたりとか?」
「任務中だぞMDR、減給だぞ」
「えぇ!勘弁してよ少佐!これ以上減らされると通信費が…」
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ…全く緊張感ってのがないのかしら」
あーだこーだと言いつつ、進みながらRipperやVspidらを破壊していき一同は第二部隊が戦闘しているポイントにたどり着いた。一同はブロック塀に身を隠しながら戦闘していた。素子らも素早くブロック塀に寄って顔をのぞかせた。垣間見るにハンターの攻撃というよりも完全に元の状態に戻った鉄血兵の物量に苦戦しているという感じであった
「待たせたな」
「貴方はバトーさん…それに少佐」
「被害報告は出来るか?」
「私のダミーは残り一体…それ以外の人形のダミー人形は全滅。ステンと9A-91とイングラムは中破。本体が無傷なのは私とZasだけです」
「了解…SOP!」
「何ですか!」
「敵の数が多い、カウントした後榴弾をぶっ放せ。他の人形は暗視ゴーグルを着用しろ」
「了解!」
そう言うとSOPは意気揚々と榴弾を込めた
「よし、終わったな…3,2,1…撃て」
「ドーン!!」
榴弾が敵部隊に直撃し多くの鉄血兵が破壊される。そして周囲には煙が立ち込めた、第一、第二部隊と共にありったけの弾丸を敵部隊に撃ち込んでいく。敵が暗視モードに変えるまでの一瞬の隙とはいえ最大のチャンスである。着実に敵の戦力を減らしつつあった。だがその時、突如としてG36(ダミー)の頭が爆ぜた。
「っ!この状況でヘッドショット…!?そんな高等技術を出来るのは…」
『間違いない、ハンターが来たぞ』
『しかし、やはり照準を合わせられませんご主人様。恐らく後方にある建物の間を縫うように移動しているのかもしれません』
『…バトー、奴の姿は見えた?』
『おう、一瞬だが見えたぜ。グラマラスな白髪の姉ちゃんがな』
『どうだ』
『もう少しだけ凝視したかったな…』
『馬鹿』
『…やることはやったぞ。大変だったがな。後はあいつが賢くないことを祈るさ』
『全狙撃部隊に次ぐ、ポイント8-Aに照準を合わせろ』
『そこって、何もない場所じゃないの。少佐が奴を誘導するっていうの?』
『私が誘導するんじゃない、奴が自らくるんだ』
『他の部隊は建物と建物の間に向かって撃て、但し8-Aだけは避けろ』
『それじゃ当たるかどうか分かりませんよ』
『構わん、撃て』
それぞれの人形が撃ち続けるが目標などおらずいたずらに弾を消費していくばかりに思えたその時
『こちらスプリングフィールド、目標ポイントにハンターが現れました。』
『…余裕ぶっこいてしゃがんでいるけどアイツ分かってるのかしら。そこは遮蔽物も何も
ないキルゾーンなのよ。アイツの電脳がいかれたのかしら』
『…何せよ好都合です、少佐』
『あぁ、撃て』
命令と共に狙撃部隊が発砲し大量の弾丸がハンターの体を貫き、引き裂く。瞬く間に彼女は四肢を失いダルマのように地面に転がり込んだ
『…敵ハイエンドモデル、完全に戦力を喪失しました』
『了解した』
簡単に電脳通信を済ますと素子は立ち上がりハンターの元へ歩み寄る。哀れな狩人は苦虫を嚙み潰したような顔で素子を見上げるしかできなかった
「バカな、私は建物の間に隠れたはず…!貴様らの部隊、スナイパーの視覚に入っていたはずだ」
「お前は入ったつもりかもしれないが、現実は違ったんだよ」
「何…?バカな、視覚端子には何も異常がないはず…!」
「お前の視覚端子は正常だよ、だが電脳がダメだった」
「バトー…」
「悪いな、お前の目を盗ませてもらった」
「…ハイエンドの電脳をハッキングしたというのか。たがが人間が…だと!?」
「こういうことには隣にいる女より慣れてるんだよ。お前は隠れてなんてなかった、だがなちゃんと電脳内でマップと自分のいる位置を正確に把握していたらこんなことにはならなかったんだ。地図を読まねぇハンターはハンターじゃねぇよ…」
「…殺せ、最早この“個体”に存在意義はない。」
「敵の手に落ちるぐらいなら名誉ある死を選ぶってか?人形のくせに人間みたいなこと言いやがって…どうする、少佐」
「はいそうですか、って言って脳天をぶち抜いてあげるほど私は優しくないのよ。持ち帰るぞ」
『…っ!』
直後ハンターの頭部が激しく揺れ項垂れた。
「あっ!」
バトーは大声を出してハンターのうなじを見た。そこを見ると白い肌にUの字に黒い線が引かれていた。
「自分で自分の脳を焼き切ったのか…こいつ本気で自殺しやがったぞ。信じられねぇ人形が自死を選ぶなんざ…」
「…スケアクロウと言い鉄血兵は自死を厭わないのか…?考えても仕方がない、本来の目的通りAR15の捜索に当たる」
ハンターが破壊されたことによりこの基地にいる全ての鉄血兵が機能停止した。それは実質的にグリフィンがこの基地を制圧したことを意味する。残った人形で捜索すること1時間弱、ようやくAR15が発見された。
「…M4,SOP、無事でよかった」
「AR15…貴方こそ」
「あのハイエンドに酷いことされなかった?」
「えぇ、銃口で額を押し付けられた以外はされなかったわ」
「…一応、後でペルシカさんに見てもらいましょ。あれ、AR15貴方いつの間に自分の銃を?」
「あの人形、狩りの事で頭がいっぱいみたいでね。監獄にある机の上に放りっぱなしにしといてあったのよ。私が抜け出すことなんて予測してなかったみたいね。ともかくこれで残るメンバーはM16だけね」
「えぇ、そうね。姉さん…M16姉さん待っててください。もう少しで助けに行きますから」
M4は迎えのヘリが起こす風に髪をなびかせながら誰にも聞こえないような小声で呟くのであった