ブリーフィングが終わり人形達が出撃準備に取り掛かる、といっても人形達がすべき準備は自身の銃のメンテナンス、マップデータのインストールといったぐらいでこれらを丁寧にやっても数時間程度で終わってしまうため、大抵の人形が暇を持て余していた。M4もその一人であり自室で一人整備された銃を見ながら一息つこうとしていた…
(集合時間までまだ時間がある…人間ならばこの時間を食事や仮眠に費やすのだろうけど人形である私には必要ないし…しかしこの時間を無駄にするのも違う気がする…ここは自主訓練でもすべきかな)
人形が行う訓練には2種類がある、まずは人間と同じようにリアルで体を使い行う訓練、もう一つは訓練用サーバーにダイブして行うVR訓練である。M4は体に負担をかけないように、せっかく整備した銃を作戦前に負荷をかけないようにVR訓練を行うことにした。
(じゃあ早速、ダイブして…)
彼女は眼を閉じてダイブする。真っ暗闇の視界は徐々に青に染まって訓練施設へと意識を着地させる。周りを見渡すと作戦に出撃する人形が的に向かって銃を撃ち訓練している、その中でM4はAR15を見つけ彼女の隣に立った
「M4,貴方も訓練しに来たのね」
「うん、何かしていないと落ち着かなくて…なんか手を止めると腕が落ちる気がして」
「馬鹿ね、私たち人形は腕が上がることがあっても落ちることはないわよ。電脳がちゃんと記憶している限りね」
「理屈ではそうなんだけどね、やはり気持ちの問題というか…常に銃を持っていないと落ち着かなくなって」
「軍事用として製作された人形の性(サガ)って奴ね…」
「それに…M16姉さんがいるんじゃないかと思うと、こうして休んでいる資格なんてないんじゃないかなって思ってしまうの。AR小隊のリーダーして…妹として…」
「ある種の使命感に駆られるのもいいけどほどほどにしておきなさい。任務を忠実に遂行することに集中して。それこそAR小隊のリーダーならばね。人形として、戦士として、兵器として、私たちは上からの期待に応えなければならない。その上で…アイツを救う。忘れないで、アイツを助けたいのは貴方だけじゃない。私もSOPも同じよ」
だから、使命感を全て一人で背負い込むことはしないで、そう言ってAR15は彼女の前にある的のど真ん中に命中させた。
彼女の言葉でM4の“心”と呼べるものが軽くなったかは分からない、だが彼女にまとわりついていたオーラが心なしか柔らかくなっていたものを彼女は感じた。そして時間は過ぎていよいよ集合時間となる
夜も更けて装備を整えた人形達、そして素子とバトーがヘリコプターの前に集合する。全員を一瞥し素とバトーが彼女らの前に立つ
「よし、全員集まったな。第一部隊は私が、第二部隊はバトーが隊長に就く。今回の作戦は明確な敵の数、強さといったものが未知数だ。単独行動はせず必ずバディを組み行動するように」
「ハイエンドを確認したら必ず報告しろ、2人がかりで勝てる相手じゃねぇ。SOP、分かっているだろうな。ハイになって突撃とかするんじゃねぇぞ」
「もー分かってるよ、バトーさん!それより早く行こうよ!」
「それでは出撃する、各員乗りこめ!」
素子の掛け声と共に全員が乗り込む、最後に素子が乗り込み扉を閉めヘリコプターは目的地へと飛び立つ。30分もしないうちにヘリは目的地より数百メートル離れた場所に辿り着き着地する。地面へと着地して直ぐに
「各員、身体及び銃火器のチェック」と素子の命令に全員が「異常なし」と答え素子ら第一部隊は特殊部隊の進行ルートの東側へ、バトーら第二部隊は西側へと移動を開始する。
数分もしないうちに両部隊は目的の場所に付きそれぞれのHGタイプの人形が索敵を行う。今回は夜戦で視界が悪い上に森林での戦闘のため索敵が重要になってくる。
「どうだ、グリズリー」
「んー、奥の方から人影が見える…4~5ってところ?」
「グリズリーさん、敵の種類までは分かりますか?」
「M4さんか、遠すぎてそこまではね~少佐はどう?見える?」
「お前と同じだ、人型であること、その数までは判別できるがそれ以上のことはな」
彼女らが使うセンサーは金属探知機の発展型のようなものでありある程度の密度を持つ金属にのみ反応する音波のようなものを発生し、対象に当たった際に反射しその情報が視覚端子や電脳内にダウンロードしたマップに反映される、という仕組みである。
「今のところ上空にドローンやスカウトのような飛行タイプの鉄血はいないわ。恐らく奴らはこの辺りを巡回しているパトロール中隊なんじゃないかしら」
とAR15の報告を受けて素子は第二部隊へと連絡する。
『…バトー、こっちは5体ぐらいしか敵戦力がいないみたいだ。そっちは?』
『こっちは陰一つないぜ、トカレフやSOP、俺の目で周辺を探索してみたが何の反応もねぇ、こりゃ思ってたより楽な任務になりそうだな』
『…油断はするなよ、今回の作戦は長いんだ』
『だったら尚更だ、最初から気張りすぎるといざって時に疲れて判断にラグが出るぞ。全身義体化でも精神の疲労は避けられないんだからな』
『私はこの基地の指揮官だからな、気を抜くわけにはいかないんだ。引き続き警戒は怠るなよ。…肩の抜き加減はお前に任せるが』
そういって素子は通信を切りグリズリーに電脳通信を行う
『どうだ、通信している間に変化はあったか?』
『敵の数と種類が判別できるぐらいまでは近づいてきたよ、Ripper2体、Vespid3体ところだね。ぼちぼち戦闘準備しますか』
『よし、第一部隊戦闘準備にかかれ。なるべく一発で仕留めるようにこっちの射程内に来るギリギリまで腰だめで待機して合図とともに立ち上がってヘッドショットを狙え。グリズリーは部隊の全員に敵部隊と我々の距離を逐一報告しろ』
『了解』
電脳通信は繋がったままだがしばらくの間ノイズ音しか聞こえなくなる
『…敵との距離、残り25m』
改めて視覚端子を赤外線モードにして前方を見るとグリズリーの報告通りであった。
全員が自身の銃にサプレッサーを取り付け、ARやSMGの人形達はセレクターと呼ばれる切り替え装置を使いセミオートに切り替える
『…敵との距離残り15m』
敵はこちらを認識しておらず首をあちこちに振って警戒活動を行っている。全員が敵部隊の頭にロックする
(こちらを認識してもそこから攻撃態勢に切り替わるまでにラグが生じる、最悪そこのラグよりも早く行動を行えばこちらに分がある…しかし気づかないでくれよ)
『…敵との距離、残り10m…仕掛けるなら今がタイミングだと思うよ』
『よし全員合図とともに立ち上がって発砲しろ、一発で仕留めるぞ…3,2,1…よし行くぞ!』
全員が立ち上がりそれぞれの敵の頭に弾を当てる、殆どの鉄血兵はARや威力が高いグリズリーの攻撃は一撃で仕留めることが出来たがSMGの威力では一撃で仕留めるのは困難だったようで一部の人形が吹っ飛んだ状態から起き上がろうとしている。すかさず素子が駆け込み電磁ナイフを使い首元に刺突し確実にとどめを刺していく。首元からショートした回路から火花があがり生き残りの鉄血兵たちが倒れて動かなくなる。
『一旦は片づけたが…引き続き探索を行う。グリズリー、引き続き頼んだ。』
『了解!』
この後、第一部隊、第二部隊と共に索敵を行うが鉄血兵の残骸すら見かけなかった
(おかしい…この辺は鉄血兵の量が多い地帯のはずだ。何故、ここまで少ない…?)
と考えていたところ、グリズリーから電脳通信が入る
『少佐、ここから10m先に反応がある。でも倒れているしサイズが小さいのが2つに分かれている。あれは…頭と足かな?これは個人的な考えだけど確認した方がいいと思う』
『…こんな場所に倒れた人柄…?よし、確認してみるか』
素子が近づいてみると確かに人型の“何か”がいた。
ここでこのような表現をしたのは人の頭部のようなパーツがあるのだが顔がズダズダになっておりこれがグリフィンの人形か、そもそも戦術人形なのかが判別できないこと、そして左腕らしき部位、右太ももらしき部品が散らばっており血のような赤い液体が土にしみ込んでいた。
(だが…これは人形で間違いない、だがグリフィンの人形ならば何故こんなところに?私が着任してからはダミー人形の破壊はあれどこの地帯で破壊されたことはなかったはず…)
周りの土をみるとそこら中が穴だらけになっていて空の薬きょうが散らばっていた。
(こんなに弾をばら撒けるのはARやSMGでは有り得ない…MGタイプの人形によるものか?それとも集団で破壊されたのか…)
素子が視覚端子に写した適当に拾った2つ3つの空薬きょうを電脳で照合してみるとこれらが一致していることが分った。
(MGタイプ…ガトリングのようなものだろうかこの近くにハイエンドがいる可能性が高いな…)
とはいえ可能性があるだけで今、この場に、この近くにハイエンドがいる確証があるわけではない。目標はあくまでも特殊部隊の護衛でありハイエンドの破壊ではない
(触らぬ神に祟りなし、か…)
素子はあくまでもハイエンドがいる可能性がある、と言うことだけを両部隊に伝え作戦行動に戻った。部隊に重い空気が流れたところでピピーという小さな電子音が彼女の腰に付けている通信端末から発せられた
いよいよ、防衛対象である特殊部隊がやってきたのだ。そう、ここからが任務開始なのである