Ghost in the Doll   作:恵美押勝

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ど~も恵美押勝です。今回は少し真面目な話を、今回の作品は熱心なクリスチャンの方には不快に思われる表現があるように思われます。ですが私はキリスト教を敵視している訳ではありません。どうかこのことだけはご理解お願い致します。
それでは本編をどうぞ


Mission10.ショウの始まり~安い芝居~

イントゥルーダーと呼ばれたこのハイエンドモデルは指揮者であった。・・・正確に言えば「自分のことを、指揮者だと、役者だと戦場をその舞台だと思い込んでいる」はハイエンドモデルであった。実際に下級ハイエンドに指揮する能力を保持しており、それ相応の電脳の保持している。指揮者である彼女が何故“侵入者”という名前を付けられたのか、彼女の本来の製造目的は敵基地への潜入や通信の暗号解読、及びその妨害工作であった。電脳の性能がいいのもそのためだ、しかし彼女は本来の使い方で用いられることはなかった。鉄血公造が壊滅してからペーパープランから生まれた彼女はその本来の目的とは違う、ハイエンドモデルの指揮という目的で用いられることとなる。彼女はその性能のいい電脳で大いに苦しんだ。当初の目的と現実との隔離、自分の持つ“個性”(少なくとも彼女はそう考えている)が抑圧されている現実に彼女の電脳は常に負荷状態にあった。…なまじ性能が良いが故の弊害である。

負荷に追い込まれた彼女は一つの結論に至った

「私がこのような扱いで生きるのを受け入れよう、何故なら私は“ハイエンドモデルの指揮者”という役割を演じているのであって私の個性は潰れていない。私が役者であるならば、役者が輝く舞台が必要だ」と…

 

午前4時になり夜明けまであと1時間を切った、イントゥルーダーの排除を行うため素子達は敵基地へ向けて前進を開始していた。

「…もう朝の4時、これは久しぶりの長丁場ですなぁ」

MDRが携帯電話の時計を確認して独り言ちる。

「イントゥルーダーを排除したら、これで私たちの任務は終わり。そうですよね」

「悪い、グリズリー。これが終わったらもう一個仕事がある」

「仕事ぉ!?これ以上働けと!?ブラック企業ですかここは、掲示板に書き込まなきゃ…」

「AR小隊の残りのメンバーがこの付近にいる可能性が高い。AR小隊の保護もまた私達の任務だ。・・・そう落ち込むな、残業代はキチンと支払う。」

「きっとですよ!?私この間減給されてもうカツカツなんですから!まさか本当に減給するとは思わないじゃないですか!?」

「おい、笑い話もいいが改めて確認したい、フェイクの方に入るのは俺たち第二部隊なんだな」

「そう、そして第一部隊が井戸を通じて敵本拠地に潜入。油断しきっているところを排除する。そういう手筈だ」

「了解、見た感じフェイクとなっている教会かなり狭そうだ。待っている間俺たちは何をすればいい?神様にお祈りでもすればいいのか?」

「恐らく、罠にかかった時のために教会周辺に鉄血兵が隠れている筈だ。こいつらと一緒に“お祈り”してくれ」

「了解、鉄屑を救ってくれる神様はいないと思うがな」

「出来るだけ、こっちでジャミング出来ないか試してみる」

「頼むぞ」

そう話しながら歩いていると廃村、基地の付近に到着した。双眼鏡を取出して素子が周囲を見渡す。あちこちに鉄血兵が存在しており廃村の入り口から300mほど離れた場所に協会が位置していた、そこから更に300m離れた場所に小劇場が位置している。

『…どうしますか、ご主人様。ここは穏便に行きますか?』

『…いや、相手は私達がここに来ることに感づいている筈だ。なら、隠れてこそこそする必要もないしこの作製は私達の存在を連中に知らしめる必要がある。敵陣のど真ん中を突き抜けていく、楽なことではないが…それでもこれしかない。よし、作戦開始だ』

 

始まりは、一発の銃声だった。素子の撃った一発がRipperのバイザーに命中し貫通したのがこの基地においての開戦の合図であった。

間もなく、鉄血兵達が素子達に向けて攻撃を開始する。第二部隊のMDRがスモークグレネードをあるだけ投げて煙幕を作る。ほんの一瞬の目隠しに両部隊は全速力で駆け抜ける

第二部隊が先行しているのを第一部隊が後ろ向きで走りながらバックアップをする。第三者から見ればシュールな光景ではあるが敵陣を突っ切る彼女らにとってはこれが最善策であった。廃教会との距離は残り200mを切った

素子は狙撃用の戦術人形を編成しなかったことを強く後悔した、彼女らが居てくれればまだもう少し楽になれたことか。だが仕方ない、この作戦はイレギュラーなのだ、本来であれば機密部隊を護衛してそれでお終いだったはずなのだ。こんなことは眼中になかった。

(後悔しても仕方ない、か…)

自分の判断を呪いながら、素子は眼前の敵の団体に向けてグレネードを投擲する。倒せなくてもいい、距離稼ぎになってくれればという思いで投げたそれは2機のVspidの足を破壊するだけに終わる

廃教会との距離は残り100mを切った

バトーもまた、眼前の敵を処理しながら考え事をしていた。

(教会に入り込んだ後は籠城戦になる、先ずは簡易的なバリケードを設置した後…罠を仕掛けて、その後は…真っ当に戦わなければいかんな。SOPやZasにはまた世話になりそうだ)

そう戦術的なことを考えながら、敵がバリケードを超えるまでは一服したい、と少し余裕な考えが浮かんだ自分自身にバトーは苦笑しセブロの引き金を引く。青白い閃光の先で鉄血兵は文字通りスクラップと化した

そしていよいよ彼らは廃教会へと辿り着いた

『第二部隊、ポイントに突入するぞ!』

廃教会の扉は基地用に改造されており重い鉄扉であった。扉付近にはパネルがあり、テンキーが備え付けられていた。バトーは素早くそのパネルにハッキングを行いパスワードの解析を行う、即席基地の即席装備の為か防壁は必要最低限のでしかなく、少し電子戦に長けているものであれば数分もあれば解析完了する代物だ、素子に続き電子戦のプロである彼にとっては数秒もあれば充分であった。

解析を終えて素早くテンキーを打ち込みロックを解除した彼は扉を開け、部隊の全員を素早く中に入らせ、テンキーを思いっきり殴り壊した所で自分も中に入ると扉を勢い良く引きと締め始め、扉が閉まる直前にモニターに一発喰らわせる。殴られた箇所が陥没しモニターからは漏電したのか火花が散っている。これで向こうから正当な方法で扉を開ける手段は無くなった。

部屋に入った後バトーが叫ぶ

『椅子だ!とにかく椅子を持って扉の前に積み上げろ!椅子が無くなれば机でもいい!正し自分の身を隠すための分は残しておけ!』

「ダミー人形は!?」

『一緒に机に隠れて迎撃するのもよし、尖兵として机の前に立たすのもよし、各自の判断に一任する!』

そういうとバトーはドアに近づきワイヤーと手榴弾を用いてトラップを作ったドアを開けるとワイヤーが切れてピンが抜かれ、爆発するという仕組みだ。

間もなくドアがガチャガチャと乱暴に開こうとする音が聞こえる、その音にせかされるように人形達が入り口付近に椅子や机を置く、教会に置かれている椅子は重量があり幅が広く例え人形でも二人がかりではないと運ぶことが出来ない(バトーを除く)

だがバリケードにはこの上なく最適な障害物である。どうにかバリケードを完成させた時には外からは音がしなくなった

『退却したの?』

SOPが残念そうな声でバトーに尋ねる

『いや、連中ここを無理やり開ける道具を持ってきているんだろう。バールとか破城筒とかな、そう心配しないでもドンパチやれるさ。今のうちに銃の点検をしておけよ、パーティーに出遅れたら大変だ』

『分かった!』

椅子の後ろにバトーは隠れて一服しようと思った、彼自身それが善い行いではないことは分かっていたが敵が突破するまでには幾ばくかの時間がかかる、吸うだけの時間はあるということだ。緊張感で張りつめた精神に少しご褒美を与えてもバチは当たらない、そんな考えが浮かび、なんて甘えた思考なんだと、それよりも今は銃の整備だろうとバトーは自分自身に苦笑した

(俺も年かねぇ…)

そんなことを思いながら内ポケットから取り出したタバコの箱を見つめていると自身の後ろに視線を感じた。彼は素早く銃を構え後方を振り向くが誰もいなかった…いや正確に言えば“神”は彼を見ていた。磔にされたキリスト像がまるで彼を見つめているようだった

(よほど突貫工事で作られたらしいな、この基地。それともクリスチャンの人形でもいるのか?)

バトーはクリスチャンではなかったから精通していないがこのキリスト像は他のキリスト像とは何か違う雰囲気を感じた。

(井戸を脱出口として残しておく連中だ、ひょっとしたらこのキリスト教も何かの役目があるんじゃねぇか…?)

まだ日本が存在していた時に素子からこんな話を聞いたことがある、択捉島で仕事をしていた時に、いくつかの義体を用意して電脳を介した遠隔操作(つまり素子が使う衛星兵器のような代物)で彼女を翻弄したということを

(…あのキリスト像、“暖かみ”がねぇな、祈るため、崇拝されるために作られた代物は作者のゴーストが生温かく刻まれている。だから俺らはそういった代物に対して汚したり破壊したりするのを躊躇うんだが…こいつは“冷たい”、銃やナイフを見た時に感じる冷たさだ)

バトーは数秒の思考の後、キリスト像に向けてサブウェポンであるジェリコを突きつける

「バトーさん?そんなのに銃を向けてどうするの?まさか、敵?」

「…かもな、確信は持てんが」

「じゃあ壊しちゃう?なんか目つきが気に入らないんだよね」

「神をも恐れぬ奴は怖いねぇ。しかし同感だ…後ろから見られていると思うと落ち着かねぇ」

バトーとSOPがトリガーに指をかけたその時、彼らの目の前から声が聞こえた。キリスト像は顔を上げて彼らを見ていた

「…やれやれ物騒なお方だ。無神論者ですか、嫌なものですね。こんな時代です、神を信じてみては?」

「バトーさん、あの像から!」

「あいにくだがこんな時代だからこそ、だ。神様は見ているだけで手は施してくれなかった…仮にいたとしても傍観者に上げる信心なんてありゃしねぇ。俺はガキの頃からそんなもん信じちゃいねぇのさ。さぁ宗教勧誘と安い芝居は他所でやってもらおうか。え?イントゥルーダーさんよ」

「…貴方がクリスチャンでなかったのが残念ですがこういう展開もお芝居にはアリですね。では自己紹介を、私の名前はイントゥルーダー、この基地のリーダー。あなた方で言うところの“指揮官”をさせて頂いている物です。率直に申し上げますと私達は貴方に対して負ける気はありません、が勝つ気もありません。私は暇つぶしをしたいだけなのです」

「暇つぶし?それがこの安い芝居か?自分の存在を示唆させるように適当な人形を殺してその辺に放りだしておいて、ここに誘い出し、キリスト像を使っての会話…芝居に突き合わせて俺たちを足止めしてる間何かしようっていうのか」

「心配しなくてもあなた方の任務に支障はありませんわ。私の目的はそれ以上の事にある…それにしても貴方は気になることを言いますね私のこれを“安い”芝居だと?」

「あぁ安い芝居さ、途中までは面白いもんだが喋るキリスト像で台無しだ。宗教映画でありそうな展開…人の心を“分かったような気”でいやがる。お前、俺のことをクリスチャンだと思っていたらしいな。こんな時代に銃を持ってこんなところに来てる奴がクリスチャンな訳がないだろ。悲惨なことがあれば宗教が力を持つ、というのはもう過去の時代だ。データベース上での人間しか知らないから今を生きる人間の心理が分からない、だからお前の芝居は安いんだよ。」

「・・・」

「それにだ、お前の声、少し震えているぞ。役者としても失格というところか。」

「・・・随分と手厳しいお方だ、私は役者でもなければ舞台監督でもないのですよ?」

「その割には声が震えが強まったが…それもお前の芝居ならばさっきまでの言葉は撤回しよう」

「…どうやらお客さんが来たようだ、どうでしょうバトーさん。私の暇つぶしが終わったら演技指導をしてくれませんか?どうやら私はそういう仕事の方が向いてそうだ

「かもな、戦う前に敵とこんなに喋る奴はこの仕事にゃ向いてねぇ」

「では、一度失礼いたします。そうだ、バトーさん。神様は見ているだけかもしれませんが私はそうでは無いかもしれませんよ。それでは…」

突如キリスト像が磔になっている十字架を踏板代わりに蹴とばしこちらにダイブしてきた。バトーは落ち着いてジェリコを像の顔に撃ち、被弾した反動で変な体勢で地面に落下したところをもう一度頭部に向けて撃った。たったそれだけで奴は動かなくなった

「くだらねぇ…」

そう独り言を呟くバトーは何処か疲れていた

 

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