身の上話もアレなんで、本編をどうぞ
眩い閃光が目を刺した、途端に光は眼前から消え去り果実を踏み潰すかのようなひしゃげた音が聞こえ、自分自身が糸で吊るされ引かれたような感覚を感じて彼女は…イントゥルーダーは自身の体に戻った。役者でもある彼女は何回か自身と他の素体を同期させ活動していた。そのため彼女自身が戦場に立つのはごく稀であった、しかし自身の体に戻った彼女は己の得物であるガトリング砲タイプの銃を手に持ち今にも表に出ようとしていた。同期を解除した際に生じる、引かれるような感覚の嫌悪感よりもバトーに対しての静かな怒りが彼女の電脳を埋め尽くさんとしていた。確かに自分は役者だ、だが本当の私は役者などではない、それは自分を慰めるために作った哀れな設定だ。自分でもそう自覚しているので馬鹿にされようとも意に介さない、そうであるべきだ。しかし
(あの男は一度この手で殺さないと気が済まない…!)
見透かしたような口を聞いた、そのことが気に食わなかった。許せなかった、人間を憎んでいるとか蔑んでいるとかではなく、分かったような口を聞き、己を守るために作った醜いアイデンティティであろうと自分を愚弄する人間に対しての純粋で静かな怒りだ
(だが今は、“客人”を相手にしなくては…無礼な人間を殺すのはその後だ…)
その頃、素子らは件の井戸にたどり着きダミー人形らを引き連れて暗い井戸の中を進んでいた。中は恐ろしいほど暗く、彼女らが持っているライトで照らさなければ自分達が進んでいる道がどのようになっているのかも分からなかった。
『細い直線…一人分の道幅しかないなこれは』
『ダミー人形を引き連れているとちょっとした大名行列だね、少佐』
『茶化すなグリズリー…」
『こうして見ると本当、少数を引き連れて脱出するための通路なんですね』
とM4A1が周囲を円を描くように照らしている
『しかしこんな古典的なものを作るなんて、どういう電脳モデルなのイントゥルーダーとかいうハイエンド…』
AR15はうんざりしたような口で前を照らしている
『鉄血のハイエンドになるのには性能だけじゃなくて“個性”も重要なんでしょうね』
『我が社もそれなりに“個性”を重視しているわよ。イングラムもそうだけど個性まみれじゃないのあなた達』
『じゃあ、イントゥルーダーとかいう奴もスカウトしますか?ご主人様』
『それは勘弁、私ああいうチマチマしたことをする性格は好きじゃないのよね』
そんなことをしゃべっていると、とうとうライトの先に扉が見えた。鍵がない扉を静かに開けるとそこは踊り場と繋がっていた。周囲を見渡すと壁に紙が間隔をあけられて貼られている
『これ、次の公演する演劇のお知らせですよ。他にもここのアルバイトの募集情報とか…』
紙をめくりながらM4は話す
『次の公演ね…もう“次”はないのに』
『意外とセンチメンタルなところがあるんだなAR15、だがこれで分かった。奴ら、本当に最低限度しか元の施設に手を加えていない。ここの貼り紙を捨てるぐらいの暇もないほど急ピッチでな。つまりこの施設の構造はほとんど変わっていないということだ。そうなれば…』
素子は全員の電脳に一枚の図を送信した
『ここへ向かう途中にダウンロードしておいたこの小劇場の地図だ。奴はここの何処かにいる。』
『司令官として活動できる場所…広くて、安定して通信が行えて、尚且つこの脱出口に近い場所は…』
『“演劇ホール”、ここしかないんじゃないでしょうか』
『正解だ、M4。敵は近いぞ、各員戦闘準備をしておけ』
この劇場は2階建てでホールは2階にある、一同は腰をかがめた
『グリズリーとイングラムが先行して2階に上がってくれ、本体だけでいい。ダミー人形には反対側の階段を監視させる。確認次第、残った我々も上へあがる』
『了解!』
『分かりました』
グリズリーとイングラムは足音を殺して2階へと上る、素子は彼女らを見上げながら武器をセブロC-25からセブロM5に切り替えた。
『…こちらグリズリー、長い廊下の真ん中あたりの壁側に扉があってこれがホールへの入り口のはず。問題は入り口の前にRipperが2体いる』
『サイレンサーか…空のマガジンは持っているか?』
『いや、ないな。イングラムは?』
『私も持っていないです、まさか室内戦闘するとは思わなかったので…』
『まぁそりゃそうだよな…仕方ない。今から空のマガジンをそっちに渡すからグリズリー、受け取ってくれ』
『それを投げて奴の気をそらせと?』
『そうだ、その後で…イングラム、お前ナイフ持っているよな?』
『えぇ、…やりますか』
『頼りにしているぞ、なにせお前は元々ナイフ使いだったんだからな』
『よろしい、ブラックジャックも真っ青なコントロールをお見せしましょう』
素子は防弾ジャケットのポケットから空マガジンを一つ取り出しグリズリーに向かって投げた。適切なコントロールで受け取られたそれをグリズリーはなるべく遠くに、音が大きすぎず小さすぎずになるように投げた。マガジンはRipperの頭を越えて、扉がる場所より3mほど離れた地点に落下する。
静かな廊下に突然カシャン、と小気味よい音が聞こえた、巡回していたRipperの聴覚端子のもそれは聞こえ、何かが落下したことを電脳が演算する。だがその「何か」を知る前、一瞬背中に強い衝撃を感じ、否、「背中に衝撃があった」と言う事実を知る前にRipperは破壊されたのだ
『ビンゴ』
とダーツを投げ終えたような姿勢でイングラムは静かに…だが興奮を隠しきれないように言った
『Ripperってのは背中の右側辺りにバッテリーがありましてね、それに動力源を依存しているから潰されると心臓が無くなるのと同じ…我々で言えばコアを破壊されるようなものです。』
(この子殺しになると急に饒舌になるわね…)
『投げナイフでやるとは思わないじゃん、あんた元々ジャック・ザ・リッパーをモデルに作られた人形じゃないでしょうね』
『嫌ですねぇグリズリーさん、そんなわけないじゃないですか。私のそれは余暇で覚えたもので…』
『喋ってないで突入するぞ、全員続け!』
素子の掛け声で全員が扉の前へと集まる
『突入はセオリー通りで…舞台か、少しどうだろう。“次の公演”を私たちでやってみないか?イングラム、もう一つ頼みたいことがあるのだが…』
ドアが蹴破られ、タイミングよくG36がスモークグレネードを投げる。
突入した途端に耳をつんざく爆音が聞えた、自分たちが使う兵器とは格が違うことを察せるような音であった
『やられた!少佐!私のダミーが一体バラバラになった!』
『グリズリー!大丈夫か!』
『私自身は大丈夫!少佐、これ敵ガトリング使ってる!』
『やはり敵はガトリングを使っているか…各員遮蔽物に隠れろ!』
全員が椅子の後ろに隠れる、とはいえガトリング砲の直撃を受ければこのような物はすぐ木端微塵となり隠れている自分も同じ末路を迎えるだろう。爆音は止むことがなく座席が次々と破壊されていく。小隊に被害が及ぶのも時間の問題だろう
「…めた!もう止め!」
耳がつんざく音の中突如、声が聞こえた。途切れ途切れでよく聞こえなかった誰の声だ、疑問を感じたのは人形達だけじゃない。イントゥルーダーもそうだ、それを示すようにガトリング砲の音が止んだ。
「もう止めた、って言ったの」
声の主は草薙素子、その人であった
「な、何を言ってるんです少佐!?」
「ガトリング相手にこっちの豆鉄砲で勝てるわけがない、そういったのよM4」
「…!」
そう言って彼女はC-25をゆっくりと床に置きつま先で蹴とばした。
「少佐!正気!?ここまで来て諦めてどうするの!?いや、諦めたら私たちが死ぬのよ!?」
「…それは困るな、分った。少し交渉してみようかAR15」
煙が晴れて、舞台の全貌が見えた。舞台のど真ん中にはイントゥルーダーがポツンと一人立っていた
「今からそっちに行くから、撃たないでくれよ…」
両手を挙げながら彼女は舞台までゆっくりと歩き出した
「…お前の名前は」
「それはこちらがご存じでしょうに、まぁいいでしょう。鉄血指揮型人形は製造番号SP914イントゥルーダーと申しますわ。…こちらが名乗ったのだからそちらも名乗るのが人間の言う“マナー”では?」
「私の名前は草薙素子だ」
「なるほど、貴方が噂の…ハンター、スケアクロウやエクスキューショナーがお世話になりましたわね。彼女らの指揮は私が担当していましたの」
「お前が?人間になり切れない案山子と血気盛んな処刑人と狩人になれない狩人を指揮するのはさぞ難しいことだったろうな」
「煽りに来たのではないのでしょう?交渉、しに来たのでは?」
「…そうだな」
「素子さん、私はね今失望しているんですよ。仮にもあの子らを殺してきてあの代理人にも一目置かれている人間が、このザマですか?」
イントゥルーダーは地面に立てたガトリング砲を持ち上げ銃口を素子に向けた
「勝てない相手に無謀に向かってきてやっぱり勝てないから助けてください?そんな情けない奴の言うことを何故聞かなきゃいけないの…!交渉の余地なんてない、ここで全員きっちり殺してあげる。」
イントゥルーダーは恐ろしい形相で素子を見ている、そしてゆっくりと引き金に力を入れ…
「なんて、そういう風な展開を迎えたら面白いでしょうね。でも失望しているのは本当ですのよ。とはいえ貴方を殺すことは代理人から許可されていない。いいでしょう、交渉に応じましょう、今この状況において貴方はこの舞台のVIP席に座っていますわ。ある程度無茶な要求も聞くだけ聞きましょう“全員を助けろ”なんて要求が通るのもやぶさかでなくてよ」
「なに、簡単なことだVIP席と言わずこの舞台の主役になるべくそちらには降りていただこうと思ってな!」
すかさず素子は内ポケットからM5を抜き取りイントゥルーダーに向けて発砲する
「…流石ですよっ!舞台はそうでなくては!!」
イントゥルーダーはガトリング砲を構えなおし素子に向け発砲する、マズルフラッシュが刃のように素子に切りかかるがすんでのところで回転して回避する
「どんでん返し、派手なアクション!!これこそ舞台です!でも残念主役は“私”
です!貴方はせいぜい主役の為に殺されてくださいよ!」
「それは映画じゃないかっ…!G36!『香炉峰の雪はどうだ!?』」
「今日は冷えますよご主人様!『簾』は下げておくのがベターです!」
「オッケイ!」
次の瞬間、彼女は後ろに向けて大きくジャンプした。
「何をごちゃごちゃと…」
その時である、突如天井からピン、ピンと何かが千切れる音が聞こえた。だがイントゥルーダーはそれを気を留めることはなかった。それを後悔したのはグォンという重く風を切る音が自身の真上で聞こえてからであった。目の前に迫る板はあまりにも強大で自身の得物ではどうにかしようとも思わないほどだった。
「…なるほど、最後は私の生きがいによって殺される。そういう運命ですか」
もしも運命なるものがあるならば、神なる存在がいるのであれば、どれだけ恨んだことだろうか、殺すことが出来ればどれだけ良かっただろうか。自分を騙しつづけたモノが存在し続けられるほどこの世界は甘くはない。ならばこれは報いというものなのか、だがそうなったのは何故か?あいつらのせいだ、勝手に自分を作って自分を否定したあいつらだ。
自分は「役者」なんかではないただの「マリオネット」だった
あぁ、自分はなんて不幸なのだろうか
そんな悔恨の念は救われることはなく無慈悲に消える
今まさにマリオネットは処刑された…