身の上話もアレなんで本編をどうぞ
M16が帰ってきた、その知らせは第二小隊にも伝わり数分と経たずこのホールまでやってきた。SOPは友の再会に喜び真っ先にM16に抱き着く、ヘリが来たのはそんな彼女を犬をあやすかのように頭を撫でて10分が経ったころである。G36からその報告を受けて両部隊はランディングゾーンまで走りヘリに乗り込んだ。乗り込むと我らがカリーナが笑顔で出迎えてくれる
「お疲れ様です少佐!ハイエンドを倒しただけでなく電脳が生きた状態での鹵獲に成功したとお聞きしましたが…はて、心なしか人数が増えていませんか?」
「カリーナ、実はなお前が来るまでの間になM16の救助に成功したんだ」
「救助というよりかは合流という表現の方がしっくりくるねぇ」
「…だ、そうだ。すまないがヘリアンに軽く報告しておいてくれないか、詳しい報告は基地についてからにする」
「わっかりました!お疲れのようですし基地に到着するまでの間ゆっくり休んでくださいね!」
カリーナに言われて素子は座席に座り込み隣にいるM16に声をかける
「…M16」
「?」
「恐らくお前はこれから先もAR小隊として働いてもらうことになるとは思うが…同時に私の基地のメンバーの一人として働いてもらうことになる」
「…私の?アンタ…」
「…私はS09地区戦線基地の司令官なのよ。まぁ細かいことは基地に到着してからゆっくりとね…」
そう言うと素子は頭を垂れて目を瞑った。
(…指揮官かよぉぉ!滅茶苦茶タメで話しちまったじゃねぇぇか)
残されたM16は基地に戻るまでの間、他のメンバーからいろいろ声をかけられたがその度に自分のしたことが脳裏にちらついて何処か上の空であった
30分ほどして基地にたどり着き、素子はカリーナに起こされた。まだ眠そうにしながらヘリを降りた彼女は集合を呼びかけ己の頬を叩き気を引き締めた
「先ずは今回の作戦本当にお疲れ様、ゆっくり休んでくれ…あぁ戻る前に一つ手伝いを頼みたい。誰かイントゥルーダーをラボに運んでおいてくれないか?」
「そいつは俺がやろう。」
「バトーか、じゃあよろしく頼んだ」
「しかしお前もよくこんな得体の知れないものを自分の基地に持ち帰ろうと思ったな」
「まぁ、使えるものは何でも拾っておかなきゃこの時代は生き残れないしな…」
「鉄血のハイエンドが俺たちの役に立つのか?ちょっと想像つかねぇな」
「…中身が綺麗な状態で鹵獲されたハイエンドは今までないからな。言ってしまえばブラックボックスというところか」
「なるほどねぇ、じゃあ俺は行くぜ。とりあえずラボにおいておけばいいんだな?」
「そうして頂戴…あぁそうだ、そいつの電脳はバッテリーの電力供給によって生きてる状態だ。ラボにコンセントがあるからプラグを抜いてラボのコンセントに繋いでおいてくれ」
了解、といってイントゥルーダーが入った袋を抱えてバトーはヘリポートから出ていった
「さてと、では全員解散。ゆっくりしていてくれ…M16はまだ部屋がないから今日はM4と一緒にな。細かい話はまた後日に」
「了解した司令官」
「M16姉さん、ここでは司令官の事は“少佐”って呼ぶんですよ」
なんだそりゃ、役職ではなく階級で呼ぶことに特別な意味があるのかと彼女は一瞬思ったがそれを聞くのは後でもいいだろうと思い払拭した。
「…了解、“少佐”。またお会いしましょう」
こうして全員がヘリポートに出ていくのを見た彼女は深呼吸して明け方の爽やかな空気と戦線基地特有のお世辞にも奇麗とは言えない空気を人工心肺の中でミックスさせて体を伸ばしてから司令室へとゆっくり帰っていった
司令室に戻るとカリーナがコップを渡した、ほどよく温かいカップの中には緑色の液体が入っていた
「今回の任務、本当にお疲れ様でした。少佐」
「カリン…これは」
「緑茶、ですね。こういう疲れた時には緑茶の方がリラックス出来るって聞いたんです」
「…誰から?」
「ギソーニさんからですね」
「…あいつか」
トグサとカリンが接触していたことも意外であったが彼女としては甘いコーヒーが飲みたかったので若干の不満さを抱えながらカップを傾ける
「少佐は日本人ですからね、コーヒーよりこちらの方がよろしいかと思って、中々手に入らないんですよ。これもギソーニさんに分けてもらったほどで」
そう優しい笑顔で言われるとなんだか申し訳なくなって不満は何処か消え緑茶の渋みが体に染み渡るのをかみしめていた
「カリン、ヘリアンには…」
「えぇ、報告しておきました。もう一度少佐から連絡するように、とのことでしたけど」
「まぁそうなるわな…」
「『忙しかっただろうから明日にでも』とはならないのは大人の辛いところですねぇ」
「…よし、緑茶ありがとう。」
そう言うと背筋を伸ばして、卓上の電話機に手を伸ばす。番号を入力し、数回のコールの後ヘリアンが出た
「少佐か、まずお疲れ様。機密部隊は無事帰還、更にハイエンドモデルの鹵獲に成功…中々の仕事っぷりじゃないか」
「…お褒めの言葉頂き至極光栄です…そう言えば満足かしら、言葉だけじゃなくて形でも欲しいところね」
「分かってる、喜べ少佐。貴官に2週間の休暇を与える」
「…本当?冗談じゃなくて」
「本当だ、今回の活躍もそうだが貴官には重要な任務ばかり任せっきりだったからな。上層部に提案したら意外とすんなり了承してくれたよ」
「ありがとう…本当にありがとう」
「…なぁに礼には及ばないさ、君は休んでいる間の仕事は副官に任せると言い。ゆっくり休んでくれ。なにせ2週間後には招集訓練があるからな」
「…招集訓練?」
「そうだ、この辺の指揮官が集まって訓練するんだ。任務よりは楽だろう?」
「…OK分かった、それとイントゥルーダーの件だが奴はこっちで預かっていいだろうか?」
「何?あんな重要な資料をか?」
「私に考えがある、それに仮にも奴はハイエンドモデルだ。万が一のことを考えたら本社よりこの基地にあった方が会社としては望ましいだろう」
「それもそうだが…何を考えている?」
「なに、ちょっとリサイクルについてな」
「分かった、少佐の言うことにも一理はある。ただし上層部に相談してからだ、私がしておくから返答が返ってくるまで何も弄るなよ」
「了解した」
「…それではな、少佐。今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
そこで通話を終え、素子は深く息を吐き椅子に背を預ける。ちょっと冷えたカップを手にとって残った緑茶を一気に飲み干すと、やっと仕事が終わったという感じに思えてきて無性に自分を褒めてやりたくなってくる。そんなことを考えていると時計が朝の5時を回っていた。本来の起床時間まであと30分しかない
(せっかくもらった休暇だ、少しでも仮眠を取った後休暇の事を伝えて副官は…春さんでいいか、しっかりしているしこの基地じゃ付き合い長いしな…)
そして考えるのをやめ、意識は一瞬で虚無の中へと吸い込まれていった
さて、眠りについた素子を他所に彼女からの頼みごとを無事終えたバトーは一人厨房へと向かっていた。彼もまたこの任務に疲れていたのだが彼の場合睡眠欲よりも食欲、否、飲酒欲が勝っていた。何故なら戦いで高ぶった神経を静めてくれるのは睡眠でもカフェインではなくアルコールだと考えていたからだ。厨房に出向くとなにやらゴソゴソと音が聞こえた。
(誰だ?)
とっさにバトーは銃を手に取り厨房の入り口から顔をのぞかせる、だが眼前に見えた黒々としたものが眼であることを理解するのには数秒かかった
「…あっ」
「お前はさっきの…M16か」
「えっと…」
「俺はバトーっていう」
「バトーさん…」
「呼び捨てでかまわねぇよ、それよりどうしたんだこんなところに」
「…バトーこそどうして」
「ちょいと酒を飲みにな」
「お、実は私も飲みにきてさ。いやぁここのところアルコールなんて一滴も接種出来てなかったから飲みたくてしょうがなくて。M4に今からでも飲めないかってしつこく聞いたらここを教えてくれてさぁ…なぁ、ジャックダニエルはあるかい?」
「…あるとは思うが、たぶんここにはないぞ」
「残念、んじゃあビール飲むか」
冷蔵庫を開き、よく冷えたビール缶を取り出した彼らは向き合い一瞬の沈黙の後、互いのビール缶同士をコツンと当てた
「ちょっと早いが歓迎会ってところだな」
「乾杯」
プルタブを開けた小気味よい音が厨房に響き渡り彼らは一気にビールを飲んだ。数秒の後、深く息をつき再び互いの顔を見あう
「なぁ、バトー。少佐ってのは一体…」
「…お前は日本という国は知っているか」
「一応知ってはいるけどさ、あんたらはそこの出身なのか」
「まぁな、そこで俺と少佐は公安9課って組織で働いていててよ、少佐はそこのリーダーだったわけだ」
「だけど日本ってところはもう…」
「そう、北海道以外は全滅だ。当然政府なんてものもなくなって公安なんて組織もなくなった…9課は解散、離れ離れだ」
「でもこうして合流出来ているのは奇跡みたいだな。」
「奇跡、ねぇ」
そう言って残りのビールを飲み終えたバトーはポケットからタバコを取出し一本口に咥え、そこでライターがまだ返してもらっていないことに気がついたら
「…なぁM16、火ぃ持ってねぇか?」
「ほいよ」
そう言うとM16はライターを取り出してバトーのタバコに火をつけた
「ねぇバトー、離れ離れになってさ悲しいとかそういったことは思った?」
「…9課は仲間なのは間違いないが互いの腹の内を見せ合って過ごしてきたわけじゃないからな。同僚以上友達未満ってところか」
「じゃあ悲しくなかったってことか」
「…冷めた人間だと思うか?」
「…正直ね、バラバラになったのは仕方がなかったけどその時に悲しいって気持ちはわかなかったんだ。だけど妹に泣かれて殴られた時、寂しい思いをさせてしまったって思った時、なんかこう自分の内側から寂しさをじわじわと感じた。」
そう言うとバトーの方を向いた
「なぁ、タバコ一本くれないか」
「…あいよ」
受け取ったタバコに火をつけて彼女は深呼吸をする
「…でもそういう寂しいってのは嬉しいってことなんだと思う。バトーはさ、少佐…と会えた時嬉しかった?」
「そりゃあまぁな、なにせ数年ぶりの再会だ嬉しくないわけがない」
「…不思議なもんだよな、別れた時は寂しくないのに会えた時は嬉しいだなんてさ。」
「それは『また会える』って信じていたからじゃねぇのか」
「そうか…そういうものなんだねぇ、んじゃバトーも信じていたわけだ」
「…そうなるな、しかし人形ってのは不思議なもんだ。感情が無いように見えてもしっかりと感情がある」
「自分で考える力があるものには遅かれ早かれ自ずと感情が身につく、そんなものじゃないのか。こんな時代機械と人間の差はそう明瞭なものじゃないさ。あんたは…」
「一応人間だな、人形みたいな人間だがそれは少佐もそうさ」
「…私は自分自身の事を人形だとは思っているさ、だけど」
「だけど?」
「…なんでもない、タバコありがとうな。早い子と戻らないと妹に られちまう」
「おう、ゆっくり休めよ」
「おかしな人だな、あんたは。人形は疲れやしないさ」
「…感情を持つ物は疲れるんだよ」
M16が去った後もバトーはしばらくタバコを吸い続けていた。暗闇に光る炎の色が消え白煙が消えるまでバトーは厨房の床に座り続けていた。やがて立ち上がり換気扇を回した後ずしずしと自室へと向っていく。時刻はもう起床時間になろうとしていた。