Ghost in the Doll   作:恵美押勝

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ど~もこんばんわ、恵美押勝でございます。久々の投稿ですね。やっとこさ後期の授業が安定してきました。難易度は前期と比べて上がりましたがまぁ今期も頑張っていきます
身の上話もアレなんで本編をどうぞ!


Mission11.ウィークエンド~はじめてのおつかい~

「人間」はどこまでが「人間」と言えるのか、究極的に言えば脳と脊髄があればいい、肉体は肉の塊に過ぎず器でしかなくそれに固執している姿は醜い。そういう極端な考えでいられる人間はこのサイボーグ溢れる世界において生きやすいであろう。だがこういう極端な思考があればそれとは対極の考えもあるはずだ「肉体がなければ人ではない、体のあちこちを機械の冷たい体にしたのはもう人ではなくロボットである」と

極端な思考というのはどの時代においても大衆にとっては迷惑でしかない、それは今でも同じ、そのような人間が集まれば尚更…

 

目が覚めた、というよりは気絶状態からの覚醒とでも言うべきだろう。何故ならヘリアンへの報告を終えた彼女は椅子に背を預けた途端に寝てしまったからだ。その分目覚めが良かった、頭がすっきりしてここ最近では一番寝たような感じがする。しかし起きようと思って体を起こした瞬間に違和感を感じた。体勢がおかしい、自分は椅子で寝ていたはず、しかし今は足だけでなく全身を伸ばしたかのような感覚がある。更に天井を見ると司令室のではない

「…ベッドで寝てしまったのか、しかも自室で」

だが確かに司令室で寝てしまったはず。そんな疑問を抱えて彼女は体を起こし自室を出る

時計を見ると時刻は10時を指していた。確か今日からは春さんが司令代理をするはずだったな、そう思い取り敢えず彼女は司令室に向かいドアを開ける

「あら少佐、おはようございます」

「おはよう春さん、そこにいるってことは…」

「えぇ、カリンさんからお話は聞きました。今日から数週間お休みなんですよね、最近の少佐はよく働いていたと思うので丁度いいですね」

「まったくだ、こんなにゆっくりと起きたのは随分と久しぶりだ。しかし喉が渇いたな。腹も減ったし…ちょっと食堂にでも行ってくるか」

「フフフ、でしたら少々お待ちを」

そう言ってスプリングフィールドは卓上にある電話を取り誰かにかけ数十秒話し素子の方を見た

「ちょっと待っててくださいね、今いいものが来ますから。」

「いいもの?」

「まぁまぁそこのソファーにでも座ってゆっくりしてください」

言われるがまま素子は来客用のソファーに座り込む、みすぼらしいソファーでは基地の名誉に傷がつくと半ば強引な形でカリーナに買わされたそれはほとんど正規の目的で使われることはなく休憩用のソファー兼仮眠用のベッドとなっていた。しばらく待っているとドアがノックされて開かれる。入ってきたのはお盆をもったWA2000であった

「お待たせ、春さん。…おはよう少佐」

「ありがとうね、わーちゃん」

「わーちゃん言うな!…はい、これ頼まれていたもの」

「それは…アイスコーヒーとサンドイッチか?」

「そうなんです、わーちゃん取り敢えず来客用のテーブルに置いてくれる?」

「分かったわ」

コトン、と置かれたお盆を素子はまじまじと見る。サンドイッチはハムと卵ペーストというシンプルなものであった

「しかし一人で食うにはいささか量が多くないか?」

「大丈夫です、私達も食べますから。わーちゃん、ちょっと早いけど休憩にしましょ」

そう言って2人はソファーに座った

「わーちゃんはどうも私の店のお手伝いをしたいらしいんです」

「…春さんにはお世話になっているしお礼がしたくて」

アイスコーヒーを飲むとまろやかな苦みが口に広がる、朝に飲むコーヒーとしては最適だ。サンドイッチも卵のペーストが美味しくお腹が満たされていく

「…少佐、この後どうするつもりですか?」

「ちょっと気晴らしに町に出ようと思っているが」

「それじゃあちょっと頼みたいことがあるんですが・・・」

「春さんが頼み事とは珍しいな、どうしたんだ?」

「コーヒーミルが壊れちゃいまして、コーヒーを挽けなくなったんです」

「春さんはコーヒー豆をその場で挽くからストックとか出来ないのよね」

「それじゃあこのコーヒーは」

「水出しコーヒーは淹れるのに一日かかるんです、丁度豆を挽き終えたタイミングで壊れてしまって」

「成程、分かった買ってこよう。場所は?」

「ありがとうございます。場所は道具店『パッカーブリッジ』という所で商品は私が店員さんに電話して用意してもらいます。少佐は『サクラの代理で来た』と言えば大丈夫なように連絡しておきます」

「サクラ?あぁ“スプリング”フィールドだからか」

「えぇ、少佐は日本人だからサクラには詳しいかもしれませんね。私、外に行くときはこの名前を使っているんです」

「でも春さん、どうして偽名なんか?」

「一つは人形だとバレないために、人形だと分かった瞬間態度を変える人はそう珍しくはありませんから。一番の理由は身を守るためですかね。」

「?」

素子が黙っているとスプリングフィールドはコーヒーを飲み切って静かに彼女の顔を見た

「人間の中には病的なまでに人形を憎んでいる人がいます。それぞれに深い事情があるのかもしれませんが…魔女狩りならぬ“人形狩り”が最近見られるようになったんです」

「…おまけに人形からは貴重な資材が取れる新品なら3日は食べていけるし部品だけでも普通に働くよりはお金がもらえる。復讐のためか、金稼ぎの為か。何れにせよ私たちにとってはいい迷惑だわ…」

あながち、自分も無関係な話ではないかもしれない。そう思いながら素子は最後のサンドイッチを食べた

「分かった、春さんはこのまま指令代理を頼む。取り敢えず出かけてくるから買える準備が整ったら連絡してくれ。コーヒーとサンドイッチごちそうさま」

そう言って彼女は司令室を後にした

 

私服に着替え彼女はガレージへと向かい車を動かす、目的地までは一時間弱かかる。カーラジオを流すと陽気な音楽が流れ日差しはぽかぽか暖かくそよ風が吹いている。まさに理想の休日といった感じであった。

町へ到着して車を駐車場に止め降りて携帯を見るとスプリングフィールドからメッセージが入っていた

(『準備整いました、いつでも買えます』か、それじゃあ一番最初に買って適当にブラブラするか)

電脳で地図を広げ店を探すと駐車場からそう遠くに離れていないことが分った

(しかし“パッカーブリッジ”か…店主は日本人か日本マニアか?)

しばらく歩くと目的地が見えてきた、てっきり道具屋と言うぐらいなのだからこじんまりとした店かと思ったらビル丸ごとが道具屋のようであった

(これは色んな種類がありそうだな…春さんの買った後ちょっと見てみるか)

自動ドアが開かれビルの中に入ると真横に案内板が掛けられていた、どうやら厨房関係の道具は5階にあるようだ

(10階は義体関係…?パーツが売ってるわけじゃないだろうしメンテ道具とかか?後で見てみるか…)

先ずはエレベーターに乗り5階へと目指す、この道具屋は中々人気のようでエレベーターは人で一杯であった

やがてエレベーターは5階に到着し降りた素子は店員を探し見つけた

「ちょっといいかしら」

レジの店員は突然現れたサングラスの高身長女性に驚いたが直ぐに

「大丈夫です、ご用件はなんでしょうか」

と営業スマイルで彼女に答えた

「商品の取り置きをお願いしていたんだけど…“サクラ”って言う名前で」

「あぁ、サクラ様でしたか。…失礼ながらお声がお電話で応対した時とは少し違うような…」

「彼女は急用が入ってしまってね、私は代理で来たってわけ。問題は…」

「いえいえ、ありません。分かりました。では一度レジに来てもらえますか?」

レジに来て素子は商品を受け取った。

「お支払いは?」

「現金で」

「かしこまりました。…しかしお客様珍しいですね。」

「そうでしょうね、こういう本格的なものを買う人なんてほとんどいないでしょうし」

「そうですね、戦争が終わったと思ったら今度は機械人形の反乱…落ち着いて珈琲を飲むなんて大抵の人は夢のようなものですよ。この道具屋もそりゃもう閑古鳥が鳴いてましてね。…店長があのフロアを作るまでは」

「あのフロアって?」

「義体ですよ、お客様エレベーターから来たでしょう?あそこに乗っている人は殆どが義体のフロアに向かうんです。今じゃここに来るお客様の8割がそれ目的ですよ」

「…だが道具屋だから所詮売っているのはメンテパーツとかだろう?」

「行ってみれば分かりますよ、失礼ながらお客様も義体のご様子」

「分かるのか?」

「そりゃま、今時生身の人間なんてのはマイノリティですからね。だから長いこと生身の人間をやっていると区別がね“雰囲気”で分かるんですよ」

「成程。…それじゃあ」

素子にとっては生身の人間の期間よりも圧倒的に全身義体となった期間が長い。故に彼女には「雰囲気」が分からなかった。

(マイノリティしか見えない世界があるってことか)

そんなことを思いながら彼女は商品が入った袋を持ちエレベーターと向かっていた

 

10階は5階と比べると店の雰囲気が大分違っていた。まるで武器屋のようなごつごつとした硬い雰囲気を感じる。客の数はこちらが圧倒的に多い、どの客も真剣に商品棚を見ている

(これはメンテ用の道具だな、凄いな義手や義足が裂けたり千切れた時の簡易修復キットが売っている。こんなの民間人に必要なのか?いや必要だからこんなに人がいるのか…)

簡易修復キットは人工皮膚や人工血管と同じ材質で出来たものでありペースト状になっている。これをパテのように患部(千切れた人工血管の先端、裂けた人工皮膚)に塗ると硬化して出血などが止まるというものだ

(あっても損ではないからな、買ってみるか…)

しばらく商品棚を見て回ると同じようにメンテ用のパーツ、応急処置の道具ばかりであった。確かにこれだけ義体用の道具があれば人気が出ても可笑しくはないがこれだけでここまで人が集まるものだろうか?疑問を感じながらさらに店の奥に進むと素子はとんでもないのを目にした

(ディスケット…!?)

ガラスケースの中に入っていたのはグリフィンでも戦術人形のラーニングに用いる戦闘データが書かれているディスケットだった。戦術人形のデータとは言え人間の電脳にもインプットすれば戦術人形と同じ効果は得られる、訓練せず手軽に強くなれる手段だ

(バカな、何故こんな場所で…!一体どこから入手した!?)

民間・専門問わず戦闘データをインプットしたディスケットを売るのは違法である(この世界は基本国という組織は解体されているが戦争前に巨大な国だった場合は縮小しながらも生き残っているケースがある)

つまりこの店は違法商品を販売しているのである、他にも違法商品を売っていないか彼女は調べることにした。

(なんだこれは…!?義手…?いや、武器を仕込むタイプの義手か!)

 素子の思案に応えるかのようにガラスケースの中の義手はいくつかのパーツに分割され中の砲身が伸びるデモンストレーションを行った

(こういう武器を売るには当たり前だが許可証が必要だ、いや仮に許可書があっても武器屋は武器屋として独立して営業しなくてはいけない、こういうビルの中にあってはいけないはず…)

彼女はこれらの証拠を視覚端子に記録し、早々に立ち去り基地へと戻ろうと店を出ようとした。だがエレベーターに乗ろうと近づいた時、扉の向かい側から凄まじい殺気を感じた。だが気づくのが遅すぎた。扉が開かれたと同時に銃声が聞こえ客らが悲鳴を上げる

何重にも聞こえる銃声を素子は店の入り口付近にある商品棚の影で身をかがめることしか出来なかった。やがて銃声は止み、薬莢が落ちる音も消えたころ

「安心しろ!!今のは威嚇射撃だ!誰も狙っちゃいねぇ!」

高身長のサングラスをかけた青年が店に向かって声を上げた

「もっとも当たるかどうかは今後のお前らの動き次第だがな」

ひげ面の中年男性が笑いながら言う。

彼ら以外にも中肉中背の男性3人いたが彼らは声を出すこともなく無言の殺気を銃口と共に客らに向ける

「さて、俺たちの要望は二つ。スマートに行こうぜ!」

青年は続いてこう言った

「先ずはこの店の無期限営業停止!そしてここにいる奴らの義体をよこせ!」

「手だけ改造手術を受けた奴は手を!足だけの奴は足を!機械人形から人間に戻してやるって言ってんだよ!」

「今や人間は人形の下の存在になりかけている、だが俺たちがいる限りそうはいかねぇ!これからの時代も人間様が“上”でいるために!俺たちはヒーローだ!」

狂気を孕んだ声で青年は叫ぶ、支離滅裂なそれは人々を恐怖に陥れるのには十分だった。

道具屋は文字通り修羅と化した!

 

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