それでは本編をどうぞ
「…すいません、もう一度言ってくれませんか。どうも自分の耳がおかしくなってみたいです。私には“戦術人形を飛ばして外にいるAR小隊と合流させる”と聞こえたんですが…」
素子らは今、自分達の人形を引き連れて“試作兵器実験場”と言う部屋に向かっている
「大丈夫、お前の耳はおかしくなっていない。お前が言ったとおりのことをこれからする」
「…素子指揮官、先ほどの怪我で電脳が狂ったんじゃ」
「狂ってない、それと面倒だからトグサ、これまでのように少佐と呼べ」
「…!分かりました少佐」
「何々、君ら知り合いなのか?」
「その話は生き残ったらすることにしよう。」
「そうだな、しかし素子指揮官。ギソーニ指揮官が貴方が狂ったと思うのも無理はない。“飛ばす”とはどういうことなんだ」
「李指揮官、“人間大砲”って言葉を聞いたことがあるか?」
「大昔のサーカスがやっていたことだろ?まさかその人形バージョンをやろうというのか君は」
「少佐ぁ、ここはPMCの拠点だぜ?そんな曲芸用の小道具なんておいている訳がないだろ。それともグリフィンがそんなトンチキな兵器を作っとるとでも?」
バトーの考えることももっともだ、仮に戦術人形を人間大砲のように飛ばせる装置があるとしてそれが何の役に立つのか。そもそも人間大砲はネットが落下地点にあるから出来るのでなくネットを置かない人間大砲など派手な公開処刑、手の込んだ自殺でしかない。いかに戦術人形と言えど破壊は免れたとしても作戦行動に支障をきたすダメージは避けられないだろう。そんな兵器が作られるわけがない…そう思ったがその考えは素子の沈黙によって否定される
「…マジ?」
「大マジよ…よし繋がった。M4、応答してくれ」
『__少佐!良かったご無事なんですね!』
『あぁ、取り敢えず皆無事だ。一つ確認したいが今AR小隊はこの拠点周辺にいるんだな?』
『その通りです、現在我々は基地内に侵入すべく入口を…』
『いや、この基地に入るには正面からしかない。それよりもポイントG-1に行けるか?』
素子は自分の考えた作戦をM4に説明した。G-1地点は木々や岩などの遮蔽物が少なく開けた地点であり落下地点には適している。
『…行けますがその場所は基地から離れてしまいます。それに今基地の戦力を減らすのは悪手かと、お言葉を申し上げますが私たちにとって今の最優先事項はあなた方をお守りすることだと思います!』
『違う!木乃伊取りが木乃伊になるようなマネをするな!今の小隊の最優先事項はこの無限に沸く鉄血の巣穴を潰すことだ!』
『…了解しました。AR小隊はポイントG-1地点に向かいます!』
M4と連絡を終えたころには素子らは目的地の入り口前に到着していた。だが入口はパスコードでロックが掛けられており押しても引いても開かない。
「やはり鍵がかけられていますね…どうしますか少佐」
「扉と電脳を接続して解析して開けるという手段もいいが…この作戦、私の一存だけで出来るというわけではないからな」
「クルーガーにここのパスコード聞くのと同時に少佐が今やろうとしているその人間大砲作戦の許可を取ろうということか」
その通りだ、と彼女がBCOTMを起動しながら答える、クルーガーもヘリアンと同じく非電脳の人間故に現状彼とはこの手段でしか連絡が取れないのだ。
『素子指揮官か。…何故君は試作兵器実験場に居るのかね、私は最上階へ向かうように命令したはずだが』
『…クルーガーさん、現状我々は鉄血に対し圧倒的不利な状況です。外部からの支援が到着するまでにこの拠点が制圧されるのは時間の問題です』
『確かに君の言う通りだが、現段階では我々が可能なのは外部からの支援が到着するまで耐えきることのみだと思うが?』
『いえ、方法はあります。そこで私は一つの作戦を提案したいのです』
素子は作戦について説明した。もしもここで彼が拒否の姿勢を示せばこの作戦は発動出来ない。彼が答えるまでの時間が何時間かのように感じられる
「…よし、やってみるがいい指揮官。」
「感謝します」
「だが、人形達を飛ばしてAR小隊と合流した後はどうする?君も飛んでいくのか?」
「ええ、そのつもりです」
「了解した、では試験場のパスコードを教えよう」
言われた通りのコードを打つと扉はすんなりと開いた。中に入ると体育館の様な何もない広大な空間が広がっていた。入り口近くには階段がありその上にはドアがあった。どうやらあそこが試験中の兵器を測定する場所のようだ。階段を上りノックをするとヒィッ、という弱弱しい男の悲鳴声が聞こえた
「開けてくれないか、我々はグリフィンの人間だ。」
男は恐る恐る素子に尋ねる
「何故グリフィンの人間がここにいるんだ?君たちは鉄血兵の排除に当たってるはずじゃ…」
「実はそれに当たって君たちIOPの試験兵器をお借りしたいんだ。…取り敢えずドアを開けてくれないか。クルーガーさんからの許可も取っている」
流石にその名を出されると断るわけにもいかなく、男は素直に扉を開けた。やせ細った白人の男が彼女らを出迎えた
「僕たちの試作兵器を使いたいって何を使いたいんだ?生憎だが俺たちは特撮に出てくるようなメーサー兵器みたいな超兵器なんて作ってないぜ」
「いやウチの少佐はそういうのをお望みじゃないんだ」
「そうだ、そちらで開発している特殊砲弾を使わせてもらいたい」
「特殊砲弾…『アルテミス』のことかい?」
特殊砲弾アルテミスはミサイルの形をしたカプセルのような兵器である。カプセルに人形を入れて目標地点を決め、ミサイルランチャーやロケットランチャーにセットすると通常のミサイルよろしくアルテミスが飛び着地すると内部から扉が開くという兵器である。援軍の要請や緊急性の高い任務の際、いち早く戦地に赴くために開発されたのがこの兵器だ
「そうだ、今月のカタログに載っていただろ?」
「確かに試作兵器とはいえ基本的には問題ないが…それを使うのか?」
「あぁ、外の部隊と合流して敵の大本を叩くつもりだ」
「…しかしそれでは指揮する人間はどうするんだ」
「それに関しては私も飛んで指揮を行うつもりだが…」
「残念だが、君がこの特殊砲弾を使用することは出来ない」
「何故だ?人間ならまだしも全身義体の人間なら着地の衝撃くらい…」
「いや、全身義体とはいえ君は人形じゃない。人形じゃないものがこれを使うことは不可能なんだ」
男は説明した、この兵器には発射や着地のGや衝撃に耐えられない人間が使用できないように烙印システムを利用しているのだと。IOPにとっては戦術人形が己の銃を自分の体の一部のように扱えるためのシステムが人間と人形の違いなのだと言う。
「それでは仕方ない、人形だけで行ってもらうとして指揮はここで…」
「それは不可能だ少佐」
聞き覚えのある野太い声、後ろを振り返るとクルーガーがいた
「クルーガーさん、何故ここに…いや不可能とはどういう意味ですか」
「うむ、先ほどこの拠点にEMP攻撃を喰らったようで一切の通信が出来ん。恐らく電脳による通信も難しいだろう。人形達をAR小隊と合流させたところで以降の指示は不可能ということだ」
「…それじゃあ我々にできるのは援護が来るまで耐え忍ぶしかないってことかよ」
「その通りだ、李指揮官。素子指揮官、君の作戦は不可能だ。人形達を引き連れて最上階へ速やかに向かうように、これは命令だ」
「…クルーガーさん、一つ提案が」
「…素子指揮官、私の話を」
「失礼なことは重々承知しています、しかし一つ話を。敵がこのまま物量で押し切るとは思いません」
「…どういうことか手短に話してもらおう」
「この大群はあくまで囮でしかないということです。もっと恐ろしいものから目を背けるための」
「恐ろしいもの…?」
「思い出してください、今回の戦闘は大地震並の揺れを感じるほどの衝撃で始まりました。敵は遠距離から攻撃できる何かを持っていたということ。しかしそんな攻撃力を持った兵器を何故再び使わないのか」
「次弾の装填にとんでもなく時間がかかる兵器か、それとも兵器自体にトラブルが起きたのか…」
「ともかく次の一撃を撃つために、我々に撃てないことを悟らすまいとしてあの大群を鉄血兵共を放った…私はそう考えます。」
「つまり、悠長に相手している時間はないと」
「えぇ、それにもう一つ」
「何だ?」
「連中、今更になって通信攻撃をしてきましたが援軍を呼んだこのタイミングでの攻撃は偶然とは思えない。連中は一つでも多くの人間・人形を殺すつもりではないかと思うんです。」
「ちょっと待ってくれ、それでは君は通信傍受されているとでも言いたいのか」
素子の仮説は筋が通っているが認められるものではない、何故なら戦争において通信を聞かれるというのは『どうぞ殺してください』と言っているようなものだ。だからこそ軍は通信傍受されないようにそのシステムを強固なものとし万一聞かれてもいいように暗号などを決めておく。これが本当ならシステムを一から見直すだけでなく犯人捜しをし、犯人を手中に収めなくてはいけない。そうなればPMCの業務は暫くストップする。
クルーガーは腕を組み渋い顔をする、やがてこう言った
「犯人捜しは後だ、援軍が来るまでに後2時間はかかる。それまでに…」
「えぇ、それまでに通信妨害を無力化し、連中に指示を飛ばしている通信施設を破壊しここを退避する。」
出来ればその長距離兵器の破壊も行いたいが相手が何処にいるのかもどんな兵器なのかも、そもそもそのような兵器が実在するのかもわからない。“あるかもしれない”と証拠づけた衝撃でさえ、その衝撃で出来たであろう破片や窪みさえ見たことはないのだ。全てが机上の空論であり何一つとして素子の考えを作戦を肯定する材料はない、しかし否定する材料もまたないのだ。
「そしてこの作戦の概要はこれから飛ばす人形に伝えますがそれより先の事はM4A1に一任します」
クルーガーは沈黙した。そして彼は怒りを孕んだ目で彼女を見て口を開く
「素子指揮官、君は…自分が何を言っているのかわかっているのか」
「M4A1に指揮を任せる、私はそう言いました」
「…素子指揮官、何故この戦争は始まった?人形が人間の手から離れたからだろう?人形は力だけなら我々よりも強い、だが機械の脳はいとも簡単に汚染されてしまう。0と1でしか見えない世界に義理や人情、信念といったものは存在しない。人間のために戦う理由など人形には存在しない、しかし人形は優れている。人間が何時間もかけて見に就く技術をいとも簡単に身につける、この短時間で戦場に送り出せることがどれほど有利な事か。では優秀な人形が闊歩するこの戦場で何故人間が必要なのか分かるか君には」
「…」
「もしもの時のために人形が鉄血に寝返りをしようものならそれに対処するために、人形を殺すために“目”として我々人間が必要なのだ。君が言っているのはその目をつぶれと言っているようなものだ」
クルーガーの言っていることは素子にも分かる。寧ろここで「よし素子指揮官、M4A1に全てをゆだねよう」など言っていたらグリフィンの責任者としての思考が欠如しているとしてこれから先、彼の事を軽蔑のまなざしで見ることになっただろう。
「クルーガーさんの仰ることは正論です。つい数ヶ月ほど前も人形に認識阻害を起こさせるウィルスをリアルタイムでハッキングして送り込むなんてチップが存在して鉄血兵を撃てなかったという事態もありましたから、人形が汚染されて寝返る心配は全くもって夢物語ではないでしょう」
しかし、と付け加えて彼女は話を続ける
「そもそも我々には選択がありません、あるとするならば寝返ることを心配してこの拠点にいる人間だけは逃げてやって来た援軍と拠点を失うか、拠点だけを失うか。二者択一です」
「…」
「それに、私はM4A1を信じています。指揮モジュールを搭載していることは勿論、人形にも関わらず夢を見る電脳を持っている…他の人形とはハードもソフトも違います。異質な人形ではありますが“異質”は武器だと私は考えています。」
「…それが君が、M4A1に一任する理由かね」
「信頼関係というのは言葉では100%説明できないものですがおおよそはその理由です」
「フム…戦場において信頼関係、という言葉ほど信用できない言葉はない。しかし私とて信頼関係を鼻から否定するつもりはない。私が君たちを信じるように君たちは人形を信じているだけの話ということか…」
「そうですクルーガーさん、簡単な話なんです」
「…よかろう素子指揮官、好きにやりたまえ。」
クルーガーが許可してくれたその先はとんとん拍子で事は進んだ。
・G36(素子)
・スコーピオン(素子)
・SPAS-12(李)
・Super-Shorty(李)
・Thunder(トグサ)
・PPK(トグサ)
という編成でそれぞれがアルテミスの中に入り発射台の中へ挿入される。IOPの男がアルテミスの着地地点をセットする。着地地点は勿論M4達が待機している場所だ。発射台は最上階に位置しているのでその間、発射台及び挿入する人間や人形は無防備となるので他の人形がその間援護をする。
「準備完了したぜ少佐!」
「よし、発射後アルテミスが見えなくなるまで防衛にあたる。では発射!」
6体の人形が勢い良く空に放たれる。放たれた矢が見えなくなるのに長い時間は要しなかった。見届けた素子らは彼女らを信じ各々の銃を構えなおすのであった