恐らくこれが今月最後の更新になると思います。
長話もアレなんで本編をどうぞ!
AR15は箱に入れられた、電波を完全遮断する箱は例え彼女にGPSの類が付いていたとしてもそれを観測者に伝えることは出来ない。手足を拘束され箱の中で寝かされる友人を見てM4はまるでこの箱が棺のように見えた。今生の別れを予期させるようなイメージに彼女は目を瞑りたくなる。
「そんなに不安がるな」
素子に声をかけられて気づいたが自分の手が素子の服の袖を掴んでいる、彼女はその手を優しく撫でる。ほんの少しだけ不安がほぐれると素子と話したくなった
「少佐、AR15は大丈夫ですよね。解体なんか…」
「仮にもAR小隊のメンバーだからな、流石にそれはないと思う。彼女が意図的に情報を流したのなら別だが…」
素子の言葉にM4は首をもげんばかりの勢いで横に振る
「大丈夫、私もそうは思っていないさ。あいつがそういうことをするようなタイプじゃないことはお前達と戦ってきて気づいているからな。」
今はただ信じて待て、と素子はM4の頭を優しく撫でる。こうして撫でていると彼女が戦うために作られた存在ということを忘れてしまいそうになると素子は思った。しばらく撫でているとM4がもう大丈夫です、と言うので撫でるのをやめ彼女達はヘリに乗り込んだ。
誰一人として話すこともなく、ヘリは浮上し基地へと帰還する。
基地へ帰還した素子はまず今回の戦闘の報告書をまとめるためにM16を呼んだ。本来なら隊長であるM4を呼びたいが彼女はAR15が内通者であったという事実にひどくメンタルの負荷がかかっているようでヘリが着陸した時に声をかけても気が付かず、M16が肩を叩いてようやく気がつくほどボンヤリと落ち込んでいる具合であることを鑑みての判断だ。カリーナに呼び出すように指示を与えると卓上の電話がなった
「はいこちらS09地区基地司令室」
「少佐、私だ」
「ヘリアンか、帰って早速任務の受注か?」
「正解だ、といっても今回は別に戦闘をするわけじゃない。明日、本社にて今回の拠点で戦闘を行った指揮官・スタッフを集めて緊急の会議を行うことになった。」
「私もその会議に参加しろというわけね」
「そういうことだ。…そして少佐、“アレ”を持ってきてくれないか」
「“アレ”って昨日完成したばかりの?」
「そうだ、恐らくそれの力を借りることになると思うからな」
「了解した」
「…聞かないのか」
「え?」
「AR15のことについては」
「そりゃ気になるけどまだそっちの目的地についたばっかでこれからでしょ?」
「確かにそうだが…お前はAR15が意図的に情報を流したとは思わないのか」
おかしなことを聞く人だ、そう思った。もし意図的に流すような内通者であればあの短時間で出来る調査でわかるようなヘマはしないだろうし彼女の性格上、もっと精密な情報を流し脱出口に敵を配置するだろう。だが現実として我々は死傷者を出すことなく脱出することが出来た。
「彼女が我々を裏切ることはありえないからだ」
これが素子の結論である
「お前は人形を信頼しているんだな、それは単純に人形が噓をつかないからか?」
「そうじゃない、私は彼女の人格から判断した。人形ならば無条件で信頼するわけじゃない。私たちが人間を信頼するときと同じことさヘリアン」
「…お前みたいに人形を人形と見ていない指揮官も珍しい。ありがとう、参考になった。結果は後日に報告できると思う。それでは少佐、またな」
電話が切れたと同時に部屋のドアが叩かれる
「少佐、M16です」
「入れ」
「失礼します」
M16が入室し敬礼をする
「先ほどの戦闘の報告に参りました」
「悪いわね、帰ったばかりなのに。そうかしこまらなくていいから普通に話して頂戴。」
「じゃ、遠慮なく」
そう言うとM16は肩の力を抜き、表情も柔らかなものになった
「妹の様子はどうだ?」
「考え事ばかりしてるって感じだな、人で言う“心ここにあらず”ってのがしっくりくる姿だな」
「そうとう重症ね、彼女にはこれからも任務に出てもらわなきゃいけないのにこのメンタル状態じゃあね…」
「妹のメンタルケアは姉である私に任せてくれないか?」
「そうだな、M16の方が適任だろう。よろしく頼む。」
「それで少佐、一つ報告したいことがある。実はハイエンドモデルと接触したんだ」
「接触したのか?それでよく傷一つなく帰ってこれたわね」
「いや、接触したといってもモニター越しでなんだ、名を“デストロイヤー”と名乗った」
「破壊者ねぇ…大層な名を名乗るじゃない。了解、ヘリアンに報告しておく」
「SOPが枝をつけたのである程度は終えると思う、これはそのデータが入ったUSBだからこれもヘリアンさんに渡した方がいいかと」
「了解した。でかしたぞ」
「それじゃあ報告することも終えたんで私はこれで…」
「ちょっと待て」
素子は端末を取り出し操作をするとM16の端末が震えた
「少佐、これは…」
「…まぁボーナスみたいなもんだと思って、これで温かいものでも春さんのとこで買ってきなさいな。温かいものを食べれば妹さんのメンタルも少しは回復すると思うわ」
「少佐、お心遣いありがとうございます」
やはり少佐は不思議だ、人形を兵器だと思っていない。彼女は私たちの存在をどう認識しているのだろうか。彼女の目に私はどう見えているのか。…まさか人間に見えているのだろうか。私の顔が他の人形のように美しくないから?
戦術人形の顔が何故、全て美人なのか。これの真意を知る者は慣習となった今存在しないが
人形と人間を見分けるためだと言う意見がある。我々が奇麗な人物のことを「人形のようだ」と例えるように人形の顔は人間の理想が詰まっている顔だ、人形が人間よりも醜いことは有り得ない。また人形が人間社会の溶け込んだ時、完全に溶け合わないようにするために人形の顔を美人に作った、人間の持つ防衛反応が無意識に現われたモノが今の戦術人形の顔を美人たらしめるという意見も存在する。それほどまでに人形の顔は人間のそれとは大違いなのだ
そう考えながらスプリングフィールドの店に行く途中、鏡に映る己の右目の眼帯と傷を見てM16はなに人間の女みたいなことを考えているんだと自分に呆れそんな女々しいことを考える自分に腹が立ち軽く両手で頬をたたく。一呼吸置くと乾いた音の後を追うようにM16はゆっくりと歩き続けた
翌日、素子は車でグリフィン本社ビルへ向かっていた。帰還してからM4の顔を見ていないので気になりながら運転しているとあっという間に到着した。
駐車した車から降り、素子は意識を切り替えるため頬を両手で叩く。若干強くたたきすぎたなと思いつつ痛む肌を無視して受付をすませ指定された部屋へと向かう。
部屋に入るとすでに何人か人がいてその中にはトグサの姿が見える
「トグサ、昨日はお疲れ」
「少佐こそ昨日はお疲れ様でした。それで…M4A1の様子はどうです?うちのThunderって子が気にかけていて」
「あまりよくはないわね。今戦場に出すのは彼女にとっても私にとっても危険すぎる。M16曰く『心ここにあらず』だとさ」
「うーむ、メンタルケアが必要ですね、AR小隊のリーダーがノイローゼで全滅だなんてなったら…すいません失礼いたしました。」
「いいのよ、今のままだとそうなるのは確実だろうし。それはそうとThunderってのは誰?そんな戦術人形いたとは思えないんだけど」
「Thunderは特殊なケースでして…分け合ってうちに加入したんです。休暇の時、街で歩いていたらボロボロになった彼女を見つけて気がついたら基地で修理していたんです。
放っておけなかったんですよ、見た目がうちの娘と同じぐらいの年齢で…」
「トグサ、お前家族とは確か…」
「数年は会っていません、事実上の別居です」
「…」
「情けない話、私は戦術人形を兵器とは思えないんです。人間と思ってしまう。少佐、親になるとどんな子供でも傷つくのを見るのがとても辛くなるんです、たとえそれが機械であろうと。本当はいけないことだと分かっているんですが」
どうしてIOPはこんな人間そっくりな存在を戦場に投入したんでしょうね、とトグサは苦笑いしながら言う
素子は子を持ったことがないのでトグサの話すことに共感しがたいものがある。勿論、子供が傷つくのを見るのは辛いが恐らくそれはトグサのとは異なるのだろう。
トグサは人形が人間に見えると言った、私はどうだ?自分は戦術人形をどう見ている?少なくとも兵器としては扱わなかった、9課の時のように互いに尊重しあい仲間意識を持って接している。こう接するのは彼女らを人間として見ているからなのか、それとも私自身が人間か人形か分からない宙ぶらりんな位置にいるから無意識に同類だと思っているからなのか。…互いに背中を預けている仲間が何者か、考えることはなかった。そもそも全身義体の人間と人形は何が違うんだ
考えればキリがない、しかし考え込んでしまう。思考がより深くなろうとしたところでヘリアンの声でハッとした。
「諸君、待たせたな。これより会議を始める。まず昨日はご苦労だった。諸君らの活躍により拠点での死傷者は0人、人形の被害もほとんどなかった。だが、今回の戦闘で我々はいくつかの疑問を抱くことになった。まずは一つ…レーダー班」
ヘリアンに言われて一人の男が前に出る
「レーダー班の班長、マークです。我々は拠点にあるレーダーで敵を探すのが任務ですが皆さん、何故敵がいきなり来たのか疑問に思いませんか?拠点のレーダー範囲は半径10kmを感知することが出来ます。そして対地・対空用に分けて配備しているのですが…最初に反応したのは対空レーダーの方なのです。始めにレーダー画面に赤点が一つだけ映ったかと思うと直ぐに画面が赤点で埋め尽くされました。」
「つまり敵は空中から来たわけだ」
「レーダーを信用するならばヘリアンさんの言う通りです、ただこれまでの戦闘でドローン兵器こそあれど人型鉄血兵が空中から来た例はありません。敵が輸送機の類を保持しているのではないかと言うのが我々の考えです」
「それが本当であれば、これは非常に厄介なことだ。我々は対空兵器を保持していない、他の対空兵器を保持しているPMC協力要請しなくては対処しようがないということだが李指揮官、鉄血公造は航空機を保持していたのか?」
「私が居た時にはありませんでした、そもそもRipperのような人形は空挺用に作られてはいないため着地の衝撃を逃がすような方法はプログラミングされていないんです。我々の知らない間にプログラミングされた可能性はありますが…」
「敵は見えないところで改良されている可能性があるということか…残骸の回収が必要だが、今基地に近づくのは危険だ…」
「遠距離から攻撃できる新型兵器の可能性ですか」
「その通りだ素子指揮官、現在も拠点は健在だがお前の予想は当たっているかもしれん」
ヘリアンはモニターに一枚の写真を写した
「これは今朝衛星から撮った基地周辺の写真だ。ここを見てほしい」
写真が拡大するとそこにはクレーターが見えた
「もしこれが拠点に直撃していたら我々は反撃する間もなく全滅していた可能性が高い、今回は不幸中の幸いだったが次はそうはいかん。この兵器の特定を行い破壊しなくてはならない。」
「肝が冷えますね少佐、敵が外してくれて助かった」
(…敵は本当に外したのか?)
「そして最後にAR小隊によって新たなハイエンドモデルが確認された。名をデストロイヤーと言う。しかしこれに関してのデータはない、恐らく現在の鉄血が作った新型だろう。もしかするとこの攻撃の正体が奴かもしれん」
「ヘリアンさん、データが存在しない敵にどう対処するつもりですか」
「良い質問だ、トグサ指揮官。蛇の道は蛇だ、鉄血の事は鉄血自身に聞けばいい」
「聞けばいいって…一般的な鉄血兵にはコミュニケーション能力が」
「こちらにはハイエンドモデルがいるということだ、トグサ」
「ハイエンドモデル?そんなものグリフィンには…」
素子はポケットからPCを取り出した。画面を開いても真っ黒のままだ
「紹介しよう、S09地区が鹵獲し我々に就くことを決めてくれたハイエンドモデル
“イントゥルーダー”だ」