さて、お詫びと言っては何ですが今回はいつもよりも2倍、6千字近くの文字数でお送りいたします。
長話もアレなんで、本編をどうぞ!
「イントゥルーダーだって?素子指揮官、君はあのハイエンドモデルを仲間にしたと言うのか?」
李指揮官が驚いた、無理もない話だ。そもそも鉄血兵を破壊しその残骸を回収した例はいくつもあるが鹵獲した話は一度もなかった、ハイエンドモデルでは素子や李、トグサが戦ったハンターしか例がなく奴は自死を選んだので鹵獲した記録は一つもないのだ。ましてやそのハイエンドモデルを仲間にしたとなればこれは前代未聞の話である
机の上に置かれたPCに会議室にいる全員が画面を見ようと近づくのを横目に素子はPCを立ち上げる
「細かい話は後日報告書を送らせてもらうわ。とにかく、彼女はこのPCの中にいる。と言ってもこのPCは集音マイクをオミットしているから私たちの声は彼女には聞こえないわ。」
「では素子指揮官、奴とはどのように会話すればいい」
「簡単ですヘリアンさん。SNSで会話するようにキーボードの入力で会話が出来ます」
「分かった。では奴と“会話”をしてみたい、よろしいか?」
「勿論」
「では初めに、先ほど見せたクレーター跡の写真を見せて奴の意見を仰ぎたい」
「ではPCに写真のデータを入れたUSBを刺してください」
「了解した」
そう言ってヘリアンはUSBをPCに差し込んだ。しばらく待つと黒いPC画面に白い文字で書かれた文章が書かれた
〈この写真は何でしょうか〉
〈イントゥルーダー、こちらはヘリアントスだ。お前にいくつかの質問がある〉
〈ヘリアントスさん、初めまして。お噂は素子指揮官からよく聞いていますわ。質問があるということですが私でよければ何でもどうぞ〉
〈感謝する。この写真は昨日鉄血の攻撃によって出来たクレーターだが、鉄血はこのような強力な兵器を保持しているのか〉
しばしの沈黙の後、再び白い文字が画面に走る
〈保持していますわ〉
〈それはいかなる兵器か〉
〈恐らく、この跡から推察するに“ジュピター”による攻撃かと〉
〈ジュピターとは?〉
〈それに関してはあなた方人間の方がお詳しいはず。何故ならこの兵器は正規軍のデータを盗んで出来たものですから〉
正規軍、それはこの世界における貴重な職業軍人からなる軍隊である。資金・兵器・人数、あらゆる面で他のPMCを軽く凌駕しその兵器は戦術人形よりも圧倒的な差を見せつける
PMCとしては巨大なグリフィンだろうと正規軍と対峙すれば彼らにとっては赤子の手をひねるよりも簡単な事だろう。そんな軍のデータが盗まれたとなれば相当強力な兵器であることも納得がいく
キーボードから手を放し、ヘリアンはトグサを呼んだ
「ギソーニ指揮官、“会話”が終わったら正規軍に話を聞いてきてくれ」
「了解、しかしPMCの話を軍人さんはまともに取り扱ってくれますかね。手土産でも持っていきます?」
「奴らにとってもこの問題は無関係じゃいられないはずだ、何せ自分の所のデータが盗まれたのだ。喜んで渡してくれるだろうさ」
「了解」
トグサの返事を聞くとヘリアンは再び画面と向き合う
〈それだけの強力な兵器であれば巨体で簡単には動かせないはずだ。ジュピターは何処にある〉
〈それが私には分かりませんの。私はジュピターの権限を持っていませんので、何せジュピターはそいつのオモチャのようなものですから。私が知っているのはあくまでその存在だけでして〉
〈では権限を持っている奴は誰か〉
〈それに関しては答えられます。“ドリーマー”です〉
それは初めて聞く名前だった、ハイエンドモデルを指揮していたイントゥルーダーでも知らない情報を握っているとなれば彼女よりも地位が高い人形なのかもしれない、と素子は画面を見ながら思った
〈それではドリーマーとはどのような奴だ〉
〈一言で言えばサディスティック、でしょうか。人間の言葉で言う(他人の不幸は蜜の味)という意味を一番知っているモデルですわ。奴は〉
どうやらそれほどまでに陰湿なモデルらしい、そうであれば拠点への攻撃が外れた理由も納得がいく。奴は外したのではない、わざと外したのだ。何処かでモニターし慌てふためく我々をほくそ笑んでいたのかもしれない、そんな姿が想像できる
〈ただ奴に関しての情報は殆ど知りませんの、私は情報を盗むのが趣味なのですが奴の情報を盗もうとしたら危うく脳を焼かれるところでしたわ。他の皆さんはセキュリティが甘いというのに〉
〈侵入者の名に恥じない活動は結構だがここではしていないだろうな〉
〈勿論、もっともしたくてもこんな狭くて出られない場所じゃしろと言われても出来ませんの〉
〈それは良かった。では他にドリーマーに関しての情報はないか〉
〈奴は常に“デストロイヤー”と呼ばれるモデルと行動を共にしていたようですわ。奴の日記には彼女をどう虐めたかを記録する文章が一杯で、流石の私もその記憶だけ消去しようか本気で考えましたわね〉
加虐心を持つ鉄血兵か…もはや何のために作られたのか分からない。グリフィンの戦術人形も多種多様な性格を持っているが彼女らがもとは民生用の人形から改造されたのに対して鉄血は最初から破壊のために作られた機械だ。そんな存在に何故、感情や個性を持たせる必要があるのだ?個性があるならば奴らにも考える力や知性があるはずだ。私が最初に見たスケアクロウは人間になろうとしていたハイエンドモデルだった、そう思えるのは非常に高い知性を持っている証だ。では何故奴らはこの戦いに疑問を持たない、何故鉄血に所属して戦う必要があるのか。私たちは「人間存続のために、暴走したロボットから民衆を守るために」という大義がありここにいる全員はどんな目的で入社したにせよ根っこはその精神があったから入ったはずだ。だが奴らには大義などない、人間絶滅というのは目的であって大義ではない。大義というのは目的の先にある思想だ、グリフィンならば「鉄血を殲滅する」という目的の先に「民衆のために」という思想がある。鉄血はどうだ?「人間を滅ぼす」という目的の先に何がある。私が戦ってきたハイエンドモデルにはそのようなものは感じられなかった。大義なき戦争は辛く虚無でしかない、高い知性があるならばそのことにいち早く気づき自ら武器を放棄するはずだ。無論、ドリーマーやデストロイヤーといった会ったことのないハイエンドモデルには大義があるのかもしれない…
それとも奴らはそのことはとうに気づき、虚しさを避けるためにドリーマーの加虐性やエクスキューショナーのバトル・ジャンキーのような狂暴な個性をもつことで虚無をカモフラージュしているのか、そのために個性という何の戦略的優位性がないものを自ら作っているというのか
素子は考えたが全てが仮定だけの議論に意味はない、と我に返りヘリアンの方を見る。彼女はキーボードを操作し次の質問をしているようだ
〈デストロイヤーは現在、我々が破壊目標としている兵器だ。奴の情報はあるか〉
〈彼女は、端的に言うなら子供です、しかも生意気な。詳細なデータをお渡ししたいのですがよろしいですか?〉
〈許可する〉
数秒後、USBにデータファイルがインプットされ素子とヘリアンはファイルの中身をまじまじと見る。その中で気になる項目を見つけた、彼女はデストロイヤーを「子供」と表現したがそれは比喩表現ではなく身長が小学生のそれと同じであった。だがその身長に釣り合わない榴弾砲をメイン武装として使っているあまりにもチグハグなコンセプトに疑問を抱かずにはいられなかった
「ヘリアンさん、イントゥルーダーに質問したいことがあります。少しの間変わってもよろしいでしょうか」
「構わんよ」
PCの前に座り素子はキーボードで入力を始める
〈イントゥルーダー、草薙だ。一つ質問がある〉
〈これはお久しぶりです少佐、なんなりとご質問を〉
〈何故デストロイヤーは幼児体形なんだ〉
〈私の推測になりますがドリーマーの“趣味”だと思いますわ〉
〈それはどういう意味だ〉
〈デストロイヤーは奴によって作られた、そう奴の日記帳の1ページには書かれていました。奴は虐める前にそのまっさらな脳に教育を施したらしいですわ。歪んだ奴による教育、その結果は少佐にも分かるでしょう?〉
〈歪んだ人形が出来上がる、サディスティックな人形による教育だ蛙の子は蛙だろう〉
〈その通りですわ、デストロイヤーもまた虐めるのが好きな人形になった。しかし奴は自分のコピーでは面白くないと思い幼児体形のボディを作りました〉
〈何故、幼児体形のボディを?〉
〈奴はメンタルの構成を決まる最終的な要因は身長だと思ったそうですわ。奴は人間の子供の性格が生意気なことを知った、同時に昆虫や同族を虐めるような加虐心を持つことを〉
〈それは情操教育を怠った結果であって身長が原因ではない。メンタルを構成するのは教育や周囲の環境だ。奴は情報の表面だけしか見ていない〉
〈これは推測になりますがサドは弱きものをなぶることにとても性的興奮を覚えるタイプもいるそうです。つまり身長云々はフェイクで本当は己の欲求を満たすために、そして外部への理由付けのために幼児の加虐心をいかしたかったのではないでしょうか。だから榴弾砲という強力な兵器を幼児体形の人形に持たせた、そう私は考えますわ〉
〈それが本当なら恐ろしい話だ、そのドリーマーという人形がどう作られたのかが気になるところだ〉
〈人間で言うところの『親の顔が見たい』という心理でしょうね。しかし残念ながら私にそこまでのことは分かりませんわ〉
〈それは残念。ではそろそろ会話を終了しよう〉
素子はPCの操作を終えるとヘリアンの方を振り向き苦笑いしながら彼女を見た
「少佐、どうも我々は相当イカれた奴を相手にしなくちゃいけないみたいだな」
「ええ、頭が痛くなります」
「私もだよ、だがその前に奴のおもちゃたるデストロイヤーを捕獲しなくては」
そう言うとヘリアンは全員を元の席に座らせて次の議題を話しだす
「さて、我々にとって脅威であるジュピターの破壊の前にデストロイヤーの捕獲が最優先事項となったわけだがそれをどうするべきか話し合いたい、素子指揮官」
席を立った素子は一つの地図を共有する
「デストロイヤーは前回の戦闘でAR小隊と接触、その際に隊員が枝を付けることに成功し最後に通信が確認されたのがこの地図で示された地点となります」
そこは高低差の激しい土地で赤い点は一番高い場所に示されていた、そこが奴の拠点であろうと素子は睨みそこを攻撃すべきだと主張する。しかしトグサが挙手し彼女に質問をする
「鉄血の仮にもハイエンドモデルが枝をつけられるなんて素人みたいなミスをするでしょうか。我々を誘い込むための偽の拠点と考えるべきでは?」
「私もそう思ったが奴は同じ場所で今日まで10回も通信をしていた、内容まではモニタリングは出来ないが何回も通信する場所が変わらないというのは罠だとしたらこれ見よがしすぎて不自然だ。罠は罠だと気づかれないようにするから意味がある」
「しかしイントゥルーダーが言うには奴は子供だと言った、子供の作る罠と思えばこれ見よがしな通信の回数も納得がいきますが」
「わざと枝をつけてこちらをはめようと思う知性の持ち主がそんな真似はしないさ、それに衛星でこの地点を見た時軍事施設のようなものが建てられていたのが分かった。ここが奴の拠点なのは間違いない」
そういうとトグサは納得したのか礼を言うと着席した
「ではそれを踏まえてどうするべきか、素子指揮官どうだ」
「奴の子供という性格を利用したいと思います。高地に拠点を構えたのは我々としては辛いところですが同時に利点でもあります」
「敵は籠城を余儀なくされる、ということだな」
「それもありますが敵は恐らく逃走を図ると考えられます。そして普段行動を共にしている存在に指示を仰ぐでしょう。」
「ドリーマーか、しかし普段自分を虐める存在に頼ると思うか」
ヘリアンが言うとトグサが手を挙げた
「お言葉ですが、子供は親を頼るものです。自身を育てた存在を親と認識したらどんな存在でも子供は頼る、そうしなきゃ生きていけない」
「えぇ、それに奴が連絡しなくてもをドリーマーの方から連絡するでしょう、奴にとってお気に入りのオモチャが他人に遊ばれるのはいい思いはしないでしょう」
「成程。所帯持ちだから分かることもあるということだな。まとめると今回の作戦は如何にデストロイヤーを追い詰めることが出来るか、ということか…ではその意見を参考にしこちらで作戦を立てるとしよう。決定したらまた連絡する、では解散」
会議室から続々と退出する、素子はPCの電源を切り撤収作業を進めながらふと思った
加虐心を持つ存在に我々や人形のように個性を持つ者が戦うのを奴は興奮しながら見ていたのではないか、この戦いは奴を楽しませるだけではないのか。私たちはドリーマーの遊戯に付き合わされたのかもしれない。そう思うと癪に障るが仕方がない、デストロイヤーからドリーマーの情報を抜き取らない限りいつジュピターの銃口が己に向くのか分からない。
「付き合ってやろうじゃないの、お前に会うまで」