撤収作業を終えた素子の前にヘリアンが立つ
「どうだ、上の喫茶店にでも行かないか。少し話がしたい」
「いいのか?これから作戦立案しなくちゃいけないだろ」
「少しぐらい構わんさ。奢ってやるからついてこい」
喫茶店はアンティーク調を基としたS09地区にあるスプリングフィールドがマスターをしている喫茶店とは異なりビジネスマン御用達といった感じの無機質な冷たさを感じる喫茶店だった
「少佐は砂糖なしのミルク多めだな」
「ご丁寧にどうも上官殿」
ヘリアンはブラックコーヒーとケーキのセットを頼み席に座る
「本題に入ろう」
「AR15についてだな」
「何せまだ一日しか調査していないがこれだけはハッキリと言える。彼女はウイルスに感染した」
「やはりそうか…」
「それが彼女のGPS機能や視覚端子、聴覚端子に侵入しモニタリングされていた。駆動系に侵入されなかったのは不幸中の幸いと言うべきか」
「AR小隊が味方によって全滅、となってしまってはシャレにならないからな」
ウイルスによる感染が原因であるならば彼女が解体されるような心配はないだろう。しかし気がかりなことが一つある
「しかし、そのウイルス。AR15以外にも感染しているのではないか」
「その危険性はある。現在ウイルスを解析してワクチンプログラムを作ろうとしているが時間がかかるだろうな・・・しかし解析が終えるまで待っている時間は私たちにはない」
「電脳やケーブルを介した通信はなるべく避けた方がいいな。となれば今回の作戦は無線機を利用した方が安全か」
「そうなると思う。・・・そうだイントゥルーダーにそのウイルスのことは聞けないだろうか、奴なら知っているかもしれん」
「成程、早速試してみるとしよう」
素子がカバンからPCを取り出そうとすると店員が番号を呼んだ、どうやらヘリアンのものだったらしく立ち上がろうとする。奢ってくれるんだしそれぐらいやらせて、と言い素子が取りに向かった。席に戻るとヘリアンはいなかった、恐らく電話が来たのだろうと思いPCの起動を行った。しばらくすると入力できる状態となったのでウイルスについての質問を入力する。コーヒーを飲みながら待って帰ってきた答えは
〈分かりませんわ〉
という単純な回答であった
〈侵入者の名を冠するお前ならば知っていると思ったが〉
〈ウイルスも立派な兵器、兵器を作ることが出来るのは上位ハイエンドモデルだけですわ。それに私はウイルスなど使わず直接侵入するのがモットーなのです〉
〈作っていたという情報も聞いていないのか〉
〈申し訳ありませんわ〉
〈了解した〉
入力を終えて再びコーヒーを飲むとヘリアンが戻って彼女に話しかけた
「どうだここのコーヒーの味は」
「美味しいけど春さんのよりはね」
「そうか、ところで奴には話が聞けたか?」
「聞けたが収穫はなし、席を抜けたのは電話だったんだろう?AR15についてか」
「少しウイルスに関して違和感を覚える、との報告の電話だった」
「違和感?」
「ウイルスが複雑すぎるんだ。単なる視覚や聴覚、GPSに侵入するウイルスにしては複雑すぎて全容がつかめない、ひょっとすると駆動系の制御システムにもアクティブしてないだけで侵入しているかもしれない、それ故に四肢の取り外しを許可してほしいからそれを16labの人間に伝えてくれとの連絡だった」
「それで許可したのか」
「labには連絡したがAR小隊の人形に関してはペルシカの許可が必要とのことですぐには返事が出来ないとのことだった」
「…」
「少佐、そう心配しないでくれ。確かに許可が下りれば一時的に四肢を取り外すことになるが決して解体するわけじゃない。AR15は我々グリフィンやIOPにとっても重要な存在だ、私たちは全力で彼女を助け戦線復帰させたいと思っている」
ヘリアンの顔は真剣だった。しかし素子はまだ不安でその表情は強張っていた。AR15の事もそうだがこの現段階においてこのウイルスの情報が少なすぎるというのは恐怖でしかない。もしかすると気づいていないだけで自分自身も感染しているかもしれない。そしてそのウイルスは他人に感染し広まるかもしれない、そしてそのウイルスは単にスパイになる以上の何かを秘めているかもしれないという点、なまじ感情や個性のある戦術人形はこの状況によるパニックを起こすだけでなく通信を恐れるなど戦闘に影響が出る可能性がある。
「ヘリアン、この事は公表するつもりか」
「まさか、感染ルートやウイルスに関する情報が少ないなかで公表なんか出来るか。とはいえ情報が集まるまで戦いを辞めるような猶予もない。タイミングを見て公表する必要がある」
「それを聞いて安心したわ」
そういうと素子はコーヒーを飲み干して席を立った
「じゃあね、作戦立案、私のポジションは楽なものだと助かるわ」
「安心しろ、平等にキツイ仕事でポジションを分けるつもりだ」
それから少し話、ヘリアンは作戦計画書を書くために自室へ戻り素子もまた自分の基地へ戻った。
司令室に入るとAR小隊のメンバーとバトーがデスクの前に整列して立って入るなりバトー以外が頭を下げていた光景が飛び込み彼女は面を喰らい着席するようにうながす
「どうしたんだ、いきなり頭を下げて。バトー」
「それじゃあ説明させてもらう、単刀直入にいうと少佐やIOPに無断でウイルスチェックしたんだ」
「…何故、そうしたのか訳を聞かせて」
「まず作戦が終わったあと俺はM16にスプリングフィールドがやっている店に呼ばれた」
いつの間にそんな仲良くなったのか、と彼女は一瞬思ったが同じ酒飲み同士気が合うところがあるのだろうと推測し一瞬のうちに疑問を解決させ再びバトーの話を聞く体制に入った
「最初は作戦についての話だったんだが段々M4の話やAR15の話になってウイルスの話に入った。そこでM16が自分達にも感染しているんじゃないかと疑い検査する必要があるっていう話をしたんだ」
「一番身近にいるAR15が感染したのだから彼女と通信している我々も感染している可能性が非常に高い、そう思い彼に話したんです。もちろん検査するにはIOPやグリフィンの許可がいることは分かっていたので冗談のつもりだったのですが・・・」
「とはいえもしAR小隊がAR15の通信を媒介に感染しているのであれば俺たちも感染しているリスクが高い、どんなウイルスなのかまだ分かっていないがもし単なるスパイウェア以上のウイルスなら基地が内部から崩壊するかもしれん。連中の狙いは武力で解決するのではなくウイルスという目に見えない武器を使い内部崩壊を図っているじゃないかと俺なりに考えたわけだ」
「それが最初の検査したという話に繋がるわけか、しかしまずかったな。一般の人形ならまだしもAR小隊の人形はハイエンド且つブラックボックスだ、そんな人形を無許可で検査としたとなれば当然IOPから文句の一つや二つは避けられんだろう。…とはいえ私がバトーと同じ立場であれば同じようなことをしたかもしれん。ヘリアンから話を聞いたがやはりこのウイルスは単なるスパイウェアではない可能性が高いそうだ。そう分かれば私も許可申請してそれを待つような真似はしなかっただろう」
幸いにしてこちらにはヘリアンとペルシカというグリフィンとIOPの高地位の人間との接点がある。処罰は避けられないだろうが事情を話すぐらいの時間は与えてくれるだろう。そう思い彼女は最初こそ驚いたが焦ることはなかった
「それで結果はどうだったんだ」
「IOPが使うソフトで検査したが全員異常なしたったぜ。ということは通信を介して感染する危険性はないようだな」
「実は全員感染していて検査ではそれに引っかからない…つまり何かがトリガーとなって起動するようなウイルスだった場合があり得るからその検査を100%信じるわけにはいかないけれど分からない以上それを信用するしかないみたいね」
「もちろん俺もこの結果を全て信用するわけじゃないさ、とはいえ可能性の話をしたらキリがないぜ。」
「それも分かっているさ、とはいえ指揮官というのはすべての可能性を出来る限り考えてその考えが当たった時にどうすればいいのか、そういうことを四六時中考えてないと死んでしまう生き物なのさ」
「面倒な生き物だ。俺はなりたくないね」
「だから時々考えるだけ考えて諦めることもあるのさ。それが今」