AD2062 5月17日
何時ものように素子は指令室で書類作業をしていた…だがその手は止まっている。というのもダイブし終え浮上してからというもの“初めてハイエンドモデルと濃厚接触した人物”ということで暫く本社に聞き取り調査という名の監禁に近い調査が行われ、つい先程解放されたばかりであり全身義体化の彼女と言えども精神的な疲れには敵わないのであった。
ボーっとしている自分に気づきこれではいけない、とコーヒーでも飲んで気分を変えるかと思った時ドアが勢いよく開かれカリーナがやってきた
「おっ久しぶりです少佐!!!!本社の泊まり心地はいかがでした???」
「もう最高よ、寝るまで常に背広の男がついてくるんだもの。おまけに『ロボットの様な貴官に睡眠など必要か?』ってことで寝かせてくれないんだもの」
「えっ、じゃ今まで寝てないんですか!?」
「いや、隙を見て昼寝とかして脳を休める機会は設けたわよ。流石の私と言えども睡眠がなきゃ脳がお釈迦になるからね…脳みそだけは機械じゃないもの」
「なるほど、ところでスケアクロウはどうなったんです?」
「本社とiop社が必死になって分解、解析してるけど何も出てこないわよ。アイツは私の目の前で死んだんだもの。AI、データといった彼女を彼女たらしめていたものは何一つ存在していない。ただの人形よ、そんなのを調べるより私としてはもっと別のを調べてほしいわね」
「代理人、処刑人でしたっけ?特に処刑人という人物はスケアクロウに情報を提供されたと…」
「“M4A1”とか言ってな。奴らはそれを追い求めているらいいが…アメリカ製の銃か」
「まぁ鉄血が気になっているんですから恐らく人形でしょうね」
「人形か…カリン、そんな人形は存在しているのか?」
「いや、そんな人形は居ないですよ。あっ、でも私達の周りでこんな噂が…」
「?」
「いや、本当に噂なんですけどね。IOP社が民用品を再利用した通常の人形とは違う一から軍用人形を作ってそれで小隊を結成させるというのがありまして」
「グレード5の人形とは違うのか?」
「ええ、どうも“ワンオフ”らしくて」
「ワンオフねぇ…噂にしちゃ内容が具体的すぎるな」
「それは私も思ったんですよ。仮にそれが本当だとして大量生産、無限コンティニューが人形の利点ですのにワンオフなんてナンセンスもいいところですよ」
「…だがそのワンオフの人形が完成したとしてすでに配備されているとしたら。あの赤い血を流す人形はそいつかもしれないな」
「またそのお話ですか。まぁ確かにその可能性も0ではないでしょうけど….」
その時、卓上にある電話が鳴った
「ヘリアンさんでしょうね」
「絶対そうだな…はいもしもし」
「少佐か、また随分と不機嫌な声をしてるじゃないか」
「誰のせいでそうなってると思ってるのよ…それよりまだ本社は案山子の解体ショーに夢中なの?」
「いや、中を調べてみたが何も出てこなかった。技術的な視点から見ても特に生かせそうな箇所もないからさっき凍結処理することに決まったよ。今からは奴が言う“処刑人”探しさ」
「その仕事を私に振ろうってわけ?」
「いや少佐には別の仕事を頼む」
「どんなのよ?」
「うん、この仕事は本社というより別の所から依頼された仕事なんだが、少佐は“16lab”と言う組織を知っているか?」
「確かグリフィンに技術提供をしている組織だろ?うちの武器やネットワークはそこに依存している筈よ」
「その通りだ、今回はそこの技術主任であるペルシカからの依頼だ」
「技術主任が?面倒な仕事を依頼されそうね」
「出たばかりで悪いが頼んだぞ。では15時にまた連絡を入れる、それまでゆっくり休んでいるんだな」
「そうさせてもらうわ…ところでヘリアン」
「なんだ?」
「貴方“M4A1”という人形は知ってるか?」
「…お前、どこでその名前を…いや、あの案山子が残した言葉を聞いていたのか」
「その反応…存在しているのね」
「あぁ、存在する。少佐、また連絡とするといったが変更だ。15時に本社ビルに来てくれ」
「ちゃんと話してくれるんでしょうね」
「…そのつもりだ。だが少佐、勘違いしないでくれ。この人形についてはいずれ表に出す予定の人形だ。少佐に対して隠し事をしていたわけじゃない」
「…」
「しかしだ少佐、この人形については決して外部へ漏らすな。あの人形はこの戦いを終わらせる鍵になる存在だ。現段階で鍵を大っぴらに見せるのはマズいからな…」
「分った、じゃ後ほど会いましょう」
電話を切り、カリーナの方を見る
「カリン」
「ええ私は何も聞いてませんし何も話しません」
「よろしい。それじゃ私は少し寝たいから来客用のベッドで寝るわ…」
「了解です、その間の書類は今日の副官のWA2000さんに任せますか?」
「そうさせてもらうわ…」
そう言ってフラフラしながら部屋を出る素子を見てカリーナは「こんな姿めったに見れないから動画でも取っておけば良かったな」と思うのであった。
一時間ほどした起き仮眠室を出るとスコーピオンと会った
「あれ少佐、久しぶりじゃん!….仮眠室から出てきたけど少佐って睡眠とるんだ」
「人をロボットみたいに言わないでよ…スコーピオンはちゃんと壊れたダミー人形の修復してもらったか?」
「勿論!でもねアタシ、ダミー人形は苦手だなぁ」
「何でだ?」
「だってさ、自分と同一存在がいるだけでも不気味だってのに壊れたらそれを死体とかを入れる袋に袋詰めにして持ち帰るんだよ?なんだかいい気分がしなくてさ…“実はこの袋に入ってる人形は自分自身じゃないか、アタシがアタシだと思い込んでるこの体は実はダミーなんじゃないか”って思っちゃって…スプリングフィールドの気持ちがわかった気がするよ。」
「….」
「少佐はいいよね、ちゃんと人間だからそんな心配しなくていいもの。」
「そうでもないわよ。私なんて全身義体化だからほとんど人形と変わらないしね」
「それでも少佐には機械じゃない生の脳みそがあるじゃないか」
「自分で見たこともないのにそんなの信じられる?私も時々貴方みたいな事を考える日があるわ。…草薙素子と言う人間はとっくの昔に死んでいてこの体は草薙素子と思い込んでいる人形なんじゃないかってね」
「…少佐」
「でもね、スコーピオン。考えるのはそこまでにしておきなさい。自分が何者なのか考えるのは人間ですら答えが出なくて発狂する奴がいるんだから民生用人形の貴方がそんなことば考え続けたら頭が破裂して死ぬわよ」
「なにー!?毎回アタシのこと馬鹿にしてー!!」
「馬鹿にされたくなかったらダミー人形をぶっ壊さないように上手く扱うことね」
そう言いながら素子は指令室へと戻る
(人間は鏡を見て写っている人物を自身と認識したときに自我が宿る…そして自分という個体はこの世で一つだけであることを認識する。だから自身の分身について違和感を持つんだが…あの子らは人間と同じような違和感を持っている…遅かれ早かれあの子たちにはゴーストが宿りそうな予感がするわ。そうなったら人間と人形の境目はいよいよ消えてしまうわね…ま、私だって人間か人形か境目がつけられない体を持ってるんだけどさ…)
※
15時 本社ビル
本社ビルに到着し、受付に入場許可を貰い素子はヘリアンの部屋へと入っていった
「やぁ少佐。待っていたぞ、…あぁ紹介しよう、私の隣にいるこの猫耳の女性が…」
「ペルシカよ…」
ホログラムに映し出された彼女はなんとも気だるい声で自己紹介をした
「初めまして少佐、貴方みたいな実験た…指揮官に会えて光栄だわ。全身義体化なんて早々いるもんじゃないもの」
「解剖実験するなら高くつくわよ」
「冗談よ、冗談…さて早速本題に入ろうかしら。どうやら少佐はM4A1の存在を知ってるらしいわね、今回はそんな彼女に関する依頼をしたいの。M4A1は小隊メンバーと共にとある任務を遂行中にトラブルに巻き込まれバラバラに、現在行方知れずよ….」
「それを鉄血が探していることは少佐もあの場面にいたから知っているだろう?」
「あぁ」
「私達は鉄血が発見する前に彼女を救出したいの。でもその前に彼女が残したデータを回収しなくちゃならないわけ。おおよその場所は把握してるから少佐にはそこに行って来て。ま、平たく言えば“子供のお使い”って感じかしら」
「分った。しかし…M4A1は何の任務に参加していたんだ?」
「それは…まだ言えないわね。貴方を完全に信用しているわけじゃないもの。無事に回収してきたら話してあげるわ」
「なら、信用されるように頑張るわ。期待してて頂戴」
「頼もしい返事だこと、じゃヘリアンあとよろしく…」
通信が終わりペルシカのホログラムが消えた
「さて、少佐。というわけだから明日にでも作戦にあたってくれ」
「…えぇ、それでヘリアン。M4A1って言う人形は何なんだ?」
「ペルシカも言ってたが特殊任務を遂行する人形…“AR小隊”と呼ばれる小隊のリーダーを務める人形…それがM4A1だ」
「AR小隊?…カリンが言っていた噂と共通する箇所があるわね…M4A1以外の人形は?」
「いいだろう、だが決して外部に漏らすなよ」
「分かってる、だけど小隊のリーダーに関わった以上いつかは小隊の救出任務を担当する日が来るだろ?それを見越して聞いておきたいのよ」
「…M4A1以外には“M16A1”,”STAR-15”.”M4 SOPMOD-Ⅱ“…全員がアサルトライフルの人形だ。だが先ずはM4A1の救出が最優先だ、そこを忘れるな」
「勿論、それじゃ帰って作戦を練ることにするわ…それとありがとうね、教えてくれて」
「そう思うんだったら結果で報いてくれよ、期待してるからな」
素子はその返答にサムズアップで答えながら部屋を退出するのであった。