【応募企画短編作品】マジカル高校生むとう☆しお 作:suryu-
ヤンデレボイス系をやって居られる高校生になった、Vtuber さんです!
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「春から普通の高校デビュー。普通の、普通の……!」
春うらら。見事に桜も咲き誇り、新たな入学という節目を迎える優しい季節。出会いと別れもここにあり、彼女。無糖しおもまた、新しく高校という出会いをする……のだが、何とも言えない震え方をしていた。
「今回ばかりは普通に学生を過ごしたい!」
実は彼女は、今人気チャンネルの配信主。昔で言う生主というやつなのだが、それが影響したかは分からないが、変な事がよく起きていた。
「お母さん。朝ごはんは何!?」
だから、震えも何も隠さずに母親に朝ごはんを聞く。せめて、今日ばかりは何もないよね。と願っている。
「しお。さすがにトンカツにはしてないわよ。せめてメンチカツ」
「カツなのは変わらなかった!? 重いよ!?」
「愛が?」
「お腹に溜まるのが!」
だが、現実は非情である。今だってそのひとつ。手をバタバタと振りながら、目の前に置かれたメンチカツに文句を言う。母もその様子を見て楽しんでいる様子が見て取れるが、しおからしたら、たまったもんじゃない。
「まぁいいじゃないの。嫌な運命に勝つ的な感じで」
「お母さんは、朝から娘の胃にダメージを与えていることに、もっと疑問を持ってからそれを言ってね」
とは言いつつも、しおはご飯をよそってメンチカツを貪る。ガブリと一口。勢いよく放り込むと、衣に霧吹きで油を直接吹きかけ、オーブンで焼きつつ作ったカツだと気づく。油っこくなく、しかし肉の旨みがじっくり感じられるそれは、朝に食べてもそこまできつく無いと感じる程だ。さらに、玉ねぎのシャクリとした舌触りがアクセントとなり、いい味を出している。
「これ……」
「あら、どうしたの?」
「……なんでもない」
”まさかこのネタを作る為に、わざわざ時間をかけて──?” と思ったりしたが、さすがにそこまで聞く勇気はしおにはない。塩対応になるが仕方ない。
「まぁ、トンカツでも良かったけど。あなたの初配信で飛び交う言葉がメンチカツになったし、それの関係でメンチカツの方がいいかなって」
「普通は気を使うところ間違ってるよね?」
「そうとも言うわね」
ただ、聞くまでもなかった。聞いても意味がなかった。躊躇うも意味もない。間違いなく、このネタを作るためだと確信するほどのドヤ顔には、さすがのしおも絶句。”カツが箸から落ちたわよ。”という母の声は、聞こえな言ったら聞こえないのだ。味噌汁におちたカツを箸で掬い、口に放り込んでいく。
「お母さんは、時々馬鹿だよね」
「そうとも言うわね」
それでも、親娘の仲がいいのは仕方ないのだろう。彼女は普段、自給自足系で配信をやっているが、こういうやり取りは自給自足出来ないのだ。つまり、回避すべきはこの世から隔離された存在。ぼっちなのであるとは常々思う……かもしれない。
「それで、そろそろ学校行くのよね。持ち物は平気?」
「……平気。むしろ、これからのデビューが普通になるか心配」
「本当にねぇ。無理しないでよ? まさかあなたと同じ身長の、カラーコーンが届けられた時みたいには……」
「さすがに私もなりたくない」
母親たるもの、かなりの事件を知っているためか、苦笑いを浮かべながらもしおの頭を撫でた。しおも擽ったそうに微笑み、”ご馳走様。”と一言漏らした。
「それじゃあ、行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
そうして、家から飛び出した彼女の苦難は、これから始まることをまだ知らない。そう、誰も──
■■■
「ここが、市立天井高校……なんか甘そうな雰囲気があるような、ないような」
新たな校舎にたどり着いた彼女は、なんとなくピンク色の壁を見て引きつった笑みを浮かべる。”まぁ、確かに甘い高校なのかもしれないなあ。”とは言葉には出さなかった。というよりか、出してはいけない気がした。
「それで、クラスに向かえばいいのかな?」
だから、視界の端に映る、白い猫のような口をした、ぬいぐるみのような生き物からは目を逸らした。絶対見てはいけないものだ。と感じる。絶対関わったら、普通じゃいられないものだと。
「……こ、ここかな?」
「あ……同じクラスの人?」
そして、クラスに急いで向かった彼女が見たのは、金髪のツインテールの美少女。どうやら、周りに人はあまりおらず、自分たちが最初だったと理解して、しおはどう声をかけるか悩む。
「えっと、そうかな」
「……そっか、良かった」
金髪美少女は、静かに微笑む。だが、なんとなく距離感をはかりかねているのか、しおをちらちらと見て。目が合う度に視線を逸らし、またちらり。と繰り返す。
「……あー。(そういう、こと?)」
それにより、しおは瞬時に察した。”彼女は、コミュ障”である。後ろの言葉を、よく飲み込んだなと思ったほどだ。なぜ理解出来たか? それはしおに聞いていけない。後に痛い目を見るだろう。
「私は、無糖しお。その、あなたは?」
「え、えっと……コレット。コレット・フェイテッド」
「あ、はい」
外国の子なのかな。と聞こうとした。したのだが、なんとなくツッコミをしたい気持ちに駆られた。なんだろう、金髪ツインテールで、フェイテッド。しかもコレット。なぜだか、どこかで見たことある雰囲気。としか言いようがない。どうにもしおの血が騒ぐのだ。なんなら、声もどこかで聞き覚えがある気がしてならない。
「と、ともかく。お友達になろ?」
「友達……?」
しおは、咄嗟なフォローを入れながら、コレットの手を取る。手を取られた方の彼女も、不思議そうな顔をしたあと、目を逸らして頬を染めた。嬉しそうな雰囲気に、”ヨシッ!”と心の中で呟いて、しおは安堵の息を吐く。
「まぁ、名前みたいにビターかもだけど……よろしくね?」
「う、うんっ」
ああ、これなら普通の高校デビュー。できたかなぁ。と噛み締めつつ、しおはなんとなく脇を見る。すると、体が瞬時に動き出した。
「なら、僕とも友達になって、僕と契約して魔法少女になっ」
「それは色々な意味でやめろォ!」
「ひゃあっ!?」
窓を開ければ、そのセリフを言いきらせる前に、白い猫のようなぬいぐるみの存在を、遠くに向かって投げ飛ばす。そして、勢いよく窓をしめると、嫌な予感がたっぷりする中で、彼女はコレットの方に向き直った。なんだか投げ飛ばされたぬいぐるみを見て、プルプル震えているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「あ、え。なに? な、なんで今のぬいぐるみ……しゃべって……ううん、魔法少女……?」
「気にしちゃいけない。それに、コレットがなっても、あれが言うのとは別種だから」
「え、あ……?」
ああ、普通はどこにもないのだろうか。しおは困ったように、カバンから甘い甘いコーヒーを取り出す。練乳が入っているそれを口に含んでも、自分の名前の通り、ビターに感じてしまうのは錯覚なのか、それとも。
「と、とりあえず、もうすぐみんな来るよ。入学式の準備。しよっか」
「そ、そうだね!」
だから、今は気にしない。そう、今気にしたら負けなのだ。
「酷いなぁ。いきなり外に投げ出すなんて」
「なんでいるの君ィ!?」
前言撤回。気にしない訳がなかった。白いぬいぐるみ。仮称白ナマモノは、なんとも困った顔をしているように見えた。
「そりゃ、悪ノリした僕も悪かったさ。でも、魔法少女にはなって欲しくて」
「人の話を聞かないこいつ!」
「え、あわ、あわわ……」
慌てふためいて、何も言えないコレット。頭を抱える無糖しお。シニカルに笑うぬいぐるみ。そんな彼女が悪夢のような状況から覚めるのは、始業のチャイムの音。
「あ、は、始まる……って、ゑ?」
だが、彼女らの周りには、誰も居ない。教師や生徒。居るべき存在達が、影も形も見えないのだ。まさか。と思いつつ、白ナマモノを見ると、何やら星とリボンのついた丸い何かをふたつ差し出していた。片方は白で、片方は黒。
「さぁ、これで変身して、この異変を起こしているやつを止めよう! 敵はカードが具現化したものだよ!」
「せめて世界観統一しない!? やりにくいよ!」
「せ、せかいかん?」
「コレットは気にしないで……!」
もう、ここまで来たらツッコミは止まらない。頭がおかしくなるような状況に、なんだか見覚えのある変身アイテムを手に取って、しおはやっぱり普通の高校デビューが出来ないことに、やけくそな思いを込めて言い放つ。
「ホントに少し、頭冷やそうか。奇跡も魔法もあるんだよ! それでも、私に普通の時間をよこせバカヤローっ……!」
「え、えっと、私たちの高校生活、どうなっちゃうの……!?」
”魔法少女むとう☆しお。始まっちゃう?”
「ざぁこ♡ ざぁこ♡」
「しおちゃん。それは駄目だよぉ!?」
────でも、混沌としている、こんなふざけた世界でも、いつか普通の時間が。平穏が来る。でも、その平穏を壊された時……”私”は、どうすればいいんだろう?