私の名はセリー   作:続きません

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ベース:ほぼオリジナル
初 出:書き下ろし


セリー達のスローライフ

 私の名はセリー。ドワーフ族の16歳。ジョブは鍛冶師で、ご主人様と私を含めた5人の奴隷、計6人でクーラタルに住んでいる。

 クーラタルは何といっても迷宮都市として有名であるが、夏は涼しく、冬も雪があまり降らないので、魔物が町中に出没することさえ除けば(これを忌避する人は実は非常に多い。一方でクーラタルの人たちは自分たちが「迷宮の街」の住人であることに誇りを持っていて、実際話していると言葉の端々にそれが表れているのである)、大変住みやすい町だと言われる。

 私たちはここクーラタルを拠点に普段は迷宮探索をしているのだが(ご主人様は見かけによらず(と言ったら失礼だが)実はとてもまじめな人で、ほとんど毎日迷宮に潜っている)、今日は私たちの日常生活について書いておこうと思う。

 

 今私たちが住んでいる家は借家なのだが、その場所はクーラタルの迷宮のある中心部からはやや離れており、徒歩だと15分くらいかかる(住所はクーラタルの6区、7丁目123番地。家賃は年間で4万5千ナールだそうだ。ほぼ相場通りとのこと)。

 クーラタルの町は、高いビルが建っているのは中心部だけで、そこから少し離れ、自宅のある辺りまで来ると住宅街になっている。ここまで来ると家もさほど密集しておらず、空き地や畑も多い。私たちの家は、そんな閑静な住宅地に建っている。

 家からクーラタルの中心部までは少し距離があるものの、ご主人様にはワープの呪文(時間空間魔法だそうだ。こんな呪文を使える人をご主人様以外に私は知らない)があるので、ご主人様と一緒のときであれば、実際に歩いて迷宮のある中心部まで行くことはまずない。

 またこの家には全ての部屋の壁に遮蔽セメントが使われているそうなので、冒険者の呪文であるフィールドウォークでは、直接この家に入ることはできないらしいのだが、ご主人様のワープであれば遮蔽セメントに関係なく出入りができる。

 それどころか迷宮内に直接飛ぶこともできてしまうので(迷宮内から直接家に帰って来ることもできる)、クーラタルの迷宮の場合入場料がかかるのだが、それすら払わなくて済む。1人1回100ナール、6人だと600ナールだ。結構馬鹿にならない金額ではある(私が加わる前に、ロクサーヌさんに言われてご主人様はそのことに気づいたらしい。彼女もなかなか機転が利く)。

 そういうことなので、この家のような立地でも全く不便を感じることはない。さらに家から一番近い井戸でもけっこう遠く、本来であれば少し離れたところまで毎日水を汲みに行かなければならないはずなのだが、これもご主人様と、今ではルティナも水魔法を使えるので全く問題ない。

 そう考えるとなんて便利なご主人様だろう。と考えるだけでなく、実際にそう言うとご主人様は苦笑しつつ、「少しは敬えよ」と言われた。もちろんですとも。

 

***

 

 こうして今住んでいる私たちの家は、漆喰(注:内密さんはモルタルと言っていましたが)塗りの二階建て、白い壁のごくありふれた普通の家である。

 ご主人様がこの家を借りたとき、私はまだ加入しておらず、ご主人様とロクサーヌさんの二人で、取り急ぎ必要なものを買い揃えていったそうだ。

 今使っている風呂桶も、かなり早い時期に作ってもらったらしい。特注品なのだそうだ。確かにこんな大きな桶を私はこれまで一度も見たことがなかった。

 

 その後、私や他のみんなが加わって、現在は6人でこの家に住んでいる。

 そのままでも十分快適な我が家ではあるが、せっかくなので図書館で調べたことを活かし、ご主人様の許可を得て少し工夫を凝らしてみた。なんでも大家さんが言うには、この家の前の住人がいろいろと手直しをしてしまっているので、中はどんな改装をしてもかまわないということらしい。

 

 まずは水回りである。屋根裏部屋に貯水槽を作ってもらった。風呂桶を作ってもらったというところにお願いしたのだが、今回頼んだものは円形ではなく長方形をしている。家の前まで持って来てもらい、あとはみんなで屋根裏まで運び上げた。とくにベスタが大活躍である。

 もちろんこのような仕組みを作ったとしても、通常であれば他所から水を汲んできて、さらにその水を屋根裏部屋まで運び上げなければならない。大変な作業だ。少なくとも庶民レベルでこんな面倒なことをやる人はいないのだが、ご主人様やルティナの魔法があればそのような手間の一切が省ける。

 どういうことかというと、水槽の上部には丁度ウォーターウォールの幅(1メートル半ぐらい。奥行きは10cmちょっと)の口を空けてもらってあり、普段は蓋をしておくが、水が減ってきたらご主人様に補充してもらうというカラクリだ。

 補充作業は別にルティナにやってもらってもいいのだが、魔力量にかなり差があるので大抵はご主人様にお願いしている。

 

 この貯水槽を起点に屋内に管(木樋(もくひ)というらしい。これも必要な本数と寸法を測って、同じところに発注した)を張り巡らせ、コック(こちらは大家さんの旦那さんが鍛冶屋だったので、必要数を作ってもらった)をひねると各所で水が出るという仕組みを調えた。

 取り付けはこれもベスタがその身長を活かしてやってくれた。微調整は私。ちなみにご主人様ほかは作業そのものは見ているだけではあったのだが、どこにあれば便利だとかどこを通した方がいいとかみんなで考えてくれた。

 迷宮探索をお休みにしての1日仕事にはなったが、完成してみると大変便利である。水洗トイレにもそのままつながるようにした。

 溜め水なので飲み水や料理には使えないが(こちらはその都度ルティナに出してもらっている)、それ以外(洗い物や水洗トイレなど)での利用なら十分である。なお貯水槽は年に1回は掃除をした方がいいらしい。

 

 次にお風呂だけれども、これまでお風呂に水を張るのは、やはりご主人様やルティナの水魔法で、そして沸かすのも同じく二人の火魔法でやっていた。

 今回これを改めるにあたって、水の方は最初貯水槽から引いてくる方法も考えたが、かなりの水量になるために、これまで通り直接魔法で入れてもらうことにした。あまり大きな(風呂桶が一杯になるほどの水を、余裕で貯められるような)貯水槽にすると天井が抜ける危険があるのだそうだ。

 工夫してみたのは沸かす方である。火魔法ではなく、焼石をいくつか用意しこれを使ってお湯を沸かす方法を採用した。石焼き風呂というそうだ。これは図書館にその効能と詳しい方法が書かれた本があった。なんでも普通にお湯を沸かすより温浴効果が高いらしい。

 やり方は、まず窯に火を起こして手ごろな石をいくつも入れておく。お昼過ぎにでも入れておけば、夕方には(本当はもっと早いのだろうが)熱々に焼けている。

 そうして焼けた石を火鉢ではさみ、少し洗ってから湯船にドボンと入れる。すると、焼き石の熱で水がたちまちほかほかのお湯へと大変身を遂げるのだ。直接焼き石に触れると火傷して危ないので、あらかじめ風呂桶の一角を簡単に柵で仕切っておき、そこに焼き石を投入するようにした。

 焼き石であれば私達でも準備が出来るし、これまでご主人様が汗みずくになってやっていた作業が、大幅に楽になったのではないかと自負している。ご主人様もこの方法は知らなかったとのこと。

 新しいこのやり方について、ご主人様は素直に喜んでくれるかと思ったけれど、なぜか複雑な表情をしていた。どことなく寂しそうにも見える。こうしてお風呂を沸かすのも格段に楽になったというのに何故だろう(注:苦労した分その後の楽しみが増すというものなんですよね。単純にこれまでの苦労は何だったのかとも思っているでしょうけど)。

 それでも「セリーを図書館に行かせて正解だった」と言ってくれた。

 

 あとこれは小さなことだが、風呂桶の側面に穴を空けて栓をしておくことにした。

お風呂の残り湯は、そのまま捨てるのはもったいないので、洗濯や掃除などに使っているのだが、最後残った分をそのまま流せるようにだ(これまでは桶で汲んで捨てていたが、これが結構大変な作業だった)。

 

 お風呂にはたまにハーブを入れてみたりもする(これまでも柑橘類などを浮かべたりはしていた)。これはみんなに好評で、特にベスタが大喜びだ。彼女はハーブの香りが大好きなのだそうだ。ハーブの種をご主人様に買ってもらって、庭に植え始めたぐらいである。

 庭にはもともとローズマリーが植えられていたようだが、その後ご主人様とロクサーヌさんとで畑を耕し始めたのだそうだ。

 ちなみに今では畑の世話などはみんなで手分けしてやっている。迷宮にこもってばかりでは不健康だし(気分の問題かもしれないが)、こうやってお日様に当たるのは純粋に気持ちがいい。それぞれが好きな作物の種をご主人様に買ってもらって植えている(あのミリアでさえもである)。

 

 また窯に火を起こすのも、これまでは薪を使っていたが、木炭を利用することにした。薪の代わりに木炭を使うことで長時間安定して熱を加えることができるので、たとえばシチューを煮込むのに最適である。木炭はクーラタルの道具屋でも普通に売られているが、どうせならということで自分たちで炭焼きをすることにしたのである。

 やり方はそう難しくない。

 家の周囲には雑木林があり、付近の住民であれば自由に入って枝などを採って良いと言われているので(さすがに勝手に木を切り倒すのはダメらしいが)、みんなで手分けして枝を集める。こうして集めた枝を畑の隅っこに縦に並べて積み上げ、その周りを木の枝や葉で覆っていく。

 3段まで並べたところで、水をたっぷり含ませた泥をもってきて周りを塗り固める。下部の周囲にぐるりと穴を開け、一番上は空けておいて、そこから火を入れる。全体に火が回ったことを確認したら、一番上の穴も泥でふさいで、空気が入らないようにする。

 こうして薪を不完全燃焼させることで木炭が出来るのだそうだ。その後火が消えるまでだいたい一昼夜ほど待つと炭ができあがっている。

 

 最初に作ったときは、上手くできていないものもあったが(どうも炭焼きに使う木は太過ぎると良くないらしい。太いと水分が抜けるのに時間が掛かり、火が消えるまでに抜け切らないという)、かなりの割合で木炭になっていた。

 籠一杯の木炭が出来上がったのを見て、みんなから歓声が上がった。これで料理も捗るというものだ。

 

 天気のいい日には家の外に出て、迷宮で穫ってきた肉を炭火でじっくりと焼き上げたりもした。屋内だと煙で大変だが、外でならそういう心配もいらない。直接火であぶるだけでなく、シェーマ草にくるんで焼いてみたりもする。ザブトンなどの高級肉も惜しげもなく食べさせてくれるご主人様に、みんな大感謝である(ルティナは「食い道楽」だとは言っていたが、やはりとても喜んで食べていた。こういう食べ方は実家ではしたことがなかったらしい。当然のことではあるが、私だってないし、他のみんなもないだろう)。

 大家さんほかご近所の皆さんにもおすそ分けなどしてみたり、逆にいただいた野菜なども焼いて、みんなでおいしく食べたりもした。

 そうして様々なお肉が焼かれている横で、なぜかミリアは自分が釣ってきた魚を焼いていたりもする。こういうところは彼女は決してぶれない。もちろん肉も食べていたし、焼いた魚も一人占めしていたわけでは決してなく、惜しげもなくみんなにふるまっていた。いかに焼き魚がおいしいか力説していたが、ほとんどバーナ語で(しかも早口で)話していたので、ロクサーヌさん以外には、私も含めなかなか理解してもらえなかったようである(ロクサーヌさんはきちんと聞いてあげていた)。

 

 それとご主人様が魔道士になり、氷魔法が使えるようになったことから、夏場の暑い時などは、夜寝るときに氷を桶に入れベッドの横に置いてみたりもしていたのだが、それと同じく氷魔法(というより出した氷)の活用法として、今回冷蔵庫を購入した(ご主人様に言わせると、これは「冷蔵箱」というらしい)。

 これは氷がふんだんに使えるような家でないと使えないので、普通は貴族のお屋敷や、高級料理店の調理場などにしか置かれない大変貴重なものである。私も実際に見るのはこれが初めてだ。

 見かけは木製の普通の戸棚と何も変わるところはないが、上下二段に分かれており、内側には金属の板が貼ってある。

 わざわざ帝都にまで行って購入したのだが、自宅に持ち帰って台所に設置すると、さっそくご主人様が風呂場でアイスウォールの呪文で氷を出し、それをロクサーヌさんとベスタがノコギリで適当な大きさにカットする。そしてそれをそのまま台所まで持ってきて、冷蔵庫の上の段に入れると、下の段に冷気が降りてきて、食材などが冷えたまま保存されるという仕組みである。

 私などは十分冷たいとは思うのだが、ご主人様はもう少し冷えたらいいのにとやや不満げだった。

 ともあれ、これで購入した食材をその日のうちに使い切らなくても良くなった(ただみんな本当によく食べるので、多めに食材を買っても一日でほぼ食べつくしてしまうのだが)。

 なお今ではルティナも魔導士になったので、冷蔵庫用に1日1回氷を出すのはもっぱら彼女の仕事となっている。本人も喜んでやっている。

 

 また別の氷の利用法として、かき氷なるものも作ってみた。

 これもご主人様に教わったのだが、氷を細かく削ってコボルトスクロースを溶かした砂糖水をかけただけの非常にシンプルなものだ(「すい」というらしい)。

 けれどもこれがとても冷たくておいしい。ただみんなで喜んで食べていたら、突然ベスタがこめかみに手を当てて苦しみだした。ご主人様が笑って、あんまり急いで食べるとそうなると言っていた。あ、危ない。これは気を付けないと。

 このかき氷、最初はピック状のもので氷を砕いて細かくしていたのだが、あまりに時間がかかるということで、機械を作ることになった。

 ご主人様も記憶が定かでないということで(昔使っていたのだろうか)、近所の鍛冶屋のおじさんとも相談しつつ、かなり試行錯誤をしたのだが、満足いくものができたようだ。仕組みは、台の上に氷の塊を置き、ハンドルを回すととそれがクルクルと回る。台には刃がついていて、これが氷を削っていき、下にかき氷が貯まっていくというもの。確かにこれならラクチンだ。みんな喜んで回していた(私もだけど)。

 かき氷にかけるものは別になんでもよいそうで、果実水などでもおいしいとのことで、いろいろと試してみた。キュピコの実をすりおろしてかけたりもしたが、ご主人様がどこか懐かし気にキュピコの実を見ていたのが印象的だった。

 

 このほかベスタから一つ相談を受けた。鶏を飼育して卵を収穫したいとのこと。なるほど養鶏か。クーラタルでは1個5ナールで卵が買えるのだが、新鮮な卵が毎日、人数分手に入るのはいいことである。

 

「卵は良いですね。力が出ます」

(注:良質のタンパク質ですし、そういえば別のとあるドワーフが「卵は完全栄養食品だ」と言ってましたね。)

 とロクサーヌさんも賛成したので、畑の隅に鶏小屋を建てたいとご主人様にいうと、じゃあ風呂桶の製作を頼んだ大工さんにお願いしてみようということになった。

 

 大した大きさでもないので、ものの数日で鶏小屋は完成し、鶏の方は大家さんの知り合いの農家からとりあえずメスを10羽、オス1羽を譲り受けた。

 こうして毎日卵が手に入ると料理の幅も広がる。余談だが、ご主人様の故郷では卵を生で食べる習慣があるらしいと聞いてビックリした。ここではやらないとは言っていたが、とても信じられない。

 

 みんな肉も大好きだが、甘いものも大好きだ(当然である)。くれーぷを作ってもらったときもそうだし、からめるというのも美味しかった。あいすくりーむも衝撃的だった。ご主人様はいったいどこでこんな料理を覚えて来たのだろうか。

 甘い物と言えば、ドライフルーツを食べるようになった。これは果物を天日に干して乾燥させることで、日持ちもするし、甘さが凝縮されるとのこと。栄養豊富で甘くて美味しい保存食である。実際食べてみると、何という甘さだろう。みんなが驚愕の表情を浮かべる。私もビックリだ。

 そこでみんなクーラタルの店で好きな果物を買ってきて自分たちで作りだした。どれもおいしいのだが、どうやらキュピコが一番人気のようだ。

 このドライフルーツはおやつにもちょうどいい。特に戦闘を繰り返して疲れたりして、迷宮内で一休みするときには、こういう甘い物が大変おいしく感じられる(疲れてなくてもおいしいけれど)。今や迷宮探索の際の必需品となっている(普段は後衛の私がまとめて持っている。そうしておかないと、所かまわず食べ始める娘がいるからだ。ミリアのことだが)。

 

 こうして迷宮探索にささやかな楽しみが出来た。ミリアですらニコニコしている。彼女にとって魚が一番であるのは変わらないのだろうけど。

 まあご主人様の呪文を使えば、家との行き来も容易なので、迷宮内にとどまって休憩する必要もないんですけどね。

 待機部屋などで敷物を広げ、みんなで車座になって座りながらドライフルーツを食べていると(ちなみにそうやってみんなで座るときは、必ずロクサーヌさんがスススとご主人様の側に寄っているが、ご主人様も含め誰も何も言わない。ある意味そこが彼女の定位置である)、ご主人様が呆れた様子でまるでピクニックのようだなと言っていた。ぴくにっく? 怪訝な様子の私たちにご主人様がどういうものか一応説明してくれたのだが、どうも要領を得ない。子供たちを連れてお弁当持って遠出をすることらしいのだが、いったい何しに? 魔物もいるのに? よくわからないがご主人様の故郷ではそういう習慣がどうやらあるらしい。

 それはともかくこういうひとときもとても楽しい。迷宮探索の最中であることをときに忘れてしまうくらいである。

 

 もちろんこうしたボス部屋前の小休止は、単におやつを食べて駄弁っているわけではない。そのフロアでの戦闘の様子を振り返りつつ、改めるべき点を確認していく。これについては、ご主人様はほぼ何も言わず、主にロクサーヌさんと私から色々と話す。

 ロクサーヌさんは最前線で常に魔物の攻撃をかわし続けているが、私たちの様子がよく見えているようだ。私も後衛の立ち位置からパーティー全体の様子を見ているので、いろいろと気づいた点を指摘していく。

 これは別に誰かを責めるというわけではないことは、みんなもよくわかっており、とても熱心に聞いている。そして指摘された点は、以降の戦闘ではほぼ解決できているのだ。

 こういった様子を見ると、迷宮に入るようになってさほど期間が経っているわけではないが、私たちも強くなったものだとしみじみと思う。

 ご主人様も大変満足しているが、一方で迷宮探索があまりに順調なのも考えものだと思っているようだ。その意味で積極的なロクサーヌさんに対して慎重論を唱える私の存在は貴重だという。ご主人様が言うには、ロクサーヌさんがあくせる?、私がぶれーき?らしいのだが、さっぱりわからない。ともかく、いざというとき私が止めてくれるからこそ、思いっきり走れるのだという。

 

 話を戻そう。

 日々の食事や小休止でのおやつなど、こうしていろいろと工夫したりもしているのだが、それ以外にもみんな自分の知っている料理を作って披露したりしている。私もボルシチというドワーフ料理を作ったりもした。

 そうしていろいろな料理をみんなで食べるのも楽しいけれど、ワイワイ作るのもとても楽しい。ご主人様の作る料理や、みんなの知っている料理をいろいろと聞いては、レシピを紙に書き留めている。そうしているうちに本が一冊書きあがりそうなぐらいの分量になった。

 

***

 

 もう一つ工夫を凝らしたものに石鹸がある。

 石鹸は普通に買うと非常に高価なので、貴族でもなければそうそう使えるものではない。とは言っても、石鹸そのものはご主人様がすでに作っており(シェルパウダーにコイチの実のふすまを混ぜて鍋で煮るとできるらしい。ご主人様はこれによって錬金術師のジョブを取得したそうだ)、お風呂その他で大活躍だ。こんなに贅沢に使えるなんて驚くほかはない(ルティナは慣れているだろうが)。

 私が工夫したのは、香り付けと見た目である。

 

 家の石鹸は、これまではペースト状のものを壺に入れて使っていたのだが、これを固めて固形石鹸を作ってみようという試みだ。しかしただ単に固めるだけでは芸がない。何か香りの良い油を混ぜると良いと図書館で読んだ本にあったので、香り付けもしてみることにした。

 さらに包装にも気を使って見た目もより可愛くしてみようかというと、ひととおり説明を聞いていたルティナが非常(異常?)な関心を寄せて来た。

 彼女に言わせると、「石鹸の香りは乙女の香り!石鹸の見た目は乙女の見た目!」なのだそうだ(注:どこかで聞いたようなフレーズですが)。

 ……まあそういうわけで、とりあえずやってみることにした。

 

 具体的な作り方だが、まず精油を数滴と、さらに畑で採れたハーブで作ったポプリを薬研で軽く挽いたものを石鹸のペーストに投入し、濃く煮出したお茶を少しずつ加えながらよく混ぜる。精油はオリーブオイル(これはナイーブオリーブのドロップアイテムだ)でもいいけれども、ご主人様の強い意向?で山ほど貯め込んでいたカメリアオイル(こちらはカナリアカメリアのドロップ品であり、高級品として重宝されている。カメリアオイルは家具の手入れにも使われる。これを使って磨き上げると艶が出て深みが増すのだ。ただご主人様は別の用途の方に強い関心を示していたが)を使うことにした。

 

 そうしてできたものを、空き部屋の床一面に並べた木の板の上に均一になるように塗り固めていく。乾燥したら使いやすいサイズに切り出して、タワーのように積み上げてさらに乾燥させる。

 こうして十分に乾燥させるとカチンコチンに固まった固形石鹸が出来上がった。

 このままでも十分なのだが、パピルスを買って来て、みんなで手分けして綺麗に包んでみた(家で使う分には包装などは必要ないけれど)。

 出来上がりは十分満足のいくものとなったように思う。香りもいいし、泡立ちも悪くない。とくにハーブが大好きなベスタが大喜びしたのは言うまでもない。

 

 ご主人様は石鹼の作り方は知っていたのだが、この辺りのことはあまり詳しくないらしく、とても感心していた。まあ乙女の嗜みですからね。

 「うん、これなら店に出しても売れるんじゃないかな」と言ってくれた。

 ということで大家さんのところに置かせてもらおうかとも思ったが、いろいろと考えた末に止めておいた。

 金銭的に余裕がないわけではないし、というより迷宮探索から挙がってくる収入が今ではとんでもない金額となっているので、石鹸に頼る必要が全くないからだ。

 今のところご近所の皆さんへのおすそ分けにとどめている。とても好評である。

 

***

 

 料理や石鹸作りだけではない。ご主人様不在のときは、奴隷みんなで家事をする。

 まだ3人だった頃は私が掃除、ロクサーヌさんが洗濯、そしてご主人様が料理をしていたりしたものだったが、今では掃除や洗濯のほか、繕い物や畑の世話など、すべての家事をみんなで分担したり共同でやったりしている。部屋の模様替えなども料理と一緒でみんなでやるととても楽しい。料理だけは今でもご主人様がやってくれることもあるのだが、見たことも聞いたこともないメニューが出てくるので、みんなそれを楽しみにしていたりする。

 

 特筆すべきなのは、ご主人様が帝都で絨毯を何枚も買ってきて、各部屋に敷き詰めたことだ。貴族のお城などでは普通にあることかもしれないが(ハルツ公のお城や帝宮なども絨毯が敷き詰められていた)、貴族でない私たちにとってはとんでもない贅沢だとは思う。けれどもご主人様にとってはこれもごく普通の事らしい。前からやりたかったのだそうだ。

 さらに絨毯を敷き詰めるにあたって、ご主人様が私たちを集めると、これから床を徹底的に掃き清めてから綺麗に拭き掃除をし、屋内では土足ではなく上履きを使うと宣言した。ご主人様は実はとても綺麗好きで、家に土足で上がるのはどうもイヤだったらしい。

 結局これも一日仕事になったが、家中がピカピカになり、そして各部屋に絨毯が敷き詰められているのを見ると、ご主人様は大変満足そうだった。

 私を含めみんなにも好評である。たまにご主人様のマネをして、絨毯の上にみんなで寝転がったりする。たまにはこうしてゴロゴロするのも悪くない。これも楽しい。

 

 ご主人様からは、他にも必要なものがあれば、何でも遠慮なく要望するように言われている。

 私は文机と書棚をお願いしてみた。これまでの経験やご主人様が言った事などを書き留めたり、図書館や解放会の資料室でメモしたことをまとめたりしている。料理のレシピなんかもそうだ。その中でも特に重要なのは迷宮探索時に書いた地図やメモを帰って来てからまとめ、清書することである。マップも現場ではサッと描くだけなので、思いついた点なども書き加えていきながら、できるだけ精密な地図を作り上げていく。この作業はみんなの意見なども聞きつつ行っていく。みんな積極的に意見なり気づいたことを言ってくれるので大変助かっている。

 そうした作業が夜、部屋が暗くなってからでもできるようにと、ご主人様が燭台も買ってくれた。蝋燭の方は、古くなった油に蜜蝋(これはグラスビーからのドロップ品で、普段は革装備の手入れに使っている)を混ぜて自作してみた。蜜蝋のキャンドルは長く使えるので経済的であるだけでなく、香りも良いので大変気に入っている(ミリアもこの香りがとくに好きなようで、用もないのに机のそばで丸くなっている)。

 

 実はモンスター図鑑なるものも作り始めた。どの迷宮のどの階層にどの魔物が出てくるのかはもちろんのこと、魔物それぞれの特徴(魔法耐性や弱点、特殊攻撃の有無から、ドロップ品の種類など)もまとめてある。しかもなんと絵入りで(だから「図鑑」とした)。絵はできるだけ本物そっくりに私が(!)描いたものであるが、その横には簡略化した非常に可愛らしいものも描かれている。子どもなんかが喜びそうな絵柄だ。こちらを描いたのは実はミリアだったりする。彼女は眼がとても良く、魔物をよく見ているからこそこういう絵も描けるのかな(私の描く絵にも、ここはこうだと教えてくれたりもする)。ミリアの絵はとてもカワイイとみんなにも好評なのだが、これだと魔物の危険性がまったく伝わってこないのが唯一困るところである。

 

 このほかにもまだまだ書きたいこと、書かなければならないことはたくさんある。自分の書いたもので書棚がいっぱいになればいいなと思う。

 

 余談になるが、これまでパーティーの基本的な運営については、全てご主人様が自らやっていたのだが、私の方からご主人様にお願いして、その一部を分担させてもらうようになった。私もなかなか慣れないが(以前いたパーティーでは兄さまが基本的に全てやっていた)、それでも面倒な事務仕事はなるべく引き受けるようにしている。

 ご主人様も私のことをちょっとは信頼してくれるようになったのだろうか、私に任せてくれる。それがとてもウレシイ。

 

 また二階の一部屋を衣裳部屋にしてもらった。ご主人様は、私たちが奴隷であるにもかかわらず、よく服を買ってくれる。それも古着ではなく新品だ。奴隷の待遇としては普通では考えられないことである。

 奴隷になる前でもこんなにたくさんの衣装を持ったことは無かった。貴族出身のルティナはさすがに別にしても、ほかのみんなも同じだったようだ。

 なおそのルティナが加入してからは、彼女に私たちの服の見立てや全体のバランスを整えてもらっている。さすがに彼女は趣味が良い。

 このほか、髪をとかしたりなどもお互いにやってあげたりしている。ご主人様にはペルマスクの鏡をなんと一人に一枚ずつ買っていただいた。これもとんでもない贅沢だ。スゴイ。ブラシは一人一本、これはロクサーヌさんがそれぞれに買ってくれたものだ。私もロクサーヌさんからもらったブラシを大事にしている。毎日お風呂に入るようになったので、髪も綺麗に洗っている。石鹸で洗うだけだと髪を傷めるとのことだが、カメリアオイルを少量塗りこめるといいらしい。私も以前はすぐに髪が爆発していたのだが、今ではとても綺麗にまとめてもらっている。

 

 なお衣裳部屋で着替えるときは、ご主人様もいるので、初めはみんななんとなく恥ずかしがっていたが、最近は慣れてきたのか堂々と着替えるようになってきて、むしろご主人様の方が恥ずかしがっているような有り様である。

 

 一度みんなで帝宮の侍女が着る服を着て、ご主人様の前で踊ってみせたことがある。発案はなんとルティナだ。何でもセルマー伯が侍女によくやらせていたらしい……。踊りの振付と指導はロクサーヌさんが担当した。ご主人様は最初は驚いていたがとても喜んでくれた。

 

 踊りの練習をしてみて分かったことだが、この動きは迷宮内での戦闘にも通じるものがある。ロクサーヌさんの振付はとても実戦的で、さすがである。

 もっとも本人はそんなことは全く意識していないらしい。それはそれでスゴイ。

 

 ご主人様にこの話をすると、なるほどとうなづいて、みんなでもう少し真面目に練習することになった。なんとペルマスクで何枚も鏡を購入し、部屋の一方を壁一面鏡張りにしてしまったぐらいである。

 

 ご主人様は「自分は踊りなんて全く踊れない」と言っていたが、そのかわりに「ラジオ体操」というものを教えてもらった。らじお?というのがよくわからないが、なんでもご主人様の故郷では子供は朝必ずこの体操をするのだそうだ(注:夏休みにですけどね)。

 ご主人様が口ずさむ聞いたこともないメロディーとやはり見たこともないご主人様の動きに合わせて、私を含めみんなで見様見真似でやってみる。動き自体はそんなに複雑なものではなく、分かりやすく覚えやすいので、みんなご主人様に苦も無く付いていけている。

 この体操は、例えば伸びの運動や、腕を振って脚を曲げ伸ばす運動、身体をねじったり身体を回す運動、両脚で跳ぶ運動など、割と短時間の間に、様々な動きが盛り込まれていて、確かにこれは良い運動になる。

 ただこれは他のダンスについてもそうなのだが、ときどきベスタやロクサーヌさんの胸が、とんでもない動きをすることがある。……本人たちは大変そうだが、正直羨ましい。

 

 そして結局ご主人様も私たちの踊りの練習に加わるようになり、こうして鏡の部屋(みんなからそう呼ばれるようになった)は稽古場になったのである。

 

***

 

 このほか最近みんなの間で流行っているのは刺繍や編み物だ。意外な?ことに一番刺繍が上手なのはミリアだ。柄が魚ばかりなのは何とも彼女らしいが。

 編み物はみんなご主人様のものばかり作りたがるので、まずは各自で作ってみて一番上手なものをご主人様に献上するというルールにしたところ、みんなの目の色が変わった。

 特にロクサーヌさんは鬼気迫るものがある(実はこれも意外なことだが、一番苦手にしているのが彼女だったりする。ベスタも結構器用にこなすし、ルティナも実家で手ほどきを受けていたらしい。見かけによらず私も得意だったりするのだ)。

 

 ご主人様も大変喜んでくれたが、結局みんなが編んだものを平等に着ていた。もっとも着る順番には注意を払っていたようだが。

 そして編み物についてもなんと一番上手なのはミリアだった。ご主人さまがミリアの編んだセーターを見て、「フィッシャーマンセーターだな」と言っていた。ふぃっしゃーまん?

 なんでもミリアの地元の漁村ではみなこれを着ているのだそうだ。

 

 結局ミリアは、ご主人様のものだけでなく私たち全員の分のセーターも編んでくれた。本人も上手だと褒められたのがよほどうれしかったらしい。

 ここクーラタルは、冬でもさほど寒さが厳しいというわけではないが(ハルツ公の治めるボーデはかなり北の方で、冬は相当冷え込むらしい)、ミリアの編んでくれたこのセーターは確かに暖かくて心地よい。

 みんなでお揃いのセーターを着たら、みんな笑顔になった。今度はこれを着て全員で踊ってみようかしら。

 

 刺繍の方でも、ある時ご主人様が、ロクサーヌさんのエプロンにヒヨコの絵を刺繍してほしいと、ミリアにお願いしていた。

 普段のご主人様らしからぬ真剣さで、自ら実際に絵を描いてまでしてエプロンのデザインを説明している。ミリアも真剣にそれに聞き入っているし、ふんふんと頷いている。何やら文字か記号らしきものがヒヨコの絵の上に書かれていたが、ブラヒム語でもないらしく私には読めなかった。

 さほど時間をかけることなく完成したエプロンだが、ミリアはとても器用に真似ていて、ご主人様が描いた絵にそっくりである。

 ご主人様もその出来栄えには大変満足したようで、早速ロクサーヌさんに着せていた。「これはなんて書いてあるんです?」と尋ねるロクサーヌさんに、「これはヒヨコの鳴き声だ。自分の故郷の言葉ではこう書くのだ」と言っていた。

 ご主人様はご機嫌だし、ロクサーヌさんもご主人様に自分のエプロン姿を見てもらえて嬉しそうにしていたが、なぜロクサーヌさんだけなのか、ヒヨコの絵に何の意味があるのかなど、分からないことだらけである。

 

 ともあれこうしてミリアは堂々の二冠王となったのだが、これを見てロクサーヌさんがますます必死になったのは言うまでもない。

 私などからすれば、別に張り合わなくてもいいとは思うのだが、ミリアの指導を熱心に受けている彼女の姿は、普段とは立場が正反対で大変面白い。本人はいたって真剣なだけになおさらである。

 

***

 

 さらにご主人様がいない時をねらって(別にいてもいいんだけど)、私たちだけで勉強会を開くようにもなった。

 まずはミリアにブラヒム語をマスターさせなければならない。彼女は帝都の商館でブラヒム語をマスターする前にこちらに来たので、仕方のない面もあるが、いつまでもロクサーヌさんに通訳してもらうようではいけない。

 ついでに言えば、ご主人様にもブラヒム語の読み書きを覚えてもらう必要がある。あれほど博識だし(常識には少し疎いところもあるが)、ブラヒム語も会話は完ぺきにこなすのに、読み書きが全くできないと聞いてビックリした。本人は色々と言い訳していたが。

 

 勉強会は基本的には魔物や装備品に関することのほか、戦闘や探索の進め方などがテーマになるのだが、ロクサーヌさんは実技はともかく座学では、ちょっと何を言っているのかサッパリわからずみんな困ったので、私が講師を務めることが多い。ロクサーヌさんの指導内容を(ミリアの話も聞きながら)言語化するのも私の仕事である。

 いつの間にかみんなから「セリー先生」とか単に「先生」などと呼ばれるようになってしまった。

 

 ロクサーヌさんも、装備品のお手入れ講座をやったときは非常にためになった。みんな真剣だ。

 鬼教官?がいるせいもあるが、やはり皆自分の装備品には愛着があるようだ。ルティナですら自分のブーツを愛おしそうに磨いている。

 そう、近頃はルティナも率先して講師役を勤めてくれている。

 実家にいたときは迷宮にほとんど入っていなかったらしいが、それ以外のことについては相当真面目に取り組んでいたようで、貴族ならではの教養と礼儀作法をみんなに教えてくれる。私も知らないことばかりなのでとても勉強になる。

 私も負けじと図書館や解放会の資料室でいろいろと仕入れた情報を、みんなに伝えるようにしている。

 ミリアやベスタも自分の経験などを話してくれるようになった。

 こうした勉強会は、ちょっとした取り組みではあるけれども、やってみると大変有意義なことだと思う。

 食事のときもみんなでいろいろと話はするのだが、せっかくこうして種族も出自もバラバラな者が集まったのだ。これを活かさない手はないだろう。

 

 それにしてもみんなの向上心はすごいものがある。誰もがより活躍したい、もっとご主人様のお役に立ちたいという気持ちでいっぱいだ。みんながこうしてやる気を見せているのは今の生活に満足していることの表れでもあるだろう。そしてより高みを目指したいということだ。ベスタも言っていたが、日々の生活がとても充実していることは確かである。

 何よりロクサーヌさんの献身的な姿勢にみんなが共感していることもあるだろう。彼女にはいろいろとアレなところもあるにはあるが、彼女のあの姿を見て何も感じないことの方がおかしい。

 

 こういった勉強会の成果が出てきたのか、最近は私が迷宮内で一々説明しなくても、必要な情報はみんなの頭にすでに入っており 説明要らずですぐに戦闘に突入できるようになってきた。ボス戦でも軽く確認するだけで十分だし、新たな階層に入ったときもみんなの方から私にから確認してくる。

 それに各自が装備の点検や精神集中などして、すぐに戦闘に入れるよう準備に余念がない。その様子を見たご主人様が、俺たちも熟練の冒険者みたいになってきたなと感慨深げに言っていたが、それも当然だろう。むしろそうでなければますます難易度が上がる迷宮探索でこの先生き残れないのだ。

 

 ただ勉強会とは言っているが、常にみんな真剣に何かを学んでいるというわけではなく、雑談というか他愛のないおしゃべりなんかもよくしている。ちなみにご主人様はカッコイイ?カワイイ?と私がみんなに聞いてみたことがあるが、全員一致でカワイイと言っていた(私も以前カッコイイと言ったがどちらかと言えばカワイイかなと思うようになった)。みんなそんなご主人様が大好きである。

 勉強会の場では、こういうたわいのない話も良い息抜きとなっている。

 

 またみんなにご主人さまとのアレについて感想をきくと、とにかくスゴイとみんな口を揃えて言う。順番はあるが私たち全員を平等に可愛がってくれるし、ひたすら気持ちいいとのこと。

 とくにロクサーヌさんは、自分が上になることにハマり気味だそうだ。最近さらにパワーアップしているような気がする。ロクサーヌさん一人でもご主人様を受け止め切れそうだ。実際に私が加わる前はそうしていたし。

 

 あとみんなキスが大好きである。前にも言ったかもしれないが、とりわけベスタが大好きなようで、放っておくと何時までもご主人さまを抱きしめて(抱きつくというより、抱きしめてという方が正しい)舌を絡めている。とてもえっちだ。

 ただあんまり続けているとロクサーヌさんがムズムズしだすのでいつも適当なところで切り上げているのだそうだ。

 ベスタは結構甘えん坊さんだ。自分の体が大きい分なかなか甘えさせてくれる男性がいなかったとこぼしていた。

 私? クールビューティーを標榜する私が甘えん坊なわけないでしょう(注:お酒が入るとどうなんでしょうね)。

 

 それとこれも白熱したテーマだったのが、ご主人様を満足させるにはどうしたら良いか、である。

 ……今でも十分満足しているような気もするし、たとえばこれ以上激しくなると迷宮探索に支障も出てくるのではないかとも思ったのだが、みんな真剣だ。

 

 そういえばご主人様から聞いた話だが、なんでも例のあの皇帝のおじさんは帝宮の侍女にハイヒールを履かせて自分を踏んでもらうことに非常な悦びを感じるのだそうだ。うん、まごうことなき変態である。

 話してみる分には気さくでとても面白いおじさんなのだが……そんないい人のイメージが私の中でガラガラと音を立てて崩れていく。

 私がそういう話をすると、それを聞いたみんなが一斉にルティナを見た。ルティナは「そんな恥ずかしいこと絶対やりません!」と顔を真っ赤にしていた。実際私も流石にそういう趣味はちょっと特殊すぎて理解できないし、ご主人様も「そうだろう?」と言っていた。同意してもらえたのがとても嬉しかったようだ。確かにそれではあのおじさんが変態呼ばわりされるのも仕方ないだろう。

 それでも「私たちもご主人様に同じことをしてあげましょうか?」と一応訊いてみたが、ご主人様はかぶりを振って、「とんでもない! 俺はあんなドMじゃないぞ」と言われた。どえむ?というのが何なのかよく分からなかったのだが、ご主人様の嗜好がごく普通でホッとした(まあこれまで見ている限り、そんなことでは喜ばないだろうとは思っていたが。性欲はきわめて旺盛だけれど)。

 それにこのご主人様は、私たちを反対に虐めて楽しむ気も全く無いようである。中には加虐的な主人もたまにいるらしく、ロクサーヌさんや私の居た商館でも特に注意するよう言われていた(いくら奴隷でも我慢する必要はない。もしそうなったときは逃げても良い。この商館を頼っても良いし、ステーラの神殿に駆け込んでも良いと)。もっともアラン氏の目はそう簡単には誤魔化せないので、そういう性癖を持つ客には奴隷を絶対に売ることは無いそうだが。

 

 なんでもご主人様がその話を聞いたのは解放会の入会時のことだそうだが、何の儀式かと思えば、新規入会者は恥ずかしい性癖などを1つ必ず告白しなければならないという、何ともしょうもないものだったとのこと。

 そういうご主人様が一体何を話したのか気になったのだが、なかなか認めてもらえずにいろいろと話す羽目になり、最後に話したのが私たち4人(当時はルティナの加入前だったので)を毎日全員可愛がっている、場合によっては2周することもあるという話をしたらしい。なんてことを言うんだと、思わず赤面してしまった。あ、ということはセバスチャンさんにもその話を聞かれたことになる。あの人はそんなことおくびにも出さないだろうけど、顔を合わせづらいなぁ。

 なおそのとき一緒に入会した人に、皇帝のお付きで一緒に入会したという近衛騎士の男性がいたそうだが、その彼はさらにもっとすごい(すさまじい?)性癖をお持ちだったそうだ。さすがにこちらの方はご主人様も具体的なことは何も教えてくれなかった(ご主人様でもドン引きするくらいの内容で、思い出したくもないらしい)。人の趣味・嗜好はそれぞれだが、中には本当に特殊な人もいるのだと思った。それに比べたら私たちなんかは平凡なのだろう。もちろんそれでいい(それがいい)のだが。

 

 というわけで(どういうわけで?)、変態おじさんの趣味の方はあまり参考にならなかったので、代わりに図書館でこっそり仕入れた房中術の知識をみんなに披露すると、みんなの食いつきがスゴかった。普段の勉強会の比ではない。とくにロクサーヌさんが必死である。迷宮探索のときには決して見せないほどの真剣さを見せていた。

 

 またあるときのことだが、「********」とミリアが突然言い出した。何を言っているのかさっぱり分からない。

 するとすかさずロクサーヌさんが、「*******」と言い返す。こちらも何を言っているのか分からない。

 ただ口調は穏やかだけれども、目が笑っていない。ミリアが少しビビっている。

 

「なんです?」

 と聞いてみると、少ししてロクサーヌさんが、

「ミリアが、『もし新しい奴隷が来るとしたらどういう人がいいか』と言い出したので『そういうことはありません』と言ったのです。今いる5人で十分ですし、もし何か不足があれば各自がレベルアップして補っていけばいいのです。みなさんもいいですね」

 と普段の彼女らしからぬ有無を言わせぬ口調で答えた。

 

 ふむ。ミリアが地雷を踏みぬいたか。この5人でやっていこうというのはみんなで合意していたはずなんだけど。

 実際今のメンバーでほぼ回せている。ルティナも急速に成長してきており、魔法使いになったと思ったら、早くも魔導士への転職を果たしている。

 このメンバーで十分やっていけるというのは、やはりその通りだろう。私も追加メンバーの必要性は現状特に感じていない。

 

 しばらくしてご主人様にこの勉強会のことを話すと「大変結構なことだ。どんどんやってかまわない。できれば自分も参加させてほしい」というので、ご主人様もたまにではあるけれども、会に参加するようになった。

 読み書きの練習も、面倒くさそうな素振りを見せながらも真面目に取り組んでいる。大変結構なことだ。やっぱりご主人様はこうであってほしい。

 

***

 

 こうして日常生活も充実してきた。確かに迷宮探索だけしていれば良いというものではないように思う。ただし迷宮探索が第一の目的であることも忘れてはいけない。

 ご主人様が、どうせなら迷宮探索は早朝と午前中だけにして、午後はこうしてのんびりするのもいいんじゃないかなどと言ったこともあったが、それを聞くなりロクサーヌさんが珍しく、きっぱりとこう言った。

 

「いいえ迷宮探索を欠かしてはいけません」

「いや別に全く行かないわけではないが……」

「今のペースを落とすことはあってはなりません。むしろもっとペースを上げていくべきでしょう」

 とはっきりと主張したのである。

 

 他のみんなは黙ってみているだけだったが、私もロクサーヌさんと同意見である。

 将来のことを考えれば、いち早く実力をつけ、迷宮討伐できるところまでたどり着いておくべきであろう。

 いつどんな話が来るかわからないし。

 

「ロクサーヌさんの言う通りです。目的をはき違えてはいけないと思います」

「う、うん。分かった」

 

 いろいろと話し合った結果、朝食後ご主人様が出かけている間と、午後迷宮探索を少し早めに切り上げた時間を充てることになった。午前は農作業、午後はその他家事全般という感じである。

 前にも言ったが、今はこの6人が大事な家族である。

 このままずっとこんな生活が続くのも、それはそれでいいかもしれないと思ったが、ご主人様には重要な目標がある。

 そのために迷宮探索も今以上に頑張っていけなければならないだろう。




先にまとまったので投稿します。

今回のお話は本編にはほとんど関係しておりません。
本当に私の妄想です。
なろう小説といえばやっぱりスローライフですよね。

石焼き風呂については、ググるとブータンにドツォと呼ばれる石風呂があるそうですが、私のイメージは、『ハクメイとミコチ』に出てくる奴ですね(アニメだと第10話「竹の湯と大根とパイプ」で出てきます。コミックスだと4巻)。

ハクメイとミコチの世界観は個人的にとても好きで、セリーたちにもこういう暮らしをしてほしいというのがありました。原作に合っているかどうかは分かりませんが、書籍版11巻でベスタがハーブにハマったというのも参考にしています。
一応この小噺はウェブ版準拠ではありますが。

木炭の方も元ネタがありまして、

https://youtu.be/GzLvqCTvOQY
Making Charcoal - Primitive Technology

です。このシリーズも好きで良く見ていたのですが、最近まったく更新がないのが残念です。

今回のお話は、上記のほかに某掲示板に投下されていたネタからも着想を得ています。
例によって、投稿後も加筆・修正があり得ますのでご注意を。
他のお題についても書き溜めておりますので、もし期待していただけているようなら、長い目でお待ちいただければと思います。

(追記1)
ちょこちょこと加筆しています。
ネタフリに感謝です。

(追記2)
さらに石鹸に関するお話を追加しました。
元ネタは、やはり『ハクメイとミコチ』から。ルティナのセリフはコンジュのものをそのまま使っています。
それと固形石鹸の作成については、

Handmade Soap Manufacturing - The Traditional Way
https://www.youtube.com/watch?v=m92xgf4zAvw

これを参考にしています。この動画を見て、『ハクメイとミコチ』でも石鹸ネタがあったことを思い出し、この部分を作成しました。

(追記3)
記述自体を追加したのは少し前のことだったのですが、以下のコメントを受けて加筆しました。

「セリーが作品内で一番大好きなので読んでてとても楽しかったです。これからも更新楽しみにしています!出来れば内密さんがセリーに皇帝と同じような趣味のプレイをこそっとお願いする話とか読んでみたいです」

という有難いコメントをずいぶん前にいただいて、いろいろと考えていました。ただ相当悩みましたけれども、私の中の内密さんは(ややSよりの)ノーマルだと思うので、申し訳ないのですが、ご意見をそのまま採用することができず、このようなかたちになりました。ごめんなさい。
(それと近衛のお兄さんがどんな性癖持ちだったかも気になるところですが……なんだったんでしょうかね。)

商館のおばさん「男は表向きは偉そうにしていても、みんな甘えん坊(マザコン)で、女性にいじめられるのが大好き(マゾ)なのよ」(MM理論(大嘘))

(追記3の追記)
この辺りについて、「セリーが変態皇帝から酒を下賜された時の話」の方も少し加筆しました。
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