私の名はセリー   作:続きません

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書きかけのものをとりあえず置いておきます。
いずれ既存の話に突っ込むか、独立させて新たに話を設けるかもしれません。

【諸侯会議とルティナ】は某掲示板に投下したものです。

23/2/3 【初めてみんなでお酒を飲んだ話】を追加しました。
23/11/22 諸侯会議について大幅に加筆しました。


その他小ネタ置場(書きかけ)

【諸侯会議とルティナ】

 

 諸侯会議に出席していたご主人様とルティナが帰ってきた。

 ご主人様は多少の疲れは見せていたものの、いつもと全く変わりなく飄々としていたが、ご主人様に支えられるようにして帰ってきたルティナの方は明らかに様子がおかしい。はっきり見て取れるほど悄然としている。いったい彼女に何があったというのか。

 

 今回の会議は、ご主人様が叙爵されて初めて参加するものだ。本人とお付き一人だけが出席できるのだが、誰を同行させるかについては、やはりというべきかひと悶着あった。

 一番奴隷ということならもちろんロクサーヌさんになるのだが、ご主人様は私を連れて行くことも考えていたらしい。「セリーは頼りになるからな」と、そう言ってもらえるのはとてもウレシイことではある。

 しかし結局、貴族出身であり、以前から諸侯会議で活躍することに、並々ならぬ意欲を見せていたルティナとなった(例のオババ様のところでの猛勉強から帰ってきた彼女の復習に、なぜか私もよく付き合わされたのだが(とはいうものの私自身も大変勉強になった。さすがのオババ様である)、「私は何も分かってませんでした」と、彼女がしみじみと言っていたのが印象的だった)。彼女なりに一生懸命に勉強していたことも評価されたのだろう。ロクサーヌさんも、(自分がついて行きたい気持ちは相当強かっただろうが)快く彼女を送り出していた。

 

 ちなみにこの諸侯会議についてだが、これは年に一回帝宮で開催される帝国で最も権威のある会議であり、帝国内の全ての貴族が必ず出席しなければならないものだ。

 そこでは実に様々なテーマが報告され議論されるのだが、その主なものをまとめると以下の通りである。

 

 ・帝国法の制定・改廃:帝国統一法のほか、各領地にもそれぞれ領法があり、その内容は様々で種族間でも差異(特徴)が見られるのだが、それら諸法間の調整なども行われる。

 ・各領地の経営状況:飢饉や災害、何よりもその地における迷宮発生・駆除に関する情報が共有される。

 ・各貴族家に関する情報:爵位の変動や代替わりに関する情報、婚姻や出産なども重要な情報として報告されるらしい。

 ・帝国全体の運営・外交方針:この大陸には帝国の他には独立国家と呼べるものは存在しないが、帝国に所属していない人たち(勢力?)もいないわけではない。また、現在は没交渉だが、できれば海洋を超えて他国と交易するということも、検討課題として挙がってはいるようだ(もっとも迷宮から得られる物資はどこの国でもおそらく同じだろうから、交易するにしてもそれ以外のものになるだろう。たとえばペルマスクの工芸品であるとか)。

 

 というように扱うテーマは多岐にわたる。会議は基本的には(予備交渉が事前に行われていることもあって)一日で終わるが、夜には晩餐会も開かれ、そこでも重要なことが決まったりするようだ。また場合によっては、会議が終了した翌日以降も帝都に残って協議が続けられることもあるらしい。

 

 この諸侯会議についてご主人様は、皇帝の権力が思ったほど大きくないところが興味深いと言っていた。この国の統治機構について、より中央集権的(というらしい)なものを考えていたらしい。他国の政体がどうなっているか私はよく知らないのだが、ご主人様の故郷はまた違う制度を採用しているとのこと。共和政?だとか民主主義?と言っていたが、ご主人様にその概要を一応説明してもらったけれども、正直なところ私には、迂遠としか思えないその仕組みの有用性が少しも理解できなかった。

 また、ご主人様に言わせると、宗教が政治に介入しないというのもとても珍しいことらしい。これもよくわからないのだが、少なくとも帝国においては、宗教界は俗世についてはほとんど力を持っておらず、ましてや政治に介入するなどありえないことである。これは宗教が政治に関与することを固く禁じた初代皇帝が、政教分離原則として定めたのだというと、ご主人様はたいそう感心していたが、それと同時に不思議にも思ったようだった(注:初代皇帝も転移者だったのでしょうかね)。

 

 諸侯会議にも見られる通り、帝国の支配体制の特徴は、各領地と帝国との二重構造にあるといわれる。ご主人様も言うように、皇帝の権威は絶対というわけではなく、各領主も一定の権限を持っている。これは迷宮駆除という使命を、皇帝を含む各貴族が共に果たすためであると説明されており、またこのような関係にあっても(むしろそうであるからこそ)、領主と皇帝または領主相互間での争いは過去にほとんど起きたことはないという。

 ただ諸侯会議においては各種族間の駆け引きもやはりあるというし、領主間というより種族間での差別というか軋轢も全く無いわけではないようだ。皇帝やハルツ公、エステル男爵などは、種族は異なれどもみな仲良しらしいのだが、それでも他所では種族間のいがみ合いみたいなものはやはりあるという。帝国解放会が特に種族による差別の禁止をわざわざ掲げているわけである。

 種族差別についても、初代皇帝が強く戒めていたところでもあるのだとか。というのも初代皇帝のパーティーは、丁度今の私たちのような種族構成だったそうで、その各メンバーがそのまま領地を持ち、貴族として今にいたるわけである(ハルツ公やエステル男爵もご先祖様を遡れば初代皇帝が率いた伝説のパーティーメンバーまで行きつくそうな)。

 

 以上の話は、そのほとんどが図書館で閲覧した帝国の政治体制について書かれた文献からの受け売りになる。私もそうだが、他のみんなもこういった知識はほとんど持っておらず、私の話を大変熱心に聞いてくれていた。ご主人様も詳しいことは知らなかったようで、とても興味深そうであった。

 

 話を戻そう。

 帝都に行く前、ルティナは面白いぐらいに緊張していたが、「フンス!」と握りこぶしに力を込め、気合をいれている。……空回りしなければいいのだが。

 そして彼女はご主人様についていこうとするのだが、やはりぎこちない。歩き出すと、右手と右足が同時に前に出ているような有様である。……本当に大丈夫だろうか。そんなルティナの様子を見て、ご主人様は「あまり気負うな」と苦笑していた。

 

 さて残った私たちだが、みんなで家事などを片付けつつ、ご主人様とルティナの帰りを待つことになった。ご主人様によれば、会議の後は晩餐会があるということで、帰って来るのは夜遅くになるとの話だった。

 そういうわけで今日は残りのみんなで一日ゆっくりと過ごすことができた(ミリアとベスタはいつものようにじゃれ合っていた)のだが、ロクサーヌさんと私は、一応はのんびりしながらも、果たして会議はどうなったのか、何よりルティナは大丈夫だろうかと二人でやきもきしていた。

 そうして夜遅くになって、ようやく二人が帰ってきたと思ったらこの有様である。全然大丈夫じゃなかった。ルティナ本人はろくに話もできない状態だったので、いったい何があったのかご主人様からおおよその話を聞かせていただいた。

 

 ご主人様の話によれば、当初は張り切っていたルティナだが、諸侯会議の開始早々いきなり発言を求めたらしく(彼女がまさかそんなことをするとは正直ビックリなのだが。ご主人様もさすがにこれは予想していなかったらしく、彼女を止め損ねたそうだ)、彼女の強引な発言はその内容の稚拙さもあって、周りの出席者(もちろんみんな貴族である)から集中砲火を浴びたらしい。

 もともとご主人様は、若くしてあの攻略困難と言われたグリニアの迷宮討伐に成功して貴族に叙せられたことから(このグリニアはかつては帝国領だったものが失われて久しく、もう回復は不可能ではないかとも言われていた地である)、また皇帝やハルツ公とも関係が深いということもあって(有力貴族または皇帝のご落胤ではないかとの噂もあったらしい。確かに年回り的には皇帝のおじさんの息子といっても不自然ではない。あまり似てないが……第一ご主人様の方がずっとカッコイイし。おっとこれは本人には言うつもりはないけれど)、今回の会議では新参であるにもかかわらず、周囲から大変注目されていたらしい。いくら成人しているとは言え、まだ十代のご主人様(やはりというか出席者の中で最年少だったそうな)が貴族の当主として諸侯会議に出席することもまた、きわめて珍しいことだという。

 

 そんななか、会議冒頭でのルティナの不用意な発言は批判の格好の的になってしまったようだ。行く前にあれほど出しゃばるな、初回は見ているだけでいいのだからと彼女には言い聞かせていたというのに。

 

 それでもご主人様は「まぁ、こういうこともあるさ」とルティナをやさしく慰めていた。その場はご主人様が率直に非礼を侘びたことでなんとか収まったらしいのだが、ルティナはそのことにも非常に恐縮していたそうだ。まあその程度で収まってよかったというべきか。

 

 なおご主人様が後でこっそり教えてくれたのだが、ルティナが他の出席者の関心を引いてくれたおかげで、かえってご主人様自身は落ち着いて会議に臨めたらしい(ルティナには悪いが、ある意味彼女に助けられたとのこと。さすがのご主人様も緊張していたようだ)。そして会議後には皇帝(あのヘンなおじさんである)やハルツ公(当然のことだがゴスラーさんも一緒だったそうだ)とも自領の経営についてなどいろいろと有益な意見交換ができたそうだ。

 会議の場でのルティナの発言について、ご主人様が詫びた件に対しては、ハルツ公にとりなしてもらうのはかえって火に油をそそぎかねないし、皇帝は立場上介入できないので、あれはあれで良かったとのこと。ルティナ本人についても、ハルツ公は気分を害するようなことは全くなく、ただただ苦笑していたそうだ。そもそもルティナが会議の冒頭でそんな無謀なことをしたのは、ハルツ公にも原因?があったらしい。というのも会議が始まる前にご主人様がハルツ公に挨拶されたそうだが、その時のルティナは、今にも噛みつかんばかりの、ものすごい形相だったそうな(いつも練習している「アレ」を繰り出そうともしていたらしい。ご主人様が慌てて止めたので良かったが)。

 どうやらルティナが会議の場でそんな無茶な真似をしたのは、ハルツ公と張り合おうとしたせいのようだ。事情が事情なだけに仕方ないとはいえ(「親の仇」であるのは確かなことだし)、彼女はハルツ公のことを少し意識しすぎではないかと私は思うのだが。さすがに会議後は彼女も大人しくしていたというか、放心状態でそれどころではなかったようだ。そしてそのまま帰ってきたとのこと。

 一方皇帝の方はその発言も含めて、ルティナのことをいたく気に入ったようだ。「師兄(すひん)のところの奴隷はみな面白い」とのこと。はて? 誰のことだろう(注:もちろんあなたです)。

 

 なお会議やその後の晩餐会では、他にも同じ人間族の貴族からご主人様にいろいろと接触があったらしい。中でもブルーノ伯という人からはかなり強い働きかけがあったそうだ。なんでもこの人は解放会の副会長とのこと(ついでに言うとロリコンでもあるらしい(ご主人様談))。しかしすでにご主人様は、ハルツ公が自身の陣営にガッチリと組み込んでおり、皇帝もそれを了承しているとのことで、それでもブルーノ伯はかなり粘っていたようだが、他の貴族たちはすぐに引き下がったらしい(みな大層悔しがっていたそうではあるが)。

 

 その間ルティナ当人はといえば、先ほど言ったとおり、自分が会議で失敗してしまい、ご主人様に迷惑をかけたと申し訳ない気持ちで一杯であるばかりか、そのせいでロクサーヌさんや私からまた「説教」されるのではないかと非常に恐れてもいたらしい。

 もちろんロクサーヌさんも私もそんなことなどするわけがない(ロクサーヌさんも苦笑はしていたが、全く怒ってなどいなかった)。ルティナなりに頑張った結果が、たまたま上手くいかなかっただけなのだから。ということでミリアとベスタも加わって4人で慰めていたのだが、そうしていると突然ルティナが泣きだしてしまった。それも大泣きである。それまでは懸命に涙をこらえていたようだが、どうやら感情が抑えきれなくなったらしい。ご主人様も加わってしばらくみんなで彼女をなだめていた。

 

 まあ彼女にとってはこれもいい経験となるだろう。次回以降もご主人様は変わらずルティナを連れて行くとのこと。彼女も次こそはと気合を入れ直したらしい。例のオババ様のところでさらに本格的に修行することも考えているようだ。

 ただご主人様は次からは私も連れて行き、会議場には入れずとも控えの間に待たせておくことも考えているらしい(他の貴族も随員が二人だけということはなかったそうだ。当たり前か)。まあ私でもお役に立てるようなら行ってみたいとは思うけど。

 

 その後ルティナから、こっそり「頭の回転を良くするジョブかスキルはあるのでしょうか?」と訊かれたのだが、彼女の現在のジョブである魔道士にはもともと知力上昇効果があるのだし、そもそもそんなものに頼って会議を乗り切ろうとしてはいけないと諭しておいた。だいたい彼女は本来的に頭の回転が悪いわけでは決してないはずだ。それなりに経験を積めば他の貴族たちとも十分渡り合っていけるだろう。ご主人様にもそう言うと、やはり同意見だった。

 頑張れ、ルティナ。

 

 

【セリーたちがエレーヌの神殿とステーラの神殿に行ったときの話】

 

 ご主人様に連れられて、エレーヌの神殿をみんなで見に行ったことがある。

 この神殿は、帝都の近郊にあるのだが(もともと帝都それ自体が昔から大都市として存在していたわけではなく、エレーヌの神殿の近くにあった寒村を、初代皇帝が帝都と定めて大きくし、それがここまでの巨大都市に発展したのである)、とても荘厳で立派な建物だった。

 初代皇帝がここで英雄のジョブを得たというエピソードは大変有名で、本来の転職目的でやってくる人以外にも、非常に多くの人がこの神殿に詰めかけていた。ここはいつもこんな様子らしい。もはや観光地である。食べ物や土産物などを売る店も出ており、どれもよく売れているようだった。

 神殿前の広場には初代皇帝の像も建っていた。……どことなく例のヘンなおじさんに似ている(もちろん実際はヘンなおじさんもとい現皇帝の方が初代皇帝に似ていることになるのだが)。

 

 ここではいくらかお布施を払うことで、神殿を使わせて貰えるとのこと。

 そうすることで神託が受けられ、その人にとってもっとも適性のあるジョブに転職ができるらしい(各ギルドのギルド神殿のように、必ずそのギルドのジョブに就くというわけではない)。ご主人様流に言えば、すでに所持しているジョブのうち、その人にもっとも合っているとされるジョブにしてくれるのだそうだ。各ギルドのギルド神殿を除けば、転職ができるのはここだけである(ということになっている。実はご主人様もできるのだが、もちろんこのことは内密である)。

 どんなジョブについたかは、本人以外には分からないのだそうだ(考えてみれば、そうでなければ例の凶賊のハインツなどが転職できるわけがない。もし凶賊になったことがバレたりしたら、その場に居合わせた神官もタダではすむまい)。

 

 ご主人様の指示で私たち全員がお布施をした上で、それぞれお告げを受けてみた。

 ……その結果だが、ロクサーヌさん以外はみんな今のジョブのままだった。ロクサーヌさんは獣戦士にされたようだ。百獣王を目指せという神様のお告げなのか、それとも単に種族固有ジョブが優先されるのだろうか。私も鍛冶師だったし(当然である。私は何が何でも隻眼を目指さなければならないのだ)、ベスタも竜騎士のままだった。

 ただルティナは魔道士だった。エルフの種族固有ジョブは森林保護官なのだが、確かにこれは種族固有ジョブの中では微妙なものとして有名?である。

 どういう基準でジョブが選択されるのか、その詳細はよく分からないが、ミリアも海女にはならず暗殺者のままだったのは、やはり個人の適性を正しく見ているということなのだろうか(もっとも猫人族の固有ジョブである海女または漁師は、実は対水生生物特効が非常に使えるスキルで、彼らはこれを活かして、白身や尾頭付きを狙ってマーブリーム、蛤狙いでクラムシェル、そして赤身やトロを目当てにブラックダイヤツナなど、特定の迷宮の特定の階層で、計画的・集中的に狩りをしているのだそうだ。もちろんパーティーに料理人を参加させることも忘れないとのことである)。

 

 ご主人様はロクサーヌさんに、「すまないがロクサーヌは巫女に戻す」と言っていた。ロクサーヌさんも獣戦士に特に強いこだわりを持っていたわけでもないようで、素直に頷いていた。

 本人いわく、自分には巫女の方が性に合っているとのこと。百獣王への憧れも全く無いわけではないが、何よりもご主人様に託されたこのジョブを必ずや極めてみせると(フンス!と鼻息も荒く)言っていた。

 そんな彼女の思い入れは別として、実際女性冒険者にとって巫女は魔法使いに負けないぐらい人気のあるジョブであり、憧れのジョブである。もっとも魔法使いになるにはごく幼いころに迷宮に連れて行ってもらい、自爆玉という高価なアイテムを使わなければならないため、貴族の子弟でもなければまず就くことのできないジョブである。それに比べれば巫女の方は誰にでも十分になる可能性がある分(もっともこちらも希望者の半数もなれないという難関のジョブではあるが)、こちらの方がより人気が高い。まあ私は鍛冶師のほうが絶対に上だと思っているけれども(巫女のジョブも一応持っているが)。

 

 話を戻すが、ご主人様はこうしたジョブ選択の仕組み(というか適性の判定基準)に強い関心を持っていたようで、エレーヌの神官を質問攻めにしていたが、神官であっても詳細な仕組みまでは分かっていないらしく、大したことは聞けなかったと残念がっていた。

 そのご主人様もお告げを受けていたが、やはり勇者だったらしい(大丈夫だろうとは思っていたが、色魔じゃなくて良かった。ご主人様本人も少し緊張したそうだ)。ご主人様が勇者のジョブを持っていることはまだ私しか教えてもらっていなかったのだが、この際だからということで、みんなに自身のインテリジェンスカードを見せていた。みんなマジマジと見ていたが、驚きの余り声も出ないようだ。以前ご主人様が遊び人であることを明かしたときの比ではない。私だって初めて見た時は驚愕したのだ。当然の反応ではある。ご主人様は「内密にな」といつもの台詞だったが、これももちろんのことである。英雄のジョブですらバレたら大変だというのに、これが勇者ともなれば本当にタダでは済まないだろう。

 

***

 

 その後エレーヌの神殿に行ったのだから、どうせならステーラの神殿にも行ってみようかとご主人様が言い出した。

 「どうだ? 行ってみないか?」と訊かれたベスタが慌てて、「いいですいいです大丈夫です!」と答えていたのが面白かった。別に見に行くぐらいはいいのに。私も前から一度訪れてみたいと思っていた。

 ご主人様はステーラの神官にいろいろと話を聞くのも面白そうだと考えていたようだ。またそうやってこちらに訊いてくるのは、普段の私たちの扱いに対する自信の表れでもあるのだろう。

 

 ということでその足でやはりみんなでステーラの神殿に向かう。

 ステーラの神殿も、エレーヌの神殿と同じく帝都の近郊にある(とはいっても中心部を挟んでエレーヌの神殿とは反対側である)のだが、こちらはエレーヌの神殿とは対照的にこじんまりとしたあまり目立たない建物だった。非常に質素なつくりである。エレーヌの神殿のように誰もが訪れるようなところではないので当然ではある(実際私たちが訪ねたときも他に来ている人は誰もいなかった)。

 どうやらこの神殿は獲得した資金を、建物などではなく奴隷解放のために全て振り向けているかららしい。また施設の維持や奴隷解放のための資金は、ここで解放された元奴隷からの寄付がかなりの部分を占めているようだ(そのほか帝国からも金銭的な支援を受けているそうだ。それもエレーヌの神殿よりも手厚いとのこと)。

 

 奴隷である私たちがご主人様に連れられて、ぞろぞろとやって来たことに、ステーラの神官は大変驚いていた。奴隷が一人であるいは複数集まってここに駆け込んでくることは割とよくあることなのだそうだが、主人が奴隷を連れてやってくるなどということは全く記憶にないとのこと。

 ただの見学だとご主人様に言われて、その神官も一応は納得したようだが、それでもとても不思議がっていた。確かにそれはそうだろうと私でも思う。

 

 ここに来た時からベスタの様子がやけにおかしかった(ヘンな汗をかいていた)のだが、ご主人様がベスタに「どうする?」などとまた訊くと、「私をそんなにいじめないで下さい。もうそんなことは考えていませんので……」としまいには泣き出してしまった。みんな慌てて駆け寄って彼女をなぐさめる。

 ご主人様もすまなかった、悪気はなかったと素直に謝っていた。どうやらそうやってベスタをからかっていたのは、やはり私たちの扱いに対する自信があったからのようだ。

 私たちが、奴隷として破格の扱いを受けているのは確かではある。たださすがにこれはやりすぎだ。

 

「いくらご主人様でも悪ふざけが過ぎます! ベスタは人一倍真面目で気のやさしい娘なのですから」

 などとご主人様はロクサーヌさんにこっぴどく叱られていた。全くその通りだと思うので擁護できない。私ならともかく(ただご主人様は私にはそういうことは一切言ってこないが。私に通用しないのが分かっているのかな?)、ベスタにアレは酷である。

 

 反省したご主人様は、ベスタを抱き寄せると優しい言葉をかけていた。

 ベスタもすっかり落ち着きを取り戻したようで、

 

「ご主人様には本当に良くしてもらっていますし、冒険者としても迷宮探索がとても充実していて楽しいです。みなさんとどこまで行けるかも楽しみですし、私も少しでもお役に立てるようこれからも頑張っていきたいです」

 と言っていた。少しどころか大いに役に立っていると思うのだが(すでに彼女はこのパーティーにとって欠かせない存在である。ただこれは他のみんなも同じだが)、実に彼女らしい物言いである。

 

 以前まだロクサーヌさんと私しかいなかったときのことだが、奴隷の待遇を見直すという話をご主人様としたことを思い出す。その時は結局何も変えることはないということで落ち着いたのだが、それはつまりこれ以上の待遇などありえないということでもある。私たちが奴隷であることは確かは確かなのだが、相当自由にさせてもらっているし、普段の生活にも何一つ不満に思うことはない。それにもともとそういう人物をスカウトしてきたというのもあるが、迷宮探索にもみんなやりがいを感じている。ルティナですらやる気を見せている(もっとも彼女の場合は迷宮討伐の先にある叙爵を見据えてのことなのだろうが)。

 ご主人様はベスタに謝ると同時にまた、せめてものお詫びだとして、神殿に金貨1枚を寄付していた。神官はこのことにも大変驚いていた。

 確かに興味深くはあったが、私たちとは無縁のこの場所には、おそらくもう来ることはないだろう。

 

 

【初めてみんなでお酒を飲んだ話】

 

 ドワーフの嗜みとして重要なものにお酒がある。ドワーフ族はみなお酒を飲む。それも大量に。みんなお酒が大好きだ。酒はドワーフの生涯の友であるといっても決して過言ではない。ドワーフ族はこの一杯のために生きているともよく言われる(一杯で終わることは決してないが)。まあ私はそれほど好きというわけでもなく、量も大して飲むわけではないけれど(注:そうでしょうか?)。何かヘンな声が聞こえたような気がするが本当ですよ? 酔って取り乱すようなこともないし(注:本当ですか!?)。

 

 一方ご主人様は普段全くお酒を飲まない。少なくとも私たちの前では一回もない。人間族は一般的にドワーフほどではないがお酒が好きで、よく飲んでいる種族だとされているのだが。

 実はご主人様はこれまでお酒を飲んだこと自体が全くなかったらしく(「未成年だからな」と言っていた。はて? ご主人様は17歳のはずだが)、当然のことながら自分が許容できるお酒の量も分からないらしい。そのため酒場などに行って、万一自分が酔いつぶれてしまったりしたら危険だということで、そういうところにも全く行かなかったそうだ(「一人で飲んでも面白くなさそうだしな」とも言っていた)。

(これは余談になるが、ご主人様は賭博の類も一切しない。賭場に行きたいとも思わないそうだ。博打で身を亡ぼす人も多いと聞くので、これは大変いいことである。)

 

 またロクサーヌさんをはじめ、他のみんなもお酒を飲んだことはなかったらしい。飲んだことがあるのは私だけのようだ。ご主人様も言うように、一人で飲んでもあまり楽しくないのだが。そもそも奴隷だから勝手に飲むわけにもいかないし。いや飲めと言われれば飲むんですけどね。ちなみに「水」はお酒に入りませんからね。

 

 以前も帝国解放会のロッジで皇帝のおじさんからドワーフ殺しを飲ませてもらったり、ハルツ公のところでなぜか私だけドワーフ殺しをもらったりしていたことはあるが(どちらも大変おいしゅうございました)、特別お酒が好きなわけではないですからね。どうもそういう印象ばかりが先行してしまっているような気がしてならない(注:そうでしょうか?)。

 

 ご主人様もそうだけど、みんなお酒を飲んだらどうなるのかな。飲ませてみたら面白そうだ。今度「水」とすら呼べないようなものからいってみよう。

 

***

 

 などと考えていたら、ある日大家さんから、石鹸の御返しだとかで(ご主人様に教えていただき、みんなで作った石鹸を近所におすそ分けしているのだ)、ドワーフ殺しほどではないけれど、飲みやすくておいしいお酒をいただいた。ご主人様も珍しく興味を示したようで、せっかくだからと明日は休日にして、今日はみんなにお酒がふるまわれることになった。

 ただ私たちは全部で6人もいるから、いただいたお酒だけではさすがに量が足りないだろうということで、追加でお酒を買うことにした。もちろんお酒もクーラタルの酒屋で普通に買えるものである。購入するお酒の種類や量については私に任されたのだが、ドワーフ殺しのような強い酒はやめてくれとご主人様に言われた。……ドワーフ殺しも名前の割に決して強いお酒ではないと思うのだが、ドワーフ以外の種族にとってはそうではないのだろう。

 

 ということで酒屋の主人と相談しながら(お店にあるお酒を、どれでも気前よく試飲させてくれたのがとても嬉しかった。「いい飲みっぷりだ」と感心された)、いろいろと買ってみた。気づくと結構な金額になってしまったのだが、ご主人様は苦笑しながらも特に何も言わなかった。こうなることはある程度覚悟はしていたらしい。

 

 そうして始まった初めての酒宴だったのだが、結果から言えば、とても楽しい時間をみんなで過ごすことができたと思う。

 これまでみんなが作ってきた料理の中でも、特に自慢の一品を各自が一つずつ作り、乾杯してから食べ飲み始めた。

 特にお酒が弱いという者もおらず、みんな楽しく飲んでいた。私はもちろん自分でも飲んでいたが、むしろいろんなお酒についていろいろと説明しながら、みんなの好みに合わせて薦めていた(ご主人様によれば、そういう仕事の人を「そむりえ」?というらしい)。

 

 みんな最初は少し遠慮していたところもあったのかもしれないが、お酒が進むとだんだんと陽気にしゃべるようになってくる。そうしてキャイキャイとみんな姦しく飲んでいたのだが、ただご主人様だけはその慎重な性格からか、あまり飲んでいないようだった。何か問題が起きないようにとの配慮なのだろうか。だがそうしたご主人様の配慮も結局は無駄だったのだ。

 

 というのも確かにみんな最初は普通にご機嫌で飲んでいただけだったのだが、それがだんだんとエスカレートしていき、みんな目が据わってくる。そして気づけば最後はみんなでご主人様を襲っていた。ロクサーヌさんですら豹変していた(狼だけど)。

 どうもうちのパーティメンバーは、実は割とみんな積極的な方だったらしい(注:肉食系なんですね)。いつもとは攻守が完全に逆転してしまっており、ご主人様の方が美味しく頂かれていた。私は特段酔っていたわけではなかったのだが、めったにないチャンスだったので、どさくさに紛れてみんなと一緒にご主人様を襲ってみた。すごく良かった。大変おいしゅうございました。本当にとても楽しかった。

 

***

 

 次の日、頭を抱えてうなっていたみんなに対して、ご主人様が無期限の禁酒令を宣言したのは、まあ仕方のないところかもしれない(セリーは飲んでも構わないと言われたが、それと同時にああいうときはセリーまで一緒になってどうする、みんなを止めてくれとも言われた……どうやらあえてみんなのノリに乗っかっていたのがバレていたようだ。私は飲んでも構わないとは言われたが、さすがに私だけ飲むわけにもいかないので遠慮しますと言っておいたけれど)。

 

 その日は当初の予定通り迷宮探索はお休みになったのだが、結局みんな二度寝していた。ご主人様も結構飲まされていたようで(飲ませたのは私じゃないですよ? 私は全く気付かなかったのだが、どうやらどさくさに紛れて口移しでご主人様にお酒を飲ませていた娘がいたらしい。誰だろう? もちろん私じゃないですよ? 正直その手があったかと思ったけれど)、同じくグッスリ眠っていた。

 全くみんなだらしがないなぁとも思ったが、初めて飲むお酒だったのである意味仕方ないのだろう。やはりドワーフとは鍛え方が違うようだ。私は軽く家事をすませたあとは、書斎でずっと書き物をしていた。

 

 そうして昼過ぎになって、ようやく起き出してきたみんなに、冷蔵庫で冷やしていた果実のしぼり汁を出してあげた。みんなとても喜んで一気に飲み干していた(だけでなくお代わりもしていた。私は「水」を飲んでいただけだったが、ご主人様にはまだ飲むのかと呆れられてしまった)。みんなさすがにちょっと飲みすぎたと反省していたが、同時にとても楽しかったとも口々に言っていた。

 

 確かにあれは少しやりすぎだったかもしれないが(それでもドワーフ族からすれば、大変大人しいものではあった)、飲みすぎには気を付けつつまたやりたいですねとご主人様に言うと、まあほどほどになと禁酒令を1日で撤回してくれた。ただ昨日みたいにならないように、セリーも一緒になって襲うのではなく、ちゃんとみんなを止めてくれと重ねて言われてしまった。

 

 ともあれお酒を飲む楽しさをみんなに知ってもらえたことは、私にとっても有益なことだったのは確かである。やっぱり1人で飲んでもつまらないですもんね。

 

***

 

 何でもご主人様の故郷の格言?に「お酒はニ十歳になってから」というものがあるらしい。二十歳までお酒が飲めないというのは正直ひどい話だとは思うのだが、ご主人様によればあまり若いうちからお酒を飲むのは体に良くないのだそうだ。ドワーフ族はそんなことはないと私がいうと、「種族特性かな?」と言われた。まるでドワーフ族が異常みたいに言われるのは正直心外である。

(その他にもご主人様は、ドワーフはきっと肝臓が強いのだろう、いやドワーフはお酒を燃料にしているに違いないとか、訳の分からないことをいろいろと言っていた。)

 同じくご主人様の故郷には、「酒は百薬の長」という言葉もあるそうだ。うんうんそうだろうそうだろうと私がしきりに感心していると、まあそれでも程々になと、ご主人様にまた釘を刺されてしまった。むむぅ。

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