私の名はセリー   作:続きません

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初 出:書き下ろし


内密さんがセリー達をお風呂に入れる話(仮)

 私の名はセリー。ドワーフ族の16歳。ジョブはといえば、いろいろと紆余曲折はあったのだが、現在は鍛冶師として活躍中?(自分で言うのもなんだが)、である。

 

 私のご主人様は名をカガ・ミチオというが、人間族の冒険者で、私を含めて5人の奴隷(しかも全員が若い女性である。ご主人様も若く私たちとほとんど年齢は変わらない)とクーラタルに家を借りて住み、そこから迷宮探索に赴く毎日である。

 

 ご主人様の奴隷となり、私の生活は様変わりした。もちろん奴隷となったのだから、それまでの生活から一変するのは当たり前のことではあるのだが、かつて私がいたベイルの商館で教えられたような一般的な奴隷の生活とも全く異なる日々の暮らしに、最初は本当に戸惑ったものである(今でもたまに戸惑うことがある)。今回はそのうちの我が家のお風呂にまつわる話を書きたいと思う。

 

***

 

 私がこのパーティーに加わったとき、すでにご主人様は一番奴隷のロクサーヌさんと2人でここクーラタルの借家に住んでいたのだが、この家には1階にお風呂場があった。そうあのお風呂である。お風呂なんて王侯貴族か、そうでなくてもよほど裕福な家でない限りは入る習慣などなく、私たちのような庶民が住む家にあることなど通常ではとても考えられないものである。

 そもそも一口にお風呂に入るといっても、ただ風呂桶を置いただけでお風呂に入れるわけでは当然なく、大量の水を井戸や川から運んできたうえに、これも大量の薪を集めてお湯を沸かすなどして、かなりの費用と手間をかけてようやく入れるのだ。したがって普通の家にお風呂なんてあるはずがないのだが、なぜか不思議なことにこの家にはそのお風呂があったのである。

 

 とはいっても、これはもともとこの家に備え付けられていたわけではなかったとのこと。ご主人様が風呂桶をわざわざ特注してここに据え付けたらしい。このクーラタルの家は、私が加わる少し前に借りたものだそうだが、すでに前の住人がいろいろと手直ししているので(この家にはなんと水洗トイレもあるのだが、これなども後から作り付けたものらしい)、自由に改装してもらってかまわないと大家さんに言われたそうだ。そしてそれを聞いたときから、ご主人様はこの家にお風呂場を作ることを考えていたようだ。

 

 そうすると次に疑問に思うのは、なぜご主人様がわざわざお風呂場なんてものを作ったのか、である。ご主人様は確かに綺麗好きではあるものの、別にお風呂に入るのが格別好きというわけではなかったそうだ(それでも驚くべきことに、彼の故郷では毎日お風呂に入っていたとのこと。詳しいことは教えてくれなかったが、そう聞くとご主人様が一体どんな生まれなのか改めて疑問に思う)。どうやらその目的はただ単にお風呂に入ることではなく、「ロクサーヌさんと一緒に」お風呂に入りたかったということらしい。

 とにかくロクサーヌさんと一緒に湯船につかって、ロクサーヌさんに自分の体を洗ってもらい、そしてロクサーヌさんの体を隅々まで自分で洗ってみたかったということだったのだそうだ。こういうところは全くブレない、自分の欲望に極めて忠実なご主人様である。正直あきれるほどである。

 そしてこのご主人様の欲望もとい願望は、別に相手がロクサーヌさんに限った話ではなかったようで、私をはじめとして他のメンバー全員についても同じように考えていたらしい。つまりご主人様は最初から5人の奴隷全員と、一緒にお風呂に入るつもりだったのだ(それで風呂桶もこのサイズとなったという)。それも自分以外はみな女性というなかでだ。ご主人様が奴隷を購入する際の条件の一つに、その奴隷と一緒にお風呂に入りたいかどうかというのもあったくらいだとか……本当だろうか。本人は冗談めかして言っていたようにも思うが、案外本気だったのかもしれない。

 

 というわけで、みんなと一緒にお風呂に入るという自身の壮大な?野望のため、ご主人様が特注した風呂桶のサイズはかなり大きなものとなった。ただ深さの方はさほど必要ないと考えたらしい(ご主人様によれば、あまり深い風呂桶だと、身体に水圧がかかって心臓に負担となるらしい)。

 この風呂桶を特注した先は、同じクーラタルにある木工品を扱っている雑貨屋であるが(私も何度か行ったことがある)、そこは店の奥が工房になっていて、木工職人が実に様々な木製品を作っている。

 ご主人様がそこの職人さんに注文したのは、深さが50センチを少し切る程度、差し渡しが人の高さよりも少し大きいくらいの巨大なたらいだった。たらいの中を大量の水で満たすことを考慮して、相当厚みのある頑丈な木の板で作られている。職人さんによれば、大きな布を何人かで手分けして洗う場合などに使うため、似たような大きさのたらいを作ったことが何度もあるそうで(そういえば私のいた村でも、そのようなたらいが実際に使われていたのを見たことがあった。私自身はやったことはなかったけれど)、2000ナールで作ってくれたそうだ。普通のたらいに比べればとても高価なものだとは思うのだが、ご主人様は自分が思っていたより断然安かったと言っていた(正直値段なんて問題ではない、いくらでも良かったとも言っていた)。

 そうしてたらいを注文するご主人様に、「大きなたらいを、何に使うのですか」と、ロクサーヌさんは不思議に思って訊いたそうだが(当たり前だ)、ご主人様は「まあ楽しみにしていろ」と自信たっぷりな様子だったらしい。

 

 なおこれはずいぶん後になって、ルティナが加入してから彼女に聞いた話なのだが、彼女の実家であるセルマー伯家でも、大貴族なのだから当然お風呂に入る習慣はあったけれども、私たちの家にあるものとは全く違い、湯船は樽のような細長いもので、そこに交代で一人ずつ立ったまま入っていたらしい。それでもやはりお湯を沸かすのが大変だったとのこと(もちろん彼女が自分で沸かしていたわけではないだろうが)。

 そう考えると我が家のお風呂はとても広くてゆったりしている。これを見たルティナも驚くわけである。彼女にもみんなで一緒にお風呂に入るという発想は全くなかったようだ。やはりご主人様の執念のなせる技といえよう。

 

 話を戻そう。

 そうして木工職人に作ってもらった風呂桶を、家まで運んでもらい(頼んでから5日で持ってきたそうだ。これだけ大きなものを作るのもそうだが、持ってくるだけでも大変だろうと思ったけれど、普通に荷馬車に載せてやってきたとのこと)、屋内への設置はロクサーヌさんとご主人様の2人で行ったそうだ(家に搬入するのも大変だったそうだが、風呂桶を縦にして玄関をなんとか通し、1階の排水口のある部屋まで転がしていったとのこと)。

 

 やはりこれだけの風呂桶の大きさともなると、底が浅いといってもその中を満たすには大量の水が必要となる。しかもそのままでは当然入れないので(水風呂ならこれでも良いだろうが)、これを沸かさなければならない。

 そこでさらに疑問に思うのは、一体どうやってお風呂を入れるのか、である。この点ご主人様は最初から魔法を使うつもりだったようだ(というよりそれを前提に風呂桶を発注したという)。

 先に書いた通り、一般にお風呂を入れるというのは大変な作業であり、手間も費用も相当にかかるはずなのだが、ご主人様の場合、水も火も自分の魔法で用意できてしまうというのが非常に大きい。ただそういうご主人様も、最初は試行錯誤を繰り返しつつ、ウォーターウォールで水を出してそれを貯め、そこにファイアーボールを何発も撃ち込んでいくという、なんというか力技でお湯を沸かしていたそうだ。それでもこの方法を編み出したことで、通常よりも容易にお湯を張ることができ、一人でもなんとかなったらしい(とは言ってもこれはご主人様でもやはり大変な作業だったようだが)。

 

 ……確かに発想としてはありえなくはないし、これなら手間も費用もさほどかからないように見えなくもないのだが、それでも常識ではとても考えられないことである(そもそも魔法をそのように使う発想自体が普通ではない)。魔法を唱えるにも当然魔力が必要で(それ以前にそもそも魔法使いのジョブについていなければならない)、これだけのサイズの風呂桶にお湯を貯めるには、かなりの魔力量を要するはずである。普通の魔法使いならすぐにMPが枯渇してしまうはずだ(というより普通なら、迷宮探索でMPを使い切った状態で家に帰ってくるはずなので、そこからさらにそんなことをする余裕は全くないだろう)。

 したがってこんな真似ができるのは、魔法使いを何人も揃えるか、あるいはご主人様のように一人で全ての作業をこなすのであれば、膨大な魔力量を持つ人でなければならないことになる。

 もちろんご主人様ほどの魔力量を持つ者など他にいるわけがないので、実際にやるとすれば魔法使いを複数人用意することになるのだろうが、そもそも魔法使いは大変希少なジョブで、迷宮での活躍が期待されている反面、それ以外のことはほぼ何もしなくてもよいという極めて好待遇の人たちである。というより魔力量を温存することも彼らの重要な仕事だから、こんなことに(といってはなんだが)使役されるなど通常はまず考えられないし、さらに言えば魔法使いのジョブを持っているのは、大抵は貴族の子弟であり、こんな雑用自体するはずもない。そういう意味でご主人様のしていることは、はっきり言えばジョブの無駄遣いである。が、ご主人様にとってこれはとても重要な仕事であり、かつ自分の魔力量に自信があったということなのだろう。

 

 たださすがのご主人様も、最初の頃はMPがすぐに不足したらしく、よく魔力切れを起こしていて(さすがに精神に相当な負荷がかかるので、本当にMPが無くなるギリギリまでは作業しなかったようだが)、その都度ロクサーヌさんに頼んで一緒に迷宮まで行き、例の剣で魔物を倒してMPを補給することを繰り返していた。

(なおご主人様の持つ例の両手剣にはMP吸収のスキルも付いていることを、私はそこで初めて知った。コボルトのモンスターカードとはさみ式食虫植物のモンスターカードを武器に融合することできるのだが、数が大変少なく貴重なスキルである。私も初めて見るが、このスキルのついた武器を持ち、迷宮に行って魔物を狩れば確かにMPの回復も早いだろう。これも家から直接迷宮内の任意の階層に跳ぶことのできるご主人様ならではのMP回復法といえる。)

 

 ご主人様がお風呂を入れる様子を私が初めて見たときも、途中で何度も迷宮に行っていたのだが、最初はこれが一体何のためなのか私には全く分からなかった。ロクサーヌさんに、「何故迷宮に行かれるのでしょうか」と訊いてみたのだが、彼女からは「お風呂を入れるのは大変なので、ストレス発散のためでは」という答えが返ってきた(どうやら彼女は本気でそう考えていたらしい。何のことはない。彼女も全く分かっていなかったのだ)。そんな馬鹿なと思ったところ、その様子を見て呆れたご主人様が「魔法を使ったのでMP回復のためだ」と私に教えてくれた(もちろんこのことはロクサーヌさんにも後で教えてあげた)。

 

 またお風呂を入れる際に、大変なのはMPのことだけではない。作業をしていれば当然お風呂場の温度が上がってくるから、少しいるだけでも汗びっしょりになってしまう。お風呂に入って汗を流すために逆に汗だくになるのはどうかとも思うのだが、それでもご主人様が、それこそ意地になってでもこうやってお風呂を入れているのは、やはりどうしてもロクサーヌさんと入りたかったということなのだろう。先ほどはあきれるほどだと書いたが、もはやここまで来るとあきれるを通り越して感心してしまう。……まあそういった楽しみでもないと、なかなか人は頑張れないものである。

 

 なおそれだけキツイ作業であるから、ご主人様は最初、お風呂を入れる頻度は十日に一回か二回ぐらいにしようかと考えていたそうだ。それか何か特別なことがあったとき(階層ボスを撃破して次の階層に進んだときとか)にご褒美として入れるとか。ただそうした目標設定も、逆にお風呂に入る(正確には「ロクサーヌさんと一緒に」お風呂に入る)ために、目標を早く達成しようとかえって探索を張り切りすぎてしまったという。本末転倒だったと笑っていた。

 

***

 

 さて、私がこのクーラタルの家のお風呂に初めて入ったのは、私がご主人様に買っていただいたその日のことである。

 初めてお風呂に入ったときは本当にびっくりした。先にも書いたように、普通、貴族でもなければお風呂になど入りはしない。我々庶民はせいぜい体を拭くか水浴びをするぐらいなものである。

 

 だがどうやらご主人様は、なるべく早く私をお風呂に入れようと考えたらしい。

 なんでも最初に私に会ったときのご主人様の私に対する印象は、可愛い顔をしているという大変照れるものであった。しかしそれと同時に、やや薄汚れているし、髪の毛とかもなんか野暮ったいと思ったそうな。

 なにおう!とも思ったが、確かに事実は事実なので仕方ない。それにそのときご主人様の隣にいたロクサーヌさんが、血色がよくて肌もあまりに綺麗だったので、正直私は引け目を感じてもいた(最初は彼女も私と同じ奴隷だとは全く思わなかった)。

 もちろんロクサーヌさんの綺麗さの秘密がお風呂にあったとは、そのときは全く考えつかなかった。確かに元がいいとはいえ、彼女がこれだけ綺麗なのも、毎日寝る前にご主人様がロクサーヌさんの身体を拭き、風呂にも入れ、石鹸で彼女の身体を丹念に磨き上げた成果らしい。なるほど納得である(ついでにご主人様がまごうことなき変態であることも良く分かった)。

 

 ご主人様がさっそくお風呂を入れるというのを聞いて、

 

「あ、あの。風呂というのは、あのお風呂ですか」

 と私が驚いて尋ねると、

 

「どの風呂かは分からないが、風呂だ」

 とご主人様は事も無げにそう答えた。そう言ったご主人様はそのまま買い物に出かけようとしていたので、

 

「王侯貴族のかたは風呂に入ると聞いたことがあります。実はすごい人だったのでしょうか?」

 とロクサーヌさんに尋ねると、

 

「ご主人様は貴族ではありません。私も詳しいことは知りませんが、もっとすごいお方です。セリーにもすぐにそれが分かると思いますよ。

 お風呂に入るのも、私も最初はビックリしましたが、とても気持ちの良いものです。セリーも気に入ると思いますよ」

 と自信たっぷりに言っていた。さらに「ご主人様と一緒に入りますので、ちゃんと洗ってあげてくださいね」とも言われた。最初お風呂に入るのはご主人様だけかと思っていたのだが、私たちも入っていいらしい。しかもご主人様と一緒にだという。家族以外の男性に自分の肌を見せたことなど一度もないというのに、これはちょっといやかなり恥ずかしい……どうしようドキドキしてきた。

 

 その後割とすぐに買い物から戻ってきたご主人様は、今度は私たちを連れてまた買い物に出かける。というのも私の装備を整えてくださるらしい。

(武器屋では鎚を購入することになった。私はこれまで一度も鎚を使ったことは無かったのだが、ご主人様には何やら考えるところがあるようだ。

 しかしまさかこれが鍛冶師に転職するための条件だったとは、そのときの私は全く思いもしなかった。が、これはまた別のお話である。)

 

 買い物を済ませ家に帰ると、ご主人様は一人でお風呂を入れるというので、夕食の準備は私たち二人ですることになった。私がご主人様に、お風呂の方は手伝わなくて良いのかと訊いても、暑くて大変だからと、あくまで一人でするつもりのようだ。

 

 そして夕食後は、やはりみんなでお風呂に入るという(これもまた別の話になるのだが、夕食は私がドワーフ料理を作って差し上げた。久しぶりなので上手くできたか心配だったのだが、ご主人様もロクサーヌさんもおいしいと言って食べてくれた。嬉しかった)。ご主人様が湯加減を見ると言って先に部屋を出て行った。

 

「お風呂に入ってもいいのでしょうか。お風呂なんて王侯貴族の人だけが入るものですけど」

 といまだに半信半疑だった私がロクサーヌさんに訊くと、

 

「いいんですよ、セリー。一緒に入りましょう」

 と彼女が満面の笑みを浮かべて答える。もうロクサーヌさんは何度もお風呂に入っているとのこと。しかもご主人様と一緒に。とても気持ちいいものらしい(「生まれ変わったみたいな気分」になると言っていた)。ロクサーヌさんも最初は戸惑ったそうだが、すぐに慣れたとのこと。

 すでに服を脱ぎだしている彼女を見て、私も覚悟を決めて服を脱ぐ。恥ずかしさよりもお風呂に入れる珍しさと期待の方が勝ってしまった。

 

「ロ、ロクサーヌさん、やっぱり大きいです」

「そんなことはないですよ」

「でも私なんか」

 

 ロクサーヌさんの裸を初めて目にするが……くそう……本当に大きい。巨大な山がぶるんぶるん震えている。服の上からも十分にわかっていたことだが、こうして直接見ると改めてそのすごさに圧倒される。自分のスタイルに自信があるというか、天真爛漫というか、彼女は脱ぎっぷりもとても良い。それに引き換えスタイルに自信のない自分はどうしても躊躇してしまう。

 この胸を見慣れているご主人様が(ご主人様も最初は驚いたそうだが)、私などの胸を見て果たしてどう思うだろうか。残念そうな顔でもされたら思わず泣いてしまいそうだ。不安でいっぱいである。

 

 でもロクサーヌさんだってもちろん初めての時があったはずだが、彼女は一体どうだったろうかと不思議に思い、訊いてみると、

 

「……確かに最初は恥ずかしさもありましたけど、すぐに慣れてしまいましたね。あんなに気持ちのいいものだとは知らなかったですし。それに何よりもご主人様が私のことを見てくれて、そしてあんなにも喜んでくださったのがとても嬉しくて……」

 とのことだった。

 

「そういうセリーだって、とても可愛らしくて素敵だと思いますよ。そうでなければご主人様だって、セリーを買おうとはしなかったでしょう」

 とも言ってくれた。

 

 前にも書いたのだが、実は私が加入したことで、ご主人様に以前ほど可愛がってもらえなくなるのではないかと、ロクサーヌさんは密かに心配していたらしい。実際のところ、ご主人様は二人に増えても全く変わるところがなく(むしろより激しい?)、そして今では五人にまで増えているというのに、やはり同じように私たちを存分に可愛がってくれている。

 確かに同じ奴隷の間で下手に扱いに差を付けられても困ることは困るのだが……。

 

 おっといけない。ご主人様をあまり待たせてるのも良くない。いい加減話を切り上げて二人でお風呂場に向かう。

 

「ご主人様、失礼します」

「あ、あの。失礼します」

 

 ロクサーヌさんに続いてご主人様の待つお風呂場に入るが、ああは言われたものの、私は恥ずかしさと申し訳なさでどうしてもうつむいてしまう。

 

「で、では洗うか」

「はい」

 

 ロクサーヌさんがご主人様の正面に立つ。彼女の胸が大きく揺れる。

 

「あぅ。やっぱりです」

 

 思わず呟いてしまう。

 

 ご主人様がさっそく両手に石鹸を泡立てて、ロクサーヌさんを洗い始める。私たちの体をご主人様自ら洗ってくれるらしい。

 

(余談だが、この石鹸もご主人様が自ら作ったのだそうだ。

 一般的に洗濯にはコイチの実のふすま(表皮の部分)が使われているのだが、ご主人様はこれにシェルパウダー(クラムシェルのドロップ品で、通常は消火剤として使われている)を混ぜることで石鹸を作ったそうだ。そしてこれによって錬金術師のジョブを得たという。

 何でもシェルパウダーだけでも汚れをきれいに落とすことができるらしい。溶かして水拭きするのだそうだ。ご主人様に言われてロクサーヌさんが試しにやってみてビックリしたとのこと。私も知らなかったのだが、これを知ったおかげで掃除が俄然楽しくなった。

 なおシェルパウダーでも落ちない汚れには、お酢を使うといいそうだ。これは程度の問題ではなく、ご主人様によれば汚れにも二種類あるらしい。「さんせい」とか「あるかりせい」とか説明されたが良くわからなかった。図書館で調べてみると言うと、錬金術関連の本なら載っているかもしれないと教えてもらった。それらしい本は発見することができたのだが、その内容は自分の理解力を超えるような難解さだった……ひとまずこれは今後の課題としておこう。

 あと、シェルパウダーはそのままお風呂に入れてもいいらしいのだが、これについては後で話そう。)

 

 ご主人様が両手で優しく、丹念にロクサーヌさんを洗っている。とても手慣れた感じである。思わずその様子に見入ってしまうのだが、自分の小ささが際立つようで哀しくなってくる。

 

「最高だ」

「ありがとうございます」

 

 ロクサーヌさんがご主人様にそう言ってもらえてとても喜んでいる。目が少し潤んでいる?

 

「では次はセリーだな」

「は、はい」

 

 そしていよいよ自分の番が来た。おずおずとご主人様の正面に立つ。もう心臓がバクバクだ。私の身体もご主人様によって石鹸の泡で塗りこめられていく。

 

「うむ。すばらしい」

 

 何ですと? ロクサーヌさんに比べたらチンチクリンなはずの自分の身体を、なぜかご主人様は気に入ってくれているみたいだ。びっくりするが、そう言ってもらえて恥ずかしい以上に嬉しく思ってしまう自分がいる。

 

「あ、あの。小さくてごめんなさい」

「そう特別に小さいわけではないだろう」

 

 ええ!?

 

「村にいるときはそう思っていましたが、商館には胸の大きな人もいて。そして、そういう人から売れていくんです」

 

 商館にいるときは正直惨めな気持ちにもなったものだった。そんな私に商館のおばさんは、私のような娘が好きな男性もたくさんいるから気にしなくていいと慰めてくれてはいたのだが。

 

「大丈夫だ。問題ない」

「それにロクサーヌさんが」

「こういうのは比率がものをいう。セリーは背も低いし、胸囲も小さいだろうから、ロクサーヌと比べて多少小さいのはしょうがない。むしろ身長の割にはある方だと思うぞ」

 

 全体のバランスが重要であるとか、あんだーととっぷ?の差が大事なのだとか、ご主人様は妙に早口でいろいろと力説していたが、正直何を言っているのか分からなかった。けれど……。

 

「そうですよ、セリー」

「そうでしょうか」

「そうだ」

「あ、ありがとうございます」

 

 二人が自信満々にそういうものだから、自分でもそういう気がしてきた。なにやら違うような気もするが、そういう風に受け取っておこう。

 いいもん! 自分は他の魅力で勝負するのだ……一体何で勝負できるかは分からないけれど。

 

「それでは、セリー。ご主人様を洗っていきます」

「はい。あの、どうやって」

「こうするのです」

 

 今度は二人でご主人様の身体を洗うようだ。そういえばお風呂に入る前にロクサーヌさんがそんなことを言っていた。自分がご主人様に洗ってもらったのだからというより、奴隷が主人の体を洗うのはごく当たり前のことだからというわけなのだろう。

 でもいったいどうやって?と疑問に思っていると、ロクサーヌさんがいきなりご主人様に抱き着いて、泡まみれの自分の身体を擦り付けたのには驚いた。ご主人様の腕を自分の両胸の間に挟みこむようにもしている。こんな方法があるとは知らなかった(商館でも教わらなかった)が、私も思い切って彼女を真似して反対側に抱き着き、同じように動いてみる。

 ロクサーヌさんはこのやり方をご主人様から教わったそうなのだが、ご主人様が言うには、これは少量の石鹸で効率よく身体を洗うことができるやり方で、ご主人様の故郷で親しい男女間で行われる伝統的な洗い方なのだそうだ(注:大嘘です)。

 

 確かに貴族の家などでは、侍女がカメリアオイル(これはクーラタルの迷宮だと35階層のボスとして出てくるカナリアカメリアのドロップ品である。食用油としても高級品なのだが……)を自分の身体にぬり、その家の主人にマッサージを施すらしいと聞いたことがある。血行促進や疲労回復などの効果があるそうで、「侍女の嗜み」と言うそうだ。考えてみればご主人様のいうこの洗い方も、これに通じるものがあるように思う(ご主人様は「侍女の嗜み」のことは知らなかったようだが)。

 とはいえ自分が実際にやるのはとても恥ずかしかったのだが、ご主人様にはとても喜んでもらえたようだ。

 

「俺とロクサーヌは昨日頭を洗ったから、今日はセリーの頭を洗う。セリーはちょっと前に来てくれ。ロクサーヌは背中を頼む」

 

 お風呂では私の身体だけでなく髪も洗っていただいた。石鹸で髪を洗うなんて初めての体験だったのだが(今日は初めて体験することばかりである)、何より自分は髪の量が非常に多いので、大変だと思うのだけれどいいのだろうか。

 ご主人様を挟むような立ち位置は変わらないが、今度は二人でご主人様の前後に回る。ご主人様は私を抱きかかえると、石鹸をたっぷりつけてわしゃわしゃと私の髪を洗い始めた。

 一方でロクサーヌさんはご主人様の背中に、やはり泡まみれの身体を擦り付けている。私も髪を洗ってもらいながら、前から抱き付くようにして身体を擦り付ける。恥ずかしさはもちろんあるものの、それよりご主人様をちゃんと洗わないといけない気持ちの方が強かった。

 

「これはいい。柔らかくてすごくいい髪質だな」

「あ、ありがとうございます」

「髪の毛じゃないみたいだ」

 

 正直ビックリなのだが、ご主人様に私の髪のことを褒めていただく。洗ってもらっているご主人様の指がとても心地よい。

 そうやってたっぷりと洗っていただいてから、髪や体についた石鹸を洗い流す。

 そうするとふだんはもこもこしている私の髪が、濡れると平べったくなって肌に張りついているのが自分でもわかる。

 そんな私をご主人様は人形のようで可愛らしいと言ってくれた。

 どうしよう……恥ずかしいやら嬉しいやらで顔から火が出そうである。

 

 泡を洗い流すと、3人で湯船に浸かる。お風呂の中で手足を伸ばすと体が軽くなったような気がした。全く初めての経験だがとても心地よい。体全体がぽかぽかと暖かくなる。

 そうして私がほんわかしていると、ご主人様がロクサーヌさんを抱き寄せる。その様子をいいなぁと思って見ていると、ご主人様が私にもこちらに来るように手招きする。

 おずおずと傍によると、ご主人様は両手でロクサーヌさんと私をそれぞれ抱きかかえるようにする。先程と同じように今度は湯船の中で私たちが左右からご主人様を挟むような形になる。裸で抱き合うなんて、正直とても恥ずかしいけれど、それ以上に気持ちいいのも事実である。

 ご主人様も非常にご機嫌のようだ。本人曰く、こうして両側に美女を侍らせるのは男の夢らしい(私のことも美女と言ってくれているのは大変恐縮ではある)。

 

 ロクサーヌさんの尻尾が、お風呂の中でゆらゆらと広がっているのもまたご主人様はお気に入りのようだ(これは後になってのことだが、ミリアの尻尾も大好きだと言っていた。この人は全く……)。

 まあ私たち二人もこうしてお湯につかりながらくっついているのは、体も温まるし、実際なんという体験だろうか。

 何より入浴があんなに気持ちのいいものだったとは。まさにロクサーヌさんの言う通りである。

 奴隷として買われた自分が、まさかこんなに良くしてもらえるとは全く予想していなかった。

 お肌もつやつやになるし、石鹸で洗ってもらったことといい、まして髪まで洗ってもらって、私もすっかりお風呂が好きになってしまったようだ。

 

 こうしてドキドキの初体験は終わったのだが、この後更なる初体験が待っていた。が、それはまた別の話である。

 

***

 

 さて、初めてのお風呂からずいぶんと経つが、あのときと比べて多少変わったことがある。

 私が来た当初は、ご主人様とロクサーヌさん、それに私の3人だけだったので、まだまだ湯船の大きさには余裕があったのだが、あれからミリア、ベスタ、そしてルティナとメンバーも増え、今では6人となった。ミリアが入ったころまでは、まだみんな湯船の中で十分にくつろげていた(ミリアなどはぷかぷか浮いていた)のだが、ベスタやルティナも入るようになると、これだけ大きなお風呂でもさすがに窮屈になってきた(それでも一度にみんなで入ること自体は依然として変わらない。もちろんこれもご主人様の強いこだわりである)。

 そのためやむを得ずみんな密着するようになったのだが、ご主人様はかえってその方が嬉しいらしく、とても喜んでいた(最初からこれを狙っていたということらしい)。ロクサーヌさんも(何人で入ろうが)常にご主人様にべったりとくっついている。

 

 ただそうしていると当然なことに、ご主人様のご主人様がスゴイことになっているのが分かってしまう。最初はかなり恥ずかしかったのだが、今ではもう慣れてしまった。気持ちいいのは何もご主人様だけのことではなく、女の子同士でくっつきあうのも決して悪くはないものである(私にはそっちの趣味はないけれど)。

 それでも、もっと大きな家に引っ越したあかつきには風呂桶ももっと大きくしないといけないですねと、私がご主人様に言うと、確かになとは言いながらもご主人様は複雑な表情をしていた。どうやら本音を言えば、ご主人様にその気はなく、今のままがいいらしい。

 

 それよりも信じられないのは、今ではよほどのことが無い限り毎日欠かさず、ごく当たり前のようにお風呂に入るようになったことである(最初は2、3日に一回だったのだが、これも本当は驚くべきことである)。王侯貴族でもこんなに頻繁に入ることはまずないという。元は伯爵令嬢であったルティナですら、お風呂に入れるのは四、五日から十日に一度くらいで、しかもそれでも贅沢とされていたと言っていた。

 

 先にも書いたように、確かに魔法を使えば水汲みや薪を使って湯を沸かす手間はかからないのだが、相当量の魔力が必要である。やはりご主人様の執念のなせる技でもあるが、自身の魔力量が大幅に増えたということもある。

 というのもご主人様のレベルが上がるにつれて、MP補給のために迷宮に行く回数も徐々に減っていき、そしてそれとは逆にお風呂を入れる回数が増えて行ったのである。その後しばらくすると、ご主人様はなんと途中全く迷宮に行かなくても、最後まで作業を終えることができるようにもなっていた。なんというMP量だろう。驚きを通り越してもうあきれるほかない。

 

 お風呂の沸かし方にも変化があった。

 これはご主人様が遊び人のジョブを得た後のことになるが、魔法を複数回撃てるようになったということで、お風呂でもいろいろと試してみたようだ。遊び人のスキルに初級火魔法を付け、魔法使いのスキルとあわせて、風呂桶の上にウォーターウォールとファイヤーウォールを重ね合わせるように連続で出す方法を編み出したそうで、こうして2種類のウォール系の魔法を使ってお湯を作り出していくのは、水を出すのとそれを温めるのを同時にこなせるので、作業が相当楽になったそうだ。

 ただウォール系の魔法は、場所を細かく指定することができないらしく、二つの魔法をぴったり合わせるのはなかなか難しいらしい。また、ファイヤーウォールの熱量はかなり大きいそうで、水魔法2に対して火魔法1でちょうどいいくらいとのこと。こういうところは相変わらず研究熱心なご主人様である。

 確かにこれも複数のジョブを活かした方法ではある。ただ才能の無駄遣いとまでは言わないが、お風呂を入れるためにそこまでするのかと、正直思わないこともなくはない。私がご主人様に率直にそう言うと、自分でもそう思うと苦笑していた。とはいえ別に迷宮探索に手を抜いているわけでもなく、それだけ魔力が有り余っているということでもある。

 もっともかかる時間は短くなったものの、使用するMPの量自体は減っていないので、途中でMPの回復が必要だったのは変わらなかったが、時間短縮効果により、最初はご主人様は汗みずくになって作業していたが、今ではそこまで汗をかくこともなくなった(そしてMP量の増加により回復作業そのものが不要になったのはすでに話した通りである)。

 

 その後ルティナが加入し、すぐに彼女が魔法使いになると、彼女にもお風呂を入れる手伝いをしてもらい、二人で作業することでさらに余裕ができ、時間も短縮された。ご主人様は、ルティナのおかげで風呂を入れるのが楽になったのが地味にありがたいと言っていた。

 ただ魔法使いになったばかりのルティナも確かに彼女なりに頑張ったらしいが、そのころにはご主人様も魔導士となり、さらに上位の魔法(バーンウォールとアクアウォールである)を出してお湯を入れていたので、彼女は自分との差を思い知らされたという。

 

 なお現在はこれもすでに話したことだが、お湯を沸かすのに焼き石を使うようになって、水さえ魔法で出せば良くなったこともあり、今ではご主人様の手を借りず、ルティナだけで作業が完結するようになっている(彼女が魔導士への転職に成功したというのもある)。このことは、迷宮探索以外にも貢献ができているということで、彼女の自信につながっているようだ。今では魔導士となったおかげもあって魔力量に余裕もできたらしく、涼しい顔をして作業をこなしている。

 

 先にも書いた通り、我が家では当然のように毎日お風呂に入っているのだが、王侯貴族でもこんなことは通常考えられない。ただご主人様はもともときれい好きというだけでなく、私たちと一緒にお風呂に入るのが一番の楽しみである(上にも書いたが、これがご主人様がお風呂を設置したそもそもの動機であった。どちらかといえば寝室でアレするよりも本人としては楽しいらしい)。実際これがあるから迷宮探索も頑張れると言っていた(本当かな?)。

 

 ともあれこうして毎日お風呂に入れるのはとても贅沢なことだが、それだけにみんなには大変好評である(私も非常に嬉しい)。

 ルティナを除いてみんなお風呂自体これまで入ったことがなかったというのに、これは異常なことである。けれどももうこの生活をやめることなんてできない。お風呂に入らない暮らしなど今ではとても考えられない。

 ルティナだけは彼女の実家で定期的にお風呂に入っていたそうだが、彼女は特段お風呂に入るのが好きというわけではなかったとのこと。それでもうちに来て毎日入るようになったせいか、今ではすっかりお風呂が大好きになったようだ。何といっても家のお風呂は広くてゆったりしているし、石鹸をふんだんに使って身体を洗うのも大変気持ちの良いものであるから、彼女がそうなるのも当然だろう。

 

 そうしてみんなでお風呂に入ると、やはりご主人様は毎回私たち全員の身体の隅々まで必ず自分で洗う。これは私たちが5人になっても全く変わることがないのだが、この習慣(?)はいつまでたっても慣れないものである。自分の身体ぐらい自分で普通に洗えるのだが。奴隷が主人の身体を洗うというのならまだ理解できるけれども、逆に主人が奴隷を洗うというのは一体どういうことなのだろう。

 ご主人様によれば、これは奴隷の体調に問題がないかどうかや、怪我の有無などを調べるためだとか、要は健康管理の一環であり主人としては必須の行為であるという、もっともらしい理由を付けてはいるが(本人は妙に早口で言っていたが)、本来の目的はやはり別にあるようである。

 

 ご主人様が私たちを一人ずつ洗っている様子を見ていると、みんなスタイルがとても良い。今はもう努めて考えないようにしているが、お風呂に入ると実感する(させられてしまう)。

 どうやら私が落ち込んでいると思ったのか、ご主人様が「いやいやセリーは自分のスタイルに自信が無いようだが、そんなことはない。前にも言ったと思うがセリーも良いスタイルをしている。毎日ずっと全員の身体を洗っている自分が言うのだから間違いない」などと言ってくる。

 そんなしょうもないことを自信たっぷりに言われてもと思うのだが、情けないことにそれでも嬉しいと思ってしまう自分がいる。

 

 逆にご主人様の体の方も、私たちみんなが毎回自分の身体を使って洗ってあげている。みんなでご主人様にご奉仕だ。健康管理だというご主人様の話を聞いて、特にロクサーヌさんがますます真剣にご主人様のことを洗うようになった。ご主人様のちょっとしたケガや体調不良も見逃さないような勢いである。

 

 そのロクサーヌさんとベスタの二人が、ご主人様を前後から挟んでいるのをよく見るのだが、どうやってご主人様を満足させたらいいか、二人でいつも相談しているようだ(ベスタもロクサーヌさんと同じで湯船の中でご主人様にべったりくっつくのが大好きらしい)。

 また単にご主人様の身体を洗ってあげるだけではなく、抱きついたりマッサージをしてあげたりと、みんなご主人様に満足してもらおうといろいろと工夫を凝らしている。

 ただ一度やりすぎてご主人様が暴発してしまったこともあった(何がとはあえて言わないが)。その時のご主人様は、珍しくとても恥ずかしそうな様子だったが、それだけ私たちに魅力を感じてくれたということで、これは純粋に嬉しかった。みんな同じ気持ちだったようで、それ以降、奉仕に一層熱が入ることにもなった。ご主人様は、嬉しいことは嬉しいが、そういうことはベッドで頼むと言っていた。

 

 身体を洗い終えた後、みんなで湯船に浸かると、ご主人様は決まってたらいのふちに手ぬぐいを敷き、その上に頭を乗せて寝転がる。

 そしてご主人様の横に私たちも寝転がると、もちろんロクサーヌさんはご主人様にいつもくっついて決して離れようとしない。

 ご主人様も腕を伸ばし、彼女の細くしなやかな身体を抱き寄せている。ロクサーヌさんも足を絡めて、しがみついている。ロクサーヌさんの肌はなめらかでしっとりさらさらしていて、非常に気持ちがいいらしい。

 私もおずおずと反対側にまわってご主人様にくっつく。するとご主人様は私のことも抱き寄せてくれる。そう初めてお風呂に入った時とほぼ同じ体勢である。ちょっとしたことかもしれないが、とても嬉しく思ってしまう自分がいる(私の方は、適当なところでベスタに場所を譲ってあげる。彼女は恐縮しながらもとても嬉しそうにご主人様にくっついている)。

 

 これも同じなのだが、ロクサーヌさんの尻尾が、湯船の中で水草のように広がり、優しく揺らめいている。ご主人様が手を伸ばし、何度も尻尾をゆすったり、腕ですくったりしている。先にも書いたが、ロクサーヌさんやミリアの尻尾が湯船の中でゆらめいているのがご主人様としてはとても良いらしい。

 またロクサーヌさんとミリアの尻尾をいじるのも大変好きらしく、かなりの時間をかけて念入りになでている(のぼせなければずっといつまでも触り続けているのではなかろうか)。よく飽きないものだと感心する。

 二人もそんなご主人様をいやがるそぶりを見せず、とくにロクサーヌさんはとても喜んでいる。

 

 ロクサーヌさんと私を両側に抱き寄せたご主人様の手が今度は私たちの胸に触れている。いくらロクサーヌさんのおっぱいが大きくて触り心地がいいからといって、ずっと胸ばかり触っているのはどうかと思う。やはりよく飽きないものだと感心する。まあ私の胸も同じように触ってくれている(どうやら大きくなければいけないわけでもないらしい)のはちょっと嬉しいので良いんだけれど。いや何を言ってるんだ私は。

 そういうときミリアやベスタはご主人様の足元にいる。ミリアは楽し気に浮かんでいるだけであるが、ベスタはこちらを羨ましそうに見ている。代わってあげてもいいのだけれど。

 もちろん胸の大きさそのものではベスタが一番である。ご主人様はロクサーヌさんや私の胸を触りつつも、視線の方はベスタの胸にくぎ付けなのがまるわかりである。確かに大きい。私でも目が行ってしまうぐらいである。

 

 胸と言えば、深いお風呂は身体によくないらしいと上でも書いたが、その点半身浴というのがさほど体に負担をかけずいいそうなので、風呂桶の中に踏み台を置いてみんなで交代で座るようにもしている。ご主人様も目の保養だといってご機嫌である。どうやら湯気の中でみんなの胸が揺れているのがいいらしい。むむぅ。どうせ私の胸は揺れませんよ!

 

***

 

 結局現在の生活はといえば、午後迷宮探索などを終えて家に帰ってくると、まずお風呂の準備をしてから夕食となり、そしてその後みんなゆっくりと風呂に入るというのが我が家の日課となっている。湯船には柑橘類を浮かべたりもしていたが、家の菜園でハーブを栽培するようになってからは、専らそのハーブを入れている。これはベスタのお気に入りである。

 

 先にも書いた通り一般庶民にはなかなかできないことだが、入浴自体には様々な効用があると言われている。汚れを洗い流して(石鹸を使うとなおよい)体を綺麗にするのはもちろんのこと、そうやって清潔を保つだけでなく、疲労回復やリラックス効果、また体を温めることで血の巡りが良くなるとか。とくに私たち冒険者は、迷宮探索でどうしてもいろいろと汚れてしまうし、疲労もたまるので、こうして毎日お風呂に入れるのは大変ありがたいことである。

 

 それ以外にも私は、お風呂に入って髪を洗ってもらうようになってから、自分の髪がしっとり艶々に(もこもこではなくふわふわ?)、そしてとても柔らかく、軽くなったように思う。私の髪はもともとボリュームがとんでもなくあって(ドワーフ族の男性は顔中がひげだらけになるが、女性の場合ひげが生える代わりに髪の毛が大量に伸びる。とくに私はドワーフ族の中でも髪の量が異常に多い方だ。髪の量が多くてとても困っていると私がご主人様に言うと、ご主人様はその話は特定の人たち(「髪の毛の不自由な人々」?というそうな)に突き刺さるからあまり言わないようにとくぎを刺されてしまった)、朝などはいつも爆発したような状態だったのだが、お風呂で髪を洗うようになってから、落ち着いた感じになってきた。ご主人様にもいい髪だと褒めていただいたし、ロクサーヌさんにも、セリーの髪は豊かで艶があっていいですねと褒めてもらった。自分の髪が褒められるなんてこれまで記憶になく、初めてのことだったので、驚きはしたが同時にとても嬉しかった。みんなの髪も綺麗だけれど私だって結構いい線行っているんだと、少し自信を持つことができた。

 

 なお私たちの中で髪を長く伸ばしているのはルティナだけである。他のみんなは私も含めみな短くしている。当然のことだが、長い髪を維持するのはとても大変なので、貴族でもなければ普通は無理である。種族としてもエルフの女性は長髪にしている人が多いそうだが、少なくともドワーフ族では長髪にしている女性はほぼいない(髪の量自体は非常に多いので、短くしていてもまとめるのが大変なのだが)。

 女性の長い髪自体は、私はとてもよいと思うのだが、ルティナの方が逆にみんなに遠慮したのか、「私も……髪を切りましょうか?」とおずおずと訊いてきた。ご主人様はびっくりした様子でそんな必要はないと言っていた。それはそうだろう。ルティナ本人も切ることには相当抵抗があったらしく、ご主人様の言葉を聞いて安堵したようだった。

 

 そうしたらご主人様がルティナの髪をほめていたのを見たロクサーヌさんが、今度は逆に自分も髪を伸ばした方がよいか本気で悩み始めた。ただ迷宮で魔物と渡り合うのに、長髪でいるのは不向きである。後衛で戦闘に直接参加しないルティナであれば特に問題はないだろうが(そういう意味では私も髪を伸ばしてもいいのかもしれないが、私の場合は長髪は似合わないだろう……いや悔しいわけではないが)、いつも先頭に立って魔物からの攻撃を引き受けているロクサーヌさんにはやはり無理だろう。

 

 結局すったもんだしたあげくにご主人様が、「髪の長さは関係ない。俺はロクサーヌの髪が大好きだ」と言ってくれたおかげで何とかこの場は収まった。ロクサーヌさんはとても感激していた(その後ご主人様は私たち全員の髪をそれぞれ褒めてくれた。別に強制したわけではないが)。

 ご主人様が「髪は女の命だからな」とも言っていた。なるほどうまいことをいう。「髪は長い友人」などとも言うそうな。何故かはわからないがなるほどと思わせる、含蓄のある言葉である。

 

 話がそれたが、ご主人様によると石鹸はあくまで体を洗うためのもので、髪を石鹸で洗うのはよくないと聞いたことがあるらしい。詳しいことは分からないとも言っていたが(そもそもいったいどこでそんな知識を得たのかも分からないが)。余裕があれば図書館で調べてみてくれるかと言われたので、いろいろと調べてみたのだが、別に石鹸で髪を洗っても悪いわけではないらしい。ただゴシゴシと洗うと髪を痛めるので、できるだけ優しく洗い、すすぎもしっかりとするのがいいそうだ。またオイルをつけて保湿すると、指通りもよくなってなお良いらしい。

 

 その後先にも書いたカメリアオイル(いろいろと(・・・・・)使いみちのあるアイテムだ)をなぜか(・・・)大量に入手したので、実践してみた。確かにカメリアオイルを髪に馴染ませていくことで、髪に艶と張りが出て綺麗になるようだ。どうやらある程度のオイル成分が髪には必要ということらしい。まさに図書館で得た情報にもあった通りである。

 

 今では髪も毎日洗うようになったのだが、これはみんなが輪になって並び、それぞれ前の人のを洗ってあげている。ご主人様はその様子を面白そうに見ている(ちなみにご主人様の髪はみんなで洗ってあげている)。髪だけでなくみんなで身体の洗いっこなどをしてもいいけれど、私たちの身体を洗う役目はなぜかご主人様が決して譲ろうとしない。ご主人様に洗ってもらうのは正直言って恐縮だし、今では5人もいる私たちの体を一人で洗うのは大変だとは思うのだが、本人は全く嫌そうな感じではないようだ(「自分の身体ぐらい自分で洗えますが?」とご主人様に言うと、とても悲しそうな顔をしたので、賢明な私は以後は一切それを言うのを止めた)。

 

 さらに最近になってから、ご主人様の火魔法の代わりに、焼き石を使うようになったこともすでに述べた通りである。

 そうして風呂を沸かすために用意した焼き石の残りに、水を掛けて蒸し風呂にすることもある。もうもうと湯気が立ち込めるなか、みんなで汗をかく。

 汗みずくになっている私たちを見て、どういうわけかご主人様はとてもご機嫌のようだ。

 

 そうして十分に汗をかいた後は、コイチの実のふすまをつめた袋を使ってみんなの身体をゴシゴシこすったりもする。あかすりというやつである。最初これをやったときはびっくりするくらいたくさん垢が出て、とても恥ずかしかったけれど、お肌がツルツルになったのは大変嬉しいことだった。みんなニコニコだ。思わずみんなで抱き合ってしまった。その後は水をかぶってお肌を引き締めて、これで完璧である。なお過度のあかすりはかえって肌を傷つけてしまうので、やりすぎには注意が要るようだ。

 もともとみんな肌がとても綺麗なのだが、こうして頻繁にお風呂に入ったり蒸し風呂やあかすりなどすることで透き通るような肌の美しさがよりいっそう際立つようになった。

 

 それとこれも大事なことだが、お風呂では十分に身体をほぐすことも忘れてはいけない。これは「この後」のことも考えてである。もっとも最初はロクサーヌさんだけがしていたものだった。彼女がお風呂で入念に柔軟体操をしていると(身体が温まっているのでちょうど良いらしい)、当然のことながら素っ裸なので(本人は全く気にしていないのだが)、そういうロクサーヌさんはなんというかその……とってもえっちだ。他のみんなを洗っているはずのご主人様の目がロクサーヌさんのその様子に釘付けになっていることもある……というかほぼ毎回そうである。ロクサーヌさんの方も常にご主人様のことを目で追っているので、ニッコリ微笑み返している。自分のそういう様子が男性に対していかに凄まじい破壊力を持っているか全く意識していないらしい。そうして今では私をはじめ他のみんなも真似するようになったのである。

 

 もう一つ重要な変化として、入浴剤を使うようになったことがある。

 シェルパウダーは石鹸の材料になるということだが、そのままお湯に溶かして入れてもいいらしい(シェルパウダー自体は無臭なので、匂いに敏感なロクサーヌさんも気にならないようだ)。

 ご主人様も難しいことは知らないということだが、「重曹泉」というのだそうだ。それとどこでそんなことを知ったのか分からないが、石鹸の効きがよくなるだけでなく、なんと美肌効果もあるらしい。それを聞いたみんながシェルパウダーを真剣にお湯に溶かしだした。

 ご主人様も適量が分からないというし、一定量は必要とはいえ、多ければいいというわけでもないはずだが(これは後で知ったのだが、むしろあまり入れすぎない方がいいらしい)、これだけの大きさの風呂桶なのだからやはりそれなりの量が必要だろうということで、とにかくみんな必死である。

 そうしてシェルパウダーを溶かしていくと、無色透明だがとろみのあるお湯になる。実際湯船に浸かると、ヌルっと身体に絡みつくような感じがよくわかる。これは気を付けなければいけないそうだが、最後お風呂から上がる際にはしっかりと身体を洗い流す必要があるらしく、そのために何も溶かしていないお湯を別に用意してもらった。そうして洗い流したあとはお肌がツルツルになっているのがとても良く分かる。確かに美肌効果はバッチリのようだ(このほか皮膚病や火傷、切り傷などにも良いらしい)。

 それとこれまではいつも残り湯を翌日の掃除や洗濯に使っていたのだが、これでは使えませんねとご主人様にいうと、それぐらいは別にいくらでも用意できるからかまわないと言ってくれた(ちなみに残り湯の有効利用としては、アレした後も私たちはお風呂場で残り湯を使って体を清め、寝巻きを整えてから就寝するというのもある。さすがに疲れ切ったご主人様は動かせないので、寝室にお湯を持ってきて清拭し、寝間着を整えてあげるのだが、これはロクサーヌさんの役割である(彼女はほかの誰にもこの役割を譲ろうとしない。もちろん誰も彼女から取ろうとはしない))。

 

 シェルパウダーのお風呂も毎日入るのはかえってよくないらしい。2~3日に1回ぐらいが良いそうだ。

 ともあれシェルパウダーをドロップするクラムシェルは、定期的に狩ることになった。これはカメリアオイルをドロップするカナリアカメリアも同様である。

 

 あとお湯を抜いた後の風呂桶を水で軽く洗って(この重曹泉は風呂桶自体も綺麗にするとのこと)、風魔法で乾燥させるのもご主人様が率先してやってくれた。今ではルティナの仕事である。いつのまにか彼女はすっかりお風呂担当になってしまった。彼女もまさか魔法使いになった自分がこんなことをするとは夢にも思っていませんでしたと苦笑していたが、みんな感謝しているし、自分ならではの仕事だということで、本人も喜んでやっている。

 

***

 

 今回もまたご主人様の言葉で締めようかと思う(さきほどは髪にまつわる言葉を紹介したのだが)。

 ご主人様が言うには、「風呂は命の洗濯」だとのこと。なるほどまったくその通りだと私も思う。ご主人様の言葉はいつも含蓄に溢れている(注:だいたいが他人の言ったことの受け売りなんですが……)。

 

 重い装備を脱ぎ、迷宮探索でこびりついた汚れや垢を洗い落とし、ゆっくり湯船に浸かることで、一日の溜まった疲れをこうしてお湯に溶かしてしまえるの大変すばらしいことである。

 こうやってお風呂に入るのは、明日も頑張ろうという気にもさせてくれる、もはや欠くことのできない重要な日課であると言っていいだろう。

 

 初めてご主人様(というかみんな)と一緒にお風呂に入った時は、緊張と羞恥心でいっぱいいっぱいだった。今でも緊張もしてるし恥ずかしさだってあるけれども、あの頃よりも少しだけマシになってるようにも感じられる。これは慣れというか、こうして触れ合うような距離感で居られることが、私たちにとってより自然なことのように感じられるようになったからだとつくづく思う。

 将来どうなるかは分からないが、いつまでもこんな関係が続けばいいのにと願うばかりである。




というわけで(?)、当初は予定になかったのですが、お風呂編追加です。
まだまだ完成度は低いですが、一応投稿できるぐらいにはまとまったので。
今後も加筆・修正は随時していきますので、おかしなところなどあれば指摘をお願いします。

WOODWORKING, MAKING A CEDAR HOT TUB
https://www.youtube.com/watch?v=93vSe3vYqTA
https://www.youtube.com/watch?v=pZ6nzOUv48A

某掲示板で紹介されていましたが、実際に作るとこんな感じなんですね。

今後の予定ですが、食事編の追加は決めています。
あと「セリーから見た内密さん」も書きかけですが、こちらはお風呂編と食事編を独立させた(る)ので全体的に見直しです。

それとできれば領地経営編も作りたいのですが、こちらも書籍13巻の内容を踏まえて検討が必要でしょう。
いったいいつになるやら分かりませんが、一応取り組んではいますので……。
突っ込みやネタフリなどいただけるととても嬉しいです。
宜しくお願いします。
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