私の名はセリー   作:続きません

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ベース:https://ncode.syosetu.com/n4259s/53/ 「全滅」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/54/ 「ビーストアタック」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/88/ 「フィッシュフライ」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/89/ 「討伐」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/90/ 「回収」
    書籍版 第6巻 第26章「メテオクラッシュ」
           第27章「盗賊」
           第30章「一度あることは」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/103/ 「鉢合わせ」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/104/ 「決闘」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/105/ 「二回戦」
    https://ncode.syosetu.com/n4259s/106/ 「浪費」
初 出:書き下ろし


セリー達が盗賊に襲われた時の話と決闘に巻き込まれた時の話(内密さん対人戦闘編)

 私の名はセリー。ドワーフ族の16歳。職業は鍛冶師。

 迷宮探索の傍ら、モンスターカードの融合や装備品の作製を行うのが私の仕事である。

 私は自由民ミチオ・カガに奴隷としてお仕えしているのだが、この自由民という身分は、文字通り他人の強制を受けない自由な民のことをいう。非自由民である奴隷とは全く異なるのだが、そういう意味では身軽ではある。

 ただしこの他人の強制を受けないということは、逆に他人の庇護下にも置かれないということでもある。

 そう自由民にとってこの世界はあくまで自力救済、他人と衝突した場合、自分(や自分の家族)の身は自分で守るのが基本であり、そういう意味では重い責任を負うことになるのである。

 ご主人様はこの点あまり自覚していなかったようだが、今回はご主人様(と私たち)が魔物ではなく他人と戦う羽目になったときのお話である。

 

***

 

 普段、迷宮探索において私たちは魔物を相手にしているのだが(それが目的なのだから当たり前だ)、魔物以外に、他のパーティーにも十分に注意する必要がある。獲物を巡ってトラブルを生ずることもあるからだ。魔物の横取りはご法度であるし、逆に(意図的かどうかは別として)魔物を押し付けられることもなくはない。迷宮内でパーティーがお互いに距離をとるのはマナーであり、また自衛のためでもある。

 

 ただ私たちのパーティーにはロクサーヌさんがいる。狼人族の中でもとりわけ彼女は嗅覚に優れており、驚くべきことにどのモンスターがどこに何体いるのかを、離れた位置からほぼ正確に把握することができる。またモンスターだけでなく、他のパーティーの存在なども手に取るように分かるので、探索中はなるべくモンスターを効率的かつ安全に狩れるように、そしてトラブルの元になりかねない他のパーティーと出くわすことのないよう彼女に先導してもらっている。そのために一回の探索での戦闘回数は、通常のパーティーのそれを遙に上回る。これだけ効率的に狩りができているのであれば、私たちの成長速度が、他の人たちと比べて段違いに速いのも当然である(ただそれでも計算が合わないような気もするが)。

 

 そんなロクサーヌさんの活躍があっても、ボス部屋は各階層に一か所しかないため、そこだけはどうしても避けては通れない。とりわけ人気のあるボスだと、他のパーティーが集まりやすいということもある(そういう場合は待機部屋で順番待ちをすることになる)。そうやって他のパーティーと出くわしたときは、とりあえずこちらとしては友好的に接するのだが、中には失礼な人たちもいる。

 

 あれはまだご主人様とロクサーヌさん、そして私の三人しかいなかった頃、ベイルの迷宮の七階層、ボス部屋の隣の待機部屋に入ったときのことだった。その待機部屋には、男性ばかり六人のパーティーがすでに中にいた。その前のパーティーがまだボスと戦闘中のようで、それが終わるのを待っていたらしい。

 ボス部屋で待たされたりするのはお互い様なので別に構わないのだが、彼らがロクサーヌさんの胸ばかり無遠慮にジロジロ見ていたのには、ヒジョーに腹が立った。ご主人様も殺気立っていたように思う。ご主人様と私が殺伐とした雰囲気を隠そうともせずにいると、ボス部屋の扉が開き、そのパーティーが中に入っていった。入っていく際にもロクサーヌさんをいやらしい目つきで見ていた。

 

「くっそ」

「皆さん、全員やっぱりです」

 

 滅びてしまえばいいのに。

 

「なんかいやらしい視線でした」

 

 ロクサーヌさんもさすがに気づいたようだ。

 

「まあ気にするな」

「はい」

 

 ともあれまずはボス狩りだ。ここのボスはパーンである。ボス部屋に入る前にパーンの特徴について私の方から二人に軽く説明をしておく。

 信じられないことだが、私が加入する前、ご主人様とロクサーヌさんの二人しかいなかったときは、これまでこういった事前の情報収集や確認などは全くしてこなかったらしい。その階層にどの魔物が出るかは、入り口の探索者に尋ねるか、最寄の探索者ギルドもしくはクーラタルの探索者ギルドへ行けば割と簡単に分かることなのだが……。よくここまで無事にやってこられたものだ。正直呆れたのだが、

 

「素晴らしい。魔物のことまで知っているとは。やはりセリーは役に立つな」

 とご主人様にこう言ってもらえるのは、素直に嬉しいと思ってしまう。私って結構チョロい?

 

「あ、ありがとうございます」

「これからはよろしく頼むな」

 

 もちろんである。これからは自分がしっかりしないといけないと、決意を新たにする。

 

 話を戻そう。

 二人に説明した内容だが、ここのボスであるパーンは半人半獣の魔物で、打たれ弱い面はあるものの強力な魔法を放ってくる、低階層では比較的危険な魔物の一種である。魔法攻撃が主体で武器も持っておらず、物理攻撃の方はそれほど厳しいものではない。けれどもその分魔法攻撃は強力で、しかも撃ってくるのが全体攻撃魔法なので、その性質上回避することができない。これはたとえロクサーヌさんの高い回避力をもってしてもである。

 したがって、パーンと戦う際にはこの魔法への対策が必須になる(詠唱遅延のスキルがついた武器などの装備を整えてから戦うのが常道である。先ほどのパーティーもおそらくは腕試しが目的で、装備を十分に整えて挑戦していることだろう)。ご主人様は一体どうするのだろうかと思ったが、ご主人様の武器には、詠唱中断のスキルが付いているのだそうだ。MP吸収のスキルが付いているはずだと思ったのだが、それも付いているとのこと。あれ?

 

「……」

 

 絶句する。

 

「だ、駄目なのか?」

「えっと。複数のスキルをつけることが不可能でないことは知っていますが。なんといえばいいか、その……」

「珍しいのか」

「モンスターカードの融合に失敗したとき、装備品は分解されてしまいます。素材は残りますが、スキルのついた装備品であっても最初のモンスターカードは残りません」

 

 しかも後から聞いたのだが、この武器に付いているスキルはその二つだけでなく、攻撃力五倍、HP吸収、レベル補正無視、防御力無視と、全部で六つものスキルが付いているとのこと。伝説級の武器といってもいいと思うのだが、正直信じられない。一本の剣にスキルを六つも融合したのか、六つのスキルがついた状態の剣を入手したのか、おそらくは後者だとは思うが、そうだとしてもまだ年若いご主人様が、一体どこでどうやってそんなものを手に入れたのだろうか……。おそらく鍛冶師のスキルでは作れないのでは……伝説と言われるジョブである隻眼であればもしかしたら……疑念が募る。

 

「えー……おっと。扉が開いたな。では行くぞ」

 

 そのときはこの点について詳しく問いただす前にボス部屋の扉が開いたので、とりあえず突入することになった。……なんだか誤魔化されたような気もするが。

 そうしてボス部屋に入ると、中には装備品が散乱しており、その中心にすでに魔物が立っていた。パーンだ。

 最初からボスがこちらを待ち受けているということは……滅びてしまえばいいのにと思っていたが、どうやら先ほどのパーティーは、パーンによって全滅してしまったようだ。

 本当に全滅してしまうとそれはそれで可哀想にも思う。が、これも仕方のないことだ。迷宮探索は常に死と隣り合わせであり、そこは非情な世界である。死体の方はすでに迷宮によって消化されたようで、彼らの装備品だけが残されていた。

 

「ロクサーヌは正面に。セリーは転がってる装備品を端にどかしてくれ」

 

 ご主人様の指示が飛ぶ。思いがけない事態ではあるが、ご主人様は冷静だった。こういうところは非常に頼もしく感じる。

 

「はい」

 

 パーンの相手はロクサーヌさんに任せて、私は散らばっている剣を急いで壁の方に持っていく。こんなものが転がっていてはロクサーヌさんもやりづらいだろうし、第一危なっかしいことこの上ない。ご主人様も籠手や靴を壁の方に蹴飛ばしながら、パーンの横に回り込んだ。

 するとパーンの脚元に赤い魔法陣が浮かび上がる。全体攻撃魔法が来るぞと身構えたのだが、意外にもご主人様の剣の一振りで、パーンはあっけなく崩れ落ちた。どうやら先のパーティーはいいところまで魔物のHPを削っていたようだ。

 パーンが消えると、そこにはヤギの肉が落ちていた。ドロップアイテムだ。

 

「前のパーティーは全滅したようです。多分、途中までパーンの体力を削っていたのでしょう」

 というと、

 

「なるほど。そういうことか」

 と、ご主人様も納得していた。

 

「あのいやらしいパーティーは全滅したのですね」

 とロクサーヌさん。

 

「胸の大きさで人を判断するようなやからは滅びてしまえばいいのです」

 と私。

 

「せっかく詠唱遅延のついた武器も用意したのにな」

 

 ご主人様が、全滅したパーティーが装備していた銅剣を手に取ってつぶやく。

 

「見ただけでお分かりになるのですか?」

 

 私が驚いてそう尋ねると、

 

「まあ……」

 とご主人様が何か言いかけたが、

 

「あ、いや。詠唱なしで武器鑑定を使えるのでしたか」

 

 そういえばそうだった。

 

「さすがご主人様です」

「詠唱遅延のついた武器で攻撃すると、魔法の発動を遅らせるんだよな」

「そのはずですが、抑えきれなかったのでしょうか」

 

 そう言いつつ、妨害の銅剣(全部そうらしい)を拾い集める。全部で五本あった。

 

「あるいは五人では足りなかったのか」

「分かりません」

 

 六人パーティーだったはずなのだが、一人は回復役か何かで攻撃参加していなかったのだろう(銅剣のほかにワンドが一本あった)。確かにそれが破綻の原因だったのかもしれない。

 

「情報や作戦に頼りすぎると、一つ歯車が狂っただけで何もかもが失敗してしまうということだな。地道に実力をつけていくことが大切だ。うんうん」

 とご主人様が意味ありげなことを言う。

 

「はい。がんばります、ご主人様」

 とロクサーヌさんが素直に答えていたが、これはむしろ私に向けての言葉かもしれない。

 

「そうかもしれません」

 とここは殊勝に答えておく。

 

 武器に続いて、籠手などの防具も集めていく。こちらは革のグローブや革の靴などいずれも革製でスキルも付いておらず、たいしたものはなかった。武器を揃えるだけで精一杯だったのだろうか。

 

「遺体の方は消えてなくなるのか」

「迷宮内で魔物に倒された人は、速やかに消化、吸収されます」

「装備品の方は消化できないのだろうか」

「迷宮にとっては異物ですから」

「そうなのか」

「いずれ吐き出されますし」

 

 いわゆる宝箱として出てくるのがこれである。

 

「なるほど」

「異物なので、取り込むのに時間がかかるようです」

 

 インテリジェンスカードと違って、こちらの方は回収するのに時間的な余裕がある。カードの場合は速やかに左手を切り落としておかないと、遺体と一緒に迷宮に飲み込まれてしまうのだ。ただ彼らは盗賊ではなかったはずなので、賞金が掛けられていることもなく、インテリジェンスカードを回収する必要もない。それに彼らが全滅したことを、探索者ギルドや騎士団などに届け出る義務も特にはないので、仮に彼らの遺体が残っていたとしてもそのままである。

 

「やられた人の装備品を着けるのも、あんまり気分のいいものではないが」

 とご主人様が言うが、

 

「全滅したパーティーの装備品は次のパーティーのものです。帰ったら私がきちんと手入れをしますから、大丈夫でしょう」

 とロクサーヌさん。全く彼女の言う通りである。遠慮など全くいらない。あとロクサーヌさんは自身が言う通り、装備品の手入れにはいつも余念がない。

 

 ご主人様が革の鎧を見て何ごとか考え込んでいる。どうしたのかと尋ねると、

 

「か、革の鎧は一個を残して後は売るしかないか」

 という。

 

 なるほど革の鎧などは体のラインがそのまま出てしまうので、ロクサーヌさんみたいに良いプロポーションをしている女性ならいいが(それはそれで迷惑かもしれないが)、私のようなチンチクリンが着ると悲しいものがある。

 

「確かに小さいですけど……」

 

 気を使ってもらっているのか分からないが、かえって迷惑である。

 

 魔結晶も人数分回収すると(青が一個と赤が一個、残りは紫だった)、せっかくなのでボス戦をもう一度繰り返してみることになった。先ほどの戦闘が余りにもあっさりと終わってしまったこともあり、パーンの実際の行動パターンなどを知ることができなかったからだ。

 一度八階層に出た後、(待機部屋には直接跳べないので)七階層途中の小部屋にダンジョンウォークで移動し、再びボス部屋を目指す。

 

 二回目のボス狩りでは、ロクサーヌさんがビーストアタックにも挑戦していた(ロクサーヌさんの代わりにパーンの正面は私が引き受けた。ボスと真っ向から対峙するなど実は初めてのことなのでドキドキである。けれど私だってこれぐらいはやらないとと気持ちを強く持って臨んだ)。ロクサーヌさんはご主人様からブラヒム語の指導を受けつつ(ご主人様はブラヒム語の難しい言い回しも良く知っており、その知識が大変豊富なことに驚かされたが)、見事にこれを成功させていた。

 獣戦士の必殺技であるビーストアタックは、実際に繰り出されるのは初めて見たけれども、さすがの威力である。獣戦士の上級職である百獣王になれば、この威力もさらに上がるのだろうか。

 ロクサーヌさんにとっては、ビーストアタックを成功させたことは大きな収穫だったのではないか。とても機嫌がよさそうだったし。ただ結局パーンの行動パターンは良く分からないままではあったが……。

 

***

 

 先にも言ったように、迷宮に入っているのは基本的に魔物を狩ろうとしているパーティーばかりであるが、中には魔物ではなく、他のパーティーそのものを獲物としている輩もいる。そう、盗賊である(ちなみに盗賊は人間固有のジョブであり、亜人の場合は山賊、獣人は海賊となり、またそれらの上級職として凶賊なるものもあるのだが、以下では原則としてすべて盗賊と呼ぶことにする)。

 

 この盗賊という存在は非常に厄介である。中にはフィールドで活動する者たちもいて、ある程度数が揃えば、小規模な村を襲ったりもすることもあるそうだが(ご主人様も遭遇したことがあるとのことだが、これについては後で少しだけ触れる)、迷宮の比較的低階層に出没するケースも多いという。

 というのも冒険者たちは、当然のことながら迷宮探索では魔物との戦闘を繰り返しているから、時間とともに少なからず消耗していく。したがって盗賊たちとしては、迷宮にやってきたばかりのパーティーではなく、そろそろ切り上げて帰ろうとしている者たちの方が狙いごろとなる。しかもそういうパーティーは、もともと持っている装備品だけでなく、ドロップ品を抱えていたりもするのでそれも狙い目である。奴らは本当に姑息であるが、そういったパーティーを待ち伏せたりするほか、ボス部屋の前で待ち受けていることもあるらしい。

 

 さらに迷宮内であればフィールド上とは異なり、冒険者の死体はすぐに飲み込まれてしまい、後には何も残らないので(死体にやや遅れてではあるが装備品も同様である)、盗賊たちが自らの犯行の痕跡を消すのもそう難しいことではない。被害者を全員生きて帰すことなく、全員の口を封じてしまえば、魔物にやられたのか盗賊によるものなのかも判別がつかないから、犯行が発覚することはほぼありえず、そういう意味でも迷宮という場所は、盗賊たちが他の冒険者を襲うのには好都合ということらしい。

 

 それでもクーラタルの迷宮のように、しっかりと管理されているようなところであれば、盗賊はまずいないと考えてよい(騎士団による入口でのチェックも、必ずしも万全というわけではないけれど)。

 それでなくても、あそこは常に多数の冒険者が入っているので、たとえ盗賊が入り込めたとしてもすぐに見つかってしまうし、そして下手に見つかろうものなら、かえって彼らの方が狩られてしまうのだ。盗賊たちにとっては鬼門といってよい。

 だがそれ以外の迷宮の場合、とりわけ出来てからあまり時間のたっていない迷宮であれば、盗賊と遭遇する危険性はかなり高いようである。

 

***

 

 私たちが初めて盗賊に遭遇したのは、ミリアが加入する少し前、私たちがまだ三人だった頃のことである。

 私の新しい装備品として、ご主人様に鋼鉄の槍を買っていただいて(これは本当に嬉しかった)、試しにターレの迷宮の13階層に行こうかという話になった。

 

「武器を替えたからターレの13階層にも行っておくべきだろうか? まあどうせ行くことになるからそこまですることもないだろうが」

 とご主人様が言うと、ロクサーヌさんは「行ってみるべきです」と食い気味に言う。大層なやる気である。

 私も「ええっと。危険はしょうがありません。試しておけばいいでしょう」と答える。

 

「じゃあ行ってみるか。前にも行ったし、それほど危険はないと思う」

 

 ん? どうもご主人様と私たちとの間で、認識に齟齬があるようだ。

 

 確かに少しだけだが、この前も行ったことのある階層ではある。ただ、あのあたりの階層からは盗賊が出没する危険があるのだ。が、どうやらご主人様にはそういった認識は無いようである。不安になってロクサーヌさんに話しかける。

 

「あ、いえ。そういうわけでは……。あの、私たちって、強く見えるのでしょうか」

「大丈夫です。ご主人様と私たちなら問題はありません」

 

 ロクサーヌさんはとにかく強気だ。

 

「でも三人しかいませんし……」

 

 相手がフルメンバーの六人だと、どうしてもこちらが不利である。

 

「返り討ちにすればいいだけです」

 

 あくまで強気なロクサーヌさん。それはそうかもしれないが……。

 

「穏やかじゃないな」

 

 不思議そうな顔をして、ご主人様が話しかけてくる。やはり何の話か分かっていなかったようだ。

 

「13階層ですから」

「迷宮の12階層や13階層は、盗賊がいることも多いのです。だからといって避けるわけにもいきませんが」

「盗賊か」

「はい。低階層に来るような人は初心者ですから、装備も整っていないことがほとんどです。12階層からは魔物も強くなりますので、中級者が装備品も整えてから来ます。そこが狙い目です」

「なるほど。強くなった魔物のために用意した装備品をいただくと」

「12階層だと下の階層の魔物も多いので、11階層までの魔物が物足りない盗賊なら13階層や14階層にいることも多いそうです。普段はそこで何食わぬ顔をして魔物を倒しています」

 

 そう、普段普通に魔物を狩っているような盗賊であれば、14階層も危ない。

 

「それができるなら普通に迷宮で稼げばいいのに」

「人を襲った方が簡単にお金になりますから」

「せ、世知辛い」

「もちろん盗賊のほうでも、誰彼かまわず襲うのではなく魔物相手に戦いながら相手を見るそうです。貴族やお大尽たちの子弟が強力なサポートメンバーに囲まれながら経験値稼ぎに迷宮に入ったりする場合もありますし」

「だから強そうに見えるか聞いてたのか」

「強く見えれば襲われません」

 

 12階層から13、14階層にかけて、盗賊が出没する危険があることについて、ご主人様に簡単にその事情を説明する。

 ただ盗賊が出没するといっても、奴らも決して馬鹿ではないので、相手が自分たちよりも強そうなパーティーであれば(たとえば魔法使いがパーティーにいるような場合など)、襲ってくるようなことはまずない。

 要はこちらの方が強そうに見えればいいのだ。それには装備品の質もそうだが、人数も重要だ。その点さっき言ったように、私たちはフルメンバーではなく、その半分の三人しかいない……非常に不安である。

 

 どうしても気になったので、迷宮に入ってからまたこっそりロクサーヌさんに訊いてみたのだが、彼女はニッコリ笑って、返り討ちにすればいいのですとまた一言。すごい自信だ。確かにその通りはその通りなんだけれど……。

 

 そうしてターレの迷宮の13階層入り口の小部屋から探索を始めると、すぐにロクサーヌさんが小声でいってきた。

 どうやら誰かついてくる者たちがいるらしい。早速のおでましだろうか。

 

「この時間に来るのは失敗でした。朝にしておけばよかったかもしれません」

 といいつつも、ロクサーヌさんはどこかウズウズしているようだ。

 

「たまたま同じ方向に進んでいるだけじゃないのか?」

「最初の小部屋を出た横にいて、ずっとついてきていますので」

「つけてきたってことか」

 

 ご主人様とロクサーヌさんのやり取りが続く。

 

「入口の小部屋で見張っていたとなると、盗賊と考えるべきでしょうね」

 と私も、ロクサーヌさんの意見に賛成する。

 

「ま、まあ盗賊なら早朝でも変わらないだろう。人の少ない時間のほうが活発に活動しそうだし。今だと人の目があるから襲ってこないかもしれん」

 とご主人様が期待?交じりに言うが、

 

「うーん。この辺りにほかのパーティーはいなそうです」

 

 ロクサーヌさんがすかさずそれを否定する。

 

「そうすると、どうすればいい?」

「次の角を左に曲がると、魔物がいます。誰かが後ろにいるので魔法は使わないほうがいいかと思いましたが、盗賊なら見られても退治すればいいかもしれません」

 とロクサーヌさん。「かもしれません」などと言いつつ、表情を見れば殺る気マンマンなのは明らかだ。私も「ゴミは掃除しておくべきかと」と、一応それに乗っておいた。

 

「盗賊ではない可能性もあるが」

 とご主人様はまだ言うが、

 

「迷宮内で人のことをつけまわす時点で、探索者として終わっています」

 とバッサリ切り捨てておいた。

 

「では、次の角を右に曲がろう。それでも追ってくるようなら反転して迎え撃つ。最初に俺が攻撃するか、向こうから攻撃してくるまで、二人からは手を出すな」

 

 ご主人様もようやく覚悟を決めたようだ。

 

「分かりました」

「了解です」

 

 ともかくも方針は決まった。盗賊であることはまず間違いないだろう。これは必ず戦闘になる。この三人では初めての対人戦となるが、ご主人様に、気負いや焦りのようなものは全く感じられない。後から聞いたのだが、ご主人様は対人戦闘も未経験というわけではなく、普通にこなせるらしい。

 

 角を右に折れ、しばらく進む。

 

「やはりついてきますね」

 とロクサーヌさんが言うと、

 

「分かった。ここで反転だ」

 

 ご主人様が向き直って引き返そうとする。私たちも慌ててそれについていく。いよいよだ。

 

 すぐに洞窟の向こう側に、四人の男たちが姿を現した。

 一瞥しただけでは、彼らが本当に盗賊かどうかは分からない。だがそのうちの一人の発言で、すぐに盗賊だということがはっきりした。

 

「ちっ。気づいて戻ってきやがったか。まあいい。やるぞ」

「へい」

 

 一人が後ろ、三人が前に並び戦闘態勢を取ってくる。

 

「上玉二人はなるべく生かせよ」

「へい。こいつは楽しみだ」

「まあ俺のあとだがな」

「ごちになりやす」

 

 ……。ロクサーヌさんは当然として、どうやら私も「上玉」としてカウントしてくれているらしい。そう言われても全く嬉しくはないが。

 

「おい、アイテムボックスに有り金があるなら、遺品としてもらっておいてやる」

 

 アイテムボックスの中身は、そのままでは手が出せないので、本人に出させようというつもりらしい。しかし当然のことだが、一体誰がそんなことを素直に聞くというのか。

 などと彼らが言っている間に、前に並んでいた三人のうち、一人の体がいきなり破裂した。何が起こったのか全く分からない。他の男たちは茫然としている。当然私たちもだ。人の体が破裂するところなんて初めて見た。

 ご主人様も一瞬止まっていたが、大きく踏み込むと、剣を振るってもう一人の首をはね、さらにもう一人を叩き切った。叩き切られた盗賊は、剣を合わせようとしていたようだが、ご主人様の剣にあっさりと自分の剣を弾き飛ばされていた。スゴイ。

 

 最後に残った盗賊が、どうやら奴らのリーダーだったようだが、剣を構え、油断なく鋭い視線を飛ばしてくる。さすがに最初の衝撃からは立ち直ったらしい。

 盗賊リーダーが振り降ろした剣を、ご主人様が自身の剣で受け止め、そのまま斬り合いになる。相手は足技なども仕掛けて来てハラハラしたのだが(そういえばこんな場面を目にするのも初めてだ)、ボケっとしている場合ではない。私たちも助太刀しなければ。

 所詮相手は盗賊だ。別に一対一で戦わなければならない理由もない。手加減は無用である。ロクサーヌさんと私も、ご主人様に加勢して一気に押し切った。ご主人様一人でもおそらく問題はなかったのだろうが(むしろ余計なお世話だったかもしれない)、私たちのことを労ってくれた。

 

***

 

 それにしても、最初の一人が突然爆散したのはいったいどういうからくりなのか。まるで自爆玉を使ったかのようだった(自爆玉を使うと、そういうことになるというのは、私も知識としては知っていた。実際に見たことはなかったが)。

 

 そういえば、ロクサーヌさんや私のいたベイルの商館に盗賊の襲撃があったとき、ご主人様とロクサーヌさんが、盗賊を迎え撃ったアラン氏の助太刀をしたという話があったそうなのだが、そのとき盗賊の一人が、自爆玉を使ったらしいということを聞いた(ちなみにそのとき、実は私も商館にいたのだが、襲撃の最中も全く気づかずに夢の中にいた。事の顛末が商館のおばさんから知らされたのは、私が朝起きてからであった。かなり大きな騒ぎだったそうで(商館内は暫くの間その話題で持ちきりだった)、それでもぐっすりと寝ていた私は、おばさんにたいそう呆れられたものである)。

 ただそのときは、はたして盗賊なんかが自爆などするだろうか、しかも高価な自爆玉を使ってまでと、不思議に思ったように記憶している。そして今まさに目の前で、盗賊が爆散したのを見て、疑念が確信に変わった。これはきっとご主人様の呪文のせいだ。自爆玉などではない。商館襲撃のときも、ご主人様がこの呪文を盗賊に使ったに違いない。

 

 クーラタルの自宅に戻ってから、ロクサーヌさんのいないところで、この点についてご主人様を問い詰めてみた。

 ご主人様は驚きつつも最初は言葉を濁していたが、私がジト目(というらしい)で見ていると、観念したのかようやく教えてくれた。

 等量交換という呪文だそうだ。ご主人様が使える特別な呪文の一つらしい。なんでも自分のMPとHPを全部使って、相手のHPを削り切るというものだそうだ。

 なんという無茶苦茶な、そして凶悪な呪文だろう。しかも自分のMPとHPの総量が、相手のHPを上回っていればいいが、もし相手のHPの方が多ければ、自分の方が死に至るらしいという。

 もちろん使う前には、相手のレベルや自分の状態などを考慮して、成否を慎重に判断するのだろう。実際ご主人様も、よほどの確信がない限り、怖くてとても使えないと言っていた。当たり前だ。先ほども、一番レベルの低い探索者に対して使ったのだという。相手に与えるダメージもそうだが、別の意味でも恐ろしい呪文である。まさにもろ刃の剣である。

 まあ確かにリスクはあるものの、決まれば一撃で相手を屠れるし、周りに与える衝撃もすさまじい。ただそれでも危険極まりない呪文である。

 

 あまりのことに私が呆れていると、ご主人様は、これは暗殺の手段としても使えるので、絶対にバレてはいけない、くれぐれも内密にと、くどいほど念を押していた。もちろんそんなことをするつもりは毛頭ないが、確かに他人からすれば脅威だろう。なにしろこちらが全く手を触れることなく、相手が突然爆散するわけなのだから。とりわけ貴族などに知られた場合、こんな危険人物は問答無用で拘束されかねない。それどころか即処刑されてもおかしくない(ただ盗賊風情が持っていることはまずないが、貴族ともなれば当然身代わりのミサンガを常に身に付けているだろうから、一度は耐えることができる。この呪文はその性質上、連発するのはまず無理なので、貴族相手では分が悪い。ならばそういう相手だったら(貴族相手に喧嘩を売ることもないだろうが)、ご主人様は一体どうするのだろうかと一瞬考えた。……その後その答え(の一つ)を実際に目の当たりにするとは、このときは全く思っていなかったのだが)。

 

 ご主人様には絶対に内密にするようにと言われたが、ロクサーヌさんには一応この話をしておいた。彼女はとても驚き(さすがに彼女も不思議には思っていたようだったが)、絶対に口外しないと約束してくれた。それと同時に、よく自分に教えてくれたと大変感謝された。彼女としてはご主人様の事なら、どんな些細なことでも知っておきたいらしい。……ロクサーヌさんのご主人様に向けられる愛情がちょっと重すぎるような気がしないでもないが……まあいいだろう。ちなみにその後加入した他のみんなには、このことは一切話していない。彼女たちに話してもまあ大丈夫だろうとは思うが、一応念のためだ。

 

***

 

 話を戻そう。

 

「終わったようだな」

「はい。さすがご主人様です」

 とロクサーヌさんがご主人様に話しかけているが、それと同時に盗賊の手首を切り取っている。おっと私も急がなければ。

 

「ぜ、全員、怪我はないな」

「ありません」

「盗賊の気を引いてくれてありがとうな。助かった」

 

 これは私の槍の一撃のことを指して言っているのだろう。先の戦闘で私が思い切って盗賊のリーダーに突き入れた槍は、剣で受け止められてしまったのだが、そこに生じた隙をご主人様は見逃すことなく、自身の剣で仕留めたのだった。あの槍の一撃は我ながら上手く繰り出すことができたように思う。

 

「はい」

 と答えつつ、盗賊の手首を槍先を使って切り取る。

 

 先にも述べたが、盗賊の場合、懸賞金がかけられていることも珍しくはない。そしてその懸賞金をもらうためには騎士団の詰め所に行かなければならないのだが、その場合討伐の証拠として、賊のインテリジェンスカードが必要になる。

 そのため迷宮内で盗賊など懸賞金のかかっている者を倒した場合、迷宮に死体が飲み込まれないうちに、速やかに左手を切り落とし、確保しておく必要がある。インテリジェンスカードは人が死亡すると左手から自然に出てくるのだが、死亡してから30分ほど待つ必要があるからだ。

 

「セリーも手首を」

 

 ロクサーヌさんが、はぎとった盗賊の服を袋替わりにして、手首をまとめている。

 

「はい、ロクサーヌさん」

 

 私も自分が切り取った手首を、ロクサーヌさんに渡す。

 

 話には聞いていたので、問題なく左手を切り取ることが出来たが、実は私にとってはこれもまた初めての経験だった。そもそも盗賊退治すら初めてだ。どうやらロクサーヌさんも同じらしい。

 そうこうしているうちに、盗賊の身体が消えていく。迷宮に飲み込まれたのだ。想像していたよりもずっと早く飲み込まれていた。危ないところだったが、一先ず残った全員分の左手を確保することはできた。

 

「インテリジェンスカードか」

「はい。しばらくこうしておけば多分出てくるでしょう」

 

 四人のうち一人は爆発四散してしまったため、その分のインテリジェンスカードは回収できなかったが、先ほど言ったように、ご主人様によれば、その一人は探索者だったとのこと。私たちはすぐには分からなかったのだが、ご主人様は一目で彼らのジョブを見破ったようだ。だからこそ例の呪文を使ったということなのだろう。

 盗賊たちの装備品の方は大したものがなかった。まあ盗賊風情だ。こんなものである。魔結晶もそれなりだ。ヒトを倒しても魔力は入らない(入ったらそれこそ大変だ)が、それでも盗賊たちは普段は何食わぬ顔をして魔物を狩っており、多少は魔結晶に魔力を貯めていたようだ。

 

 こうして初めての盗賊の襲撃は、ご主人様の完全勝利に終わった。

 何事もなく済んで良かったと胸をなでおろしたのだが、その後わりとすぐにまた盗賊たちに出くわすとは、このときの私は(というか全員とも)夢にも思っていなかったのである。

 

***

 

 次に盗賊と遭遇したのは、ミリアが加入して間もなくのことだった。

 今度は、ハルバーの迷宮の12階層に入って、何日かしたころである。

 

「おかしいですね」

 と、そのときもロクサーヌさんが探索中に突然言い出した。迷宮内の異常にいち早く気付くのはいつも彼女である。

 

「何がおかしい」

「この先に人がいます。こんな時間なのに、です。昨日も、一昨日も、ずっと同じ場所にいました」

「人のにおいがする魔物とか」

「聞いたことがありません。なるべく人のいるところを避けているので、このままずっといられると、先に進めません」

 

 あ、これはまたもや盗賊か……。

 

「盗賊が網を張っている可能性がありますね」

「また盗賊か」

「12階層や13階層には盗賊が多いですから」

「ここの迷宮は人が来ないだろうに」

「クーラタルのように人の多い迷宮ではすぐに見つかってしまいます。まったく人の来ない迷宮では仕事になりません。あまり人が多くなく、たまに来るくらいの迷宮が一番いいのです」

 

 この辺りはすでに説明した通りである。

 

「そうすると、どうすべきだろうか。いなくなるまで待つか」

「こんな時間にいるとなると、一日中いると考えた方がいいかもしれません。多分、早朝なので人が少なくなっていると思います。突破するなら今がチャンスです」

 

 とてもロクサーヌさんらしい発想だが、実際その通りだ。冒険者が弱腰であってはいけない。

 

「騎士団に報告するという手もあるか?」

 というご主人様には、

 

「ハルツ公爵家の家人でなければ、動いてはもらえないと思います」

 と私の方から言っておいた。

 

「そうなのか?」

「家人は保護の対象ですから」

「ご主人様は自由民ですよね」

 とロクサーヌさんが確認する。

 

「そうだ」

「では難しいですね」

「自由民であれば、自力救済が基本です。自由民には自力救済をする権利があります。保護を求めることは庇護した者の家父長権の下に置かれることを意味します。それはあまり得策ではないでしょう」

 と私からも説明する。これもいわば常識なのだが、こういうところもご主人様の変わっているところだと改めて思う。

 

「そうなるのか」

「盗賊なんていまさらです。自力で突破するのが当然です」

 とダメを押す。

 

「××××××××××××××××(この先で盗賊たちが待ち伏せをしているようです。ミリアも覚悟しておきなさい)」

 

 ロクサーヌさんがミリアにもバーナ語で説明している(もちろんカッコ内は後でロクサーヌさんに教えてもらった内容である)。

 

「大丈夫、です」

 

 どういうことか全く分からなかったミリアも、ロクサーヌさんから事情を教えてもらい、うなずいている。

 

「大丈夫です。そんなにたくさんはいないようです。前にも倒してますし、盗賊ごときに遅れを取ることはありません」

 とロクサーヌさん。

 

「私もそう思います。13階層にいた盗賊より12階層で待ち伏せしている盗賊のほうが弱いはずです。12階層で戦うパーティーを念頭に置いているような盗賊には負ける理由がありません。普通のパーティーは魔物を倒すのにもっと時間がかかります。私たちは他の12階層で戦っているパーティーに比べてかなり強いはずです。私やミリアが足を引っ張るかもしれませんが、連携すれば大丈夫でしょう。盗賊がいても簡単に負けることはありません」

 

 私がそういうと、ご主人様はミリアの方を見る。加入して間もないミリアに、やはり一抹の不安が残るのは確かである(もちろん私もだが……)。

 

「大丈夫、です」

 

 しかしミリアはご主人様が何か言う前に答えていた。どうやら彼女も覚悟を決めたようだ。なかなかの度胸である。

 

「では、一度行ってみるか。俺が剣を持つ右手を上げたら攻撃の合図、左手を上げたら全員退却の合図だ」

 

 いざというときのための合図が、あらかじめ決められる。ご主人様が剣を取り出して身構える。

 

 ひと固まりにならないよう注意しながら洞窟を進むが、通路の突き当りまでまったく人がいない。

 

「すみません。多分この先に隠し扉があって、その向こう側にいるのだと思います。扉があるとは思いませんでした。扉があれば、においはあまり出てこなくなります。思ったより多くいるかもしれません」

 とロクサーヌさん。

 

「全員、俺の後ろに回れ。ロクサーヌは最後尾を頼む」

 

 ご主人様が先頭に立ち、洞窟の突き当りまで進むと、ガラガラと音を立て、扉がスライドして下に落ち、小部屋が現れた。

 中には、六人の男たちがいた。

 

「×××××××××××××(注:俺たちは休憩中だ。先に行ってくれ)」

 

 一番前にいた男が話しかけてきたが、ブラヒム語ではなかったので、ご主人様は何を言われたのか分からなかったようだ(私もだが)。黙ったままでいる。

 そうすると別の男が、私たちから見て左側の通路を指して、ブラヒム語でこう言ってきた。

 

「おはようございます。ボスのいる部屋はあっちです。俺たちはまだ少し休んでから行きますんで」

 

 見たところ彼らが盗賊かどうかは分からない。ご主人様は分かっているのだろうか(実際は一目で盗賊だと見抜いていたらしい)。

 遠巻きに警戒されてはいるが、こちらを襲ってくる様子は今のところ彼らには見られない。

 

「ありがとう」

 

 そう言ってご主人様は、言われた通り左側の通路に進む。……大丈夫だろうか。

 私たちもご主人様についていくが、男たちの視線がロクサーヌさんやミリアに集まっている。正確には二人の胸にだ。私の胸には……。

 

「……滅びればいいのです」

 

 思わず呪いの言葉をつぶやく。

 

 そうして通路を少し進むと、最後尾にいたロクサーヌさんが小走りでご主人様に追いつき、耳元で何かささやいている。

 どうやらこの先にも人がいるようだ。なるほど私たちを待ち伏せて挟み撃ちにするつもりか。

 一見しただけでは盗賊かどうかはやはり分からないが、前回と同様に、ご主人様は相手が盗賊であることをすでに見破っているようだ。

 これはどうやっても戦闘は避けられないだろう。さすがに緊張してきた。

 

「あいつらは盗賊だ。一戦は必至だろう。襲ってきたら、ロクサーヌが前、セリーは後ろを頼む。ミリアはロクサーヌの後ろから援護しろ。盗賊は俺が倒すから、守備に重点を置いて戦え。俺は自由に動く。俺の動きにはつられるな」

 

 ご主人様から指示が飛ぶ。やはりご主人様は彼らが盗賊であることを見抜いていたようだ。おそらく奴らは手強いと思った相手はそのままボス部屋に通し、勝てそうだと思えば襲撃するということなのだろう。四人しかいない私たちは格好の獲物に見えているに違いない。

 けれども、詳しいことは分からないが、どうやらご主人様には勝算があるらしく、アイテムボックスから棍棒を取り出し、私に手渡してくる。そして私の持っている鋼鉄の槍の方は、ミリアに持たせている。ミリアに援護をさせるなら、彼女には間合いの長い槍を使わせた方がいいだろうとの判断だ。なるほど。

 

 ご主人様がロクサーヌさんに確認しつつ、角を曲がると、そこには四人の男たちが私たちを待ち伏せていた。

 その四人が立ちふさがるように通路上に広がる。前に三人(そのうちの一人は狼人族だ)、リーダーらしき男(こちらはエルフ族のようだ)がその後ろに控えている。

 

「ボスがいると思ったか」

「残念だったな、盗賊だよ」

「××××××××××(注:いい女だな。こいつは楽しみだぜ)」

 

 一人はロクサーヌさんを見て、何やらイヤらしいことを言っているようだ。何を言っているのか分からなくても、その下卑た表情で容易に察しがついた。

 

 そうこうしているうちに曲がり角の後ろからも、先ほどの六人の男たちがやって来て、私たちの退路を塞ぐようなかたちで取り囲んでくる。

 どうやら彼らにはもはや自分たちが盗賊であることを隠すつもりもないらしい。人数的に圧倒的に優位に立ったと思っているのだろう。確かに前後を挟んで私たちの逃げ道を封じてもいるし、もう勝ったも同然と考えても不思議はない。

 先ほどは前回の盗賊たちよりも弱いはずと言ってしまったのだが、どうみても今回の方が手ごわそうだ……。これはしまったかもしれない。後悔と焦りの念が自分の頭をよぎる。

 

「持っているものと女を置いていくなら、命だけは助けてやってもいいぜ」

 などと言っているが、奴らにそのつもりが欠片もないことは明らかだ。

 

「おら。さっさと全員武器を捨てな」

「命あってのもの種だぜ」

 

 私たちは四人しかいないが、向こうは10人もいる。しかも前後を挟まれた格好だ。

 さすがにこれは分が悪い。ご主人様は一体どうするのかと不安に思ったが、

 

「入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の……」

 

 いきなり呪文の詠唱を始めた。普段は無詠唱なのに……しかもこの呪文は……ダンジョンウォーク?  え? え?

 

「この洞窟には遮蔽セメントを塗ってある。逃げられないぜ」

 と盗賊の声が飛ぶ。なるほどどうやら奴らは用意周到にこの場所で網を張っていたようだ。

 

 ただご主人様はそれでもかまわず「ダンジョンウォーク」と唱える。すると黒い壁が現れる。

 呪文はダンジョンウォークのものだったが、実際に使ったのはワープだったのか。確かにこれなら遮蔽セメントなど関係ない(考えてみれば、これもとんでもない呪文だ。いくらでも悪用ができてしまうだろう)。だがワープなど使ってご主人様は一体どうしようというのか。

 そう思っているあいだに、ご主人様が壁の中に飛び込む。

 

「馬鹿な。ダンジョンウォークが使えただと」

「××××××××××(注:逃げられるとまずいぞ)」

「いや。逃げたのは一人だ。女をほっといて逃げるとは、馬鹿なやつだ」

「馬鹿はどっちですか」

 とロクサーヌさんが勝ち誇ったように言う。彼女はご主人様の意図がすぐに分かったようだ。

 

 私には一瞬分からなかったのだが、ご主人様は前方の四人のすぐ後ろに現れ、素早い動きでそのうちの一人を剣で突き刺していた。

 

「ば、馬鹿な。どうなってやがる」

「とにかく、全員でやっちまえ」

 

 始まった! ご主人様の指示通り、私は後ろに向かって武器を構える。相手は六人もいるが、何とか足止めしなければならない。気づけばロクサーヌさんも、こちらに加勢してくれていた。ミリアもいる。これなら足止めくらいは何とかなるだろう。

 と思ったら、突然私たちの目の前に火の壁が立ち上る。ここに罠でも仕掛けられていたのだろうか。いや違う、これはご主人様によるファイヤーウォールだ。通路を完全に塞いだわけではないが、これで盗賊たちも、そう簡単にはこちらに来られまい。

 

「もう一人いやがった。どこかに魔法使いが隠れてるぞ」

「××××××××××(注:一体どこに隠れるってんだ)」

 

 ファイヤーウォールを見て、盗賊たちは私たちの他に魔法使いがいると勘違いしたらしい。確かに私たちのだれも呪文を唱えていないのだからそう考えるのも無理はない。

 私たちはただ見ているだけだ。全く何もしていない。というか何もできなかった。ご主人様の独壇場である。なんという頭脳プレーだ。

 正直何もできないこの状況に焦ってはいるのだが、何かしてほしければ、ご主人様から私たちに指示が飛んでくるはずだし、ここは私たちが下手に動くべきではないだろう。

 ロクサーヌさんもミリアも同じように考えたのか、じっと状況を見守っている。私はというと、正直あまりの展開の速さに事態を追い切れていなかったのだが、二人には見えているのだろうか(先ほどの発言を聞く限り、ロクサーヌさんには見えていそうだが)。

 ロクサーヌさんは、いつでも戦闘に参加できるよう身構えてはいるが、ご主人様の方は一人で盗賊たち全員を片付けてしまうつもりのようだ。随分と無茶なことをなさる。

 

 ……などと私が考えている間にも、ご主人様の無双状態が続く。前方にいた三人が、私たちの方には目もくれず、ご主人様の方に一直線に向かって来る。

 するといきなり盗賊の一人、狼人族らしき男が弾け飛んだ。一体何があったのかと一瞬だけ不可思議に思ったが、この前のときと全く同じだとすぐに気づく。等量交換だ。また使ったのか。あれほど慎重にと言っていたのに。さすがにこの人数なので、一人減らしておこうとご主人様は思ったのだろうか。両隣にいた二人は、至近距離から爆散した盗賊の血や肉片をかぶって呆然としている。

 その隙を突くかたちで、ご主人様がその二人の首を次々とはねていくと、すぐにまたワープする。こちらは普段通りの無詠唱だ。今度は後方にいた六人の盗賊たちのさらに背後に出る。

 

「こっちだ。逃げられないぜ」

 とご主人様。

 

「××××××××××(注:いったいどういうことだ!?)」

「××××××××××(注:知らん! とにかくやってしまえ!)」

 

 先ほどのファイヤーウォールはすでに消えているのだが、盗賊たちは慌てた様子で、私たちの方ではなく、ご主人様に向かって、一斉に詰め寄っていこうとする。私たちも慌ててそれを追いかけようとする。が、突如彼らのいる中央付近にまたファイヤーウォールが現れた。

 先頭の一人はほとんど影響を受けなかったようだが、火の壁にまともに突っ込んだ二人はそれだけで絶命したようだ。先頭の一人が驚いて振り向いたところをご主人様があっさりとその首をはねる。そして残った三人も、ご主人様が難なく片付けてしまった。……気が付けば今回も完封勝利だった。長かったようにも思われたが、実際はほんの一瞬の出来事だった。

 

「ご主人様」

 

 ご主人様のところに私たち三人で駆け寄ると、全く無傷のご主人様が言う。

 

「全員無事か」

 

 ……かっこいい。いつもと変わらないはずなのに思わず見惚れてしまった。

 

「はい」

「ロクサーヌとミリアは他に逃げた者がいないか確認を頼む。セリーは、インテリジェンスカードの回収を手伝ってくれ。手首を包むから、盗賊の服を切り取れ」

「すばらしい戦いぶりでした」

 とロクサーヌさん。

 

「ありがとう」

「早く手首を集めた方がいいでしょう」

 

 おっと見惚れている場合ではない。おそらくこの中には賞金首がかなりの人数いるはずだ。先にも述べたように、装備品はしばらくの間残っているが(それでもいずれ吸収され、宝箱としてどこかに出現するけれども)、死体の方は迷宮がすぐに吸収してしまうので、急いでインテリジェンスカードの出てくる左手を確保しておかなければならない。

 

 ロクサーヌさんとミリアは、ご主人様の指示に従って元いた小部屋の方に走っていく。私はここに残り、ご主人様と二人で盗賊達の手首を切り落として集めていく。

 淡々と作業をしていくが、10人いた盗賊のうち、爆散した一人の分は物理的に回収できず(後で分かったのだが、高レベルの海賊だったそうだ。思った通りさすがに余裕が無かったということで爆殺したらしい。ご主人様はちょっと勿体無かったかと、後悔する素振りを見せていた。そんなことよりもしHPを削り切れなかったらどうするのかと私は思ったが、実際には割と余裕があったそうだ。つくづく恐ろしい人だと改めて思う)、またもう一人は探索者だからということで放っておき、残り八人分のインテリジェンスカードを回収していく。

 カードをまとめて見せてもらったのだが、盗賊が七名、残りの一名は……なんと凶賊だった。

 凶賊なんていうジョブは話には聞いていたが、実際に見たのは初めてである。盗賊の中でも特に極悪非道な者が、ごくまれにエレーヌの神殿で転職することがあるという噂のジョブである。本当にそんなジョブがあったとは。

 こんな相手と私たちは戦ったのか。前回の盗賊たちよりもこちらの方が人数も多く手強かった。遮蔽セメントまで使って入念に罠を張って待ち伏せていたし……。まったく冷や汗ものである。正直危ないところだったのだが、それだけ厄介な相手をものともせず、とくに苦も無く倒したご主人様とはいったい……。

 

「逃げた者はいないと思います」

 

 辺りを見回っていたロクサーヌさんとミリアが戻ってくる。

 

「そうか」

「それにしてもすごい戦いでした。さすがはご主人様です」

「ありがとう。ロクサーヌたちも無事でよかった。三人とも怪我はないな」

「はい」

 

 それも当然だ。私たちは何もせずただ見ていただけであり、すべてご主人様が片付けてしまったのだから。

 ただご主人様は、私たちに被害がないことに本当に安堵しているようだ。大事にされていることを改めて実感する。

 

「ファイヤーウォールを張っていただいたおかげで、盗賊はこちらに手出しできませんでした。ありがとうございます」

「××××××××××(ご主人様、とても強かったです)」

「ミリアもすごかったと言っています」

 

 すでに盗賊たちの身体は迷宮に吸収されていた。残された装備品と魔結晶を拾い集めていく。とくに良いものはなかったが、ただ一つだけ黄色の魔結晶があった。黄色ということは、実に十万体以上もの魔物を狩ってきたことになる。やはり盗賊とはいっても獲物はヒトばかりではなかったということか。

 

「大変な目に遭わせてしまったな」

「いえ。それに、ご主人様が全部倒してくださいましたから」

「このくらいのことはいつでも起こりえます。助かりました」

 

 本当に見事な返り討ちだった。

 

「✕××××××××××(スゴイ、スゴイです。ご主人様はこんなに強い人だとは思ってませんでした)」

「✕××××××××××××××××××××(これくらいご主人様なら大したことではありません。今ここであったことは他所で話してはいけませんよ)」

「××××××(分かりました)」

 

 話の内容はサッパリ分からないが、ロクサーヌさんがミリアと何かやり取りしている。

 

「ミリアはかなり驚いているようですが、ご主人様ならこれくらいは造作もないことなので内密にするように言っておきました」

 

 確かにその通りではあるが……ロクサーヌさんのご主人様への信頼は、相変わらず篤い。

 

 これは後からご主人様がハルツ公たちに教えてもらって知ったことなのだが、どうやらこの盗賊たちは相当悪名高い者たちだったらしい。というのも討伐した後になって、ルークを経由してハルツ公の呼出しを受けたご主人様がボーデの城に向かうと、ハルツ公とゴスラーさんは手配書まで作って賊の行方を追っていたそうな。これもご主人様が自分が目立つことを恐れて、退治した盗賊たちのインテリジェンスカードをすぐに騎士団のところに持ち込まなかったためである。討伐の事実をご主人様がハルツ公たちにさっさと教えてあげればそんな無駄手間も省けたのに。

 なんでもこのハインツの一味は、ルティナ(このときはまだ加入前だったのだが)の実家であるハルツ公爵領の隣のセルマー伯爵領を散々荒らし回っていたのが、ハルツ公領に流れて来ていたのだそうだ。討伐の任にあたっていたセルマー伯の騎士団員を何人も返り討ちにしていたようで、一味の中でも凶賊のハインツと海賊のシモン(狼人族の間では「狂犬のシモン」と呼ばれていたそうだ)が特に有名だったという。

 あのとき回収したインテリジェンスカードにハインツの名前はあったが、シモンのは無かったので、ご主人様が呪文で爆殺したのがシモンだったのだろう。ご主人様によれば高レベルの海賊だったということだし。

 

 ご主人様が家に持ち帰った手配書を見たロクサーヌさんが、その狂犬のシモンについて、

 

「狼人族の間では有名な海賊です。かなり強いのではないかと言われていました。片手剣を使わせたら狼人族で右に出るものはいないとか。ただ、私が子どものころ誰かに敗れたと聞きました。無敵ではないようです。私も一度戦ってみたいです」

 と言っていたのだが、すでにご主人様が爆殺してしまったのだから、それは無理というものである。

 

 もっともそのシモンとやらが相当の手練れだったことを考えると、ご主人様がまともに戦うことなくその男を呪文で始末したのは結局は正しかったということになるだろうか。ただ個人的にはああいう双方ともに危険な呪文はできれば使わないでほしいのだが。

 

「そういえば賊の中に狼人族も一人いました。そうですか。あれが狂犬のシモンですか。そうすると、このレイピアが……」

 

 ロクサーヌさんは持っていたレイピアをかざして見上げている。何のスキルもついていない普通のレイピアだが、強者が使うとやはり違うものなのだろうか。

 

 なおその後しばらくして、ご主人様がハインツたちのインテリジェンスカードをハルツ公のところへ持参したことで、討伐の事実を彼らはようやく知るところとなったのだが、シモンを爆殺したこと(カードが存在しないこと)は当然のことながらハルツ公側には伝えていないので、その死亡を確認できなかったゴスラーさんは、なおシモンの捜索を継続することになったという。少し可哀想にも思うが、それでも真実を言うわけにはいかないのでこれは仕方ない。

 

 そしてこれもまた余談になるが、ルティナがパーティーに加入した時、初めは可愛げのない態度をとっていた彼女も、ハインツ達を討伐したのがご主人様だったということを知って、ご主人様を見る目がはっきりと変わったようである。

 ただ彼女が従順になったのは、ロクサーヌさんと私がちょっとだけ「お話」をしたのもそれはそれで影響しているのだろうが、この件について知ったことで、また実際に私たちパーティーの迷宮探索の様子や、魔物との戦いぶりとりわけご主人様の圧倒的な強さを目の当たりにすることで、彼女もやる気を見せるようになってきた。本人も魔法使いとなって、さらに自分がメキメキと成長していることが実感できているようで、大変良い流れである。

 

 話を戻そう。

 そうこうしているうちに、ようやく夜が明けてきたようだ。一日の始まりとしては、とんでもないハードさである。

 盗賊を撃退し、いろいろと戦利品を獲たこともあり、とりあえず迷宮探索はここでいったん切上げることになった。クーラタルの家に帰ると、すぐにご主人様は風呂場に体を拭きに行った。

 返り血で汚れた服の方は、ロクサーヌさんが丁寧に洗っていた(彼女は誰にも渡さないとばかりに、ご主人様の服をしっかりと抱え込んでいた。別に誰も取ったりしないというのに……)。

 

***

 

 こうして私たち(というかほとんどご主人様一人だが)は盗賊の襲撃を二回、ほぼ完璧なかたちで撃退することができた。

 先にも書いた通り、ご主人様はインテリジェンスカードを確認しなくても、相手のジョブが分かる。ということは相手が盗賊であればそれも分かるということだ。盗賊による襲撃を警戒するうえで、これは非常に大きなことである。

 当然のことだが、盗賊たちも自ら盗賊だと看板を掲げてやってくるわけではない。厄介な者ほど巧妙に偽装し、一般人を装っている。けれども、ご主人様にはそういった偽装も全く通用しないということである。

 そして盗賊たちも、まさか定員も満たしていない私たちのようなパーティーに、しかも不意打ちできたはずなのに、自分たちが全滅させられるとは夢にも思っていなかっただろう。

 だがしかし、魔物を狩る者が魔物に狩られるように、ヒトを狩る者はヒトに狩られる事を十分に覚悟しなければならない。盗賊の彼らには、その覚悟が果たして本当にあったのだろうか。今となっては知るすべはないが。

 

 ちなみにあの時を最後に、私たちは迷宮で盗賊には遭遇していない。自分たちが行く階層が上がりすぎたために、盗賊の活動範囲から外れたからであろう。またパーティーもフルメンバーの六人となり、装備品も充実してきた結果、もう私たちは盗賊風情がそう簡単に手を出せるような相手ではなくなったということも言えるだろう。

 もっとも盗賊に遭遇しなくて済むのであれば、それに越したことはない。魔物相手に集中できるのは良いことだし、種族はさまざまだが、同じヒト同士で殺し合うことは決して気持ちの良いことではない。特にご主人様は今でもそのことにやや抵抗があるようだ。

 それでも実際の盗賊との戦闘を、ご主人様は苦も無くやってのけた。先ほども言ったが、ご主人様は、魔物相手でもそうだけれども、対人戦でもめっぽう強く、その圧倒的な強さを改めて思い知らされた。失礼ながら見た目は普通というよりむしろ全然強そうには見えないのに。

 振り返ってみても、魔物とは勝手が全く違うはずなのだが、盗賊相手に自身の立ち回りから倒していく順番まで、ご主人様はほぼ完ぺきといっていい動きだった。私たちに対する指示も的確だったし、冷静沈着で咄嗟の判断にも全く隙が無かった。戦いの全体がよく見えているのだろう。これも失礼な話だが正直大変驚いた。

 

 こうした一連の所作は、普段大人しいご主人様のイメージとは全くかけ離れているが、どうやらご主人様にとって、盗賊との争いは初めてのことではなかったらしい。これはロクサーヌさんから聞いたのだが、盗賊が村を襲うことがあると前にも言ったけれども、ソマーラという村を襲った30人以上もの盗賊どもを、ご主人様はほぼ一人で壊滅させたとか。最初この話を聞いたときは、何かの冗談かと思ったがどうやら本当のことらしい。信じられないぐらいの無双ぶりだが、実際にこうしてご主人様の戦いぶりを目の当たりにすれば、確かに頷けるものがある。

 

 またご主人様と盗賊との因縁はそれだけではない。その後もベイルの街周辺の盗賊のアジトを、これまた一人で襲撃したこともあったという。その時はロクサーヌさんの購入費用を捻出するために、あえて賞金首の盗賊を狩ったのだそうだ。ソマーラの件で味を占めたのだろうが、賞金稼ぎのジョブでもないご主人様が、盗賊を自分から積極的に狩りに行くなど本当に無茶をする。本人はロクサーヌさんを獲得するために必死だったと笑っていたが、それを聞いてロクサーヌさんはとても感激していた(前にも書いたが、一度はご主人様が迎えに来てくれないのではないかと、諦めたこともあったらしい)。恋する乙女のような潤んだ目でご主人様を見ていた。

 ……割と物騒な話なのに、なぜそんなにまで彼女が感動するのか少し疑問に思った私は、ちょっとズレているのだろうか。

 

 ともあれこういう話を聞くと、今は金銭的に全く困っていないご主人様だが、賞金稼ぎつまり盗賊狩りをやったとしても、このご主人様なら十分にやっていけそうなようにも思う。

 実際賞金稼ぎでやっていくことも考えないでもなかったと、ご主人様は言っていたが、あまり派手にやると目をつけられて大変だともいう。

 迷宮探索でも十分な収入は得られているし、危ない橋を渡る必要はないだろう(迷宮探索も十分危険だけれど)。

 

 ちなみに迷宮探索がここまで進むと、盗賊もそうだが、そもそも他のパーティーと出会うこと自体が非常に稀になってきた。

 盗賊は論外だけれども、最初に言ったように普通のパーティーとだって、迷宮探索においては魔物をめぐってトラブルとなることが、全く無いわけではない。

 解放会に入ったのも、同じ解放会のメンバーであれば、トラブルが生じることはまずないだろうし、場合によっては助け合うことも期待できるためである(実際にそうした機会はまだないが)。

 解放会でも迷宮討伐が可能なクラスのパーティーになると、盗賊なぞ歯牙にもかけないそうだ。向こうも装備品で実力者かどうか十分に判別がつくので、そもそもこちらを恐れて近寄ってこないという。仮に遭遇したとしても、襲ってくるどころか非常に愛想良く振る舞ってくるのだそうだ。奴らもなかなか強かである。

 だが盗賊たちのそんな愛想もご主人様には通用しない。ご主人様には、盗賊だと分かれば敵対していなくても切り捨ててやりましょうと言ってある。最初鼻白んでいたご主人様だったが、所詮盗賊ですからというと、それもそうかと納得していた。新たな犠牲者を出さないためにも奴らの駆除は必要なことである。

 

 なお誰が解放会の会員であるかは機密事項とされているので、仮に迷宮内で解放会の会員と出会ったとしても、顔見知りでもない限り会員かどうかは分からないはずである。ただ何でも会員にのみ通じるサインがあるらしく(私たちは当然教えてもらえていない)、そのサインを交換すれば良いとご主人様は教えられたそうだ。使う機会が一向に来ないと、ご主人様はぼやいていたが。

 まあいずれ迷宮の上層階に行けば、解放会のメンバーともいやでも遭遇することになるだろう。そしてそれはそう遠いことではあるまい。私たちはご主人様を支えながら、日々迷宮探索を頑張っていくだけである。

 

***

 

 そしてこれも解放会に入る前のことで、盗賊に襲われたというわけではないのだが、いい迷惑だったという点では似たような(いやそれ以上か?)出来事があった。ロクサーヌさんが同じ狼人族の一団に絡まれた話だ。しかも単に絡まれただけでなく、ご主人様も巻き込んだ決闘騒ぎにまでなってしまったのである。

 

 それはボーデの迷宮の12階層に行ったときのことである。主としてこの階層に出現するマーブリームは、尾頭付きをドロップする。ということでミリアががぜん探索にやる気を見せていた。

 とはいっても、尾頭付きはかなり残りにくいアイテムだし、あんまり期待させても……と思ったのだが、あっさり一発でドロップしていた。

 そのときはなんと強運なご主人様かと思ったのだが、どうやらこれはご主人様が料理人のジョブをつけた効果らしい。確かに料理人がパーティーにいることで、レアな食材が残りやすくなるというのは確かである。兄さまのパーティーにも料理人が参加していた。二個めの尾頭付きが出た時にようやくそのことを思い出した。もしやと思いご主人様の顔を見ると頷いている。なるほどそういうことだったのか。

 それはいいのだが、尾頭付きを見ながらご主人様が首をひねっている。どうしたのだろうか?

 

「マーブリームは体の中にタイを持っているそうです。タイのタイと呼ばれています」

 と一応説明するが、それでも納得した様子がない。これについては結局理由は分からずじまいだった。

 

「あの。ご主人様、すみません」

 

 ともあれ迷宮探索自体は順調に進み、そろそろ切り上げて帰ろうとしたとき、急にロクサーヌさんがご主人様に謝りだした。

 

「何だ」

「知り合いのにおいがします。入り口から入ってきたところだと思います」

「知り合いか」

「移動した方がいいですが、近くにいてはっきりとにおうので、向こうにも私の存在が分かったかもしれません。このまま逃げて後で会ったら、何か言われる可能性もあります」

「嫌な知り合いなのか?」

「えっと。少し」

 

 その言葉とは裏腹に、ロクサーヌさんが本当に嫌そうな顔をしている。彼女のこんな表情はとても珍しい、というか私は初めて見たような気がする。

 

「そうか」

 

 ご主人様が思案するようなそぶりを見せる。さっさと家に帰って、さきほど手に入れた尾頭付きを、さっそくミリアにふるまってやるつもりらしい。なんだかんだ言ってご主人様は優しい。だが、

 

「こっちに近づいています。確実に私のことが分かったのでしょう」

 とロクサーヌさんに言われて、早々に帰宅することを諦めたようだ。

 

「しょうがないか。このまま待とう」

「すみません。変なことを言われるかもしれません。お気になさらないようにお願いします」

「そこまで嫌な相手なのか」

 

 ご主人様が言うように、ロクサーヌさんが本気で嫌がっている。彼女がそんなそぶりを見せるのも本当に珍しい、というかこれも初めてかもしれない。

 

「昔から私のことを目の敵にしてくるので」

「何かあったとき、俺はロクサーヌの味方だから」

 とご主人様がロクサーヌさんの肩にそっと手を置いていた。……正直羨ましいと思ってしまった。

 

「はい。ありがとうございます、ご主人様」

 

 ロクサーヌさんもとても嬉しそうだ。

 

 そうしてしばらくその場にとどまっていると、六人組のパーティーがやってきた。全員が狼人族だ。

 

 そのうちの一人が突然こう言ってくる。

 

「おーほっほっ。やはりロクサーヌではございませんこと」

 

 ……なんだこのいけ好かない女は。いかにもプライドが高そうな感じである。お友達には絶対になりたくないタイプだ。

 

「そちらはお変わりもなく」

 

 どういう関係かはわからないが、ロクサーヌさんは身構えつつも、一応は丁寧に応対している。

 

「以前のわたくしとは思わないでいただけます? 半年前からさらに強くなりましてよ」

「そうですか」

「かすかでしたが、迷宮の途中でロクサーヌの貧相なにおいが漂ってきましてよ。わたくしにかかればこのくらい何でもありませんわ」

 

 ロクサーヌさんはそちらの存在を、この階層に入って来た当初から分かっている様子だったのだが……。こちら側はみんな呆れているが言った本人は得意げである。

 

「こちらにはどのようなご用件で」

 

 うーむ、コレは本当に嫌がってるやつだ。普段の彼女の口調とは全く違う。さすがのロクサーヌさんでもこういう手合いは苦手らしい。

 確かに非常に面倒くさそうな人に見えた。自分でもああいう人はちょっとイヤだ。やっぱり友達になりたくない。

 

「情報弱者のロクサーヌは何にも知りませんのね。かわいそうだから教えて差し上げますわ。狂犬のシモンが出没するという手配書が回っていましてよ。活躍の見込めない家に手配書は回らないでしょうけど」

 

 どうやら上で述べたこの前ご主人様から見せてもらったハインツ一味の手配書のことらしい。ご主人様はハルツ公から直接受け取っていたようだが、向こうはそんなことは知る由もないだろう。

 

「狂犬のシモンですか」

「シモンはかつて、狼人族でも一、二の使い手といわれた男。サボーが倒し、わたくしのバラダム家こそ狼人族の中で一番強いと証明してみせるのです」

 

 どうやら指名手配された盗賊たちを探しているようなのだが、すでにシモンも含めたその盗賊たちはご主人様の手によって討伐されている……しかもシモンはご主人様の呪文で爆死している。ロクサーヌさんが今使っているレイピアは元はそのシモンが使っていたものである。

 ……ご主人様も私たちもなんと言っていいのかわからず、ただ黙っているだけだったのだが、本人はなおも得意げだ。

 

「相変わらず躾がなっていない雌のくせに、ブラヒム語は多少覚えましたのね。まだ巧く話せないようですけど」

 

 どうも彼女はいろいろと誤解しているようだが、あえて教えてやる義理もない。

 

「えっと。いや」

 

 それでもロクサーヌさんが律儀に相手の誤解を解こうとする。

 

「奴隷に落ちたのも少しは役に立ったようですわね。感謝してほしいですわ。いろいろ手を回して、あなたの家に収入がいかないようにしたのですから」

「そんな……。あなたが……」

 

 なんかこの人頭悪そうだなぁと思って見ていたが、いきなり重大発言が飛び出した。ロクサーヌさんが絶句している。以前にロクサーヌさんから奴隷になった理由を教えてはもらっていたのだが、それは税金が払えなくなったからという割とよくあるもので、この女が言ったような話は全く出なかった。まさかそんなことがあったとはロクサーヌさん自身も全く知らなかったようだ。

 

「わたくしのバラダム家の力を使えば、簡単でしたけど。ロクサーヌがひとの男に色目を使うビッチなのがいけないのですわ」

「使ってません」

「口ではそんなことを言っても、態度を見れば明白ですわ。どれだけの男を手玉に取ったのやら。ロクサーヌを見る男の視線が違うのだからすぐに分かりましてよ。その上わたくしの婚約者まで」

「知りません」

 

 あーなるほど。どうやらこの女の逆恨みのようだ。確かにロクサーヌさんほどの魅力があれば、他の男性たちが放っておくはずもない。それにしても嫌がらせの仕方がひどすぎる。

 

「奴隷になったら、今度はそちらの軟弱男を籠絡したのですか。ロクサーヌに騙されるようでは知れたものですわね」

「ご主人様の悪口は言わないでください」

 

 ここでロクサーヌさんの口調がガラリと変わる。ご主人様のことを軟弱男と言われて本気で怒っているようだ。……確かにご主人様は、何も知らない人からすれば一見軟弱そうに見えるので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。それでもこんな女に言われたくはない。ご主人様は何の反応も見せなかったが(内心どう思っているかはわからないけど)、私もムッと来た。

 

「あら。ロクサーヌごときがわたくしに指図するんですの」

「いえ。私のことはかまいませんが、ご主人様の悪口はやめてください」

「それならわたくしと決闘なさい」

 

 なるほど。ここへきてようやくこの女の狙いがわかった。この二人は半年前もこうしてやり合ったのだろう。

 

「決闘?」

「ご主人様とやらの名誉を守りたければ、勝ち取ればいいだけの話ですわ。そんなにいいご主人様なら、奴隷の決闘も認めてくださるでしょう?」

「ご主人様……」

「わたくしとロクサーヌとの決闘を認めるなら、わたくしの方から決闘を申し込んで差し上げてもよろしくてよ」

「どういうことだ?」

 とご主人様が私に訊いてくる。どうやらご主人様は決闘の仕組みを知らないようだ。

 

「決闘を申し込めるのは自由民だけです。ただし、決闘は申し込んだ本人がやらなければなりません。申し込まれた方は代理の者が代わりに受けて立つことができます。誰かの保護を受けている場合などです。奴隷は当然主人の保護下になりますから」

 と一応は説明したのだが、それでもご主人様に納得した様子は見られない。別のことを聞きたかったのだろうか。

 

「ロクサーヌに代理の者を立てないというのなら、わたくしが決闘を申し込もうというのです」

 

 そう思っていたら向こうが補足してくれた。

 

 ご主人様はそれでようやく理解してくれたようだが、「ロクサーヌより強いのか?」とロクサーヌさんにこっそり訊いている。

 

「半年前に練習で一度試合しただけですが、私の攻撃がほとんど通じませんでした」

 

 やはりそうか。

 

 ちなみに彼女が言う「攻撃が通じない」というのは、冒険者の間では良く知られていることであるが、両者の経験や実力に大きな差がある場合、たとえ攻撃が当たったとしても相手にダメージが全く与えられないか大きく減殺されてしまうことを指す(ご主人様によればレベルの差によるものらしい(「レベル補正」というそうな)。またご主人様がいつも使っている例の剣には「レベル補正無視」のスキルが付いているとのことだが、これはそのレベル補正というものを完全に無効化するスキルだそうだ)。

 

「向こうの攻撃は?」

「もちろん、かすらせません」

 

 そのやり取りを聞いていた相手の女が、むきになって言い返してくる。以前勝てなかったことが相当悔しかったらしい。まあそうじゃなかったら、こんな無理やり決闘に持ち込もうとはしないだろうけど。

 

「どんな卑怯な手を使ったか知りませんが、今度は半年前と同じ引き分けにはなりませんわ。半年の間にわたくしも強くなっています。尻尾を巻いて逃げ出すなら今のうちですわね。小生意気な雌犬など、叩き潰して差し上げます」

「ご主人様、やらせてください」

「でも、やったら勝っちゃうだろ」

 

 どうするのかと思っていたらご主人様がいきなりぶっちゃけた。思わず吹き出してしまった。おっといけない。

 

「な、何を言っているんですの」

「どう考えてもロクサーヌが負ける想定ができないのだが」

 

 確かに。私も全く想像がつかない。

 

「それならばなおのこと決闘させてもかまわないではありませんの。主人と奴隷そろって勘違いしているその鼻をへし折って差し上げますわ」

 

 そんな正直しょうもないやりとりをしていると、

 

「ここまできておまえが決闘を受けないというのなら、我がバラダム家に対する侮辱となる。なんなら、俺がおまえに決闘を申し込んでもいいのだぞ」

 

 向こうのパーティーメンバーの中の一番ごつい男性が、焦れたのかこちらの話に割り込んできた。

 

「ご主人様、サボーは獣戦士で最も強いと言われています。危険です。ここは私に決闘をさせてください」

 

 この男、サボーというのか。確かに強そうだ。後からご主人様に教えてもらったが、Lv99の獣戦士だったのだそうだ。

 

「いや。俺がやっても負けるとは思わないが」

 

 何故かはよくわからないけど、とにかくすごい自信である。まあ私も誰が相手でもご主人様がそう簡単に負けるとは思わないけれど。

 

「何だと。この女ならともかく、俺を誹謗することは許さんぞ」

 

 サボーとやらも怒り心頭な様子である。しかしこれは確かに面倒なことにはなったが、ロクサーヌさんにやらせてみてもまず問題はないだろう。身代わりのミサンガも身に付けていることだし。

 

「私もロクサーヌさんなら負けないと思います。やらせてみてもよいのではないでしょうか。万が一のときにはあれがあります」

 とご主人様に耳打ちする。

 

「ロクサーヌなどのために貴重な装備品を無駄にすることはありませんのに。ですが、決闘の途中でも手をついて謝るのなら命までは取らないで差し上げますわ。バラダム家にもそのくらいの慈悲はありましてよ」

「うーん。まあ分かった」

「ありがとうございます、ご主人様」

「おーほっほっ。しかと承りましたわ。ロクサーヌ程度、惜しいこともないでしょう。それでは、ハルツ公騎士団の詰め所まで参りましょうか。逃げ出すなどもってのほかですわ」

「大丈夫か?」

 と喚き散らしている相手の女を完全に無視して、ご主人様がロクサーヌさんに訊いている。

 

「大丈夫です。入り口の小部屋まで魔物はいません」

 

 ……会話がちょっとかみ合ってないような気もするが、

 

「決闘には騎士団の許可が必要です。私たちも早く行きましょう」

 と私はご主人様を促した。本当にしょうもない展開だが、だからこそこういうことはさっさと片づけてしまうに限る。

 

***

 

 迷宮を出てボーデの城まで行き、相手の女が先に入っていくと、しばらくしてゴスラーさんを連れて出てくる。……騎士団長が自ら出てくるとは。

 

「ハルツ公領騎士団のゴスラーである。彼女が自由民であることを確認した」

 

 ゴスラーさんとご主人様は、もちろん知らない仲ではないのだが、どうやら彼は今回あくまで中立の立場を保つようだ。当然のことではある。

 

「はい」

「そのほうがロクサーヌか。決闘に異議はないか」

「ありません」

「それでは、申し出に従い、自力救済の原則にのっとって決闘を認める。被指名者に誰か保護するものがいれば、代理の者とすることができる。代理の者を立てるか」

「いいえ」

 

 ゴスラーさんはご主人様の方をちらりと見る。表情には全く表れないが、ご主人様が当然ロクサーヌさんの代理として出るものと思っていたようだ。

 

「相手方は非公開での決闘を望んでいる。それでよいか」

「日にちを延ばして、また卑怯な手でも使われては困りますからね」

 

 この女は半年前に実力でロクサーヌさんに勝てなかったことを、どうしても認めたくないらしい。

 

「かまいません」

 

 ロクサーヌさんもご主人様に確認していたが、これに同意する。

 

「それでは、双方のパーティーメンバーのみついてくるがいい」

「これでもう逃げられませんわよ」

 

 ゴスラーさんの先導で、私たちは城の中庭の一角に連れて行かれる。

 

「ここでやるのか」

「公開で行うのであれば場所を設営しますが、非公開なのでさっさとすませるのでしょう。ほとんどの決闘は非公開で行われるようです。騎士団にとっても面倒ごとは手間をかけずに終わらせたいはずです」

 

 ご主人様が小声で私に訊いてくるので、簡単に説明する。

 

 ご主人様は自分の剣(先ほど言った「レベル補正無視」のスキルのついた剣である)をロクサーヌさんに渡そうとしていたが、彼女は使い慣れた自身のレイピアを、決闘にもそのまま使うとのこと。ただミリアからは頑丈の硬革帽子を受け取って身に付けていた。

 

「それでは、両者前へ」

「しっかりやってこい」

「ロクサーヌさんなら負けるはずがありません」

「お姉ちゃん、がんばる、です」

「おーほっほっ。決闘をするとなれば、命のやり取りは常道ですわ。覚悟なさい、ロクサーヌ。もちろん、はいつくばったところで許すことなどありえませんわ。今日がおまえの命日になりましてよ」

 

 たしか先ほどは謝れば許してやるようなことを言っていたように思うのだが……あの発言は一体何だったのか。

 

「行きます」

「教えて差し上げましょう、ロクサーヌ。半年前の試合にはお互いパーティーメンバーはいなかったのに、今日はサボーがわたくしのパーティーメンバーなのですわ。サボーはわたくしのバラダム家が総力を結集して求めたドープ薬を服用しているのです。その意味がお分かりになりまして」

 

 なるほどあのサボーという男は、ドープ薬を使って極限までパワーアップしているのか。そしてその効果がパーティーメンバーである彼女にも効いている、と。

 ただこちらもパーティーメンバーにご主人様がいて、その効果が同じようにロクサーヌさんに効いていることには思い至らないようだ。

 ご主人様も含めてこちらを侮っているようだが、実際に痛い目をみないとわからないのだろうな、この(ヒト)は。

 

「……」

 

 ロクサーヌさんは黙ったままである。いつもニコニコしている彼女だが、今の表情からは何を考えているか、私にもわからない。

 

「おーほっほっ。意味が分かるようですわね。いい気味ですわ。それでは、まいりますわよ」

 

 女の掛け声で決闘が始まるが、ロクサーヌさんは相手の攻撃を、余裕をもってかわし続けている。私たちにとっては見慣れたいつもの光景である。

 逆にロクサーヌさんの攻撃は相手に普通に通っており、たちまち彼女は追い込まれ、劣勢になる。

 

「半年前と違って私の攻撃が通用するようですね。どうしたのですか。本気を出してください」

「くっ。相変わらずちょこまかと」

「半年前の方が強いと感じました」

 

 おそらくロクサーヌさんの成長度合いの方が、相手よりもはるかに大きいのだろう。無理もない。

 

「あと少しのところですのに……。どうして……。そこですわ」

「ご主人様の薫陶を得て少し強くなったような気がしたので、どのくらい強くなったのか計りたかったのですが。ものさしにもなりません」

 

 いつも温厚なロクサーヌさんにしてはキツイ言い方である。当然と言えば当然だが、彼女も相当怒っているのだろう。

 

「くっ。そんなはずはありませんわ」

 

 ここまで実力差があると、普通は諦めそうなものをと思ったが、後からご主人様に聞くとどうやらこういうことらしい。ロクサーヌさんが、わざとかどうかは知らないが、あの女の攻撃をギリギリのところで躱し続けているので、向こうも決して当てられないわけではないと勘違いしていたのだろうと。なるほど。

 

「もういいです」

 

 最後にロクサーヌさんが、レイピアで女ののどをするどく突き飛ばした。女がのけぞって倒れ、あおむけにばったりと横たわる。これで勝負ありだ。向こうはもう立ち上がれないだろう。

 

「ま、まだこれくらいで……」

 

 ……と思ったのだが、震えながらも身を起そうとしている。そして立ち上がろうとひざを寄せたその足元から、切れた紐が落ちるのが見えた。身代わりのミサンガ(正確にはその残骸)だ。やはりあの一突きはあの女にとって致命傷だったのだろう。

 

「私の家が困窮するように、いろいろと画策してくれたようですね。しかし、そのことには感謝しないといけないのかもしれません。素晴らしいご主人様に出会えましたから」

「ロクサーヌ」

 

 とどめを刺そうかというロクサーヌさんをご主人様が止める。

 

「よろしいのですか」

「かまわない」

「このままだと、引き分けということになりますが」

 

 その通りだ。これではあまりよくはないのだが……向こうがこのまますんなり終わらせてくれるとは到底思えない。

 

「大丈夫だ……よな?」

 

 ご主人様が私に確認してくる。

 

「あまりよくはありませんがそれでいいのであれば」

 

 うーん。このままだとまだ続きそうだけど、あの女はもう無理だろうし、たとえサボーが出てきたとしても、ロクサーヌさんなら負けることはまずないだろう。ご主人様が代わりに相手をしても問題ないだろうし……。ということで私の返事はこうなったということである。

 

「よくがんばったな」

「はい」

「さすがはロクサーヌさんです」

「すごい、です」

 

 ご主人様がロクサーヌさんを招き寄せ、みんなでねぎらう。まあ誰も心配はしていなかったけれど。

 

 私たちがそうしていると、サボーから「あれを使え」と女に声が飛ぶ。

 

「そんな」

 

 逡巡している彼女に、サボーが重ねて言う。

 

「大丈夫だ。見ていたが、あいつは身代わりのミサンガを渡していない。今なら、ただの引き分けでなく名誉ある引き分けに持ち込める」

「で、ですが……」

 

 どうやら向こうはロクサーヌさんが身代わりのミサンガをもともと装備しているとは思っていないようだ。確かに奴隷に身代わりのミサンガを装備させるような主人はまずいない……ウチのご主人様を除いては。

 それにしても引き分けに持ち込むとはどういうことだろうか……もしやとも思ったが、さすがにそれはないだろうと、そのときは考えていた。

 

「相手は降参をしていないので勝負なしということになるがよろしいか」

 

 ゴスラーさんが、こちらに寄って来て問いかけてくる。

 

「はい」

 

 ご主人様が頷くのを確認してから、ロクサーヌさんが答える。

 

「そちらもそれでよろしいか」

「仕方がない」

「それでは、この決闘は引き分けとする」

 

 ゴスラーさんが向こうにも確認を取ったうえで、引き分けを宣言する。

 

 すると突然、サボーが「バラダム家の面汚しが」と吐き捨てるなり、持っている剣で女の首をはねた。これにはさすがに私も含めみんなが驚いた。

 

「こいつにはもしものときのために自爆玉を渡しておいた。まさか本当に遅れをとるとは思わなかったが。その程度の覚悟もないやつなど、我がバラダム家には必要ない」

 

 自爆玉か……、このサボーという男の人となりがよくわかる。ご主人様なら、たとえ相手が奴隷であったとしても絶対にそんなことはさせないだろうに。

 

「何をする」

 と顔色を変えたゴスラーさんがサボーに詰め寄るも、

 

「これはバラダム家内部の問題だ。この女も当然我がバラダム家の家父長権の下にある。今の処置になんら問題はない」

 とサボーに言われ、仕方なく引き下がる。

 

 この流れだと、このまま終わるはずもないとは思っていたが、案の定サボーがこちらに向かって言ってきた。

 

「だが引き分けなのは都合がいい。おまえたちは我がバラダム家に恥辱を与えた。決闘で敗れ、とどめを刺されないなどこの上もない不名誉だ。この汚辱をすすぐため、俺はそこの女に決闘を申し込む」

 

 ゴスラーさんにインテリジェンスカードを見せながら、サボーがロクサーヌさんを指差してくる。

 

「決闘に負けた側からの再戦要求は拒否できます。そうしないとドロ沼になりますから。しかし今回は引き分けなので」

 

 どういうことかイマイチ分かっていないご主人様に説明する。

 

「逃げるのは?」

 と訊かれたので、

 

「笑いものにされてもよいのであれば」

 とは答えたものの、実際それでいいことなど何一つない。この世界、なめられてはいけないのだ。

 

「やらせてください」

 

 ロクサーヌさんもその点はよくわかっているはずだ。やる気を見せている。

 

「俺は規定どおりドープ薬を50個しか服用していない。覚悟があるなら受けるがよい」

「ドープ薬は大量に服用しても強くなれないので使用は50個まで、という説もあります」

 と一応説明はするのだが(注:レベルがカンストするからでしょうか?)、いずれにせよ、薬になど頼っている時点でこの男も大したことはないと個人的には思う。

 

 先ほどから出てきているドープ薬だが、その効能については実はあまり良く分らないというのが正直なところである。

 文献によっても書いている事が違ったり、人によって言う事が異なったりもするのだ。

 

 一応ドープ薬を使うことで、魔物と戦わなくても少しだけ強くなることができ、さらにこれを大量に服用することで、上位職への転職も可能になると言われている。だがドープ薬を服用した人は、長年実際に修行を積み重ねた人よりも弱いという意見が一般的である。それに魔導士などの上位のジョブを得るには、やはりドープ薬ではうまくいかず、十年以上も地道に研鑽しないといけないとも言われている。

 

 ご主人様の見解によれば、ドープ薬の効果として、服用した者のレベル自体は上昇するので、先ほど言ったレベル補正はかかるとのこと。したがって相手が低レベルの場合は自分にほぼダメージは入らないらしい。ただ他の能力値などは一切上昇しないので全体的な強さとしては微妙なものとなるだろうとのこと。なるほどこれは自分が聞いた話とも整合的である。

 

 ただその効果は限定的であるとはいえ、私も実際に50個もドープ薬を服用した人など見たことがない。そもそも薬自体も大変高価なものなのだが、よくもまあそれだけの数を集めたものだ。あの人たちが所属するのはバラダム家というらしいが、あの男に相当期待をかけているようである。

 これも後から聞いたのだが、そのバラダム家とやらは、あの男の武勇を背景に、相当周りに無理難題を吹っかけていたらしい。ヒドイ話である。

 

 実際ドープ薬を大量に服用したおかげか、サボーはLv99の獣戦士だったと、あとからご主人様に教えてもらったことはすでに述べたとおりである。彼は上級職の百獣王ではなかったのだが、転職するとどうしても一時的に弱体化してしまうことは広く知られており(ご主人様によれば、転職すると、もちろん強くなることは確かなのだが、レベルは一からまたやり直しになるのだそうだ)、それを嫌ってずっと同じジョブで居続ける者も少なくない。サボーもその口だろう。しかも彼の場合、ドープ薬を使ってまでして無理やりレベルを上げているので、なおさら転職できないという事情がある。もちろんこれは個人の自由ではあるのだが、正直あまり頭のいい方法とは言えないと私は思う。

 確かにレベルを最大まで上げておけば、先ほども言ったように低レベルの相手の攻撃は全く通らないか、たとえ通ったとしても、ダメージが相当減殺されることにはなる。しかしそれを頼みにゴリ押しするような戦い方は正直どうかとも思う。

 というように、私による総合評価を言わせてもらえば、この人頭悪いなと言わざるを得ない……まあ何をしようが個人の勝手なので私がとやかく言うことではないのはもちろんだけれど。

 

 話を戻そう。

 

「まあ俺が行くけどさ」

 

 どうやらロクサーヌさんではなく、ご主人様が自ら相手をするようだ。

 

「いえ。私が。サボーの強さはよく知られています。危険です」

「ロクサーヌがやるとあっさり勝っちゃいそうだし」

 

 またご主人様がぶっちゃけた。どうやらご主人様も私と同じような評価らしい。

 

「何だと。貴様言うにこと欠いて」

 

 無理もないというか、これを聞いたサボーが食って掛かってくる。

 

「サボーは相当に強いはずです。狼人族の間では暴れ者として有名です。ご主人様を危険にさらすわけにはいきません。もし万が一のことがあれば」

「大丈夫だ、ロクサーヌ。おまえのご主人様はそこまで弱くない」

 ときっぱりとした口調でご主人様がロクサーヌさんに言う。日頃の飄々とした様子とは全く違うご主人様の一面を見る。か、かっこいい……。不覚にも見惚れてしまった。

 

「は、はい」

 

 ロクサーヌさんもやはり驚いた様子だが、どこか嬉しそうでもある。頬が染まっているようにも見えた。

 

「ただ向こうも少しは強いみたいだからな。手加減は難しい。殺してしまうことになるが、問題ないか」

「はい」

「大丈夫です」

 と答える私たち。

 

「決闘を受けるか」

 とゴスラーさんがこちらに話しかけてくる。

 

「俺が出ることに問題はあるか」

「決闘を申し込まれた側は代理の者を立てることができる。代理が誰であっても拒否はできない」

「さすがに手加減はできないので殺すことになるが」

「決闘でどのような決着がつこうともそれは勝負の常」

「さっきから何を言っている。どんなに強い代理の者だろうと俺が負けるわけがない」

 

 サボーはさきほどからイライラした様子で怒鳴り散らしている。弱い犬ほどよく吠えるというが……この男も大したことないのだろうか。

 

「代理というより、道場主と戦いたいならまず師範代を破ってから、という感じか」

「わけの分からんことを」

 

 他方ご主人様の方も確かにわけが分からない。いったい何を言っているんだこの人は。

 

「ロクサーヌと違って俺では手加減ができないから、死にたくないならやめた方がいいぞ」

「戯言を」

「あまり私を怒らせない方がいい」

「それはこっちのセリフだ」

「昨夜あんまり寝てないんだよね。やべー、今日本調子じゃないかも。マジ寝てないからつれーわー」

 

 わざと相手を怒らせようとしているのか、ご主人様はさきほどからよく分からないことを言い続けている。口調もいつもとは全く違う。昨日もしっかりゴニョゴニョして、それからぐっすり眠ったはずなのだが……本当に何を言ってるんだこの人は。しかしこれが相手に与えた効果は抜群のようだ。確かにこのしゃべり方ではあの男がイラっと来るのも無理はない。正直言って私から見てもうざったいことこの上ない。

 

「さっさと始めるがいい」

 

 サボーはもう怒り心頭である。やはりというかさすがに自分がからかわれているのが分かったのだろう。

 

「では、異議がないのであれば決闘を認める。始めてよいか」

「おう」

「両者前へ」

 

 決闘が今にも始まろうというのに、ご主人様は剣を鞘に納めたまま、抜こうともしない。デュランダルと言ったか、いつもご主人様が使っているその両手剣であれば、どんな相手でも簡単に倒せると思うし、逆に丸腰でどうやってサボーに勝とうというのか。それに普段臆病に見えるくらい慎重なご主人様が、なぜか自信満々なのも不思議である。そのまま続けてロクサーヌさんに任せても良かったと思うのだけれど、本人には何か勝算があるらしい。

 

 ……決闘が始まり、そしてすぐに終わる。

 

 ……。決闘自体はあっけなく終わったのだが、具体的に何がどうなったのかについては、実際に間近で見ていた私でも正確に説明するのは難しい。というのも短時間の間に余りに多くのことが起きた(らしい)からだ。

 とりあえずご主人様に突っ込んでいったサボーが、その攻撃をかわされ、逆に足を掛けられて転倒し、そしてそのまま動かなくなったということだけは私にも分かった。

 ご主人様の動きは確かに素早かった。ご主人様はたまに、目にも留まらないスピードで動くときがあるが、咄嗟の判断でここまで動けるとは。

 ただ今見た出来事は、それだけではとても説明が付かない。転倒しただけのはずのサボーだが、ゴスラーさんが確認してみるとすでに事切れていたというのだ。いったい彼に何があったというのか。

 

「えっと……」

 

 ロクサーヌさんですらもこの状況を把握できなかったらしい。

 

「まだ始まったばかりですが」

 

 まるで何事もなかったかのように戻ってくるご主人様にロクサーヌさんが声をかける。

 

「終わりだ」

「す、すごいです。近づいて腕を取り足をかけたのは見えましたが、何をしたのかは分かりませんでした」

「剣も抜かずにあっという間に倒すなんて……」

「すごい、です」

 

 私ももちろんそうだが、ミリアも驚いている。

 

 ただの足払いのはずなのになぜこんなことに……。結局後でご主人様に詳しいことを教えてもらうまで、何が起こったのかサッパリ分からなかった。レベル99デスというご主人様だけが持っている呪文なのだそうだ。いつも使っているワープとか、たまに見せるメテオストライクやガンマ線バーストと同じ、ご主人様のオリジナル呪文らしい。以前盗賊相手に使ってみせた等量交換も同じとのこと。いったいこの人はこんな呪文をいくつ持っているのだろうか。全く底が見えない。

 しかもこのレベル99デスという呪文は、その名の通りレベル99の相手なら、呪文一つで即死させられるとのこと。何という反則技。……ということはご主人様によれば迷宮の魔物のレベル=出現階層だから、99階層の魔物であればボスも含めて全てにこの呪文が有効で、どの魔物も瞬殺できることになる……単体攻撃だそうなので一匹ずつ唱えていく必要があるにはあるが、これはとんでもないことだ(似たようなものとして、賞金稼ぎのスキル「生死不問」というのがあるそうだが、それだと成功確率がかなり低いとのこと。それに比べてこちらは確実に死に至らしめることができるという……なんということだ)。

 ただこの呪文は魔力消費が大きく、連発できないことはないものの、そうそう何回も連続して使うことはできないらしいが、それでもボスとその取り巻きぐらいなら、十分に瞬殺できるだろうと言っていた。つまり99階までたどり着ければ(おそらくクーラタルの最上層は99階だろうから)、迷宮討伐は成功したも同然ということだ(あ、レベルについては探索者だけの概念ではないことが今ではハッキリしている。つまりご主人様が正しく、私達の方が間違っていたのだ。今考えるととても恥ずかしい)。

 初代皇帝ですらなしえなかったクーラタルの迷宮討伐も決して不可能ではない……思わず鳥肌が立った(もっとも実際にクーラタルの迷宮を討伐などしてしまったら、それこそとんでもないことになりそうなので、実際にすることは決してないだろうけど)。

 

 そうしてアッサリと決着のついたサボーとの決闘についてだが、ご主人様はアレはちょっとカッコつけすぎたかなとも言っていた。ホントにそうだ。まったくもう。

(それにこれまで使う機会が当然だが全くなかったので、この呪文が本当に有効かどうかは分からなかったとのこと。もしダメだったらそのときはとにかくゴリ押ししようと考えていたらしい。これにも呆れるばかりである。)

 

 それでも自分の奴隷が絡まれているのを目の当たりにして、主人として放っておくわけにはいかないと思ったのだそうだ。

 

「絡まれたのが……私だったとしても……同じようにしていただけますか?」

 と恐る恐る私が訊くと(なぜか訊かずにはいられなかった)、ご主人様はとても驚いた様子で、

 

「当然だ。セリーもミリアも俺の大事なヒ……奴隷だからな」

 と言っていた。

 

 「奴隷だからな」の前に何か別の言葉をいいかけたようだが、ご主人様はすぐに言い直したので分からなかった。

 

***

 

 話を戻そう。サボーを文字通り瞬殺した直後のことである。

 

「確かに事切れている」

 

 ゴスラーさんがサボーの様子を確認するが、彼も実際何が起きたかはわからなかったようだ。

 この時点ですべてを知っていたのは、ご主人様ただ一人だったというわけである。

 

「サボーはとてつもなく強いと聞いています。今まで誰もバラダム家には逆らえませんでした。それをあっさり倒すなんて。さすがご主人様です」

「いや、どうなんだろ。ロクサーヌの方が強いんじゃないか」

「この決闘はハルツ公騎士団のゴスラーが確かに見届けた。両者死力を尽くした、正当な決闘であると証言する。報復などのないように」

 

 ご主人様とロクサーヌさんのやり取りを横目に、ゴスラーさんが相手側に宣告する。ご主人様もこのまま終わるのはさすがにまずいと思ったのか、

 

「決闘上のことなのでやむをえぬ仕儀となった。遺恨のないように願いたい」

 と、普段なら絶対に言いそうにないような、殊勝なことをすました顔で言っている。

 

 相手の方も、パーティーメンバーが二人も、しかも最強と言われていた(らしい)サボーまでもが簡単にやられてしまったのをまざまざと見せつけられて、完全に戦意を喪失しているようだった。

 

「は、はい。それは分かっております。サボーを倒されるようなかたと諍いを起こすつもりはありません」

 

 こうもあっさり言われるようでは、サボーとやらも人望なさそうだ。あの女も同じだったのだろう。

 

「それで、装備品のことですが」

「装備品か」

 

 そう言いつつご主人様が私の方を見るので、すぐに察した私は簡単に説明しておく。

 

「決闘に負けた人の装備品は本来勝利者のものです。しかし受け取らないことが多いです。装備品目当てに決闘を挑む者もいますので。特に強い憎悪がある場合には、装備品の中から一つだけ奪うことも行われています」

「ロクサーヌ、どうする」

「私は特に怨みはありませんので」

「装備品は必要ない」

「ありがとうございます。……装備品とインテリジェンスカードを持って帰りますので、遺体の処分はおまかせします」

「分かった」

「お願いします」

「では、こちらへ」

 

 後片付けなどを騎士団員にまかせ、ゴスラーさんが私たちを連れて城内に入っていく。

 

「ご主人様、私のためにすみませんでした」

 

 ロビーに入るなり、ロクサーヌがご主人様に謝っていた。彼女が悪いわけでは決してないが、謝りたくなる気持ちもわからないではない。

 

「いや。引き分けにしろといったのは俺だしな」

「ですが」

「大丈夫だ」

「はい」

 

 そうしたやり取りのなか、決闘中は終始静かで落ち着いていたゴスラーさんが、打って変わってとても興奮した様子でご主人様に話しかけてきた。

 

「ミチオ殿、驚きました。相手に何をしたのか、私にも分かりません。相手の身代わりのミサンガが切れていました。なので最低でも二回以上攻撃したはずです。並みの冒険者でないとは思っていましたが、これほどとは」

 

 ……確かにゴスラーさんが言うように、サボーが身代わりのミサンガを身に付けていたということは、ご主人様はあのごくわずかな時間で二回も相手に致命傷を与えたということになる。単に相手の攻撃をかわして足払いをかけたようにしか(それだけでも凄いが)見えなかったのに。あの短時間に、いったいどうやって?とそのときは疑問で頭がいっぱいだった(実は等量交換と違って、こちらの呪文の場合はある程度連発が効くというわけだったのだが。ただこの呪文の場合、相手がレベル99である必要があるので、使える相手はごくごく限られるというのはあるけれども。ご主人様も今回使ったのが初めてだったのはすでに話した通りである)。

 

「難敵だった。手を抜いていたら、危なかったかもしれん」

 

 またもすました顔でご主人様が言っている。すでにいつものご主人様である。表情と台詞が全くかみ合っていない。

 

「ロクサーヌと申すそちらの女性も圧倒的な実力を見せつけました。向こうのパーティーメンバーが来る前に、今日のところは一足先にお帰りください。私はたまたまいましたが、公爵は外に出ております。詳しい話は次回にでも」

 とゴスラーさんが言うと、ご主人様はこれには露骨に嫌そうな顔をした。できれば説明など一切したくないらしい。しかもその相手がハルツ公ならなおさらのようだ。

 

 とはいえゴスラーさんが興奮するのも無理もないことである。

 サボーとの決闘の様子を見て、私たちもみな、自分たちの主人様はこんなにも凄い人なんだという誇らしい想いを改めて持つようになった。

 ロクサーヌさんはもちろんのこと、ミリアの見る目も明らかに変わったように思う。

 私も正直ご主人様が負けるようなことはないだろうとは思っていたが、まさか瞬殺とは。このご主人様は本当に凄いお方だ。私などからはやはり底が全く見えない。

 

***

 

 ようやく解放された私たちが、クーラタルの家に戻ってくると、すぐにご主人様がロクサーヌさんに声をかけていた。

 

「ロクサーヌ、大丈夫か」

「はい。私なら大丈夫です。えっと。あの女が言ったこと、気にしないでもらえますか」

「軟弱男だったか。別に気にしていない」

 

 あ、これはちょっとというかかなり気にしていたんだろうな、と思ったが賢明な私は黙っていた。どうやらあの者たちは実はご主人様を相当怒らせてしまっていたようだ。

 

「いえ。あの。私が男を手玉に取ったとか」

「そっちはもっと気にしていない」

 

 これも気にならないはずはない、と思ったがやはり賢明な私は黙っていた。当時からロクサーヌさんが大層モテていただろうことは、容易に想像できることではある。独占欲のかなり強い(見ていればすぐにわかることだが)ご主人様が平静でいられるはずもない。それでもここは何とか取り繕うことに成功したようだ。

 ロクサーヌさんもご主人様の様子を見て安心したのか、その後はいつも通りふるまっていたように見えた。が、それはそう見えただけだった。

 

 その夜、いつものお勤めを終えた後(ご主人様はさすがに昼間の決闘で高ぶっていたのか、いつにもまして凄かった)、四人でベッドに川の字になっていると、ロクサーヌさんがポツリとつぶやいた。

 

「私、叔母の家族に迷惑をかけたかもしれません」

 

 これはロクサーヌさんのせいで、彼女がお世話になっていた家にあの女の嫌がらせがあったということだろう。

 

「今日のことは忘れろ」

 

 ご主人様はそういったが、彼女の独白は続く。

 

「叔父は私に性奴隷になることを了承させ、代わりに狼人族には売らないという条件を奴隷商人につけました。酷い叔父だと思いましたが、それは私を守るためだったかもしれません」

 

 確かにそうでもしなければ、下手をするとあの女が強引な手を使ってでもロクサーヌさんを買うこともありえた。いや絶対にそうしていたに違いない。その結果ロクサーヌさんがいったいどういう目に遭うか……考えるだけで鳥肌が立つ。

(これも後で分かったことなのだが、クーラタルで季節ごとに開催される奴隷オークションには、バラダム家の人間が毎回必ず参加していたらしい。狙いはやはりロクサーヌさんだったのだろう。)

 

「細かいことを言い出したら、俺があの女に感謝しないといけなくなる。あの女のおかげでこうしてロクサーヌを手に入れることができたのだしな。だから、細かいことはあまり気にするな」

「はい。ありがとうございます」

「俺とロクサーヌが幸せになればいい。それがあの女に対する最高の復讐だ」

 

 これも確かにその通りだ。ご主人様もいいことを言う。私とミリアは二人のやり取りを黙って見ているだけだったが、気持ちは同じだったように思う。確かに私たちの間にはいろいろとあったかもしれないが、今が幸せならばそれでいいのだとしみじみと思う。

 

***

 

 寝入ってしまったご主人様(とミリア)をよそに、ロクサーヌさんと私はその後ベッドを離れ、二人だけで話をした。ほんの少しだけのつもりだったのだが、かなり長いこと話し込んでしまった。

 ロクサーヌさんはずっと気丈にふるまっていたように見えたが、やはり相当つらかったのか、私の胸を借りてしばらく泣いていた。私も胸を貸してやった。小さいけど(余計なお世話だ)。

 ただ、やはりそれだけでは十分ではないと思われたので、素直にもう一度ご主人様のところに行きなさい、大丈夫きっと受け止めてくれるからと背中を押してやった。

 実は寝入っていたはずのご主人様が、先ほどから陰からこっそりとこちらの様子を窺っていることにも私は気づいていたのだが、大丈夫だからと頷いておいた。

 

 その後、今さっき起きてきた風を装ってやってきたご主人様とロクサーヌさんとの間で、再びどういうやり取りがあったかは知らないが(気配りのできる私は当然二人だけにしておいてあげた)、どうやらすべては上手くいったようで、ロクサーヌさんからは後で大変感謝された。なぜかご主人様からもである。

 

 ご主人様が言うには、人はそれぞれさまざまな事情を抱えている、だが少なくともこのパーティーでは、そういった事情を一切気にすることなく、みんなが楽しく過ごせるようにしたいとのこと。もちろん私もそれに大賛成だ。

 ロクサーヌさんも次の日には全く引きずることなく、もういつも通りの彼女だった。こういうところは純粋に尊敬できる、彼女の良いところである。だがしかし。

 

 ……実のところ、あのとき泣いているロクサーヌさんを宥めていたまではよかったのだが、その後彼女が落ち着いてからが長かった。まさかあんなことになるとは……。

 

「ご主人様はああは言って下さったけれど、本当はどうなんでしょうか。私が他の男性に色目を使ったりなんて、昔もしたことありませんし、ましてや今なんてなおさらすることなんて……、絶対にありえませんし、ご主人様以外の男性なんて……セリー、どう思います?」

「あー、そうですね。大丈夫だと思いますよ(棒)」

「でも……そもそもご主人様ほどすばらしい男性なんて、いるわけないじゃないですか。あの時なんて(決闘のときのことだろうか)、本当にかっこよくて素敵で……私なんかのために……」

 

 さっきから何度も何度も同じ話が繰り返されている。いったいいつまでこのノロケ話が続くのだろうか……そろそろいい加減にしてほしいのだが。

 気持ちはわからないでもないが、端的に言うと、この話題に飽きた。恋する乙女は周りが見えなくなると言うらしいが、ロクサーヌさんでもそれは同じらしい。

 まあいつも冷静な私の場合、そんなことは決してないですけれど(注:解放会の入会式のときは?)、あとでご主人様にはきちんと言葉にして彼女に伝えるよう、念を押しておこう(実際、このやり取りは全てご主人様に聞かれていたのだが)。

 ともあれ、ここまでご主人様を好きになれる彼女が私には眩しく見え、ちょっとうらやましかったというのも事実である。

 

***

 

 ということで、無事?に終わった決闘騒ぎだったが、話はこれだけでは済まなかった。

 その後、あの者たちの実家であるバラダム家がどうやら没落しつつあるらしいと、ご主人様から聞かされた。バラダム家はご主人様と決闘して敗れた、あのサボーを失ったことにより、その影響力を大きく落としたようで、厳しい立場に追い込まれたらしい。サボーの武勇を背景に、やはりこれまで周囲に横柄な態度をとったり、いろいろと無茶な要求を無理やり通してきたそうだが、彼が命を落とした結果、手のひらを返すように、周囲から報復を受けることとなったそうだ。これまでほぼ踏み倒していたような借金の返済を要求されるなどして、とたんに資金繰りに窮したらしく、手持ちの資産を処分する必要に迫られたようだ。強引にかき集めていた装備品を処分したり、奴隷を何人も手放さざるを得なくなったとのこと。

 

 決闘の後しばらくして、クーラタルの武器屋と防具屋に、大量の装備品が持ち込まれていたのがそれらしい。そしてそのうちの何点かは、ご主人様が購入することとなった。ミリアのエストックや、ご主人様のひもろぎのスタッフ、防具では竜革製のジャケットや、グローブに靴、ダマスカス鋼の額金(これはロクサーヌさんに)、そしてご主人様は自分用にアルバという胴装備を購入していた。これは装備すると魔法の威力が上がるほか、魔法防御力も高い防具である。なるほどこれならご主人様が着ても、僧侶か神官だといえば誤魔化せないこともない。結局かなりのお金を使うことにはなったのだが、決闘で直接巻き上げるよりかはずっと穏当である。ともかくもサボーたちとの決闘に勝利したおかげで、結果として私たちパーティーの装備品が大変充実することとなったことは確かである。

 

 奴隷についても、ご主人様がクーラタルで年に四回だけ開催される奴隷オークションに参加したとき(そこでご主人様はベスタを競り落としたのだが)、なんと魔法使いの奴隷が出品されていたそうだ。ベイルの奴隷商館の主人であるアランさんのところから出品されたらしいのだが、やはりこれもバラダム家から仕入れたのだという(もちろんアランさんは、ご主人様に仕入れ先を明かすようなことはしなかったようだが)。

 

 ご主人様によれば「驕れる者も久しからず」だとか、「盛者必衰」というのだそうだ。私たちは別に驕っているとは思わないが、調子に乗っているといつ足元を掬われるか分からないのは、確かにその通りである。やはりご主人様が常日頃から言うように、何事も慎重に行くのが一番なのだろう。

 

 決闘騒ぎを経て、思わぬところでロクサーヌさんが購入された経緯がおおよそ分かったのだが、奴隷商館のアランさんは、ご主人様なら大丈夫だと考えて彼女を積極的に売り込んでいたようにも思う。そして彼のその判断は、結局のところ正しかったのだろう。そういえば私を購入するときにも、彼が同じようなことを言っていたのを思い出す。

 ご主人様とロクサーヌさん、たしかにかたちとしては主人と奴隷だが、二人の間にはそれ以上の絆があるように感じられる。

 私との間にもそういう絆があればいいのだが……あると考えていいのだろうか。

 ご主人様は、表面上はクールな姿勢を決して崩すことは無いが、根はとても優しい人である。また自分は天涯孤独だとも言っていたし、これまでいろいろと寂しい思いもしてきたのではないか。

 奴隷になるのにも様々な理由がある。ミリアみたいに禁漁区で魚を捕ったり(これはちょっとどうかと思うけど)、ベスタのように生まれながらにして奴隷であることもある。ルティナが奴隷になった経緯はやや複雑ではあるが……。

 ただ今は、前にも言ったように、この六人(当時はまだベスタもルティナも加入していなかったので四人だが)が私たち家族なのだ。ご主人様が私たちのご主人様で本当に良かったとつくづく思う。

 いつまでもこのかたちが続けばいいのに……と思いつつ、今日も頑張ろうと決意を新たにする。

 

 あとこれも余談になるが、その後しばらくして、ご主人様はルークを通じてハルツ公から呼出しを受け、ボーデの城に行かなければならなくなったのだけれど、すぐに行こうとはせずしばらく部屋の隅っこでグズグズしていた。決闘のときの話を突っ込まれるのを極度に恐れている様子である。私からすればそんなに気にするほどのことは無いように思うのだが。

 

「お出かけになられるのではないのですか」

 と私がいうと、

 

「ちょっと準備が」

 と、なおもグズグズしているので、

 

「そうですか」

 と私がジト目でずっと見ていると、観念したのか、リビングの壁からワープしていった。

 

 結局ハルツ公のところでは、決闘の話も一応は出たそうだが、主な話題はその頃仕入れに行っていたペルマスクの鏡の件だったそうだ。ヘンに突っ込まれなかったことに、ご主人様は胸をなで下ろしていた。なお決闘の様子を実際に見るチャンスを逃してしまったハルツ公は、大層な悔しがりようだったそうな。

 

***

 

 そしてまたこの決闘騒ぎのおかげで、ご主人様に対する私たちの信頼というか畏敬の念がますます強まったように思う。ロクサーヌさんなどはもともと信頼が振り切れていたのだが、私やミリアも、盗賊たちを一蹴したことも併せ、自分たちのご主人様はこんなにも強く、本当にすごい人なんだとはっきりと認識するようになった(と思う)。しかもその実力はまだまだ底が見えないようでもある。とくにミリアはそれまでは飄々としていただけだったのだが、ご主人様のことを本当に主人として認識したようだ(若干遅いような気もするが)。

 

 もっとも、ご主人様が対人戦にもめっぽう強いということが、今回改めて証明されたわけだけれども、当時のことについて本人に言わせると、あんなのはいずれも奇襲攻撃が上手くはまっただけのことで、特に自慢できるようなことではない。そもそもそんな小細工を弄して戦うようでは未熟であり、むしろ自分の本領は戦う前に勝つことにある。正攻法で撃破したというのならまだ話はわかるが、決闘のときもインチキみたいなもので勝っただけなので、何も誇れはしない。そういう意味では全くダメだという(「でも勝算があったから戦ったんですよね?」と訊くと、「当然だろう。無かったらさっさと逃げるさ」と事も無げに言われた。……私たち奴隷を盾にして我が身を守ろうなどとは全く考えないところとか、本当にこのご主人様は変わった人である)。

 

 さらにこれはその後まもなくベスタが加入してからのことだが、ご主人様が言うには、ロクサーヌのように綺麗に回避する方がよっぽどましだし、ベスタのように魔物の攻撃をしっかりと受け止め、跳ね返す方が何倍も素晴らしいとのこと。とくにベスタが加入したおかげで本当にこのパーティーは打たれ強くなった、迷宮の上層に行けば行くほどその真価が発揮されるだろうと、ベスタのことをとても褒めていた。

 

 以上の話を、私はなるほどと思って聞いていただけだったのだが、ご主人様は突然思い出したように、もちろんセリーのおかげでこのパーティーが力強くなっているのもあるけどな、と付け加えるように言っていた。

 確かに鍛冶師がパーティーに加わると、メンバー全員がパワーアップすることは広く知られているし、実際このパーティーでも効果が出ているのは明らかなのだが、そんなとってつけたように言ってもらわなくてもいいですよ。私は他にもいろいろとお役に立てているわけですし。

 でもご主人様がベスタのことを褒めたのは大変良いことである。この話を聞いていた彼女もとても感激していて、やはり涙ぐんでいた。本当に彼女は涙もろい(そこがまた彼女の可愛らしいところだけれど)。




内密さん対人戦闘編でした。書きかけですけど。
対盗賊関係だけですが、ようやくまとまったので投稿です。

今回の話は、書籍版で修正された箇所をかなり取り入れています。
盗賊の襲撃は2回あったと記憶していましたが、WEB版を読み返すと1回しかありませんでした。
書籍版の方と記憶がごっちゃになっていたんですね。
この小噺シリーズは一応WEB版準拠としていたのですが、今回は少し悩みましたけれども書籍版の方をベースにしました。
確認したい方はぜひ書籍の方を買ってくださいね。コミックスも書籍の方がベースになっていますしね(ダイレクトマーケティング)。

そこでもう一度記述を確認すると、等量交換の効果が微妙に違っています。内密さんが等量交換を使ったのは3回。
奴隷商館で初めて発動したとき(魔法使いのジョブを獲得したとき)は、元盗賊の破片が、武器以外の装備品の破片も含めて飛び散っていたとあったのですが(書籍版2巻234頁)、その後一回目の盗賊の襲撃では、「爆ぜたというよりは、かき消えるようにいなくなった」(書籍版6巻90頁。ただ92頁では「爆散した」とある)、二回目の襲撃だと、「文字通り爆発した」(同268頁)と表現がばらついています。
ここでは全部「爆散する」に統一しました。スプラッターです。
初回の盗賊の襲撃は書籍化で追加された分なので、もとの記述との整合性を取り切れなかったのでしょうね。

なおロクサーヌ購入費用のために盗賊を襲った件はWEB版の方にしています。まあどちらでもいいのですが、この辺りはテキトーです。

例によって投稿後の加筆・修正はほぼ確実にありますのでご注意を。
「書きかけ」としているのは、対人戦つながりということで決闘騒ぎのお話もここに入れる予定だからです。
まだまとまりきらないのでもうしばらくお待ちください(期待してくださっている人がいればですが)。

感想や評価をいただけると励みになります。
リクエストもありがたいです。

さていよいよアニメが始まるとのことですが、キャラデザインのあれは一体……?

セリー「どうしたんですか?急に屈伸運動(注:スクワットのことです)なんか始めて」
ロクサーヌ「何か運動しなくてはいけない気がして……」
セリー「そういえばお腹回りが少しふっくらと……」
ロクサーヌ「いや~~~(泣)」

(追記)
予定通りですが、対人戦つながりということで決闘騒ぎのお話を追加しました。
こちらはウェブ版のみに拠っています。
縦ロールでまさに悪役お嬢様のテンプレみたいな娘が出てきましたが、あっさりでしたね。
粗暴なサボーもかませ犬でした。

それ以降迷宮内で他のパーティーと遭遇したりという場面は全く出てきませんが、本文にも書いたように階層レベル的にそもそも冒険者があまりいないのと、やはり普段は他のパーティーを避けて行動しているからなのでしょうね。

例によって大幅な加筆・修正がありえますのでご注意を。
感想などいただけるとありがたいです。

(追記)
パーンの魔法が書籍版では全体攻撃魔法となっていることに気づいたので修正しました。
(追記)
ドープ薬について加筆。
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