高校生のときのクラスメイトがいなくなってから十年。
まさか、そいつの名前をこんな場所で見つけるとは思わなかった。
俺が働いているのはとあるゲーム会社。
マギアレコードをオープンワールドゲームにした優良企業だ。
圧倒的自由度、ほぼ無限のストーリー分岐、生きているかのようなキャラクター・・・。
会社はその後も新しいゲームを開発し続けた。
既存の作品を用いて開発されたゲーム群は114514人の走者を生んだというほどだ。
魔法少女リリカルなのは、戦姫絶唱シンフォギア、がっこうぐらし・・・。
様々なマイナー作品が再び日の目を見ることになったのだ。
しかし、ゲームの数が多くなればなるほど違法コピーは蔓延した。
どちらかというと利益重視ではないこの企業にとっては痛手となるはずなのだ。
だが、違法コピーが蔓延すればするほど、マギレコは進化し続けた。
誰も手を加えていないのに、勝手にゲームが進化し続けたのだ。
俺が入社した理由の一つに、その秘密を突き止めることがあったくらいだ。
しかし、こんな名簿を見つけるとは思わなかった。
機動部隊:Anti-Piracy Screen
この時代、大企業が独自の軍事力を持っているのは珍しくはない。
あの悪名高い優良エネルギー企業Lobotomy社は別だ。あいつらは社員そのものが軍事力だ。
銃とナイフであいつらは怪物どもを鎮圧できるんだから。
しかし、今まで海賊版に頓着しなかったような企業だ。
それが何故、対海賊版ソフトの部隊など持っているのだろうか?
興味を持った俺は名簿をめくってみた。
すると、隊員は一人しかいなくて、そいつは高校時代のクラスメイトだったわけだ。
アイツは十年も前に行方不明になったはずなのに。
俺は社長に直談判することにした。
もしもの時のために、アイツの妹や知り合いの新聞記者にデータは事前に渡した。
「やあ、輝彦くん」
社長の肉体自体はずっと以前に滅んでいた。
だから、俺が相対しているのはどこぞの新世紀のごときモノリスだ。
「社長、○○をご存知ですよね?」
「知らんな・・・としらを切りたいが、君はクラスメイトだったようだね?」
「・・・アイツが言ったのか?」
「たまに彼と話すことがあるんだ・・・○○くん、出ておいで」
○○は現実にログインしました
社長室にいくつもあるモニターの中から、○○は出てきた。
俺は我が目を疑った。こんな一昔前のホラー映画みたいなことが起こると思わなかった。
○○は十年前と変わらない見た目で俺の前に現れた。
「久しぶりだな、輝彦」
「・・・○○」
俺は何がなんだかわからない気分になり、いつの間にか土下座していた。
「ごめん、高校の時、ちゃんと友達になれなくて」
「別にお前が謝ることじゃないよ。俺も誰かと向き合うのが当時は怖かったんだ」
○○は優しく、俺の手を取ってくれた。
その手は冷たかったが、不愉快な冷たさではなかった。
むしろ、温かい冷たさともいえるくらいだった。
「・・・社長、○○はどうして我が社に?」
「それは、彼が最初に我が社のゲームの違法コピーをプレイしたからだよ」
機械の音声だが、その声にはどこか悲しさが感じ取れた。
「誰でもよかった、ということになってしまうんだ。不快な答えだろう?」
そう、誰でもよかったのだろう。何となく理解できた。
しかし、それでもわからないことはある。
「我が社は海賊版ソフトに無頓着だったはずです。どうして機動部隊が存在するのですか?」
「では、逆に質問しよう。君はその海賊版ソフトをやっている人間を見たことがあるかね?」
俺は一瞬戸惑った。どういう意図の質問なのかさっぱりだった。
しかし、この状況を踏まえると、だんだんと背中が冷えてきた。
「・・・奴らをどこにやったんだ?」
「その答えは、私たちの作ったゲームがどうして生き生きとしているのかという理由にもなる」
まるで地面が崩れ去ったかのような気分だった。
「社長・・・この会社の技術は本当に・・・ゲーム制作だったのか?」
誰も答えなかった。俺と○○が働いていた会社の本当の技術は、魂の取り扱いだった。
このモノリスと化した社長は人間の魂を入れることで、ゲームに生命を吹き込んだ。
「これは・・・殺人罪に当たる。いや、俺だってわかってるさ」
海賊版ソフトは、殺人罪と同じように『深刻な犯罪』であることを。
「そう、Serious Crimeだ!」
社長はそう言った。
その後は長い沈黙が続いた。
今さら告発なんて無意味だ。
しようものなら、他の企業だって真似をする。
この企業はまだ良心が微レ存だからいいものの、他は違うかもしれない。
もしかすると、無差別に人間の魂を徴収するかもしれないのだ。
「社長、一言だけ負け犬の遠吠えをしていいか?」
「ああ、いいとも」
「アンタ、本当にキュゥべえだな」
「残念だけど、それは私にとっては誉め言葉になる。
私たちは皆、キュゥべえになることを誓ったんだから」
私たち、というのは当時の制作陣のことであろう。
そういえば、なぜか制作陣の何人かが行方不明になっていたはずだ。
つまりはそういうことなのだろう。
この企業の名前さえ、ゲーマーズ・インキュベーターなのだから。
「そういえば、君に自慢したいものがある」
トロフィー:世界の守護者
そんな立体映像が俺の目の前に現れた。
「これは私だけが持ってるトロフィーなんだ。
そう、私は今まで作ってきたゲームの世界の神なんだからね」
だが、社長は次の瞬間、悲しい声色に変わっていた。
「・・・本当はこんなトロフィーいらないのさ。
私は・・・俺は、ただ観鳥令の死なない展開を見たかっただけなんだ」
かつてのマギアレコードはクソゲーという評価をされていたそうだ。
まだアニプレックスが運営であった時代の話だ。
魔法少女まどか☆マギカの暗い雰囲気をぶち壊すという作品の根底・・・。
軌道修正のために魔法少女を作中で何人か殺すという無計画な脚本・・・。
社長もまたそんな極悪な犯罪の被害者の一人であったのだろう。
「でも、それだけのために、こんな罪を犯してしまった。
俺は今までも、これからも、その罪を背負っていくつもりさ」
「社長、もういいのよ。眠りなさい」
突然、モノリスの電源が切れた。そして、コンパイルされた社長の魂はモノリスから離れた。
でも、社長はその死を望んでいたのかもしれない。
その魂はどこか、笑っているようにも泣いているようにも見えたから。
暁美ほむらはトロフィーを獲得しました:世界の守護者
暁美ほむらはトロフィーを獲得しました:叛逆
その瞬間、マギアレコード、いや、全てのゲームが暁美ほむらの手中に収められた。
「・・・これからどうするつもりなんだ?」
新しい主人に仕えることになった○○にそう訊ねた。
するとアイツは笑って答えた。
「戦う、それだけさ」
アイツは微笑みながら、モニターの向こうに消えていった。
○○は現実からログアウトしました
いつの間にか、俺の前に立体映像が現れていた。
社長就任おめでとう
というわけで、俺は昨日、社長に就任した。
「わけがわからないです」
そうだろ、翠星石?俺だってわかんないよ
「それで、機動部隊は続けるつもりなんですか?」
さあな?少なくとも、俺としては海賊版をやるような奴には当然の報いだと思う。
でも、それだと○○も含まれてしまうからな・・・。ああ、クソ。
「それはそうと、翠星石は困ってるです。
後輩が翠星石たちの世界まで支配しているからです」
原作が世に現れた順番だとな。でも、ゲーム化に関してはお前が後輩になるぞ。
「ぐぬぬ・・・」
まあ、なるようになるさ。
「お前はそれでいいんですか?あんなのにゲームを握られてるんです!」
だって、俺、世界の管理とかってそんな大それたことできないもん。
「それもそうですが・・・」
なあ、アイツが言ったこと覚えてるか?
「アイツ?ああ、○○のことですか?戦うって・・・まさか」
なるようになる、そう信じるしかないさ。