憑依物語   作:そりゃないわ

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プロローグ的な話

「おい!早く逃げるぞ!」

「良いか!?俺達が逃げ切るまで時間を稼げよ!」

 

身体中に激痛が走るなか、僕の耳に奴らの声が辛うじて聞こえた

 

「ぐ····ぅあ」

 

肋骨をやってしまったのか叫ぼうとしても出るのは僅かばかりの呻き声と、胸に走る激痛

 

「····ぐ····そぉ·····」

 

「突き落とされて」ろくに受身も取れずに背を打った為か肺を圧迫したらしいのか呼吸すら余り取れなかった。

 

しかし不幸中の幸いなのか両足は無事····とまではいかないが打撲程度ですんでいる·····と思う。

 

おかしいぐらいに冷静な自分に呆れながらも、僕は痛む身体を我慢しつつ前にへと顔を向けた。

 

『ギャッギャッ!!』

『グギャギャ!!』

 

濃い緑色の皮膚を持ち、体型は僕ら人族に似ているものの、その顔は醜くしわくちゃになっておりギョロリとした双眸からはギラギラと獲物を追い詰める獣と同じそれを感じる。

 

 

───所謂ゴブリンと言うこの世界ではありふれた魔物、それが18体と言う群れでこちらに足を走らせていた

 

「·······」

 

 

 

万年Eランクの自分では最早どうにもならない

 

 

身に降りかかる理不尽、絶望、しかし何故か怒りも憎悪も殺意も感じない、代わりに「やはりこうなったか」と諦めの感情

 

「·····」

 

自分と言う「無能」が命を散らすまで残り20秒辺りを過ぎた辺りで倒れ伏す少年は目を閉じ今までを思い出す。

走馬灯とも言うべきなのか過去の映像が次々と頭をよぎっていく。

 

「·····」

 

 

───僕が死んだらどうなるんだろう

 

 

 

─────ドドドド···!····!

 

 

様々な思い出が過っていく、妹は元気にしてるだろうか、アイツは今もパーティーで元気にやってるだろうか

·······でもまぁ

 

 

 

『ゲヒャヒャヒャ!!!』

『ギャヒャヒャヒャヒャ!!』

 

 

─────ドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

もういいか、どうせ死ぬんだし

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

 

このスキルを寄越した女神様、もし生まれ変わったら少しはまともなスキルにしてくれよ?てか何なんだよ「大成の器」って全然成功も何もしてないよ

 

 

最後に呆れたようなそんな苦笑を浮かべこの身体を襲うであろう衝撃に身を任せようと力を抜いた

 

 

────スキルの発動を確認しました

 

 

 

どこか無機質な声を耳に残して僕は───

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

こうして、一人の少年の命が潰えようとしている時少年がいる世界とはまた別な世界にて、また一人の青年の命が潰えようとしていた。

 

 

大規模の都市近くにある広大な森、世間では森の中央に行くとどんな英雄だろうと、剣聖だろうと、勇者だろうと生きて帰ることは出来ないと言われていて、「帰らずの森」と物騒な名が付けられていた。

 

その森の中央に青年はいた、上下を黒い服で揃えており、また黒髪で美男子では無いが何処か野性味を感じさせるような精悍な顔立ちをしている

 

しかしその身体は今にも朽ち果てようとしていた、頭からはダラダラ血が流れ、瞳もどこか焦点があってなく、右側の脇腹は食いちぎられたのか欠けていて、やはり血が流れ出ていた、片腕は本来なら曲がってはいけない方向に曲がっており

 

しかし青年の目からは闘志を感じさせた、動くもう片方の手で剣をを離すものか、と精一杯握り締め、一切の油断なく「帰路」に付いていた。

 

青年の周りはまさに地獄絵図という言葉がピッタリの惨状だった。

 

近くの木々にべっとり付く人間とは違う血、あちらこちらに凶暴なモンスターの頭や足、どちらにせよモンスター本体はどこかしら欠損していた。

 

「あ"····ぐぃ"ぎぃ"」

 

想像を絶するような痛みに青年の口から思わず言葉にならない呻き声をあげた。

 

森の中央に待ち受けていたソレ、それは封印された魔神でもなく、古より伝わる伝説の龍でもなく

 

一つの「ゲート」、まるで城門のような大きさのソレは

 

 

「····ついて·····っねえ」

 

 

未発見迷宮ダンジョンの最深部、そして無数のモンスターが犇めく、そんな空間だった。

 

 

「こんな····こと·····だったら"アリス·····っにもきて貰うべきだったな」

 

弱々しくも一歩一歩進んでいく青年は口うるさくも面倒見がいい、幼馴染み兼魔法使いを思い浮かべやがて首を軽くふった。

 

視界が霞む、呼吸が上手く取れない、血を流しすぎたのか全身が永久凍土に裸同然で放り出されたかのように冷たくなっていくのが分かる

 

「こりゃ·····っしぬぁ」

 

そしてついに、その場に倒れてしまう、起き上がる気力すらわかない、でもそれでも起き上がろうと力を込めようとするもピクリとも動かない。

 

───せめて怪物行進(モンスターパレード)の危険性は王都に伝えないと

 

 

いくら、ダンジョン内にいた「魔物全てを殺した」っていってもゲートの壊しかたも分からない以上まだ出現する可能性は充分に有り得る。

 

もし怪物行進が起きたら·····

 

「────っ!くそがっ·····」

 

危険に晒される幼馴染みを幻視してしまい、怒りが募るがそれでも動かない身体に悪態が零れる。

 

その時、前方に気配を感じたモンスターのそれとは違う、人間のものだった、しかも一人や2人ではない、それこそ50人程恐らくここらでドンパチかましてた事が王都に伝わったのか·····

 

「(意識が····)」

 

朦朧とする意識、この苦しみから解き放たれたいとばかりに無意識に意識を手放そうとする己

 

もういいんじゃないか?

 

恐らく赴いたのは王国騎士団、しかも前線で活躍する第4騎士団ならば安全だ

 

自分が死のうとも、辺りの戦闘痕や中央まで続く自分の血痕を見て冷静な判断を下すだろう。

 

元は、自分の愚かな実力試しが始まりだが、結果的には未発見の高難易度ダンジョンによる怪物行進を防げるかも知れないのだ。強くなることしか頭にない自分にしては上出来だろうに

 

ならば······

 

『レイグ!』

 

「───────」

 

 

青年──レイグは記憶にある大切な幼馴染みの声を幻聴した

 

「(誰が、アリスを守るんだ?国か?最近やたらとアリスに言い寄る勇者か?ギルドの連中か?』

 

ふざけるな

 

「死に·····た·····な、い」

 

死ねない、まだ死ぬわけにはいかない、諦めるわけにはいかない

 

あの子が····アリスが幸せになってあの太陽のような笑みを絶えず浮かべるようになるまで

 

ここまでやって来たんだ、冒険者にして最高峰まで登り詰めた、顔も広くなった、あの子と一緒に頑張ってきたんだ

 

「(あぁ、クソ、クソクソクソ!駄目だ意識が····)」

 

こんなんじゃ死にきれない、アリスをまだ幸せにしてない

 

 

「あ······り······」

 

だが無情にもレイグの意識はそこでプツリと切れてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「(·····何だ·····この感覚)」

 

レイグは自分は死んだ筈と、何故意識があるんだと状況を把握しようと顔に意識を向けようとする

 

「··········は?······」

 

思わず呆けた声がでる、レイグは口を開いてない筈なのに声が出たこと、更にはそもそも身体の感覚が無いのだ、自分の身体はここにあると認識が無いのだ

 

「(俺は、どうなっちまったんだ?)」

 

自分はどうやら流されているみたいだ、よく分からないし辺りは真っ黒で何も見えないし何も感じない

 

ただ、自分が緩やかに何処かにゆらゆらと流されているのは分かった。

 

「(─────ん?)」

 

そうしていること何分、何時間、そもそも時間が立っているのか?

 

感覚が麻痺してきたのか元から壊れていたのか分からないぐらい流されていると見えている真っ黒の空間の奥に白い粒のような光が現れた。

 

 

「(あれは─────おおおお!?)」

 

レイグがその光を認識した瞬間何かに引っ張られるような感覚をはっきり感じた。どんどん光に近付いていくのが分かる

 

白い光に突っ込む直前

 

 

 

──────異界の英雄よ、大成した者よ、新しき冒険に幸あれ

 

 

誰かにそう言われた気がした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ッハァ!?」

 

急遽感じる違和感、身体が重い、足に若干の痛みに胸に激痛が走る、がそれよりも

 

 

「何だ何だ!?まじでどうなってる!」

 

 

目の前には今まで腐るほど見てきたし倒してきたゴブリン、しかも数は18体と群れにしては多い。

 

「(とにかく避けねぇと!)」

 

足の痛みを無視して取り敢えず立ち上がり即座に横っ飛びしようと足を踏み込んだ。

 

「(重い!?)オラアアァァァァア!」

 

まるで重力魔法を何重にも重ねられたかのような鈍さを無視してゴブリンの突撃を回避する。

 

何回か転がり立ち上がり今度こそ自分の状態を確認した、怪我も身体の調子など先程とは比べようもないくらい軽いが足を打っているのか鈍痛が襲う

 

 

「(っ!魔力が僅かだが残ってる!これなら!)」

 

ゴブリン達はレイグを見失ったのか一斉に止まってキョロキョロしている

 

その間に魔法を発動させる

 

 

「(癒しよ!)」

 

心で念じ治癒魔法を発動させる、少し治りが悪いが取り敢えずこの場は何とかなるだろう。

 

「(てかこの身体、まじで重いな!?)」

 

悪態を付きながらも、腰に差してあったポーチにあったナイフを取り出す。

 

「ナイフは割と綺麗に手入れしてるんだな」

 

感心しつつも、口から出た自分の声とは違い高めの声に辟易しつつも取り敢えず「憑依」と言う事実を受け入れた。

 

ゴブリンはようやくレイグに気付いたのか、憤慨している様子で「グギャグギャ!!」と喚いていた。

 

が気にせずに一番近くにいるゴブリンに向けて駆ける。

一応この身体の持ち主は多少は鍛えているのか、足に負担は大して感じなかった。

 

先程諦めたような顔で自分達を這いつくばって見ていた獲物とは思えない雰囲気と予想外のスピードに気付けば懐に潜られており、首に何かが通ったような感覚を知覚した瞬間

 

───ゴブリンの意識は永遠に閉ざされた。

 

ゴブリンの一体を一瞬で仕留めたレイグは倒れ込むゴブリンの腹を思いっきり蹴り付ける、残り少ない魔力をちびっと使って僅かなブーストも忘れない。

 

『ギャ!?』

 

仲間が吹き飛んで来たのをろくに反応できずにぶつかりよろける別のゴブリン

 

レイグはゴブリンを蹴り飛ばした時にはもう行動を開始していた、よろけたゴブリンの背後に回り込むよう駆けて、その際二匹ばかりのゴブリンの喉を横一文字に掻き斬った

 

ブシュゥ!噴き出す緑色の血を横目にレイグは(やはり剣がいいな)と思いつつ、よろけたゴブリンの無防備な首筋にナイフの刃を通した。

 

そこでようやくレイグによって瞬時に4体も倒されてしまったことを周りのゴブリンは理解した。

 

一番奥にいるゴブリンが何かを喚いて逃げ出した。

 

「·······」

 

恐らくこの群れのリーダー的存在だったのだろう、残されたゴブリン達は目に見えて慌て出して、こちらを見て震えている。

 

「·····敵対するなら殺す、だがその意思が無いならどこにでも行け」

 

レイグは裏切りやそう言った行為が大の付くほど嫌いだ。それは前の身体の時の経験則から来るものだが····

 

モンスターだろうが人間だろうがそれは変わらない

 

シッシッと追い払うような仕草で判断したのだろう、残されたゴブリン達は急いで身ぐるみを取っ払ってリーダーが逃げていった方へと逃げていった。

 

「··········さて、と」

 

レイグは大きく息を吐いて、周囲の気配を探り何もいないことにやっと一息ついてその場で胡座をかいて座った

 

積もる疑問は大量にある、まず何で赤の他人であるこの身体に自分が憑依したのか。

 

何でこの身体は生きていたのに前の持ち主の意思が何処にも感じられないのか。

 

 

────異界の英雄よ、大成した者よ、新しき冒険に幸あれ

 

 

あの声の主が自分をこの身体に導いたのか。

 

何故、自分の魂がこんなにもこの身体に馴染むのか。

 

 

 

 

「──────アリス」

 

 

 

 

あれからどうなったのか、「向こう」の俺はどうなったのか

 

様々な疑問が浮かび上がるなか、幼馴染みと自分の事が一番気がかりだった。

 

同じ世界の人間に憑依したなんてそんな希望的観測に捕らわれる程あまちゃんではない、この世界の空気と元の世界の空気がまず違うのだ。まず空気中の魔素が薄いし何より

 

 

「(あの光だ、あの光を通りすぎた瞬間世界が変わった)」

 

 

この身体に憑依する直前に見た白い光、多分あれがゲートだろう

 

 

「何が「新しき冒険に幸あれ」だ、何様だ、人の魂を何だと思ってんだ。」

 

誰が望んだ?誰が媚びた?ふざけるな、だいたい持ち主も持ち主だ、この身体にあの状況だったって事は「諦めたんだ」どうしてあんな事態になってたか、分からないがせっかくの命を何だと思ってやがる。

 

 

未だ大きく疑問は残るが、当面の目標は決まった。

 

 

────持ち主の魂を探しだして、この身体を持ち主に突き返して、自分はあるべき所に戻る!

 

 

「例え、俺の行き着く先が天国だろうが地獄だろうがな」

 

 

こうしてレイグは異世界大陸「アルタナ」での活動を決めた。

 

 




後悔はしていない
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