レイグ「銅像は草」
ダリア「そりゃないわ」
「レン!?レン!?どこに行ったの!?」
小さい子ならもう舟を漕ぐ時間帯、辺りに夜の帳が落ちて、一刻が過ぎた頃。
村中に響き渡る声で叫び続けるレンのお母さんに、他の村人達が何事だ!?と家から出て来る。
「········」
御者の家を借りていたレイグは勿論、その様子を見ていたダリアも取り乱した母親の今にも泣きそうな顔を見て、察した。
──あのばか、森に入りやがった!
「奥さん、どうしたんだよ!レンがどうした!?」
村人の一人が落ち着かせる為、母親の肩に手を置き宥めようと声をかける。
「晩御飯の片付けで、洗い物してたの、そしたら包丁が無くて······!きっと、森に行ったんだわ!」
酷く狼狽した様子で取り乱していたが、レンが森に行ったと自己完結すると同時にそのまま村の入り口に向けて進もうとする。
慌てて、宥めようとしていた人が羽交い締めにして抑えた。
「だ、駄目よ奥さん!夜の森は危険だって村長が!」
「私に息子を見殺しにしろっていうの!?」
「っ······それは······」
2、3人程で母親をおさえるが、細身の身体のどこにそんな力があるのか、大暴れしていた。
「離して!離してぇ!あの子しかいないのお!あの子までいなくなったらわたしぃ!」
「·········」
レイグは誰にも悟られないように静かに近付き、母親の後頭部に手を翳す。
「(誘え《いざなえ》)」
魔法を発動して、強制的に母親の意識を眠らせた。
「あ、あんたは·····」
僅かに警戒心を含んだ声に分かりやすく溜め息を吐いてやる。
今、この場には子供を除いた殆どの村人がいるのを確認したレイグは口を開いた。
「ダリア、頼んだ」
───手筈通りに。
「───(コクッ)」
───やっぱりレイグ様かっこいい!
アイコンタクトを交わしつつ(交わせてない)レイグはその場から出口に向けて、歩いて行った。
「に、逃げるのか!」
後ろから、そう罵声を叩きつけられるがレイグは無視して、真っ直ぐ出ていった。
取り敢えず母親を泣かせたレンは殴ると心に決めて。
森への入り口は村から徒歩で5分はかかる所にあった。
「······(急がないとだな)」
レイグは内心焦りを覚える、レンの居場所は分かった
、まだ今のレイグの位置から、そお遠くない、今は疲れているのかは分からないが動いてはいない。
レンに近付いている、群れが10体程。
「────これ、何体居るんだよ····」
嫌な予感が的中しやがった、とレイグは溜め息を吐く。
森のあちらこちらから気配を感じる、60匹くらいでは効かない、100···そのくらいいるかもしれない。
しかも、だ。
「一匹変なのが混じってやがる」
大した強さではないが、それでも今日倒したゴブリンリーダーよりかは強いだろう。
考えなくてもこの気配が多分このフォレストウルフ大量発生に繋がったのだろう。
「うーん?ダリアの「説得」が成功すれば良いけどな」
そう呟くレイグの顔が険しくなった、レンの気配が出口とは全く違う方向に走り始めたのだ。
「世話が焼けるヒーローだなおい」
そう言って、走る速度を上げた。
ーーーーーーーーー
レンは冒険者が大嫌いだった。嘘つきだし、偉そうだし。
何よりレンとレンの母親から、父親を奪った。
「ヒィッ!?」
後ろから聞こえる、この2ヶ月間、聞かない日は無かったフォレストウルフの鳴き声。
それでもこんなに近くで聞いたことなんて無かった。
「ハァッハァッ·····ッヴ」
限界運動量を越えてしまったのか腹に痛みが走る、それでも痛みを我慢して走った。
次第に喉の渇きと気持ち悪さが襲ってくる。
止まったらどうなるのかレンは分かっていた、でも
────ここで死んだら、父に会えるのかな。レンは不意にそう思った、思ってしまった。
大好きな父に会えるなら····
と自ら走る速度を緩めてしまった。
『ウォオオン!!』
「うわああああ!?」
すぐさまレンに追い付いたフォレストウルフ一匹に後ろから押し倒された。
「っくぅ!」
背中に爪が突き刺さってるのもお構いなしに体重をかけており、レンの顔が苦渋に染まる。
他のフォレストウルフも追い付き自分の周りはフォレストウルフに囲まれていた。
「────」
少年は、脱力した。抵抗も止めてしまった
「おい、クソガキ」
『ギャン!?』
少年は何が起きたのか分からなかった、背中にかかっていた重力が消えて、乗せていたであろうフォレストウルフは囲んだまま固まっている同胞達の外側で横たわり身体をピクピクさせている。
目の前には人の足、上を見上げるとそこにはどこか不機嫌そうな昼間の冒険者だった。
「·······え?」
「·····ちょっと待ってろ」
そう呟いて、冒険者──レイグは直剣を抜いた。
軽く殺気をぶつけながらにじりよると、囲んでいたフォレストウルフ達は戸惑いながら下がっていく。
「──なら俺から行くかな」
下がるばかりで、仕掛けて来ないフォレストウルフの意図を察した。
「(取り敢えず一旦はこの場を退かんとな)」
後ろのクソガキを見ながらそう思った。俺が正面にいるフォレストウルフに踏み込んだ
『ウォン!』
当時に左右それぞれ違う高さから襲いかかってきた。
「うぜぇ」
後ろにいるクソガキの「あの様子」を見てから無性に腹が立つ。
剣を一回上に放り投げ、左右から襲ってきたフォレストウルフの顔を掴んで動きを止める。
昼間のゴブリンリーダーでレベルが多少上がっていたのか、大して抵抗を感じない。
そのまま両手を捻り首をゴキンと折った。
倒れるのを確認してから上から落ちてきた直剣をキャッチして、前で固まった一体を斬り捨てる。
残ったフォレストウルフ達の方に振り返る。
「かかってこい」
死にたければかかってこい、暗にそう告げた。
フォレストウルフ達は顔を見合せひいていった。
ーーーーーー
「·········」
「·········」
静まり返り、見下ろすレイグと向かい合っているレンが気まずそうに、しかし何処か不服そうに口を開いた。
「べ、別に助けて何て·····」
その声を聞いてレイグは
「そうか」
とだけ淡々と返した。
レイグはそのまま何も言わず
「─────────え?」
その細い首筋に直剣を沿わせた。
「じゃあ死ぬか」
レイグの声はどこまども淡々としていた。
レイグ絶対ぶちギレマン参上