フォレストウルフ「密です」
しゃーない
夜に支配された森の一角、レイグがフォレストウルフの大軍とぶつかり合って15分が過ぎようとしていた。
絶えず肉を断つ音、次いで響き渡る魔物の唸り声、怒声·····そして断末魔。
それを産み出しているレイグは驚いた事に、返り血を浴びてはいるが、傷一つ付けることなく剣を振るっていた。
「ォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
『ギャン!?』
『ギャイン!?』
四方八方囲まれて、しかも休む暇も無く襲われているのに走らせる剣の軌跡は正確無比だった。
前から飛びかかって来たフォレストウルフを唐竹割りで断ちきり、更に一歩踏み込み深く身を沈めて、後ろから飛び掛かろうとしていたフォレストウルフがレイグが身を低くした事により。レイグの上をそのまま通過──
『キャインッ!?』
する前に体勢的に前を向いているレイグがフォレストウルフの首を直剣で貫いた。
「ッオゥラァ!」
『『『!?!?』』』
更には、貫かれた剣に支えられたフォレストウルフの尾を掴み、全力で前にぶん投げる。ブーストもしたのかかなりの速度でぶん投げられたフォレストウルフの骸はかなりの数のフォレストウルフを吹き飛ばした。
レイグは一旦大きく跳び退きフォレストウルフの集団から少し離れた場所まで下がり。短い時間でも、周りを見渡す。
「ふぅ·····70は仕留めたと思ったんだがなぁ····」
どこか半笑い気味なレイグの目先には、未だどうやってこの人間を食い殺してやろうと血走った目で見てくるフォレストウルフの大軍だ。
「······」
ちらっと横目で相変わらず高みの見物をしているブラッディウルフを見た。
「·······?」
違和感を感じた、他の魔物にはあるのにコイツにはそれが感じられない、そんな感じ。
『ウオオン!』
「·····頭を叩いてみるか?」
目の前の敵を屠りつつ俺はブラッディウルフ目掛けて走り続けた。
フォレストウルフの追随をかわしながらドンドン距離を詰めた。
そしてもっと不可解な事が起きた。
「·········お前」
ブラッディウルフはその瞳を光らせたと思うと。レイグとブラッディウルフ以外のフォレストウルフ全てが犬でいう伏せの状態になった。
レイグは異常な光景に半ば呆然としながらも、意識はブラッディウルフから離さない。
「お前は誰だ?」
あろう事か、レイグはブラッディウルフに話し掛けた。····正確に言えば
『───興味深い』
正確に言えば「ブラッディウルフを通して此方の様子を見ている、誰か」であるが。
「·····傀儡召喚か」
傀儡召喚、只の召喚魔法とは違い「契約ではなく支配、又は服従した状態の相手」を使役する召喚魔法だ。
契約が対等な立場のもとに成立したならば、傀儡は文字通り術者の「一生」に隷属して成立させる魔法だ。
『この状況で冷静で居られる胆力、そしてその洗練された戦闘能力と剣筋······巷を騒がせている勇者パーティーより余程興味深い』
「────せい」
ザシュっ!と肉を断つ音が鳴り響きソイツ···ブラッディウルフの首があっさり落ちて、血飛沫が飛ぶ。
·······················
··············
········
『は?』
「んだよ、まだ通じてんのか」
迷惑そうな顔でそう吐き捨てるレイグ。よく見ると周りのフォレストウルフ達もどこか口をあんぐりしている。
『お、おおお前!何て事を!?』
「敵の前でギャーギャー言ってるからだろうが」
『空気を読めよ!?せっかくこっちは謎の敵感出してたのに!』
「───狙いは怪物行進か?」
『お前っ人が──っまぁいい!失礼だが興味深い奴に遭えたのは収穫だった。』
向こう側の奴が気を取り直したのか。軽く咳払いをした。
『いや、まぁ確かに希望的観測ではあるものの、そう言う狙いはあるにはあったぞ』
『だが、あくまで目的の副産物的な感覚でしかなかった。』
「目的?·····つまりあれか、規模を拡大させて、勇者パーティーの耳に入れさせる、で来るようにするってか」
レイグの言葉に「うぐっ」っと詰まる謎の男。
図星らしい、少し悔しそうに唸っている。
「お前がどのくらい厄介かは知らんが、ここは退いとけ」
『──仕方あるまい──こ──やる』
傀儡獣が死んだ事でパスが切れたのか、急に向こうからの声が伝わり難くなった。
もう用はないとばかりにソイツに背を向け、残るフォレストウルフを始末するために歩き出そうとして。
『さら────··──·大成者─』
「何?」
何やら聞き捨てならないことを口走った。レイグは思わず振り返ったが、事切れたブラッディウルフと戸惑っているフォレストウルフしか居なかった。
「··········次からは空気読も」
そう思いながら、再び狼狩りを勤しむレイグだった。
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「全く!「人間と言うのは」どうしてこうも相手に合わせるというものをしようとしないのだね!?」
先程、ブラッディウルフを通してレイグと離していた謎の男はプリプリしながら腕を組んで座っていた。しばらくムッツリとしていたがやがて男はクツクツと笑いだした。
「────あの男が「器を満たし者」か」
一目で分かった、レベルの割に高すぎる戦闘能力、技術、駆け引き、全てにおいて自分でさえ凌駕できるであろう。
「魔王様が勇者以上に警戒している、と言うから「大成の器」の保持者を観察していたが·····その努力が実った、かな?」
そう言って自身の「黒い腕」を擦っている。次いでその口元がまるで三日月のように歪んでいった。
「楽しくなってきたな」
そう言って男は自身がいる部屋の窓の外を、「赤黒い空模様を」を見上げた。
一方その頃········