·「わたしを忘れないで」
リピドー
·性的興奮、又は欲求が高まること。
本作品
·健全な奴
あれから村に戻ってきた俺達、もう月が薄れ始め、太陽は見えずとも、山の影から僅かに夜の世界に光を差し込んでいた。
村の人達は行進から帰ってきたのか、夜明けにも関わらず、この村に来たときとは全然違う生き生きした顔をしてた。
レンは村の皆を見ると一目散に駆け出した。
「みんなぁ!」
「レン!!お前心配したんだぞ!」
村の人達はレンを見るや否や取り囲み、軽く小突いたり、撫で回したりしていた。
「あんちゃんが助けてくれたんだ!」
レンが俺を指差しながら言うと、村の人達が一斉に俺達を見て、一斉に詰め寄ってきた!?
「おぉ!お前さん、生きてたか!」
「ダリアちゃんが言ってたろ、気絶してるだけだって」
「いやぁ、流石にあの惨状を見たらなぁ」
話しかけてくる村人達には素直に心配してくれている様子が見えた、まぁ気まずさはまだあるみたいだが、最初に感じた陰鬱さは感じない。
「········もう、魔物は怖くないか?」
口々に言う村人達に問いかけると、皆気まずそうにしたり恥ずかしそうにしながら。一人、一人と頭を下げ始めた。
「受け取って下され」
思わず固まっていると、老人が後ろに御者のおっちゃんを引き連れて声をかけてきた。
老人···村長は、そう言ってから村人達にならって頭を下げた。
「村の代表として、人として礼を言わして欲しい。
ありがとうございました」
村長が震えて礼を言った後、村人達も礼を言い始めた。
気恥ずかしかったので、後頭部を掻きながら「おう」としか返せなかった俺は視界の端でレンが村の人に話しかけているのを捉えた。
「な、なぁ母ちゃんは?」
「あぁ、レンの母さんなら、今家に」
レンは母親の所在を聞いて、自分の家であろう建物に駆け出していった。
「────」
「レイグ様のお母様はどんな人だったんですか?」
「!」
その光景を何気無しに見ていると、ダリアが俺の左手を握ってくれた。
「おい、ダリア血が」
「何を言ってるんですか、今更ですよ」
どこかおかしい感じに笑うダリアの笑顔が妙に眩しかったので顔を反らす。
母さん·······か
「·····とんでもない人だったよ、親父は投げ飛ばす、息子も投げ飛ばす、何なら村を襲った盗賊すら投げ飛ばしてた人だ」
うん、本当にとんでもなかった、村の荒事トラブル解決は取り敢えず母さんに任せとけば問題なかったからな。
どこか引いている様子のダリアに苦笑いを溢し、「でも」と続ける。
「凄く優しい人だった」
ダリアはそれを聞いて「そうですか」と静かに目を瞑って言った。そこへ「バタン」と大きな音が村に響いた。
レンが向かっていた家の玄関の扉が勢い良く開き「レン」と叫びながら、レンの母親が出てきた。
レンが「母ちゃん!」と叫び、母親に抱き付こうとする。
「貴方は何て事をしたの!!」
「ブッ!?」
だがレンの母親は息子の姿を確認するや、ギンッと音が付きそうなくらいに睨んで。やけに無駄のない動作でレンの頬を張った。
バヂィン!と鈍い音を響かせて真横に冗談抜きに2mぐらい吹き飛ぶレン。
その場の空気が凍り付くのが分かった。
村の人達は冷や汗を流して、初めて見るのか唖然とした様子で母親を見ていた。
村長何か、何がどうしてそうなったのかブリッジしながら唖然としていた。
御者のおっちゃん何か、村の女性陣数名に取り囲まれて蹲ってゲシゲシ蹴られながら唖然としていた。
比較的まともだったのは俺とダリアだけで、ダリアは母親の表情を見て、露骨な程に俺の腕を抱き抱えて震えていた。
「レイグ様!?何でそんな微笑ましく見てるんですか!?」
「いや、確かにビックリしたけど、あれってレンを大事に思ってるからこそ出来た芸当だろ?何かさ、感動しちゃって」
「確かにそうかもしれませんけど·····」
「それに俺の母さんもあんな感じだからさ」
「なるほど」
納得したのか現場を見て徐々に涙ぐんでいくダリア、順応速いねぇ君。
静かに近寄る母親にレンが涙目で震えたまま、こっちを見てる。
まぁ気持ちは分からんでもない、でも、元はと言えば原因はレンなんだから。
「この馬鹿息子っ!」
「う、うわあああああああああ!?」
しっかり親の愛を刻まれてこい、レン、いや別にざまぁみろとか思ってないから。
本当に
ーーーーーーー
「本当にもう行かれるのですか?」
「あぁ、なるべく今日中に帰りたいからな。」
あの親子劇を堪能させて貰った後、少しだけ村の人達にご馳走になった。
あまり気が進まなかったのだが「村の英雄にそんな無礼な事は出来ないから是非」と、逆に断れなくなってしまい。
風呂を貸して貰ったり、短くはあるが仮眠も取らせて貰ったりした。村の子供達も、顔をパンパンに膨らませたレンが俺の奮闘劇を大分誇張して広げたのか、村を出る頃には、大分懐かれていた。
「おいレン、また包丁持ち出したりすんなよ?」
「ばっ、もうしねぇよ!」
俺のからかうような口調に、顔を赤くして怒るレン「こら」と軽く怒るレンの母親に皆が笑った。
「それに、次に握るのは剣って決めたからな」
「·····そっか」
なら大丈夫だろう。レンも、この村も抗う事の大事さを見つけた。諦めない事で得られる成果を知った。
確かに、抗っても駄目な時だってあるし諦めないからってどうにもならない時だってある。
現に俺はどうにもならなかったからこの体に憑依してしまったのだ。
「(でも、お陰でダリアと出会えた)」
「?どうかしました?レイグ様」
俺の視線に気付いたのかダリアはこてんと首を傾げた。「何でもないよ」と答え、村に別れを告げる。
御者のおっちゃんが操る運用馬車の荷台に元気に乗り込むダリア。
「············」
『レイグ様、私に任せてください!』
何でもないなんて事はない、ダリアには感謝してる、頼りにもしてる。
『無事で良かったです』
嬉しかった、心配して涙まで流してくれた、割りと今ではこの世界に来れたことに感謝したりする。でも
最後は別れるのかと思うと、嫌に胸が軋んだ。
母は強し!