レイグ、街中で黒いシルエットを見る
初めて家族と喧嘩をした。お父様の顔を真っ赤にして怒るなんて初めて見たし、何時も見下してきていたお姉様があんな激情に身を任せて叫ぶところ何て初めて見た。
「3か月以内に冒険者ランクをBに上げることが出来れば認める」そう父に言い渡され。最初は地元のギルドで活動していたが思いきって地元から少し離れたストルの街に来た。
正直余裕だと思っていた。町にいた時もDランクに早く昇級出来たし、DランクやCランクまでなら割と苦もなくこなせていたからである。
でもストルの街に来たことで、冒険者としてどれだけ驕っていたのかを思いしらされた。
扱っているクエストの質だったり、難易度、そしてランクアップまでの査定の厳しさ、1ヶ月何てあっという間だった。
あまりやりたくなかったけどどこか強ランクパーティーに入れて貰おう、寄生冒険者と詰られるし蔑まされるだろうけど、認めて貰うためなら、と恥を忍んで。
そこで向けられたのは、欲望にまみれた視線だった。
私が理想を抱いていた冒険者とは遠くかけ離れた醜い姿。
身が凍るような思いをしたのを今でも忘れていない。
やはり、私は落ちこぼれなのだろうか、勉強もお姉様に勝てず、器量も貴族令嬢としての作法だってお姉様の方が完璧だった。
歳が10を越えた頃、初めてお茶会に連れていって貰ったけれど、ガチガチに緊張してしまい何をしていたのか全く覚えていない。最後には嘲りの視線を集めていたと思う。
『貴女は、なにもしなくていい』
そう言ったお姉様の目は何かを含んだ冷たい目をしていた。お父様は何も言わずそして、何もしなかった。お母様は「貴女には貴女にしかない良いところがあるわ」と言ってくれた。
『良いところって?』
そう聞くとお母様は困った顔付きになって笑うのみ。
私には癒しがあった、あの小さな世界の中で唯一の癒し、それは冒険のお話を綴った本だった。
勇者でも何でもない冒険者、辛いことばかりでも、常に彼の周りには仲間がいた。共に苦難を乗り越え、どんなに苦しくても彼ら彼女らは笑顔を絶やさなかった。
時には人を相手に、時にはモンスターを、何処か泥臭い話ではあったが私は「冒険者」にのめり込んだ。
───贈呈の儀───
齢10を越えた子供達を教会にて女神様に能力を頂く儀式、そこで私は冒険者に成ることを決めた。
私が授かったスキルは「〇〇の槍術士」と言う物だった、正直訳が分からないスキルだけど、家に隠れてヴァネスティラ家に仕えている兵団の人に色々手解きして貰えた。
今思えば、あれはお世辞だったのだろう、それでも「筋が良い」「良い騎士になれますね」と誉めて貰えたのは嬉しかったし、ますます冒険者への道を進ませた。
その時には「私には冒険者しかない」と言う思いしかなかった。
でも、現実は残酷、やはり私は····
そんな時だった、ギルド前でやたらと注目されている同じ年頃の男女を見つけた。
黒髪に黒目の男の子に茶髪に綺麗な赤い目をした女の子、初めてみる同年代の少年少女の冒険者、と言うのもあったのかもしれない。
私は何故か2人から目を話せなかった。
2人とも悪意に晒されていた、その場にいる100に近い悪意を一身に集めているにも関わらず。
『(気にしてない?)』
女の子の方は顔を真っ青にしていた、無理もない私だってあれだけの視線を向けられたら。逃げ出してしまうだろう。
男の子の方は全く気にしてないのか、それどころか周りを冷静に見回してる余裕すら感じられた。
驚くべきはギルドの玄関前で起きた事だった、彼らより一回り大きい体格の2人の冒険者に絡まれていた。男の子が女の子を庇って前に出て、「ちょっと裏こいや」みたいな態度でギルドの脇道を顎でしゃくったのを見てギョッとした。無謀な、とも思った。まず体格の違いがまるっきり大人と子供だ
『いいからついてこい』
私はその時、初めて「殺気」と言うものに触れた、私に向けられた物では無かったけど、それでも背中に冷たいナニかが走った感覚があった。
脇道の奥に消えたふたりを興味半分で追いかけるかどうするか迷っている人達、興味無しとばかりにギルドに入っていく人達。
私が立ち止まったまま動けずにいて、少しするとギルドから一人の男の人が出てきた、男の人は此方に見向きもせずに脇道の奥に消えていく
更には憲兵達まで出てきて、また脇道へと消えていった。
何が何やら···と、私含めてその場に固まった冒険者達、やがて憲兵と手を拘束されて歩く先程の冒険者の片割れと
『な、何だあれ?』
『あ、あれドギルだよな?』
憲兵2人がかりで運ばれている顔グチャグチャの男が続いて運ばれてきた。
憲兵達が下手人を連れてその場から離れていき、先程ギルドから出てきた男の人が姿を現した。
『見せ物じゃないぞ、お前ら!』
と、怒鳴った、只怒鳴っただけなのに私は全身がビリビリと痺れる錯覚を覚えた。
他の冒険者達はカラダをびくつかせて慌ててギルドの中に入っていく、私も彼らに見倣って中へと入る。
先程の少年少女の事を思い出して、何故か浮き出てきた羨望の感情を抑えて。
ギルドの中に入ると、何人、または何組かは、クエストの受注していたりしてたが、大体の人はホール部分にあるテーブルの椅子に腰を落ち着かせ入り口を見つめていた。
ヤンキーがカチコミしに来た。何言ってるかわ正直私も不安だけど、でも間違ってないと思う。
ヤンキー化した彼等は先程の男の人、ギルマスに連れられて二階の奥へと消えていった。
ざわめくギルドのホールで、私は近くにいた冒険者に思いきって聞いた。
少女の方は分からないが、少年、レイグ·アーバスは半年前にこのストルの街にやってきたらしい、しかし評判は最悪、人としては満点に近い評価はあったが、性格も内気気味で、レベルがほとんど上がらなかったらしい。
どうやら、先日ゴブリン討伐依頼を受けその最中、群れに襲われてしまい他のパーティーメンバーを逃がして、生存は絶望とまで言われていた。
そして記憶喪失になっていたとも。
先程みた印象としては、聞いた話のどれもが当てはまらないことに皆首を傾げているようだった。
でも私としてはどうでも良かった。半ば諦めもあったのかもしれない。私の才能ではどうにもならないって決め付けてしまった部分もあったのだろう。
──「あの子達と一緒に冒険がしてみたい」、そう思いながら。私は今日もコボルト討伐のクエスト用紙を手に取った
ーーーーーー
『俺達に死ねってか』
ひゅっと喉から変な声が出るのを反射的に抑えた、背中にじっとりと汗が滲み不快感が生まれるが、そんな事さえ気にならなかった。
怒りも感じない、責めるわけでもない、無機質な黒い瞳に射ぬかれた。
ギルド騒動の翌日、私は彼等を待ち伏せした。見つけた彼等は談笑を交えて話しながらギルドへと向かっていた。
一度重ねてしまった理想を体現してくれているその姿に、身に合わない欲をかいてしまったのだろうか
私は彼らに頼んだ、事情も話した。
『他に当たってくれ』
そう、淡々と返されてしまった、私も言葉足らずだったのも有った、でも焦っていた私はあり得もしない「Bランク」に縋り付いてしまったのだろう。
Cランクであるダリアさんは兎も角としてEランク冒険者である彼に「ランク適正外クエストを受ければ、大丈夫」等とほざいたのだ。
彼の目は私の全てを見透かしているような、黒い瞳に見つめられた私は、その場から逃げ出した、謝罪をしたのかも分からない。
「仲間を作って、「冒険」がしたい」
と言う憧れさえ、私は自ら遠ざけてしまったのだ。喫茶店から少し離れた所で走るのを止めた私は、俯いたまま動けなかった。
「なぁ、お前聞いたんだけどよ、冒険者ランクを上げたいんだって?」
「···········」
私に話しかけてきた冒険者風な男3人組、いずれもBランクと言った。
男達は私に提案をしてきた、自分達のパーティーに入れてやって良い。その代わり·····
「···········」
「へへっ」
体に向けられた視線を感じて何を要求されるか分かった。
罰なのだろう、関係ない彼らを自分の我が儘で振り回そうとした私への。
因みにレイグにギルド前で絡んだ冒険者、ドギルの相棒の名前はドリル(どうでもいい