岩壁に挟まれた通路の先に見た者とは····?
正にそう呼ぶに相応しい光景だった、岩壁に挟まれた通路を越えた先に広がる広場、中央にゴミの様に転がっている泣き喚く「3人」の男、そしてその三人を取り囲むかのように、5m程の距離を保っている。
『クゥアアアア!』
『グゥゥウウウウ!』
『グラァウッ!!』
まるで「殺せ」と、そう叫ぶようなレッドリザードの鳴き声があちらこちらから響くその光景は狂気を感じた。
更に何処からともなくレッドリザードが増えていく。この場に居るだけでも、100匹は居るだろう。レイグ達は岩壁に挟まれた通路からその光景を見て顔を引き攣らせた。
何故逃げないのか、幾らC級ランクのモンスターの大群と言っても、動き自体はそこまでもない、寧ろ速さだけならフォレストウルフの方が倍は速いだろう。
そうレイグが思った事は事実だった、遅くもないが別段速くもないレッドリザードから逃れるのはそこまで困難ではない筈、だが遠目ながら3人を注意深く見ると、全員両足がグチャグチャになっていた。
そんなことを逆に冷静に観察してしまうほどに、レイグの顔は苦渋に満ちた顔をしていた、ダリアとカーラも目を見開いて口元を手で塞いでいた、声を挙げないためだ。
レイグ達の視線は、広場の奥へと向いていた。
レッドリザード達が立ち並ぶ中、明らかにレッドリザードの数倍はあるであろう体躯、赤黒い鱗、裂けた口元、目はレッドリザードにはあまり持ち得ない理性的な光を見せつつ、どこか冷たい光を含ませている、レッドリザードには有り得ない太く長い尻尾に。極めつけはその背に生えた、不完全な翼だった。
ここまでの情報に対して、現実逃避を決める程馬鹿ではないレイグは生唾を呑み込み、考えたくもない予想が当たってしまった事に舌を打ちたくなったが、我慢した。
「喰らった」のだ、レイグの予想通りレッドリザードが竜種を、この事実を認めるということは、もう一つの最悪な仮定を認めることになる。
数十mは離れていて、なるべく気配も消して身を潜めていたレイグ達に「ソイツ」その眼をギョロリと目を向けた、瞬間に背筋に冷たいものが走り、ダリアとカーラは知らずの内に一歩引いてしまった。
今までの疑問が全て吹き飛んだ、何で未だに男達は生きていて、しかも逃げられないように足を壊されているのも、何故キングである「ソイツ」が両脇にクイーンを2体侍らせているのも。
何でこの場にいる「ソイツ」以外のレッドリザードが怯えているのかも。
「(そりゃそうだよな、竜種よりも強い奴がボスだったら怖いわそりゃ)」
もう一つの仮定、それは竜種を喰らったキングリザードが、「元々竜種よりも強かったこと」だ。
「(おいおい、こりゃ詐欺だぞ依頼主さん·····これはBランクどころかSランク以上の案件だぞ····)」
しかしレイグは怯みはしてもパニックになるような事は無かった。寧ろ上等、とばかりに「ソイツ」を睨み返した。どのみち「ソイツ」に認識されている時点で今の自分達では逃げ切る事は不可能に近いと思っているレイグ。
ダリアとカーラにもこの瞬間凄まじいプレッシャーや殺気がぶつけられているだろう、青い顔をしながらもレイグに並び立つ様を見て。「何でコイツら勇者じゃないんだろうな」と苦笑して思ったレイグ。
──大丈夫、レイグさんには私とダリアさんが、私にはダリアさんとレイグさんが、ダリアさんには、私とレイグさんがいる、これで怖いもの無し、死角何て存在しないし、誰も失わない
「ダリア、カーラ、行くぞ」
「勿論」
「やってやりましょう!」
「逃げろ」でも「行けるか?」でもなく放たれた言葉に込められた信頼の意にダリアとカーラは笑みを持って返して、3人揃って通路から姿を現した。
突然出てきた、レイグ達に殺気立つレッドリザード達、しかし突然ビクッとしたらジリジリと下がっていく、それは一体に限っての話では無かった。
中央に向かって開けていくレッドリザードによって作られた道、いつの間にか静まっている空気に何処か寒々しい何かを感じた。
これには3人揃ってびっくりして、おっかなビックリでその道を進み、やがて中央に辿り着き男達は絶叫も泣き叫ぶのも辞めて、ポカンとした様子でレイグ達を見ていた。
レイグは男達が何かを言う前に、雷の初級魔法で男達を気絶させた。
ギョッとするダリアとカーラに周囲のレッドリザード、「ソイツ」からも何処か困惑したような様子を感じた。レイグは「別に仲間って訳でもないしな」とおどけて見せた。
『オマエが、「大成」カ?』
「ソイツ」から発せられた言葉によって、直ぐ様悠々とした態度は崩されたが。
レッドリザード達が左右に分かれ、空いた道を王の如き雰囲気で重々しく歩く「ソイツ」、やはりでかい、体高3mに全長8mと言った所か。
「しゃ、しゃべっ!?」
「·····レッドリザードが喋るっていうのは聞いたことがない、竜種だって同じ」
「·······誰に教わった?」
レイグ達の前に辿り着いた「ソイツ」は愉快そうに裂けた口を歪ませた。友達を作ったときのような嬉しそうな雰囲気で、何処か小馬鹿にするような雰囲気で。
それは「自分に敵対する意思を見せた者に」対してであり又、「質問に質問で返すな」ていう、意思表示でもあった。
「····お前らの言う「大成」に当てはまるかは知らないが、確かに俺は「大成」を持っている」
『·····ナラバ、ワレは「アノ方」に恩をカエス為、オマエと合間見えよう』
「ソイツ」がそう言うと、空気が途端に変わった。濃密な殺意が「ソイツ」から叩きつけられる。と同時に「ガギィン!」と広場に金属同士がぶつかるような音が反響した。
周囲のレッドリザード達が耳鳴りがするような不快感に苛まれ、ざわめいた、音の発生源は「ソイツ」の尻尾が3人を襲おうとして、カーラがパルチザンならではの刃と柄の近い部分に左右に広がる突起のような刃の部分で上から押さえつけていた。
レイグは更にその上から足を重ねる様にしてブーストして踏みつけ、辛うじて止めることに成功した。
「いきなりかよ!」
『タタカイに合図なんてアルノカ?』
内心違いないと返しながら、レイグは鱗に覆われた尻尾を登り始めた。瞬時に周りを見渡す。
唐突に始まった戦闘に、動揺はしているレッドリザードだが、いずれも、クイーンですらも参加しようとはしていなかった。どうやら目の前のキングリザードであろう「ソイツ」は変わった事にレイグ達と一人でやりあうつもりらしい。
「っぶな!?」
思考したのは一秒にも満たなかった筈なのに、戻したら目の前に凶爪による斬擊が待ち構えていた。慌ててそれをしゃがんでかわし背中に到達しようとして。
即座に飛び降りた、そしてレイグが先程まで進んでいた位置に何かが通りすぎた。
その何かはそのまま地面に刺さり動かなくなった。それは魔法によって作り上げた人の半分程の大きさの針だった。
地面に降り立ったレイグに再び尻尾による薙ぎ払いが繰り出された、がそれはレイグに届く前にカーラによってそらされた。
「っぐぅ·····」
完璧なタイミングで反らした筈の攻撃なのに、それでも手に感じる凄まじい痺れ。離してなるものかと槍を握り締め「ソイツ」を睨み付ける。
仕方無いと言う言葉を使いたくはないが、ステータス等の差が、3人と「ソイツ」にはありすぎたのだ。
「すまん、カーラ!助かった!」
「気を付けて、凄い膂力、後魔法も使えるみたい」
「だな」
直後、二人に「離れて!」と叫びが届く、レイグとカーラは「ソイツ」が繰り出した前足による叩き付けを回避すると同時にそのままダリアの所まで戻ってきた。
「─氷河に包まれ、悠久なる時間の旅路へ誘わん─
アイス·エッジ·ストライク!!」
足下に広大な白い魔方陣を構築して、ダリアは魔方陣を起動した。瞬間、ダリアの足下から前方扇型に凄まじい勢いで巨大な氷柱が連なっていく。
『───』
いきなりの上級魔法に流石の「ソイツ」も一瞬、体が怯んだ。が頭を振ることで持ち直し、後ろに大きく跳躍、後ろに避難していたレッドリザードギリギリの所で停止して腹に力をいれる。
「ソイツ」の喉に集まっていく魔力。
レイグが「ブレスだ!」と叫ぶのと、同時に「ソイツ」の顔の下部分に魔方陣を構築する。
「ソイツ」が眼前まで視界を埋め尽くさんばかりの氷柱に対して。「ボッボッ」と閉じられた口から漏れ出す炎を吐き出さんばかりに鎌首をもたげ、振り下ろし。
ゴッ!!!!
『~~~ッ!?!?』
レイグが発動した魔法、岩の玉が魔方陣から勢い良く飛び足し、「ソイツ」の顎に当たった。意識外からの攻撃故に完全に油断していたソイツは完全、とまでは行かないが、僅かに顔を反らされ。
『──────』
氷が殺到し、凄まじい衝突音が鳴り響き、煙が待った
『うちらのボスマジ怖くね?』
『マジそれな、てか奥さん2人とか裏山』
『えー、でもハーレムって柄じゃなかったよね』
『まぁ、所詮ボスも雄ってことやな』
『でもまぁ、確かに見た目としてはうん····ちょっと怖いね』
『でけぇし、口裂けてんもんなぁ───っやべ、ボスきた』
『『『『『おつかりゃりゃーっす!!!』』』』』