憑依物語   作:そりゃないわ

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#前回のあらすじ


実はカーラの癖のある覚醒回


38話的な話

 

 

「え?」

 

「へ?」

 

 紅黒蜥蜴へと駆けていたレイグとダリアの耳に、カーラの罵声が入った。あまりの衝撃に紅黒蜥蜴が近くにいるのも関わらず2人揃ってカーラの方に振り向いてしまう。

 

 先程までの弱りきった姿では無く、怒りと殺意の籠った顔付きで、およそ同年代の少女がして良い顔では無く、雰囲気もかなり違っていた。

 

 鮮やかな赤いオーラのような物を纏い、荒々しさを感じさせる雰囲気とは裏腹に「絶対に殺す」と言っているかのように、冷酷さを感じ思わずレイグは息を飲んだ。ダリアも目を見開き驚愕を顕にしている。

 

 微かに震える声でカーラが続けた。

 

「ムカつくムカつくムカつくムカつく」

 

 留まる事を知らない怒りが力となり、時限的にだが彼女を強くしていく。普段の彼女からは考えられない怒りと殺意でカーラ自身も、その感情を持て余しどう処理して良いか分からず、それが更に怒りを覚える原因になっていた。

 

 全てがムカつく、紅黒蜥蜴も、簡単に絶望して折れた自分自身も、自分の負の感情に屈した事も、そして屈した事が負の感情を肯定するか達になったことが。ここまでされてようやく腰を上げた自分自身が。

 

 

 

 

 そしてこんな自分なんかの為に、また危ない橋を簡単には渡ろうとしているレイグも、ダリア(大切な人)も。

 

 

「───ああああムカつく!」

 

 次の瞬間、カーラの姿がぶれるように消えた。

 

 「え?」と呆けたダリアを余所に、レイグは驚いた表情で後ろに振り返った。次いで鈍く響く打撃音。

 

 一瞬で10m以上の距離を0にしたカーラの足が、紅黒蜥蜴の腹を下から蹴り上げていた。ミシミシと嫌な音を出して、カーラは紅黒蜥蜴を僅かだが浮かした。

 

『が·········!?』

 

 突然体を襲う、激痛、嘔吐感、浮遊感に脳内がごちゃごちゃになる紅黒蜥蜴。

 

 凄まじい殺意を感じ、そちらに目を向ける紅黒蜥蜴は、ようやく自分を蹴り上げるカーラの存在を視認した。

 

 先程の、只絶望して死を待っていた少女とは思えない姿に紅黒蜥蜴は困惑を禁じ得ない。

 

 しかし、その困惑は直ぐ様焦燥へと変わった、良く分からない焦燥感、この人間の雌は駄目だ、そう謎の生存本能が働く紅黒蜥蜴

 

 かくいうカーラも、何故か分からないが「目の前の竜種を確実」に殺せる自信があった。それが原因で更に苛つきを増加させるが。

 

 

 

 

 

 「竜種限定」の超特効スキル、竜殺しの槍術士(ゲオルギウス)文字通り竜種限定で付け替える事が出来る派生スキルである。

 

 その効能は限定的ではあるものの、物理ステータスに10000+α(怒りが加算される都度)プラスされると言うとんでもない物だ。

 

 

「っらああ!」

 

『───!?』

 

 続いて、紅黒蜥蜴の体に容赦なく「光る槍」を突き刺そうとしてくるカーラ、いつの間に?等の疑問を感じる前に紅黒蜥蜴は魔力で障壁を張り、更にはカーラ目掛けて数十本の炎の矢がカーラの周りに出現し射出された。

 

 だがしかし、炎の矢は突然カーラの周りを囲む水の壁にアッサリと阻まれた。

 

 驚愕に目を見開く紅黒蜥蜴は、カーラの背後で魔法を発動したダリアの姿を見つけた。忌々しく歯を食い縛るが。紅黒蜥蜴はそれどころでは無いと。更に障壁を重ね張りをした。

 

「ウッザイ!」

 

 まるで窓ガラスを思いっきり地面に叩き付けたような、そんな砕け散る音が紅黒蜥蜴を震わせた。障壁二枚を力付くで壊したカーラはその堅さに舌を打ちつつ、一度身を引き、紅黒蜥蜴も同様に退いた。

 

 伴侶を手にかけた人間の雄を殺したい、そうは思っても目の前の障害がそれを許してくれるとは思えない。ここは一度逃げ──

 

『───』

 

 そんな事を考える暇などありはしなかった。明らかに動きは悪いがしっかりした足取りで、下がった紅黒蜥蜴の背後に回り込んでいたレイグが両手で構えた直剣を振りかぶった。

 

『ギッ!?』

 

 血の気が引いた顔をしながらも、レイグの顔が凶悪に歪み、口を開く、「お返しだ」と。次いでズプリ、と体内に異物が入ってくる異物感、不快感、身を焼くような激痛。

 

 しかし、力が入らないレイグでは差し込む事ぐらいしか出来なかった。回復魔法を施しはしたが、傷は塞がってないのだ。現に服に隠れて見えないが刺された箇所の周りは内出血で青紫に染まっていた。しかしその顔は不敵に染まっていた

 

「悪いな、仇は討たれてやれないんだ」

 

『··········』

 

 汗を垂れ流しながら、無理した様子でそう告げられた紅黒蜥蜴は不意に感じた魔力を感じ、自分の頭上を見た。

 

 直径5mはある巨大な火玉が浮かんでいる、ダリアの方を見ると試験管が何本か転がっている。魔力の過剰使用で相当に脳が負担を負っているとわかるほどに苦痛にまみれた顔で紅黒蜥蜴を睨み続けていた。

 

 明らかに紅黒蜥蜴が扱う反魔法吸収障壁の許容範囲を越えている、吸収しようとすれば自分があの火玉に包まれる事は明白だった。

 

「やられたらやり返すさ、お前が俺にやろうとしたように、お前の敵討ちに何ざやられてたまるか」

 

『···········』

 

 レイグの言葉を聞いた紅黒蜥蜴は目を瞑り、カーラへと顔を向けた。

 

 カーラは相変わらず凶悪な顔を浮かべていて、苛立たしげに大股で紅黒蜥蜴の元へ「光る槍」を手に構え歩いてきた。

 

 やがてカーラが紅黒蜥蜴を睨み付ける。

 

『───やれ』

 

「死ね」 

 

 気付けば目の前まで歩いてきていた、カーラは視認すら許さない速度で突きを放った。

 

 紅黒蜥蜴は自分の鱗ごと打ち砕きながら、体内に突き入ってくる異物に、自分の中の何かが消される感覚を覚えた。

 

 出血する訳でもなく痛みを感じるわけでもなく、自分が取り込んだ「何かが」スゥー、と無くなっていく感覚。

 

『──これ···は』

 

 「何かが」無くなっていった影響は直ぐに現れた。体に漲った力が抜け落ち、膨大な魔力が今は水溜まり程しか無く、思考にもやが掛かったような状態になり、考えが纏まらなくなった。

 

 爪は短くなり、鱗の色は紅黒い色から、鮮やかな赤色へと変色した。

 

 体躯もみるみる縮み、最終的に普通の蜥蜴王よりは一回りは大きいが、それでも紅黒蜥蜴の時の半分近くの大きさまで縮んでいた。

 

 文字通り「竜」を殺したのである。

 

 「ドラゴンスレイヤー」、竜殺しの槍術士限定で会得できる技法である。その能力は至って単純明快。

 

 「使用すると竜は死ぬ」である。

 

『··············』

 

 喋る事が出来なくなった蜥蜴王は、ゆっくりとした動作で、俺達から視線を逸らした。その視線の先にいるのは番となった2匹の蜥蜴王妃。

 

 カーラは怒りの対象の竜が消えたせいか、呆然と立ち竦んでいた。ダリアはまるで敵意を感じなくなってしまった蜥蜴王に困惑しつつも、突き刺した剣を抜いたレイグが静かに下がるのを見て、自分も放つ準備をしていた上級魔法を消す。

 

 酷使した筋肉、使用した魔力、以前ならば考えられなかった思考が、本来の能力を持つ蜥蜴王にフィードバックされて我慢できる筈が無かった。

 

 ビキビキ、と悲鳴を上げる全身、鳴り響く狂いたくなる程の頭痛、使えない筈の魔法を放った事による拒絶反応が本体にフィードバックされた。

 

『···········』

 

 そのまま倒れ、息を引き取ってもおかしくないのに、逃げるでもなくレイグによって事切れた蜥蜴王妃の所まで悲鳴を上げること無く辿り着き、そのまま側で伏せて

 

『───』

 

 息絶えた。時を刻むのを忘れたような緊張がその場を包み込む。

 

 

 10秒程経ちレイグとダリアが息を大きく吐きながら、その場で倒れた。カーラがその様子を見て我に帰り、慌てて2人に寄った。

 

「レイグさん、ダリア」

 

「あぁ、俺は何とか、ダリアは···気絶してるな·····」

 

 疲れた顔をしてはいるがあっけらかんとした顔で言うレイグにカーラは暗い顔をしていた。その顔はカーラが暴行されそうになって助けた時に浮かべている顔にどこか似ていた。

 

「どうよ、擬きでも竜を倒した気分は?」

 

「····レイグさん」

 

「ん?」

 

 軽い感じに聞いたレイグは、重い声音で尋ねられ何と無しにカーラを見た。

 

 カーラは暗い顔をしているが、悲観的、と言うわけでも無かった。どちらかと言うと「戸惑い」が強く、かなり躊躇っている様子が分かった。 

 

「私、今凄く怒ってるの」

 

「うん······うん?」

 

 表情が明らかに怒りのそれとは違うため、思わず目を点にするレイグ。ダリアは不安そうにしながらもその胸中を語りだした。

 

 

 





安らかに眠ってください




#竜殺しの心得(変化可)

 竜種に対してのみ発動、発動中使用者が怒りに弱くなる。

 物理ステータス(功、防、早)+10000+α(増加する怒りに反して変動)


 特殊技法「ドラゴンスレイヤー」

 使うと竜は死ぬ

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